メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2008年5月3日
| 緑の帝国―世界銀行とグリーン・ネオリベラリズム | |
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「環境」を口実にした世界銀行の新たな途上国支配
「市場第一主義」の投資家と「環境保護主義」の運動家。この二人を実務的に組み合わせるとどうなるのか。「グリーン(環境)」と「ネオリベラル(民営化)」を混ぜ合わせた「グリーン・ネオリベラリズム」。そんな新しい開発レジームが、現代の世界銀行を動かしている。本書はそのパラドキシカルな実態にメスを入れた力作だ。
1990年代の世界銀行は、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれるネオリベラリズム政策を採用し、多くの途上国で統治の危機を招いた。その後の世銀は「ポスト・ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる温和な方針へと転換するものの、「ネオリベ政策」をやめたわけではない。「ネオリベ政策」は今や、環境政策とパッケージになって遂行されている。
たとえば、先進諸国に本部を置く自然保護団体が、ある国で「生物の多様性が危機に瀕している」と叫んだとしよう。すると世銀は同団体と手を結び、当該国政府の資源濫用を防ぐために、公有の自然資源を基盤とした産業を、多国籍企業に競売すべきだと主張する。途上国の自然環境を管理するためには、当該国政府よりも、多国籍企業の支配に委ねたほうがよい、という理屈からである。
これは大きな逆説だ。世銀を支持するエリート学者たちは、低開発で無駄の多い状態よりも、高開発で無駄のない状態のほうが、環境に優しいと考える。ところがこの発想は、先進国が途上国の開発を推進するための糸口を与えてしまうのだ。
「すべての人に水を」という世銀のキャンペーンも同様である。きれいで安全な水を、みんなが飲める社会。そんな社会を実現しようと思ったら、私たちは途上国の公共サービスを民営化(つまり多国籍企業化)して、低コストで開発しなければならないだろう。そうでないと途上国政府は、過度の負担にあえいでしまう。
実際に途上国は、水や医療や電気などの公共財を、ベクテルやビベンディといった欧米の大企業に売却してきた。売却することによって初めて、海外の銀行や国際機関から融資を受けることができた。
エコロジカルな開発のために、先進国のネオリベ統治術を受け入れる。著者はこの権力作用を「エコ統治性」と呼び、途上国の国家運営が、ますますハイブリッド化していく様子をえぐり出している。では途上国は、世銀のネオリベ支配から逃れることができるのか。「南」の国政選挙では、世銀権力の存在が政治問題化している。世銀は今や、途上国の独自の国家統治を揺るがす巨大権力となっている。その働きに注視が必要だ。【評者 橋本 努 北海道大学経済学部准教授】
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庶民を飢饉から救った食物から世界史を読む
今年は「国際ジャガイモ年」である。3年前に国連で採択されたもので、発展途上国の食糧として、ジャガイモの重要性の認識を高めるのが目的である。
ジャガイモの発祥地がアンデスの高地であることはよく知られている。1570年ころ、スペイン人が本国に持ち帰り、やがて世界各地に広まった。ジャガイモは、今や、麦、コメ、トウモロコシと並んで世界四大作物の一つであり、100を超える国々で栽培されている。
17世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパは戦争の時代であった。加えて小氷期といわれる寒い時期で飢饉が頻発していた。そのため寒冷地に強いジャガイモが受け入れられたのである。
ドイツでは、1756年、フリードリッヒ大王が「ジャガイモ令」を発令し、強制的にジャガイモ栽培を命じた。そのおかげで食糧が確保され、プロイセン軍は精強な軍隊となった。
フランスで普及に努めたのはルイ16世と王妃マリー・アントワネットだが、1789年の革命で二人は処刑されてしまう。しかし皮肉にも、革命後の人民はジャガイモによって飢えから救われたのである。
イギリスで最初に主食としたのは最下層のアイルランド人である。彼らは故郷を捨てアメリカに渡ったが、第2代大統領ジョン・アダムズは、妻にこう手紙を書いたという。「英国への屈辱よりは最悪の貧困を……。ジャガイモを食べ水を飲もう」。
日本には、1598年、オランダ人によって長崎にもたらされた。第8章の「日本におけるジャガイモ」の運命はまことに数奇なものである。
「歴史の曲がり角や裏舞台で大きな役割を果たし、大衆に寄り添い、世界を救った食物。それがジャガイモだった」と著者は言う。ジャガイモから世界を見るのは、奥が深く楽しい。【評者 仲倉重郎 映画監督】
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「なんクリ」と過激派体験に共通する寂しさと哀しさ
小説『なんとなく、クリスタル』(田中康夫著)が『文藝』に掲載されたのが1980年。日本がバブル景気に向かう頃である。だが、そんな時代に過剰に抗う若者たちもいた。「カラマーゾフの問い」――人類の生の意味と目的は何にあるのか――に駆られた若者たちが。
本書は、公安警察から中核派や革マル派と同様に過激派に分類された、戦旗派の活動家として三里塚闘争を戦い、警察に追われ、内ゲバをしのぎ、自殺のそばまでいった女性によるノンフィクションである。
彼女が戦旗派の活動家になるきっかけは偶然そのものだった。女友だちと新宿をぶらついていたときのこと。署名活動をしている一団と会話することから始まった。「活動家にしては端正な容姿」「表情も穏やかで、ピリピリした近寄りにくさがない」男に、彼女は強く印象づけられる。以後、それが運命の男となる。忍耐強く、実行力があり、しかも繊細な気遣いのある「美しい存在」として。革命と恋愛で生が充満した日々……。
しかし、男はやがて同じ活動家の別の女性と結婚する。彼女は幹部との確執のため、組織から脱出する。組織との絆を断ち、無一文で公園で寝泊りの生活をする。文章はやや粗削りだが、アジト生活の細部に臨場感がある。当人たちが真剣なだけに、思わず笑ってしまう議論もある。アイスクリームを食べるのはアメリカ帝国主義的だと批判されたり、野菜の種類が少なく、栄養バランスが悪いと、アジト生活での料理番の彼女がなじられたりする場面などに。
本書は、「なんクリ」のどこまでも透明な女子大生とは対極の熱い生の記録である。にもかかわらず、なぜか本書の「私」に、「なんクリ」の女子大生に感じたものと同質の寂しさと哀しさを感じてしまうのである。【評者 竹内 洋 関西大学文学部教授】
| モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」 | |
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イスラエルが生んだ世界最強の諜報機関モサド。モサド長官を務めた著者の貴重な証言である。モサドは単なる諜報機関ではなく、中東和平交渉に臨む首脳に専門家としてアドバイスを行い、国際政治をも動かしてきた。
著者が腐心したのが隣国ヨルダンとの関係である。ヨルダンのフセイン国王(当時)はイスラエルと内心では協調関係にあるが、国民の多くはイスラエルに憎しみを抱いている。国民の敵意を買わずに国王とイスラエルがどう協調関係を保つのか。緊迫した場面が何度も登場する。
人物の評価も興味深い。日本で英雄視されてきたアラファトPLO議長(当時)だが、信用できない、おカネに異常な関心を示す指導者として否定される。
著者はアルカイダの脅威を強調する。これに対抗するには、現在はイスラエルと対立するヒズボラやハマスと将来連携することも必要だと示唆する。イスラエル人の柔軟な思考に驚く。
| 新・都市論TOKYO (集英社新書 426B) (集英社新書 426B) | |
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ビルの建て替え、再開発で東京の空間が変わりつつある。建築家・隈研吾氏とジャーナリスト・清野由美氏の東京の都市計画や景観についての対談集。対象は汐留、丸の内、六本木ヒルズ、代官山、そして郊外の町田へ広がる。東京の今とこれからを知る視覚を与えてくれる。
隈氏は汐留と六本木ヒルズを比較する。汐留はもともと旧国鉄のヤード。一つの区画なので、いくらでも総合的な開発ができたはずなのに、不況下、土地は分割して分譲され、それぞれが個性を主張するまとまりのない街になってしまった。
一方で、六本木ヒルズは細分化された零細な土地をまとめ、統一感のある再開発空間を創造する。そこには森ビルの執念があった。
郊外の町田。大規模な商業施設が集まる一方、零細な路面店が残り、ラブホテル街など猥雑な空間もある町田に隈氏は非常な関心を示す。町田が体現する都市の混在性への関心である。
| 病院の品格 | |
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病気にかかったら、経験のある優れた医者に診てもらいたいのが患者の本音である。しかし、日本では病院の格差が広がるばかりだ。病院の倒産件数も高水準で推移している。病院の選択が生死を左右することにもなりかねない時代だ。
本書では、要所で実例を挙げながら、真の「品格ある病院」を探ろうとしている。多くの「病院格付け本」が経営面を重視してランキングを行っているが、患者にとって最も必要なのは、医者と医療の質である。
だが、これを格付けしていくのは容易ではない。本書では、患者が望んでいる医療を実践する病院こそが求められているのではないか、という視点に立って、粛々と病院の品格とは何かを追求している。
全国ナンバーワン病院の品格、救急病院、国立病院、大学病院それぞれに求められる品格、患者に問われる品格など、興味深い内容に満ちている。病院ガイドブックであると同時に、病院経営指南書でもある。
| オリンピック大百科 (「知」のビジュアル百科 45) | |
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北京オリンピックが8月に開催される。競技の観戦に熱中しながら、自然と沸き上がるナショナリズム。だが、忘れてならないのは、このスポーツ大会はあくまでも平和の祭典であるということだ。
古代ギリシャで、平和の祭典の一つとして開催されてきた古代オリンピック。それが、1896年に欧州で復活して、近代オリンピックが始まる。
本書は二つのオリンピックの歴史をビジュアルで紹介している。
1948年にはロンドン大会において、「聖火リレー憲章」が採択され、聖火リレーが毎回実施されることになった。
今や、オリンピックは政治や経済のしもべとしての役割を課せられつつある。
そのためか、競技種目によっては、独自の世界大会が開催されており、この方が記録が優れている場合もある。
本書は、オリンピックの原点とは何かを再確認させてくれる
| さらば財務省!―官僚すべてを敵にした男の告白 | |
![]() | 高橋 洋一 講談社 2008-03 売り上げランキング : 58 おすすめ平均 ![]() 真実とはかくのごとし。 経済オンチな官僚の実態Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者に聞く 『さらば 財務省!』(講談社)を書いた東洋大学経済学部教授高橋洋一
内側から見た財務官僚、「能力がある」は神話
――高橋さんが深くかかわった財政投融資改革と郵政民営化の実態を描写し、最後は財務省の「裏切り者」になってしまう経緯を書いています。
私は大蔵省理財局時代に財政投融資改革に取り組みました。当時は主要な原資である郵便貯金を大蔵省資金運用部に全額預託し、それを財投機関に配分するという仕組みでした。だが、この仕組みは巨額の金利リスクを抱えており、そのリスクはすべて大蔵省が負うものでした。
そこで私は預託廃止、財投債導入を提案しました。その提案は省内でも受け入れられ、一部の人ですが私を「大蔵省中興の祖」とまで称賛したようです。一方、郵政省からは「悲願である自主運用を実現した男」として、喜ばれました。実はその当時から、私は郵貯の自主運用は必然的に郵政民営化をもたらすという未来が見えていたので、郵政省からほめられ、冷や汗が出ました。
私が財務省の裏切り者と呼ばれるようになった大きな理由は、八つもあった政府系金融機関が統合・民営化され、財務省の重要な天下り先もなくなったからです。だが、財政投融資改革を行えば必然的にそうなることが見えたはずです。ある時は「中興の祖」と称賛され、その後、「裏切り者」と評価が一変してしまうのは、官僚の御都合主義でしょう。
この本は『財投改革の経済学』(東洋経済新報社)と同じ内容をわかりやすく書いたつもりですが、それだけでは足りないという編集者の要望により、政策決定のプロセスや個人史を盛り込みました。
――財務省といえば、「官庁の中の官庁」として霞が関に君臨し、そこのキャリア官僚は「最も優秀」と評価されてきましたが……。
国際的に見ると疑問です。主流は法学部卒の学士で、修士号や博士号を取った者は少ない。海外は修士や博士である専門家が官僚として活躍している。
日本の官僚社会は、調整能力に長けた人、こちらとあちらの言い分を聞いて足したり引いたりで出世した人ばかりです。
私は論理思考のできる理科系の人が、官僚の世界のメインストリームになるべきだと思います。今は理科系の官僚は多くの省庁で専門知識があるからといって、「技官」という枠組みに押し込められています。その上に立つ「事務官」が何の専門知識もない人なのは奇妙です。結局、官民が常に入れ替わる「回転ドア」方式にしないとダメでしょう。
――日本を変えるには、まず、官僚社会を変えなければならないという見解ですね。
日本は官僚省庁内閣制と言われています。官僚によって支配されている省庁ごとの連邦共和国のような形態です。日銀総裁人事をあたかも財務省の「省内人事」のように扱ったことは記憶に新しい。これを変えるには、省庁ごとの人材採用を止めて国全体で採用と人事を行うべきです。当然、省庁ごとの天下りも廃止するべきです。こうした入り口と出口の両面での公務員制度改革が進行しています。もちろん政治改革も必要でしょう。これらが実現すれば新しい日本が登場します。



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