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週刊東洋経済「この経済本がすごい!-年末・年始にぜひ読みたい2007年決定版-経済・経営書ベスト100」
2007年12月29日号, 週刊東洋経済, 172~191ページ
2007年経済・経営書ベスト100は、日本とアメリカの金融政策や経済構造、グローバル経済の変貌をテーマにした本が上位に入った。1位は『財投改革の経済学』。「政府の金融活動」である財政投融資を経済学的に分析している。財投改革や郵政民営化の理論的根拠を提供した。
【1位】
| 財投改革の経済学 | |
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財投改革、郵政民営化の理論的根拠を提供する
高橋洋一(たかはし・よういち)/1955年東京都生まれ。内閣参事官。東京大学理学部数学科、経済学部経済学科卒業。80年大蔵省入省、2006年より現職。
財政投融資は「政府の金融」あるいは「第二の予算」とも呼ばれて、戦後の日本経済に大きな役割を果たしました。その財政投融資を経済学的視点から分析しています。
財投改革や郵政民営化について初めて経済学的視点から分析しています。私は大蔵省で働いていましたが、1990年代の大蔵省時代の約半分は財投改革の仕事をしたので、それが財政投融資の研究をする契機でした。財政投融資は入り口の郵便貯金、厚生年金などの資金を、大蔵省資金運用部に集中し、出口の住宅金融公庫、道路公団、日本開発銀行(いずれも名称は当時)などの財投機関に配分する仕組みでした。
大蔵省理財局には、財政投融資が「政府の金融活動」であるという認識は薄く、「第二の予算」として、なるべく多く資金を集めて配分するという発想が濃厚でした。「金融」という認識が薄く、単年度で使う予算という意識だったために、そこには、金利を同様にするか、長短のミスマッチで発生する金利リスクをどうコントロールするかという発想(資産負債総合管理)がありませんでした。 財投機関は、いざとなれば政府から税金が投入され、救済されるので、融資が不良債権になるという信用リスクもゼロでした。
ところが、入り口と出口の長短のミスマッチ、すなわち見えない巨大な金利リスクがありました。
また、郵便貯金にも問題がありました。70~80年代に郵便貯金に預貯金が移動する「郵貯シフト」が顕著になりました。銀行は、郵貯の定額貯金について、流動性と定期性を持つ極めて有利な、経済合理性のない商品だと批判しました。
だが、私はちょっと待てよと思い、大学で数学を専攻し金融工学もかじっていたので、その視点から分析を始めました。定額貯金の期間は10年ですが、預け入れから6カ月後には自由に解約することができます。すなわち定額貯金は10年貯金にプットオプションが付いたものです。
プットオプションとは、将来にある価格で金融商品を売れる権利のことです。問題は金利の付け方、つまりプットオプションの計算を経済原理にのっとって行うことでした。
そこで、90年代初頭に定額貯金の金利設定ルールができました。つまり、適正なプットオプション価格を算定して、順イールドのときは銀行の3年定期に近い金利、逆イールドのときは、10年国債に近い合理的な金利にしたら、郵貯シフトが消えました。
郵政民営化で有効だった経済学的アプローチ
――郵政民営化では、高橋さんが小泉純一郎首相や竹中平蔵総務相(当時)を支える知恵袋になったとうわさされましたが……。
郵政民営化準備室参事官としてお手伝いさせていただきました。郵便貯金や財政投融資は経済学的視点から分析すると、政治的アプローチとは別の姿が見えてきます。経済合理性からいえば、郵便貯金の資金運用部への預託義務廃止(2001年)や郵貯の民営化(07年)は必然の出来事です。以前の制度のままなら、資金運用部や郵便貯金は、今頃は膨大な金利リスクを抱えて、いずれ破綻することは必至でしたから。
預託金利は市場金利より高かったのです。財投機関への税金投入が、郵便貯金と財投機関への「ミルク」に化けていたのです。
95年ごろから、私は大蔵省の事務方として財投改革に携わりましたが、郵便貯金の預託義務を廃止し財投債で市場から調達するということになりました。そのほうが資金運用部の金利リスクをうまく管理できるからです。これを郵便貯金から見れば、市場で資金を運用することになります。また、資金運用部から財投機関への貸付金利も市場金利とし、財投機関も市場金利で調達することにしました。これで、入り口、出口とも人為的な金利ではなく、市場が決めた金利で運用し、調達することになります。入口の郵便貯金は市場で自主運用し、中間の資金運用部は資産負債総合管理を行い、出口の財投機関には政策コスト分析を適用し、税金投入を減らしていく。
このような改革を進めていくと、郵便貯金は、自主運用になりますが、公的性格からリスクをとれないので、運用対象は基本的には国債しか考えられません。一方、郵便貯金の調達コストは国債と同じです。となると、郵便貯金は国債で資金を調達し、国債で資金を運用する機関ということで、経費を賄うことができないので、必ず潰れる構造にあります。これを回避するには民営化しかありません。
財投改革は出口の財投機関が税金をのみ込んでいて国民の負担になっている、という政治的なアプローチから俎上に上がりましたが、こうした政治的アプローチでは、部分の現象面しか見えません。財投全体のシステムの解明はできず、改革はうまくできなかったでしょう。改革する際の経済学的アプローチの有効性をこの本は語っていると思います。と同時に、政策は情報等に制約がある中で総合的アプローチも必要です。
ベスト100アンケート回答者のコメント
●通常、政策立案の実務担当者は、あまりそのプロセスや依拠した理論について多くは語ってくれない。後世の経済史家、経済学史家はさまざまな断片的資料からそれを再構築していく。しかし、本書はそうした後世の歴史家の負担を低減してくれそうだ。財投改革、郵政民営化、特殊法人改革、政策金融改革、と小泉内閣の下で実行された政策の基礎となった経済分析をまとめた本書は、間違いなく後世の歴史家にとって重要な文献として参照される。(中村宗悦)
●小泉政権の後を継いだ安倍政権があえなく崩壊した2007年最大の収穫。小泉改革の時代の論理がわかる。著者は、一連の改革を公的金融機能の市場化に始まる連鎖反応と喝破。財政投融資から始まり政策金融改革に至る公的金融改革のみならず、道路公団民営化から金融政策と財政再建の関連などマクロ的な話題に至るまで、豊富な知見と洞察に満ちている。実際に政策を立案した人物の論理をうかがわせる貴重な歴史的証言としても興味深い。(若田部昌澄)
●政府の実務者として財投改革、および郵政民営化に携わった著者が、満を持して世に問うた財投改革論の決定版。郵政民営化後のマネーフロー、公的金融の歴史的裏付け、国際比較、将来展望、金融政策や財政政策を含む他の経済政策への影響、ありうべきポリシーミックスなど、公的金融システム改革のついてのトピックスを網羅している。特筆すべきは、最適金融政策のニューケインジアンモデルにおける厳密な数式化、ソフトな予算制約といった最新の金融・経済理論を駆使しての高度な分析を極めて平易・簡潔に記していることである。(安達誠司)
【2位】
| 人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか | |
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帝国化、金融化を軸に新しい経済学を提示
●「グローバリゼーション」はやや使い古されたテーマではある。しかし、著者は豊富な統計データを駆使し、説得力のある論理展開を繰り広げている。現在の世界経済の状況などさまざまな確認に役立つ好著。2007年上期の首位という評価にも納得する。(佐野一彦)
●「1995年を境に戦後経済の常識の多くが通用しなくなった」。筆者は背景にグローバリゼーションがあると指摘する。そして、その本質は「労働者の黄金時代」に終止符を打つ「資本の反革命」ととらえる。 つまり三つの構造変化が起きているとする。〔1〕国民国家の退場と金融帝国化した帝国の台頭(帝国化)、〔2〕金融経済の実物経済に対する圧倒的優位性(金融化)、〔3〕均質性の消滅と拡大する格差(二極化)の三つである。新しい経済学を提示している。(霧島和孝)
●「資本の反革命」と「帝国化」をキーワードに、世界経済の構造変化を読み解く試み。景気回復が続き、需給がタイト化する中にあっても賃金の低下がみられ、物価が上昇しにくいのはなぜなのか、経済の二極化が進展しつつある現状をどのように理解したらよいのかといった点について、独自の視点から興味深い分析がなされている。 足元あるいは目先の短期的な経済の動向を、近代世界経済システムの変遷という歴史的なパースペクティブの中に位置づけて考えるスタンスは、水野氏ならではのものである。(中里 透)
●膨大なデータを活用した、内容の濃い経済書である。経済評論の常識に対し異論を表明しつつ、グローバル経済の推移と今後をわかりやすく論じている。特に、過去の長期時系列データに裏打ちされた筆者の実証的アプローチには感服する。筆者の歴史的知識と洞察力の賜物であろう。(大槻奈那)
【3位】
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| 波乱の時代(下) | |
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単なる回顧録ではない2030年の世界も預言
●グリーンスパン前FRB議長の回顧録(上巻)と独自の資本主義観を述べたもの(下巻)をコンバインした待望の書。
上巻は、著者が、ニューヨークの子供時代を野球選手や電信技士を夢見たりして過ごし、プロのバンド奏者として働いた後、経済学を志し、民間の経済コンサルティング会社から、CEA(大統領経済諮問委員会)委員長、そして87年にFRB議長にまで上りつめ、06年に退任するまでの生涯を描いている。
第8章の「根拠なき熱狂」では、この有名なアイデアが、本人が大好きなバスタブの湯につかっているときに浮かんだという話や、夫人との新婚旅行秘話が明かされるなど、エピソードは尽きない。(嶋中雄二)
●グリーンスパンは、サブプライムローン問題の深刻化で落ちた偶像と化してしまった感がある。しかし、世界的なディスインフレ、低金利を「謎」と呼んだが、その実現に金融政策が果たした役割の評価は極めて謙虚で、未来への洞察に学ぶべき点は多い。(櫨 浩一)
●下巻では資本主義や金利についてのグリーンスパン独自の考え方が述べられており、「経常収支と債務」などグローバル経済の重要テーマを取り上げて論じている。現在現実の起きているサブプライムローン問題の本質を理解し、さらに市場と国家の「これから」や資本主義の行方を考えるうえでも、必読の書といえるだろう。(水野和夫)
●FRB議長として決断した政策の背景、苦悩、時の政権への批判、自らの誤り、それに人間味あふれるエピソードなどが、議長時代には考えられない率直さで語られている。下巻では、氏のいくつかの結論が紹介されている。対外不均衡、エネルギー、高齢化、所得格差など、今後のグローバル経済を考えるうえでの主要な論点が網羅されている。2030年の米国および世界経済の予測で締めくくっている本書は、単なる回顧録にとどまらない。(森山昌俊)





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