メイン > 週刊ダイヤモンド『書林探索』 > 2008年4月5日~5月3日

現代の金融政策―理論と実際
現代の金融政策―理論と実際白川 方明

日本経済新聞出版社 2008-03
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star待望の金融政策理論書

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思考パターンも明らかになる新日銀総裁による本格的研究書

本書はこのたび、第三〇代日本銀行総裁に就任した白川方明氏による金融政策の本格的研究書である。京都大学大学院教授であった二〇〇六年七月からわずか一年半ばかりのあいだに書き上げられた。

本書はさまざまな関心から読むことができる。第一に金融政策を運営する立場から、その具体的な問題意識を率直に説明したものとなっている。とりわけ、中央銀行の独立性と説明責任、金融政策決定会合における意思決定、経済の現状判断に関する不確実性の問題など、学界の金融政策論ではあまり扱われない側面について興味深く書かれている。

第二に、バブル崩壊以後の金融政策運営のドキュメンタリーとして読むこともできる。〇一年三月の量的金融緩和政策の導入に向けて検討された問題点、デフレに対する危機意識とゼロ金利政策の評価、さらには一九八〇年代のバブル経済下での資産価格上昇と金融政策について日銀内でどのように判断をし、金融政策の新機軸を打ち出していったかが、臨場感をもって再現されている。

ここでの議論から著者の思考パターンが明らかになる。すなわち、まず歴史的経緯や国際比較、制度比較を通して問題の全体像をつかみ、そのうえで、各種統計や資料を使って現実認識をし、さらに政策論争を整理し、最も現実にふさわしい政策を選択していくという態度である。これは本書の中で著者が繰り返し強調している「学習を続ける組織」としての中央銀行のあり方とも重なる。

第三に、金融政策の立案に日銀スタッフの研究がいかに用いられているかを示すものとして読むこともできる。本書で引用されている文献の多くは日銀スタッフの手になるものであり、金融政策決定で用いられた資料のレベルを知ることができるだろう。

あえて研究書として注文をつけるとすれば、学界の主要文献を直接批判的に検討し、代替案まで理論的に提示してほしかった。

波乱含みの国際金融市場のなかで、日銀総裁の真価が問われる局面が続くだろうが、白川総裁の今後の活躍に期待するとともに、時宜を得た本書の出版を喜びたい。【評者 北村行伸 一橋大学経済研究所教授】

■2008/05/03, 週刊ダイヤモンド, 162ページ

限界自治夕張検証―女性記者が追った600日
限界自治夕張検証―女性記者が追った600日読売新聞北海道支社夕張支局

梧桐書院 2008-03
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star結局「つけ」は住民に返ってくる
star地元に密着し取材した、女性記者のドキュメント

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らつ腕市長の暴走が呼んだ夕張破綻 市民の目線で綴られる「死と再生」

夕張破綻のニュースは記憶になお新しい。夕張市は人口一万三〇〇〇人、北海道では人口の少ない順で三番目、全国の市町村と比べても中位くらいの規模でしかない。しかし「夕張」と聞けば誰であっても炭鉱の町、メロンの町、映画祭の町として思い出せる。夕張は、この規模の自治体としては、不思議なほど有名な町だった。それが突然、二〇〇六年六月財政再建団体への移行を発表する。なぜそんなことが? 本書はこの「事件」の真相に迫る、夕張の「死と再生」を綴ったドラマである。

本書は、この事件を追い続けた一新人記者の目線で語られる。全国一ヒマな支局と聞いていたはずが、じわじわと事の重大さに気づき、じわじわと事の真相に迫ってゆく。脅迫まがいの電話もくる。ベテラン記者だって平常心ではいられまいと思うが、「悪く言われる覚えはない。知った以上、報道するのが仕事だ」と突っぱねる。その若き根性で突き止めた真相は、驚くべきものであると同時に、なるほどありそうな話だ。

夕張が有名になったのは、六期二四年間夕張に君臨し続けたらつ腕市長によるところが大きい。しかし権力はいつか必ず暴走を始める。当時流行の第三セクターを乱用して、採算見込みの乏しい観光事業を次々打ち立てる。当然赤字になるわけだが、夕張の幹部はここで妙な財政処理をし始める。すなわち、次年度五月までの「出納整理期間」内なら前年度の赤字を処分できる制度に目をつけ、これに「一時借入金」を充て始める。

一時借入金は同年度内の返済が建前になっているから決算表への記載義務がない。そこで、恒常財源にしてはいけない一時借入金を毎年使って見えざる赤字補填を続け、いざ発覚してみれば財政再建団体への転落ラインをはるかに超えていた。その結果がまじめな公務員のリストラであり、一般市民への増税である。

本書にはしかし、こうした状況のなか再生へ向け努力を始めた多くの市民が描かれている。読ませどころもむしろこちらだろう。記者の目線もいつしか市民の目線に重なっている。全国の「らつ腕」首長よ、「夕張」を忘れるなかれ!【評者 井上義朗 中央大学商学部教授】

■2008/04/26, 週刊ダイヤモンド, 149ページ

後藤文夫―人格の統制から国家社会の統制へ (評伝・日本の経済思想)
後藤文夫―人格の統制から国家社会の統制へ (評伝・日本の経済思想)中村 宗悦

日本経済評論社 2008-03
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日本経済をいまなお制約する「新官僚」の代表格の統制思想

後藤文夫とは忘れ去られた名前だ。しかし、彼は、昭和初期、社会主義思想の広がり、農村の疲弊、都市の衛生などの問題を解決しようとして登場した「新官僚」の代表だった。彼の思想を考察することは、官が、市場主義の行き過ぎを是正すべきだと発言する今日なお十分な意義がある。

後藤は、内務官僚から政治家に転身し、昭和恐慌時に農相、二・二六事件の際には治安責任者の内相などを務めた。後藤は農本主義に基づく青年団活動を指導する。青年団は、立身出世主義ではなく、郷土に足を落ち着け、郷土を錦にしたいという青年の輩出を目的とした。しかし、後藤は、上京し立身出世に成功した人間である。

農相として、後藤は、昭和恐慌時の農村の疲弊に対して「経済更生計画」を考える。しかし、それは結局、金銭的支出を伴わない生産、生活に戻ろうというものにすぎなかった。ただし、それにしても多少の補助金は支出されたので、勤倹貯蓄をポーズとして、補助金や助成金を引き出そうと活躍する首長も現れてくる。

さらに後藤は、信用、販売、購買を共同して行なう産業組合を利用し、農家を糾合しようとした。これは中小商業者を排除する面を持ち、新官僚に対する反発をも生み出していく。全国五〇〇万人の産業組合員は農相の政治地盤となっているとの批判も招く。

今日、私たちは、補助金を引き出す地方の首長たちの活躍や、農協が政治勢力であること、その販売や購買がコスト高であることを知っている。今日の視点から後藤を一方的に断罪することは避けるべきだが、彼の政策は、結果としてはすべて失敗に終わっている。

後藤は、戦後、中国の自力更生運動を肯定的に評価している。彼の思想は統制主義である。中国とは異なり、日本には統制主義に反対する勢力があって、その思想は一部しか実現しなかった。このことが、戦後日本の経済発展をもたらしたが、後藤流の農本主義、国民運動主義、統制主義、官僚主導主義は、現在もなお強く生き残って、日本経済を制約している。忘れられた名前を冠した思想は、決して忘れられてはいないと思った。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2008/04/19, 週刊ダイヤモンド, 120ページ

シュンペーターの未来―マルクスとワルラスのはざまで
シュンペーターの未来―マルクスとワルラスのはざまでハインツ D.クルツ 中山 智香子

日本経済評論社 2008-02
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今も人気のシュンペーター 偉大な経済学者から何を学ぶか

日本にはなぜかシュンペーターのファンが多い。本誌の元編集長に至ってはシュンペーター好きが高じてウェブ上で連載までしている。最近では日本に限らず世界的にも彼の名声はますます高まるばかりである。昨年は米国でトーマス・マクロウによる『Prophet of Innovation』という詳細な伝記も出た。しかし昔の経済学者や古典を崇拝するだけならば、学問の進歩はない。何をどのように学ぶかが問われる。

本書のすばらしいところは、なによりもまずシュンペーターの業績に対して適度に批判的な視点を保っていることだ。著者はシュンペーターも一時いたことのあるグラーツ大学の教授。古典派研究で著名な経済学史家である。その著者がこれまで書いてきたものをまとめて訳したのが本書である。

短いながらも内容の濃い本であり、すらすら読めるというわけではない。しかし、最初の伝記部分は読みやすいしおもしろい。ドイツ語圏をはじめとして最新の研究成果が踏まえられていることもありがたい。たとえば企業者概念の重視はシュンペーターの独創ではなく伝統の発展であった。また、ワルラスの一般均衡理論を絶賛したシュンペーターには理論家としての「弱さ」もあった。

第二章はシュンペーターのトレードマークともいうべき革新の問題を考察する。著者は革新の理論化については、むしろアダム・スミスらの古典派にこそ学ぶべきものがあるという。ここは正直古典派をひいきするあまり、シュンペーターの魅力をとらえ損なっている感がある。とはいえ、誰でもよく知っている革新の定義を超えて実際に分析するのにどう古典を用いるかの見本を示してくれる。

最後の第三章は著者の欧州経済思想史学会における会長講演であり、経済思想史の意義を説く。著者によれば、経済思想史は新しいアイディア創出のための重要な源泉である。むしろ新しいアイディアとは過去のアイディアの新しい組み合わせではないかとさえいう。過去の偉大な経済学者とその思想にどう向き合っていくべきかについて、なかなか興味深い思索の種を与えてくれる本だ。【評者 若田部昌澄 早稲田大学政治経済学術院教授】

■2008/04/12, 週刊ダイヤモンド, 110ページ

戦後日本経済史 (新潮選書)
戦後日本経済史 (新潮選書)野口 悠紀雄

新潮社 2008-01
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おすすめ平均 star
star大蔵官僚からみた戦後経済
star「自分史」と重ね合わせた「1940年体制」の歴史
star戦後からバブル崩壊までを、、、この方は元大蔵官僚

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日本経済を窒息させている戦時体制が生んだ「官僚社会主義」

経産省の北畑隆生事務次官の「株主はバカで浮気で無責任」という発言は強い批判を浴びたが、これほど正直に官僚の本音を語った発言は貴重だ。彼らにとっては、会社は株主のものではなく経営者のものであり、そして経営者を指導する政府のものなのだ。

こうした官僚中心の統治機構は、発展途上国の「追いつき型近代化」のためのものだ。日本では明治憲法をつくったとき、プロイセンの行政法中心の制度を輸入したのが起源とされるが、銀行や経済団体まで含めた中央集権体制ができたのは、著者が「一九四〇年体制」と呼ぶ戦時体制のときだ。

「戦後改革」と思われている農地改革は、四二年に食管法ができたとき始まった。日銀は、四一年に日銀法で「国家経済総力ノ適切ナル発揮」のための機関とされ、これは九八年まで続いた。

GHQは日本経済をほとんど知らなかったので、占領統治に既存の官僚機構を使わざるをえなかった。官僚はその命令に従うように装い、軍や財閥は解体したが、霞が関は丸ごと残った。こうした「面従腹背」は、今も官僚が政治家を操るテクニックだ。

通産省では岸信介に連なる国家社会主義が主流となり、戦時体制の「統制会」は経団連と名を変え、戦時金融の中心だった興銀を頂点とするメインバンク・システムが日本経済を動かしてきた。

こうした「官僚社会主義」は、重化学工業には向いていた。そこでは戦時下と同じく目的は明確でリスクは小さく、資源を総動員することだけが問題だからだ。しかしそれは、八〇年代以降の情報・金融革命に対応できない。そこでは多様な企業の実験によるイノベーションと、そのリスクを分散する資本市場が必要だからだ。

バブル崩壊は、この産業構造を転換するチャンスだったが、官僚機構は景気対策や銀行救済など、莫大なコストを国民に押し付けて延命した。この結果、資本効率の低い企業が生き残り、日本経済を窒息させている。長期停滞を脱するには、資本主義のルールに従って古い企業を解体・再編するしかない。そのためには、著者の言う「資本開国」が不可欠だ。【評者 池田信夫 上武大学大学院教授】

■2008/04/05, 週刊ダイヤモンド, 155ページ

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