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『テーマで探す現代を読み解く良書・話題本』
週刊東洋経済 2006年8月12日・19日合併号 60~61ページ)
日本はアジアでどう生きるか
「日本・日本人論」こそ外国を知る手掛かり
選者 国際交流基金理事長 小倉和夫(おぐら・かずお)
1938年生まれ。東京大学法学部、ケンブリッジ大学経済学部卒業。62年外務省入省、駐ベトナム、韓国、フランス大使を歴任。
外国人の書いた日本論や日本人論は、行間まで含めてよく読んで見ると、実は日本論や日本人論ではなく、書いた本人の属する国や民族や文化についての評論であることが多い。
裏を返せば、アジアを日本人が理解しようとするとき、一つの便法は、これらの国の人々が書いた日本・日本人論を読むことである。
最近書かれた韓国人による日本論で面白いのは、韓国の歌手でタレントのチョ・ヨンナム氏の『殴り殺される覚悟で書いた親日宣言』だ。
| 殴り殺される覚悟で書いた親日宣言 | |
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紋切り型でなく、理詰めでもなく、さりとて無理に気負ったところもない面白い日本印象記だ。韓国と日本のポルノ映画を比較して、日本の伝統的な精神を引き合いに出すところなどはハッとさせられる。著者は、国際交流基金の招きで初めて訪日して日本にじかに触れ、肌で感じた日本を書いたのだが、その率直さが災いしたのか、「殴り殺される」まではいかなかったものの、テレビ番組を降ろされたり、「社会的迫害」に近い扱いを受けたという。内容とともに、本書と著者が韓国でどう扱われたかも、日韓関係を考えるうえで一つの素材となる。
悲しい日本人(イルボヌン オプタ) (単行本)
田 麗玉
この本と対角線上にあるのが、韓国の女性ジャーナリストで現在は国会議員でもある田麗玉氏の本で、韓国でベストセラーになり日本でも話題となった『悲しい日本人』だ。この本は、韓流ブームが日本列島を覆う前に書かれた本なので、今読み返すと、出版された1990年代とは別の意味を感じ取ることができる。
筆者は徹頭徹尾、日本を欧州と米国の通俗的日本人論の色眼鏡で見ている。閉鎖的集団主義、没個性云々という日本人論だ。欧米の観点から日本を見下し、自らをアジアの外に置くことによって、「日本」を超えようとする心理がにじみ出ている。韓国が近代化し、西欧化した結果、西欧の目で日本を見る韓国人が出てきている証拠でもある。今、東アジア共同体論がささやかれているが、そうした日韓共同体意識とはまた別の次元の心理を垣間見せている。
| 韓国と韓国人 | |
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韓国人の日本論は、遠く15世紀から18世紀にかけて朝鮮通信便によって書かれたものはあるが、19世紀から20世紀前半にかけては、まともな日本論がほとんどない。なぜか。その答えを鋭く提示しているのが『韓国と韓国人』だ。「政治的な理由のために、彼ら(韓国人)は日本にいながらも日本人と交じり合おうとしなかった」(同書118ページ)と言う著者の言葉は、被植民地国と宗主国との間の真の「対話」の困難を浮き彫りにしている。
本国からの“制約”から解き放たれた日本論も
中国人の書いた日本人論は、今でも政治的理由によって「色がついた」ものか、味も素っ気もないものが多いが、その中で日本に長く滞在して本国中国の文化的、政治的制約から比較的自由になった人々の日本人論の中には面白いものが二、三ある。
| にっぽん虫の眼紀行―中国人青年が見た「日本の心」 | |
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| “意”の文化と“情”の文化―中国における日本研究 | |
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毛丹青氏の『にっぽん虫の眼紀行』もその一例だが、日中間の政治文化を比較した王敏女史の『〈意〉の文化と〈情〉の文化』は、著者の冷徹な知性と温かい心情の双方が感じられる好著だ。歴史にこだわる中国の政治文化の奥に潜む正邪の区別、それにからむ儒教の伝統や中国の歴史との関連を理解するうえで有益だ。
他方、中国ではタブー視されているたぐいの日本人論も、実は将来の日中文化交流を考える際に大切な視点が含まれているという意味で無視できない。魯迅の弟で、文化大革命中に迫害を受けて死んだといわれる周作人の『日本談義集』は、中国人による日本論の古典といえる。
| 日本談義集 | |
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この本やその他の著作の中で周作人は、日本人が自らの西洋化の推進のために、かつて中国から吸収した漢文化を捨てていった過程が日本の中国人蔑視につながっていったという趣旨のことを述べた後に、日中両国民が西洋文明の圧力の下に生きてゆかねばならぬ宿命を「東洋人の悲哀」として表現している。中国が今や急スピードで近代化し、「西洋化」している現在、周作人の日本論は、中国人自身によってもう一度再評価されてよいのではないかと思われる。
| 戴季陶の対日観と中国革命 | |
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他方、孫文と革命運動を共にした日本留学生・戴季陶については嵯峨隆氏の『戴季陶の対日観と中国革命』という好著がある。戴季陶の日本論は相当辛口で、日本に固有のものはないとか日本の武士道は一種の封建遺制であるといった論評で満ちているが、周作人の著作と併せて読むと興味深い。
| 喪失の国、日本―インド・エリートビジネスマンの「日本体験記」 | |
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インド人の見た日本となると『喪失の国、日本』がよく挙げられるが、これこそ日本人論よりインド人論といえる。カースト制度になじんでいるインド人が日本に来て驚くことを列挙する本書は、逆に、日本人がインドへ行って心せねばならぬことを言っていると考えてもよいほどだ。
自伝・回想・旅行記
タゴール
しかし、インド人の日本人論で取り上げられるべきは、タゴールの『日本紀行』であろう。タゴールは東洋の精神性を強調しつつ、西洋化こそ近代化であるとして、その道をまっしぐらに進んでいる日本に警告と、そしてその先の期待を表現している。こうした記述を読んでいると、インドの台頭が叫ばれている今日、現代の日本人がもっと長期的観点(=文明史的観点)からインドの発展を考える必要を感じさせる。
| 中村屋のボース―インド独立運動と近代日本のアジア主義 | |
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そして最後に『中村屋のボース』。この本はタゴールという偽名を名乗って日本に潜入して、日本をインド独立運動の拠点として活躍した革命家ビハイリ・ボースの生涯を描いたものだが、日本を「道具」として使いながら、ついにはその日本に「同化」していったこのインドの革命家の心情は、インドカリー並みの強い香りとともにわれわれに迫って来る。
半世紀以上の時を隔てて今日の時点から見れば、第二次世界大戦が、事の是非は別として、インド独立に結び付いたことは誰の目にも明らかである。問題は、独立したインドがどんなインドになったのか、また今後なるのかであり、完全なる解答は出されていない。インドは依然アジアの謎の国なのかもしれない。


チョ・ヨンナム氏の覚悟。
一番強く感じた事は






ボースの眼を通し日本のアジア主義を知る