メイン > 日経産業新聞『私の本棚』 > 2006年3月3日~12月15日

東西逆転―アジア・30億人の資本主義者たち
東西逆転―アジア・30億人の資本主義者たちクライド プレストウィッツ Clyde Prestowitz 柴田 裕之

日本放送出版協会 2006-03
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おすすめ平均 star
starグローバリゼーションのもたらすもの

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◎デンソー会長岡部弘氏――「東西逆転」

経済グローバル化の結末

国際収支の膨大な赤字を出し続け、世界最大の負債国となった米国。背景にはものづくりを海外に移転しただけでなく、ソフト・サービス分野までも海外に任せる割合が増えたことにより、経済の海外依存度が圧倒的に高まった現実がある。これらの赤字を黒字国による米国への再投資でファイナンスし、何とか均衡を保っているが、米国への信頼がゆらぎ、バランスが崩れるとドルの大暴落が起こる。本書のプロローグはドル暴落のシナリオから始まる。

その一方で、欧米諸国がアウトソーシングで育てた中国(ものづくり)、インド(ソフト・サービス)の発展は著しく、日本を含めたアジア諸国が競争力を強め、富の流れに東西逆転が起こる。個々の企業が自らの利益追求のために発展途上国を利用した結果が、これらの国々の経済的発展と自国経済の弱体化だ。経済のグローバル化がもたらす皮肉な結末といえる。

これはまた日本への重大な警告でもある。自国経済を顧みずにいたずらに海外シフトを進めれば、いずれ日本にも同じことが起こる。ものづくり立国を目指す日本は、核となる技術開発と技能の蓄積を続けなければならない。こうした能力は一度無くすと回復不可能となる。

著者はレーガン政権時代に商務長官補佐官を務めた。日・欧との経済交渉にも携わった経験を持つ経済通であるだけに、本書の内容には説得力がある。

■2006/12/15, 日経産業新聞, 26ページ

金融マーケティングとは何か これがプロの戦略だ!
金融マーケティングとは何か これがプロの戦略だ!広瀬 康令

ソフトバンククリエイティブ 2006-11-16
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starありがとうございます
star「プロ」が語る成功体験
star金融業界のスゴ技の数々

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◎東洋大教授白石真澄氏―「金融マーケティングとは何か」広瀬康令著

外資の戦略、厳しさ感じる

バブル崩壊後、無残なまでにイメージを落とした邦銀。自由化になった今も、金利も営業時間もほとんど横並びだ。一方、外資の銀行は、邦銀とは一線を画した商品戦略や、徹底したマーケティングを推し進め、独自色を打ち出してきた。

著者はシティバンクや東京スター銀行など、五つの外資系金融機関を渡り歩き、マーケティング担当として実績を残してきた人物。自ら経験した外資系のマーケティングを、キャリアの流れに沿って書いている。堅苦しい教科書的な内容ではなく、非常に読みやすい。経験論に裏打ちされているだけに迫力もある。

たとえば、著者が最初に勤務したシティバンクの戦略。店舗数が多く、ロケーションも良い邦銀には便利さでひけをとってしまう。そこでATMの二十四時間開放やATM手数料の無料化に踏み切り、大きな話題をさらった。

が、実は真の理由は、銀行側は二十四時間システムを止めないほうがコストがかからない点にあった。これを消費者のメリットに置き換えた戦略で、したたかである。

本書を読めば、広告ひとつを取っても、徹底的に効果を測定する外資のスタイルが読み取れ、市場で戦うことへの厳しい姿勢が感じられる。日本と商習慣の違いもあるだろうが、金融以外の分野にも十分通用する考え方が詰まっている。

■2006/12/01, 日経産業新聞, 22ページ

新平等社会―「希望格差」を超えて
新平等社会―「希望格差」を超えて山田 昌弘

文藝春秋 2006-09
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おすすめ平均 star
star希望をもって生活できるか、否かがポイント
star希望は捨ててはいけません
starどうすれば希望格差を乗り越えられるか?

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◎弁護士渥美雅子氏――「新平等社会」山田昌弘著

企業の勝敗・年収格差の真相探る

この人が本を書くとタイトルがたちまちその時代の流行語になる。「パラサイトシングル」しかり、「希望格差社会」しかり。今度は「新平等社会」ときた。

一九九〇年代後半以降、どんどん広がる経済格差。一握りの勝ち組と大部分の負け組とに分かれてしまった原因は何か。負け組が「底抜け」して社会的弱者に転落してしまいかねない状況でもあり、それを食い止めるにはどうすれば良いか、がこの本のテーマになっている。

著者は本書の中で「リスク化したライフコースに対応できる社会保障制度」や「子育て期、高齢期における自立支援策」などいくつかのメニューを提供する。読んでいて私が最も面白いと思ったのは、未婚男性と既婚男性の収入格差だ。百万―二百万円の年収格差がある。ただそれを公の刊行物に書こうとするとすべて削除されてしまう、と著者は言う。これが明るみに出ると担当者の首が飛ぶらしい、とも。「金が無くては結婚できない、ましてや子どもなど」という極めてわかりやすい少子化のロジックがこうして埋没してゆく。それが日本の役所の体質だとしたならば日本の格差社会を埋める道はなかなか遠い。

とはいえ、この本には美容師にメード服を着せて客を殿様気分にしてくれる美容室が盛況であるという紹介もある。丹念に読めば新しいビジネスチャンスのヒントも拾えそうだ。

■2006/11/17, 日経産業新聞, 22ページ

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)
文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)ジャレド・ダイアモンド 楡井 浩一

草思社 2005-12-21
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おすすめ平均 star
star歴史的な知識の宝庫
starブッシュもこの本を読め!
star全部読む必要はない

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文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)
文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)ジャレド・ダイアモンド 楡井 浩一

草思社 2005-12-21
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おすすめ平均 star
star胡錦濤もこの本をよめ!
starヴァイキング好きなら、買い。
star存続のための処方箋も

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◎デンソー会長岡部弘氏―「文明崩壊上・下」ジャレド・ダイアモンド著

現代社会を危機から救う遺訓

「遠い過去を見れば見るほど、遠い未来が見えてくる」。これはウィンストン・チャーチル英元首相の言と伝えられているが、けだし名言である。

本書は現代の世界が抱えている危機的な問題を解決するための方策を、過去の歴史から見いだそうとするものである。過去の歴史には、北米のアナサジ、中米のマヤなど、文明が崩壊し歴史から消え去った事例が幾つもある。一方で、似たような条件下でありながら立派に生き延びた社会がある。二つを分けたものは何か。これを明らかにすることこそ現代の混迷を抜け出す鍵となると著者は主張する。

最近の研究成果によれば、文明崩壊は大まかに以下の八つの要因に起因している。すなわち(1)森林乱伐と植生破壊、(2)土壌劣化、(3)水資源管理問題、(4)鳥獣乱獲、(5)魚介類の乱獲、(6)外来種による在来種の駆逐・圧迫、(7)人口増大、(8)一人当たり環境侵害量の増加だ。特に外部との交流が断たれたときに悲劇が始まる。著者は明言を避けているが、こうした事例は再生不能なまでの環境破壊で人口増大をまかなうだけの食物を得られなくなり、文明が破滅の道をたどり始めることを示している。

相互交流が進んだ現代では、社会の消滅には至らないまでも、似たような危機に置かれている地域は多い。過去の歴史を学び本質を把握することの重要性を学ぶため、ぜひ薦めたい良書である。

■2006/10/27, 日経産業新聞, 30ページ

14歳からの政治
14歳からの政治長谷部 尚子

ゴマブックス 2006-08-21
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おすすめ平均 star
star初めて読んだ政治の本
star政治家が身近に
star中学生だから聞ける素朴な質問

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◎テレビ東京アナウンサー大江麻理子氏――「14歳からの政治」

中学生、8人の政治家に直球

安倍晋三内閣が発足してからもうすぐ一カ月となる。毎朝、新聞で欠かさずチェックするのが、前日の総理の行動を分単位まで克明に記している欄だ。どこに行って誰と会ったのだろうと興味深く感じるほか、一日中様々な仕事をしていることもよくわかる。

政治家をみていると、国会などできつい言葉を応酬したり、プライベートが暴かれたり、とかく大変そうである。安倍首相も政策や発言が「あいまい」と指摘され、厳しい評価を受けている。大変な仕事なのに、彼らはなぜ政治の道を志したのだろうと思ったのが、この本を手に取るきっかけだった。

著者は現役の中学生。実際に政治家を訪ね、なぜ政治家になったのか、どんなことを考え何をしているのかをインタビューしている。登場するのは安部首相(インタビュー時は官房長官)や小池百合子議員、横浜市の中田宏市長ら八人の政治家だ。

八人は著者が投げ込んだ直球をしっかり打ち返している印象を受けた。子供時代のエピソードや、突然手渡されたりんごを受け取る様子を撮った写真も掲載されている。テレビや新聞では分からない、普段とは違う一面も垣間見えて新鮮だった。

安倍首相に限らず、政治家は批判の対象となる。この本を読むと政治家一人一人の志に触れることができる。「いい日本にしてください」と政治家を応援したくなる一冊だ。

■2006/10/20, 日経産業新聞, 30ページ

芸術起業論
芸術起業論村上 隆

幻冬舎 2006-06
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おすすめ平均 star
star芸術に限らない人生論
star暗黒大陸ガイドブック
star学生は励まされるだろうなー

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◎内閣知財戦略推進事務局長荒井寿光氏――「芸術起業論」村上隆著

「芸術はビジネス」意識を改革

「芸術はカネのためではない」。「芸術家は貧乏」。これが日本の常識。その結果、日本の芸術家は世界で通用しない。芸術家は作品を売って生計を立てるのだから、通常のビジネスだと割り切り、世界の芸術市場のルールで競争すべき。芸術の顧客は大金持ちだから、金持ち向けに自分の物語を作るべき――。「芸術起業論」(村上隆著、幻冬舎)は、ドキッとするような発言が続く。

著者はぬるま湯的な日本市場に見切りをつけ、まず欧米で認められるよう作品を作った。次に欧米の権威を笠(かさ)に着て日本に逆輸入。それから欧米に自分本来の持ち味の作品を出し、成功した。プレゼンテーションも重視。五人の本物の翻訳者を使い、十回も推敲(すいこう)を重ねて展覧会のカタログを作った。その結果、彼の作品はニューヨークのオークション会社、サザビーズで一億円で落札。ルイ・ヴィトンと協力して作った「ムラカミ・モノグラム」が世界中で売れた。

工業製品でも、まず米国で売れ、それによって国内でも売れるようになったものが多い。芸術でも同じだということだろう。政府は日本の映画、音楽、ゲーム、漫画などのコンテンツ(情報の内容)を世界中の人に広げる知的財産戦略を進めている。芸術はビジネスだと割り切る意識改革が必要ではないか。芸術系の大学でもビジネス講座の開設が待たれる。

■2006/09/29, 日経産業新聞, 30ページ

女信長
女信長佐藤 賢一

毎日新聞社 2006-06
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おすすめ平均 star
star読み物として楽しめる発想と構造-難しいことは抜きにして
star信長に内在する“女性”性、“男性”性が描き分けられていない
star辻褄合せに難点

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◎弁護士渥美雅子氏――「女信長」佐藤賢一著、歴史小説、奇想天外な発想

織田信長は実は「女」だったという前提で書かれた本である。この奇想天外な発想は信長という武将が尾張の小大名から天下統一直前までのし上がっていく過程での人材活用術や戦術が、それまでの常識からあまりにかけ離れているので「あの時代、男ではああは出来まい」というところからきている。現に血統や出自を重んずる男達の価値観から信長は全く自由である。読んでいくうちに、もしかしたら本当に信長は女だったのかもしれないと思えてくるから不思議だ。

ういえば、最近、「ポジティブ・アクション」という概念がしきりに話題になっている。企業の中に男女差別があるならそれを是正していこう、女性の能力が眠っているならそれを掘り起こしていこうといった内容だ。それらをいち早く実施した企業ほど、収益率が高いという統計もある。新しい時代に新しいセンスで挑戦できるのは「女」である、とこの小説は明言する。

こういう発想をする著者自身も、また異能の人といえそうだ。この小説は昨年一年間、毎日新聞に連載されたが、単行本になって再度読み直してみた。何度でも読む価値のある本だ。著者はこの本の結末で、もう一度歴史のドンデン返しを試みる。あえて、その結末は書くまい。推理小説よりよほど面白い歴史小説だ。

■2006/09/22, 日経産業新聞, 22ページ

なぜ働くのか―充実感とやりがいを生み出すもの

◎デンソー会長岡部弘氏――なぜ働くのか、PHP総合研究所研究本部編著

先人の知恵から答え導く

現在の若者に共通する問題は、働くことへの意義がなかなか見いだせないところにあるように思える。背景には、現代の社会では個人としての夢を持ちにくいことがある。夢を持ち、夢の実現に向けて努力できれば、働くことに生きがいや喜びを感ずることができるようになる。そして生きる力も強まる。

この書物は松下幸之助をはじめ各界の成功者の生き様を短文でわかり易くまとめたものである。ややきれいごとに過ぎる感がないでもないが、各編がそれなりに説得力のある内容になっている。各編に共通する点は、各人がそれぞれの仕事に「強い信念」と「厚き情熱」を持ち、常にその目的の実現に向けて、人知れず「たゆまぬ努力」を続けているところにある。

働くことの意義を見いだすことはそれほど簡単なことではない。一人ひとりがまず身近なできることから始めて、それぞれの人生観に照らして納得できる答えが見つかるまで努力してみる以外にない。しょせん、自分のことは自分しかわからないものであるから、おのずから苦労して見つけ出すしかない。

ただ、先人の知恵を参考にすることはできる。そのためにこうした書物を多くの若い人達にも読んでほしい。しかし先人の知恵に心の底から納得できるようになるためには、個人としてもそれぞれが「熱き思い」を持つ必要があるように思う。

■2006/09/08, 日経産業新聞, 26ページ

猪瀬直樹 道路の決着
猪瀬直樹 道路の決着猪瀬 直樹

小学館 2006-04-05
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おすすめ平均 star
star孤高の作家の姿が勇気と自覚を伝えてくる
starこれぞ改革のお手本!!
star「道路の権力」に続き必読

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◎内閣知財戦略推進事務局長荒井寿光氏――「道路の決着」

「道路の権力」との攻防リアルに

「道路の決着」(猪瀬直樹著、小学館)は、著者が二〇〇一年夏、政権発足間もない小泉首相に旧日本道路公団の民営化を提案してから、〇五年に民営化が実現するまでの、息詰まる戦いの記録である。道路族、国土交通省、道路公団など「道路の権力」との攻防が詳細に描かれている。

旧道路公団は年間売上高二兆六千億円、借金四十兆円で、毎年三千億円の税金が投入されていた。これを破産会社と見て多額の税金を投入するのか、道路建設の抑制と経費削減で再生を図るのかをめぐり、民営化委員会は対立し、空中分解。しかし著者は委員会を委員懇談会に切り替え、世論をバックにあくまでも税金を投入せずに民営化を追求。民営化された会社は通行料金を値下げするだけでなく、わずか半年で三百億円の税金を納入するなど既に大きな成果を上げている。

道路公団の民営化の過程で生じた総裁更迭、副総裁逮捕、談合摘発などの事件や、委員会内部での対立、利権グループ間の泥仕合などが、ここまで書いてよいのかと思うほど個人名を入れて生々しく書かれている。本書は大きな国策会社の再建物語であり、その進め方には色々な批判もある。ただ再建戦略の立て方やコンセンサスの作り方、修羅場での戦い方などは、経営危機に陥っている民間会社の再建の場合にも参考になるであろう。

■2006/08/11, 日経産業新聞, 15ページ

チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える
チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える渡邊 奈々

日経BP社 2005-08-04
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おすすめ平均 star
star内容が軽い。
star世の中を変えている人たちが確かにいる。
star救われる思い!

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◎デンソー会長岡部弘氏――「チェンジメーカー」、世界を動かす社会起業家

「日本人には自分より恵まれない人たちに対するコンパッション(同情を越えて他人を思いやる心)が無い」。米国の友人の一言がこの本を書くきっかけになったと、あとがきにある。その意味を探るため、写真家である著者は「ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)」十八人にインタビューした。

ソーシャル・アントレプレナーとは、世界の恵まれない人達に持続可能な援助の手を差し延べる事業を起こした起業家を意味する。持続可能な援助は、ボランティアや寄付活動などに留まらず、ビジネスとして永続できるシステムをつくり上げることが大切だ。こうした活動を専門に続けている非政府組織(NGO)・非営利組織(NPO)の人達を著者は「チェンジメーカー」と呼ぶ。

活動事例の一つが「アキュメン・ファンド」。「安全な飲料水」「公衆衛生技術」など途上国で緊急に解決策を求められている分野に限定して資金援助をする。例えばタンザニアでマラリアの予防で最も有効な殺虫蚊帳を生産するAtoZ社への支援では、同社が一枚五ドルのコストで年間百万枚の生産を可能にし、安い価格で多くの人々が購入できるようにしたという。

こうした活動の一つ一つが感動的であるが、この中に三人の日本人の事例が取り上げられているのも嬉しい。是非多くの人に読んでもらいたい。

■2006/08/04, 日経産業新聞, 22ページ

赤ちゃんの値段
赤ちゃんの値段高倉 正樹

講談社 2006-06-20
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おすすめ平均 star
star闇ルートまでは追いきれていないが。。。
star少子化問題の陰で、野放し垂れ流し状態の赤ちゃん斡旋
star養子の実態に切り込んだルポ

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◎弁護士渥美雅子氏――「赤ちゃんの値段」、養子斡旋の実態を調査

驚くべき事実である。合計特殊出生率一・二五という少子化時代に、日本で生まれた赤ちゃんが海外に売られていくという。不倫の子、レイプされて出産してしまった子など、望まない妊娠の果てに生まれてきた赤ちゃんが、養子斡旋(あっせん)業者の手を経て、海外に“輸出”されているらしい。そして、養親側に高額な手数料を請求したり、寄付を強要してトラブルになったり、「脳性まひの障害を隠したまま斡旋された」として裁判になった例もあるとか。

養子斡旋事業をする旨、都道府県に届け出をしている団体が幾つかあるが、こうしたトラブルはむしろ無届けでやっているモグリの団体に多いようだ。著者はその事実をアメリカにまで飛んで取材し書き上げた。高倉氏は読売新聞社の記者である。

日本には養子斡旋に関する法律が無いので、人身売買にも等しいこの事実を取り締まるすべもない。

世界各地で悲惨な目に遭っている戦争孤児や災害孤児などの救済を含めて、子どもにとって望ましい養育環境をつくってやるにはどうしたらいいか。それには国や国連機関がかかわるべき部分、非営利組織(NPO)やボランティアが行うべき部分、ビジネスとして成り立つ部分といろいろあるだろう。

そういう事を考えるきっかけとして、ドカンと大きな一石を投じてくれる本といえよう。

■2006/07/28, 日経産業新聞, 22ページ

青い目のサラリーマン、ザイバツを行く
青い目のサラリーマン、ザイバツを行くムルター・ニアル 矢倉 美登里

ランダムハウス講談社 2006-05-25
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star楽しく読める日本人論

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◎東洋大教授白石真澄氏――「青い目のサラリーマン、ザイバツを行く」

外国人社員が見た日本企業

経済の国際化に伴い、日本企業で働く外国人の数は増え続けている。独特の文化を持つ日本社会に対して彼らが何を感じているのかを知る機会はそれほど多くない。本書はアイルランド出身のムルター・ニアル氏が、日本企業で働いた十四年間の経験をつづったものである。

現在、ニアル氏は技術翻訳などを手がける会社を経営している。一九八六年に来日、日本政府給費留学生として東京工業大学で博士号を取得した後、財閥系大企業である「ミツビシ」に入社した。

ミツビシで経験した出来事は強烈だったようだ。「毎朝八時二十分になると天井のスピーカーから体操の音楽が流れる。体操の音楽のほかに始業や就業のチャイムに振り回される」「新入社員寮は部屋が狭くて規則だらけ。遅刻しないよう、ちゃんと起きているか確認の電話が二度もかかる」――。社員を成熟した大人とみなさない日本企業の社風になじめない様子がユーモラスに描かれている。

本人の希望を無視した人事異動、細かい決まりにあふれた新入社員の手引き、失敗が許されない雰囲気など、日本社会や企業が抱えている問題を鋭く指摘する。一方で、社員を大切に扱う風土、摩擦が生じにくい年功序列型人事制度など日本企業の良さも認めている。バランス感覚にあふれた書きぶりは好感が持てる。

■2006/07/21, 日経産業新聞, 22ページ

中国古典からもらった「不思議な力」
中国古典からもらった「不思議な力」北尾 吉孝

三笠書房 2005-07
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おすすめ平均 star
star想像していた人物とは違っていました
star忘れていた何かを思い出すことのできる一冊
star論語への橋渡し

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◎テレビ東京アナウンサー大江麻理子氏――中国古典からもらった不思議な力

思想家たちの言葉、人生の道標

読者の皆さんは「言葉」に救われた経験はないだろうか。私は大学の入学式の時、不安で泣いていたところに流れた賛美歌に助けられた経験がある。

「闇のようなおそれも 霧のような憂いも みな後ろに投げ捨て 心を高くあげよう」

聞いた途端に目の前がぱっと開けたような気がして、それ以降の大学生活を満喫できたように思う。

「中国古典からもらった『不思議な力』」(北尾吉孝著 三笠書房)には、論語などから引用した中国の思想家たちの、まさに人生の道標となるような言葉がちりばめられている。

歴史というふるいにかけられながらも現在まで残っている言葉には、やはり残っているだけの意味がある。「利の元は義」や「徳は事業の基なり。いまだ基の固からずして、棟宇の堅久なるものはあらず」という言葉を頭の中で反すうしていると、最近おこったライブドアや村上ファンドの事件が思い起こされてならない。

渋沢栄一は「右手にソロバン、左手に論語」と言ったそうだ。国や企業のリーダーとして、最後に大切なのは「人徳」なのに、今の日本は利益や手法を最優先しすぎて「徳育」をおろそかにしてしまっているという著者の言葉が胸に刺さる。

「金もうけは悪いことですか」。その答えも、きっと中国古典が導いてくれるはずだ。

■2006/07/14, 日経産業新聞, 26ページ

脱商品化の時代―アメリカン・パワーの衰退と来るべき世界
脱商品化の時代―アメリカン・パワーの衰退と来るべき世界イマニュエル ウォーラーステイン Immanuel Wallerstein 山下 範久

藤原書店 2004-09
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star肩すかしを食らいました

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◎デンソー会長岡部弘氏――「脱商品化の時代」、ポスト資本主義を展望

9・11事件以前からアメリカのヘゲモニーは衰退を始め、9・11事件はその傾向に拍車をかけた。その結果、世界の資本主義システムは今や本質的危機に立ち至っており、我々は新しいシステムへの移行の時代を生きている。その行方は不確実ではあるが、根本的な変化に向けての展望が生じつつある――。

「脱商品化の時代」(イマニュエル・ウォーラーステイン著、藤原書店)の内容を要約すればおおむねこのようになる。

国際社会学会の会長を務めたこともある高名な学者である著者は、不確実な将来を考える上での重要な要素として二点を挙げる。「北」の立場に立つダボス会議の精神と、「南」の立場をも含むポルト・アレグレ会議の精神(ブラジルの都市、ポルト・アレグレで開かれた“世界のあり方を改善するための世界社会フォーラム”)だ。

両者の間には大きな断層があり、南北問題、宗教問題なども絡んで混沌(こんとん)とした状況となっている。こうした流れの中で、上記の二つの精神が今後数十年にわたりどのような展開を見せるかによって将来の道筋が影響を受けるという。

なお、書名の「脱商品化」というのは、現在の資本主義システムが、物やサービスの「商品化」を中心に成り立っているが故に、「脱商品化」が将来を占う一つの考え方ではないかという著者の主張に基づく。

■2006/03/31, 日経産業新聞, 34ページ

物理学校―近代史のなかの理科学生
物理学校―近代史のなかの理科学生馬場 錬成

中央公論新社 2006-03
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◎内閣知財戦略推進事務局長荒井寿光氏――「物理学校」

教育に情熱注いだ明治人描く

一八八一年(明治十四年)、東大理学部を出たばかりの若き理学士二十一名が、「理学の普及こそ国運の発展の基礎である」との高い理想を掲げ、後に東京理科大学となる物理学校を創設した。

昼は勤めに出て、夜は無給で教え、しかも施設や実験に必要な資金を持ち出す全くのボランティア活動だ。校舎もなく小学校の教室を借りて石油ランプの明かりで授業。「入れ物は粗末だが、中身はうまい栗(くり)まんじゅう」と言われた名講義。学校を恒久的に維持するため自らに資金の寄付を義務付けた「東京物理学校維持同盟」を作ったが、この名前に彼らの意気込みが感じられる。

日本の近代化は教育の成功により成し遂げられたが、大学でお雇い外国人から外国語の教科書で学んだ舶来の理学を日本語で普及させるため、日本語の教科書を作って若者たちに教える情熱と報恩の使命感には心が打たれる。坂の上の雲を目指し、教育に情熱を注いだ明治の理科学生の波瀾(はらん)万丈の人間ドラマを描く「物理学校」(馬場錬成著、中央公論新社)は、エピソードもふんだんで近代科学史としても面白い。

二十一世紀は知識の時代。知の大競争が始まっている。政府は知財人材を量も質も、十年間で倍増する計画を立てている。人材の育成には、明治の若き理学士に負けない情熱と使命感を持って取り組むことが必要だ。

■2006/03/31, 日経産業新聞, 34ページ

『自分主義』を超えて
『自分主義』を超えて『チーム・ビジネスマン』出版編集委員会 加藤 寛

産経新聞出版 2006-01-20
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◎東洋大助教授白石真澄氏――「『自分主義』を超えて」

「日本再生」へ34人の熱い思い

世に「改革論」は多いが、「『自分主義』を超えて」(「チーム・ビジネスマン」出版編集委員会著、産経新聞出版)とそれらの違いは何か。本書は官民のメンバー三十四人が「日本の再生」をテーマに勉強会を開き、成果をまとめたものである。

執筆にあたったコアメンバーのひとりは言う。「日本の危機解決に残された期間はわずか五年。日本は変わらねばならない。この強い想いを次世代に伝えたかった」

本書は人口減少、財政赤字の拡大、教育の荒廃など、日本の危機的現状をえぐりだし、日本を立て直す壮大な意図を示したものだ。日本を変えるには、個別課題ごとに対応する従来の手法ではもはや限界があり、利益誘導の「政治」、硬直化・肥大化する「官」、政府に依存する「民」の三者がトータルに痛みを分ち合うシステムをつくらねばならないと主張する。

具体的には「二十年後のあなたの生活はこうなる」と我々が直面する未来像を示している。そのうえで日本が目指すべき五つの国家像を掲げ、そのアプローチ方法を説いている。

教育の民営化、教員への多様な人材の登用、競争原理の導入など特に教育改革に対する提言はすばらしい。仕事の合間を縫って真剣にこうした議論をしている人たちが存在することを知り、日本はまだまだ捨てたものではないと感じた。

■2006/03/24, 日経産業新聞, 26ページ

韓国の構造改革
韓国の構造改革高安 雄一

NTT出版 2005-04
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◎デンソー会長岡部弘氏――「韓国の構造改革」

韓国経済の実態、データで説明

隣国でありながら、日本では韓国経済について正しく理解している人が少ないようだ。一つには近年のアジア経済の発展が中国を中心に論ぜられることが多く、もう一つにはとかくサムスン、LG、現代といった企業グループの躍進に目を奪われ、冷静にマクロ経済を分析した書物が見つけにくいという事情もあるのではないか。

韓国経済は一九九七年のアジア金融危機で大変な苦境に陥った。国際通貨基金(IMF)の厳しい勧告を受け、思い切った構造改革に取り組む。当分の間立ち直れないと見られながらも、結果的には二年ほどで成長路線に戻ることができた。その理由が「韓国の構造改革」(高安雄一著、NTT出版)によってよく理解できた。

著者は九九―二〇〇二年に在韓日本大使館一等書記官を務め、マクロ経済の調査・分析に直接携わった。その経験に基づき多くの統計データを駆使して構造改革の実態を説き明かす。

韓国の構造改革に対する評価は高く、現在日本が進めている構造改革の参考にすべきとの意見もあった。しかし、こうした改革には成功した部分もあれば失敗した部分もあり、幸運に恵まれた部分もあったことがうかがえる。これからのグローバルな経済競争に対応するには、国も企業も「敵を知り、己を知る」ことが大切である。当たり前だが、実態を正しく理解することの大切さを改めて実感した。

■2006/03/03, 日経産業新聞, 30ページ

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