メイン > 日経産業新聞『私の本棚』 > 2008年1月25日~3月21日

頭にちょっと風穴を―洗練された日本人になるために
頭にちょっと風穴を―洗練された日本人になるために廣淵 升彦

新潮社 2008-01
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◎関西大教授 白石真澄氏

「海外の常識」学んで知的武装

「チョコレートは性的誘惑を意味するお菓子」。本の帯の一文に気付いたのは、ちょうど今年のバレンタインデーの時期だった。

チョコレートを食べ過ぎると鼻血が出やすいとのうわさ話は耳にした経験があるが、その一文はいままで聞いたことがない表現だった。気になって書店で立ち読みを始め、著者の知的オーラに引き付けられてそのまま購入した。

日本の常識は世界の非常識と言われることが多い。今回のチョコレートの例にしても、私たちの習慣は欧米の常識とは異なる場合があるようだ。

著者は日本のテレビ会社でニューヨークとロンドンの支局長を務めた国際ジャーナリストだ。海外取材など国際経験が豊富な著者の目には、日本人の多くは知的装備を欠いたままで外国を訪れ、交渉に臨んでいるように見える。

困難に満ちた世界で生き延びるには、まず各国の事情をもっと知るべきだと著者は説く。国際教養を身につけ、ユーモア感覚や心の感度を研ぎ澄ます必要もありそうだ。

本書には眠くなるような、難しい説明は見当たらない。むしろ身近な食べ物の話を通じて世界をぐっと身近に感じさせるような話が並んでおり、特に若い人たちに勧めたい一冊だ。本書を活用して世界と渡り合える人材になってほしい。

■2008/03/21, 日経産業新聞, 26ページ

その痛みは「うつ病」かもしれません―ストレス神話をくつがえす新しい考え方
その痛みは「うつ病」かもしれません―ストレス神話をくつがえす新しい考え方大塚 明彦

草思社 2007-12-05
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おすすめ平均 star
starこの先生
starうつに悩む人に一度は読んで欲しい本
starうつ病かなとお悩みの方におすすめ

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◎弁護士渥美雅子氏

働き盛りのうつ 医療界にも一石

毎年三万人余りの自殺者がいる。中でも四十代、五十代の男性が四割を占め、その社会的損失は年間一兆円に上るという。その自殺の最大の原因はうつ病である。

精神科の医師として四十年余りの経験がある著者は、自ら開発した「脳ナビ」と呼ばれる診断基準によってうつ病を診断する。被験者は四十にわたる質問にイエスかノーで回答。そのうち「朝目が覚めた時に気分がすっきりしない」「朝よりも午後の方が体調が良い」など典型的な数項目の質問にイエスと答えれば、ほぼ間違いなくうつ病であるという。

著者は「うつ病は心の病気ではなく、脳の傷害であり、神経伝達物質の不足である」と指摘する。この病気を治すには「セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなどの薬を上手に組み合わせ、投与していくことによって治癒する」と明言する。

この考え方には、他の精神科や心療内科の医師からは異論が出そうである。しかし、著者はそれも織り込み済みで、現在の医療界に大きな一石を投じるつもりであろう。私もふとハクスリーの「すばらしい新世界」に登場する万能薬「ソーマ」を思い出してしまった。

産業医や企業の人事管理担当者にも本書の一読をお勧めする。働き盛りの従業員がうつ病になるケースが多く、いち早く、適切に対応するうえで「脳ナビ」が役立つかもしれない。

■2008/02/29, 日経産業新聞, 34ページ

金融システムを考える
金融システムを考える大森 泰人

きんざい 2007-12-01
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◎みずほコーポレート銀行企業調査部アナリスト 棚瀬桜子氏

グローバル市場 向き合う日本描く

表紙には、大空を見つめる小型犬のチワワが載っている。本書を一読した後に表紙を改めて見直すと、著者はチワワを日本に、大空をグローバル市場になぞらえているかのようだ。

タイトルだけをみると金融業界向けの専門書のようだが、ページを一通りめくると、バブル崩壊の痛手から日本の金融業界がどのように改革し、立ち直っていったのかをわかりやすく説明していることを感じる。大企業や大手銀行の経営破綻が相次いだ一九九〇年代後半の社会現象を回顧しながら、金融と経済が個人の仕事や生活の豊かさと密接なつながりがあることを実感させてくれる。

「貯蓄から投資へ」のスローガンに沿ってお金の流れが変わる中、金融機関への監督方針や消費者保護のあり方、世界での日本市場の位置づけなど答えを出さなければならない課題は数多く残っている。

人口減少で低成長を余儀なくされる日本は、市場開放と海外進出を進めるべきなのか。逆に外資の参入を制限し、敵対的買収だけでなく三角合併をも阻止するのか。金融行政の判断によって、世界各国の対日投資戦略は大きく変わるだろう。

チワワ(日本)は小さな体の割には勝ち気で大胆な性格だという。不良債権処理問題を乗り越えた日本は大空(グローバル市場)にどう向き合うのか。多くの示唆を与えてくれる一冊である。

■2008/02/15, 日経産業新聞, 26ページ

定年後の8万時間に挑む (文春新書 613)
定年後の8万時間に挑む (文春新書 613)加藤 仁

文藝春秋 2008-01
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◎関西大教授白石真澄氏―「定年後の8万時間に挑む」

生涯現役、高齢者の生きざま描く

ノンフィクション作家である加藤仁さんの作品には、生涯現役を貫く、多くの高齢者が描かれ、読者に勇気と希望を与え続けてきた。二十五年以上にわたって取材した定年退職者は三千人以上にもなるという。

その中から本書に登場する四十人以上の定年退職者はすべて、一九四七年(昭和二十二年)から五〇年(昭和二十五年)に生まれた、いわゆる団塊世代。これまでの高齢者とは一線を画し、新たなライフスタイルの潮流を生み出す核にもなりそうだ。様々な要因が考えられるが、彼らは社会貢献や自然に対して高い関心を持っているからだ。

都会から農村や山村に移住し、有機無農薬の米作りに一生懸命取り組む人や、故郷に帰って介護福祉の仕事を始めた人、外資系企業を早期退職して学生街にネットカフェを開業した人など、本書では定年退職した後の生き生きとした姿が紹介されている。その奮闘ぶりは老後や余生といったネガティブ(否定的)な概念とはほど遠い。

まさにポジティブ(前向き)で、定年後の生き方のヒントを与えてくれる。定年後の時間は本書のタイトルにあるように、八万時間。これは二十歳から定年まで働いてきた時間に匹敵するそうだ。七百五十万人ともみられる団塊世代が「豊かな時間」の創造に挑戦すれば、健康になって、寿命も伸びるはずだ。元気な人が多くなれば、高齢者のイメージも変わるだろう。

■2008/02/01, 日経産業新聞, 22ページ

女たちのブラジル移住史
女たちのブラジル移住史小野 政子

毎日新聞社 2007-09
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◎弁護士渥美雅子氏――「女たちのブラジル移住史」

苦難の手記、生きる意味示唆

ブラジル移民問題にはまってしまった。最初は五年ほど前に宝井琴梅先生を含め十数人の仲間とサンパウロに講談巡業に行ったのがきっかけで、その後はほぼ毎年ブラジルを訪ねるようになった。その度に苦難の移民史を耳にし、これを講談にして語りたいと思い資料をかき集めた。この本もその中の一冊だ。

この本は六人の女性たちが書いた、いわば自分史。戦前に農業移民として現地に渡った人もいるが、多くは戦後に自分の意志でブラジルに行き、永住している人たちだ。だが、彼女たちもかつての国策移民と同様に交通が不便で、物資の乏しい奥地で災害や病魔に襲われて、死にそうになったことがある。

それでも彼女たちはブラジルに引かれ、現地に根付いて生きている。その理由は何だろう。六人の女性の手記は「生きる」ことの根源的な意味を示唆してくれる。

今年はブラジル移民百周年。今のところブラジルから日本に来ている人が多いが、世界経済のバランスは近い将来大きく変わりそうだ。ブラジルで油田が発見されたというニュースもあるし、トウモロコシやサトウキビから石油代替エネルギーを開発する可能性も大きい。

そのためか、すでにもうレアル高である。この機運をどのようにとらえるか。ビジネスチャンスも潜んでいるし、二つの国の新たな関係を築く大きな節目にもなりそうだ。

■2008/01/25, 日経産業新聞, 20ページ

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