メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年8月25日~9月1日

司法政策の法と経済学
司法政策の法と経済学福井 秀夫

日本評論社 2006-12
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経済学の視点から司法制度の歪みを糾弾

日本の司法制度・政策を経済学の基本的な考えから分析した切れ味鋭い著作である。私たちの身近な関心事(定期借家権、反社会集団に占拠された競売物件の問題など)が豊富に取り上げられていて読みやすい。

また本書が法的な制度や法解釈を判断する際の基準にしている経済学の考え方は入門レベルのものであり、本書でもその都度丁寧に説明されていて、経済学をまったく知らない読者でも通読できる仕組みになっている。

たとえば司法試験は政府による法曹専門家の量的な制限であり、試験がない場合に比較して法律サービスの価格を高いものにしている。試験が保証するという弁護士の質も、むしろ市場での評価で判断した場合の方が社会的なコストが低くて済む。

また弁護士への需要が大きいのは、政府(官僚)の制定する法律があいまいなためであり、司法制度が歪んでいるからである、という指摘も重要である。今日、話題になる裁判員制度も、司法制度の欠陥から目を逸らしてしまうおそれがあるという。

本書でも指摘する日本の司法制度の欠陥の最たるものである検察と法務省の人事交流による癒着、それによる司法政策の中立性の破綻は、裁判員制度で解決できる問題ではないだろう。

本書を貫く経済学の基本原理は、コースの定理である。簡単な例を示すと、近隣でマンション建設をしている建設業者や施工主と、その建設で騒音・日照権の侵害など不利益を受けている周辺住人が、取引費用(たとえば建設側と住民たちが交渉するときに雇う弁護士の費用など)がないときには、国が介入せずに両者の直接の交渉で話をつけた方が効率的である、という見方である。建設側はマンション建設の便益が500であり、周辺住人の不利益が800であれば、周辺住人が600を建設者に支払ってマンション建設をやめさせることが、両者の厚生を改善し効率的な結果をもたらす。

もちろん実際に取引費用が発生するのが普通だ。コースの定理からは、司法改革や制度の設計が取引費用をできるだけ最小化するように行わなければならないことがわかるのである。もちろんコースの定理は効率性と規範とを厳しく分けているので、さまざまな規範や価値判断(上記のケースでは住人たちは「被害者」なのに支払い者になるのは「常識」からおかしいなど)との調整も必要であろう。

本書ではこの点についても、審議会の公開や討論の徹底と情報の開示を執拗に求めていて説得的である。本書を読み終わった読者は、経済学の持つ有効性と著者の容赦ない舌鋒に爽快感を抱くだろう。【評者 田中秀臣 上武大学ビジネス情報学部准教授】

■2007/09/01, 週刊東洋経済

医療政策は選挙で変える―再分配政策の政治経済学4
医療政策は選挙で変える―再分配政策の政治経済学4権丈 善一

慶應義塾大学出版会 2007-06-28
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star政策は選挙だけでは変わらない
starリアルタイムの政策科学からの発言

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公的医療の大きさを決めるのは有権者だ

著者は語る。「政策は所詮力が作るのであって正しさが作るのではない」。民主主義における力は政治である。したがって、医療を変えたいのであれば、医療政策に着目して投票せよ、と。

内閣府の国民生活選好度調査によれば、「医療」こそ、国民の関心が最も高い政策領域である。そうした関心を反映し、与野党は、医師不足対策を含む医療問題を7月参議院選挙の最大の争点の一つと位置づけていた。しかし、選挙が近づくと、年金問題、防衛大臣失言問題、事務所経費問題と政権のスキャンダルが続き、医療の議論は影を潜めてしまった。

では、医療政策の本質的な争点とは何なのか。一言でいうと、「公的医療の規模」である。小泉政権は、公的医療費の伸びを抑制し、私的医療の拡大を目指した。私的医療の拡大は経済成長を促すが、平等性は損ねる。反対に公的医療費を拡大すれば、平等性は維持できるが、その費用を賄うために国民の公的負担は増える。著者は後者が望ましいと主張するが、「ここ何年か、小さな政府というキャンペーンに疑うこともなく酔い、医療、教育の荒廃、介護の後退、保育の未整備を招いたのは、首相の個性ゆえではなく、増税をしようとすれば政治家を酷い目に遭わせる日本の有権者のせいである」と真犯人に迫る。

「世界最高水準の医療を受けたい。でも、負担増にはいっさい反対」。こんな無責任な有権者が日本の医療をだめにしている。著者の批判は、そうした風潮を助長するメディアにも及ぶ。次の総選挙までに、望ましい公的医療の規模について国民一人ひとりが熟慮し、覚悟を決めることを著者は求めている。

プロボカティブ(挑発的)な個々の論点への賛否を超えて、有権者の主体的な判断を求める著者の姿勢に共鳴する。【評者 近藤正晃ジェームス 東京大学先端科学技術研究センター 特任准教授】

■2007/09/01, 週刊東洋経済

本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖
本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖三橋 貴明

彩図社 2007-06
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star経済メディアリテラシー
star理路整然と韓国経済のおそるべき実態を解説
star親切な悪意

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短期円資金が止まったとき韓国バブル経済はどうなる

1997年のアジア通貨危機からちょうど10年になる今年。アジア経済は一見好調に推移しているようであるが、はたして先行きは大丈夫だろうか。

著者は韓国経済の専門家ではないが、昨年からふとしたきっかけで韓国の国際収支統計を虚心坦懐に分析してみたところ、その「異常さ」に気がついたそうである。

10年前の教訓から韓国政府は外貨準備高を格段に増加させているが、著者はその過半が短期対外債務であることに気づき、円資金がその大宗を占めていると推測する。

「超低金利」の円資金を調達し新興市場などに投資するという資金の流れ、いわゆる「円キャリートレード」が韓国経済のバブル現象を助長しているようである。

短期円資金を不動産や株式市場に投じることの危うさ、さらには、これにより個人の不動産ローンが急増している状態が健全でないことは論を待たない。

最も驚くべきは2000年以来の旅行収支の累積赤字が400億ドルを突破していることであろう。日本では「ゆとり教育」の見直しが行われようとしているが、韓国ではここ10年にわたる「平準化教育」の実施で教育水準が著しく低下し、これに嫌気を差した国民は子どもを小さいうちから米国を中心に海外に留学させているというのだ。その結果、今年の韓国経済は原油高も影響して、10年ぶりに経常収支が赤字に転落するという観測が出始めている。

しかし韓国経済の命運を握るのは「円キャリートレード」の推移かもしれない。

著者は「07年内にも韓国経済が危機に陥る」と予測しているが、北朝鮮問題で揺れる朝鮮半島情勢は大混乱に陥るだろう。「もしそうなったら」何とも恐ろしい話である。【評者 藤 和彦 内閣官房内閣参事官】

■2007/09/01, 週刊東洋経済

紳士の国のインテリジェンス (集英社新書 401D)
紳士の国のインテリジェンス (集英社新書 401D)川成 洋

集英社 2007-07
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star「紳士の国」のスパイ列伝―事実はジョン・ル・カレより奇なり
star情報部員、、、

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国家の存亡にかかわる情報を集め、解析し、状況の変化に組織的に対応するインテリジェンスが激動する国際社会で生き残るには不可欠である、という認識が日本でも高まっている。

そのインテリジェンスに世界一長けた国、それがイギリスである。イギリスは16世紀のエリザベス1世以来、大英帝国を建設するなど、今日まで世界に大きな影響を与えているが、その基本にはインテリジェンスの優れた能力がある。

本書はそのインテリジェンスの秘密を人物に焦点を当てて解析する。

エリザベス朝イングランドを支えた「イギリス秘密情報部の父」と呼ばれたフランシス・ウォルシンガムから、作家サマセット・モームや『第三の男』の原作者グレアム・グリーンなど意外な人物のインテリジェンスとのかかわりを明らかにする。日本でも知られている有名な作家・モームがロシア革命期にイギリスのスパイになる顛末など興味深い逸話にあふれている。

■2007/09/01, 週刊東洋経済

亡国の「東アジア共同体」―中国のアジア覇権を許してよいのか
亡国の「東アジア共同体」―中国のアジア覇権を許してよいのか中川 八洋

北星堂書店 2007-06
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star孤高の論客
starぷにぷに
star‘歴史は繰り返す’

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今日、EUに倣って「東アジア共同体」を創設し、その枠組みで日本の生存を図るべきだ、という論議が高まっている。だが、著者は、そのような論議は、戦前の「アジア主義」「大東亜共栄圏」と同じ過ちを犯し、逆に日本の生存を脅かすものと断罪する。

著者によると、EUにはキリスト教、ローマ帝国などの共通の土壌があるのに対して、日本、韓国、中国、東南アジアには、こうした宗教的、文化的、地理的な靱帯が存在しない。端から共同体創設は無理なのだ。

こうした土壌の中で、無理矢理「東アジア共同体」を創設しようという論議は、中国が日米同盟を破壊し、台湾に侵攻し、東アジアにおける覇権を確立する目的を持っている、という。

著者は「東アジア共同体」創設に前向きなメディア、学者、外務省の一部などを中国の覇権を助長する主張をしていると批判する。戦前の「アジア主義」と同じ過ちを繰り返すな、という著者の想いは強烈だ。

■2007/09/01, 週刊東洋経済

あなたの会社は大丈夫?―標語・川柳で学ぶ管理者のための企業リスクマネジメント
あなたの会社は大丈夫?―標語・川柳で学ぶ管理者のための企業リスクマネジメント白木 大五郎

丸善プラネット 2007-08
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現在、危機管理、企業リスクマネジメント、コンプライアンス経営などは今日の企業経営には欠かせないキーワードである。

著者は35万人以上の社員数を抱える巨大家電グループで人事・労務畑に従事した国内有数のスペシャリストである。管理者、一般社員向けの教育経験を豊富に持っている。本書はその長年の成果である。

コンプライアンス経営上、必要とされる理念や考え方を、最新の社会的事件や事例に基づき、ポイントをウィットに富んだ五七五調の標語・川柳112選にまとめて解説、併せて最近の事故・不祥事例をジャンル別に200選に整理しコメントしている。耳目に残りやすい五七五調にまとめた着眼点は秀逸で、読み始めるにもまた、繰り返し読むにも苦ではなく、企業リスクマネジメントの真髄をつかむことができる。たとえば、「罪重し 犯したことより 隠すこと」「リスクの芽 摘み取る職場の 風通し」

■2007/09/01, 週刊東洋経済

ニュースを“半歩”先読みして、儲かる株を見つける方法
ニュースを“半歩”先読みして、儲かる株を見つける方法藤本 誠之

アスペクト 2007-07-20
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「風が吹けば桶屋が儲かる」とは、何かことが起こると、めぐりめぐって意外なところに影響が及ぶことのたとえ(大辞林)。

ゲームならば、その意外性が楽しさを倍増させてくれるが、株式投資の世界で意外性ばかりを求めていると、不確実性の暗闇の中をさまよいかねない。経済実勢に先行する株式投資の世界では、いつか吹く風を待っているだけでなく、ちょっとした雲の変化から、いつ頃、どのような風が吹き始めるかの予兆を速く、適切につかむことが肝心なことは言うまでもない。

本書は、どのような風が吹こうとしているのかを、一つひとつ事実を積み上げることで読み切ってしまおうというのがコンセプト。「次世代マーケティング&広告の行方」「国策に売りなし?」などの八つのキーワードでニュースを括り、注目業界の勢力図を視覚的にまとめている。

意外性に翻弄されがちな株式投資のヒントが満載されている。

■2007/09/01, 週刊東洋経済

ヴィスコンティの遺香 愛蔵版
ヴィスコンティの遺香 愛蔵版篠山 紀信

小学館 2007-07-19
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敗者としての貴族の栄光をたどる写真集

イタリア映画の巨人ルキノ・ヴィスコンティゆかりの場所をたどる写真集だ。フィレンツェ紙紋様の装幀本を手にすると、敗者としての貴族階級の栄光を生きたルキノの香りがする。ヴィスコンティ家はミラノ公として北イタリアを支配したことがある13世紀からの名家だった。  絢爛の頽廃美と社会的リアリズムを同時に描き、舞台演出家でもあった彼の作品は、フェリーニら戦後イタリア映画とは異質なもので、その出生が濃く反映している。イタリア貴族社会は日本人には想像し難いものだろう。幼少期からの記念写真も挿入された本書の意義は、そんなヴィスコンティのバックボーンが垣間見られることだ。

篠山は没6年後、遺族との交渉に成功したプロデューサー立川直樹とともにシチリア島の「山猫」の館、イスキア島の別荘、ミラノの生家、コモ湖の母の家、ローマの終焉の棲家などを撮影する。

取材にはヴィスコンティの姪が同行して、その空間には生前の家具を搬入し花々を飾り、元の生活シーンが再現されたという。

篠山には1970年代に多木浩二監修による『家』という作品集がある。日本の伝統家屋を遺物ではなく、生活の場として捉えたものだ。その「生きられた家」に対して本書では死んだ家が篠山の被写体になる。故淀川長治が映画『家族の肖像』公開時にバート・ランカスター扮する男の秘密部屋の壁の色にヴィスコンティの本性を見抜いたように、読者は篠山の写真に新たなヴィスコンティ像を発見することができるだろうか。

本書はヴィスコンティ生誕100年記念として、このたび増補改訂し復刊されたものである。【評者 写真家 中川道夫】

■2007/09/01, 週刊東洋経済

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