メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2008年2月9日~2月16日

戦争の経済学
戦争の経済学ポール・ポースト 山形浩生

バジリコ 2007-10-30
売り上げランキング : 301

おすすめ平均 star
star頭の体操(だけでは終わらない)
star今や戦争が不経済となったことを証明
star左脳の意見、右脳の意見

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戦争を経済学の視点から分析、知的刺激にあふれる

戦争とは人の心を動かす犠牲的行為なのか、卑しい野心家たちの唾棄すべき行為なのか、多くの人々が夢中になって議論してきた大問題である。

本書は戦争の経済面に焦点を当てる。明治の政治家たちは、日清、日露戦争の資金調達についても語っている。偉大な日本の先達は、戦争の経済面について語ってきたのだ。

本書は、戦争を、ミクロとマクロの経済学によって分析する。使われている経済学は簡単なものであるが、現実の戦争、内乱などの戦争類似行為、軍隊などが、経済学で分析されていることは新鮮である。

本書のマクロ経済学によれば、戦争以前の経済状況に依存するが、国土を戦場としない戦争は経済を活性化することがあるという。失業のある状況から戦争が起きれば、戦争は失業を減らし、経済を活性化する。

しかし、戦争のためにあまりに多くの資源が動員されれば、インフレになり、効率は低下するという。

しかし、本書の戦争のマクロ分析には、私は違和感を持った。ヨーロッパが国土を戦場とした大戦争を二度しているのに対して、アメリカは戦争をゲームのように考えることができるのか、悲惨な南北戦争のことを忘れてしまったのかと思った。失業率は中央銀行の舵取りで低下させることができるのに、戦争の発生前の経済状況によっては、戦争が経済にプラスであることを強調しすぎていると私は思った。しかし、本書のミクロ分析は、知的刺激に満ちている。

アメリカの国防予算の6割が兵站部門であるという。人員の数からいえばもっと極端で、陸軍の戦闘兵6万人に対して、支援要員は47万人いる。空軍であれば、1・6万人の戦闘員に対して、36万人もの支援要員がいるという。基地が閉鎖されたとき、地域経済がどうなるか。

アメリカ軍人の適切な給与はどうあるべきか。民間軍事会社とは何か。兵器市場はどう設計すべきか。日本の防衛省の調達問題にも応用可能な問題として明晰に分析されている。

アフリカの内戦、平和維持軍、テロリズム、大量破壊兵器の拡散、北朝鮮問題までが、経済的に分析されている。意外な事実と論理が展開され、日本がこれらの問題にどう対処すべきかについての示唆にも富んでいる。

現代の主要な問題に加えて、歴史についても広範なコラムがあり、どれも面白い。イギリス王立海軍の効率的な賃金には感心したが、アテネとスパルタの戦いに関するコラムは、アテネびいきの評者にとっては、不公平な観察と思われた。戦争について書かれた本書は、平和について考えるために欠かせない。【評者 大和総研チーフエコノミスト 原田 泰】

■2008/02/16, 週刊東洋経済

王様と大統領 サウジと米国、白熱の攻防
王様と大統領 サウジと米国、白熱の攻防レイチェル ブロンソン 佐藤陸雄

毎日新聞社 2007-11-16
売り上げランキング : 25797

おすすめ平均 star
star米国とサウジの外交史を記した労作

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サウジアラビアと米国の緊迫した外交史

上昇を続けた原油価格は、2008年の年明けには、1バレル100ドルを突破した。米国のサブプライム問題を背景に、世界の投機資金が株式などから原油市場に流れ込んだのが原因とささやかれる。しかし、本書で明かされる米国とサウジアラビアとの冷戦崩壊後の政治情勢を知れば、そんな、投機マネー主犯説とは別の「構造要因」が浮かび上がってくる。

著者は、外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』を刊行する外交問題評議会の元中東・湾岸担当研究部長。それゆえ、米国による中東外交の現場を知る著者ならではの政治の舞台裏が、緊迫感とともに展開される。

たとえばこんな場面がある。

「われわれのために、サウジアラビアからいくらかカネを引き出すのを、助けてはくれないだろうか?」。1990年、ゴルバチョフソ連大統領からベーカー米国務長官にかけられた言葉だ。体制維持をもくろむゴルバチョフが米国に哀願する場面が詳細に再現され、圧巻である。

米国とサウジとの共産諸国を仮想敵とした同盟的な蜜月関係は、冷戦崩壊をきっかけに終焉を迎え、歪んでいく。そして2001年9月11日の同時多発テロは、その政治同盟が分断される決定的場面だと、著者はとらえる。

冷戦崩壊は同時にサウジの経済に未曾有の負担増をもたらす。軍事費の自己拠出と自力防衛を余儀なくされ、それがアルカイダといったイスラム過激派の台頭につながったと著者は見る。カネを生む打ち出の小づちとしての石油が、一層の戦略性を増した。著者が容赦ないまでに徹底的に描くこの政治過程を踏まえれば、今に至る石油価格の高騰も理解できる。

本書はいまだ知られざる王様(サウジ)と大統領(米国)との緊迫の外交史といえよう。【評者 ルポライター 七尾和晃】

■2008/02/16, 週刊東洋経済

ケネディ―「神話」と実像 (中公新書 (1920))
ケネディ―「神話」と実像 (中公新書 (1920))土田 宏

中央公論新社 2007-11
売り上げランキング : 6185

おすすめ平均 star
star読みやすく、そして深い内容
star永遠の大統領“ケネディ”!!
starケネディが支持される理由

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アメリカン・ドリームを体現したケネディ家の実像

1963年11月22日、第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディが暗殺された。その事件は、初の日米間の衛星テレビ中継を通じて日本にも即座に伝えられた。

事件は真夜中にテレビを見ていた一人の中学生の人生を決定づけることにもなった。少年は事件に非常な関心を持ち、ケネディの人生を追いかける。ついにはケネディ家研究者となった。その少年が著者である。

ケネディ家はジョンの曽祖父の時代にアイルランドからボストンに渡った移民である。プロテスタント優位の社会で、カトリック教徒のアイリッシュは徹底的に差別されていた。

だが、曽祖父は懸命に働いてのし上がり、息子を州の下院議員にした。その孫ジョセフは実業界入りし、当時禁じられていた酒の密造で巨万の富を築く。その富を背景に、長男を大統領にすべく英才教育を施す。だが病弱の次男ジョンは父の眼鏡にかなわず見捨てられていた。

やがてケネディ家はニューヨークに移るが、長男が第2次大戦で戦死すると、状況は一変する。一家の夢は次男ジョンに託されることになった。

46年、ジョンは下院議員に出馬し政治家として歩み始める。そして、わずか15年後、43歳の若さで大統領となり、ついにケネディ家の宿願を果たした。ジョンは、その就任演説で「諸君が国のために何ができるかを問いたまえ」と説き、「冷戦」という名の米ソ対立の時代に、ソ連と共存する世界を構築することを国民に呼びかけた。

そして、ニュー・フロンティアという夢を与えたのである。2年後に暗殺され、志半ばで終わるが、その栄光は残った。

故郷を捨てアメリカに渡ったカトリック教徒のアイリッシュ。ケネディ家はアメリカン・ドリームの体現者でもあった。【評者 映画監督 仲倉重郎】

■2008/02/16, 週刊東洋経済

効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法
効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法勝間 和代

ダイヤモンド社 2007-12-14
売り上げランキング : 2

おすすめ平均 star
star学生の視点からの感想
star「社会とか会社の仕組みが、知的に生産」されないと・・・
star自分を変えるきっかけにしたい

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3人の子どもを育てながら、マッキンゼー、JPモルガン証券などを経て、経済評論家として独立、社会人になってからの16年間で「年収10倍アップ」を実現した著者が情報のインプットおよびアウトプットを飛躍的に高める技術を紹介している。

副題は「自分をグーグル化する方法」。ノートパソコンをはじめとする各種のハード&ソフトウエアを空気のように使いこなしながら、読書などのアナログ的な手法ともシームレスにつなげて生産性を上げるさまざまなノウハウが「インプット力を高める6つの技術」「アウトプット力を高める6つの技術」などにわかりやすく解説されている。

本書は、「多くの人たちがワークライフバランスを整え、楽しく家族や恋人と過ごす時間を長くするために知的生産性の向上は不可欠である」という思いから書かれた著者自身のアウトプットともいえるもので、実践的かつ説得力ある内容となっている。

■2008/02/16, 週刊東洋経済

日本を降りる若者たち (講談社現代新書)
日本を降りる若者たち (講談社現代新書)下川 裕治

講談社 2007-11-16
売り上げランキング : 1664

おすすめ平均 star
star「共感」してしまうか、「憤慨」してしまうか。
star治療の現場に生産性を求める外こもり作家
star現代の隠者たち?

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引きこもりならぬ、「外こもり」する人たちのルポ。舞台はバンコク。生活費は日本の工場で一定期間働いて稼ぎ、貯まったらバンコクへ戻るというサイクル。

現地で安いゲストハウスやアパートを借り、手持ち金が底を尽くまで質素に暮らす。食事と引き換えに地元の店を手伝う人、漫画喫茶で一日を潰す人もいれば、買い出し以外は部屋にこもったままの人もいる。

日本という社会、会社、家族の中に居場所を見つけられない人、働き続けてもフリーターか契約社員かしかないと見切りを付けた人、自殺願望を抱える人など、胸中は十人十色だ。20歳から40歳代が中心だが、最近では、生活費を切り詰めたいとやってくる貧しい高年層も少なくないそうだ。こうした日本人は、タイ周辺国も合わせ1万人はいるという。

欧州から逃避してくる若者たちの姿と重ね合わせ、豊かな「北」で生まれた人が貧しい「南」で救われる構図を、筆者は見て取る。

■2008/02/16, 週刊東洋経済

トップコンサルタントがPTA会長をやってみた―発想力の共育法
トップコンサルタントがPTA会長をやってみた―発想力の共育法三谷 宏治

英治出版 2007-12-06
売り上げランキング : 3367

おすすめ平均 star
star初めて育てる対象を得る全てのヒトにためになる
starタイトルに違和感
star途中から飛散気味

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タイトルを見れば教育関連の著書かと思う。そのとおりではあるのだが、本書はビジネスパーソンの自己啓発本としても読めるところがユニークだ。

トップコンサルタントとして活躍してきた著者が、教育の現場で自分に何かできないかと思い立ち、子どもが通っていた小学校のPTAの会長を引き受ける。その経験をつづりつつ、子どもにとって今何が必要か、親自身がどのように変わらなければならないかの自説を展開していく。

その内容は、ビジネスの現場でも役立つものばかりだ。たとえば、子どもにはもっと自由で暇な時間を与えなければならない、そのためには、ケータイやゲーム、塾通いで消費される時間を見直さなければならないというのが著者の持論だが、それはドラッカーが『経営者の条件』で説いた「汝の時間を知れ」を思い出させる。何事かをなすためには、自由な時間が必要だ。それは、大人も子どもも変わらないのである。

■2008/02/16, 週刊東洋経済

デザインの深読み
デザインの深読み坂井 直樹 日塔 なつ美

トランスワールドジャパン 2007-12
売り上げランキング : 4378

おすすめ平均 star
starホントにためになりすぎる~

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デザインはモノをつくる企業にとって大きな影響力を持つ。本書では、スニーカー、マッサージチェア、携帯電話、車、デジタルカメラ等々、流行するモノから少数のファンによって支えられる高級品までを取り上げて、人々の気持ちをとらえるヒット商品の背景にあるモノの形やデザインの意味を著者独自の視点で読み解いている。

たとえば、カドケシというロングセラー商品を生産するコクヨという会社自体のユニークさを指摘し、世界50カ国で出版されている雑誌『ウォールペーパー』の意外性を考察する。

そもそも著者は、コンセプターという肩書を日本で最初に名乗り、今までにデザインした日産「Be1」やオリンパスの限定カメラ「Oプロダクト」によって、既成概念を取り外し、常識を塗り替えてみせることに成功した。そんなデザイン界の重鎮である著者が2年前から備忘録のつもりで書きためてきたブログを編集した一冊である。

■2008/02/16, 週刊東洋経済

東京1950年代―長野重一写真集
東京1950年代―長野重一写真集長野 重一

岩波書店 2007-11
売り上げランキング : 19750


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貧しくても生き生きしていた東京の風景

本書を手にすると黒澤明の『素晴らしき日曜日』という映画を思い出す。

終戦直後に若く貧しい二人がデートして過ごす一日のてん末。昭和22年公開のこの作品では焼跡が残る東京でのつつましい青春がよく描かれていたもの。今、昭和30年代ブームの中で本書を見ていると、高度成長の日本を準備したのがこの敗北から立ち上がる1950年代だということがよくわかる。

写真はリアリズムの時代。だが著者の視点はその時代に頻発する労働争議や社会矛盾を告発するものではない。あくまでも自分の位置から東京の市井人を取り巻く日常の光景をとらえている。それはやがて来る60年代の中産階級の登場を予感させるものだ。

長野は大正15年大分に生まれ、実業家の叔父の元に養子入りして上京。慶応幼稚舎から慶応義塾大学へと進学。そこでの写真クラブで三木淳、芳賀日出男らを知る。

昭和22年、三木淳が『週刊サンニュース』に誘った。編集者の名取洋之助が戦後立ち上げたグラフ雑誌だ。ドイツ仕込みの名取は敗戦で頓挫した日本のグラフジャーナリズムのリベンジを狙っていた。だが3年で失敗。岩波茂雄と旧知な仲ゆえ、岩波写真文庫の創刊で編集長となる。編集に羽仁進、写真が長野重一、後に東松照明が加わる。写真文庫は世界各国、町、自然、科学産業、生活など多岐のテーマにわたり、昭和25年発行以来全286冊を数えた。

本書はその東京編を中心にした50年代の長野の作品で再構成されている。激変した東京を今も飄々と歩き、撮りつづけている長野のその原点がこの作品集にあり、それは新生日本のキックオフの瞬間でもあった。【評者 写真家 中川道夫】

■2008/02/16, 週刊東洋経済

メタル・ウォーズ
谷口 正次 (著), 小林 薫 (翻訳)

本当の危機はこれから?

原油価格高騰によりわが国の経済活動はもとより、消費生活への影響が大きく心配される昨今である。しかしこれは「日本の危機」の序章にすぎないと背筋が寒く感じる本が出版された。『メタル・ウォーズ』(谷口正次著)である。

日本にとって必要なのは原油だけではない。銅、鉛、亜鉛などの「ベースメタル」ほか、ニッケル、チタン、パラジウム等の「レアメタル」のどれが欠けてもパソコン、携帯電話といった精密機器からケーブルや切削工具まで作ることができなくなるのである。

ところが、世界中の鉱物資源を中国が国家をあげて囲い込み、価格がじわじわと高騰しているという。また資源の「爆食国」中国に対抗する資源メジャーたちの権謀術数を見ると、まさに書名のとおり「メタル・ウォーズ」なのである。

このままだと鉱物資源が供給不足になるのは必至で、その状況に対し、日本の危機意識が希薄であることに、著者は警鐘を鳴らす。

本書は、単に資源供給の危機的状況をあおるだけでなく、政府が、業界が何をすべきか、どう取り組むべきかという提案がなされていることに着目したい。

■2008/02/16, 週刊東洋経済

合衆国再生―大いなる希望を抱いて
合衆国再生―大いなる希望を抱いてバラク・オバマ 棚橋 志行

ダイヤモンド社 2007-12-14
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おすすめ平均 star
star初の黒人大統領誕生なるか?
starオバマ氏の人柄と主張がよくわかり、ファンになります。
starオバマ氏が出てきた。

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病んだ米国の政治と社会を黒人大統領候補が糾弾する

原著は2006年10月に出版され、ニューヨークタイムズ紙政治部門ベストセラー1位を獲得し、200万部以上販売され、注目を集めた本である。

オバマの08年大統領選挙に挑戦する戦略が見えてくる。

第1章「二大政党制の弊害」では、合衆国上院議員という地位にいながら、自らをワシントン権力機構に対峙する者として描いている。今の米国政治体制を、「政治的に狭量な実力者たちが優位を奪い合い、イデオロギー的少数派が自分たちだけの絶対的な真実を押しつけている」と断罪する。ブッシュ大統領周辺を「保守主義でなく、絶対主義者」と批判している。

現在、米国の世論調査ではブッシュ大統領支持が35%、反対が60%、議会に対しては支持25%、反対70%であり、ワシントンの政府・議会を攻撃すればするほど人気が上がる。

またこの本では、「政権が大きな脅威にさらされると、殺し屋が来る可能性がある」とか、「アル・ゴア前副大統領も企業家に日々資金を求めてくる100人の1人として扱われた」など、暴露的記述もされている。

さらに第4章「政治の真実」で「資金力が選挙の動向を握る」とし、「自分はいつの間にか財力のある人と過ごす時間が増え、資金調達の結果、裕福な献金者に似てきたのは自覚する」と書かれると、オバマは本当は誠実な人なんだなと思いたくなる。

「オバマが黒人というハンデを負いながらも、なぜ有力な大統領候補になったか」という疑問に対する答えは、「今日の米国が病んでいる」からだろう。オバマはこの本で米国がいかに病んでいるかを書き込んだ。

オバマは初の黒人大統領になれるのか。今回の大統領選挙の最大の特徴は、不確定要素が多く、極めて流動的なことにある。予備選で州によって勝利者が異なったこと、世論調査が目まぐるしく変わること、何かの事件で流れがすぐ変わる状況だ。

オバマには少なくとも二つのハードルがある。一つは民主党予備選挙でクリントンを破ること。それには民主党の既存勢力に対抗し、選挙民全体に「変化」を最大の争点にできるかだ。

第二は米国保守勢力にどう対応するか。米国は保守40%、穏健20%、40%が浮動票といわれている。クリントンは保守にすり寄ることで選挙を勝とうとしている。オバマは穏健プラス浮動票狙いで勝てるのか。

クリントンはオバマに対し、「変化、変化というが、具体的政策でどこがわれわれと違うか示せ」と迫っている。この本でも「流れを変える」意気込みは十分伝わる。しかしその意欲が政策に具体的にどう反映されるかになると、いま一つ見えにくい。【評者 孫崎 享 防衛大学校教授】

■2008/02/09, 週刊東洋経済

誘拐逃避行―少女沖縄「連れ去り」事件
誘拐逃避行―少女沖縄「連れ去り」事件河合 香織

新潮社 2007-12
売り上げランキング : 10363

おすすめ平均 star
star力作ノンフィクション

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「事実」の積み重ねで「真実」に迫れるか

ナボコフ著『ロリータ』にこんな一節がある。

「“魅惑的にして狡猾な子”、遠くを見るような目に、つやつやした唇、じろじろ見つめていることが悟られるだけでも懲役10年の小悪魔を目にしたとき、どれほど彼の心臓は激しく脈打ったことか」(新潮社)。

前作『セックスボランティア』(新潮社)で障害者の性愛を衝撃的に描いた著者が、今回取り組んだのは、10歳の少女に魅せられた47歳の中年男の破滅の物語である。物語の前半は、この少女が両親を失い、預けられた家庭で虐待を受け、この見ず知らずの男が最後の逃げ場となっていく話が中心になる。福祉の谷間や警察のおざなりな対応を指摘する視点は鋭い。

やがてこの男は少女の「魅惑」と「狡猾」に翻弄され、少女の歓心を買うために職や住まいをも失っていく。物語の後半は、二人が沖縄にあたかも少女の主導で「逃避行」していくさまが描かれている。しかし、この二人の「逃避行」は周囲からみれば「誘拐」であり、またこの男が少女に性的行為におよんでいたことで、男への断罪へと記述は一気に転換する。

著者は明らかに『ロリータ』を意識しているにちがいない。ロシアからの亡命作家ナボコフは、使い慣れない「英語という言語との情事」を愉しんで書いた、とその秘めた動機を書いた。

それに対して本書には、著者がジャーナリストであるせいか、ナボコフのような陰画的な距離感の喪失とでもいうものはない。小説とルポでは対象との距離のとり方が違うのは当然だ、というのが一般の見解だろう。しかし「誘拐」と「逃避行」の狭間にあった「真実」が、「事実」の積み重ねだけでどこまで迫れたのか。本書はルポルタージュのもつ限界を、われわれに問いかけている。【評者 田中秀臣 上武大学ビジネス情報学部准教授】

■2008/02/09, 週刊東洋経済

サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉 [宝島社新書] (宝島社新書 254)
サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉 [宝島社新書] (宝島社新書 254)春山 昇華

宝島社 2007-11-09
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おすすめ平均 star
starサブプライムローンって
starサブプライム問題の 原因→現状→今後
star韓国バブルも崩壊中

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サブプライムローン問題を基礎から平易に解説する

著者は1987年から米国株式投資に携わってきた人物であり、20年にわたって米国住宅市場をウォッチしている。

新聞やテレビで連日報道されている「サブプライムローン」。これは、もともとアメリカの低所得者向けの住宅ローンのことだが、なぜ世界中で大問題になっているのか。著者は同ローンが生まれ、問題金融商品へ変質していった過程を時系列でじっくり解説する。

黒人やヒスパニックなど、低所得のマイノリティ層でも住宅を持つことを可能にするために、同ローンは導入された。こうしたローンが存在すること自体は、全く問題はない。

しかし、悪徳金融業者が同ローンを悪用したために、住宅バブルが発生し、低所得層の多くが食い物にされた。その背景には、消費が大好きという国民性に加えて、「ITバブル崩壊」「9・11テロ」「イラク戦争」などが存在する。金融技術の進化により、ローン債権が証券化され世界中に販売されたことが、問題をさらに深刻化させた。

著者は2005年夏に米国不動産バブルの崩壊が始まったと感じたという。無職で収入も資産もなく、過去に債務不履行がある人でも、住宅ローンを借りることができるという異常な状況を見てのことだった。しかし、米国の政策当局はつい最近まで何の対策も講じなかった。

米国では悪徳金融業者のために、多くの人が住宅だけでなく、財産のすべてを失った。著者はサブプライム問題と同様のことが日本でも起きるのではないかと予想する。自宅を担保にして、借入金を年金という形で受け取る「リバース・モーゲージ」制度が悪用されると懸念しているのだ。連日報道される同ローン問題を基礎から理解するために役立つ本。同時に、そこから学ぶべき教訓を明示してくれる。【評者 田宮寛之】

■2008/02/09, 週刊東洋経済

世界のインテリジェンス―21世紀の情報戦争を読む
世界のインテリジェンス―21世紀の情報戦争を読む小谷 賢 落合 浩太郎 金子 将史

PHP研究所 2007-11
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おすすめ平均 star
star現実を見た
star各国を学び、我が国を深く考えるお薦めの一冊

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インテリジェンスは国家の安全保障にかかわる情報の収集と解析、と定義することができるだろう。主要国のインテリジェンスの現況を、外交史や安全保障の研究者が解説し、興味深い内容に仕上がっている。

インテリジェンスの優劣がときに国家の命運を左右するだけに、大国は莫大なヒト、モノ、カネを投じてきた。その性質から諜報機関に関する情報は限られている。米国のインテリジェンス部門は、10万人の規模と440億ドルの予算だとされているが、実はこの額も米高官が、あるセミナーでうっかり漏らしてしまった数字であり、全体像は公開されていない(国防関係の議員には公開されている)。

こうした秘密のベールに包まれた諜報機関について、その歴史や実像を丹念に追っている。本書も指摘するように、民主主義社会でインテリジェンスをどう位置づけるのかも課題である。インテリジェンスについてさまざまな視座を提供してくれる著作である。

■2008/02/09, 週刊東洋経済

本は10冊同時に読め!―生き方に差がつく「超並列」読書術 本を読まない人はサルである! (知的生きかた文庫 な 36-1)
本は10冊同時に読め!―生き方に差がつく「超並列」読書術 本を読まない人はサルである! (知的生きかた文庫 な 36-1)成毛 眞

三笠書房 2008-01
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おすすめ平均 star
star半分賛成・半分反対
star多読
starあー面白かった

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自宅に約1万5000冊、別荘にその倍の本を所蔵する読書家の成毛眞・インスパイア社長(マイクロソフト日本法人元社長)が確立した独自の読書術を開陳したのが本書。読書は最高の自己投資であり、読書の方法を変えるだけで、仕事も人生も一変すると説く。

居間、寝室、バスルーム、トイレ、移動中……それぞれの場所で、多くのジャンルの本を並行して読む、というのが超並列読書術。もちろん、どんな本でもいいわけではない。「読書」以前に重要なのは「選書」。本には、「女王アリの読む本」と「働きアリの読む本」があるのだという。働きアリになりたくなければ、ベストセラーや成功本のたぐいは読む必要はない。

本書は、読書論を超えて、人生論にも及ぶ。「人生は遊ぶためにあり、仕事も道楽のひとつ」「本嫌いの人とつき合う必要はない」「本を読まない人間はサルである」と言い切ってしまう。

■2008/02/09, 週刊東洋経済

未来社会を創る研究者たち[飛躍する「早稲田大学」の研究活動]
未来社会を創る研究者たち[飛躍する「早稲田大学」の研究活動]日経BP企画 大学取材班

日経BP企画 2007-10-19
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おすすめ平均 star
starさまざまな研究が進んでいる
star知的興味を少し拡げたいと思っている人にお勧め

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奥島孝康・前総長に始まり白井克彦氏・現総長が拍車をかけた早稲田大学の変化。2007年の創立125周年を「第二の建学」と位置づけて、変化はさらに推進される。その早稲田の社会・人文・自然科学にわたる教員24人を紹介する。

たとえばITを研究する山名早人教授は、グーグル・ヤフー・MSNという検索エンジン大手3社が、どのような基準で検索結果の掲載順を決定しているかを独自に究明する。

経営戦略論の遠藤功教授は、問題点や工夫を共有させる「見える化」や改善を継続させる「粘る化」により、製品やサービスの品質低下を防ぐ「現場力」を強化させることを提唱する。

韓国経済の研究で知られる深川由紀子教授は、「速すぎる発展」の中国が、発展の副産物として内部構造とのギャップという「脆弱さ」を蓄積してきた1980年代の韓国の先例に学んでいることを指摘する。

多様な分野の研究の動向を一望できる書である。

■2008/02/09, 週刊東洋経済

フィンランドメソッド実践ドリル
フィンランドメソッド実践ドリル諸葛 正弥

毎日コミュニケーションズ 2008-01-16
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おすすめ平均 star
star小さい子ども向けではない
star考える力が身に付きそう
star分かりやすく伝える力をつけるには良いが…

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フィンランドは2000年から3年に1度行われているOECDの学習到達度調査(PISA)で、常にトップレベルの成績を残している。一方、日本の国際順位は下がり続け、読解力分野では、06年にフィンランドが2位だったのに対し、日本は15位と大きく水をあけられた。

フィンランドメソッドとは、そんな学力世界トップレベルを維持しているフィンランドの教育方法のことである。

本書は日本型教育では育成しづらい「表現力」や「批判的思考力」の養成問題に加え、カルタと呼ばれるマインドマップを使用した問題で発想力などを鍛えることができる。

また、4コマ漫画の3コマ目にセリフを入れ、そのセリフを入れる理由を3つ考える問題など、論理力養成問題も収録されている。

07年にインド式計算方法をテーマにしたドリルがヒットしただけに、同じ海外の教育方法をドリル化した本書も注目される。

■2008/02/09, 週刊東洋経済

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)
生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)福岡 伸一

講談社 2007-05-18
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おすすめ平均 star
star文系と理系をつなげてみる
star「拡散」が動的平衡を徐々に侵食する
starこのタイトル、違うでしょ

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著者に聞く 『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)を書いた福岡伸一

生物は絶え間ない流れの中にいる

――最新の分子生物学を基に「生物とは何か」を論じていますが、すでに50万部を超えるベストセラーになり、2007年のサントリー学芸賞を受賞しました。圧倒されるのは、構成のうまさと文章に味わいがあることです。

こうした本では、教科書的に書くという方法が一般的ですが、それでは、すべての知識が事後的に羅列してあるだけで、読者はつまらない。

自分自身が気づいたプロセスを自分の体験として書くしか、読者に生物学を伝える方法はないと考えて、私が研究者として出発したニューヨークの情景から書きました。

――ある種の私小説みたいに……。

私が気がついたこと、出会ったことを通して生物学の現在を語り直してみようと思いました。だから自分史でもあります。

――生物とは何ですか。

現在の分子生物学の定義に基づくと、生物とは自己複製できるものです。1953年にワトソンとクリックがDNAの二重ラセン構造を解き明かしたことに端を発しています。DNAは何で二重になっているか。一方が決まると、もう一方が決まるポジとネガの関係にあるがゆえに、それが二つに分かれると、互いに自分のパートナーをつくり出して2倍に増える。DNAの二重ラセン構造そのものに、自己複製する機能というものが内在しているわけです。

この本では、そこに至るプロセスというのを前半部分で書いてみました。それに基づくと、ウイルスというのはタンパク質の殻の中にDNAが入っていて、それが細胞に寄生すると自分自身をどんどんコピーする。つまり、まごうことなき生命といえるわけですね。でも、生命の定義は自己複製するという定義だけでいいのかと問い直してみると、必ずしもそうではない。

本の後半では、生命は実はもっと動的なダイナミックな存在で、絶え間なく合成と分解を繰り返している代謝の営みの中にある。あるいは、常に流れている存在であることを書いています。

DNAの発見よりもさらに前、1930年ころ、ルドルフ・シェーンハイマーという人が、ネズミにアイソトープで印をつけた分子を食物として食べさせた。

それはエネルギー源になって燃えてしまうだけと最初は予想したが、それは体の隅々に到達して、そこにとどまったわけですよね。つまり、そこにある物質と置き換わったわけです。その間、体重は増えてない。もともとそこにあったものは分解されて、新しく食べたものがそこの分子になった。つまり生物とは代謝によって絶えず自分を分解して、再生する存在なのです。

それでいながら一個の存在として恒常性を持っている。

こうした動的均衡にあるのが生物だとすれば、ウイルスは生物といえません。

――バイオテクノロジーにも批判的ですが。

生命体自身は全体として動的平衡なので、局所的にある部分を機能の単位として切り取ってきて、それを改良・利用する操作自体が成立しません。全体の平衡を乱す。長いスパンで見ると、効果がなくなることが予想されます。

■2008/02/09, 週刊東洋経済

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