メイン > 日経ビジネス書評『新刊の森』(2005年) > 2005年1月24日~1月31日

明日の記憶
4334924468荻原 浩

光文社 2004-10-20
売り上げランキング : 2,379

おすすめ平均 star
star一人称による語りが強烈
star明日の記憶
starこの本を忘れたくない

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■著者に聞く 荻原浩氏[作家] 物忘れにも意味がある

若年性アルツハイマーを題材に、人間の記憶について考察した小説。サラリーマンの主人公は会社生活を続けながら闘病するが、やがて・・・。物忘れが気になりだした世代には少し怖い内容だ。

――若年性アルツハイマーを患ったサラリーマンの話で、物忘れの多くなった身には、怖くなってきますが、愛情にあふれた最後は感動的です。

このテーマだと、どう転んでもハッピーエンドにはなりませんが、悲しい中にも精いっぱい、明るい終わり方をしたかった。自分の妻をも忘れてしまった主人公が、無意識に見せる彼女へのいたわり。夫の闘病生活を必死で支え続けてきた妻の愛。このラストのためにこの小説を書いたとも言えます。

自分がもし主人公の身になったら、妻をいたわれるだろうか。逆に妻は私を見捨てないだろうか。そんな不安があるから、本当の夫婦愛とはこういうものではないか、こうあってほしいと思ってラストのシーンを描きました。

――若年性アルツハイマーという病気についても非常に詳しく描かれています。かなり勉強されたようですね。

若年性アルツハイマーについての資料は探し回ったのですがあまり手に入りませんでした。ただ、痴呆症についての資料は豊富にあったので、片っ端から調べました。痴呆症にかかった人は、「嫉妬妄想」や「物取られ妄想」にとらわれたり、看護してくれる人に抱きついたりする「色ボケ」の症状がよく表れます。若年性アルツハイマーも発症年齢の違いだけで症状は全く同じなので、非常に参考になりました。

この題材を選んだのは、もともと人間の脳の働きには興味があったからです。この機会に脳についてできるだけ調べてみたいと思いました。霊長類の研究で有名な京都大学に行って最先端の研究も取材してきました。人間の脳って、調べれば調べるほど面白い。

――人間の脳について、なぜそんなに興味を持っているのですか。

私自身、ものすごく物忘れが激しいのです。年を取ってからというより、小さい時から忘れっぽかった。学生の時には暗記が全くできないので苦労しました。自分の脳ってどうなってるのかな、とずっと思っていたのです。

お酒を飲めるようになってからは、次の日の朝に飲んだ時のことをほとんど忘れていて、「ちゃんとお金は払ったかなぁ」とか、「上司に悪態はつかなかったかなぁ」などと、不安で不安で仕方がありませんでした。実は意外とちゃんとしているのに、忘れてしまっているから怖くて仕方がなくなる。

自分は頭が悪いのかなと思っていたのですが、ある時、忘れることも情報の選択なんだから人間には大切なことなのだと教えられて安心すると同時に、脳について興味を持ち始めました。若い時に目立たないのに、老齢になってから作品に磨きがかかる芸術家がよくいますが、一部の脳の働きが衰えることで純粋になれるんです。今は物忘れに対する恐れは少なくなりました。

――歯切れのいい読みやすい文章ですね。参考にしている作家はいますか。

そう言われるのはうれしいですね。小説家として、私は文章に徹底的にこだわりたいと思っています。自分で書いた小説は必ず声に出して読んでみて、リズムを確かめます。文章の構成は論理的でも、音にしてみると論理的でない方がよい場合がよくあるからです。試されるといいですが、声を出して読むと違いますよ。

好きな作家は宮部みゆきさんや村上春樹さんですね。文章が本当にうまく参考になります。特に村上さんは文筆界のイチロー選手じゃないかと思っています。

荻原浩(おぎわら・ひろし)氏
1956年生まれ。成城大学経済学部卒。広告制作会社を経て、97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞。『母恋旅烏』など著書多数。

■2005/01/31, 日経ビジネス, 87ページ

脱=「年金依存」社会
神野 直彦

藤原書店 2004-12
売り上げランキング : 116,664

おすすめ平均
他分野の識者による、雑多かつ多彩な年金論

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年金問題を理解するアプローチは様々あるが、本書は表題の通り「そもそも年金に依存する社会であってよいのか、日本人はこうした状況にいかなる経緯でいきついたのか、年金依存を克服する術はあるのか」というテーマに沿って編集されたもの。内外の著名エコノミストや経済学者に加えて、歴史学者や社会倫理学者らが、それぞれの専門分野から年金の本質と社会との関係性について論じている。

日本近世文化の研究者であり『江戸の想像力』の著者としても知られる田中優子・法政大学教授は、「歴史上年金のない人間は現実にはどう生きてきたのか」について再考すべきだと問題提起する。「隠居料」などが存在した江戸の武士社会に対して、商人や農民には家督相続者である長男が扶養する「孝」という価値観が存在したと指摘。また相互扶助は村よりも小さい「講」という少人数の単位を基本として機能していたとも論じる。

一方、地域再生などの研究を行う神野直彦・東京大学教授は「賃金の代替である年金のほかに、もう1つ現物のサービスが必要。それを政府がやるか、相互扶助でやるか」と問い、西欧の歴史などについて触れる。ノーベル経済学賞を受賞したJ・E・スティグリッツ氏らの論文からも提言を抜粋して掲載している。

■2005/01/31, 日経ビジネス, 85ページ

西武王国―その炎と影
中嶋 忠三郎

サンデー社 2004-12
売り上げランキング : 10,935

おすすめ平均
西武の歴史
超一級の資料
社会のコンプライアンス意識の変化を感じさせる

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西武鉄道の有価証券報告書訂正問題など、相次ぐ不祥事に揺れる西武グループ。その頂点に君臨してきた堤康次郎氏と義明氏父子の側近として40年以上仕えた著者が、その歴史と内幕を赤裸々に綴った書。著者は1998年に他界している。本書は今から15年前、90年に上梓されたが、発売直前になって西武側により全冊買い取り回収され世に出ることはなかったという、曰く付きの書である。

戦前は東京地方裁判所判事や外務省で上海領事などを歴任した著者は、縁あって「西武農業鉄道」を営む堤康次郎氏に迎え入れられた。その後、康次郎氏の不動産買収と事業拡大に対する執念に共鳴し、影のように寄り添い支えていく。元華族の邸宅などを次々に手中にするやり方を強欲と見る向きもあったが、今日の地上げ屋とは全く異なり、利益主義ではなく庶民に住居を持たせたいという理想があった。

記述の焦点はグループ発展の舞台裏から、康次郎氏の女性関係及びその子供たちに移る。3人の“夫人”の実相と息子である義明氏、清二氏の学生時代を回顧する。顧問弁護士としての立場から事業継承問題についても臆することなく論じているが、全体としては西武草創期への憧憬と復活を願う思いを訴えた書と言える。

■2005/01/31, 日経ビジネス, 85ページ

見えざる資産の戦略と論理
伊丹 敬之 軽部 大

日本経済新聞社 2004-11
売り上げランキング : 22,284

おすすめ平均
何が言いたいのかよく分からん
経営資源としての「情報」について深めた一冊

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見えざる資産をいかに蓄積し、国際的競争時代の武器として有効に活用するか――。一橋大学で研究を重ねてきた著者らが、多角的な視点から論じる。見えざる資産とは技術やノウハウの蓄積、顧客情報の蓄積、ブランドや企業への信頼、細かな業務をトータルにきっちりと実行できる仕組みやシステム、生き生きとした企業風土などを指す。今、それらが「企業の競争力のもっとも大切な源泉となる時代」になったと指摘している。

冒頭では具体的な企業の事例から見えざる資産の重要性を示す。ヤマト運輸の競争優位は、トラックやセンターといった物理的資源にあるのではなく、小口宅配の全国網を管理するシステム力と、セールスドライバー一人ひとりの質によるものだと言う。一方、ソニーがネットサービス事業で苦戦を強いられた理由については、「ソニーブランドという強みはあったが、ネット事業のノウハウや優位性を確立しきれなかった。端末屋がネット屋になるのは難しい」と論じている。

また、見えざる資産は企業の内部のみならず、市場環境や競争相手にも存在していると指摘。競合企業の特許情報や顧客同士の情報交換の中にある“資産”を見いだし活用することが、優位性を維持し続けるカギの1つだと言う。

■2005/01/31, 日経ビジネス, 85ページ

一流の顔
4344007050岡野 宏

幻冬舎 2004-11
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おすすめ平均 star
star「感じの良い顔」になる
star顔について毎日考え体験している人の言葉だ
star「顔」を通して見る人間の一面。

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■著者に聞く 岡野宏氏[元NHK美粧師] 外見は自分のためならず

約10万人のメーキャップやファッションコーディネートを手がけた著者の回顧録。政治家や俳優、財界人が見せた“素顔”から、「一流」の条件を多角的に披露する。「自分を鏡に映すこと」が一流への第1ステップと説く。

――どの分野であれ、一流と言われる人の共通点は、「顔に芯がある」ことだとか。ユニークな表現です。

人間の顔には、その人が昨日までしてきた行いが刻まれています。顔が人生を背負っていると言ってもいい。

政治家、会社の社長、大物俳優など、どんなに偉い人でも、メーク室に入り、鏡と向き合う時は独りです。そんな時にふと素の表情に戻る。一流の人は、そのような力を抜いた時でも、顔に締まりがあります。この様子を私は「芯がある」と表現しました。眉間に神経が集中している感じですね。目や眉、鼻などが顔の中心に寄った印象になります。

――ホンダ創業者の本田宗一郎氏をお洒落の上級者に挙げています。

本田さんはNHKの番組に初めて色つきシャツで出演した経営者です。コットンのジャケット姿だったこともあります。有名なツナギ姿を含め、彼の服装はホンダにおけるご自身の役割を強く意識していたのだと思います。

当時のホンダには、藤澤武夫さんが経営者らしいトップとして存在していた。その分、本田さんは「新しいことに挑戦する会社」の社風を体現することに心を砕いたのでしょう。親しみやすい服装をすれば、周囲は彼の懐に飛び込みやすくなります。もっとも、傷だらけだった手だけは、他人を寄せつけない厳しさがありましたが。

――男性が鏡を見る必要性を説いていますね。照れくさいと感じる人がまだ多いはずです。

本田さんの例で分かる通り、相手にどのような印象を持ってほしいかが重要なのです。ですから男性も姿見に自分の全身を映し、表情や姿勢をチェックすべきです。

例えば、鏡の前で笑顔を作ってみると、自分の笑い方が相手にどう見えているかが分かります。「自分では笑っているつもり」ではダメ。笑っていることが相手にきちんと伝わるよう、表情を工夫してください。

全身を見る時は、その服装の目的を意識します。商談前なら、顔つきや服装が、商談を成立させる雰囲気を備えているかどうかを見る。これは気持ちの切り替えにもなりますよ。ファッションは単なる自己満足の手段ではなくて、相手を考えて行うもの。それが結果として自分に返ってくるのです。

――テレビのハイビジョン放送が増えてきました。メークに影響はありましたか。

数年前、ハイビジョン専用の化粧品開発を手がけました。ファンデーションを例に取ると、今までよりも粒子が細かく、形状が不規則になっている。光が乱反射するために、アップでも皺が目立ちにくくなる利点があります。

このファンデーションを一番多く使うのは、俳優ではなくて、アナウンサーです。森繁久弥さんがこんなことを言っていました。「役者は10秒のアップでも珍しいのに、アナウンサーは15秒以上のアップが多い。すごいことだよな」。その分、肌荒れが目立つと、視聴者の関心がニュースではなく、そちらに向いてしまいます。

ハイビジョンは自分を美しく見せたい女優には大変でしょうが、皺や肌のシミを忠実に伝えたい番組では力を発揮します。例えば漁師を追ったドキュメンタリー。潮風にもまれた深い皺や太陽に焦がされてできたシミなど、自然と格闘してきた肌はメークで完璧に真似をすることはできないのです。

岡野  宏(おかの・ひろし)氏
1940年東京都生まれ。60年から2000年までNHKで美粧の業務に携わりながら、大河ドラマや紅白歌合戦のチーフディレクターも務めた。

■2005/01/24, 日経ビジネス, 87ページ

ダイエーの蹉跌 企業参謀の告白
田畑 俊明

日経BP社 2005-01-06
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おすすめ平均
流通業の主役は・・・
机上の空論がほとんど・・
透徹したインサイダーの視点

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ダイエーは昨年末、産業再生機構による支援が決定した。なぜ、自主再建は頓挫したのか。高木邦夫前会長を中心とする体制下、営業企画本部副本部長、営業統括副本部長として奔走した著者が、自らの体験を基にダイエー崩壊までの様相を綴る。

再建とは既存の経営陣が手をつけなかった問題点を一気に解決したり取り除いたりすることである。だが、高木体制では、顧客の声や現場の声を取り入れようとしない「分かっているつもり病」のDNA、悪習是正を先送りするDNA、店主導の変革を妨げるDNAなどが継承されてしまった。結局、ダイエーの営業力は回復しなかった。

中でも、最大の問題が決算対策の悪習にメスを入れなかったこと、グループの子会社との関係に踏み込まなかったことだと指摘する。売り場は決算対策に協力する取引先や子会社の商品が主力となり、魅力を失った。決算対策のリベートの前借りを処理する方法として、仕入れ担当者が原価を上積みして店に納品したことなどで価格競争力も薄れた。営業上の問題点は大半がこの領域から派生しているにもかかわらずタブー視して先送りしてしまった。

「ダイエーの再建は、本当の企業再生を意図するものではなく、再建という名の延命作業」だったと結論づける。

■2005/01/24, 日経ビジネス, 85ページ

キャッシュカードがあぶない
柳田 邦男

文芸春秋 2004-12
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おすすめ平均
もう銀行は金庫代わりにもできない
著者の目の付け所が非常にいい
これは銀行の企業犯罪だ

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キャッシュカードの磁気情報を読み取る「スキミング」と呼ばれる手口で作られた偽造カードによる被害が続出している。知らぬ間に、銀行口座から多額の預金が盗まれてしまった被害者は、人生設計が立たなくなるなどの苦境に追い込まれている。進化するカード犯罪の手口、被害者の実態、銀行の欺瞞、警察の怠慢など、カード犯罪の構造を分析する。

日本では偽造カードによる犯罪に対する法体系が整っていない。刑法上、預金が引き出されたATM(現金自動預け払い機)を管理する銀行が被害届を出すことになっており、面倒なことに巻き込まれたくないと、届けすら出さない銀行もあるという。偽造カード事件の犯人を検挙できた例は数少なく、警察の動きも極めて鈍い。

本書は、責任を一切負わず、預金の補填もしない銀行の姿勢を厳しく批判する。超小型デジタルカメラをセットしたり、ATMの電話線に一種の盗聴器をつけて傍受するといった方法で、暗証番号のデータを盗む手口が横行している現在、暗証番号の「安全神話」は完全に崩壊している。異常な引き出しに対する“警報機能”の強化、具体的な被害事例を示した注意喚起など、銀行レベルで取り得るセキュリティー対策について、著者なりの考えを示す。

■2005/01/24, 日経ビジネス, 85ページ

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