メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2008年3月22日~3月29日

モノづくり幻想が日本経済をダメにする―変わる世界、変わらない日本
モノづくり幻想が日本経済をダメにする―変わる世界、変わらない日本野口 悠紀雄

ダイヤモンド社 2007-10-27
売り上げランキング : 2631

おすすめ平均 star
starどこかで読んだような・・・
star日本経済の構造改革は難しい。自分の構造改革を先にするしかない。
star日本の現在の姿

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旧体制復活への強い危機感

日本経済が「失われた10年」から脱却することができたのはいかなる要因によるものかと設問することは、最近の経済の動向を考えるうえで興味深い問題の一つである。

この問題に対する一つの解答は、不良債権処理が進展したから、というものである。もう一つの要因として、中国をはじめとする新興国の需要拡大によって製造業が復活したことをあげることができるだろう。

終戦後の日本が朝鮮特需をきっかけに混乱期を脱したのと同じように、バブル崩壊後の日本は「中国特需」によって長期停滞から抜け出したのである。

この景気回復は伝統的な製造業の復活をもたらしたことから、最近では「日本の強みはやはりモノづくりにある」との認識が広まりつつあるが、このような見方からすると、本書のタイトルはいささか挑発的である。もっとも、著者の主張は「製造業はダメだから、これからは金融立国だ」というような単純なものではない。

本書に示されているのは、規格大量生産型の「コモディティ」によって量的拡大を目指すような従来型のビジネスモデルに依存し続ける限り、日本経済に明るい展望は開けないということなのである。

この十数年間で「世界は大きく変わった」と著者は言う。だとすれば、「世界が変わった」ことに適応して「日本も変わる」ためにはどうしたらよいのだろうか。その処方箋として本書に示されているのは、「よそ者」を呼び込むことによってオープンで競争的な環境をつくること、横並びで他の人(他社)と同じことをしていれば安心という発想から脱却すること、困ったら国に頼ればよいという依存心を捨てることである。

これらを実行に移すには、外資導入によるプレーヤーの交代と専門性をもった人材の育成によって、物量作戦ではなく「知恵比べ」が高い付加価値を生み出すビジネスモデルを確立することが重要になる。だが、景気回復が続き、危機感が薄れる中で、企業と社会の変革は後退し、従来の体制が復活しつつあると著者は指摘する。

本書の冒頭にある寓話には、「規制を緩和しても、法人税を下げても、外国の企業による買収を拒否したままでは、日本はイギリスのようにはなれない」という「教訓」が示されている。

政府が率先して外資規制を導入しようとしたり、政府高官が市場や価格メカニズムに対する無理解を露呈する発言をしているようでは「日本が変わる」ことは難しい。本書は、安全保障の問題を心配したり、デイトレーダーを批判したりする前に、読まれるべき一冊である。【評者 中里 透 上智大学経済学部准教授】

■2008/03/29, 週刊東洋経済

そうか、もう君はいないのか
そうか、もう君はいないのか城山三郎

新潮社 2008-01-24
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おすすめ平均 star
star本書が湛える底光り
star湘南ダディは読みました。
star亡き奥様への深き愛と感謝の回想記

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最愛の妻への尽きせぬ想い

なんという書名だろうか。この一言に著者の妻への想いが言い尽くされている。作風からは、これほど熱く妻への想いを語る作家だとは思えなかった。

一橋大学の学生だったとき、休館日を知らずに出かけた図書館で女子高生と出会い、天から落ちて来た「妖精か天女か」と思い詰める。だが彼女の父親の反対にあって仲を引き裂かれてしまう。しかし、大学卒業後「妖精」と奇跡的な再会をする。その時、もはや二人の仲を裂くものはなかった。

結婚すると、かねての思い通り「筆一本」で生きようと小説を書き始める。2作目で文学界新人賞を受賞し、2年後、『総会屋錦城』で直木賞を受賞する。新しい社会小説と評価され、経済小説の開拓者となった。

妻とはよく一緒に旅に出かけた。取材旅行にも同伴した。

だが旅先では別行動が多かった。著者は必要な取材の後はホテルで新聞雑誌を読んでくつろぐ。妻は独りで土産物を買いに町へ出かける。その自由な振る舞いがうれしかった。彼女はいつまでも「妖精」であった。

その妻が68歳で永眠した。

「容子がいなくなってしまった状態に、私はうまく慣れることができない。『そうか、もう君はいないのか』と、なおも容子に話しかけようとする」

その7年後、著者は「妖精」の元に旅立つ。巻末で次女の紀子はこう記す。「大陸的な母と風のような父。初めて出会ってから少年少女の心のまま、あの世まで逝ってしまった二人」。

私事だが、著者の代表作の一つ『官僚たちの夏』がNHKのドラマになった時、その脚本を書いた。著者に会ったことはないがとても冷静な人だと思っていた。だから「最愛の伴侶」に、その想いをこんなにもストレートに伝えようとする人だと知って、ただ驚いている。【評者 仲倉重郎 映画監督】

■2008/03/29, 週刊東洋経済

アメリカにいる、きみ (Modern&Classic) (Modern&Classic)
アメリカにいる、きみ (Modern&Classic) (Modern&Classic)C・N・アディーチェ くぼた のぞみ

河出書房新社 2007-09-21
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おすすめ平均 star
starそれでも、あえて言う。この作家の作品は「普遍性をもつ」。
star短編とは思えない心理描写
starナイジェリアからアメリカへ~心震わせる珠玉の作品集。

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新しい英米文学の彗星 感傷と深い味わいの小説

英米文学界に新星が現れている。19歳でナイジェリアから渡米、現在イエール大学博士課程にいるアディーチェである。

『アメリカにいる、きみ』はO・ヘンリー賞を受賞した短編小説集である。確かに収録されている短編「見知らぬ人の深い悲しみ」などには、きめ細かい心理描写がある。

しかし、この短編集に感傷だけを期待すると、その期待は裏切られる。極めて重く、深い内容が詰まっているからだ。

米英文学に「ポスト・コロニアリズム」という分野がある。

これは旧植民地と旧宗主国の関係に着目し、旧植民地文化を再評価し西欧の文化を問い直すものだ。しかし、独立国には平和は簡単に訪れない。旧宗主国が去っても部族対立や独裁者などとの戦いがある。これらを主題とする作品であり、新ポスト・コロニアリズムとでも呼べる分野である。その旗手の一人が著者アディーチェである。

O・ヘンリー受賞作の「アメリカ大使館」は独裁者に刃向かったジャーナリストの夫を逮捕に来た男たちに、幼子を殺された女性の物語である。根底には社会の不正義に対する怒りがある。だが、その内容は単純な勧善懲悪ものではなく、夫も英雄として扱っていない。また、英語で書かれた女流作家に対する英国オレンジ賞を受賞した「半分のぼった黄色い太陽」はビアフラ戦争をテーマにしている。

歴史的に米国には白人文化への同化を要求する風潮がある。S・ハンチントンは「ホワイトネス(白人らしさ)の追求こそ米国の伝統」と主張する。

ブッシュ政権下の米国社会ではこの傾向が強まった。他方、オバマを有力大統領候補として受容する動きもある。文化面では、多元的文化を育てる動きも存在する。著者アディーチェはこの流れの中にいる。【評者 孫崎 享 防衛大学校教授】

■2008/03/29, 週刊東洋経済

地中海の記憶―先史時代と古代
地中海の記憶―先史時代と古代フェルナン・ブローデル

藤原書店 2008-01
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おすすめ平均 star
star地中海の黎明を抒情豊かに味わう
star文明の「記憶」の語り方

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名著『地中海』で一世を風靡したフランスの歴史学者ブローデル。ブローデルが本書では先史時代から古代までの地中海を中心にした歴史を扱う。歴史時代になってからの記述だけで古代メソポタミア文明からキリスト教を受容する直前のローマ帝国まで。

邦訳で490ページの大著だが、4000年の歴史を扱うには紙面幅がない……。と思いきや、すらすら読めるうえ、随所に独自の歴史観が出ており、有益な歴史書になっている。

特に興味深い記述は、たとえば世界を制覇したアケメネスペルシャ帝国がなぜ簡単にマケドニアに敗れたのか。それは、ペルシャ帝国の心臓部だったレバント(地中海東岸、同盟国フェニキアがあった)を失ったからだという。

あるいは、地中海帝国だったローマ帝国がカエサルのガリア征服によってヨーロッパの帝国に変身したという記述(「ローマが地中海より大きくなる」)。歴史を楽しめる名著だ。

■2008/03/29, 週刊東洋経済

覇権国アメリカの終焉―相場を通じて見える世界
覇権国アメリカの終焉―相場を通じて見える世界宇野 大介

時事通信社 2007-09
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おすすめ平均 star
star自分の立ち位置確認のためには良書
starマーケットから感じる覇権の翳り

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著者は銀行でマーケット予測に従事して17年。その著者が米国の覇権は終焉に向かって進んでいると主張する。

本書は三部構成。第一部では食うか食われるかの金融市場に身を置いている者として、世界中の事象をどのようにとらえているかがまとめられている。

第二部の「マーケットから見えてくるもの」では現実の相場の動きやそこでの体験から米国覇権の揺らぎを見るとともに、今後の相場を予測する。第三部では異なった視点から米国覇権の終焉について考察したうえで、国益という観点から今後の日本のあり方について提言もしている。

最近はBRICsなど新興国が世界経済の牽引役として期待されているが、著者は「米国覇権の終焉」の次に来るのは「ユーロ覇権」であるという。

サブプライムローンの焦げ付きから米国経済が衰退しつつあり、日本が岐路に立たされている今だからこそ読みたい一冊である。

■2008/03/29, 週刊東洋経済

反骨のコツ (朝日新書 69) (朝日新書 69)
反骨のコツ (朝日新書 69) (朝日新書 69)團藤 重光; 伊東 乾

朝日新聞社 2007-10-12
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おすすめ平均 star
starまずは他の本から
star考えるための手がかりとして
star第一歩として

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團藤重光といえば、かつて法律を学んだ人なら、「團藤刑法」と条件反射的に思い出すに違いない。東大名誉教授、最高裁判事、文化勲章受章者という経歴――。現在94歳の團藤さんが、54歳年下の作曲家・指揮者の伊東さんと対談したのが本書である。

「日本刑法の父」といわれる團藤さんは、「死刑廃止は天の意志」と主張する。

三十数年前、最高裁判事として死刑判決を下した法廷で傍聴席から「人殺し!」と鋭い声で叫ばれ、それ以来という。

また来年から始まる裁判員制度は、英米の陪審制とは異なり、「官製」のごまかし制度と痛烈に批判する。

かつてGHQと渡り合って、現憲法や刑事訴訟法を起草し、現在「占領軍に押しつけられた憲法」とする憲法改正論に真っ向から反対する。「法の本質は、世の中の悪と戦って平和を求める」と言い切り、そのためには「体制の中にあってこそ反骨精神を持つことが大事です」と。

■2008/03/29, 週刊東洋経済

ドン・キホーテ批評論
ドン・キホーテ批評論片倉 充造

南雲堂フェニックス 2007-12
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聖書に次ぐベストセラーといわれる『ドン・キホーテ』の面白さはどこに?

別言すれば、ドン・キホーテとサンチョの主従が表現する数々の「冒険」とはいったい何だろうか。

また、この作品全編に漂う「狂気」とは何だろうか。

この設問への解答を試みた本書によると、セルバンテスは『ドン・キホーテ』で、「見ること」(視覚)よりも「信ずること」(信念)を主張し、「死ぬってことは別にして、人間万事抜け道あり」とあらゆるものを相対化し、価値の両義性・多義性を提示し、世間知・経験知に基づく名裁きをサンチョに披露させている。つまり、あの「風車の冒険」のようなばかげたことに、ちゃんと「種明かし」をして、整合性を持たせているのである。

混迷と彷徨を深めていく現代社会にあって、『ドン・キホーテ』は確かな人間的な指針を与えてくれる作品、前向きに生きるための人生の指南書、と本書は力説している。

■2008/03/29, 週刊東洋経済

資本市場ネットワーク論―IR・アナリスト・ガバナンス
北川 哲雄 (著)

株価を形成する業績予想、IR、アナリストへの問題提起

現代日本の株式市場について、広範かつ深遠な問題点を指摘している。たとえば、日本に限らず世界中の株式市場を覆う弊害、短期(収益)主義をどう克服するかといった論点だ。

著者は企業が「公式予想」(アメリカ流に言えばガイダンス)の公表をやめるという解決策を提示している。

株式市場の短期主義の底流には、大手証券会社の収益拡大指向があるので、これだけでは矯正できないかもしれない。

だが、アナリストとしては、公式予想に多少色をつけた程度の予想ではお茶を濁せなくなる。必然的に、中長期的な業界展望に基づいたリサーチを心がけるようになる。したがって、アナリストの技量向上に貢献することは間違いないだろう。

一般の読者にとってもっとも興味深く、著者自身の筆致にも生彩があるのは、「アナリストの自由競争とは何か」というサブタイトルのついた第2章第3節かもしれない。ここでは、薬品業界担当の新米アナリストとして大阪に常駐した著者の修業時代が生き生きと描かれている。だが、この節は、アナリストという職業自体がまだ社会的な認知を受けていなかったころ、のどかな風景の追想にとどまらず、企業におけるIR(投資家に対する情報開示)において「公平性」という概念の占めるべき位置への問いかけともなっている。

企業による情報開示が、正確性・迅速性・公平性を最大限に追求したものであるべきなのは当然だ。だが、著者は公平性という言葉が、往々にして企業側によって「それは他企業のアナリストに開示していないことなので、あなたにも教えられない」という逃げ口上に使われがちだと指摘する。

著者は、核心をつくような質問ができるまで準備をして企業訪問をするアナリストと、通り一遍の質問しかせず型通りの答えしか引き出せずに終わるアナリストのあいだでは、持ち帰る情報の質に差が出るのは、当たり前ではないかと問いかける。

評者もまた、この意見に心から賛同する。公平性の原則は、決して優秀なアナリストと凡庸なアナリストの差を覆い隠すために使われるべきではない。

ともすれば日本では本業とはかけ離れた「課外活動」のように見られがちなIRが、資本市場の健全な発展には不可欠の分野であるという主張にも、全面的に賛成したい。良いIRが必ず株価上昇に結びつくわけではない。しかし、もしある企業の株価が良いIRにもかかわらず下落したとすれば、それは下落前の株価はその企業自身にとっても維持できない高い水準だったことを示しているのだ。【評者 増田悦佐 証券アナリスト】

■2008/03/22, 週刊東洋経済

抜本的税制改革と消費税―経済成長を支える税制へ
抜本的税制改革と消費税―経済成長を支える税制へ森信 茂樹

大蔵財務協会 2007-10
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望ましい税制度と政府の規模からの税制改革を

少子高齢化を迎える日本において、将来の負担を支える税としての消費税に対する期待と反発が同時に大きくなっている。

本書は、税制を抜本的に改革することが必要であり、そのために消費税の役割は大きいと説く。本書の論点の包括性と説明の公平さは貴重と思う。

諸外国の税制改革論議は、税制中立を前提としているという指摘は重要だ。すなわち、専門家は、経済を歪めず、成長を促進し、税の徴収コストを低めるために望ましい税制を議論し、増税するかどうか、つまり政府の規模をどれだけの大きさにするかは政治家の仕事としているという。税制論議と言えば、消費税の上げ下げに収斂しがちな日本とは大きな違いだ。

法人事業税と法人住民税を富裕な自治体からそうでない自治体へ再配分することになったが、本書は、地方法人税は、地域における受益と負担のバランスが取れないこと、法人には選挙権がないので安易な増税になりがちであり、欧米諸国においては、存在しないか、地方税収入のうちのわずかなシェアを占めていることを指摘する。

社会保障財源としての消費税を採用するときには、消費税引き上げに伴う年金の物価スライドは停止すべきと主張する。消費税に財源を求める最大の理由は、年金受給世代も含めた全世代に等しく負担を求めることで、物価スライドを適用したのではその意味がなくなるからだという。もっともな指摘だが、これまでは物価スライドが適用されてきたことを考えれば、漫然と引き上げれば、これまで通りということになるだろう。そうさせないためにどうしたらよいのかも書いて欲しかった。

最後に、著者の抜本的税制改革私案がまとめられている。税制改革に関心を持つ読者は、多くを学ぶことができるだろう。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2008/03/22, 週刊東洋経済

私はこうして受付からCEOになった
私はこうして受付からCEOになったカーリー・フィオリーナ

ダイヤモンド社 2007-11-30
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おすすめ平均 star
star外資系で頑張る人へ
star外資に勤務する方は是非一読を
star評判通りの内容だが、訳に疑問点も

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女性経営者の成功と挫折 困難に立ち向かう勇気に感動

著者はHP社のCEOを務めた伝説の女性経営者である。

本書は、「率直」であることを何よりも大切にし、強い意志と信念をもって、数多くの「困難な選択」に立ち向かってきた、ひとりの女性経営者の成功と、挫折の自叙伝である。

本書によって、これまでメディアの影響を受けていた評者の著者に対するイメージは一変した。著者がとても魅力的な人間、素晴らしいリーダーに見えてきた。まさにメディアから不当な評価を受けてきた著者の名誉挽回である。本書の内容が「真実」だとすれば、メディアの真実性を問わずにはいられない。

本書からうかがい知ることのできる著者の魅力は枚挙にいとまがないが、中でも社員を尊重し大切にする著者の姿勢は印象的だ。株主重視の傾向の強い米国型資本主義の中にあって「人」が何よりも大切と考えること自体、なかなかできないが、それを実践し成果を出してしまうあたり、いかにも著者らしい。

そんな著者も、自身の大きな武器である「率直」さが、著者の成功に大きく貢献したことは事実だが、逆に率直すぎたことが老獪な経営陣に付け入る隙を与えてしまい、最後にはパワーポリティクスに敗れてしまったことは、非常に残念だ。

さて、本書はまた「変革のマネジメント」や「M&A」のケーススタディとしても十分魅力的だ。著者のAT&T、HPでの変革経験、HPによるコンパック併合経験からは、学ぶところが多い。

それにしても、コンパック併合時の創業者一族との委任状争奪戦で、カネのためにはなんでもする弁護士団に嫌悪感を抱くとともに、米国型資本主義(拝金主義)に限界を感じたのは、評者だけだろうか。

さまざまな楽しみ方ができるうえ、読後の爽快感も得られる。【評者 黒田康史 YSコンサルティング代表】

■2008/03/22, 週刊東洋経済

公明党vs.創価学会 (朝日新書53) (朝日新書 53) (朝日新書 53)
公明党vs.創価学会 (朝日新書53) (朝日新書 53) (朝日新書 53)島田 裕巳

朝日新聞社 2007-06-13
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おすすめ平均 star
star落ち着いた立ち位置からの考察
star公明党と創価学会を俯瞰できる好著
star創価学会と公明党の相関史がよくわかる

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東京、大阪など都市部を中心に草の根ネットワークを広げる創価学会。訪日した中国の温家宝首相と会談した池田大作名誉会長は、自らを「庶民の王者」と称したというが、この表現は真理を含んでいる。

今や自民党は創価学会の支持がなければ政権を維持できず、官僚機構も創価学会=公明党に一目置かざるをえなくなっている。

ところが、一般には創価学会の「政治部」と思われている公明党だが、著者によると両者は必ずしも一心同体といえず、それぞれ独立した組織として、自立性を主張する局面も多く見られ、「異体異心」になりつつあると指摘する。

公明党と創価学会は組織が分離されており、公明党の側が創価学会を動員することはできないという。また、公明党は小選挙区制度下、連立政権に加わったことで議席の減少という代償も払っている。こうした両者の微妙な関係を宗教学者である著者が解析している。興味深い本である。

■2008/03/22, 週刊東洋経済

マキァヴェッリの生涯―その微笑の謎
マキァヴェッリの生涯―その微笑の謎マウリツィオ・ヴィローリ 武田 好

白水社 2007-06
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16世紀初頭、混迷を続けるイタリアにおいて、よき君主は、「狐やライオンである。なぜなら、罠を見抜くためには狐となり、狼を狼狽させるためにはライオンとなる」とは、マキァヴェッリの『君主論』である。

君主は「できるかぎり善から離れることなく、必要に応じて、悪に踏みこむ」能力を持たねばならない、と喝破している。

イタリアを外国から解放するのが彼の夢とはいえ、『君主論』は悪魔に魅入られた悪の著作だという評判がわきあがったという。

ところで、このマキァヴェリズムの生みの親の肖像画は、なぜかその口元には微笑みが浮かんでいる。

この事実に注目した本書は、まず彼の死の直前に見た「マキァヴェッリの夢」をわれわれに紹介し、次いでフィレンツェ共和国の書記官に任官した青年期から亡くなるまでの生涯をつまびらかにしつつ、彼の「微笑」の意味を読みといていく。実にユニークな評伝である。

■2008/03/22, 週刊東洋経済

海軍少将高木惣吉正伝―本土決戦を阻止した一軍人の壮絶なる生涯
海軍少将高木惣吉正伝―本土決戦を阻止した一軍人の壮絶なる生涯平瀬 努

光人社 2007-12
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あの惨憺たる太平洋戦争期、東條英機首相は国内で言論や思想を徹底的に弾圧し、陸軍も「神州不滅一億玉砕しても戦い抜く」と猛り立っていた。こうした状況下、東條内閣打倒、天皇勅裁へと導き、国家存亡の危機を瀬戸際で回避することに命がけで奔走した海軍少将がいた。高木惣吉である。

本書によると、高木は、物静かで、新聞記者たちは「高木和尚」と呼んでいた。

戦局の悪化で東條内閣は退陣するが、かえって陸軍は内地立てこもり=本土決戦を図るという退嬰主義に陥りつつあった。

直ちに高木の終戦工作が本格化する。「和平派」や「終戦派」を糾合し高松宮の篤い信頼を得て、最後の御前会議の開催にたどり着いて終戦が決まった。

戦後は茅ヶ崎市に蟄居し『終戦覚書』を上梓し、ベストセラーとなる。辛い歴史であっても目を背けない勇気が必要なりと、次々と戦史を発表した「文武両道の達人」であった。

■2008/03/22, 週刊東洋経済

猫の絵画館 (コロナ・ブックス 138)
猫の絵画館 (コロナ・ブックス 138)コロナ・ブックス編集部

平凡社 2008-03
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古代エジプト文明の時代から、しなやかな肢体と宝石のように輝く瞳で人を魅了してやまない猫。長く人間の生活のそばにいる。

だが、その生態や生物学的な解明は意外に進んでおらず、それがまた猫という存在の霊性を際だたせファンタジーを誘う。

中世、魔性の生き物とされ、西洋では迫害の歴史もある黒猫も日本では労咳に効くと遊女が愛好した。

本書は日本人の作品の中の猫を集めた、猫好きのための手軽な絵画集。円山応挙、菱田春草、葛飾北斎、歌川一門といった、江戸中期以降の浮世絵から近代の油彩まで技法はさまざまだが、画家の目から見た、自由で伸びやかな猫の姿が生き生きと描かれている。

町娘と戯れる子猫、化け猫、擬人化された猫たちは、どこかユーモラスな味があり、はやりの猫写真集とはひと味違った楽しさがある。竹久夢二の『黒船屋』がないのは、ついに画壇から認められなかった画家だからか。

■2008/03/22, 週刊東洋経済

昭和史がわかる55のポイント (PHP文庫)
昭和史がわかる55のポイント (PHP文庫)保阪 正康

PHP研究所 2001-04
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star範囲が広いためややポイントがピンボケ?
starこの一冊から昭和史学を始めよう
star昭和史をもう1度振り返りたい人に

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満州国 (講談社学術文庫 1851)
満州国 (講談社学術文庫 1851)岡部 牧夫

講談社 2007-12-10
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おすすめ平均 star
star読みづらい
starこの内容で「満州国」はいかがなものか?

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日中15年戦争の原点としての満州国

昭和の日本を奈落の底に突き落とした「15年戦争」の嚆矢としての満州国の建国(昭和7年)。

といっても、私にとっての満州国は、もちろん、小説からであった。なかでも、なんとも強烈だったのは五味川純平著『人間の条件』であった。人間的な生き方をたいせつにしようとする主人公梶は、満州の鉱山技師であるが関東軍に召集され、非人間的な軍隊機構にただ独りで闘い、そして戦争に負け、ソ連軍の捕虜となるが脱走して雪の中で没する。個人の人間の限界を知らされる実に重い内容である。

もう1冊挙げるなら、それは私小説的というべきか、回想的なタッチの清岡卓行著『アカシアの大連』である。東京の大学1年生の主人公が敗戦の5カ月前に、ふと思い立って生まれ故郷の大連に戻っていく。大連での終戦までの静かな生活、敗戦後の寄る辺なき生活などがリリカルに描かれている。

それにしても、はるか地平線から昇り地平線に沈む太陽を目の当たりにする、あの茫漠とした平原をまるで「空き地」のごとく扱い、「五族協和」「王道楽土」といった意気揚々たるスローガンの下にでっち上げた傀儡国家。そこには約百万人もの日本人が生活していた。その中心は、なんといっても、日露戦争の勝利の落とし子として産声をあげて以来、自ら満州建国を画策し、精強、無敵を謳われた関東軍であった。

保阪正康著『昭和史がわかる55のポイント』によると、関東軍は「国民の英雄であり、もっとも頼りがいのある軍隊として国民に受けとめられていた。恐慌を抜け出すための通気孔の意味ももたされていた」のである。

当時の日本が目指していたのは、岡部牧夫著『満州国』によれば、「単に中国の民族主義・革命運動から東北の権益を守るだけでなく、進んでこれに対決し、さらに、ソ連の国内建設に敵対することであった」として、日本ファシズムを東アジア現代史の中に位置づけている。【評者 阿久根利具 文芸評論家】

■2008/03/22, 週刊東洋経済

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