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『テーマで探す現代を読み解く良書・話題本』
週刊東洋経済 2006年8月12日・19日合併号 58~59ページ)

資源インフレはいつまで続く
安価なエネルギーの時代は終わった

選者 丸紅経済研究所所長 柴田明夫(しばた・あきお)
76年東京大学農学部卒業、丸紅に入社。国際的なエネルギー・資源事情に詳しい。



かつて1990年代、世界の石油市場に対する見方には二つあった。一つは、アジアからの見方だ。成長著しいアジア市場では、エネルギー・資源多消費型の成長過程にあることから、旺盛な石油需要を背景に原油価格は上昇するとの予測だ。

もう一つは、欧米石油メジャーズからの見方だ。80年代後半から進んだ技術革新によって、世界の石油の埋蔵量は成長しており、供給力は十分ある。仮に原油価格が上昇しても「余剰生産能力」を活用して増産すれば原油価格は値下がりする。原油価格は長期的にも上昇しようがないというものだ。確かに、90年代までは、世界の石油市場は欧米石油メジャーズの見立てどおりに動いた。

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資源インフレの原因は投機だけではない

しかし、国際商品市況をめぐる環境は、2000年を境に状況が激変する。再び需給が逼迫傾向を示すようになり、それまで1バレル=20ドルを下回っていた原油価格が03年には30ドルを超え、現在は70ドルを突破して史上最高値圏にある。

原油ばかりではない。鉄鉱石、コークスの原料となる原料炭、鉄スクラップ価格も2~3倍に上昇。銅、アルミニウム、亜鉛などの非鉄(ベースメタル)やニッケル、クロム、コバルトなどの希少金属(レアメタル)も高騰。10数年ぶり、20数年ぶりという「資源インフレ」は、投機マネーだけが原因ではない。

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この背景には、長期にわたり資源価格が低迷する中で、供給能力の拡大が抑制される一方、中国などの資源需要が急増し、世界の石油需給バランスが逼迫に向かったことがある。今や石油市場では「アジアの見方」が大勢となった。

ポール・ロバーツ著『石油の終焉』やリンダ・マクウェイグ著『ピーク・オイル』は、そうした石油供給の限界を警告したものだ。安価なエネルギーの安定的な供給に慣れ、満足し切っている現代社会に対して、地質学的観点から警鐘を鳴らす。

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今やエネルギー供給はピークを迎えつつある。世界のエネルギー需要量は年々増大し、天井知らずの状況にある。この需要を支えるエネルギー供給体制が現状を維持できなくなることは、年を追うごとに明らかになっていると指摘する。

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なお、レスター・ブラウン著『フード・セキュリティー だれが世界を養うのか』は、石油市場に起こっている問題を食糧分野での生産力の限界という切り口で分析したものだ。

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本村真澄著『石油大国ロシアの復活』および中津孝司著『クレムリンのエネルギー資源戦略』は、開発の余地があるとされるロシアのエネルギー産業の実情に焦点を当てたものだ。一般に石油産業では、その年の新規発見埋蔵量をその年の販売量で除した値をリプレイスメントと称して、一つの重要な経営指標としてみる。

基本的にそれは100%でなければならない。何年も100%を切るような事態があれば、それは資産食い潰しの局面に入っていることになる。

ロシアでは、91年に200%あったこのリプレイスメントが、02年には60%、03年にはさらに悪化し50%まで落ち込んでいる。

ロシアの産油量全体に占める新規油田(5年以下)の比率は8%にすぎない。ロシアでの油田開発コストが上昇しているためだ。


資源囲い込みに邁進 中国の危険な動き

皮肉なことに、エネルギー・資源価格の高騰は、資源ナショナリズムの高揚という新たな問題を生み出し、それが世界的な資源争奪戦を活発化させている。石油争奪戦が始まれば、石油が実際に不足するのはまだ先であっても、今の時点で石油価格は上昇する。この価格上昇は経済学でいう「消費者や政治家に対するシグナル」となって、省エネ活動や代替資源の探索を促す。

元NHKワシントン特派員の日高義樹氏は『米中石油戦争がはじまった』の中で、最近の中国の積極的な資源外交を、米国との関係上極めて危ういものととらえている。

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著者によれば、中国はイランに対する核技術の輸出に力を入れている。ビジネスのうえでイランを助けているだけではない。国連がイランの核開発を阻止することにも反対し、あからさまにイランを助けている。

中国の狙いは、イランを軍事的に強くして湾岸地域における反米勢力の中心にすることだ。また、中国はイランとの間に石油パイプラインを設置し、1日600万バレルを超すイランの石油の大半を中国に直接運び込もうとしていると指摘する。

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現在、全世界の石油産出高である日量8500万バレルの半分以上が専制国家で掘り出されている。共産主義体制をとる中国は、依然として非人道的な政治を続けており、こうしたやり方が中南米の専制国家になじみやすいという。しかし、いずれ石油をめぐる米中間の本格的な戦争に発展しかねない。

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では、こうした資源インフレは最終的には、どういう形で世界経済と折り合いをつけるのであろうか。この点、評者の『資源インフレ』の見方は、現在の資源高騰は一過性のものではなく、安い資源時代が続いたために需要に見合った形で開発が進まない中、中国などBRICS諸国が、エネルギー多消費型の経済発展過程に入ったことで、一気に供給不足が顕在化。それが市場での価格急騰を招いたとみる。

この意味では、価格急騰は、代替エネルギーの開発や環境配慮的な社会システム構築を要請するシグナルといえる。そればかりではない、高い資源価格時代の到来は、省エネ・省資源の優等生である日本経済にとって、新たな出番でもある。

本書のサブタイトル「日本を襲う経済リスクの正体」とは、資源インフレそのものではなく、それを一過性の現象と決め付け、何ら対策を打とうとしない「無作為」こそが、真のリスクであるという意味である。



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