メイン > 日経ビジネス書評 『新刊の森』 > 2007年6月18日~7月2日

平等社会フィンランドが育む未来型学力
平等社会フィンランドが育む未来型学力ヘイッキ・マキパー

明石書店 2007-05
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【評者 東京都杉並区立和田中学校校長 藤原和博】

本誌5月28日号の特集「本当の教育再生」では、私自身も取材を受けたが、終盤のフィンランド現地ルポが衝撃だった。29歳の若さで改革を担当した元教育相は、「地域のことは自治体が、子供のことは先生がよく分かっている。理想の教育は子供たちとの対話の中からしか生まれない」と、徹底した権限委譲を推進する。現場の自由を保証し、校長は自治体が、教師は校長が選ぶ。教科書検定もない。

フィンランドは、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)で数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシー、問題解決能力の4領域とも好成績を収め続ける注目株。本書は、その秘密を、東京に暮らすフィンランドセンター所長がまとめたものだ。

PISA調査については、日本の子供の順位が下がったものだから「学力低下」の証拠として随分マスコミに騒がれた。普通に考えれば、豊かになったおかげで勤勉さを失い、子供も昔のように勉強しなくなったから日本では学力が下がり、フィンランドはその反対で、よく働き、よく勉強しているからだと推理できる。

ところが、フィンランドの学校の年間授業日数は日本より少ない。7歳から14歳までの総授業時間数の国際比較データでは、27カ国中で最短。授業の中身もテーマ学習を中心とした「総合」っぽいものが多いし、塾での勉強や多量の宿題で補っているわけでもないらしい。

はて、不思議だ。だとすれば、日本でこの数年散々批判された「ゆとり教育」が功を奏していることになる。

秘密のカギは、本書のタイトルが示す「未来型学力」にある。フィンランドが育てようとしているのは、自立して行動し未来に貢献できる人間だ。正解が1つではない成熟社会に特有の状況下で「納得解」を導く力。だから、ゆとりある時間の中で、現場の裁量で経験学習を重視し、考える力を育む。PISAで問われるのもこの力だ。

典型的な問題はこんな感じだ。「塀などの公共物にアートするのは犯罪か、それとも野外広告同様に許される行為か。意見を述べよ」――。読者ならどう答えるか?

日本の教育の混乱は、育てる人材の軸を決め切れていないことにある。「未来型学力」に合わせたカリキュラムを組んだはずなのに、いまだに「旧来型学力」の尺度で業績を判断しようとする。「フィンランドでは教師はみな大学院卒らしい。だから日本も」という表面だけの真似はやめ、本質をいま一度議論するために有効な1冊。

■2007/07/02, 日経ビジネス, 109ページ

教育工場の子どもたち
教育工場の子どもたち鎌田 慧

岩波書店 2007-04
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1980年代、「非行防止」「学力向上」の目的で、生徒の生活と行動を厳しく指導、監視する管理教育が行われた。本書は管理教育が最も徹底していた83年に書かれたルポ。教育のあり方が大きく変容する現在、「黙示録」として新書で刊行した。

管理教育の象徴とされた愛知県、千葉県の公立学校を取材。知識を詰め込み、髪形や服装、持ち物を細かく指導し、挨拶、時間厳守などの規律を厳しく徹底する実態を描く。子どもの自主性や個性を認めず、規格に合った子どもばかりを送り出そうとする様子は、まるで「教育工場」だと表現する。

著者は今また、教育の再生を名目に統制が強化されようとしていることに危機感を示す。「教育をいじって、子どもたちの未来を閉ざすな」と訴える。

■2007/07/02, 日経ビジネス, 109ページ

中国という大難
中国という大難富坂 聰

新潮社 2007-04-27
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飛躍的な経済発展を遂げる陰で、様々な問題を抱える中国。深刻な環境汚染、貧富の差の拡大、汚職の蔓延など、現在の中国のありのままの姿を描く。「文芸春秋」での短期集中連載を加筆修正した。

経済成長のブレーキとなり得る問題の1つが水資源である。中国では工場廃水、生活排水による水汚染が進み、淡水の60%が重度の汚染に見舞われ、きれいな水は5%しかないとされる。そもそも、中国は降雨量が少なく、細い河川も不足していることから、水の供給量自体が足りない。北京、天津など水不足の北部都市では、地下水に依存している。地下水の汲み上げによる地盤沈下で、マンションの2階が出入り口になってしまった例もあるという。

都市部の経済成長が脚光を浴びる中国だが、実態は依然として農業国で、農業人口は9億人を上回る。農民はごく一部の富農を除き、社会保障から置き去りにされ、生きるための苦闘を続けている。「日本人の妻」になるために海を渡ってくる中国人女性はこうした貧しい農村出身だ。13億人市場を抱えるビジネスチャンスにあふれた国というイメージは幻想だと指摘する。

中国における様々な問題は、日本にとっても“大難”となって直接的な影響を及ぼし得ることを示す。

■2007/07/02, 日経ビジネス, 110ページ

セミプロ農業が日本を救う―成熟化社会を先導する「農」の新たな役割
セミプロ農業が日本を救う―成熟化社会を先導する「農」の新たな役割大澤 信一

東洋経済新報社 2007-04
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日本の農業再生策を提言する。現在、改革案として農業経営の規模拡大や株式会社の参入による効率化・合理化などが議論されている。著者は、この流れに賛同しつつも、これだけでは日本の農業は再生しないと指摘。「セミプロ農業」の育成と定着を主張する。

セミプロ農業の担い手として、団塊世代を想定する。団塊世代は「農」や「食」に関心を持つ人が多く、趣味の農業への潜在的なニーズが高い。定年退職後、自由になった時間でレジャー農業を楽しむようになれば、やがて初心者から中級者にステップアップしていくと考えられる。

一方で最近、農作物流通の分野では「地産地消型」の直売所が消費者の支持を集め、台頭してきている。こうした直売所は、セミプロとなった定年就農者の販売チャネルとなり得る。著者はレジャー農業から意欲、能力、技術を向上させるセミプロ農家へのステップアッププログラム作成、セミプロ農家の自由な農産物販売を認める政策などにより、農業構造改革が動き出すと予想する。成功事例として群馬県JA甘楽富岡を取り上げ、セミプロ農業創出の具体的方法を探る。

食料自給率、人口減少・高齢化、国際競争力などを考察しながら、日本の農業の中長期ビジョンを問う。

■2007/07/02, 日経ビジネス, 110ページ

デットIR入門―企業の資金調達と情報開示
デットIR入門―企業の資金調達と情報開示デットIR研究会

銀行研修社 2007-04
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デット(債務)IRとは、資金の借り手である企業などが、資金の出し手である銀行、機関投資家などに対して行うIR(投資家向け広報)活動を言う。本書はデットIRの意義と効果、重要性が高まっている背景、具体的な取り組みなどを解説する。

1990年代以降、企業の資金調達環境は変化した。現在では銀行からの融資だけでなく、シンジケートローン、社債などへと資金調達チャネルが複線化している。情報開示も、相対融資における1対1の関係から、企業と複数債権者、または不特定多数という1対多の関係を意識する必要がある。

将来の事業見通し、財務戦略などの情報の開示に関しては、デットIRと通常の株主に対するIR(エクイティIR)、とで重複する内容もある。デットIRで重点が置かれるのは、借入金を計画通りに確実に返済する現金を準備できることのアピール。キャッシュフロー生成能力を裏づける収益・コスト計画、現在の収益を前提とした債務の償還年限、債務総額に対する資本の割合などの情報が求められる。

対象となるデットの性質、債権者の種別によって、IRの手法や内容も工夫が必要と指摘。社債、シンジケートローンなどにおけるデットIRのあり方を説明する

■2007/07/02, 日経ビジネス, 110ページ

モバイルSEM―ケータイ・ビジネスの最先端マーケティング手法
モバイルSEM―ケータイ・ビジネスの最先端マーケティング手法中橋 義博

ダイヤモンド社 2007-02-17
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「モバイルSEM」とは、携帯電話からインターネットにアクセスする利用者を狙った広告戦略の1つである。携帯電話によるネット利用者数は、2005年末の時点でパソコンからの利用者数を上回っているが、広告市場における企業間の競争はまだ激しくないと著者は指摘する。本書では主にSEM(検索エンジン・マーケティング)、すなわち「キーワード検索に広告を連動させる手法」を解説する。

著者は、「自社のサイトを検索結果の上位に表示させる戦略」は有効ではないとし、検索結果画面に直接広告を表示する「リスティング広告」に力を注ぐべきと言う。さらにモバイル・ネットユーザーの特徴や、パソコンのネット広告との比較、モバイルSEM導入事例などを示す。

■2007/06/25, 日経ビジネス, 111ページ

バイアウト―企業買収
バイアウト―企業買収幸田 真音

文藝春秋 2007-05
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おすすめ平均 star
star金儲けは悪い事ですか?

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ファンドや新興企業による買収合戦を舞台に設定し、企業価値の測り方や、会社の存在意義そのものを問う。市場に参加する個人が増える中、「金融力」の重要性を訴える。

──ライブドアや村上ファンドの騒動で、日本の一般の方々もM&A(企業の合併・買収)を身近に感じるようになりました。

1980年代、米系証券会社に勤務していた頃、ニューヨークの本社で企業買収について学ぶ機会を得ました。その時、企業が商品のように売買される様子や、先端的な買収手法、高度な資金調達の手段などに触れ、驚かされたものでした。

約20年を経て、日本でも同様の騒ぎが起きています。そもそもM&Aについては用語も難しく、一般の方には敷居が高く、分かりにくい分野でもあります。しかし、ライブドアなどの一連の報道で、関心が非常に高まっています。

今や、自分が勤める会社がいつ、どんな形で、どんな相手からM&Aを仕掛けられるか分からない時代になりました。そこで、日米で企業買収の現場の取材を重ねて面白い小説にまとめ、読者と一緒にその実態と企業社会の今後を考えてみたいと思い、この作品を書きました。

──今回の作品で焦点を当てているのは、「会社」のあり方だったのですか。

「会社」は誰のためにあるのか、という問いかけは、作品の中でポイントになっています。ただ、答えは1つではないでしょう。顧客、従業員、株主など様々なステークホルダー(利害関係者)がいますが、あえて言うなら、会社は社会のために存在しているはず。企業は収益確保を目指すものではありますが、結果的に社会に貢献できる企業でなければ存在意義がないからです。

もう一方で、会社の価値を時価総額だけで語ってもいいのか、という疑問も投げかけたかった。人的資源や、知的所有権というものは、企業価値にどのように反映されるか。今後はこれが大きなテーマになってくるでしょう。

そこで、この作品では音楽関連企業を買収対象会社として登場させ、有能な歌手やプロデューサーという人材が会社の価値を左右する側面があることを描いています。また、会社の資産についても、所有している不動産から、古い楽曲を販売する権利である「原盤権」という無形の資産に重要性が移っているという設定にしました。

この物語を通じて、読者には買収を仕掛けられた会社の社員はどうなるかを疑似的に体験してもらいたい。そのうえで、「会社は誰のものか」について一緒に考えてもらえたらと思います。

──とはいえ、経済問題となると、敬遠する傾向がまだ強いですよね。

数多くの個人投資家が市場に参加するようになりました。ライブドア問題では、株価の暴落により痛手を被った方も多かったようですが、これは日本の金融市場が成熟していくうえでは、避けることができない出来事だったのではないかと思っています。

今までは経済の話を敬遠していたという女性まで、私の作品を読んでくださっています。読者は小学生から80代までと幅広く、経済に関心を持つ層は増えつつあると実感しています。

一方で、日本はモノ作りを重視してきた「技術力」の国ですが、「金融力」はどうでしょう。経済政策や金融政策の影響で通貨が弱くなると、モノ作りに長けた企業は海外からの買収リスクにさらされることになります。製造業でも、経済政策から目を背けることはできないわけです。資金運用や投資などだけでなく、国のあり方について経済や金融の面から議論していく場が、もっと必要ではないでしょうか。

幸田 真音(こうだ・まいん)氏
1951年生まれ。米系証券会社の債券ディーラーなどを経て、95年作家に転身。『日本国債』『代行返上』『日銀券』など経済小説を多数執筆。

■2007/06/25, 日経ビジネス, 115ページ

シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略
シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略一條 和生 徳岡 晃一郎

東洋経済新報社 2007-02
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おすすめ平均 star
starボトムアップな世の中になりつつあります。
star目に見えない世界
star中高年よ、読め!

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一橋大学大学院教授の一條和生氏は、企業における知識創造の研究の第一人者であり、「知のマネジメント」の重要性を説く。本書では、組織の大半を占めるフォーマルな規律や慣例に基づく仕事の対極にある、個人の創造性やエネルギーがもたらす価値に光を当てて、その仕組みを解説する。

経営とは本来、秩序化や効率化を求めるものであろう。しかし著者は、“目に見える世界”を重視する考え方にはその根底に「予定調和」のパラダイムがあり、変化とスピードが不可欠となった現代の経営環境の下では、その硬直性が命取りになる場合もあると指摘する。組織で規定された権限や役割分担、意思決定プロセスには乗ってこない、個人が自主的な意思と裁量で編み出すような仕事を「シャドーワーク」と呼び、その真価を解き明かす。

リコー、シマノなどの企業が近年ヒット商品を世に送り出している背景には、シャドーワークの積極的な活用があるとして実例を示す。また、米国のスターバックスやグーグルではシャドーワークが定着し、飛躍的拡大の推進力になったと解説する。しかし多くの組織にはシャドーワークを阻む“壁”が存在しているとも言う。「上司のカベ」「文化のカベ」などを具体的に示し、改善法を指南する。

■2007/06/25, 日経ビジネス, 113ページ

財務3表一体理解法―決算書がスラスラわかる
財務3表一体理解法―決算書がスラスラわかる國貞 克則

朝日新聞社出版局 2007-05
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経営戦略策定のノウハウを必要とするのは、もはや経営トップだけではない。新規事業やプロジェクトの立ち上げ、子会社の運営などは、明日にも一社員の手に委ねられる可能性がある。また、独立起業を念頭に置き準備を進めるビジネスパーソンも少なくないだろう。本書は、経験豊かな経営コンサルタントが経営戦略の理論や分析法から、実際の策定と実行に至るプロセスまでを分かりやすく解説したもの。

中堅家電メーカーに新設された経営企画室の室長を主人公に、ストーリー仕立てで勘所を指南する構成だ。まずは、成長戦略と同じくらいに「撤退戦略」が重要であることを説く。限りのある経営資源を新規成長分野に投入するには、「負け犬として撤退すること」を恐れてはいけないと言う。そのうえで、時流と市場に合った自社の競争優位性を見極めよと助言する。

また、新規事業のリスクを軽減する多角化戦略には“定石”があると言い、M&A(企業の合併・買収)やパートナー企業とのアライアンス(提携)などがもたらすメリットまでをも選択肢の視野に入れよと言う。新規事業の骨子が固まった段階で必要となるマーケティング戦略、すなわち「売れる仕組み作り」についても、その意義や実践法について詳しく解説する。

■2007/06/25, 日経ビジネス, 113ページ

経営戦略のトリセツ[取扱説明書]
経営戦略のトリセツ[取扱説明書]西村 克己

日本実業出版社 2007-02-28
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損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CS)からなる、いわゆる「財務3表」の役割と関連性を分かりやすく解説する書。著者は本書を読み解くことによって、「簿記や仕訳を勉強した人とさして変わりがなく、『全体像の把握』についてはそれ以上の理解が得られる」と語る。

「こうすれば決算書を読めるようになる」とうたう書が少なくない中で、著者が独自に編み出したコツとは「財務3表一体理解法」だ。財務3表には、連動する「つながり」のポイントが5つあると解説。実際に読者が小さな会社を設立したと想定し、創業時から生じるであろう1回ずつの取引ごとに、財務3表がどのような「つながり」を保ちながら変化するのか(しないのか)を具体的に追う。こうした知識を基にすれば、決算書を材料にして様々な企業の業績を正しく評価することができるようになると言う。収益性や安定性を読み取るポイントのほか、PLやBSの数字に操作を加えて見栄えを良くしている「決算書の粉飾」を見抜くコツも指南する。

また、近年になって導入された「退職給付会計」や「金融商品の時価会計」「税効果会計」などの新会計基準についても、想定し得る事例を財務3表に当てはめながら解説を加える。

■2007/06/25, 日経ビジネス, 113ページ

北京炎上
北京炎上水木 楊

文藝春秋 2007-04
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おすすめ平均 star
starあり得るかもしれない中国の近未来像

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人口の多さや国土の広さからしても、中国は実に巨大な隣国である。しかしその政治体制は実は危うい。北京に行って「誰が胡錦濤国家主席や温家宝首相を選んだのか」と聞いても、誰も答えてくれない。答えられないのだ。窮すると彼らは、「胡錦濤の奥さんの家柄はよい」という話になる。指導者を選んだのは国民ではない。党だ。

中国は市場主義を経済に取り入れて成長を希求し、それに成功しながらも政治体制は共産党の一党独裁であり、指導者も激しい権力闘争の末に党の内部論理で決まる。人民解放軍は党の軍隊であって国の軍隊ではない。日本人はこれを忘れがちだ。党の象徴は今でも毛沢東氏であり、だからこそ天安門広場にはその肖像が掲げられている。

評者は天安門でこの毛沢東氏の肖像を見るたび、「いつなくなるのだろうか」と思ってきた。国民が豊かになり、生活レベルを上げていく過程で、国民の自由を束縛する政治体制としての共産主義がいつまでも生き残れるはずがない。中国の政治体制は、いつか大きく変わり、民主化に向かうはずだ。

この体制転換の1つのシナリオを提示した本書は、再び天安門が舞台になると予想する。腐敗した中南海(中国最高指導部)に腹を立てた学生と軍の一部が動いて指導部も割れ、その過程で広東省、華南地区、東北地区、それに新疆ウイグル自治区、チベット、内モンゴルなどが独立し、中国が「連邦共和国」になるという見立てだ。面白いし、現実のものになる可能性はあるだろう。

無論、著者が述べているように、この小説は「全くの虚構」であり、「登場する人物のほとんどが架空」である。しかし2017年という近未来を書くのに、架空の人ばかりを登場させるわけにもいかない。登場人物の何人かは簡単に想像がつく。

中国は高い経済成長率達成の中でも、農民、民工など貧しく差別された何億もの民衆を抱え、一方で目に余る腐敗が蔓延している。それは中国当局も認めている。故に、暴動やスト、デモは増加傾向にある。だからこそ中国は、列車の名前にも「和諧」とつける。

もっと政治、経済、社会など多面的な分析での中国崩壊のシナリオ提示があってよかったかもしれないが、先駆的な試みだと思う。悩ましいのは、中国の体制変換の時期を予測するのが難しいことだ。評者は、それは間近だと考えているが…。

いずれにしろ中国の体制変換は必ず来る。その時に備え、頭の体操をする意味合いからも、この本は読む価値が大いにある。【評者 住信基礎研究所主席研究員 伊藤洋一】

■2007/06/18, 日経ビジネス, 79ページ

ソーシャル・アントレプレナーシップ―想いが社会を変える
ソーシャル・アントレプレナーシップ―想いが社会を変える谷本 寛治

エヌティティ出版 2007-03
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社会的課題の解決にビジネスで取り組む社会的企業家(ソーシャル・アントレプレナー)の活動を紹介する。

事業化が難しいとされてきた病児保育サービスを提供する特別非営利活動法人フローレンス、eラーニング という方法で不登校生に対する高等教育を行うアットマーク・ラーニング、IT(情報技術)を活用し環境保全を推進するネイチャースケープなどが登場する。社会的企業家たちは様々な社会の問題に直面し、「自分がやらねば」と行動を起こしている。強い“思い”を抱き、試行錯誤しながら、ビジネスモデルを作り上げていく過程は印象的だ。

最終章では社会的企業家へのステップを整理。事業性と社会的使命を両立するための方策を示す。

■2007/06/18, 日経ビジネス, 79ページ

新帝国主義論―この繁栄はいつまで続くか
新帝国主義論―この繁栄はいつまで続くか武者 陵司

東洋経済新報社 2007-04
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おすすめ平均 star
starワン・ワールド経済体制を解き明かした快著
star武者陵司が書いた世界経済の見通し

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自壊する帝国
自壊する帝国佐藤 優

新潮社 2006-05-30
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おすすめ平均 star
star『国家の罠』以前に何があったか
star素晴らしい本だが、警戒しながら読んでほしい
star日本には希薄な「地政学」および政治と宗教、民族学の着眼がここにある

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日本はこの先どこへ向かおうとしているのか。それを占ううえで、ユニークかつ大胆なヒントを提示している2冊の書がランクインした。

『新帝国主義論』(丸善丸の内本店14位)の著者は、かつて「日本株の大下落」という予測を的中させた外資系証券会社の幹部だ。日本及び先進国については、この先10年から20年は安泰だろうと言い、その根拠として「地球帝国」というキーワードを挙げる。ひたすら安い労働力を提供し続ける発展途上国と、それを利用して資本を蓄積し続ける先進国の企業、両者の“不等価交換”が地球帝国の基幹システムとして機能している限り、世界経済と株式市場は明るいと説く。

佐藤優氏は、いわゆる「鈴木宗男事件」で逮捕・拘置された外務省職員(休職中)だ。事件の顛末を自ら綴った『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』が話題となり、一躍“時の人”となった。昨年上梓した『自壊する帝国』(ジュンク堂書店大阪本店9位)は、モスクワ勤務時代に佐藤氏が目の当たりにしたソ連崩壊の実相を綴ったもの。国家は内側から腐食し瓦解することがあり、今の日本には崩壊直前のソ連と重なるものが見えると警告している。

■2007/06/18, 日経ビジネス, 81ページ

現代の総合商社―発展と機能
現代の総合商社―発展と機能土井 教之 増田 政靖 伊藤 正一

晃洋書房 2006-11
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日本貿易会、国際社会貢献センター、関西学院大学経済学部の連携講義を基に、総合商社の機能や活動、今後の課題や方向性などを論じる。

日本経済の中で、総合商社は海外には例を見ない存在として大きな役割を果たしている。総合商社の原点は明治時代の貿易会社。戦後、経済復興過程でメーカーが生産・販売面の困難に直面した際、そのサービス需要に応える形で発展した。商社は市場調査、交渉、融資、原材料調達など、様々な課題を解消する仕組みを提供する一種のソリューション業だと解説する。

総合商社は多種多様なソリューションサービスを大規模に提供することを目指してきた。事業内容・事業規模などは、産業構造の変化を反映する。時代に対応して変化を繰り返し、近年はIT(情報技術)、バイオテクノロジーなどの新規成長分野、中国をはじめとする新規市場に事業展開している。商社“中抜き論”が論じられることもあるが、新しいビジネスや価値の創出・維持という機能を持つ商社は、今後、より重要な存在になると指摘する。

エネルギー、食料、繊維、IT、電子商取引、知的財産権など、分野・テーマごとに現在の商社の活動内容も説明する。商社の仕組みやビジネスの内容を理解するのに役立つ。

■2007/06/18, 日経ビジネス, 80ページ

IKEA超巨大小売業、成功の秘訣
IKEA超巨大小売業、成功の秘訣リュディガー・ユングブルート 瀬野 文教

日本経済新聞出版社 2007-02
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35カ国に250店以上を展開する世界最大の家具店イケア。本書は誕生から現在までの軌跡、創業者イングヴァル・カンプラード氏の経営哲学などを明らかにする。

創業当初、雑貨通販事業を手がけていたカンプラード氏は、扱ったアームレスチェアが人気を集めたのをきっかけに、家具販売を拡大した。イケアは「代々受け継ぐ高価な財産」と思われてきた家具の常識を覆し、安さを売り物とした。海外での生産、家具を解体しての運送・販売、大量生産・大量販売などによってコストを削減。安さに加え、シンプルで実用的、自然で明るいデザインは若者などの支持を集めた。イケアはドイツを皮切りに欧州市場を席巻し、いち早く中国、ロシアなどの新興国にも進出。さらなる進化を目指し、家具店内でレストランを経営したり、食料品を販売したりするなど、新たな試みも取り入れている。

本書は創業者の人物像も詳しく紹介する。カンプラード氏は世界的な大富豪だが、質素倹約を徹底している。ハイソサエティーの集まりには参加しない。古い国産車を愛用し、かかとのすり減った靴で歩き回る。“地味でケチ”な創業者の個性を浮き彫りにしながら、その泥臭さが、イケア成功の要因の1つになっていると指摘する。

■2007/06/18, 日経ビジネス, 80ページ

Webキャンペーンのしかけ方。 広告のプロたちがつくる“つぎのネット広告”
Webキャンペーンのしかけ方。 広告のプロたちがつくる“つぎのネット広告”渡辺 英輝 阿部 晶人 螺澤 裕次郎

インプレスジャパン 2007-03-29
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おすすめ平均 star
starやっと出てきた「大人」のWeb広告の作り方
starコミュニケーションの本質について書かれた本。
starインターネットのパワーを再認識

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ブログ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、動画共有サイトなどの浸透により、インターネット上に様々なコミュニティーが出来上がっている。ウェブキャンペーンを成功させるには、個人の力を借りる必要がある。本書は、ウェブ広告分野の先駆者的存在である著者らが、ターゲットの心を動かすようなウェブキャンペーンの仕掛け方を紹介していく。トヨタ自動車、ナイキ、P&G、ホンダなどの事例を取り上げる。

日本初のブログキャンペーンとなったのがP&Gの「アリエール」。「家事の手間を増やす愛らしい家族」のエピソードを募集する「アイラブ困ったさんコンテスト」を実施したところ、エピソード応募者だけでなく、一般ブロガーもトラックバックやコメントで参加する認知度の高いキャンペーンとなった。

パーツの色を自由に組み合わせて好みの製品を作ることができるナイキのオーダーシステム「NIKEiD」のキャンペーンでは、戦隊ヒーローのコスチュームを着た38人の「AKIBAMAN」が登場する広告をYouTube専用に作り、ウェブ上の話題をさらった。

企業が個人とつながり、関係を築きながらウェブコミュニケーションを構築するノウハウを披露している。

■2007/06/18, 日経ビジネス, 80ページ

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