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『テーマで探す現代を読み解く良書・話題本』
週刊東洋経済 2006年8月12日・19日合併号 52~53ページ)
格差問題をどう考えるか
是非を論じるより原因と事実の究明を
選者 大和総研チーフエコノミスト 原田泰(はらだ・ゆたか)
1950年生まれ。東京大学農学部卒業、1974年経済企画庁入庁、内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官などを経て2002年から現職。
小泉改革路線が格差を生み出したという議論が盛んだが、事実として、小泉政権になって格差が拡大したのか、小泉政権のどの政策が、どのようなメカニズムで格差を拡大させたのかという議論は何もなされていないようだ。
事実と理論に基づかない政策が行われれば、逆効果にはならなくとも、無駄になる可能性は高い。まずは、事実とメカニズムの理解が重要だ。そのために必要な本として、定番的な本から紹介していきたい。
| 不平等社会日本―さよなら総中流 | |
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『不平等社会日本』は、上級ホワイトカラーになれるチャンスが、戦前以上に、世代を通じて固定しているという。固定化は「生まれ」それ自体よりも、「生まれ」のもたらす機会によって生じている。
フランスのような代々その文化資本が受け継がれる形でのエリートの再生産ではなく、○×テストのような、より客観的な指標による選抜であるがゆえに、階層固定化の仕組みは見えにくいものになる。同時に、この見えない固定化は、エリートの空洞化をもたらすとする。クイズのようなテストの勝者がエリートであるなら、エリートの責任感を風化させるというわけだ。
階層の固定化は社会の活力を失わせる
しかし、そんな勝者がエリートの役割を果たせなければ、別の人間がエリートとして現れてくる。バブル崩壊後の日本を見れば、そう心配することはない。別のタイプの人間が現れて、政財官で新しいエリートとなっていると私は思う。問題は、階層の固定化が多くの人のやる気をそぐのではないかということだ。
| 階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ | |
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『階層化日本と教育危機』は、類似の視点を、教育に重点を置いて述べる。学習意欲の低下が、特定の階層の子供に顕著だ。教育は社会上昇の回路であったが、現在はむしろ固定化の手段になっているという。
| 希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く | |
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『希望格差社会』は、日本は将来に希望が持てる人と絶望している人に分裂していると指摘する。1990年代から、企業はグローバルな競争の中で生き抜くために、クリエイティブな能力、専門的知識を持った労働者と同時に、マニュアルどおりに働く単純労働者を必要とするようになった。
二極化する仕事に対応して、企業は雇用行動を変えた。専門的・創造的労働者は企業の中核労働者として自社で育て囲い込もうとする。一方、代わりが効きマニュアルどおりに働けばよい単純労働者は、コストを下げるためにパートに置き換えようとする。
仕事の質の二極化に対応して、労働者のステイタスも二極化する。将来の希望が持てる定職に就いている人と、実現性の薄い夢しか持てないフリーターに二極化していることが、希望格差社会だという。
仕事は人々にアイデンティティを与える。仕事を通じて、社会から認められているという感覚を得て、生きる糧にしている。そのような感覚から阻害された人々が大量に出現すると、社会は不安定になるという。
私は、現実の仕事はそれほど極端に分化していないと思う。日本は、マニュアル化された仕事ではなく、気を利かせた仕事により高い値段を払いたがる社会だと思う。
| 下流社会 新たな階層集団の出現 | |
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『下流社会』は、そこにいる人々の意欲に注目する。「下流」とは単に所得が低いのではなく、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲が低いことだと指摘する。女性の正規社員では自分らしさを表現する言葉として、「てきぱき」「品がよい」「人付き合いが上手」などと答えるが、非正規社員では「一人が好き」「のんびりした」「こだわりが強い」と答えるという。
では、どうすればよいのか。社会にある不平等を、自由、個性、オンリーワンなどという言葉で隠している大人の欺瞞を暴き、だからこそ努力しろということになるのだろうか。
| 日本の不平等 | |
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『日本の不平等』は、詳細な実証分析の集大成である。高齢化が所得の不平等化の原因であるということだが、同時に生涯所得の不平等化が進んでいる可能性もあるという。
年をとれば不平等になるというのは仕方がないことと私は思う。人々の才能、努力、運は、年齢とともに累積的に所得格差をつくり出していく。年金というセーフティネットを維持し、高所得高齢者の年金に課税することが必要だろう。
では、若者の間の格差はどうだろうか。階層化とは若者の格差が拡大することだ。残念ながらこのことについての著作はないようだが「フリーターの増加と労働所得格差の拡大」という論文は、若年の所得格差が拡大していることを示す。これは、非正規雇用の増大の影響が大きい。若年者が職業能力を獲得する機会を持てるようにすることが重要だ。
| 新・東京23区物語 | |
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残念ながら絶版で、ネットで手に入れるほかないが、泉麻人『新・東京23区物語』もある。85年の『東京23区物語』の2001年改訂版だ。23区の微妙な違いと階層意識に関する皮肉な観察眼が充満している。
| 不平等、貧困と歴史 | |
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『不平等、貧困と歴史』は、19世紀から現在までの工業化と不平等がどのような関係にあったかを考察する。碩学の著作を要約するのは遠慮して、一つだけ意外な事実を紹介する。英国では、1834年の「国家のお慈悲」による高齢給付金の水準は、現代福祉国家の老齢年金よりも相対的には高かった。低所得労働者の市場賃金に対する比率は、サッチャー政権以前のそれの2倍だったという。
格差発生のメカニズム究明こそ重要
不平等に対して、どうすればよいのか。私は、不平等がグローバル競争の中で日本が豊かであり続けるために必要ならば、仕方がないと思う。
しかし、所得格差のすべてが、社会全体の富を増大させるために必要なインセンティブであるとは思えない。詐取、制度、規制、不必要な試験による参入制限などで生まれる所得格差をなくして、その後の不平等に対処することを考えればよいと思う。そのためにも、まず格差の生まれる原因を究明することが第一だ。


エリート階級は相続される
結果悪平等な総中流政策がなくなっただけのこと





