メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2008年2月23日~3月1日

国家論―日本社会をどう強化するか (NHKブックス 1100)
国家論―日本社会をどう強化するか (NHKブックス 1100)佐藤 優

日本放送出版協会 2007-12
売り上げランキング : 16560

おすすめ平均 star
starインテリジェンスがインテリジェンスである所以
star国際関係・政治に興味がある人は必読
star佐藤優氏、憂国の書

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国家の本質とは何か「実用知」から読み解く

国家は幻想共同体なのか、それとも支配階級の暴力装置なのか。この種の制度化された学界関係者の問いとは無縁の「実用知」としての国家論である。

佐藤優氏は、2001年9・11同時多発テロ以降にむきだしになった「国家の暴力性」にどう対抗するのかという問題意識をもって、マルクス経済学者・宇野弘蔵やプロテスタント神学者・カール・バルトらのテキストを読みこむ。

そして、社会の強化と人間相互の尊敬心の回復へのシナリオをも示そうとした。著者は方法として、神を定義する際に「こういうものではない」と否定表現だけを連ねる「否定神学」のやり方を採用する。

こうして、経済学を近代歴史学の一分野と考え、歴史の終極を「神の裁き」に求めるバルトが、歴史に積極的意義を認めないという独自の見方が示される。

また、宇野弘蔵が根源的に労働運動や労働者を信じていなかったという指摘に、共感する人も多いのではなかろうか。

この教養知にあふれた書物はのっけから挑発的である。思想とは究極的には生き死にの問題だというのは知識人なら誰でも言えるかもしれない。

しかし、「人を殺す思想こそが、ある意味で本物の思想」だと高言できる学者などはそういるものではない。この極端な表現は、著者がソ連解体の現場でナショナリズムの本質を「人を殺す思想」と看破した経験の「実用知」から来ている。

著者にとっては、「人を殺す要素がある思想」を、アカデミズムと出版ビジネスでもてあそんだポストモダン系の学者らの知的営為などは、児戯に等しいのであろう。

さらに、思想本来の暴力性が廃れると、実証科学では相手にされない知的に粗雑な自己啓発セミナーや新宗教の「思想」など、知的世界とまったく無関係のところで、人間の生き死にの原理が構成されるという指摘も示唆に富んでいる。

しかし、新自由主義政策の結果、一人ひとりが分断された、と佐藤氏が分析する現状の克服は容易でなさそうだ。著者の言う「大きな夢」「究極的なもの」をもつことは、克服の方法というよりも理想というべきであろう。終章でいう「夢のシナリオ」を書く有識者、実現する政治家という理想分担の難しさを、著者以上に熟知する人が日本にいるとは思えない。

かつて外務省の有能な現役官僚であった著者こそ、大きな夢が現実の世界では絶対に実現できないことを、政治リアリズムと宗教ニヒリズムの両面から誰よりもよく体験したはずだからだ。【評者 山内昌之 東京大学大学院教授】

■2008/03/01, 週刊東洋経済

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝
マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝バラク・オバマ 木内 裕也 白倉 三紀子

ダイヤモンド社 2007-12-14
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おすすめ平均 star
starカリスマ オバマ
star「アイデンティティ探し」の長い道のり
starBarack Obama: Future US President

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「石の顔」を持つ男 オバマが自身を告白

この本は1995年に書かれ、当時オバマ自身「売り上げもなく、作家として期待できないと確信した本」と評価を下している。しかし、オバマが有力大統領候補として注目され、再販されるや爆発的に売れる。クリントン前大統領、カーター元大統領、キング牧師などが受賞したグラミー賞の栄誉を得た。人気の理由は明確である。「オバマは何者か」の答えがある。

今日オバマは「CHANGE」(変化)を旗印とし、米国の統一を説く有力大統領候補である。オバマがクリントン候補に肉薄できた理由の一つがエドワード・ケネディ上院議員の支持であるが、彼はオバマを「ケネディ大統領の再来」と絶賛する。

しかし、オバマは裕福な環境で育ったケネディ大統領の対極の環境で育った、極めて複雑な人物である。「石の顔」を持つポーカー・プレーヤーでもある。この「石の顔」の下の正体の一部を示したのがこの本である。

ケニア人の父と白人の母の間でハワイで生まれ、母の再婚相手の国インドネシアという比較的黒人への差別観が少ない地で育ったオバマは、通常の黒人以上に黒人の壁に悩む。マリファナ、コカインに浸った時代を「世界に不満があれば誰でも参加できる。偽善や安っぽい道徳の裏を見透かすことくらいはできた」と書いている。

さらに、「正義と理性に対する母の信念は非現実的で、結局我々はそれを乗り越えられない」と悟ってもいる。さまざまな葛藤を経て1983年、オバマはコミュニティ活動に入る。

「草の根活動で変化を起す。白人も黒人も褐色も入れるコミュニティを作る」と決心する。オバマの説く「米国民の一体化」「変化」はこの時代の決意である。単なる大統領選挙用のスローガンでない。人々はここにオバマへの信頼を見出した。【評者 孫崎 享 防衛大学校教授】

■2008/03/01, 週刊東洋経済

バチカン―ローマ法王庁は、いま (岩波新書 新赤版 1098)
バチカン―ローマ法王庁は、いま (岩波新書 新赤版 1098)郷 富佐子

岩波書店 2007-10
売り上げランキング : 43668

おすすめ平均 star
star世界最小で世界最大級の影響力を持つ国
star誠実な記者レポート
star類書はある。もう一段のほりさげを期待する

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世界最強の国際組織 カトリック教会の秘密

1981年2月23日夕方、みぞれ降りしきる東京の後楽園球場で、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世による平和の野外ミサが挙げられた。雨傘もさせず、薄いナイロンコートも強風にあおられる寒い夕方だったが、球場には入りきれないほど信者たちが集まり、そこはさながら日本のカトリック信者の大巡礼地と化したかのようであった。当然である。ローマ法王の初来日であり、しかもその後の広島、長崎の訪問を含めてわずか4日間の滞在だったからだ。

現在、世界一小さい国であるが、世界一影響力のある国バチカン。この国に君臨する現法王ベネディクト16世は、初代のペテロから第265代目であり、2000年の歴史を有する。

その間、十字軍の失敗と法王の権威失墜、異端審問制度、ユダヤ人迫害、聖職売買、免罪符の販売、宗教改革、2回の大分裂など、致命的な大失策にもかわらず、そのたびに法王の不誤謬説で糊塗したわけでないだろうが、現在でも他の追随を許さぬ盤石な国際的な組織である。

それにしても、バチカンに問題がないのだろうか。確かに他宗教との対話と相互理解はそれなりに進捗しているが、英国国教会を含むプロテスタント、東方教会などとの教会一致運動は笛吹けども踊らずであろう。

それには、法王の優位性と聖職者の独身制と関係がありそうだ。ことに後者の場合、11世紀末のグレゴリウス7世の改革で制定された聖職者の独身制度であるが、今日言われるような財産相続問題ではなく、当時の聖職者の間で蔓延していた性的な紊乱を根絶するためであり、厳密な意味での神学的根拠はなかった。私見であるが、聖職者の独身制度、それに第三世界での「解放の神学」関係者の破門、これこそが、バチカンのアキレス腱となるであろう。【評者 川成 洋 法政大学工学部教授】

■2008/03/01, 週刊東洋経済

戦前の少年犯罪
戦前の少年犯罪管賀 江留郎

築地書館 2007-10-25
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おすすめ平均 star
star現代の少年は遥かにマシ(笑)
star考えさせられる
star何だか悲しくなった

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「凶悪化する少年犯罪」というフレーズがウソっぱちであることは、少しずつだが認知されるようになってきた。少年犯罪は戦後、どんどん減少しており、昭和20~30年代の少年のほうがよほど凶悪だった。

そんなことを知っている読者も、本書のデータを知ると仰天するに違いない。なにしろ戦前の少年犯罪は、昭和20~30年代ほどでないにしろ、現代よりは件数、発生率ともずっと高く、凶暴で不可解な事件が続発しているのだから。

「昭和2年、小学校で9歳の女の子が同級生を殺害」「昭和14年、14歳が幼女2人を殺して死体レイプ」「昭和17年、18歳が9人連続殺人」。援助交際、親殺しに主殺し(昔は使用人が多かった)。戦前はあらゆる事件に事欠かない。本書を読んだ後には、「キレやすい若者」「現代少年の心の闇」などという言葉は、安易に口にするのがはばかられる。世にはびこる常識論を打ち破る刮目すべき書である。

■2008/03/01, 週刊東洋経済

黒人差別とアメリカ公民権運動―名もなき人々の戦いの記録
黒人差別とアメリカ公民権運動―名もなき人々の戦いの記録ジェームス M.バーダマン 水谷 八也

集英社 2007-05
売り上げランキング : 121495

おすすめ平均 star
star入門・誘い

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自由の国を標榜するアメリカの建国とその繁栄が、黒人とネイティブ・アメリカンなどのとてつもない犠牲と収奪の上に築かれてきたことは、歴史の皮肉と言わざるをえない。アメリカ社会で支配的な白人優位論者は、人種差別を白人の原罪としてとらえることを拒否するだけでなく、劣等なる有色人種を教導しているのだと唱えることで、自らの正当性に今でも固執している。

1950年代後半にアメリカ南部、そして全土にわたり黒人の解放運動が広まった。ガンジー型の非暴力抵抗運動であった。本書は、その運動を担ってきた無名の黒人の勇気ある自己犠牲と献身と、運動の拠点となったキリスト教会などの活動を詳(つまび)らかにしている。

いまだに残っている人種分断論に対して、本書は、「あの名もなき人々に勇気と大胆さをまなぶことで、私たちは、私たちを分断している壁を壊すことに参加できるはずである」と結んでいる。

■2008/03/01, 週刊東洋経済

小林一三 永久保存版―発想力で勝負するプロの教え (ビジネスの巨人シリーズ)
小林一三 永久保存版―発想力で勝負するプロの教え (ビジネスの巨人シリーズ)小林一三研究室

株)アスペクト 2008-01
売り上げランキング : 198765


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「綺麗で早うて、ガラアキで……」――阪急阪神東宝グループの創業者である小林一三が、阪急が初めての路線(阪急宝塚線)を開業させたときのコピーだ。

小林一三は不動産、レジャー、流通など総合的な沿線開発という、現在の民鉄のビジネスモデルを開発した卓越したアイデアマン。当時の常識をことごと打破して、事業を成功させた。「小林一三のビジネスは自身の夢と理念で貫かれていた」と、本書は指摘する。

小林一三は松下幸之助とともに成功した代表的な経営者だけにあまたの類書があるが、本書は図解と写真をうまく使って、偉大な経営者の理念と軌跡を見せている。

小林一三が造った郊外住宅地、ターミナル百貨店、少女歌劇団、ビジネスホテルなどは、今でもわれわれの生活を豊かなものにしている。小林一三と阪急が作った阪急沿線文化=関西モダニズムがなければ、関西の文化と生活は貧弱なものになっただろう。

■2008/03/01, 週刊東洋経済

仕事原論―THE PRINCIPLES OF WORK
仕事原論―THE PRINCIPLES OF WORK神村 昌志

幻冬舎メディアコンサルティング 2008-01
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非正規雇用者が雇用者全体の3割を超える一方で、仕事に就かないニートが増加する国、日本。「近い将来、日本の労働力は世界の人材にとって代わられてしまうのではないか」と、著者は警鐘を鳴らす。

働く意義や価値を失った若者が増える一方で、「転職ブーム」に沸く日本の現状を著者は憂う。若者が安易に転職を繰り返すことは、キャリアアップにはならない。

誰もが社会のために一隅を照らす働き方をしなければ、日本経済は危うい――。

著者の言葉の裏には、リクルート時代から人材ビジネスに長年携わり、日本の人材市場と日々向き合ってきた経験がある。

日本人一人ひとりが仕事を誇るために、できることとは何か。

その答えとして提示されていることは、「感謝なくして成長なし」「プロとは、地味と退屈の集合体」などの、非常にシンプルだが、誰でもすぐに実践できる原理、原則である。

■2008/03/01, 週刊東洋経済

サブプライム金融危機―21世紀型経済ショックの深層
サブプライム金融危機―21世紀型経済ショックの深層みずほ総合研究所

日本経済新聞出版社 2007-12
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おすすめ平均 star
star数値データはやや豊富であるが、内容は、普通
star金融の研究機関らしい真面目さとタイムリーを評価
star身の丈にあった...適材適所な

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21世紀型金融危機の経緯と本質をわかりやすく解説

本書はサブプライムローン問題の本質を真正面から取り上げている。当初、サブプライムローン問題は世界経済に大きな影響を与えないという見解も有力であった中で、本書は「証券化市場をメインステージにした初めての金融危機、すなわち21世紀型金融危機」としてとらえ、「過去の金融危機と比べてもかなり長い時間を要する」と述べるなど、楽観論を戒めている。

2008年に入って世界の株価が一段と下落し、米国の経済指標などをみると、本書が指摘するとおりの展開であり、今後の世界経済を考えるうえで必読の書である。本書は07年9月下旬に企画が持ち上がり、12月には出版されている。異例の速さで完成したことは、みずほ総合研究所スタッフのレベルの高さを証明している。

サブプライムローン問題を理解するには、最初に用語の意味を把握しなければならない。例えば、CDO(債務担保証券)とかSIV(銀行の非連結対象の特別目的会社であり、証券化商品を運用するファンド)などがわかりやすく説明されている。

次に、サブプライムローンが登場するにいたる米住宅ローン市場の歴史的背景を知る必要がある。本書では19世紀からの米住宅金融発展の軌跡を理解することができる。

08年に入ってローン支払い条件の見直し(優遇期間終了、リセット)に伴うペイメント・ショック(支払い負担の急増)が発生するから、08年の世界経済への影響は大きい。それは日本にとっても重大関心事である。

「債務者支援団体のCLRは、すでに差し押さえは『現代住宅ローン史上、最悪の状況』に突入しているとし、今後数年間に少なくとも220万人の住宅所有者がマイホームを失うおそれがあると指摘している」ことから、08年の大統領選挙の争点も、イラク戦争からサブプライムローン問題など経済・社会問題に移ってくるであろう。

今後の展開でカギとなるのは、米政権の政策対応である。サブプライムローン問題への対応として、本書の第5章で激変緩和と再発防止に向けた取り組みが詳しく紹介されている。そのなかで具体的な内容とその限界が示されており、現在進行形のサブプライム問題を理解する上で頼もしい手引書である。

信用力の低い人がサブプライムローンを組んだ時点で、所得の大半が債務の元利返済に充てられるという契約では、支払いに持続性がないことは明白である。それにもかかわらず、国家にとって大問題になるほどのバブルが起きてしまった。資本主義の理念とは一体なにかと深く考えさせられる。【評者 水野和夫 三菱UFJ証券チーフエコノミスト】

■2008/02/23, 週刊東洋経済

シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ
シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップジョセフ・ジャウォースキー 金井壽宏 野津智子

英治出版 2007-10-02
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おすすめ平均 star
star心のあり方が問われている
star夢を実現したいあなたに
star結局誰も納得はしない

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「偶然の奇跡」を起こせるリーダーシップとは

リーダーシップの本質に関する深い洞察が得られる好著だ。本書では、ビジネスの枠を超えて、普遍的なリーダーシップについての議論が展開されており、スケールの大きな内容になっている。

本書の特徴は、何と言っても、他の多くのリーダーシップ本とは異なり、著者の個人的な体験をベースにした物語仕立てとなっている点だろう。そのせいか、読者は、難解なテーマにもかかわらず、スムーズに本書の世界に入っていける。

著者は、弁護士として成功した人だが、父親がウォーターゲート事件に関わったことから、リーダーシップについて強い関心を抱く。そして自身の離婚を契機に、それまでの地位をあっさり捨て、真のリーダーシップを求めて「リーダーシップの旅」に出る。道中で多くのすぐれた人々との出会いや助けを得て、自らリーダーシップ教育機関を設立し、その運営に尽力する。また、シェル・グループのシナリオ・プランニング・チームのリーダーという貴重な体験もする。こうした経験の中で、リーダーシップについての理解をしだいに深めていく。

著者の考えでは、真のリーダーシップとは、「予測される奇跡」を次々に生み出せる力であり、「行動の仕方」というよりは「心のあり方」に関するものだ。そしてこの「心のあり方」の変化が重要なのであり、「予測される奇跡」が次々に起こるシンクロニシティ(偶然の一致)は、その結果に過ぎない。

それにしても、彼のリーダーシップ観がサーバント・リーダーシップの考え方に強く影響されていることは興味深い。また、監修者の気合の入った長い解説も、本書を理解するうえで大いに役立つ。リーダーシップについて真剣に考えたい人には、必読書と言えるだろう。【評者 黒田康史 YSコンサルティング代表】

■2008/02/23, 週刊東洋経済

民主党の研究 (平凡社新書 401)
民主党の研究 (平凡社新書 401)塩田潮

平凡社 2007-12-11
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おすすめ平均 star
star人物評はおもしろいかも
starタイトルに若干の偽りあり。
starタイムリーだけど,生ものみたいな本

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本格的な民主党論 小沢一郎の発想もうがつ

民主党論はあるようでなかった。「ソフトクリームみたいなもの。夏が終われば溶けてなくなる」。1996年夏、鳩山由紀夫、菅直人らが中心になって民主党を結成したときの中曽根元首相の言葉だ。以来11年超、菅、鳩山、岡田克也、前原誠司、小沢一郎と5人のリーダーが党を引っ張った。溶けてなくなるどころか、昨年の参議院選挙で参議院第一党に躍り出た。

本格的な二大政党制が定着するかどうかは小沢の力によるところが大きい。マックス・ウェーバーは『職業としての政治』の中で、政治は情熱と判断力を駆使し、堅い板に穴をくり抜く作業という。今、小沢にその情熱と判断力があるか。

著者は小沢の政治家としての深部に「司法試験の尻尾」を見る。小沢は司法試験の勉強だけで終わり、法律家のプロにならなかった。手続法に入らなかったことで逆に「法の原理原則を純粋な形で身につけた面がある」。法律論重視との批判もあるが、「現行憲法を前提に政権交代を実現するなら憲法上許される範囲で政権構想や政策を構築するしかないというのが小沢の姿勢」と著者は見る。福田首相からの大連立構想に乗ったのもこれでわかる。

政治変革期の終幕になるか、それとも最終章の幕開けになるか。著者は言う。小沢の代表辞任騒動、安倍退陣劇で「二大政党がともに国民の期待や負託に応えられない漂流政党であることがほんの数ヵ月の間に判明した」。新しい理念と政策に基づく新政治勢力の結集――。「小沢がそこまでの展望と設計図を描いた上で豹変しようとしたかどうかは不明だが日本の政治は第何幕目かの政界再編劇の入り口に差しかかった」という。

後の世から「2008年体制」と名付けられた時、本書はより輝きを増すだろう。

■2008/02/23, 週刊東洋経済

壁を壊す
壁を壊す吉川 廣和

ダイヤモンド社 2007-11-02
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おすすめ平均 star
starこれぞ、会社改革!
star<伏魔殿>対策にどうぞ
star老舗企業経営者の破壊的経営改革に驚嘆!

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信用、資産、人材が豊富な1部上場企業は、優れた経営者が登場すると、旧弊が一掃され、見違えるほど業績が向上することが多い。DOWAホールディングス(旧同和鉱業)もその一つ。旧同和鉱業は非鉄金属の採掘や精錬では日本を代表する会社の一つだが、第1次石油危機後は長い間業績は低迷していた。

54歳で名門企業の社長に就任した著者は、旧同和鉱業が陥っていた大企業病をこれでもかと描写する。

著者は改革を阻む三つの壁に果敢に挑戦する。組織の壁、上下の壁、社風・風土の壁、である。

旧来の社風・風土を破壊することに成功した著者は新しい会社づくりに挑戦する。本社スペースを60%に減らし、役員室・秘書室を解体し、風通しのよい会社をつくる。事業部門ごとに徹底した競争原理を導入する。「書類づくりは仕事ではない」「効率化とは、価値の生まない仕事を、どのくらい捨てるかである」など学ぶことは多い。

■2008/02/23, 週刊東洋経済

エビと日本人 2 (2) (岩波新書 新赤版 1108)
エビと日本人 2 (2) (岩波新書 新赤版 1108)村井 吉敬

岩波書店 2007-12
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おすすめ平均 star
starここまでしてエビを食べる?
starエビから見えてくるもの
starこのに10年変化したこと

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悔やんでも悔やみきれないのは、「マングローブの林が健在だったら」という「もし」である。2004年12月のスマトラ沖地震が引き起こした津波は場所によって30メートルの高さに達し二十数万人の命を奪った。

マングローブの林は津波の勢いを減殺する。逃げ遅れた人も木によじ登れば助かったかもしれない。だが、インドネシアのアチェ県では、約3万ヘクタールあったマングローブ林が現在はその10分の1の3000ヘクタールに激減している。魚とエビの養殖池に化けたのである。

筆者は20年前の前著、『エビと日本人』で「日本人は輸入エビを少し食べすぎではないか」と書いた。そのとき、日本はエビ輸入額で世界トップ。20年後、米国に首位を譲り、スペイン、中国など“欄外”だった国が急伸している。だからと言って、失われた二十数万人に対する「間接責任」が免責されるものではないが、エビから、世界経済の中の日本の変遷を見ることができる。

■2008/02/23, 週刊東洋経済

中世西欧文明
中世西欧文明ジャック・ル・ゴフ 桐村 泰次

論創社 2007-12
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おすすめ平均 star
starRarousse→Larousse
star待望していた名著の邦訳

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歴史とはこんなにみずみずしいものか。本書を読んだ読後感である。

本書では4世紀から15世紀の西欧を扱う。蛮族の進入で揺れるローマ帝国。やがて、その廃墟から新しい西欧が生まれる。

だが、西欧は12世紀ころまでは、ビザンツ帝国とイスラム世界の辺境にすぎない。著者は「西欧が吸収したギリシャ文明もアラブを経由したもの」と指摘する。そのころ、プラハの司教は、キリスト教徒が仲間をユダヤ人を通じてイスラム教徒に奴隷として売ることを、再三再四禁止する。

しかし、遅れていた西欧は12世紀ころから発展を始めるが、途中の経過はまだ厳しいものがある。

この哀れな西欧がやがて世界の覇権を握る存在になるとは、当時の人は夢にも思わなかったに違いない。

著者はフランスのアナール学派の歴史学者。その記述は政治や社会だけではなく、人間の生活や中世的空間にまで及ぶ。良質な物語として読める。

■2008/02/23, 週刊東洋経済

プロクシー Year Book 2007
プロクシー Year Book 2007日本プロクシーガバナンス株式会社 編著

第一法規出版 2007-11-10
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株主総会の議案のどれに賛成、または反対することが株主にとってよいのか。それを機関投資家などに助言するのが議決権行使助言会社大手の日本プロクシーガバナンス(JPG)だ。本書はJPGが2007年に行った助言を871ページの大部でまとめたもの。調査対象321社の1618議案一つひとつに、どのような理由で賛成、反対の助言を行ったか記している。

たとえばNTTドコモはNTTの部長を社外取締役候補として提案した。しかし、JPGは、持ち株比率50%を超える親会社から派遣される社外役員に独立性はないとして反対を助言した。このほか社外役員の退職金や監査役へのストックオプション付与についても反対を助言している。

こうした助言方針についてはさまざまな意見があるだろうが、総会議案をこれだけ具体的かつ網羅的に分析している書は他に類を見ない。コーポレートガバナンスを考えるうえでも有意義な一冊である。

■2008/02/23, 週刊東洋経済

日本の黒い霧〈上〉 (文春文庫)
日本の黒い霧〈上〉 (文春文庫)松本 清張

文藝春秋 2004-12
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おすすめ平均 star
star歴史は流転する
star各事件のあらまし・背景を知らないと読みにくいか・・
star古い本であるが、今読んでもおもしろい

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日本の黒い霧〈下〉 (文春文庫)
日本の黒い霧〈下〉 (文春文庫)松本 清張

文藝春秋 2004-12
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おすすめ平均 star
star歴史を学ぶ理由は、「歴史は流転する」からである。
star世界の一部
star巨大な言論人としての清張の正義感

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葬られた夏―追跡下山事件 (朝日文庫 (も14-1))
葬られた夏―追跡下山事件 (朝日文庫 (も14-1))諸永 裕司

朝日新聞社 2006-07
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昭和24年に起きた下山事件の真相を追及する

昭和24年といえば、1949年。もう半世紀前になるが流行歌では「トンコ節」「薔薇を召しませ」「長崎の鐘」「悲しき口笛」、映画では『青い山脈』『野良犬』『大いなる幻影』などがヒットし、全米水泳選手権で四つの世界新記録を出した「フジヤマのトビウオ」、ノーベル物理学賞を受賞した湯川博士など、復興に向けて明るい話題が生まれる土壌となった年であった。

しかし、この復興は、「米軍による占領の時代」でもあり、それなりの混乱や苦痛が伴った。たとえば、この年、国鉄では約10万人の職員のリストラをめぐって、国鉄労組と当局とが一触即発の状況であった。

その国鉄の下山総裁の礫死体が常磐線の路線上で発見された下山事件(7月5日)、無人電車が暴走し6人の犠牲者を出した三鷹事件(7月15日)、東北本線の列車が脱線事故を起こし乗員3人の死者を出した松川事件(8月17日)と連鎖反応的に起こっている。しかも、これら3事件とも迷宮入りとなった。

特に下山事件は、事件直後から、「自殺他殺論争」が社会を二分した。事実、警視庁捜査二課と東京地検が「他殺」、捜査一課は「自殺」、毎日新聞は「自殺」、朝日新聞と読売新聞が「他殺」の立場をとった。また、死体鑑定を担当した東大は「死後轢断」、慶応大は「生体轢断」と、相反する報告が出された。

松本清張著『日本の黒い霧 上』は、反共工作を担当するキャノン機関のような「下級の一機関」ではなくて、占領軍が関与したとする「下山総裁謀殺論考」を、初めて発表した。昭和35年である。

また、諸永裕司著『葬られた夏』は、今までの下山事件に関する実におびただしい文献類を詮索し、日米両国で事件関係者に地を這うような取材を続け、事件の真相に迫った労作である。この本は、日本の大物政治家を黒幕とする「他殺説」を立てているが、その末部に「未完」と記している。下山事件はまだ終わっていないことの表明であり、清張の想いも同様であろう。【評者 阿久根利具 文芸評論家】

■2008/02/23, 週刊東洋経済

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