メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年7月14日~7月21日
| 日本国の原則―自由と民主主義を問い直す | |
![]() | 原田 泰 日本経済新聞出版社 2007-04 売り上げランキング : 4496 おすすめ平均 ![]() 「自由と民主主義」の伝統を尊重するという原則 「失われた十数年」においても「失われていないもの」Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本近代史を自由と民主主義の視点から分析
一国の繁栄には自由と民主主義が必要だというのが、本書のメッセージである。そのことだけなら、経済学の基本思想を述べたにすぎないと思われるかもしれない。経済的繁栄は人々が自らの利益に基づいて行動する意図せざる結果であり、その前提条件は経済的および社会的自由にあるというのが、アダム・スミス以来の経済学の考え方であったからである。
本書の真骨頂は、近代日本の原則を確認するために、そのような経済学の伝統的な推論を、単に経済にとどまらず、「戦争」という歴史的経験に適用しようとするところにある。
開国以来の近代日本は、世界でもまれに見る経済的成功を収める一方で、破滅的な危機をも経験した。その危機とは、昭和の戦争である。本書によれば、日本が経済的繁栄を実現させたのは、政府の経済運営が賢明であったからというよりも、人々の自由があったからである。近代日本の指導者たちもまた、自由こそが繁栄の源であることをよく理解していた。
その日本が道を誤ったのは、軍部の台頭によって、社会の自由が失われたからである。戦争とは本来、国民に大きな負担を強いる、とてつもなく利に合わない国家事業である。
しかし、戦争は他方で、軍部の持つ利権を極大化させるように作用する。昭和の戦争とは、その軍部の利権追求行動の帰結にほかならないというのが、本書の中心的な考察である。
本書のこれらの論点は、十分に明晰かつ説得的だが、もちろん疑問もありうる。例えば、あの無謀な戦争にのめり込んだのは、軍部というよりはむしろ国民だったのではなかろうか。また、普通の常識があれば当初から勝つ見込みはないと分かっていたはずの対米戦争を主導した軍部が、組織として精緻な利権追求を行うほど「合理的」な存在でありえたのであろうか。
結局、自由は繁栄の必要条件ではあるだろうが、十分条件とまではいえるのだろうか。
おそらく、それらの疑問は、本書の基本的な論点には抵触しない。というのは、本書が随所で示唆しているように、自由と民主主義の社会においてのみ、人々が誤りから学び、国家の政策の愚かさに気付く機会を得ることができるからである。日本の中国侵略が長期化し泥沼化するにつれ、日本国内でも日中戦争の意義を疑問視する声が高まっていくが、その抗弁が表面化することはなく、国の方針が改められることもなかった。民主主義社会にも、もちろん誤りはある。しかし、批判の自由がない社会では、誤りが誤りと認識される可能性すら、きわめて限定されてしまうのである。【評者 野口 旭 専修大学経済学部教授】
| 現代中国の経済改革 (叢書〈制度を考える〉) | |
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下からの国有企業改革で市場経済導入に成功
旧社会主義国家が解体したあと、ロシアやポーランド、チェコなどの東欧諸国が速やかな市場経済への移行に失敗したのに対し、中国が成功したのはなぜか。
それは前者が市場経済への意向を急ぐあまり、ショック療法を導入して失敗したのに対し、中国は漸進主義だったから成功したというのが通説である。
これに対し、著者は、前者が上から国有企業の民営化を行ったのに対し、中国は下から民営企業を育成したからだ、という。いわゆる郷鎮企業に見られるように中小企業がつぎつぎと生まれ、これが中国経済の躍進をもたらしたというのである。
著者は中国における改革派の代表的な経済学者として知られているが、本書は他の研究者の協力を得て体系的に中国の経済改革について書かれた教科書である。総論で改革問題を理論的、かつ歴史的に展開するとともに、農村、企業、銀行、証券、財政などの改革、対外開放などについて論じながら、マクロ経済、社会階層の問題についても触れている。
農村改革や企業改革に見られるように、中国では試行錯誤を繰り返しながら、現場からのさまざまな改革の動きがあり、これが成功をもたらした。
一方、ロシアや東欧諸国ではアメリカの経済学者を招いて上から市場経済を導入し、それが失敗の原因となった。
中国にもアメリカや日本の経済学者が招かれ、いろいろ教示したが、それらは混乱をもたらすだけだった。
著者はアメリカや日本の経済学者に学ぼうとし、それらの学説を多数引用しているが、はたしてこれは何を意味するのか。
むしろ中国経済の現実の中から、輸入理論によらない、中国独自の理論を作り出していくべきではないか。【評者 奥村 宏 株式会社研究家】
| 屋久島の山守 千年の仕事 | |
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山仕事60年、屋久島と杉を守る仕事師の物語
縄文杉で名高い屋久島の木々を守ってきた仕事師の物語である。満17歳でこの仕事に入り、73歳の今もなお現役を続けている。その波乱の人生を聞き書きしたものである。
屋久島は、鹿児島の南、鉄砲伝来で有名な種子島の西にあるほぼ円形の島である。周囲約100キロメートル、1000メートル級の山がたくさんある。常に湿気があっていつも雲が渦巻いている。海の暖かな蒸気が山のてっぺんに当たってたくさん雨を降らせるからで、それが杉にはいい。だから海岸地帯はほとんどが松で、上方が杉である。千年以上の木を屋久杉、それ以下を小杉という。屋久杉は重く、水に浮かない。1立方メートル当たり平均1・4トンあるからだ。中には3トンの木もあるという。
6歳のとき両親が別れて父子家庭になる。伯父の家に預けられ、小学校も満足に出ていない。17歳のとき、林野庁の募集に従兄弟に誘われ応募した。仕事は伐採ではなく「キヨセ(木寄せ)」だった。
山の木は、伐採師が先に伐っていく。伐ったあとの丸太をキヨセが集めて谷間まで運び出し、トロッコに乗せる。当時はすべて人力だった。山仕事は何も知らなかったので、休みのときは山を歩き回った。そして屋久島のとりこになった。
伐採は江戸時代以前から始まっていたが、鋸が島に入ったのは明治になってからである。それ以前は斧(ヨキ)だけで伐っていた。ヨキは万能だった。キヨセはヨキ一丁でトロッコ道を造り、沢や川に橋を架ける。それこそが本当の仕事師だと思った。伐ったあと、お礼返しに15本苗を植えた。
屋久島をちゃんと育てるためには手の入れ方を考えねばならない。屋久島の種で育った苗で天然林を作るのが理想だと願っている。【評者 仲倉重郎 映画監督】
| 国際金融証券市場と法―中央大学法学部インターンシップ講義・大和総研協力講座 | |
![]() | 山内 惟介 雁金 利男 中央大学出版部 2007-04 売り上げランキング : 90719 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中央大学法学部で、2004年度と05年度に行われた講義の内容をほぼ再現したのが本書である。
法学教育では民法や商法などいわゆる六法科目が中心だが、法学部といえど卒業生の約3割は広義の金融分野へ進む。
それを対象に、国際金融証券市場の現状とそれをめぐる法制度などの、基礎から応用までを含めた知識を体系的に習得できるように構成されている。
この講義は、本書の共同著者の一人で、大和総研元専務の雁金利男・中央大学客員教授のほか、大和証券グループで実務に携わる8人の幹部社員がかかわることで、実践的な内容になっている。
国際金融証券市場の法的アプローチをはじめとする全体論だけでなく、株式、債券、外国為替など国際金融証券の基礎知識、日本や欧米、中国など各国の証券市場の現状についても詳しく解説。証券業界の入門書としてもお薦めできる一冊だ。
| 小さな会社の社長のための問題解決マニュアル | |
![]() | 福島 正伸 PHP研究所 2007-06-23 売り上げランキング : 242 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
いかに時間や手間を省いて最大限の効果を得るか、が最近のビジネス本の人気テーマになっている。そんなトレンドに対し、まずはできることからやっていこう、「労力は誰もが持っている最強の経営資源」と語りかける本だ。どん詰まり状態でもう打つ手ナシ、と精神的に追い詰められたリーダーの頭のコリをほぐし、再度原点に立ち返ることで、打開策を提示していく。キーワードは「ピンチとは、チャンスである」。
構成は具体的な事例を想定してのQ&A方式。資金繰りに関する問題から売り上げ、新規事業、人材育成、地域、後継者、経営、計77項目の悩みに対し、起業家でもある著者が自身の経験を踏まえアドバイスする。
大企業の戦略と、中小企業が取るべき戦略との違いを明示。また、随所で披瀝される著者のアイデアがおもしろい。ところどころ単語を置き換えれば、壁にぶち当たっているサラリーマンにとってもヒントに溢れている。
| 続 東北 | |
![]() | 河西 英通 中央公論新社 2007-03 売り上げランキング : 112999 おすすめ平均 ![]() 読んでみます?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
民俗学者の赤坂憲雄氏は著書『東西/南北考』の中で、日本列島の構図を「西の支配、東の服属」と言い表した。たしかに歴史的に見て、東北は戊辰戦争で官軍に征伐され、明治以降も飢饉に見舞われ、その貧しさが二・二六事件の布石ともなった。東北には、どこか「未開」「辺境」といったイメージもつきまとう。
本書はそんな「東北」を「後進地・東北」という一方向の見方でなく、歴史を俯瞰して等身大の「東北像」を再現しようとする。同様の趣旨の前作『東北―つくられた異境』の続編である。
著者が指摘するのは、近代において東北は単なる「後進地」でなく、海外膨張を続ける帝国・日本の「原境」「中心」「基底」、すなわち「日本そのもの」として機能していたとする見方だ。そんな東北を、著者は日本を最深部から照射する「深日本」だと定義する。
世界史、文学、民謡など、複数の方向から光を当てて浮かび上がる「新東北像」は新鮮である。
| 凶区/Erotica | |
![]() | 森山 大道 朝日新聞社出版局 2007-06 売り上げランキング : 55351 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
森山大道がえぐる21世紀初頭世界の都市
いま世界が注目する日本の写真家といえばこの森山大道だろう。著者は1960年代後半の反逆の季節にブレやボケ、荒れた写真映像でデビューし、その後日本を中心にしてカメラとともに彷徨をつづけてきた写真家だ。
森山の旅には固有のテーマがあるわけではなく、場所や日付にもこだわりがない。その森山が近年、世界各地に飛び、活動の場を広げている。本書の冒頭ではそんな旅立ちを告げるかのように飛行中の窓から見えるジェットエンジンの写真が選ばれている。
『八十日間世界一周』のテーマ曲が聞こえてきそうな懐かしさにとらえられるが、翼端に屹立したウィングレットで最新機だということに気づかされた。ページを進むと、そこは森山ワールドだ。
リコーのコンパクトカメラで切り撮られ、モノクロフィルムに定着されたどす黒い粒子の粗い、猛々しい世界の街頭や悲哀感あふるる原野の光景が連続する。
いったいここはどこなのか。読者は写っている人や文字や建物を読み解こうとしつつ、知らぬ間に森山のたくらみにはまり込む。本書は99年からニューヨーク、上海、パリ、バンコク、東京、大阪などで撮影されたらしいが、土地に特別な意味はない。
森山にはそれは均質な風景で「世界はつねに“凶区”であり、また世界は“エロティック”だ」と誘惑されたようにその「場所」に立ち、震え、官能し写真でシャッフルしてみせた。著者はそこで凶区を視たが、読者は世界からの凶眼にさらされて災禍の予感、都市の亀裂の予兆を感じるだろう。陋巷に朽ち果てるのは森山か私たちか。21世紀初頭世界の都市を記録した類のない写真集だ。【評者 写真家 中川道夫】
| 経済成長の世界史 | |
![]() | E.L.ジョーンズ 天野 雅敏 名古屋大学出版会 2007-01 売り上げランキング : 3769 おすすめ平均 ![]() 成長を阻んできたものは何であったのか 経済成長の阻害要因を論じた野心的研究Amazonで詳しく見る by G-Tools |
経済成長はなぜ起きたのか 壮大ななぞを世界史で探る
経済成長とは一人当たりの所得が増大することだ。歴史的に、人口の増加をともなって豊かになったことは何度もあるが、一人当たりが豊かになることはほとんど見られなかった。
豊かになることは、ほとんどすべての人々が望んでいることだ。なぜ、人々の望んでいる事象は産業革命まで起きなかったのだろうか。著者は、人々が経済成長を望んでいる以上、起きうるものだという。だから、なぜ起きたかではなく、なぜ起きなかったかを問うべきだという。現実に、世界の様々な地域で、投資や技術革新を行い、一人当たりの所得を向上させることに成功した。産業革命だけが唯一の経済成長ではなかった。
メソポタミア、エジプト、ギリシア、ロードス島、ローマには持続的成長が見られたという。産業革命は緩慢な過程で、運河や帆船は、鉄道や蒸気船とともに長く使われていた。1851年の万国博覧会のために造られたガラス宮には、鉄とともに多くの木材がアーチに使われていた。イギリスで1760年から1820年まで、人口増大のために生活水準はほとんど増加しなかったという。
一方、宋代中国と江戸時代の日本で確かに、一人当たり所得の上昇が見られたという。
にもかかわらず中国は発展できず、西欧が世界史の勝者となった。それはなぜか。モンゴルの侵攻は一つの要因だろうが、それがすべてなのだろうか。マルコ・ポーロは元の繁栄を語っていたのだから。
技術が退行してしまうことはたびたび起こった。ローマ時代のイギリスには集中暖房設備があったが、1980年代の半ばでもイギリスの住宅の半分にはそれがなかったという。
本書は、成長は、主として財産の安全と結びついていると解釈している。政治とは恣意的で、臣民の命や財産を平気で奪うものだったが、イギリスに徴税への発言権を獲得した議会制度が生まれると、財産は安全になり、それが産業革命の準備をしたという。日本の江戸時代の発展も税を引き上げなかったことによるという。ただし、イギリスとは異なり、なぜそうなったかは説得的でなかった。
ヨーロッパの王族や貴族たちは、最終的には臣民をお得意様と見ることを学んだとある。
多彩で興味深い情報が詰まった本だが、繰り返しと説明不足のところもある。例えば、ヨーロッパの武器製造業者が克服できなかったマスケット銃の発射装置の問題は、日本で解決されたとあるが、具体的には何も書いていない。訳にも理解できないところがある。だが、壮大ななぞに挑み、博学を楽しませてくれる魅力的な本だ。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】
| 北方領土交渉秘録―失われた五度の機会 | |
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元外務省高官が明かす北方領土返還交渉秘録
この本は三つの部分から成る。第一に鈴木宗男氏及び佐藤優氏の裁判にかかわる部分、第二にロシアを舞台とした外交官の回顧と分析、第三に「秘録」とされる部分である。
日露領土交渉で、日本側の主張点が通る形で合意ができたとすれば、エリツィン大統領時代であった。1998年ロシアで金融危機が発生し、経済は瀕死の状況であった。ロシアとしては経済大国である日本との良好な関係に魅力がある。このタイミングでクラスノヤルスク、川奈会議と首脳外交に持ち込んだのは日本外交の成功である。
問題は何が話し合われたかが不明確なことである。重要な役割を演じたのは丹波實外務審議官で、同氏は2004年『日露外交秘史』を出版した。しかし川奈会議での日本側提言にはほとんど言及していない。
今回の「北方領土交渉秘録」はこの間の事情を詳細に述べている。日露関係を研究する者にとって貴重な資料となろう。
他方第1章の説得力は弱い。国民の不信は事件が生ずるたびに、「逃げるのは高級官僚。罪に問われるのは下の者」という点である。「決裁をしたのは局長であり、その下で働くものに責任はない」との論理は正しい。 しかしもしこの主張をしたいのなら、最もなすべき場は裁判の第一審である。なぜしなかったか。第1章を「ソルジェニーツィンにならって」としているが、ロシア人がなぜ彼を崇拝したか。ソ連の人々はソ連の問題点は知っていた。しかし発言で被る被害を考えて、黙した。しかしソルジェニーツィンは自らの生命の危険を認識しつつソ連国内で発言を行った。だから人々は感動したのである。彼が何でも発言できる米国に亡命してから、ロシア人は彼に関心を失った。彼の偉大さはソ連にいた彼であり、亡命した彼ではない。【評者 孫崎 享 防衛大学校教授】
| サムライ人材論―アメリカがうらやむ日本企業の強み | |
![]() | マーク・B・フラー ジョン・C・ベック グロービス経営大学院 ダイヤモンド社 2007-03-09 売り上げランキング : 47494 おすすめ平均 ![]() 現場のサムライ人材が、日本企業の強みの源泉Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本企業に流れる武士道精神を高く評価
本書は、知日家、親日家で知られる2人の米国人識者による、新鮮な視点からのユニークな日本企業論であり、われわれ日本人にとっては大いに刺激になると同時に勇気づけられる内容だ。
第一にユニークな点は、著者が「武士道」精神という切り口から日本の経営を分析している点だ。彼らは、「武士道」の方法論やマインドセットが企業再生に役立つものであり、日本企業がこれまで何度も自己変革を遂げ、再生に成功してきたのは、この「武士道」精神によるところが大きいと分析している。そして、「日本からもう学ぶものはない」という欧米の冷めた論調に対して、日本(企業)からまだ学ぶ点が多いと反論する。
第二にユニークな点は、著者が日本企業の将来に対して非常に楽観的な点だ。著者によれば、今は日本企業にとって重要な転換点だが、彼らの説く「再生サイクル」の考え方に従えば、再生は可能であり、現に復活の兆しが至るところで見られると主張する。そして、「現代の企業侍」の活躍に大きな期待を寄せている。
しかしながら、この楽観論は評者としてはやや気になるところだ。というのも、現在、日本は、政治家、官僚、企業経営者の腐敗や不正の横行、米国型資本主義導入による拝金主義の横行、日本人のモラルの著しい低下、日本の将来を担う若い世代の教育水準の低下といった多くの問題を抱えているからだ。これらからも、大半の日本人がもはや「武士道」精神を失いつつあるという気がしてならない。
現在の日本企業復活の兆候が本物となるためには、そもそも本書の前提である「武士道」精神を日本人が取り戻すことが急務と言えよう。是非とも評者の心配が杞憂に終わることを願ってやまない。【評者 黒田康史 YSコンサルティング代表】
| 場所の心時のすがた―文化部記者の見た日本 | |
![]() | 稲垣 真澄 現代思潮新社 2007-04 売り上げランキング : 103703 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は10年余りにわたって、産経新聞文化部記者として著者が同紙に掲載したエッセイであり、全体が「風景」「心」「文化」に章立てされている。
現在の日本人が失ったものは宗教心だと思っている私には、「心」が印象的であった。著者がいかなる信仰に帰依しているかは測りかねるが、「人間はなぜ行列を作るのか」「般若経の読誦」「沖縄エイサー踊りは念仏踊り」「神道墓地」などは実に興味深い。
「あの世の位置――近代化と宗教」では、「近代化が多重世界から単一世界への移行、つまり死後の世界は存在せずに、存在するのはこの世だけだとする世界観への移行だった、(中略)しかし経済一辺倒、個人主義、物質主義など近代の原理そのものが問われるようになったとき、単に単一世界観に身の丈をあわせるだけではなく、むしろ多重世界観にも適切・健全な表現を与えることも宗教の大きな課題になるかもしれない」と述べている。
2020年の日本人―人口減少時代をどう生きる
松谷 明彦 (著)
日本は今後急速な高齢化と人口減少時代を迎える。そのとき日本経済はどうなているのか。経済政策や企業行動はどうあるべきかを元大蔵省主計官で、現在政策研究大学院大学教授である著者が分析する。
著者によれば、第1次ベビーブーム後、出生率が低下したのは優生保護法により中絶が自由化されためと分析する。団塊の世代が若かった時期は、低賃金の労働者を安く企業が使えた人口ボーナスがあったが、今後はその効果が反転する時期を迎える。
人口減、高齢化で労働生産性の向上があっても、労働力人口の減少によって、日本の生産(GDP)は減少に向かう。経済政策も企業行動も人口の増加時期とは変わるのが当然だ。
生産力が減るのだから、需要喚起策は採用できない。財政支出は減少せざるをえない。財政支出を維持するための増税は百害あって一利なし。企業も高付加価値製品に特化するしかなくなるという。
| 僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実 | |
![]() | 草薙 厚子 講談社 2007-05-22 売り上げランキング : 681 おすすめ平均 ![]() まじめな子どもも大人も危ない 門外不出の肉声 真実を世に問おうとした優れたノンフィクションAmazonで詳しく見る by G-Tools |
2006年6月に奈良で起きた医師宅放火殺人事件。母子3人が死亡し、自宅に火を放った当時17歳の長男は少年院送致された。猛勉強を強要し暴力を振るう父親とそれにおびえる少年。受験戦争が過熱する中、この構図はどの家庭でも起こりうるのかもしれない。本書は、彼らの肉声ともいえる供述調書を引用しながら、事件背景に迫る。
当時の報道では、少年が放火に至った理由として、継母との確執などが盛んに挙げられていたが、実態は異なる。著者は、こうした誤った報道で遺族が傷つくばかりでなく、少年法の厚い壁に守られ、真相が伝えられないままでは、教訓を得ることもなく忘れていくだけと、本書執筆の理由を明かしている。本来非公開の資料引用が人権侵害にあたると、法務省は出所等の調査を進めているが、われわれが一般には知ることのできない実情が生々しく描かれた本書は、頻発する少年事件についての議論に、深い示唆を与えている。
バルトルの冒険―ネコの物語
マルレーン・ハウスホーファー (著)
バルトルという名のオスネコの物語。生まれて間もない子ネコ「ペーター」が、ある日突然、6歳と8歳の男の子のいる家庭にもらわれ、髭が生えているのでバルトル(髭ちゃん)と名付けられる。この2人の子どもやパパもママもとても親切であり、一家の一員、というか中心的存在となる。
バルトルの新しい家の探検とママのナイトガウンの占領、ネコ同士の友情と戦い、外から入り込んだネコと自分の居場所をめぐるバルトルとの大決闘、ネズミを獲るがママは喜ばず結局フクロウの餌となる、仲のよい遊び友達の自動車事故死、悪い男に誘拐され優しい女に解放される、子どもの描く絵のモデル、独り暮らしの男の射撃趣味とその犠牲となったネコ仲間、原因不明の病気と奇跡的な回復など、波乱万丈の数年間のバルトルの成長の記録である。
ドイツ文学特有の主人公の形成・成長をたどる、ネコのユニークな「教養小説」である。
| 健康問答 本当のところはどうなのか? 本音で語る現代の「養生訓」。 | |
![]() | 五木 寛之 帯津 良一 平凡社 2007-04-05 売り上げランキング : 3192 おすすめ平均 ![]() 健康に答えはない。笑いはある。 健康読本--超、入門書 ホリスティック医学の代表者と五木寛之氏の対談。一見に値すべき本です!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者に聞く 『健康問答』(平凡社)を書いた帯津三敬病院理事長・名誉院長 帯津良一
少しの計らいで健康で長生き
――健康ブームです。健康法や健康食品がもてはやされています。厚生労働省も医療費抑制のためメタボリック症候群の撲滅など生活習慣病の予防に邁進しています。その中で、作家の五木寛之さんと先生との健康についての対談が刊行されました。本当のところはどうなのか、を教えてください。
太っているか、太っていないかはその人の考えや生活で決まるもので、あまり健康に影響がありません。人間のウエストをある一定の範囲に整えようとする政策は、非常に画一的で、なにか全体主義を連想させます。
人間は決められた寿命があります。その寿命は健康法や健康食品、サプリメントで大きく変わることはありません。だから、健康マニアになることは考えものですね。
ある患者さんが来ました。私が「ガンにかかっています」と診断したら、怒り出して、「私は自然食ばかりだから、ガンにかかるわけがない」と。そうはいってもガンにかかっていることは事実です。こうした信念や狂信はいけません。
とはいえ、何の計らいもしないで、気の向くまま食べたり、飲んだりする生活もいけません。
自分のできる範囲で健康についての計らいをして、できるだけ健康で長生きすることがたいせつです。
――たとえば。
まず、自分の両親の体質やかかった病気を知って、その対策を考えることです。遺伝がありますから、親がガンになったり、脳梗塞など循環器系の病気になったりしたら、自分もその弱点を持っていると考えたほうがよいでしょう。
それに対する対策を備えたうえで、食事、体操などでふだんの生活でなるべく健康的なものにすることです。
食事はなるべく旬のものを和食中心に食べることです。今(6月下旬)だったら、カツオ、空豆、新ジャガがあれば、私はほかに何もいりません。これらをさかなに喜びをもって、おいしいお酒が飲めます。
ただ、時々はカツ丼や肉の脂身など体に悪そうだが、おいしいものも食し、羽目をはずして、食事を楽しむことも必要です。
それから、毎日、少しでも心を整え、息を整えるために体を動かすことです。歩くこと、気功、ヨガ、空手、ストレッチなど何でもいいですから、ひとりでできること仲間とすることを問わず、体を動かし、心と体をほぐすことが効果的です。
三番目は死生観の確立です。人間はいつかは死にますが、それを踏まえたうえで、生と、生きる意味を考えることだと思います。
都会のサラリーマンは毎日猛烈に働いていますが、それはそれで良いことですが、時々は一度立ち止まって、死生観について考えましょう。
四番目は漢方薬やサプリメントなど補助食品を摂ることです。私は知人で尊敬する医師が脳梗塞に倒れた姿を見たものですから、予防のために血液をさらさらにする効果が期待できる納豆キナーゼを摂っています。
profile おびつ・りょういち
医学博士。1936年埼玉県生まれ。61年 東京大学医学部卒業。東京大学病院第三外科、共立蒲原総合病院外科、都立駒込病院外科を経て、82年帯津三敬病院(川越市)を設立。ガン治療で知られる。
















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