メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2008年1月26日~2月2日
| 円の未来 Yen's Future (光文社ペーパーバックス) | |
![]() | 田村 秀男 光文社 2007-11-22 売り上げランキング : 44481 おすすめ平均 ![]() このまま円は凋落、人民元がアジア通貨になるか?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
円はどうなるか 政策当局が握る運命
円・人民元・ドルが国際通貨として今後どのように変化していくのか。サブプライム危機や中国経済の過熱を背景にして、本書は政治と経済の両面から視野の広い分析を試みている。
特に著者が懸念しているのは、円の国際通貨としての地位失墜である。日本経済がなんとか景気を持ち直してきたのは、円安をテコにした対中国・対アメリカなどへの輸出に牽引されたからである。
しかしこの円安は、著者によれば「円キャリートレード」によってもたらされた本質的にリスキーなものであるという。円キャリートレードは金利がきわめて低い円資金を調達して、これを金利の高いドルなどで運用し、さらにこの運用益をまた日本株などの円資金に投入していくという投機的な行動によって実現されたものである。円キャリートレードを実行しているのはヘッジファンドであり、彼らのギャンブル同然の取引によって実現された円安は、円の国際的な信頼性を危うくする、というのが著者の問題意識だろう。
日本銀行が金利上げスタンスを採用する背景には、円キャリートレードによる資産市場のゆがみを是正したいという要求があることからも、興味深い。
著者はまた日本銀行の政策姿勢にも厳しい評価を下している。サブプライム危機の発祥地であるアメリカ株式市場や、「バブル」と懸念されている中国上海市場などよりも日本の株価が最も下落率が大きいのはなぜだろうか。このような日本経済の脆弱性は、日銀が十分な見通しをもって金融政策を実施してこなかったからだ、と著者の評価は厳しい。本書で特に面白いのは、中国の政治経済の内情を描いているところだ。中国の株式市場が事実上、中国政府によってコントロールされている「官製バブル」の状況にあるという。「党中央が旗を振れば、たとえ株式が暴落しても最後には当局が市場に介入して買い支える」と中国の個人投資家は信じているという。
しかしこのような官製バブルはやがて将来に禍根を残すことになるだろう。バブル崩壊によって個人投資家が深刻な負債を抱えることを著者は警戒している。そのため人民元建ての資産市場を多様化し、リスク分散を進めることを本書の中では提唱している。また公共事業中心の経済成長が、一党独裁ゆえに健全なガバナンスが機能せず、やがて国土崩壊に至るかもしれないと警鐘を鳴らしている。
本書の教訓は、国際通貨としての地位が、国内の政策当局によって大きく左右されるということだ。その意味で「円の未来」は、政策当局の判断に大きく依存する重大事なのである。
| 文芸時評―現状と本当は恐いその歴史 | |
![]() | 吉岡 栄一 彩流社 2007-10 売り上げランキング : 30164 おすすめ平均 ![]() 文藝時評の頽廃を抉るAmazonで詳しく見る by G-Tools |
われわれは小説をどう批評すればいいのか
文学作品をどう評価すべきか。もとより純然たる「客観的」評価なぞむろん存在しないが、それにしても、現在、主観的な作品評価が闊歩しすぎている。これでは「ムラ社会」と揶揄されている文壇内の党派性や政治性、打算や恣意に容易に汚染されてしまう。
事実、人口に膾炙されている新聞の文芸時評の廃止論、退屈極まりない純文学の不振と凋落、文芸誌の発行部数の減少などは、大正時代あたりから論じられてきた古くて新しい問題であるが、今後どうなるのであろうか。このままでは立ち行かなくなるのはほぼ必定であろう。
村上春樹の長編小説、『海辺のカフカ』が書評や文芸時評において、その作品評価が総じて絶賛か酷評かという二極分化した点に注目した本書は、文芸時評における客観的評価は可能なのかという問題を正面から捉えるために、明治の文芸時評の嚆矢といわれる森鴎外・幸田露伴・斎藤緑雨の匿名合評「三人冗語」から、田山花袋、正宗白鳥、そして現代の中上健次、高橋源一郎などの文芸時評を通時的に検討する。
本書によれば、明治の昔から、基本的には「辛口批評」が定番であった。それが1970年代になって、外国から直輸入されたテクスト論派が台頭し、百花繚乱の批評理論が未咀嚼のまま文芸時評界を席巻し、果てしない不毛な混迷が続いたのだった。
結局、軸がしっかりとした「ホンネ批評」が最低のルールであることを自覚した「理想的な批評家」が、この危機的な現状を改革する、と力説する。
文芸批評について、かつてイギリスの作家E・M・フォスターが述べた「小説の価値判断における究極の基準はそれに対するわれわれの愛情です」との言葉を銘記したいものである。【評者 阿久根利具 文芸評論家】
| 中国の不良債権問題―高成長と非効率のはざまで | |
![]() | 柯 隆 日本経済新聞出版社 2007-09 売り上げランキング : 43000 おすすめ平均 ![]() 金融システム全体を論じていくバランスの良さAmazonで詳しく見る by G-Tools |
爆走中国経済の陰に国有銀行の不良債権
2007年の暮れ、中国の株価は年初の3倍にまで高騰した。しかし、膨らむだけ膨らんだバブルの陰で中国の社会と経済の矛盾が広がっていることも周知の事実である。経済面の矛盾の最たるものが、国有銀行が抱える不良債権であろう。
改革開放政策が深化していく過程で、中国でも国有銀行の株式会社化が進められた。しかし、いまでも国有銀行の経営者の人事は共産党中央の管轄下にある。企業組織なのか、政府機関なのかがあいまいで、行政からの独立が担保されていない。
日本の感覚からすれば驚くべきことだが、国有銀行の融資担当者には回収に関して終身責任が科せられているという。そのため、民間企業への融資は回避され、責任を問わないという意味で「安全」な国有企業への融資が多くなる。また、国有銀行の地方支店は、成長至上主義が強い地方政府からの融資強要の圧力にさらされている。
そして、融資先の国有企業の経営改革も遅れている。現在、中国国内の上場企業の9割は国有企業だが、投資家に公開されるのは議決権の3割程度。また、個人投資家主体で、機関投資家の影響力が非常に限られるため、経営者には株主からのガバナンスがほとんど効かない。直接金融、間接金融とも、市場原理が働かない仕組みが無責任経営を助長し、不良債権の温床になっているという。
いまのところ、世界的な過剰流動性を吸収しつつ、中国は高成長を続けて、不良債権問題は顕在化せずにすんでいる。しかし、著者は2012年前後に中国経済の高度成長は終わりを遂げ、その時期に不良債権リスクが急浮上する可能性を指摘する。それを回避するためには金融制度の改革断行が急務だ。「ガバナンス」という視点からの鮮やかな問題提起である。【評者 西村豪太】
| 社名・商品名検定 キミの名は (朝日新書 91) | |
![]() | 朝日新聞be編集グループ 朝日新聞社 2008-01-11 売り上げランキング : 10558 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ヤン坊マー坊の歌詞は誰が作ったのか、ホッピーはアルコール飲料か、花王やグリコのマークの変遷は、など、見慣れ、聞き慣れているにもかかわらずその由来をほとんど知らない社名や商品を、それぞれ1ページで簡単に解説している。
朝日新聞土曜版に2003年4月から連載中のコラムから120をピックアップし、より楽しめるよう、正誤を当てる、3択などクイズ形式にしたという。企業そのものの歴史や、広告、文化の流れをアウトルックできて楽しい。
TSUTAYA、液晶AQUOSなど比較的新しいものを押さえている一方、ダイハツのミゼットやサッカーボールのモルテンなど中高年には懐かしい製品や、マニアックな会社も取り上げられ、設問も凝っている。サントリーの名前の由来など誰でも知っていそうなものはなく、中高年でも100問以上の正解は難しそう。最後には番付表もついている。豆知識として話題のネタ帳になる。
| 「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方 | |
![]() | 駒崎弘樹 英治出版 2007-11-06 売り上げランキング : 1266 おすすめ平均 ![]() やりたいことがないと嘆く若者に。 興味がある人が最初に読むと役に立つ本 人生の分岐点Amazonで詳しく見る by G-Tools |
NPO(民間非営利団体)業界は「三ちゃん業界」と言われているという。「あんちゃん(学生)、おばちゃん(主婦)、おじいちゃん(退職後の高齢者)」の人材層から成り、若手や中堅の人材が少ないからだ。しかしNPO代表を務める著者は、学生でも主婦でも高齢者でもなく、20歳代の若き実業家である。
著者が代表を務めるNPO法人「フローレンス」は、働く親に代わって地域のスタッフが子どもの病気をケアする「病児保育」を展開。脱施設、地域密着、共済といった独自の仕組みで利用者を増やしている。
サブタイトルにある「社会起業家」とは、このように新しい仕組みを導入して経済的自立を果たし、社会貢献をするアントレプレナーのことである。自治体や企業との衝突など、本書には立ち上げの苦労も詳細に記されるが、金銭ではなく「社会を変えたい」という思いが著者を突き動かす。若者の新たな働き方のモデルを示す一冊である。
| 映画で日本文化を学ぶ人のために | |
![]() | 窪田 守弘 世界思想社教学社 2007-10 売り上げランキング : 377711 おすすめ平均 ![]() 対象は日本人 映画理解も日本文化理解もどちらも中途半端Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今、わが国に必要なのは、日本人とは何か、というわれわれ自身のアイデンティティの確認ではないか。
映画であれ、戯曲であれ、小説であれ、敗戦から昭和30年代中葉にかけての日本に関するブームは、何を意味しているのか。
単なるレトロブームではあるまい。敗戦後から現代までの日本人らしい思考方法や行動様式はどうだったのか。その再確認のために、日本映画のメッセージに目を凝らし、耳を澄ましたいものである。
本書のタイトルからすれば、外国人向けのようであるが、われわれ日本人向けなのである。たとえば『東京物語』(昭和28年)は、老夫婦を通して、3世代同居の拡大家族から核家族へと移り変わる中での家族観の揺らぎを描いている。さらにローアングルから撮影されていることで、登場人物が直接観衆に話しかけるような不思議な臨場感が生まれていると述べている。14ジャンル、28本の映画を解説している。
| 家族の倫理学 [現代社会の倫理を考える] (現代社会の倫理を考える 第 14巻) | |
![]() | 志水 紀代子 立花 隆 加藤 尚武 丸善 2007-10-26 売り上げランキング : 27367 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
子が親を殺してしまう、親が子を殺してしまう、といった常識的には考えにくい事件が起きている。
本書では、「家族」をめぐる今日的な問題、子どもの虐待や若者の居場所がない現実を踏まえつつ、現在のぺ・ヨンジュン人気が提示しているものについて深く考察する。そこから、これからのあるべき「家族像」を浮き彫りにする。
さらに、社会の学校化現象に敢然と挑む大瀬敏昭校長を先頭とする、茅ヶ崎市立浜之郷小学校の教育実践を取り上げる。筆者がライフワークにしているドイツ系ユダヤ人政治学者であるハンナ・アーレントの「世界」概念につなげながら、これからの家族のあり方のヒントとして考えていく。
さまざまな社会問題にも関連しうる、現在の家族が抱える重要課題を、身の回りの事件などを取り上げながら解説するとともに、家族問題解決への処方箋を提示していく。待望された倫理的「家族論」といえる。
| おとなの叱り方 (PHP新書 500) | |
![]() | 和田 アキ子 PHP研究所 2008-01-16 売り上げランキング : 542 おすすめ平均 ![]() 肩肘張らない、叱るということの品格をおしえてくれる本 男の殴り方ではなく… アッコさん、よくぞ言ってくれました!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
歌手生活40年、今や芸能界のドンと呼ばれる大物タレントが、ユニークな新書をビジネス系の出版社から出した。タイトルは『おとなの叱り方』(PHP新書)。タレント本というより、組織や社会の中で萎縮するビジネスパーソンに喝を入れる内容だ。異色の自己啓発本である。
――出版の経緯を教えていただけますか?
今年で芸能生活40周年。以前からそれを記念して、自叙伝を出版しようかと言っていました。自分の生まれ育った境遇、歌手デビュー、その後の芸能生活をまとめた芸能人らしい本を。私の半生を書いたり話したりすると、かなり壮絶なものがある(笑)。
そしたら、「アッコさん、それは引退した芸能人がすること。まだ早い」と止めてくれた人がいた。
私はまだ現役でやりたい。声が出るかぎり70歳、80歳になっても真っ赤なマニキュアをつけて、未来は今よりさらに禁煙運動が盛んになっているでしょうが、それに反抗して、葉巻をくわえてブルースを歌うのが、私の夢なんです。
それで、「そうか。じゃ、やめよう」と。一方で、今の世の中どうしたんだろうという思いがあった。政治家が役目を放棄して逃げたり、親が子どもを殺したり、今の日本は病んでいる、何かおかしい。日本人は全体的にはいい人ぶっているのに、一方で親や子どもの殺人が起こっている。 叱らない日本人に未来はありません
そうした、もやもやした不安がある。そんな状況に喝を入れて、背骨を伸ばして、ボキって言わしたいな。講演会でもしようか、と。そう思っていたところに、PHPさんから、「その話面白い、ぜひ」と提案があった。
この本に込めた私のメッセージは、今の若者はだらしないが、それ以前に大人ができていない、ということです。
子どもに対する親、生徒に対する先生、部下に対する上司、後輩に対する先輩。こうした関係で、上位者が無責任になって下の者を指導しない。自分の立場をわきまえていない。その結果として、下の者がダメになっている。
原因は、その大人が叱られていない、しつけられていないことにあります。これを直さないと、日本の将来は危ないし、つまらないと思う。
私は大阪の下町で育ちました。母親には殴られませんでしたが、父親には殴られっぱなしで、父親はとても怖い存在でした。学校でも、小学校の頃、よく先生に殴られました。先生に殴られても、家に帰って、先生に殴られたことを話したら、両親は、「おまえは何をしてん」と怒られる。そのくらい学校の先生は偉いものだった。
外で遊んでいても、知らないおじさん、おばちゃんが「そんなことをしたら、アカンで」「もう帰らなアカンで」と叱るというか、周りの大人がちゃんと子どもを見てくれていた。
今の時代、そうしたことがとても欠けているんじゃないですか。そんな思いをこの本にまとめました。
叱るというのは人と人のコミュニケーションです。みんなもっと声を出して叱ってよ。私はそういう想いで後輩を叱っているし、後輩も慕ってくれている。でも叱りっ放しではダメですよ。飯食わせてプレゼントして、アメとムチですよ。鉄鋼王のカーネギーが言っているように、人を叱るには、えらいカネがかかります。でも、自分が叱ったことは、自分をも縛るから、自分にもよい結果になりますね。
――責任のある人、その立場にある人が叱れないのは、叱ると人気がなくなると思っているからでしょうか。
そうだと思います。
――芸能界という人気がまさに物を言う世界で、和田さんが叱りながら生き残れた秘密は何ですか。
私は自分自身がコンプレックスの固まりで、人からは芸能界で確固とした地位を確立していると思われていますが、私はまだ不安で不安でたまらない。 私はまだ不安 これからも進化したい
芸能界は人気商売、人気というのは「人の気」です。人のことだから、1プラス1が2という答えはない。3にもなるし、ゼロにもなる。芸能界で成功する答えやノウハウはありません。すべて個別事情です。そうなると、自分がいちばんしっかりしていないとやっていけない。自分が置かれている立場をつねに認識していかないと。勉強ではないから、方程式では解けない問題を与えられている。
そうなると、人に会ったり、よい音楽を聴いたり、自分で自分に磨きをかけなければ。
芸能界はある人を注意してあげて、その人がよくなったりしたら困るわけですよ。みんなライバルだから。
――落ちていったほうがありがたい。
それはそうですよ。ちょっとでも自分と似た存在がいると困るんです。
今の私が皆様にどう見られているか知りませんが、私は正直に生きざまを見せてきました。そういう芸能人は少ないから共感を呼んでいるのではないか、そんな感じを持っています。
――和田さんは、なぜそのように生きられるのか?
女でこんなに体がでかいから。身長170センチメートル以上あります。指輪のサイズも18号。主人と同じ。でもこれって男だったら当たり前。私がもっと小さければ、何言っても面白くない。それに数々の武勇伝を本当に持っているから。
私は本当に不良だったから。自慢するほど。もう時効だから話しますが、10代から酒、たばこ。番長格の存在。 それに、いまだにコンプレックスの固まり。本当は打たれ弱いのに、「かかってこい」の精神でしのいでいる。自分自身がなんぼのものじゃい、と。本当に不良で醜いアヒルの子が、白鳥になったけれども、水面下では、ずっと足をこいでいるのです。
そうやって進化しないと、人間はつまらないし、人の評価も一定で終わってしまう。
――芸能人にならなければ、暴力バーのママをしていたと書いていますが……。
はい。やっていました。今でも歌がダメだったら、やろうと思っています(笑)。
| 国家は、いらない (Yosensha Paperbacks (033)) | |
![]() | 蔵 研也 洋泉社 2007-11 売り上げランキング : 7661 おすすめ平均 ![]() 日本の現状への理性的な怒り方を教える頭脳トレーニング本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
私益を公益にすり替え国民を苦しめる国家を批判
あらゆる団体が自らの公益性を主張するが、その公益が認められた場合に利益を得るのは、その団体の構成員にすぎない。一般国民は、「公益」の名の下に搾取されるだけだ。自動車の安全性には公益性があり、それを高めることは自動車会社の利益と一致する場合が多い。だから、車には安全になるインセンティブが働く。しかし、政治家や役人には、このようなインセンティブが働かないことが多いと本書は述べる。
制度を運営する個人のインセンティブが、一般国民の福祉の増進に結びつくような仕組みになっていない以上、公益などという言葉は信用しないほうがよいと著者は主張する。確かに、複雑な年金制度は、年金官僚の老後の安心には役立っても、国民一般の安心を確保してはいないようだ。
この基本的認識に立って、著者は、公共料金や農産物の高さ、国家の介入が所得分配の是正や医療の安全確保にさえ役立っていないことを告発していく。これまでも指摘されてきたことの繰り返しと感じられる部分もあるが、本書の包括性には迫力がある。
また、医療、地価などについての記述は新鮮である。医師を増やして仮に質が落ちたとしても、医療サービスの供給量が増えることによって、福祉は増進するという。医師不足が議論されているが、医学部定員を増やして医師を増やせという論調があまり聞こえて来ないことに驚く。
看護師が足りないから、海外から連れて来なければならないと議論する人々が、医師を増やそうと言わないのは不思議である。矛盾する議論は、おそらく、私益を公益に見せるトリックから生まれているのだろうと評者も思う。
日本の土地が高いのは固定資産税が低いからだという分析はそのとおりと思う。固定資産税を引き上げれば、地価は下がり、土地は効率的に使われるだろう。しかし、これは資産価格が税制によって変化するということである。国家はいらないとしても、人々の所有する財産の価値を決めるのは国家になる。
著者は自らを無政府主義者としているが、無政府主義者は国家と所有権の関係をどう考えるのかを聞きたいと思った。
本書の思考は、刺激に満ちているが、評者が最も感銘を受けたのは、最後の章の、権力者の徳に依存する統治ではなく、民主主義による統治という思想こそが西欧の発展をもたらしたという部分だ。評者は本書を楽しんだが、本書の新鮮さを歓迎しない読者もおられるだろう。そのような読者は、最終章だけでも読んでほしい。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】
| トヨタはどうやってレクサスを創ったのか―“日本発世界へ”を実現したトヨタの組織能力 | |
![]() | 高木 晴夫 ダイヤモンド社 2007-09-29 売り上げランキング : 33310 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
レクサス開発に見るトヨタの組織能力の高さ
最近、自宅の周囲でも、レクサスが走っているのをよく見かけるようになったが、その悠然と走る姿からは、他のトヨタ車や日本車にはない、またメルセデスやBMWに代表されるヨーロッパの高級車とも異なる、独特の存在感が感じられる。
本書は、このプレミアムブランド・レクサスの日本導入を切り口に、気鋭の学者が、多くの関係者へのインタビューを基に、今や日本を代表する世界企業になったトヨタの組織能力の強さを分析した意欲作だ。
本書の大半は、米国で生まれたレクサスというプレミアムブランドを再構築し、「日本発世界へ」を実現するための、さまざまな苦労や葛藤、その解決に割かれているが、そこにはトヨタのレクサスに懸ける熱い思いや意気込み、徹底した取り組み姿勢が感じられる。
印象的なのは、メルセデスなどの競合車から差別化するために、徹底的に日本の価値、日本の文化、日本のよさを探求し、それらを車そのもの(ハード)だけでなくサービス(ソフト)面にも組み込んだことだ。
また、トヨタの誇るハイブリッド技術や安全技術をはじめとした世界最高技術の導入や、長期的な視点からのブランド再構築、人材育成の努力も印象的だ。これらを可能にしているのが、本書で説くところの「5つの組織能力」だ。この組織能力をベースにした組織文化やリーダーシップこそ、トヨタの競争優位性の本質であり、新しい日本的経営モデルの一つのかたちといえるだろう。
レクサスの日本導入はまだ始まったばかりだ。しかし、トヨタなら、時間をかけてでもなにかやってくれるという期待感が強い。10年後のプレミアムカー市場の動向が楽しみであると同時に、当分はトヨタ、そしてレクサスから目が離せない。【評者 黒田康史 YSコンサルティング代表】
| インターネットは誰のものか 崩れ始めたネット世界の秩序 | |
![]() | 谷脇 康彦 日経BP社 2007-07-12 売り上げランキング : 33276 おすすめ平均 ![]() (やや過剰な)危機感 手堅いが・・・。 デジタルに限らずメディアに関心ある人には必読書Amazonで詳しく見る by G-Tools |
誰かが歩哨の仕事をしないとネットの世界は自壊する
評者は著者と同じ年に「霞が関」に奉職し、現在も「官僚」を続けている。この経歴のみが、ITに関する専門家ではない評者がこの本を書評する唯一の「正当性」なのだろう。素人としてこの本を読むと、日進月歩のインターネットの世界の動向がよく整理されていて、非常に勉強になった。しかし、著者が何度も繰り返し述べている「インターネットの助け合いの精神が崩れ始め、商業主義のインターネットの時代に入りシステム全体の危機が生じている」というくだりが非常に気になった。
なぜなら、「民間企業の効率性を導入すればシステム全体のパフォーマンスが向上する」という定説に反する事態が起きているからである。
話題を少し変えるが、最近「1億総クレーマーの時代」と言われ始めている。自身の権利ばかり主張して、自らが「社会システム」の一翼を担う責任をまったく認識しないという姿勢が問われているのだろう。内田樹神戸女学院大学教授は、「社会には利益やお金に直接つながらないかもしれないが誰かがやらなくてはいけない仕事(雪かき作業等)があり、この役を進んで受ける歩哨(センチネル)が消えてしまうと社会全体が立ちゆかなくなる」 と警鐘を鳴らしている。時代の最先端を行くインターネットの世界でセンチネルの重要性が再認識されているというのは、なんとも示唆的である。
官僚が業務に直接関係する著書を出版することはなかなか容易なことではない。このリスクを冒してまで、著者が一般の人人に広く訴えかけたかったことは「インターネットの世界を愛する人たちは自らの世界を守るために進んでセンチネルになってほしい」ということなのだろう。公僕である「霞が関の住人」が率先してセンチネルになることは言うまでもないが……。【評者 藤 和彦 内閣官房内閣参事官】
| 英国王室の女性学 (朝日新書 78) | |
![]() | 渡辺 みどり 朝日新聞社 2007-10-12 売り上げランキング : 117071 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
イギリスは女王の時代に栄える、といわれている。エリザベス一世、ビクトリア女王、そして現女王エリザベス二世のことである。
エリザベスの王室は、皇太子夫妻の離婚を筆頭に、家族関係は崩壊寸前。だが、エリザベス女王は健気にも己の義務を果たしている。
1992年11月、ウィンザー城が火事になった。テレビカメラは、青い雨具とゴム長靴姿でバケツを抱えて走っていた一人の女性を執拗にとらえていた。後でわかったのだが、その女性は、なんとエリザベス女王その人であった。その年の女王のクリスマス・スピーチでウィンザー城の修復費用の負担と所得税や不動産税の納付を申し出て、国民に謝罪したのであった。
本書は、この三人の女王を中心に、彼女たちが愛し、生きた姿を豊富な興味深いエピソードを交えつつ活写している。そしてユーロ・モナキズム(欧州の王室)のあり方を示唆したユニークな王室論でもある。
| 中国証券市場大全 | |
![]() | 野村資本市場研究所 日本経済新聞出版社 2007-12 売り上げランキング : 73579 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国・上海証券取引所の株価は2007年10月には年初の3倍近くになり、その後は調整している。バブル崩壊はいつかという議論がメディアをにぎわせているが、中国の証券市場の現状についての知見を欠いた印象論も少なくない。
この数年で中国の資本市場では続々と新制度が導入されている。国有企業の非流通株改革、さらに新会社法、証券法の施行などによって、まだまだ不完全ではあるが、制度としての資本市場はかなり整備されてきたといってよいだろう。
海外機関投資家の投資や中国の機関投資家による海外投資に関しても、制限は徐々に緩くなってきた。世界経済の中で中国の存在感が高まる今日、その証券市場と投資家の現状について正確で新しい知識を持つことの重要は増している。
本書では中国証券市場の基礎知識から最新の制度までがバランスよく記述されている。中国経済に興味のある人から実務家まで便利に使えるハンドブックだ。
| MICHELIN GUIDE東京 2008 (2008) | |
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東京は世界に誇るレストランがたくさんある――。創刊から108年、ヨーロッパをカバーするレストランとホテルのガイドブックとして圧倒的に支持されているミシュランガイドの東京版が完成し、出版された。
本書で初めて、東京のレストランにミシュランの星がつくことになった。
テレビで報道されると、たちまち星がついたレストランに取材が殺到し、話題になった。週刊誌によると星のついたレストランに皇太子ご夫妻もお忍びで訪れたという。
書店では本書を手にとり、「三つ星レストランにはいけないけど、一つ星にはいきたいわ」というOLも目立つ。あらためて、ミシュランの権威の高さには驚かされる。
本書はカラー写真でレストランを紹介し、読み物としても楽しい仕上がりになっている。本書で紹介されたレストランが、これからも高い品質を維持して、ミシュランの調査員を再度うならせてほしい。
| 文章のみがき方 (岩波新書 新赤版 1095) | |
![]() | 辰濃 和男 岩波書店 2007-10 売り上げランキング : 2908 おすすめ平均 ![]() 早速、実践してます いろいろな本のガイドブックとして読むという手もある 美しい日本語のためにAmazonで詳しく見る by G-Tools |
「文は人なり」といったのは、18世紀フランスの科学者・ビュフォンであり、アカデミーの入会演説であった。われわれはこれほどの高邁な理念を掲げないとしても、素朴に「いい文章」を書きたいと内心思っている。「いい文章」とは、「これこそ書きたい、これこそ伝えたいという書き手の心の、静かな炎のようなものだ」と本書は述べている。
そのために、本書は、38 章を設けて、その各章に見合う作家や詩人、そして画家や文章家の短い文を巻頭に載せている。さながら箴言のように。彼らが「いい文章」を書くために何を心掛けているか。漱石、荷風、朔太郎から、三島由紀夫、向田邦子、村上春樹といった文人たちの考えもよくわかり、われわれがおのずと彼らの作品に接する時の心構えも変わるであろう。
本書は、最初の4章で、「毎日、書く」「書き抜く」「繰り返して読む」「乱読をたのしむ」を勧めている。そして、「声を出して読む」、これは愚見である。
| THE STATE OF THE WORLD ロイター写真集 揺れ動く世界 | |
![]() | ロイター・グループPLC ロイター・ジャパン株式会社 ランダムハウス講談社 2007-12-04 売り上げランキング : 16951 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
こんなはずではなかった21世紀の始まり
ミレニアムのカウントダウンの騒ぎはついこの間のことだった。20世紀最後の年、世界は不安と希望のなかで、愛と平和の新千年紀が迎えられると期待した。前世紀は戦争の世紀だった。大量破壊と殺戮の始まりの第一次大戦、核兵器と民族浄化の第二次大戦、電子戦化した湾岸戦争。その隙間で絶えることのない内戦と難民の群れ。
20世紀はまた映像の世紀でもあった。グラフジャーナリズムの登場は世論をリードし、ときには歴史を動かしたものだ。本書はロイターによる21世紀初頭の世界を記録した写真年代記だ。同社は世界に196の支局をもち、2400人のフォトグラファーと記者がいるという。1851年にロンドンで設立され、歴史的なスクープをものにしているが、現在は金融情報サービスを中心にした世界最大の国際マルチメディア通信社になっている。
巻頭ページでは各地でミレニアムを祝う歓喜のシーンが掲載され、次の2001年9・11の映像で希望の世紀が幻想だったことを知らされる。より過酷な世紀になることを予言するかのように。テロ、環境、グローバリゼーション、天災、疫病、信仰、家族、貧困、パワーポリティクス、資源、人権、セレブ、クローンなど前世紀の事象が増幅し、肥大化した現実を質の高い映像で見せてくれる。人類はとんでもない時代に突入した。
本書を手にすると格差社会の勝者も安穏としてはいられないだろう。21世紀の最初7年間で世界の280人以上のジャーナリストが殉死したという。われわれはどこから来てどこへ向かうのか。そんなジャーナリズムの使命と写真の力を認識させてくれる一冊だ。【評者 写真家 中川道夫】
情報セキュリティ入門 ビジネスマンのための
林 國之 (著)
情報をどう守るか
情報セキュリティの重要性が叫ばれて久しいが、企業や団体における情報漏洩の事件・事故は後を絶たないのが昨今の現状である。それではわれわれは、どのように対応すればいいのか。その具体策を示す本が出る。『ビジネスマンのための情報セキュリティ入門』(キヤノンシステムソリューションズ・セキュリティソリューション事業部編、林國之著、1月28日発売)がそうだ。
本書は、企業におけるセキュリティのあり方から情報漏洩の現況、事故の防止策などをわかりやすく解説している。
特に、インターネットや電子メールについての安全を図る技術にページを割いているのがありがたい。これらは、日々の業務での使用頻度が非常に高く、身近なため、注意散漫となる場合が多く、情報漏洩の事件・事故に巻き込まれやすいからだ。
また本書は、技術面での防止策だけでなく、パソコンの置き忘れ、USBメモリなどの記憶媒体による情報の持ち出しといった人的なミス防止の対応、災害時の対応などにも言及している。本書は情報を扱う専門家でなくとも読める入門書である。常日頃の備えとしてご一読をお勧めする。










対象は日本人
映画理解も日本文化理解もどちらも中途半端![家族の倫理学 [現代社会の倫理を考える] (現代社会の倫理を考える 第 14巻)](http://ecx.images-amazon.com/images/I/21Vs3TnkBhL.jpg)










