メイン > 週刊ダイヤモンド『書林探索』 > 2008年1月5日~3月29日

人類の議会 上―国際連合をめぐる大国の攻防 (1)
人類の議会 上―国際連合をめぐる大国の攻防 (1)ポール・ケネディ 古賀林 幸

日本経済新聞出版社 2007-10
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おすすめ平均 star
star国連は何を成して、何を成せなかったのか

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人類の議会―国際連合をめぐる大国の攻防 (下)
人類の議会―国際連合をめぐる大国の攻防 (下)ポール・ケネディ

日本経済新聞出版社 2007-10
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star国連、60年の活動、結果、そして今後の課題点

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失敗続く国連の平和維持介入 歴史家が示した問題解決の答え

本書は国際連合の誕生に至るまでの歴史、誕生してからの分野別の問題点、今後の展望などを歴史家の視点から描いた、大変興味深い著作である。

国際的な調停力や紛争抑止力を持った国際機関をつくろうという発想はヨーロッパ思想史上、繰り返し論じられてきた。それが具体化されたのが一九二〇年一月の国際連盟、その失敗を受けて四五年一〇月に設立された国際連合だ。人類史から見れば九〇年にも満たないこの試みの失敗の例は枚挙にいとまがなく、改善の余地があることは明白である。

現在の国際連合の中で圧倒的な存在感を持つのは安全保障理事会、なかでも常任理事国五ヵ国だ。実際にはこの五ヵ国も変更され、七一年には中華民国に代わり中華人民共和国が、九二年にはソ連がロシアに代わっている。非常任理事国も一一ヵ国から一五ヵ国に増加されている。変わらないのは常任理事国が特権的な拒否権を持っていることである。

日本政府が常任理事国を目指して画策していたのは、つい最近の二〇〇五年のことであり、北岡伸一著『国連の政治力学』(中公新書)では、そのただ中の日本政府の活動が描かれている。現実的な国際政治の問題としてはなにか特別な失敗が常任理事国内で起こらない限り、この特権を奪ったり、他国に拡大したりすることは難しいだろう。しかし、それに代わるべき安全保障のあり方や現状を超えるシステムの構想を発表していくことは必要である。

ソマリア、ルワンダ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アフガニスタンなど国家が崩壊して、容認しがたい暴力や、女性と子どもの権利の侵害、環境破壊が起こった際に、事前の国連介入による平和維持には失敗してきた。その他の開発、環境、文化、人権といった分野でも問題は山積しており、解決にはほど遠い状況にある。

とはいえ現状から判断する限り、国際連合の役割に意義を持たせ、この機能をより効率化しながら、地球規模の問題に人類が共同して取り組んでいくしかないというのが、著者の結論であり、評者もそれに賛同する。【評者 北村行伸 一橋大学経済研究所教授】

■2008/03/29, 週刊ダイヤモンド, 87ページ

サステイナビリティの経済学―人間の福祉と自然環境
サステイナビリティの経済学―人間の福祉と自然環境パーサ・ダスグプタ

岩波書店 2007-12
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経済学の現状を厳しく見つめ新たな枠組みを提示する書

新時代の経済学をはっきり予感させる内容の一書である。それは成長・効率から福祉・環境へという主題の変更においてでは無論なく、経済学の理論と方法において、さらには要求される知識の範囲において、経済学が新たな時代に突入したことを本書はなによりその内容でもって証明している。ただし、これは従来の経済学が無用になったことを少しも意味しない。本書は系譜としてはいわゆる「正統派」に属するものであって、それがつい最近まで「異端派」の主張とされていたものをごく自然に取り入れ、その理論的基礎を発展性あるものに強化している感じなのだ。正統派vs異端派という構図は、よくよく注意して使わない限り、今の経済学を見る目線としては、誤解に導く危険性が高い。

本書のテーマははっきりしている。展開もきわめてスピーディだ。「よい」経済、「悪い」経済の一般的定義は難しいが、経済がなんらかの方向へ変化するとき、それが「よい」方向か「悪い」方向かの判断はできなくてはなるまい。この判断をGNPだけで行なうことの限界は何度も指摘されてきたが、自然環境や生活環境の数値化は依然困難だ。もちろんグリーンGDPのような試みはあって、本書もこれを重視する。が、それでもまだ不十分だという。なぜ不十分か? そしていかなる指標を考えれば、福祉の向上を意味する「よい」経済変化を見つけ出すことができるか? 本書が追究するのはこの一点である。

しかしこれを行なうには、現代人の常識と倫理感を満足させうる水準にまで、経済学の思想と理論を成熟させなくてはならない。その最小限にして膨大なる枠組みを本書は示そうとする。それを支えるのが、正統・異端を問わずに動員される新しい経済学の数々である。さりげない文脈の中にゲーム理論、進化経済学、新制度論、経済倫理学などの知見がふんだんに散りばめられている。それらはすでに一体化した思考様式のようであり、あたかも本書の文体そのものが、新時代の経済学体系を例示しているかのようだ。経済学の現状を厳しく問い直しつつ、その新たな方向性を示した一書である。【評者 井上義朗 中央大学商学部教授】

■2008/03/22, 週刊ダイヤモンド, 73ページ

暴走する「世間」―世間のオキテを解析する (木星叢書)
暴走する「世間」―世間のオキテを解析する (木星叢書)佐藤 直樹

バジリコ 2008-01-19
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star人が集まりゃ世間ができる

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互酬関係としての「世間」で読み解くいじめ、ケータイ、都市

日本には「世間」しかなく、社会がないから個人もなく、したがって「強い個人」になれというのは、無理難題だと本書は主張する。強い個人を前提とした「自己責任論」も、うつ病や引きこもりや自殺が個人の心の弱さにあるという「心理主義」も誤りだとする。

最近の「空気を読め」論の「空気」とは、世間のことである。世間は個人を否定しながら、強い個人になれという。これは矛盾だ。悪いのは自分ではなく世間だと理解することが必要という。

では、世間とは何か。世間とは、地位身分にかかわる贈与・互酬関係であるという。この「世間論」によって、本書は、いじめ、うつ病、宗教、ケータイ、都市の風景、格差などを切っていく。

世間が地位身分にかかわる互酬関係であれば、日本に限らないという疑問が生じるが、本書はこれを宗教論で否定する。日本の宗教は、人間より上位である神様にお賽銭を差し上げてご利益を期待するのであるから、確かに地位身分にかかわる互酬関係である。ところが、キリスト教は互酬関係を否定したと説明する。

イエスは、宴会を催すなら、貧しい人、体の不自由な人を招くべきで、あなたは彼らから返礼を受ける代わりに天国に行けるという。キリスト教では、神に現世での互酬関係を期待するのは罪であり、その罪を教会で告解しなければならないとされた。そこから、世間と離れた個人が成立したという。

個人と個人の関係は安定的であるが、世間を介した関係は、常にお互いの互酬関係を確認しなければならないから不安定である。

若者のケータイの世界が、常にメールで返事をし合わなければならないという、極限までの互酬関係になっていることが、息苦しさを生み出すのだという。

西欧の都市景観を論じた部分も説得的である。日本と西欧の都市の違いは、無償の贈与という考え方から生まれたとする。日本では、狭い世間を離れたところでは無頓着である。それは、世間があって個人も社会もないからだという。

日本特殊論に過ぎるのではないかと感じる部分もあるが、事実の観察に基づく議論は魅力的だ。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2008/03/15, 週刊ダイヤモンド, 90ページ

経済の法則とは何か―マーシャルと現代
経済の法則とは何か―マーシャルと現代ジョン・サットン

麗澤大学出版会 2007-10
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「潮」のような経済の法則 経済モデルへの深い考察

最近、深夜の都内でタクシーに乗って驚いたことがある。乗客を待つタクシーの行列がまるで蛇がとぐろを巻くがごとく、各地で延々と見られたことだ。

経済学を学んだ人ならばこの現象をどう解釈するか。いちばん簡単で、この場合は真実にも近いのは、料金の値上げだろう。ここまでは普通の簡単な需要供給モデルでいい。では、いっそ価格設定も規制緩和して自由に設定するようにしたらどうか。需要と供給が一致して、一件落着だろうか。

そう簡単ではない。本書が紹介する米国カリフォルニア州はサンディエゴで行なわれた例では問題はさらに複雑になった。料金体系についての情報をよく知る消費者と、観光客のようにそうでない消費者が存在するかの地では、価格体系は二つになったのである。

現実が複雑なのは言うまでもない。それを理解するための手段がモデルである。そして決定的に重要なのはどのモデルをどう使うかである。こうした疑問の解決を、データによって求めてもうまくいかないときがある。

悩ましい問題だ。しかしこれは経済学ではかなり以前から知られていた。本書の原題を「マーシャルの傾向」という。英国の大経済学者アルフレッド・マーシャルは、経済の法則は物理学のそれのように精密なものではなく、もっと大ざっぱな傾向として考えるべきと示唆した。言うならば万有引力ではなく、潮の干満のようなものであると。

ここからヒントを得た著者は、現代の経済学ではモデルとノイズをセットで考える標準パラダイムが主流となっているという。標準パラダイムはうまくいくときはすばらしいが、難しいのは「真のモデル」が事前にわからないので、モデルをノイズから区別するのは難しいということだ。

産業組織論の分野で高名な著者の議論に、奇をてらったところはない。著者の主張と提案を深く理解するにはやや根気が必要だが、科学史上の小話も交えた本書からは著者の教養の深さを感じる。経済学に限らず、モデルについて少し深く考えてみたい人に打ってつけの好著だ。【評者 若田部昌澄 早稲田大学政治経済学術院教授】

■2008/03/08, 週刊ダイヤモンド, 119ページ

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか
まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのかナシーム・ニコラス・タレブ 望月 衛

ダイヤモンド社 2008-02-01
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おすすめ平均 star
star確率論からポストモダンまで幅広い領域を網羅している
starトレードがわかる本
starたぶん忍耐が必要な本なんでしょうね

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もてはやされるまぐれ当たり 市場の謎を解くのは「心理」

経済学では、株式市場の情報はすべて株価に織り込まれているので、市場に勝つことはできないと教える。では年率八〇%以上の収益率を上げるファンドは、なにか魔法でも使っているのだろうか?

著者は、それはただの「まぐれ」だという。そういう天才投資家をつくるのは簡単だ。架空のファンドマネジャー一万人をコンピュータの中につくり、最初の年に半分が一万ドル儲け、半分が一万ドル損をして退出する……というシミュレーションを繰り返すと、五年目には三一三人が五年連続で合計五万ドル儲ける。

しかしメディアは彼らを賞賛し、その投資術を書いた本がベストセラーになるかもしれない。こういう錯覚を「生存バイアス」と呼ぶ。負けた人びとが目に入らないため、まぐれ当たりの成功者の結果論がもてはやされるのだ。

一〇年ほど前、人びとは「金融工学」を使えば確実に儲かると信じ、ノーベル賞受賞者を擁したファンド、LTCMは莫大な資金を集めたが、世界的な金融危機で破綻した。普通の確率論では、この暴落の幅は「標準偏差の一〇倍」で、数百億年に一回しか起こらないはずだった。それは市場の出来事が正規分布に従うと仮定しているからだが、実際の相場の動きは正規分布とはほど遠い。

著者は、このように人びとの行動を確率という人工的な概念で理解することによる失敗例を挙げ、市場をメカニカルにとらえる経済学を嘲笑する。経済学は、ニュートン力学の厳密性にあこがれてそれをまねたが、結果的には穴だらけの、ほとんど占いと変わらないものとなってしまった。

彼は、経済学はこういうインチキな理論を忘れ、ハイエクから出直すべきだという。人間の行動を決めるのは物理ではなく心理であり、それは不完全な情報と不合理な感情に動かされるものだ、という当たり前の事実を認めることから出発するしか、経済学が役に立つ学問になる道はないだろう。

こうした著者の主張は、新著『Black Swan』でさらに先鋭に展開され、昨年のアマゾン・ドットコムのベストセラー第一位になった。こちらも一読をお勧めする。【評者 池田信夫 上武大学大学院教授】

■2008/03/01, 週刊ダイヤモンド, 89ページ

最強の経済学者ミルトン・フリードマン
最強の経済学者ミルトン・フリードマンラニー・エーベンシュタイン 大野 一

日経BP社 2008-01-17
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おすすめ平均 star
star20世紀を代表する思想家の1人
starちょっと美化しすぎではあるけど

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粘り強い実証研究と政策提言 真理求めるフリードマンの迫力

本書はシカゴ大学を世界の経済学の中心に引き上げたミルトン・フリードマンの伝記である。現役の経済学者としては、学生の教育をどうすればよいのか、経済学の実証研究はどうあるべきか、政策提言が実際に採用されるためにはどうすればよいのかなど、きわめて示唆に富むエピソードが盛られており、おもしろかった。

とりわけ次の二点は重要である。まず、フリードマンの主著『消費の経済理論』『合衆国の貨幣史』では実証的・数量的・統計学的なアプローチに基づいて、地道に統計分析を行ないながら、経済学上の重要な概念、すなわち恒常所得と一時的所得の区別や、貨幣集計量としてM1やM2を定義し、マネーサプライが景気やインフレに与える影響の大きさを発見している。

現在、経済学がますます数学的になるに従い、逆に統計データを丹念に調べて新しい概念や理論の構築を行なうということが少なくなり、ウィクセル、ケインズ、ピグー、マーシャル、フリードマンら先達が導入した概念を精緻化し、再解釈することに精力が傾けられているといっても過言ではない。本書は統計資料に基づく実証研究の原点に戻ることの大切さを痛感させてくれた。

次に、フリードマンの政策提言が多岐にわたっていることである。それは専門分野の金融政策に限定されたものではない。政府の干渉が問題を起こしているとフリードマンが考えた分野については、躊躇なく規制緩和・政策廃止を提言している。これには、変動相場制度の導入や徴兵制廃止など、最終的に実現したものも含まれている。この粘り強さにも感銘を受けた。

現代はフリードマンの時代よりはるかに社会経済が複雑化しており、経済問題の解決も容易ではない。彼の主張した政策が効果を上げなかったこともあり、予測がはずれたことも少なからずある。しかし、フリードマンの「実証的経済学の方法論」はポパーの科学方法論に基づき、漸近的に真理に迫っていくほかないというものであり、自分の間違いを潔く認めることもしている。現在の保守的な経済学者よりはるかに進歩的であることも印象的である。【評者 北村行伸 一橋大学経済研究所教授】

■2008/02/23, 週刊ダイヤモンド, 104ページ

金融機関のカモにならない! おカネの練習問題50
金融機関のカモにならない!  おカネの練習問題50吉本 佳生

光文社 2007-11-22
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おすすめ平均 star
starお金は人任せにしてはいけないということ。

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金融商品にだまされるな!
金融商品にだまされるな!吉本 佳生

ダイヤモンド社 2007-11-09
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おすすめ平均 star
starオプションなどを活用した、昨今の金融商品の裏を説く

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求められる本当の金融リテラシー カモにならないための「計算と論理」

最初に白状しよう。金融機関で商品を作り、売る仕事に従事していた数年前、本書で紹介されている参考文献の何冊かをまとめ読みしたことがある。カモを捕まえるため、カモにならないためにである。幸い、売り込み先の多くは一般投資家ではなく、同業他社や社内だったが、それでも人を騙そうと企んでいたことに変わりはない。逆に、うかうかしていると、こちらが騙される。実際、あの手この手を弄して近づいてくる輩もいた。金融の世界とはそんなところだ。

近年、「貯蓄から投資へ」の号令の下、金融リテラシーの向上や学校における投資教育の必要性が叫ばれてきた。ではいったい金融リテラシーとは何か。それは、儲けるためのノウハウでもなければ、豊かな老後を送るためにはリスクがあっても高いリターンの商品に投資すべきだといった心構えでもない。まさに本書が説くとおり「計算と論理」なのである。投資教育を標榜する各種のセミナーでは、この「計算と論理」がなおざりにされているのが実情だ。

本書はクイズ形式なので、とても読みやすい。しかも、単なる計算問題の本ではない。たとえば、三月と四月で金融機関が勧める商品がなぜ異なるのかといったことも種明かしをしてくれる。もっとも、本書に登場する数式などは中学校レベルなのでさほど難解なものではないし、この程度の数式で頭を抱えてしまうようでは、厳しいようだが著者も言うとおり、無理に資産運用などしないほうがいいだろう。

なお、リバランス(資産配分比率の調整)に関する記述は損切りの推奨とも受け取られかねず、いささか異論はあるのだが、金融機関が勧めるリバランスはファンドの乗り換え勧誘であることがほとんどだ。読者は本書が説くように「金融機関側に都合のいいアドバイス」と覚えておくほうが無難だろう。

本書だけでも金融機関の甘言に対する免疫は十分にできると思われるが、個別の金融商品についてもう少し詳しく知りたい向きには、著者の『金融商品にだまされるな!』(ダイヤモンド社)を併読することをお勧めしたい。【評者 服部哲也 マイベンチマーク取締役】

■2008/02/16, 週刊ダイヤモンド, 90ページ

医学と利益相反―アメリカから学ぶ
医学と利益相反―アメリカから学ぶ三瀬 朋子

弘文堂 2007-12-20
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医療の現場の利益相反問題 米国の先例“から”学んだ研究成果

産学連携や大学発ベンチャーがますます盛んになるなか、研究者の中立性と倫理性にもかつて以上の厳しさが求められている。特に医学が関係する場合、医師が自身の利益を優先して不適切な投薬を行なったりすれば、それは即患者の生命を脅かす問題となる。

本書はこうした医学をめぐる利益相反問題について、新進気鋭の研究者が米国の先例を広く深く分析した研究成果である。ただし、本書はお定まりの米国先進主義を称えるものではない。米国の問題点にも等分の目配りをして、あくまでも先例として米国を見ている。本書の副題が、類書に多い「アメリカに学ぶ」ではなく、「アメリカから学ぶ」となっているのも印象的である。その確かな問題意識にまず共感を覚える。

本書は、ある医師が自ら設立したバイオ関連企業の利益を優先するあまり、患者を死に至らしめたゲルシンガー事件の分析から始める。医師が連携企業の株を所有するなどは利益相反を予定するに等しい行為にも思われるが、米国ではバイオ技術の発展を考慮してか、法的にはこれを禁じていない。

では、そのことを患者に伝えるのはインフォームド・コンセントに含まれるかといえば、これも法的には連邦法でも州法でも義務化はしていない。しかし、ムーア判決といわれる判例ではこれを当然の義務とし、米国医師会の倫理規定もこれを踏襲し、同時に株式所有もはっきり禁止しているという。

普通の本であれば、ここで法と倫理の背理を突くという論法に出るのだろうが、本書はこれを、法的介入の脅威を背景に倫理の効力がむしろ強化された例として評価している。これは決して逆説を好むからではなく、著者があくまで、患者の健康を「結果的に」守る思考に徹していることの表れだと思う。だから、医師が利害関係を患者に伝え、そのうえで同意を取ればそれで十分かといえば、著者はこれに対して懐疑的である。評者もこの点、同感である。

半ば研究書であるためか表現が時に硬く、文章に少々繰り返しの多い部分もあるが、テーマの大きさに気後れを見せない、なにか颯爽とした印象を与える一書である。 *本の価格はすべて本体価格です。【評者 井上義朗 中央大学商学部教授】

■2008/02/09, 週刊ダイヤモンド, 91ページ

若者を見殺しにする国―私を戦争に向かわせるものは何か
若者を見殺しにする国―私を戦争に向かわせるものは何か赤木 智弘

双風舎 2007-10-25
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おすすめ平均 star
star本の引用や要約する前に自分のこと書いてよ
star説得力のある「恨みごと」だが、展開がまずいところも
star若者を敵視する国日本

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ロストジェネレーションの評論集 にじむ苦悩、ほとばしる情熱

「『丸山眞男』をひっぱたきたい」という論文で話題を呼んだ著者の評論集である。三十代フリーターの著者は、この苦しい生活が続くのなら、国民全員が苦しむ平等が望ましい。戦争による徴兵は、丸山にとっては不幸なことであったが、丸山をいじめた兵隊にとっては、東大卒のエリートをひっぱたけるチャンスだった。戦争は、現状をひっくり返せる希望の光だと書き、左派の論客からの多くの反論を呼び寄せた。

本書の特徴は、怨恨の表出を恐れない偽悪的態度と、真実を探求し、出来合いの言論の偽りを暴露したいという情熱に満ちていることだ。通常、怨恨の表出は品のないことで、活字にするべきではないとされている。しかし、私は、山本七平などの著作から、怨恨や嫉妬が人間を動かし、歴史を変えることを学んだ。それが事実である限り、書いていけないことはなにもない。

左右両派の革命運動にも、怨恨の感情は大きな役割を果たしてきた。毛沢東はそのような感情を操る天才であったろうし、日本において左右両派とも、そのような感情を操ってきた。文化大革命とは、中国民衆にとって、まさに丸山眞男をひっぱたいた経験だったろう。それらの事実に目をつぶり、怨恨の表出を責めても仕方がない。

著者の言論は、左派からの反発を買ったが、右派から歓迎されたわけではない。

右翼思想とは過去を美化するものだが、美化されるべき過去を著者は否定する。若者が劣化しているという議論は、若者を貧困に貶めるためのデタラメだという。少年犯罪は増えていない。教育勅語が出回っていた当時の子どもは、女の子なら親の借金のかたに売り払われていた。戦前、銃後の女性たちは、慰問袋を自分で作らず、三越で買っていた。道徳をいう人間に限ってまったく道徳的でないという。これらの主張は、事実に即しており、説得的である。

言論とは娯楽である。人びとは自分が読みたい「真実」を読みたがる。本書には、人びとが読みたい「真実」はないが、偏ったものであれ、若者の苦悩と真実が描かれている。 *本の価格はすべて本体価格です。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2008/02/02, 週刊ダイヤモンド, 90ページ

戦争の経済学
戦争の経済学ポール・ポースト 山形浩生

バジリコ 2007-10-30
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おすすめ平均 star
star左脳の意見、右脳の意見
star戦争って儲からない…

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経済学の分析道具で解く戦争 格好の副読本が見抜く問題

魅力的な題名だ。そのせいか本書はよく売れている。人気の背景には、イラクをはじめとする戦争への関心の高まりがあるのかもしれない。本書はそういう時事問題に対して直接解説を試みたものではない。しかし、結局のところ本書は時事問題へのいわゆる解説よりも深い洞察を与えてくれる。

まずなによりもこれは戦争の「経済学」だ。著者は教科書に出てくるようなごく基本的な経済学の分析用具を用いて、戦争の資金、兵員・兵器の調達について簡潔な説明を行なう。戦争遂行にも軍の編成にも資源=リソースの制約が重要になる。ただし、政府は各種リソースの調達にも特殊な手段(徴税、通貨発行益、徴兵制)を持っているし、市場構造も異なる。分析には奇をてらったところはなく、本書は経済学入門の格好の副読本として読むことができる。

経済学の分析用具を用いると、時事問題についても通常の解説とは異なる視点を得られる。たとえば民間軍事会社は従来の傭兵と変わるところがなく、また効率的である。ただし、軍で訓練された兵士が高給で引き抜かれるといった問題はある。さらに、これは本書を学べば元次官夫婦の逮捕で耳目を集めているわが国の防衛省接待疑惑もその背景がよくわかる。兵器調達は自然と買い手独占になりやすいし、価格よりも性能に力点が置かれがちだ。また契約が長期に及ぶため、契約を取得することが重要になる。こういう場合、企業にはなんとかして契約を取りたいという強烈なインセンティブが生まれるだろう。

さらに本書は戦争を通して見た現代世界史入門でもある。発展途上国の発展を妨げている要因として内戦の問題があるのは周知の事実だ。また、テロリズムそして大量破壊兵器の拡散も喫緊の課題である。ここでの議論は、前半ほど明快ではない。しかし経済学を用いることで問題の焦点が明らかになっている。全体として経済学の力を感じさせる良著である。

翻訳は読みやすく、訳者による付録・解説も有益である。ただ、ティモシー・マクヴェイとユナボマーを同一視した個所は原著の間違いが残っているのだろう。【評者 若田部昌澄 早稲田大学政治経済学術院教授】

■2008/01/26, 週刊ダイヤモンド, 84ページ

ケインズの思想―不確実性の倫理と貨幣・資本政策
ケインズの思想―不確実性の倫理と貨幣・資本政策小畑 二郎

慶應義塾大学出版会 2007-10
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star及第点です

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「不確実性の思想」として二一世紀に甦るケインズ

ケインズといえば、学問的にも政策的にも葬られた前代の遺物という印象が強いが、否定されたのは政府が財政支出によって有効需要を増やす政策や、IS―LM図式などの均衡理論的な解釈だ。本書は、それはケインズの思想の本質をとらえていないと批判する。

『雇用・利子および貨幣の一般理論』の翌年、そのエッセンスをまとめた論文で、ケインズは均衡理論的な解釈を強く否定し、理論の本質は「不確実性」にあると主張した。彼が資本主義のエンジンと考えたのは、企業家が不確実な未来に挑む「アニマルスピリッツ」であり、それに対して不確実性を嫌う人びとが収益を生まない貨幣を保有する「流動性選好」があるため、投資資金が十分供給されないことが不況をもたらすという。

これは古典派の理論では理解しにくい。均衡理論では、こうした食い違いは資金市場の均衡で調整されるからだ。しかしケインズは、それは不確実性を無視するものだという。未来の見通しの違いを調整するメカニズムは存在しないので、臆病な金利生活者が投資を停滞させるのだ。

このような心理ゲームとして金融市場を描くケインズの議論は、一九三〇年代には不可解だったが、今日では斬新に見える。市場の値動きを合理的に計算する金融工学は、最近のサブプライムローン問題のようなパニックを説明できず、感情的行動を重視する「行動ファイナンス」が注目されている。

本書は、こうしたケインズの思想の出発点を二一年の『確率論』に求める。そこで彼は、確率を単なる頻度と考える客観的確率論を批判し、主観的確率論の先駆となった。企業の利潤の源泉は、不確実な未来に挑戦する創造性にあり、人びとの「効用」を集計して最大化する古典派の功利主義的な計算はフィクションにすぎない。

こうした企業観は、同じ年に「リスク」と「不確実性」を区別して企業の本質を後者に求めたフランク・ナイトや、企業家精神による「創造性破壊」を資本主義の本質としたシュンペーターにも通じる。それは現在の日本が長期衰退を避けるためにも、最も必要なものではないか。【評者 池田信夫 上武大学大学院教授】

■2008/01/19, 週刊ダイヤモンド, 85ページ

普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓
普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓岩村 暢子

新潮社 2007-10
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star著者の方はさぞかし素晴らしく手の込んだ御節をお作りになっているのでしょうね
starおせち料理の本来の意味。
star具体的な事象の裏にあるもの

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食卓リサーチから垣間見える自己中心的“普通の家族”の恐怖

本書は日本の家族の食卓を追っては、その激変ぶりを報告してきた岩村暢子氏の著書第三弾である。今回はクリスマスと正月の食卓はどうなっているのかを、二回の調査とインタビューを通してまとめ上げたものである。

本書の結果は前著『〈現代家族〉の誕生』(勁草書房)と密接に結び付いている。前著では正月の「御節」料理というものは、大半の家庭にとっては戦後、テレビや雑誌、デパートを通して普及してきたものであり、今三十~四十代の母親たちの母親世代も必ずしもその親から教えられたものではないことが明らかにされていた。本書では、今の母親たちが、いかに「御節」料理を継承することを放棄し、彼女たちの親に任せてしまうか、あるいはデパートやホテルで調達してくるようになったかを詳しく報告している。親が強制せず、元日から一般店も営業を始めるようになれば、それほど根の深い伝統でもない「御節」など顧みられなくなることは目に見えている。

逆に、祖母世代、すなわち昭和三〇年代に青春~新婚時代を過ごした人たちにとって、クリスマスはケーキを買って家族で食べるくらいのものであったのとは対照的に、今の母親たちはバブル経済のなかで、クリスマスディナーに高級レストランに行き、ホテルでパーティを開き、高価なプレゼントを彼氏からもらったなどの経験から、クリスマスは特別に盛り上がるようである。もちろん、これもバブル崩壊後の低成長期の次世代の若者にとっては、意味を持たないイベントであって、将来様変わりするかもしれない。

このように見てくると、食を通した伝統が本当に根づくためには、本質的なところで宗教や生活様式などと結び付いていなければ無理なように思えてくる。むしろ調査の端々に見受けられる普通の家族が、自己中心的になり、自分の言っていることとやっていることのあいだの齟齬にまったく気づかないほど心理的に崩壊しているという事実のほうが怖い。それは石川結貴著『モンスターマザー』(光文社)でも明らかにされている。こちらも併せて読まれると、その恐怖感はいっそう増すだろう。【評者 北村行伸 一橋大学経済研究所教授】

■2008/01/12, 週刊ダイヤモンド, 72ページ,

イギリス経済再生の真実―なにが15年景気を生み出したのか
イギリス経済再生の真実―なにが15年景気を生み出したのか日本経済新聞社

日本経済新聞出版社 2007-11
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star英国の特異なポジションの再確認(大雑把な「つかみ」としては有効)

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海外マネーを引き寄せる英国 「ズルズル」ではない独自の進化

英国が生んだ二〇世紀最大の経済学者J.M.ケインズは、英国が金融資産大国と化したことが、英国経済弱体化の原因であると説いた。ところが現在の英国は、まさしくその金融経済をテコにして、一五年景気ともいわれる好況を維持している。その背景には何があるのか。本書はその要因を的確に整理しながら、同時に英国金融界の第一線で活躍する人びとを数多く取材し、その生の声を通じて、英国経済の活況が伝わるよう工夫されている。

本書によれば、英国金融市場の運用資産は年に約八〇〇兆円、四分の一が海外マネーで、上場企業の約半分は外資所有である。雇用の約二割、さらには法人税収入の約四分の一が金融関連で占められ、いまや金融利益はそのまま英国の国益といってもよい。したがって金融の不利益になるような政策変更は行なわれまいという安心感が広がって、さらに多くの海外マネーを引き寄せている。いわゆるウィンブルドン現象を逆手に取っての成功といえるだろうが、むしろそこに見えるのは、伝統にぎりぎりまでこだわりながら、いったん腹をくくると爆発的な変化を遂げてみせる英国流進化の典型的な姿かもしれない。英国漸進主義をズルズル主義として語ることの誤りを、英国の経済が示している。

蛇足ながら評者は、メージャー首相という存在が前から少し気になっている。存在感のすこぶる薄い首相だが、一五年景気という理解が正しいとすれば、その開始はメージャー政権期になる。しかも本書が掲げているジニ係数(格差指数)のグラフ(二二九ページ)がじつに興味深く、英国の格差はサッチャー時代に急激に悪化し、メージャー政権になった途端に安定し、その後わずかに格差縮小の傾向すら見せ、ブレア時代初期に少しまた悪化して、以後小刻みな変動を繰り返している。つまりメージャー期に特徴的な動きがいくつかあるわけだが、これをどう理解するべきか。これは今後の一つのテーマになるかもしれない。

このほかにも、本書は英国経済の骨格数値を多数載せている。英国経済入門として一般読者や学生に広く薦められる一書である。【評者 井上義朗 中央大学商学部教授】

■2008/01/05, 週刊ダイヤモンド, 150ページ

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