メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年7月28日~8月4日
| 資本開国論―新たなグローバル化時代の経済戦略 | |
![]() | 野口 悠紀雄 ダイヤモンド社 2007-06-01 売り上げランキング : 735 おすすめ平均 ![]() 切れ味のよい論説 論理の刃 グローバル化と国内経済の関係を明快に描き出した好著!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「上げ潮」路線を批判 外資による経済効率化を提言
安倍内閣の経済政策のキーワードを一つ選ぶとすれば、それはやはり「イノベーション」ということになるだろう。財政再建も格差是正も成長戦略と結び付けられ、「上げ潮」と「底上げ」が経済政策の基調となっている。だが、著者はこのような成長重視の政策運営に批判的である。「安倍内閣が進めようとする経済成長促進政策は、その実現可能性がきわめて不確かなもの」であるからだ。
本書で対案として提示されているのは「資本開国」による経済活性化と対外資産運用の効率化による「資産大国」の実現である。これは、製造業中心の産業構造を金融とソフトウエア産業を軸とする産業構造に転換していく、「脱工業化」の提案でもある。一般に日本経済の強みは「ものづくり」にあると言われるが、「ものづくり」への偏重は「コモディティ化の罠」(製品に差別化特性がないために、常に価格競争にさらされ、企業が収益性の低い状態におかれてしまうこと)に陥る可能性があると著者は言う。
日本企業がこのような罠に陥るのは経営効率をめぐる経営者間の競争が不足しているためであり、この問題を解決するためには「資本開国」によって外資の参入を促進し、経営者を国際競争にさらすことが必要だというのが著者の見立てである。
「資本開国」は「異質なもの」との競争を通じてビジネスモデルの転換を図る試みであり、それによって従業員の高い能力をアイデアの競争に振り向けることが可能になる。
日本経済の潜在力を有効活用するためのもう一つの提案は、対外資産運用の効率化である。対外資産運用が債券投資に偏っている現状を改めることは、「最も簡単に実現できる成長促進策」だと著者は言う。
本書を読んで感じるのは、日本の企業や社会において「他の人と違ったことをする」ことのリターンがそのリスクに見合うものになっていないことが、本書で指摘されているさまざまな問題の根底にあるのではないかということである。
製造業における「コモディティ化」も資産運用における債券投資偏重も、「他の人のまねをしている方が安全」という環境のもとでの合理的な行動の結果である。その背景には終身雇用をはじめとする日本的慣行の存在があるのだろう。
思い起こせば、安倍内閣の経済政策のもう一つのキーワードは「オープン」であった。現時点のそれは「アジア・ゲートウェイ構想」とほぼ同義との感があるが、多様な競争のもとで活力ある経済を実現する方策を考えるうえで、本書は有益な示唆を与えてくれる。【評者 中里 透 上智大学経済学部准教授】
| 日中合作―中国No.1ソフト企業誕生の物語 | |
![]() | 沓澤 虔太郎 小学館クリエイティブ 2007-05 売り上げランキング : 20208 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国No.1ソフト企業をつくった経営者の物語
偶然という言葉は頻繁に使うべきではないが、ビジネスの世界ではしばしば人との出会いでこの言葉が使われる。その人にたまたま会ったことがその後の人生や事業に大きな影響を与え、その人の成否を大きく左右する。本書は、アルパイン相談役・沓澤虔太郎氏の満州引き揚げからアルプス電気での活躍、アルパイン創設から中国事業の展開までの波乱の一代記だが、そこには「人との出会い」が一本の筋として貫かれている。
著者の出会いとは次のようなものだ。まずは満州引き揚げ後の戦後混乱のなかでのアルプスグループの創業者・片岡勝太郎との出会い。著者は、ビジネスのイロハから人生如何に生きるべきかにいたる心得までを片岡から伝授されている。1970年代、著者は片岡の指導でカーオーディオ、カーナビ業界のトップに躍り出る。
そして第二は、中国東北で大学教授を務めコンピューターの開発をしていた劉積仁との出会いだ。これは偶然だったが、沓澤の心に期する何かがあったのだろう。二人は共同でソフト会社の東大アルパインを立ち上げ、苦闘15年にして、中国トップのソフトウエア企業集団・「東軟集団」を創り上げたのである。彼らは、さらに現在、車載システム研究へとその事業を拡大している。著者の出会いはこのように偶然に見えるが、この偶然を生かすのは著者の経験であり、知恵であり、そして「相互の信頼」という彼の人生哲学である。
中国ビジネスでの失敗が多いなかでの成功の秘訣として、「誠実なパートナーを見つけたら迷わずまずGIVEから始め、時間をかけて信頼関係を築け」という沓澤の言葉は千金の重みをもって読者に迫ってくる。中国ビジネスに苦闘している方にお勧めしたい好書だ。【評者 小林英夫 早稲田大学アジア太平洋研究科教授】
| 元東大病院分院長が見たこの国の医療のかたち | |
![]() | 大原 毅 人間と歴史社 2007-04 売り上げランキング : 251058 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ゆらぐ現代医療にメス 明日の医療のかたちを提言
東京都文京区目白台に東大病院分院があった。この分院は医療経済合理化の中で2001年に東京大学病院に統合され、その長い歴史に終止符を打った。
分院は本院をしのぐ厳しい研修と指導で知られていた。分院から輩出された臨床医たちは第一線の医療機関で生命を守り、若い医師たちに医療の良識、医療の精神を伝授している。米国の5分の1に過ぎない日本の医師数、看護職員数で「手厚い医療サービス」を支えているのは彼らの志そのものである。
日本の医療は大きな岐路にある。小泉政権の「骨太の方針」中の医療制度改革大網(05年)に従い、医療制度改革が進行している。医療費抑制、医療分野への市場原理の導入が医療現場に影を落としている。
こうした中で、元東大病院分院長の著者は、変貌する医療を題材にしながら、不変である「医療の精神」を説く。医療事故と医療訴訟の構造、医療保険制度の破綻、救急医療の限界、危機的な病院経営、患者と医師関係の希薄化など、ゆらぐ現代の医療の問題点に鋭くメスを入れ、明日の医療のかたちへ導く。
効率化、経済性を重視する医療現場では「赤ひげ先生」は無用と、痛々しく疲弊した医療現場の悲鳴を代弁している。不採算部門の切り捨てやたらい回しが起きる救急医療のゆがみは、現場だけでは解決できない。
行政主導の制度改革により、自治体病院までも相次ぎ廃止され、縮小している。その結果、子供を産めない、育てられない、病気になれない環境に拍車をかける。医療はどこへ向かうべきか、本書にその予見と解決の道標がある。「満足な治療」を提供することが医療の本質であり、医師は技術と人間性を兼ね備えるべきものと説く。著者はよい医師の条件の一つに「人間が好きなこと」を挙げている。【評者 杉村浩美 医師】
| サラ金崩壊―グレーゾーン金利撤廃をめぐる300日戦争 | |
![]() | 井手 壮平 早川書房 2007-03 売り上げランキング : 5856 おすすめ平均 ![]() 金融という名に値しない日本の貸金業者 外からは見えなかった上限金利引き下げの舞台裏の攻防を詳述! 血の通った金融ルポAmazonで詳しく見る by G-Tools |
消費者ローン金利の引き下げなどを盛り込んだ貸金業法改正法案が国会で成立するまでの過程を記録したドキュメントである。官庁、業界、政界の水面下の動きを通信社の担当記者ならではの筆致で描く。
現在、「消費者金融」という名称で呼ばれる業界に対して、「サラ金」というかつての呼び名をあえて持ち出しているところに、本書の位置づけがある。
つまり、どちらかといえば、金利引き下げなどの法改正を推進していた側に共感した立場である。
グレーゾーン金利とはよく言ったものだ。そんなあいまいな制度的土壌で商売してきた業界、あるいは、そんなあいまいな概念で規制してきた行政が奇妙奇天烈だった。
しかし、そこにこそ、豊穣な利益の源泉があった以上、業界、市場がローン金利引き下げによって混乱を来すことは避けられそうもない。本書に記された「残された課題」こそ、消費者金融問題の本質だ。
| 中小企業活性化の秘策!―第2次大型安定化政策で200万社が救われる! | |
![]() | 佐藤 敬一 冬至書房 2007-07 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中小企業は信用不足のために思うように借り入れができない。金融機関が貸し渋るから成功するチャンスを逃すという悲しい現実がある。
本書は東京信用保証協会に勤めた昭和ヒトケタ生まれ世代のOBが中小企業金融に対するあり方に警鐘を鳴らし、現実の打開策を政策提案している。
特に第4章が一考の価値ありだ。具体的には、中小企業が社債を発行するのを信用保証する民間機構の設立で、中小企業が株式上場しなくても中期で資金調達できる仕組みを詳しく提案する。借り入れのように元本返済や利息に追われることなく、償還時期まで元本が目減りしないのが利点とする。
社債と借り入れの違いだが、その分金利が高ければ問題で、リスクを評価する公正なジャンク債市場の創出と扱い業者が重要だろう。著者の半生など本筋から離れた記述は気になるが、中小企業金融の実務者や研究者の参考になる。
| 東京ディール協奏曲 | |
![]() | 栗山 誠 集英社 2007-07 売り上げランキング : 1060 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今や日本でも「ファンド」や「M&A」は当たり前になった。にもかかわらず、一般的にはまだまだ拒絶反応が強いのは、投資ファンドや投資銀行が何をしているのかわかりにくいという点にある。本書は、エンターテインメント小説でありながら、企業買収の現場感を描き出している。
31歳の著者は、外資系金融機関を渡り歩き、ライブドアの金融部門幹部としてニッポン放送株の大量取得計画を実行した人物。といっても本書はライブドアの内幕話ではなく、純粋にフィクションとして企業買収の舞台裏を描いた小説だ。処女作ゆえ、表現に粗さも残る。が、M&Aの現場で交わされる会話はリアリティにあふれる。投資ファンドや投資銀行の思考パターン、行動原理を理解する一助になるだろう。
巻末にある、“霧谷流”のM&Aバンカー用語はシニカルで面白い。専門知識に乏しい読者のために、もう少しここを充実してもよかったかもしれない。
後藤又兵衛基次とその子
小嶋 太門 (著)
信長から秀吉へ、そして徳川幕府成立までの時代、豊臣家臣の黒田如水孝高に仕えた後藤基次(通称又兵衛)は、「黒田二四騎」「黒田八虎」の一人に数えられた武将。勇猛果敢を伝えるエピソードも多く、関ヶ原の合戦や朝鮮出兵などでも軍功を挙げる一方で、謀反の嫌疑にかけられた伯父に連座して一時追放となった少年時代、黒田家復帰、如水の子・長政との確執、黒田家出奔、長い浪人生活の末、大坂夏の陣で最期を迎えるまで、戦いに明け暮れた波乱の生涯だった。
これまで又兵衛については、その生没年の記載さえも正しく書かれたものは少ない。これは徳川家による敗者の歴史の抹殺もあり、大坂側の武将が自分の遺族の安寧を願って家系を隠滅したためである。
本書は、著者が長年かけて、「真実の又兵衛」に肉薄することを試み、ついにその末裔に辿り着く。従来の後藤又兵衛像に修正を迫る意欲的な歴史書である。
| 核武装論――当たり前の話をしようではないか | |
![]() | 西部 邁 講談社 2007-03-16 売り上げランキング : 13682 おすすめ平均 ![]() 核への思考停止は国益を損ねる 内容が薄い 日本論の為にしてテロリストを促す事なかれAmazonで詳しく見る by G-Tools |
保守派の論客が日本の核武装論を正面から議論
北朝鮮の核実験をうけて、欧米の新聞は日本が核武装する可能性を書き立てた。今後予想される東アジア情勢の激変を考えれば、そうした推論が出てくるのも当然と言える。だが日本国内では、核論議は相変わらずタブーだ。専門家の多くも「アメリカが反対する」「国際社会から孤立する」と猛反対している。
だが頼みのアメリカは、どこまで本気で日本の防衛を引き受けるのか。冷戦期の「核の傘」は、中国がアメリカ本土まで届くミサイルを持った時点で消えていると考えるのが自然だ。アメリカに過大な期待を抱く前に、まずは自国の防衛を見なおすことが先決だろう。そのためにも、核武装は避けて通れない検討課題になる。
この厄介な問題に、本書は正面から答えようとする。核武装が非現実的だとする専門家の俗説を一つひとつ批判しながら、常識に根ざした国家防衛のあり方が探求される。国家防衛は同心円構造になっているという指摘は、誰もが納得するであろう。
単独防衛、軍事同盟、軍事協定と続く層状の防衛構造の中心には、自分の国は自分で守るという構えがなくてはならず、そのためにも核の保有が検討されなければならない、と説く。
注目すべきは、「核抑止」論の本格的な検討である。アメリカのネオ・リアリストは核拡散が世界平和にとってむしろ望ましいと主張している。互いに核を持ち合えば、相手の報復を恐れて攻撃をためらうため、かえって戦争の可能性が減るからである。世界が多極化に向かう中で、大国の核武装は国際社会の安定に不可欠だ、とする。
この議論に穴があるのは言うまでもない。核がテロ組織に渡る可能性や、管理できない国家に渡る可能性は否定できない。
核保有の資格を民主主義国に限ったとしても、民主主義は常に民衆扇動に汚染されるので、戦争に使用する国が出てくる可能性は決して小さくない。国家の行動はリアリストが考えるほど合理的なものではなく、「恐怖の均衡」は簡単には成立しないと見るのが妥当だ。
しかし著者はこの議論を簡単には切り捨てない。戦争は抑止できないかもしれないが、反撃能力に限って核を持つことは、侵略には屈しないという国家の強い意思表示になる。ここからは、国民の義勇心や独立心を示すものとしての核保有、という論理の道筋が見えてくる。
情勢の変化に流されて意見を次々に変えていく評論家が多い中で、体系的な保守思想に根ざした著者の議論は、いつも揺るがぬ視座を与えてくれる。今後、核武装論が議論されていくにあたって、本書は常に参照されるべきものとなるに違いない。【評者 柴山桂太 滋賀大学経済学准教授】
| ビジョナリー・ピープル | |
![]() | ジェリー・ポラス スチュワート・エメリー マーク・トンプソン 英治出版 2007-04-07 売り上げランキング : 331 おすすめ平均 ![]() 成功者の普遍的な共通項を見る ビジョナリーカンパニーには届かない? ビジョナリーな人たちからのメッセージAmazonで詳しく見る by G-Tools |
成功した人間の共通点を200人から学ぶ
本書は、名著『ビジョナリー・カンパニー』『ビジョナリー・カンパニー2』の著者の手によるものだ。題名からもわかる通り、「人」にフォーカスしている点が先の2冊と異なる。
20年以上にわたって永続的に成功をおさめている人=ビジョナリー・ピープル200人以上を10年かけて丹念に調査し、彼らの共通点を抽出している手法は、ビジョナリー・カンパニーの調査の応用であり、この分野の本としては出色の内容だ。
本書によれば、「成功」の定義は、決して富や名声、権力を得ることではない。自分にとって本当の「生きがい」を知った上で、それに向かって限りない情熱を傾け没頭し、「個人的な充実感」「変わらない人間関係」「自分にしかできない成果」を得られることであり、評者もまったく同感だ。
本書では、ビジョナリー・ピープルの本質的な要素として、「意義」「思考スタイル」「行動スタイル」の三つを挙げており、これらの調和がうまく取れたときに、いつまでも続く「成功」が得られるとしている。そして本書の大半のページを費やして、この3要素についてのより深い議論が展開されているが、「誠実さ」「失敗から学ぶ姿勢」「弱点の認識」「言行一致」等々、この手の話ではどれも目新しいわけではない。しかし、数多くの「ビジョナリー・ピープル」の事例とともに論じられている内容は、非常に説得力があり、感動さえ覚える。
昨今の拝金主義、権威主義がはびこる日本では、富、名声、権力を得ることが目的化してしまっている人が多い。そういった人々にぜひ本書を読んでいただきたい。きっと心が洗われることだろう。そして、今後の人生を送る上で多くのヒントを得られるだけでなく、勇気と希望までも与えられることだろう。【評者 黒田康史 YSコンサルティング代表】
| 投資銀行家が見たサウジ石油の真実 | |
![]() | マシュー・R・シモンズ 月沢 李歌子 日経BP社 2007-03-21 売り上げランキング : 3872 おすすめ平均 ![]() ちょっと単調な主張 初めて知る石油掘削の現状Amazonで詳しく見る by G-Tools |
サウジ石油生産はピーク? 技術的根拠のない主張
サウジアラビアは世界の石油資源の20%を持ち、生産量でも輸出量でも世界第1位である。わが国にとっても、最大の輸入先であり、約30%を依存している。今後も、世界の需要拡大に対応して、生産量を増加させることが期待されている。
しかし本書は、サウジの資源の大きさ、生産能力の将来について、疑問を提起し悲観論を展開している。著者は、技術論文を引用し、資源量に疑問を呈したうえで、生産はすでにピークまたはそれに非常に近い状態にあり、近い将来減少に向かうとしている。技術的背景のない著者が、技術的な観点から今後のサウジの石油生産は期待できないとしているのである。使われた論文と引用の仕方にはかなり無理があり、その主張は恣意的である。油田により地質や油層の状況が異なることを無視し、急速な生産減退が見られる他国の油田の例をサウジの油田に当てはめて、減退を主張していることは顕著な例である。
また、近年サウジで巨大油田の発見がないことが強調されている。巨大油田の発見は、世界全体で1960年代以降減少しているが、この間、技術進歩と経済性向上で確認埋蔵量も生産量も着実に増加している。著者はこれも否定するのだろうか。著者は、原著発行より1年以上前の2004年2月に、本書と同じ趣旨の講演を行っている。その際にサウジ国営会社が技術データを使って反論し、石油専門家はこぞってサウジ側を支持した経緯がある。著者の議論は、専門家が相手にしない、少数説というより異端とも言うべきものである。著者の意図はわからない。しかし、危機感を煽ることで利益を得る人たちが存在するのであろう。本書で意味があるのは、石油消費の抑制と生産増加努力継続の必要性を呼びかけている部分だけである。【評者 榊原 櫻 三井物産戦略研究所】
| ワーキングプア―日本を蝕む病 | |
![]() | NHKスペシャル「ワーキングプア」取材班 ポプラ社 2007-06 売り上げランキング : 1187 おすすめ平均 ![]() 低所得者、ホームレスの言い訳集 身近な問題として。 ワーキングプアの多様Amazonで詳しく見る by G-Tools |
働いても働いても貧困から抜け出せない「ワーキングプア」。この問題に初めて光を当てたのが、NHKの番組「ワーキングプア」だった。その取材班が、日本の労働現場の現状を記録したドキュメントである。
一読して感じるのは、ワーキングプアは決して個人の責任問題では片づかず、日本社会の構造的な問題をはらんでいるということだ。1990年代以降、日本の製造業は、正社員から雇用調整のしやすい非正社員へと、急速に雇用の切り替えを進めた。その結果、「新しい貧困」が、われわれの足元でじわじわと広がっていったのだ。
食に恵まれた秋田で起こった餓死事件、睡眠時間を4時間に削って働く母親、時給200円の外国人労働者、無年金の老夫婦。本書で描かれるのは、経済大国日本のイメージとは程遠い残酷な実態である。ワーキングプアの問題は、決して他人事ではない。まずは一人ひとりが、この現実を直視すべきだろう。
| 参議院なんかいらない | |
![]() | 村上 正邦 幻冬舎 2007-05 売り上げランキング : 49615 おすすめ平均 ![]() 老兵3人、天下を憂うAmazonで詳しく見る by G-Tools |
元参議院議員の3人による鼎談をまとめたものが本書だ。刺激的なタイトルだが、全編を通じて参議院の存在意義を問うている。
「まるでタレントの府」「業界・財界と労組の利害調整の場になり下がった」と、参議院の現状に終始苦言を呈する。とりわけ、2005年の郵政国会における自民党の対応を痛烈に批判。参議院の郵政法案否決を理由に衆議院を解散した小泉純一郎首相(当時)の行為を「二院制の原理を否定した」とし、選挙後に郵政法案賛成へと寝返った自民党参議院議員の言動を「自殺行為」としている。
紙背には、政府の暴走に対し参議院が無力になっているという強い危機感が貫かれている。今夏の参議院選挙前に、一読するに値するだろう。が、論理の飛躍や同じ内容の繰り返しが散見される。談話を基にした「語り下ろし」という編集手法に起因しているのだろうか、引退した政治家が酒場でくだを巻いているかのような読後感が残る。
| 十字軍大全―年代記で読むキリスト教とイスラームの対立 | |
![]() | エリザベス ハラム Elizabeth Hallam 川成 洋 東洋書林 2006-11 売り上げランキング : 15445 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
12世紀のヨーロッパは、「12世紀ルネサンス」と呼ばれる突然の勃興と膨張を遂げて、それまでの先進地域イスラム世界の辺境ともいえる地位から抜け出す。
その表れが、1200年前後に4回にわたって行われた聖地奪回を目指した十字軍運動である。
この本はイギリスの歴史学者が十字軍の始まりから終わりまでを記述している。654ページの大書だが、原文、訳文ともわかりやすくすらすら読める本になっている。
著者はヨーロッパからの視点だけではなく、イスラム世界やビザンツ世界からの視点で多角的に十字軍運動を分析している。
十字軍運動の結果、レバント(地中海西岸)に十字軍国家が成立し、またビザンツ世界にニケーア帝国を成立させたが、永続はせず、やがて復興したイスラム勢力とビザンツ帝国に追放される。だが、イスラム世界とビザンツ世界の文明に触れることで、ヨーロッパ世界は新たな段階に入る。
| 四字熟語ひとくち話 | |
![]() | 岩波書店辞典編集部 岩波書店 2007-04 売り上げランキング : 2217 おすすめ平均 ![]() 読みやすく、意外と飽きずに最後まで読めた。 ひとくちでは 楽しい四字熟語Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今、四字熟語が静かなブームとなっている。確かに、国語辞典を刊行している大手の出版社はこぞって『四字熟語辞典』を出版している。おそらく、現代社会があまりにも不安定であり、どう生きるかを真剣に模索せざるを得ない状況と不可分のような気がする。
四字熟語は、人類の長年の英知、仏典や仏教語に基づく深遠な哲理、あるいは中国数千年の悠久なる故事や成句、賢人の言葉などを含蓄ある比喩として伝えている。それゆえに、われわれには時に難解な語句となることもある。本書に収録されている96点の4字熟語が、「ひとくち話」で分かりやすく説明されている。
例えば、苛斂誅求、この言葉の説明の後に「サラリーマンの給与天引き、タバコ・酒の税、何にでもかかる消費税と、逃れようがない。ただ、今のところ、空気を吸っても税金はかからない。幸せなことである」と結んでいる。著者の肉声が聞こえてくるようである。
| 吉田茂とその時代 | |
![]() | 岡崎 久彦 PHP研究所 2003-11 売り上げランキング : 44134 おすすめ平均 ![]() 歴史観を考えさせられます。 吉田茂とその時代 コレは「とても・とても・とても面白い」本ですAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| 日米戦争と戦後日本 | |
![]() | 五百旗頭 真 講談社 2005-05 売り上げランキング : 143058 おすすめ平均 ![]() GHQの研究に関してとてもいい良著ですね! 過去の分析は今後の日本を考える上で示唆に富む 戦後日本の初期条件Amazonで詳しく見る by G-Tools |
陸軍の弾圧が、戦後の政治的 資産になった吉田茂の「強運」
何年か前のことで、もう書名も忘れてしまったが、敗戦直後に日本を占領したアメリカ軍の数名の従軍カメラマンが撮った写真集を見たことがある。真夏の銀座のど真ん中を肥え桶を乗せたリヤカーを引っ張る農夫の姿。確か写真には臭いが強烈だったというキャプションが付いていた。
吉田茂首相主催のパーティの写真では、よれよれの背広を着た首相がいつものニコニコ顔。これこそ、昭和14年、英国大使を退官して東京に戻り、「反昭和陸軍」の姿勢を貫き、太平洋戦争の開戦後も一貫として「和平工作」を画策してきた男の顔であろう。
敗戦直後、ほぼすべての政府高官が占領軍による公職追放の憂き目に遇ったが、吉田は「強運」であった。昭和20年4月、吉田は、反戦運動の咎で投獄される。警察の符牒では、ヨハンセンと呼ばれる組織があったが、それは、吉田反戦グループの略称であった。吉田がその首謀者と目されていたからだった。
当時、大磯の吉田邸には、彼の動きを監視するために、憲兵隊と陸軍省兵務局防衛課がそれぞれ別個にスパイを書生として送り込んでいた。やがて、陸軍指導部は監視から弾圧へと切りかえたのだった。憲兵隊による40日間の拘束により、免罪符をもつことになった(岡崎久彦著『吉田茂とその時代』)。
また、同年9月、東久邇宮稔彦内閣の外相に就任直後、外務省幹部への最初の訓示として「よき敗者」「戦争で負けて外交で勝った例はある」と語った(五百旗頭真著『日米戦争と戦後日本』)。こうして、吉田は、敗戦後の未曾有の大混乱を乗り切り、サンフランシスコ講和条約へとわが国を導いたのであった。
それにしても、労働運動に対して「不逞の輩」、全面講和を主張する南原繁東大総長を「曲学阿世の徒」と批判し、衆議院予算委員会で「バカヤロー」と発言し、「バカヤロー解散」のきっかけを作った吉田。現在の政治家でこれほど確信犯的な自信を持って政敵に対して罵詈雑言を浴びせる者は皆無であろう。【評者 阿久根利具 文芸評論家】


切れ味のよい論説






内容が薄い

ちょっと単調な主張

低所得者、ホームレスの言い訳集




