メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2008年4月5日~4月12日
| 最強の経済学者ミルトン・フリードマン | |
![]() | ラニー・エーベンシュタイン 大野 一 日経BP社 2008-01-17 売り上げランキング : 15381 おすすめ平均 ![]() ジャーナリストによるフリードマンの秀逸な伝記 反知性主義の「巨匠」 為替の変動相場制はフリードマンのアイデアAmazonで詳しく見る by G-Tools |
自由と真理を追い求め 世界を変えた経済学者
本書は、消費の理論と貨幣経済学、さらに多彩な分野で業績を残し、かつ、世界を変えた社会哲学者でもある経済学者の伝記である。業績の説明と人柄を示すエピソードがミックスされ、その学問的業績を知らない人も楽しく読めるだろう。
フリードマンの人生の後半は社会運動家と言ってもよいが、本質は実証経済学者であり、自ら、人々の価値観を変えることではなく、現実の姿を浮き彫りにすることで、リバタリアニズム(個人の自由を最大限に尊重する思想)に貢献してきた、と述べている。すなわち、政府介入の非効率性を、事実に即して説明することによって、自由の拡大に貢献してきた。これが共産主義の崩壊についても、影響を与えたのは事実であり、これこそがマルクスのいう歴史の必然にほかならないという。
その実証的な貨幣経済学は、米国の大恐慌が資本主義の不安定性が原因ではなく、金融政策の誤りによって生じたことを明らかにする。フリードマンの主張の多くは実証的なものだから、反論したければ別の証拠を提出すればよいと思うが、日本では証拠なしの批判が多い。大恐慌が金融政策の誤りによって生じたのなら、昭和恐慌も同じと思うが、そうした主張は日本でなかなか受け入れられない。
本書を読んで驚いたのは、フリードマンの学問的業績もリバタリアニズムも、アメリカでさえなかなか受け入れられなかったことだ。1960年代初めまで、資本主義はもっとも生産性の高い経済体制だと主張しても、うなずく人はごく一握りで、70年代までアダム・スミスは歴史上の奇人として扱われることが多かったという。
しかし、フリードマンの影響力は圧倒的だ。サミュエルソンの教科書の金融・財政政策論は、版を重ねるにつれて、フリードマンの主張に近づいていったと指摘されている。意見の相違を解消できる実証的事実を探せば議論に決着をつけられる、という発想を広めたのもフリードマンだ。ほとんどの論文は、このスタイルで書かれているから、すべての経済学者が彼の恩恵を受けている。
多くの政策提案は、一部にしろ、実現したものが多い。リバタリアニズムは、多様性を尊重する思想である。フリードマンは、公立学校にも同性愛者への差別にも反対し、一方で麻薬合法化には賛成である。
真理の追究ではなく、世間での地位に拘泥する人も少なくないが、フリードマンは、結果がどうなろうとも、ひたすら真理を追い求めた。本書は、自由と真理を追い求め、世界を変え、人生においても成功した希有な経済学者の読ませる伝記だ。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】
| まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか | |
![]() | ナシーム・ニコラス・タレブ 望月 衛 ダイヤモンド社 2008-02-01 売り上げランキング : 3454 おすすめ平均 ![]() 厳密にすればするほど、「運」・「偶然」に気づく 言葉がわかりにくいが独自の視点は興味深い この人おもしろいAmazonで詳しく見る by G-Tools |
投資行動における偶然や幸運の役割を解明する
最近のサブプライム危機は、歴史的にはまれな事象かもしれないが、一度起きると市場に与える影響が大きいことがあらためて実感できる。こうしたまれな現象を一般論として、投資行動における不確実性の観点から分析したのが本書である。
本書の原文は2001年に発売されており、以後べストセラーを続けているという。それもそのはずだ。一般的に信じられている常識を徹底して打ち砕くからだ。著者はさまざまな金融機関でデリバティブのトレーダーを経験し、現在は大学教授でもある。
人は運用成績が良いと偶然とは考えず自分の実力だと思い、失敗したときにはたまたま運が悪かったと考えやすい。真の実力かどうかを測るには母集団があまりにも少なく、偶然の作用も大きいからだ。
著者は、はやりの金融工学という分野には、えせ科学が大量に混じっている、と指摘する。統計上の分布が定常でないにもかかわらず、それを前提にして過去のデータを使いリスクを計算する。当然リスク管理はうまく機能しないし、いずれ高い代償を払うことになる、という。まさに今回の危機を予言しているかのようだ。
負けたときの損失の大きさと、勝ったときの収益の大きさはまったく違っている。少しずつ儲かるが、損が出ると大きい戦略(オプションの売り、クレジット物のロングなど)をとる投資家が多いが、まれな事象が起きるとこの戦略は吹っ飛ぶ。「黒い白鳥」は忘れたころに出現するからだ。
行動経済学も含め、確率論はもちろん、進化心理学、歴史学に至る幅広いカバレッジから説き起こす「偶然」に対する探求心に感服する。現在の市場環境に関心のある人にとって、必読の書である。【評者 高橋 誠 ファイナンシャル・アナリスト】
| サブプライム逆流する世界マネー―経済危機が投資チャンスに変わるとき | |
![]() | 中井 裕幸 実業之日本社 2008-02-01 売り上げランキング : 2126 おすすめ平均 ![]() かゆいところに手が届く解説 サブプライム問題の理解への最良の本:一般投資家だけでなく投資のプロも一読の価値ありAmazonで詳しく見る by G-Tools |
サブプライム問題の実情をストラテジストが伝える
全世界の金融マーケットを大混乱に陥れたサブプライム問題。その影響は世界の実体経済にも及んでいる。
著者は新聞、雑誌、テレビなどでもおなじみのストラテジスト。その著者が米国でFRB、財務省はもちろん、住宅融資会社監督機関のOFHEOや公的住宅金融機関のフレディマックなど、サブプライムに関連する機関を取材している。
書店の店頭にはサブプライム関連の本が並んでいるが、多くは学者や専門家による難解な解説書。今、何が問題で、解決のポイントはどこにあるのかという疑問に答えてくれる本は少ない。著者のようなマーケットに直接携わるストラテジストが、現地取材を基に個人投資家に、わかりやすく現実を伝えている本書は貴重な存在である。
本書で印象に残ったのは、昨年まではサブプライム問題に関して、米国内でさまざまな認識のギャップが存在していたということだ。FRBや財務省は住宅価格の先行きを楽観視していたのに対し、マーケット関係者は先行きを悲観していた。
また、投資銀行は景気全体への影響を懸念していたが、「住宅市場は悪いが、経済全体を揺るがすものではない」という意見もあった。
しかし、このところ、FRBなどのサブプライム問題への対応は驚くほど速い。著者はサブプライム問題はまだ続くとしても、市場の懸念材料としてのサブプライム問題は早い時期に消えるのではないかと指摘する。
では、その後に注目されるのはどこの国の株か。著者の挙げるのは日本株だ。住宅バブルが崩壊しつつある米国。金融引き締めに転じた中国。だが、日本については、「2007年に話題になった『ジャパンパッシング』とは逆の動きが起きてもおかしくはない」と言う。
| パイプラインの政治経済学―ネットワーク型インフラとエネルギー外交 | |
![]() | 塩原 俊彦 法政大学出版局 2007-12 売り上げランキング : 311024 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
世界に張り巡らされている原油と天然ガスを運ぶ幹線パイプラインは、地政学的な意味も含めて、国際政治経済の縮図である。
パイプラインのルート選択には、関係国との軋轢、敷設コスト、利用効率、環境問題などが複雑に絡んでいる。
筆者はロシア経済研究の第一人者であり、パイプラインがロシアを通ってヨーロッパ、中央アジアなどに向かい、さらに世界に広がる経緯を、初めて総合的に解説する。特に企業の実態に詳しい。
資源・エネルギーのネットワーク型インフラの一つであるパイプラインは、採掘会社―パイプライン会社―販売会社に分離され、採掘会社間、販売会社間の競争は熾烈である。
その一方、産油・産ガス国の多くでは、パイプライン部分を「コモンキャリア」として国家が管理するという傾向が強まっている。
日本の新しいエネルギー外交政策を構想するうえでも、必須の視点である。
| 3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書 (708)) | |
![]() | 城 繁幸 筑摩書房 2008-03 売り上げランキング : 37 おすすめ平均 ![]() 答えのない問いにどうでるか? 既得権益の壊し方に疑問 昭和的価値観Amazonで詳しく見る by G-Tools |
『若者はなぜ3年で辞めるのか? 』(光文社新書 2006年)で企業の年功序列制度がもたらした若者の閉塞状況を指摘した著者が、本書で「その後」を描く。平成になってから20年も経つのに、多くの大企業では、昭和の時代から続く風習や決まりごと、人事制度や働き方が支配している。若者の閉塞感はさらに強まっているという。
こうした現状に強い危機感を抱く著者は、大企業から抜け出した社員を取材して、辞めた後の新しい平成的な働き方を提示する。
それぞれテーマ別に業界の事情や社員の状況が描かれており、参考になる。
たとえばIT業界(ソフトウエア制作)。日本のIT業界は大企業が元請けとなり、ゼネコン化しているという。
その下にあるIT企業の実態はSEの人材派遣会社。階層制度の情報パイプの詰まりから、日本のIT業界は国際競争力がない。こうした業界を変えようという若者の姿を紹介する。
| 日本を救うインド人 (講談社+α新書 385-1C) | |
![]() | 島田 卓 講談社 2008-02-21 売り上げランキング : 20692 おすすめ平均 ![]() インドの入門書に最適Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本は「失われた10年」を経て、国際的影響力を急速に失いつつある。これ以上の凋落を防ぐには他国と手を組む必要があるが、どこの国が適切か。
著者は隣国の韓国でも中国でもなく、インドという。
日本では毎年7万社もの中小企業が、後継者不足から廃業している。一方、インドでは毎年1200万人以上の労働力が生まれるが、就業機会は少ない。日本とインドが協力することで、このギャップは解決できるのではないか。
交渉上手なインド人と口下手な日本人。ポジティブ思考のインド人と石橋たたきの日本人。日本とインドは正反対であるがゆえにベストパートナーになるかもしれない。
1991年からインドビジネスに携わっている著者が多数のエピソードを交えつつ、インドがジリ貧日本の「福の神」になる理由についてじっくりと説明する。インドの文化、習慣などを知るうえでも興味深い一冊である。
| 生体リズムと健康 [京大人気講義シリーズ] (京大人気講義シリーズ) | |
![]() | 若村 智子 近藤 雅之 原田 哲夫 丸善 2008-01-31 売り上げランキング : 110630 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
地球上のあらゆる生物は、24時間を基礎として生活するリズムを持っており、人間にも同様の機構がある。この「生体リズム」に関するさまざまな知識は、「24時間社会」といわれる現在、日常生活やビジネス、ヘルスケアなどで重要であるだけでなく、子どもたちの成長や教育にとっても大切である。
本書は、最新のトピックス、たとえば、光環境と体内時計、概日リズムとメラトニンホルモン、増加する睡眠障害、睡眠と事故の関係、快適な睡眠と住環境、体内調節と生体リズム、ジェットラグとシフトワーク、季節性感情障害、「24時間社会」による子どものライフスタイルの変化と問題点などを章立てにして解説している。
「24時間社会」に生きる現代人は、どうすれば健康的な生活を維持できるか、つまり、われわれが本来持っている「潜在能力」をいかに活用すべきかを、具体的に提示している。
| パリのパサージュ―過ぎ去った夢の痕跡 (コロナ・ブックス 137) | |
![]() | 鹿島 茂 鹿島 直 平凡社 2008-02 売り上げランキング : 42540 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
19世紀パリに出現した光降る空間への追憶
昨春、東京駅前に再建された新丸ビル内にパサージュと名づけられた通りがある。
古書店や骨董屋はさすがに期待はできないが、欧州のそれをまねた店構えに仕上がっている。パサージュとは鉄の梁とガラスの天井で覆われた商店街のこと。本来それは抜け道でもあり、雨や風をさけて買い物や散歩が楽しめる街の隧道だった。
本書はパリに精通した仏文学者で博覧強記のエッセイストによる、その発祥地をめぐる案内記だ。パサージュとアーケードの違いはバルザックやフローベールの時代が真空パックしたように封印されていることだ、と著者はいう。
パサージュの興隆期は19世紀半ばまで。やがて登場する巨大デパートが消費空間のトレンドになる。パサージュの魅力を再発見するのは20世紀初頭のシュルレアリストたちだった。
パサージュのガラス屋根から降る光は時の移ろいとともに、通りを異界に変え、店先や事物の意味を倒錯させた。消えゆくパリを記録した孤高の写真家アジェの作品が彼らを刺激したかのように。
思想家ベンヤミンは、もうひとつのパサージュの都プラハでカフカが現実と過去を往還したごとく、このパリのタイムトンネルを遊歩して『パサージュ論』を著した。
本書にはパリ市内の19のパサージュが選ばれていて、解説は丁寧で時に辛辣だ。
「商業資本の魔手が」「過去の記憶をすべて消し去ってしまうような再開発が行われようとしている」。およそ200年前に誕生し、20世紀を生き延びたパサージュは今世紀にも試練に立たされている。19世紀のパリを追慕する著者の気持ちが伝わり、写真が旅心をくすぐる。【評者 写真家 中川道夫】
| レバレッジ・オーガナイザー ─自分にレバレッジをかけ、無限大の成果を生み出す実践手帳─ | |
![]() | 本田 直之 東洋経済新報社 2008-03-28 売り上げランキング : 68 おすすめ平均 ![]() 本ではない これはおもしろい! 「著者の成功の秘訣がここにある!」と言ってもいいのでは!?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
3週間で変われる!
「時間に追われ、仕事以外何もできない」「自分の夢実現のために、何から手をつけたらいいかわからない」という方は多いはず。そのような方々のための実践的な本が出た。
『レバレッジ・オーガナイザー』である。本書はベストセラー「レバレッジ」シリーズの著者・本田直之氏の最新作。著者は言う。人生全般で「うまくいっている人」とそうでない人の差は次の3点にあると。
〔1〕効率的な生活パターンをしているか否か
〔2〕レバレッジがかかる習慣・考え方をしているか否か
〔3〕自分で人生をコントロールをしているか否かこの小さな三つの違いが「複利」で先行きを大きく変えるのだという。
しかしその考え方は理解できるが、実践できない、実践法がわからない、というのが多くの意見だろう。
その悩みを解決するのが本書だ。本書はレバレッジ理論に基づき、ゴールの設定から習慣チェック、タスク管理が書き込み式となっていて、日々の生活で「使える」のだ。1日10分、3週間の継続で効果が実感できるという。センスあふれるデザインなので、ステーショナリー感覚で「使って」いきたい。
| ヒトラー・マネー | |
![]() | ローレンス・マルキン 徳川 家広 講談社 2008-01-11 売り上げランキング : 7614 おすすめ平均 ![]() 『大脱走』とか『007』が好きな、戦争映画、スパイ映画好きの人にオススメ おもしろいが食いたらない ドイツ情報部の数少ない成功した作戦Amazonで詳しく見る by G-Tools |
通貨の信用を破壊せよ ナチスの偽ポンド作戦
平時であれ戦時であれ、敵国を欺くための偽装、欺瞞作戦は常套手段である。その中で最も秘匿すべき通貨偽造作戦は、かつて敵対する都市国家の銀貨を卑金属で偽造した古代ギリシア時代以降、現在の北朝鮮の偽ドル札に至る現在まで枚挙にいとまなしであろう。
ところで、第2次大戦期に死闘を重ねた両陣営はどのような偽造作戦をとったのだろうか。
本書によると、連合国陣営でも「偽ドイツマルク作戦」がひそかに取りざたされたが、イギリスはドイツ国内での散布・使用の機会がないという技術論から、またアメリカは道徳的見地から偽造作戦を断念するが、ドイツは当時の基軸通貨であるポンドの偽造作戦に挑んだ。敵国の経済破壊工作とすでに枯渇していた外貨獲得のためでもあった。
最初はドイツ人だけが行う「アンドレアス作戦」であった。この偽ポンド札は欧州の金融の中心地スイスでさえ見破られなかったほどの、見事な出来栄え。だが、おカネの放つにおいに引き寄せられたためか、偽ポンド札を隠匿するものが出てきたために、この作戦は空中分解してしまった。
次に採用された「ベルンハルト作戦」はザクセンハウゼン収容所の中で、機密保持と隠匿防止のために、170人のユダヤ人技術者を使い、作戦が完了したあかつきにはこれに関与したユダヤ人を毒ガス室に送り込めばよかったのだ。
偽装した量は約900万枚、さらに米ドル、ヨーロッパ各国の公文書、身分証明書、パスポートなども追加偽造された。敗戦直前、この収容所を解放した米軍によってこの偽装作戦が暴露された。だが、すでに流通しているポンド紙幣の13%はこの偽札だったという。優柔不断なイングランド銀行が真贋確認のためにようやく回収・交換に応じたものの、イギリスのポンドの信頼性が台なしにされたという点で、この作戦は所期の目的を果たしたことになる。
偽札の資金洗浄に関して、面白いエピソードがある。ドイツはこの任務に20世紀を代表するスパイを使った。たとえば、あの007ことジェームズ・ボンドのモデルといわれた「二重スパイ」ドスコ・ポポフも偽札をつかまされていた。
また、アルバニア人の「二重スパイ」で古代ローマの雄弁家「キケロ」をコードネームに持つフォン・パーペンもせしめた30万ポンドが偽札だと判明し、戦後、ドイツ政府に損害賠償の訴訟を起こすが、結局、極貧のまま死んでしまう。「金銭が身を守る」とは、旧約聖書の言葉であるが、偽札に関しては、「悪銭身に付かず」が至言であろう。【評者 法政大学理工学部教授 川成 洋】
| 清水義弘、その仕事 | |
![]() | 清水義弘先生追悼集刊行委員会 東信堂 2008-01 売り上げランキング : 83832 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
学問を確立し、弟子を育てた偉大な教育学者
あるシンポジウムで年輩の学者と一緒だったときのことである。「きみのようなものが(京都大学)教育学部で、よく生き残れたね」と言われたことがある。1960年代までの教育学部といえば、進歩的教育学者の牙城だったから、左翼でもないきみのようなものがサバイブできたね、と言われたのである。
なかでも東京大学教育学部は宗像誠也(教育行政学)教授をはじめとする日教組講師団の巣窟だった。彼らは論壇や出版界でも売れっ子だったから、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。そんな東京大学教育学部に赴任してきたのが、本書の清水義弘教授である。巻き込まれるか、いじめられ、放逐されるかのどちらかであったろう。
清水はそのいずれでもなく、教育の実証的研究によって教育社会学を学問として屹立させることに奮闘した。教育社会学を東大教育学部のなかで最も人気のある講座にした歴史に残る大教授である。政府の審議会委員も多数こなした。
そんなことから進歩的教育学者は清水に(政府の)御用学者というレッテルを張った。しかし、清水を御用学者というなら、進歩的教育学者は日教組御用達学者であろう。
本書はそんな清水の薫陶を受けた天野郁夫東大名誉教授や潮木守一名大名誉教授など、そうそうたる弟子たちの清水回想録である。弟子たちが異口同音に思い出として語るのは、清水に厳しく叱られ、ときには破門され、すぐに許されたことである。他方で、落ち込んでいるときに、声をかけ、励まされ、就職の世話などの面倒を見てもらったことである。その厳しさは、いまではアカハラになってしまうだろうし、世知辛い昨今では、清水のような面倒見のよさは、困難だろう。逝きし日の師弟関係がなつかしく、美しい。【評者 関西大学文学部教授 竹内 洋】
| キャリアウーマン・ルールズ 仕事にフェロモン戦略は有効か? | |
![]() | 横江 公美 ベストセラーズ 2008-01-26 売り上げランキング : 3003 おすすめ平均 ![]() これから社会に出る女子学生諸君の道しるべになるかも フェロモン女に被害を受けている方にお勧めAmazonで詳しく見る by G-Tools |
こうすれば女性は男社会で出世できる
女性がキャリアを積み、出世を勝ち取るための「戦略本」である。日本で雇用機会均等法が施行されて20年余り経った。
だが、会社の意思決定権の多くは、まだ男性が握っている。
女性の社会進出では日本の先を行く米国でさえ、その出世には見えざる壁(ガラスの天井)があるという。本書はそうした現実を踏まえた、本音ベースの出世論だ。
出世には仕事の実力が必要不可欠。それを著者は、二つに分解してみせる。「業務に関する能力」と「アプローチ力」だ。後者は、特に上司に対する「好感度」と、部下に対する「手柄配分力」からなる。簡単にいえば、仕事ができるだけではダメ、上司にも部下にもウケがよくなければ出世はおぼつかない、というわけだ。
著者は出世する女性のタイプを二つに分ける。「オンナ」と「オトコ」だ。オンナ・タイプはフェミニン系のファッションに身を包み、フェロモンを戦略的に振りまきつつ、男性上司の引きで出世の階段を上っていく。一方、オトコ・タイプは何よりも仕事第一。フェロモンこそ振りまかないが、どこか愛嬌がある。男性上司にしてみれば、一生懸命にがんばる愛娘を見守る心境だろうか。
本書には、米国滞在の経験をもとにした「キャリア・ファッションのコード」といった記述もある。ノウハウ本とエッセイの中間といった趣きで、文章構成や図解など若干整理されていない部分もあるが、ビジネスウーマンにとっては役立つ情報が散りばめられている。
とはいえ、本書は「男性への媚び方」を書いたものではない。根強い男社会を軽やかにすり抜け、第一線で活躍する女性が増えることが社会のあり方を変えるという、女性への応援こそが著者の思いだろう。【評者 三上直行】
| シャネル 最強ブランドの秘密 (朝日新書 100) | |
![]() | 山田 登世子 朝日新聞社 2008-03-13 売り上げランキング : 37349 おすすめ平均 ![]() ストリート生まれのシャネルAmazonで詳しく見る by G-Tools |
仕事で活躍する女性は日本でも年々増えている。
世界を見渡したとき、そうした「働く女性」の先駆けは、シャネルブランドの創始者ココ・シャネルだと著者はいう。ではシャネルはいかにブランド帝国を築いたのか。彼女自身の「語録」を基に、その生涯に光を当てる。
本書によると、シャネルの功績は「贅沢革命」にあったとする。シャネル誕生以前、女性の贅沢は「メイドに靴下を履かせてもらうような生活」だった。しかしシャネルは、その贅沢を拒絶。働くこととエレガンスをいかに両立させるかに主眼を置いた。
シャネルが創造したのは、ファッションの枠を超えた女性のライフスタイルだった。生涯シングルで働き続けたシャネルの姿こそ、その象徴だったかもしれない。それでは21世紀の「贅沢革命」とは何になるのか。ブランドを身につけた女性に対し、シャネルは今もそう問いかけているように思える。
| ヘミングウェイとスペイン内戦の記憶―もうひとつの作家像 | |
![]() | 船山 良一 彩流社 2007-12 売り上げランキング : 587850 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今から70年余り前の1936年に勃発したスペイン内戦は、数々の文学作品やピカソの「ゲルニカ」などを生み出し、豊穣な芸術的な土壌となった戦争ともいえる。またその芸術への動機付けとなった1930年代の百花繚乱のイデオロギーが政治としての武器をとった戦争でもあった。
20世紀のアメリカ作家の中で、最大の「スペインびいき」であるヘミングウェイも、新聞記者として共和国側を取材した。ちなみに彼の取材記(アーネスト・ヘミングウェイ「マドリッド無感覚」)が、NANA通信社の配信記事として、『東京朝日新聞』(37年7月19日付)に掲載されている。
本書は、名作『誰がために鐘は鳴る』の評価を中心にして、従来の作家像の再検討を試みた意欲作である。彼の名作がなぜアメリカ人義勇兵から蛇蝎のごとく嫌われたのか。当時一世を風靡した「作家の行動」という社会的文学観と無縁ではあるまい。
| KY式日本語―ローマ字略語がなぜ流行るのか | |
![]() | 北原 保雄(編著) 「もっと明鏡」委員会(編集) 大修館書店 2008-02-07 売り上げランキング : 1853 おすすめ平均 ![]() 単純に面白かったです。 それってND? 勘違いしないようにAmazonで詳しく見る by G-Tools |
2007年、当時の安倍晋三首相率いる内閣を称してKY。KYとは「空気読めない」という意味である。それからか、女子高校生の間で使われていた、こうしたローマ字式略語がサラリーマンの間でも使用されるようになっている。
「KYくらいなら知っている」というお父さん。それでは娘さんから、「ATM」といわれたら……。
ATMとは銀行にある機械ではなくて、「アホな父ちゃんもういらへん」。ダメ出しの言葉である。
本書はこうした略語をたくさん収録している。
さすが漢和辞典などの老舗出版社の本だけあって、YM(やる気満々)である。ローマ字式略語の索引が付いているのもCB(チョー便利=すみません、勝手にこちらが作りました)。
日本語は生きている。ローマ字式略語の老舗であるNHKは、「日本貧乳協会」になってしまった。SMは「車内メーク」に。社員食堂で女性社員からAMといわれたら、どうしよう。
| 富裕層はなぜ、YUCASEE(ゆかし)に入るのか | |
![]() | 高岡 壮一郎 幻冬舎 2008-02-08 売り上げランキング : 59 おすすめ平均 ![]() YUCASEE会員のマジョリティは経営者 富裕層セグメンテーション 知られざる”高み”Amazonで詳しく見る by G-Tools |
わが国には現在147万人の富裕層が存在し、日本の人口の約100人に1人が純金融資産1億円以上を持つといわれている。
しかし、彼らの実態と本音はなかなか見えてこない。
本書では、秘密に包まれた富裕層の真実を、「YUCASEE」(ゆかし)という、純金融資産1億円以上の富裕層だけが集まるネットコミュニティを通して解き明かしている。
ゆかし会員がネットコミュニティ上で交わしているのは「ブラック・カードのマニアックな使い方」「数十億円のウィーンコンチェルトハウス命名権」「創業400年、有名レストランのオーナー権」「永住権を取るならどこの国がよいか」など、想像をはるかに上回るおカネの使い方のあれこれである。
専門知識や起業によって成功した新しい富裕層たちは、何を求めているのか。その答えが見えたとき、現代社会の新富裕層の姿が浮き彫りになる。
| 日本文明・世界最強の秘密 | |
![]() | 増田 悦佐 PHP研究所 2008-02-21 売り上げランキング : 3392 おすすめ平均 ![]() 日本固有の「鉄道文明」が、「世界最強の秘密」 都市文明論 なるほど、日本再生論にはこういうアプローチもあるのか。この本は読まなきゃ損だ。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者に聞く 『日本文明世界最強の秘密』を書いた証券アナリスト増田悦佐
東京、大阪の都市鉄道が日本経済の強さだ
──東京、大阪の発達した都市鉄道が、日本経済を救い、発展させるという視点から本を書いています。
私は米国に7年間住んでいました。建設・不動産担当の証券アナリストになってからも定期的に欧米に出張しています。欧米での移動はクルマが頼りで、道が混んでいれば時間がどのくらいかかるか予測できない。自動車交通は確実性の低い、エネルギー効率の低い交通手段で、こんなものに依存して、よくあれだけの規模の経済が成立しているな、というのが実感です。
それに比べると東京圏、大阪圏は電車で一度か二度乗り換えると確実に目的地に到着することができます。
日本の地方はクルマ社会になり、クルマがないと生活できなくなっています。しかし、いちばん大きい経済圏と、2番目に大きい経済圏がクルマなしでも生活できるということが、欧米と比べて、貧富の格差を小さくとどめ、犯罪発生率も低くとどめているのではないか、という問題意識からこの本を書きました。
──時間に正確で、使いやすい都市鉄道ネットワークを持っているのは、世界でも東京圏と大阪圏だけですか。
そうです。高頻度・大容量の効率的な鉄道運行は人口密度の高い大都市圏でしか成立しませんが、鉄道網の利便性と人口密度の高さの相乗効果で、経済的なパフォーマンスも高まります。
欧米の大都市では人口密度が一定の水準を超えると、それから先はクルマのために使わなければならないスペースが増えていく。人間がオフィスワークで仕事をするスペースに比べて、道路や駐車場のスペースが増えていく。
これに比べると、都市鉄道は、定員の2倍、3倍の人員を詰め込めます。人口が増えても既存のネットワークで対応することができます。
したがって、人口密度の高い場所でしか成立しない規模の経済、集積の経済、範囲の経済、密集の経済――こうしたさまざまな経済効率の上昇が期待できます。
それに加えて、鉄道のエネルギー効率は非常に高い。1人の人間を1キロメートル運ぶのに必要なエネルギー消費量がバスの3分の1、自家用車の6分の1です。
したがって、鉄道を頻繁に利用している日本の大都市圏では移動のエネルギー効率が高い。その結果、日本は世界一エネルギー消費を経済活動に転換する効率の高い国になっています。
石油換算で1000トンのエネルギーを消費したとき、日本は1万4000ドルのGDPを稼ぐことができます。2位のイギリスが1万ドル未満です。2位の国と比べても4割も高く、世界平均の2倍も高い。これからエネルギーコストが高まる中で、顕著になる利点です。
クルマに依存するNY圏の人口は1900万人で、これがクルマ社会の規模の限界ですが、東京圏は3500万人です。しかし、東京圏の人口はまだ天井が見えていません。私の印象では、東京圏に6000万人の人口が集まったとしても、混乱なく収容できると思います。現実に香港、シンガポールは東京圏の人口密度の2倍以上あります。


ジャーナリストによるフリードマンの秀逸な伝記
反知性主義の「巨匠」




既得権益の壊し方に疑問
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