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『テーマで探す現代を読み解く良書・話題本』
週刊東洋経済 2006年8月12日・19日合併号 54~55ページ)

日本の資本主義をあらためて問う
歴史と現実を踏まえた本源的な株式会社論を

選者 経済評論家 奥村宏(おくむら・ひろし)
1930年生まれ。岡山大学卒業。産経新聞記者、日本証券経済研究所研究員、龍谷大学教授、中央大学教授などを歴任。専攻は株式会社論。



ライブドアによるニッポン放送株の取得から始まって、村上ファンドの阪神電鉄株、楽天のTBS株買い占めと、「劇場型買い占め」事件が続発する中で、村上ファンドに関係した福井俊彦日銀総裁、さらにはオリックスの宮内義彦会長へと事件の波紋は広がっていった。

バブル崩壊後、15年もの長期不況からようやく抜け出したと思われたところで起こったのがこれらの事件であった。

これで日本でもいよいよ本格的なM&Aの時代が始まった、とマスコミは騒ぎ、ホリエモンこと堀江貴文氏や村上世彰氏の演出に振り回されたが、はたしてこれらの事件が意味するものは何であったのか。

ライブドア資本論
ライブドア資本論佐々木 俊尚

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それまでアメリカから輸入された株主資本主義論が日本でも流行していたが、ライブドアや村上ファンドによる株の買占め事件はあらためて「会社は誰のものか」という問題を投げかけた。

『AERA』の記者が書いた『ヒルズ黙示録』はライブドア、そしてホリエモンに密着取材を重ねてきたものだけに、ライブドアとニッポン放送株取得についてのいきさつとその内幕に詳しい。

ヒルズ黙示録―検証・ライブドア
ヒルズ黙示録―検証・ライブドア大鹿 靖明

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事件の過程で、ニッポン放送とライブドアとの和解案が日本経団連関係者から提案されたが、この案にライブドア側が応じるかどうか、感触を探ってほしいと弁護士から頼まれ、著者がライブドアの幹部に当たったという話が出てくる。報道記者がこんなブローカーのようなことまでするとは、あきれた話だ。

著者は「ライブドア事件は、規制緩和が進んだ新自由主義の行き過ぎを是正するうえで、起きるべくして起きた事件といえる」といい、日本が規制緩和と過剰流動性の時代から転換していこうとする段階で起こったのがライブドアに対する強制捜査であったとする。だが、では、どのような時代に転換していくのか、という点になると、著者の見方はあいまいである。

ライブドア監査人の告白
ライブドア監査人の告白田中 慎一

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ライブドアから村上ファンドへと焦点は移っていったが、村上ファンドの発足から阪神電鉄株の買占めに至るまでのいきさつについては『村上ファンドの研究』が詳しい。

村上ファンドの研究―巨大メディアを狙う「ヒルズ族」の野望
村上ファンドの研究―巨大メディアを狙う「ヒルズ族」の野望水島 愛一朗

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その後、村上ファンドについては新聞や週刊誌、そして月刊誌が次から次へと特集を組んでいるが、『週刊東洋経済』の2006年5月20号と6月17日号の特集が最も詳しい。この記事を書いた記者たちが村上ファンドを徹底的に解剖したのが『トリックスター』である。

トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇
トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇『週刊東洋経済』村上ファンド特別取材班

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村上ファンドが仕掛けたさまざまな株の買い占めについて詳しく追うと同時に、村上世彰の生い立ち、そして小学生時代から通産官僚時代にまで至る人脈などについて詳しく書かれている。

ライブドアや村上ファンドに対しては、無法者としての批判がある一方で、旧来の体制に挑戦した、志ある若者として評価する声も多い。

これに対し、『トリックスター』の著者たちは徹底的に村上ファンドを批判しており、読んでいて小気味よい。しかし同時に、なぜライブドアや村上ファンドが生まれてきたのか、という点についてはあまり触れていない。

彼らは日本の株式会社のこれまでの矛盾をついて、それで儲けようとした「壊し屋」であった、というのが評者の見解である。

乗っ取り屋と用心棒―M&Aルールをめぐる攻防
乗っ取り屋と用心棒―M&Aルールをめぐる攻防三宅 伸吾

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会社は誰のものかがあらためて問われる

株式会社の買い占め事件が起こると、当然ながら「会社は誰のものか」という議論が出てくる。そこで「会社は株主のものだ」という株主資本主義の主張が出てくるのだが、アメリカの株主資本主議論は1980年代に、機関投資家が大株主になった段階で起こってきたもので、それ以前にはそんな議論はなかった。この歴史的背景を知らず、アメリカは昔から株主資本主義であったというような議論をする者が多い。

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会社は誰のものでもない。―21世紀の企業のあり方奥村 宏

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株式を買い占めて会社を乗っ取るというのは、会社の支配権を奪うということであって、会社を自分のモノにしたということではない。

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会社はだれのものか岩井 克人

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岩井克人氏はかねてから、「会社はヒトであると同時に、モノである」と主張してきたが、『会社はだれのものか』でも同じ主張を繰り返している。この本では「ライブドアとフジテレビ」を例にして議論しているのだが、岩井氏の前著『会社はこれからどうなるのか』(平凡社)と同じように、いささかスコラ哲学風で、現実から理論をつくり出していくというものではない。

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株式会社に社会的責任はあるか奥村 宏

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この岩井氏の主張に対して、評者は『株式会社に社会的責任はあるか』(岩波書店)などで批判している。そして『会社は誰のものでもない』と『粉飾資本主義』で、21世紀の今、株式会社が危機に直面している、という視点から歴史的にこれらの問題をとらえようとした。

粉飾資本主義―エンロンとライブドア
粉飾資本主義―エンロンとライブドア奥村 宏

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ライブドア、村上ファンド、そして楽天はこれからどうなるのか、ということから、福井日銀総裁や宮内オリックス会長はどうなるのか、ということにマスコミの関心は移っている。一連の事件が意味するところは大きく、時代の転換を告げるものだけに、今後、これらに関する本がまだまだ出てくるだろう。

その際、起こっている事件を歴史的に位置づけるとともに、それが何を意味するのかを理論的に明らかにすることが必要だ。

エンロン事件などについて、アメリカではジャーナリストによる書籍がたくさん出ている。株主資本主義やコーポレート・ガバナンスについての教科書的な本よりも、こうした本のほうがよほど有益である。

なぜ企業不祥事は起こるのか―会社の社会的責任
なぜ企業不祥事は起こるのか―会社の社会的責任ローレンス・E. ミッチェル Lawrence E. Mitchell 斎藤 裕一

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『なぜ企業不祥事は起こるのか』は投資銀行業界で現実の問題に接したあと、大学教授になった著者が書いたものだ。この本では株主資本主義論を批判するだけでなく、そもそも株式会社とは何か、という根本問題にまで立ち返って議論している。

株式会社が引き起こしているさまざまな事件を見つめると同時に、これを歴史的にとらえることで、新しい株式会社論を打ち立てていくこと、これこそが今求められている。



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