メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年9月22日~9月29日

日本的雇用慣行―全体像構築の試み (MINERVA人文・社会科学叢書 131)
日本的雇用慣行―全体像構築の試み (MINERVA人文・社会科学叢書 131)野村 正實

ミネルヴァ書房 2007-08
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日本的経営の通説を打破 雇用慣行の真実を探る

終身雇用、年功序列賃金、企業別組合がいわゆる日本的経営の三本柱である、というのが通説になっているが、労働問題研究の専門家として、この通説を詳しく検討し、それを批判しているのがこの本である。

著者は、『知的熟練論批判』(ミネルヴァ書房)や『日本の労働研究』(同)などで、これまでの日本の労働経済学者たちの仕事を厳しく批判してきたが、それを踏まえて著者自身の研究成果を体系化するためにこの本は書かれている。

いわゆる終身雇用にしても、年功序列賃金にしても、それはいずれも男性の、大手製造業の、生産労働者だけを対象にしたもので、女性はもちろん非正規従業員も対象になっていない。 

このような雇用慣行は、本来は会社の経営秩序であり、したがって会社を総体として取り上げることによって解明されるべきものである。

ところがこれまでの労働経済学者たちには、会社を総体としてとらえるという視点がなかった。そこで一部の労働者だけを取り上げ、その雇用慣行を問題にした結果、冒頭のような通説になったのである。

日本的雇用慣行の基盤は永年勤続の価値観であり、立派な会社は立派な人間と永年的な関係を結ぶという考え方にある。ここから会社に対する従業員の忠誠心が生まれ、それによって会社は大きくなる。

会社(企業)別組合も、それは単なる労働者の組合というよりも、会社組織の一部として組織されているのである。このような考え方から、いわゆる終身雇用や年功序列賃金、そして会社別組合について、これまでの研究を批判するとともに、実証的に著者の見解を展開する。

なお、終身雇用に関連して、定年制を分析するとともに、採用即ち就職について第1章で詳しく分析している。毎年4月1日に一斉に新入社員を採用するという日本型採用システムは他の先進国にはない独特のシステムだが、なぜこのような制度が日本で普及するようになったのか、ということについても興味ある指摘をしている。

結論として日本型雇用慣行は今後も基本において持続するだろうというのだが、しかしそれは日本の会社のあり方がこれまでと変わらない、ということを前提にしているのではないか。

バブル崩壊後、日本の会社、とりわけ大会社のあり方が変わってきているし、今後さらに変わらざるをえない。現に非正規従業員が増えており、日本の雇用慣行も変わりつつあるのではないか。このような疑問はあるが、労働問題だけでなく、会社に関心のある人すべてにこの本を読むことを勧めたい。【評者 奥村 宏 株式会社評論家】

■2007/09/29, 週刊東洋経済

福沢諭吉 国を支えて国を頼らず
福沢諭吉 国を支えて国を頼らず北 康利

講談社 2007-03-30
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star我々が忘れかけているもの
star今一つ訴求力に欠くが力作であることは間違い無い
star理想の教育のカタチ

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民にあって、独立自尊を貫いた福沢諭吉の生涯

『福翁自伝』は、いま岩波文庫で読める。自伝文学の傑作である。刊行されたのは明治33年、福沢が66歳のときのもの。刊行当時この本を手にした者にとって、明治が現代であり、幕末も遠い昔ではない。同時代感覚で読むことができただろう。

しかし、それから一世紀以上たった。いまとなっては、幕末はおろか明治でさえ遠すぎる過去である。そんなところに、名著『白洲次郎 占領を背負った男』の著者が現代の読者を考慮しながら諭吉の生涯を描いた。

諭吉の身長173・5センチメートル、体重70・25キログラム、肺活量5・159リットルや子どものころ「ユーキン」と呼ばれてかわいがられていたなどの叙述により、福沢はにわかに現代のわれわれにも身近な存在になってくる。

こんなエピソードをはさみながら、動乱期の幕末と明治の諭吉の思いと行動が活写される。

民にありながら、官にある指導者たちが諭吉をいかにおそれたかは、つぎのようなところにもみることができる。伊藤博文が大隈重信の早期国会開設建議を読んで、「やはり、福沢に知恵をつけられおって」と苦虫を噛み潰す場面などに。

そう、諭吉こそ、元祖構造改革論者だった。

いや「論」だけでなく、慶応義塾や株式会社などを設立した「行動」者だった。改革は制度だけでない。精神の改革(「一身の独立なくして一国の独立なし」)論者、行動者でもあった。 それも官にあってではなく、生涯、民にあってのこと。すごいの一語につきる。

諭吉は晩年つぎの言葉を残している。「人生本来戯れと知りながら、この一場の戯れを戯れとしないでまじめに勤めていくことが大切である」(『福翁百話』)。本書にも引用されているが、評者が好きな言葉の一つである。【評者 竹内 洋 関西大学文学部教授】

■2007/09/29, 週刊東洋経済

世界の困った人ジョーク集
世界の困った人ジョーク集モクタリ・ダヴィッド

青土社 2007-05
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starクスっときます

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ジョークに隠された批判 世界の弱者の視点を知る

数年前、駐日英国大使公邸での夕食会で「火事のとき何を持ち出すか」という議論になった。英国大使は「自分はジョークを集め、箱に保存している。これを真っ先に持ち出す」と言った。

これもジョークっぽいが、一面の真実をついている。私は英国、ソ連、イランなどで勤務したが、パーティになるとしばしばジョークの応酬になる。知的フェンシングの応酬だ。反応がないと、「え、理解できないの」という顔をされる。多くのジョークは笑いという覆いの下に批判を隠している。ジョークの理解の基礎には、この批判の理解が前提となる。政治ジョークが発達するには少なくとも次の三つが必要である。圧倒的力の存在、激しい批判精神、笑いにカモフラージュできる文学的才能。

かつての圧倒的力は王政である。この本は「ペルシアの王」の項をもうけ、ジョークが古い伝統を持つことを示している。

今日の圧倒的力は何か。米国のブッシュ政権である。したがってこのジョーク集がブッシュ・ジョーク集から始まるのは自然である。ブッシュ政権の特色の一つが大手メディア操縦の巧みさだ。こういうときは漫画やジョークが全盛となる。今日米国メディアでいちばんがんばっているのは政治漫画で、厳しい批判を加えている。

本書のジョーク集はイラン国営通信社の記者によって集められた。イランは西側では「敵」扱いで国際的には弱者の側にいる。したがってこのジョーク集は、基本的に弱者の物の見方を集めたものと言っていい。

われわれは強者である米国などの論理は熟知している。しかし、この強者に圧力を受けている人の考え方には疎い。本書は、世界の弱者の視点を知るよい契機になると思う。国際関係の面でのわれわれの批判精神を育ててくれるかもしれない。【評者 孫崎 享 防衛大学校教授】

■2007/09/29, 週刊東洋経済

超大国アメリカの素顔 (ウェッジ選書 29 地球学シリーズ)
超大国アメリカの素顔 (ウェッジ選書 29 地球学シリーズ)久保 文明

ウェッジ 2007-07
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アメリカは日本に絶大な影響を与えている国だ。幕末の開国に始まり、太平洋戦争、そして日本占領、さらには現在の日米同盟。にもかかわらず、われわれはアメリカの制度やそのメンタリティについて断片的な知識しか持っていない。

本書は超大国アメリカの政治制度、経済・文化、軍事、宗教、医療についてそれぞれの専門家が解説している。

一般にこうした「寄せ集め」した本は、内容が薄く、つまらないが、本書は普通の人が読んで非常に得心できる優れた仕上がりになっている。

第1章政治では、官僚制や議院内閣制と大統領制との比較、政党やロビイストの役割が解説されており、情報の質、量とも優れている。

アメリカが日本やヨーロッパ諸国と比べて宗教的な国であることは知られている。第3章宗教と社会では、宗教のプレゼンスの大きさや、政教分離と信教の自由との相克を語っている。

■2007/09/29, 週刊東洋経済

信長と消えた家臣たち―失脚・粛清・謀反 (中公新書 1907)
信長と消えた家臣たち―失脚・粛清・謀反 (中公新書 1907)谷口 克広

中央公論新社 2007-07
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おすすめ平均 star
starメインストリームだけが歴史にあらず!
star微妙な本です

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信長の小姓である森蘭丸は誰でも知っている名前だが、では、万見重元となると信長好きの「通」しか知らない人物だ。だが、実は万見重元こそ、信長最愛の小姓である。ところが、万見重元は、荒木村重の謀反のさなか、有岡城総攻撃の際、討ち死にする。

梁田広正も知られていない武将である。ところが、梁田は、「御家老の御衆」の一人、有力な家臣。明智光秀、羽柴秀吉、丹羽長秀と同時に官位を授かるほど信長に重用されていた。

だが、梁田は越前、加賀の一向一揆の征伐に失敗し、信長によって追放される。最後はひっそりと死んだことで、歴史の舞台から消える。

このように、信長の側近、武将として活躍し、あるいは活躍が期待されながらも不運にも討ち死に、追放、粛清された人物にスポットを当てながら、「信長軍団」の知られざる側面を描いていく。歴史に名前を残すには運が大切ということがわかる。

■2007/09/29, 週刊東洋経済

戦艦大和と日本人―戦艦大和とは日本人にとって何なのか
戦艦大和と日本人―戦艦大和とは日本人にとって何なのか永沢 道雄

光人社 2007-07
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昭和20年4月1日、沖縄に米軍上陸。不沈艦といわれた巨大戦艦「大和」は沖縄の米軍を攻撃するために出撃した。内地でおめおめと果てるよりは、日本海軍の象徴である大和が、水上特攻となって敵陣に突入すべきという命令になった。

だが、4月7日、徳之島沖合いで、米空母機の集中攻撃を受けた大和は大爆発を起こし、海底深く沈んでいった。大和と運命をともにしたのは、伊藤整一中将以下の2498人の将兵であった。建艦時には想像もされなかったのだが、戦いの主力が空母間の航空戦へと大きく変わっていた。そこに大和の悲劇が生まれた。

本書によると、大和の出撃前、海軍兵学校出身の中少尉と学徒出身の少尉との間で、この作戦をめぐって口論が生じ、乱闘になった。このとき伊藤中将は黙って自室にこもったという。日本の命運を担って登場した戦艦大和の出撃にも、日本人の理屈を超越した玉砕精神が貫徹されていた。

■2007/09/29, 週刊東洋経済

温暖化の世界地図
温暖化の世界地図kirstin Dow カースチン・ダウ Thomas E Dowing

丸善 2007-05-25
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地球温暖化対策は待ったなしの段階にある。本書は温暖化によって、世界各地で頻発する異常気象や極端現象――旱魃や洪水、氷河の異変など――が、どこで、どのくらい観測されているのか、その原因――工業や自動車・飛行機の燃料、私たちの日常生活など――やメカニズムを各2ページで色分けしながら解説する。

温暖化によって引き起こされる水不足や食糧不足、貧困と病気の発生、大都市も含めた陸地が沈む危険性、海岸浸食、淡水給水への海水侵入、なども一目でわかるように豊富なデータをもとに、世界地図上に色付けしながら、わかりやすく解説している。

世界の炭素依存的な経済からの脱却、低炭素社会を目指す革新的技術の開発、現在の非能率的なエネルギー利用への抜本的な変更、排出量取引、代替・再生エネルギー技術の開発と維持、さらに、家庭でのエネルギー節約、個人の行動、公共の行動などが、取りうる重要な課題だ。

■2007/09/29, 週刊東洋経済

白杭の季節
白杭の季節川廷 昌弘

Ricochet 2007-06-11
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湘南の夏、風と波の記憶 白い杭のランドマーク

その渚には夏の季節だけ白い杭が立ち上がる。神奈川県藤沢市の鵠沼海岸。いわゆる湘南海岸のド真ん中。江ノ島と伊豆半島を左右にのぞむこの浜辺は隣の稲村ケ崎と並びサーフィンのメッカだ。白い杭でできた監視やぐらと柱の列は海水浴場と波乗り場を仕切るもので、夏のシンボルでもある。著者はもとは湘南っ子ではない。しかし、鵠沼に転居して以来、朝サーフボードを抱えては波で遊び、都心の仕事場に出かけるという。

白い杭はそんな日々のランドマークだった。そしてこの10年の間、その杭を軸にして、波濤や水平線、空と陽光と砂と、浜風が抜ける松林をカメラで捉えてきた。それは澱みの無い清涼飲料水のようで心地よい映像だ。

著者には別に『一本の桜』という写真集がある。兵庫県芦屋市に育ち、その後海岸は開発で埋め立てられ、街は阪神大震災で崩れ落ちた。近所の瓦礫のなかに残った「一本の桜」が過去の芦屋の町を想起させたという。一本の桜の経験は、白い杭の一瞬の夏と重なり合うものなのだろう。記憶の街の崩壊と心の再生には運命的場所が必要なのかもしれない。

湘南地方というのはもとは人気の無い荒れた海岸線で、明治時代半ば近代医学の伝道 者のベルツに「発見」されるまでは特別な土地ではなかった。結核治療のための転地療法に最適地だといわれた。そして皇族や政治家や軍人の別荘、保養地として、作家の住居として愛されて、リゾート地湘南の原形ができあがる。

著者は若くして約束の地を見つけたようだ。湘南はまた隠棲の場所でもある。マリンスポーツは心身を治癒し、湘南はいまもその磁力で人びとを引き寄せる。【評者 写真家 中川道夫】

■2007/09/29, 週刊東洋経済

クルーグマンミクロ経済学
ポ-ル クルーグマン (著)

使える経済学を学ぶ

「これまでとは違う本を書きたかった」

9月末発売の『クルーグマン ミクロ経済学』(ポール・クルーグマン、ロビン・ウェルス著、大山道広ほか訳)のはしがきで、著者はこう宣言している。 著者は、一般読者向けの政治・経済評論で高い人気を誇り、学術研究でも、優秀な若手に贈られるジョン・ベイツ・クラーク賞を受賞するなどの業績を残している、世界で最も著名な経済学者の一人だ。

本書の際立った特徴は、「現実の経済と経済理論をつなぐ橋渡しをする」ために、最大限の工夫が施されていることだ。例えば重要な概念は、繰り返し説明されるだけでなく、それに対応する現実の例がほぼ必ず描かれている。無理に暗記せずとも、読み進めるなかで自然に記憶に残るように配慮されている。

「文章に関してはたいていの経済学者に比べて絶対優位があると思っている」と語る著者が、「私の書くことに読者が関心を持つ何の理由もない」という高い条件を課して書いたのだから、面白くないわけがない。

現実経済のホット・トピックを選び出し、学んだばかりの概念を使ってそれを解説していく手際は鮮やかで、読んでいて楽しい。

■2007/09/29, 週刊東洋経済

オッペンハイマー 上 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇
オッペンハイマー 上 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇カイ・バード マーティン・シャーウィン 河邉 俊彦

PHP研究所 2007-07-19
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starオッペンハイマー上「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇

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オッペンハイマー 下 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇
オッペンハイマー 下 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇カイ・バード マーティン・シャーウィン 河邉 俊彦

PHP研究所 2007-07-19
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平和を願い、核使用に反対した「原爆の父」の栄光と挫折

本書は「原爆の父」と呼ばれたオッペンハイマーの伝記であり、2006年には米国でピュリッツアー賞を獲得している。

上巻は天才と呼ばれた少年期から原爆開発までの栄光の時期を、そして下巻では赤狩りによって、追いやられていく様が見事に描き出されている。

著者は25年にもわたる綿密な調査によって、オッペンハイマーの生涯を重厚かつヒューマニズムあふれる筆致で描き出している。これまでもオッペンハイマーに関する伝記はいくつか出版されているが、本書は他の追随を許さないほど綿密に書き込まれた決定版であろう。

オッペンハイマーは早熟の天才であった。子供のころから地質学に興味を抱き、12歳にしてニューヨークの鉱物クラブで講演会を行うほどであった。

そしてハーバード大学、ケンブリッジ大学、ゲッティンゲン大学における研究の過程で、量子力学のパイオニアであるボルンやボーア、アインシュタインなど世界的に著名な学者との交流が、オッペンハイマーの経歴を鮮やかに彩るのである。

他方、青年期のオッペンハイマーは恋に悩み、またスペイン内戦に衝撃を受け、思想的には共産主義に傾倒していく。このような人間的な側面が描かれることによって、この著作はよりオッペンハイマーの内面に迫っていく。そして同時に、共産主義への傾倒はFBIによる監視を招くことになる。

オッペンハイマーを有名にしたのは、マンハッタン計画での原爆開発であろう。われわれはオッペンハイマーが原爆を開発したことに対して複雑な感情を抱きがちになるが、彼の原爆開発へのこだわりは、核兵器という絶対的な兵器を開発すれば、戦争は無意味なものになるという、むしろ平和を希求する思想から生じていた。そのため、実際の原爆使用には反対の立場を採っている。

しかしこのような原爆使用へのためらいに加え、水爆開発への嫌悪を顕わにしたことによって、オッペンハイマーは徐々に孤立していく。トルーマン大統領は彼を「泣き虫科学者」と蔑んだのである。そして極め付きは、FBIによってソ連のスパイというレッテルを張られ、赤狩りの標的となったことであった。オッペンハイマーは政府の聴聞会にかけられたうえ、すべての公職を解かれ、生涯にわたってFBIの監視下に置かれることとなったのである。

オッペンハイマーは核兵器に対する嫌悪と共産主義に対する同情を持ち続け、これが彼の挫折を招いた。天才の栄光と、その栄光が米国中に吹き荒れた赤狩りによって瓦解していく過程を印象的に描き出している。【評者 小谷 賢 防衛省防衛研究所教官】

■2007/09/22, 週刊東洋経済

反転―闇社会の守護神と呼ばれて
反転―闇社会の守護神と呼ばれて田中 森一

幻冬舎 2007-06
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star田中森一氏が自らの生立ちから現在までを語った話題のノンフィクションです
starめっちゃ面白い
star善悪はともかく凄い迫力

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伝説のヤメ検が書き下ろす司法権力と「闇」の境界線

読めば、ゲロが出そうになる。だが、読み始めたら、ページを繰る手を止められない。

冒頭、許永中が失神する。石橋産業の手形詐取事件で「懲役6年」を言い渡され、被告席に座ったまま卒倒したのである。あのイトマン事件の“怪人”を卒倒させるほど司法権力は絶大だ。だからこそ、司法と検察は厳正でなければならない。が、その内実はいかなるものか。

撚糸工連事件で辣腕の特捜検事として名を上げた著者は、平和相互事件、三菱重工CB事件が「天の声」で潰される現実に直面する。「どだい検察エリートは官僚」であり、「政界や財界中枢がからむような事件には、腰が引けてしまう」。検察エリートの捨て駒にされる馬鹿らしさ。で、180度の“反転”を遂げる。これまで告発の対象としてきた「闇社会」の弁護士になったのである。

顧客リストがすごい。山口組若頭・宅見勝、「光進」の小谷光浩、アイチの森下安道、イ・アイ・イの高橋治則、「五えんや」の中岡信栄。この「闇社会」の面々に表社会の紳士たちがしゃぶりつく。安倍晋太郎は中岡がホテルオークラに用意した牛乳風呂に浸り、息子の晋三は高橋と頻繁に食事を共にしていた。

そのすべての“証人”の著者は、なぜ、「闇社会」の弁護士になったのか。一つはカネ。事務所開きの祝儀が6000万円。一人で1000万円を包んできたのが食肉業者「ハンナン」会長の浅田満だった。もう一つは、検事の “性”である。検事は「闇社会」を重要な情報源としている。接触するうち、境界線があいまいになり、ついには一枚上手の相手にのまれてしまう。かの緒方重威元公安調査庁長官もそのたぐいだろう。【評者 梅沢正邦】

■2007/09/22, 週刊東洋経済

日中戦争 殲滅戦から消耗戦へ (講談社現代新書)
日中戦争 殲滅戦から消耗戦へ (講談社現代新書)小林 英夫

講談社 2007-07-19
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おすすめ平均 star
starソフトパワー対ハードパワー
star小林ファン
star歴史を全体的に見る問題意識と新しい資料

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日本人の戦略や特性は変わっていないと警告

今年は日中戦争開始から70周年。戦争を斬新な視点でとらえ、現在のわれわれにも関連付けるような本が読みたくなる。それに応えた本である。勝敗を戦略と得意分野のパワーの相違から説明する。敗北した殲滅戦略とハードパワーは今もって日本の特性であり続けると警告する。

満洲事変の立役者、石原莞爾とその師、ドイツ人軍事史家から戦略概念を借用し、日本は殲滅戦略、中国は消耗戦略であり、日本は軍事力、産業力に頼って短期決戦のみを考え、中国は政治力、外交力、国際世論に訴える道義性によって長期展望の持久戦を目指したとする。日本が得意な軍事力などをハードパワー、中国のそれをソフトパワーと名付けるのも著者の独創である。8年の戦争で、戦局は殲滅戦から消耗戦に、主導権は日本から中国に移った。戦略という指導者レベルからだけでなく、日本軍の郵便検閲資料を使って民衆レベルから戦争の実相をとらえようとしたのも斬新だ。

この資料を初めて日本に紹介したのは著者である。戦時中国における国民党と共産党との相克、共産党勝利の鍵とされる毛沢東の持久戦論には触れず、中国を一体としてとらえ、消耗戦略を蒋介石から説明する点も斬新であり、国民政府・国民党の再評価が進んでいる日本の中国現代史研究において、さらに一歩踏み出したものと評価できる。蒋介石が日本留学で培った日本の長所・短所の皮膚感覚的体得は興味深く、現在の日本・日本人論にも通じる。

現代日本の外交や企業経営は速戦即決、短期決戦主義であるとする警告や、日本は近視眼的な「子供の国」、したたかな中国は「大人の国」であるとする性格付けは理解できるが、現代中国のソフトパワーは何か、情報公開や政治的民主主義はどうなのかは不明である。【評者 村上勝彦 東京経済大学学長】

■2007/09/22, 週刊東洋経済

石油 もう一つの危機
石油 もう一つの危機石井 彰

日経BP社 2007-07-26
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star現代石油市場を読み解くための良書

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石油価格が高騰している。2003年末はWTI1バレル=30ドルだったものが、現在は70ドル台だ。その理由として中国などの需要急増説やピークオイル説などが語られた。が、著者は専門家として、需給はそれほど逼迫してない、石油が15年以内に枯渇することはないと指摘する。犯人は投資資金だ、と。

石油の素人である投資資金が金融の論理で動き、実需から懸け離れた価格がつく。だが、国際石油資本や産油国はその価格を信用していないので、油田開発はそれほど進まない。加えて、国際石油資本をしのぐ力を持つ国営石油会社は、資源ナショナリズムを背景に行動する。その結果、石油にマーケットメカニズムが働かないという皮肉がある。 今後はちょっとしたきっかけで石油価格は100ドルを超えてしまうだろう。この現実にどう向き合うのか。残念ながら「魔法の解決策」は書かれていないが、われわれが考える際のヒントは隠されている。

■2007/09/22, 週刊東洋経済

ウォルマートに呑みこまれる世界
ウォルマートに呑みこまれる世界チャールズ・フィッシュマン 中野 雅司 三本木 亮

ダイヤモンド社 2007-08-03
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starコスト削減の本当の姿が学べます

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米国最大の小売業に成長したウォルマート。「いつも低価格」を旗印に、全米各地に巨大なパワーセンターを展開する。ウォルマートを安売りで消費者に利益を与える存在と称賛する人もいれば、その安売りによって伝統的な小売業を破滅させ、地域の経済を疲弊させ、さらに従業員を低賃金でこき使う憎むべき存在、等と評価は分かれている。

ウォルマートの低価格政策が、他の流通業の従業員の賃金を下げ、さらにサプライヤーへの値引き要請が、その企業の従業員に波及する過程を興味深く指摘している。

本書は米国のジャーナリストの手になるもの。ウォルマートの成長の過程を客観的に記述しながらも、どちかといえば後者の立場から、大きくなりすぎたウォルマートの影響力に警告を発している。ウォルマートほど企業理念や経営方針が徹底している企業はない、という。だが、それが単なる安売りという一点にあることを、著者は危惧する。

■2007/09/22, 週刊東洋経済

いつまでもデブと思うなよ (新潮新書 227)
いつまでもデブと思うなよ (新潮新書 227)岡田斗司夫

新潮社 2007-08-16
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starここまでやせられるのか!!
starまさに文系向きのダイエット
star目標管理することで楽しくダイエット♪

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老若男女、太目の人、普通の人、やせてる部類の人でさえ、真剣に食い付いてくる話題、それがダイエットだ。今は「見た目主義社会」と説く著者は、東大講師時代にオタク文化論でブレイクした評論家。ある日気づいた、周囲が自分に当てはめてたキャラ、それはオタクでも評論家でもなく、「デブ」だった。デブは結局損をする、そのマイナスイメージを跳ね返す努力より、いっそやせたほうが効率的・・。運動も忍耐も嫌いな著者が各種ダイエットを投資・リターンで比較、実行したのが「レコーディング・ダイエット」だった。

毎日体重を計り、食べたものを全部メモすることから始まるこのダイエット。「助走」から「離陸」「巡航」の過程を経るうちに、さまざまなことに気づきや、身体の内なる声をキャッチすることができるようになる。

この過程で必ず通る停滞期を、まるで別人格のような自分の身体と駆け引きをし、克服していく法を伝授するくだりが頼もしい。

■2007/09/22, 週刊東洋経済

オリエントの夢文化―夢判断と夢神話
オリエントの夢文化―夢判断と夢神話矢島 文夫

東洋書林 2007-05
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おすすめ平均 star
star夢のある書物渉猟

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夢が科学的に解明される前には、夢の効用は多義多様であった。かつて夢信仰、夢占いなど、夢を語ることが生活の一部であった。

本書はエジプト、メソポタミアなど古代から中世に至るオリエント、さらにはヨーロッパを含めた夢とその解釈についてつまびらかにしている。太古オリエントの諸文化を継承する『旧約聖書』の世界、とりわけ創世紀の「ヤコブの夢」がアラブの世界に入り、ムハンマドが天使の導きによって、「光の階段」を昇って天に到達した、など興味深い話が続く。

このテーマを扱った「ミーラージ(天界上昇)文学」は、中世ヨーロッパ諸語に翻訳された。ダンテの『神曲』にも天界をめぐって昇天する様や、地獄の描写がムハンマドをめぐる伝説と酷似している点など、イスラムの影響を受けている。巻末を飾る『ポリフィルスの夢』はルネッサンス期の「奇書」であり、「あらすじ」が訳出され、著者の熱意が伝わる。

■2007/09/22, 週刊東洋経済

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