メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年6月2日~6月9日

月に響く笛耐震偽装 完全版
月に響く笛耐震偽装 完全版藤田 東吾

講談社 2007-04
売り上げランキング : 37960

おすすめ平均 star
star国交省と外郭団体のマフィアぶりが判る
star祝!出版

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

官僚・マスコミ連合に戦いを挑み敗れた、挫折と怒りの手記

すごい著書である。

藤田東吾氏は「2005年に偽装されたマンションの構造計算書を発見し、公表する。以後、いわゆる耐震強度偽装事件の主要人物として、国家、政治家、官僚機構、既得権益層のさまざまな思惑に翻弄され、またマスメディアを使った情報操作を仕掛けられ、イーホームズは最終的に廃業せざるを得ない状態まで追い込まれる。しかし、事件の真実、そして国家の巨大な闇を記録として後世に残すため、本書の執筆を決意する」(著者紹介より)。

06年4月26日、藤田氏は自ら警視庁に出頭、逮捕され独房に収監された。このころのことを次のように記している。

「俺は負けたんだ。死んでしまいたかった。もはや死ぬしかないと思った。死ぬことは、際限なく襲い続ける恐怖から逃げ出す唯一の方法だった。…死ぬことでしか、もはや最後の抵抗はできないと思うのだ。しかし、死ねない。…頭が少しずつ狂っていく気がした。…神経は消えかかっていた。廃人になっていく自分を感じていた…」

どうみてもこの人物が大きな犯罪を犯したとは思えない。

藤田氏を痛めつけた国土交通省と検察庁とマスコミに問いたい。藤田氏のような善良な常識人をどうしてここまで追い詰めなければならなかったのか。あまりにもやり方があくど過ぎたのではないか。検察当局による別件逮捕もとうてい納得できるものではない。なぜここまでして藤田氏を社会的に抹殺しようとしたのか、真相は究明されなければならないと思う。

マスコミ、とりわけ読売新聞がひどい。「第三章 拮抗する光と闇」の一節「踊る読売新聞」で記している。

「国交省が仕掛ける情報戦は、しだいに総力戦と化し、マスコミへのリークでイーホームズを叩く記事が、十一月二十八日の朝、洪水のように溢れて日本中を駆けめぐった。その中で、国民の意識を最も『イーホームズ狩り』へ追い立てた記事は、発行部数最大を誇る読売新聞の『イーホームズ指定取り消し』報道だった」

読売新聞の「イーホームズ指定取り消し」との報道は読売新聞の捏造だった(と著者は述べている)。読売新聞は捏造報道でイーホームズという企業と藤田社長を社会的に抹殺した。

藤田氏は、耐震偽装が生じた原因が国交省の大臣認定プログラムにあることと「アパ」にも偽装があることを指摘した。

これだけのことで藤田氏の会社はつぶされ、自身の命まで危機にさらされた。国交省と検察当局と読売新聞に問いたい。諸君はどうしてこれほど非人間的なことをしたのか、と。【評者 森田実 政治評論家】

■2007/06/09, 週刊東洋経済

大企業のウェブはなぜつまらないのか―顧客との対話に取り組む時機と戦略
大企業のウェブはなぜつまらないのか―顧客との対話に取り組む時機と戦略本荘修二

ダイヤモンド社 2007-02-17
売り上げランキング : 4710

おすすめ平均 star
starよく知られた知見
starもっと早く読みたかった
star大企業とのビジネスを仕掛けようとする人向き

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

Webを切り口に大企業の戦略、組織、業務を見直す

本書は、大企業のWeb戦略について、豊富な事例やわかりやすいコンセプトをうまく使いながら、その方向性や具体策を示した、なかなか骨太の経営書である。前半では、Web戦略の現状、課題、解決の方向性等についての本質的な議論が展開されているが、著者の論理は明快だ。ネットは、大企業にとってはまだまだ数%のシェアしかなく、収益に直接影響しないためおろそかにされがちだ。

しかしネット化社会が進むにつれ、顧客へのパワーシフトが起こり、大企業にとっても顧客との対話が重要になってくる。そうなるとWebを中心とした自社メディアの重要性が一層増してくる。

だからこそ、大企業のWeb活用が重要というわけだ。著者はまた、複数のメディアを組み合わせてアプローチするクロス・メディアの重要性も指摘している。

後半では、ホンダ、ヤマハ、リコーなど大企業のWebへの取り組みの先行事例が数多く紹介されており、大変参考になるが、本書の「売り」は何といっても大企業のWebの方向性や具体策が示されている最後の2章だ。著者によると、Web戦略の理由付けとビジョン、自社のアイデンティティの再認識、目標やロードマップ策定が大切だ。またポテンシャルは高いが不確実性の高いWebに取り組むには、アクティブ・ウェイティング戦略や実験物理学的なアプローチが有効だ。

さらには、トップダウン×ボトムアップ、ルース・カプリング、外部と連携するエコシステム戦略等、ネット化推進のための組織体制の提言等があり、大変興味深い。

Webを切り口にして自社の方向性や戦略、組織、ビジネス・プロセスを見直すという意味で、本書の意義は大きい。【評者 黒田康史 YSコンサルティング代表】

■2007/06/09, 週刊東洋経済

楊令伝 1 (1)
楊令伝 1 (1)北方 謙三

集英社 2007-04
売り上げランキング : 3549

おすすめ平均 star
starあれから3年・・・
star待望の水滸伝続編。新たな伝説が今、始まる!
starあの男の復活に、再びの荒野、ブラディードールそして約束の街の漢たちを思い浮かべた

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「北方水滸伝」の続編 新しいヒーロー楊令が登場

本書は中国四大奇書の一つである『水滸伝』を下敷きに全く新しい作品として書かれた北方水滸伝の続編である。

しかし、本書も北方水滸伝と同様、民間伝承をベースとした原作とは展開が大きく異なるのだ。

原作では、梁山泊に立てこもった英雄達は官軍と和睦し、一転して宋王朝のために戦うのだが、北方水滸伝では官軍との壮絶な戦いの後、梁山泊は滅び去るのである。本書は、その滅亡後の復活の物語、第一巻である。

しかし、単なる梁山泊のその後の物語ではない。北方文学の最高峰にあると考えられる『楊家将』と、その続編である『血涙』の流れを汲む楊家興亡史の最新作でもある。

前二作では、日本では知られることの少なかった宋王朝建国の英雄である軍人・楊業とその一族の進退を鮮やかに描きながら、宋を脅かし続けた遼という国とそれを支えた王族、軍人、文官にも歴史の光を当てている。

今回の北方水滸伝では活躍の場の少ない楊家の末裔、楊志という人物を希代の英雄として創り直したうえで、その養子として、全く新しいヒーローである楊令を登場させている。

梁山泊滅亡後、生き残った英傑達がどのように生き延び、雌伏し、さらには再起の日に備えているかをオリジナル水滸伝に倣って紀伝体(司馬遷が史記を書いた人物中心の歴史表記)で著者は書き進めてゆく。

本書は北方水滸伝の続編と書いたが、主要な登場人物の数だけでも百を超える前編を全て(一九巻)読まないと筋立てが理解できないという訳でもない。付録に北方水滸伝の粗筋が記載してあり、本書と前後して水滸伝を読んでも面白さは十分に味わえる。第二巻を心待ちに本書を閉じた。【評者 津田倫男 フレイムワークマネジメント代表】

■2007/06/09, 週刊東洋経済

財務3表一体理解法―決算書がスラスラわかる
財務3表一体理解法―決算書がスラスラわかる國貞 克則

朝日新聞社出版局 2007-05
売り上げランキング : 1374

おすすめ平均 star
star3表のつながりが詳しい
star仕訳の本で良書ですが、税理士向きの本かなです

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

著者は東北大学工学部を卒業し、鉄鋼メーカーに勤務した経験のある経営コンサルタントだ。職業的会計人ではないことが、かえってわかりやすい会計学入門書を書けた理由だろう。

本書では、まず財務諸表3表、損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CS)を、具体的な会社の事業活動を通して解説しており、それらの「つながり」をわかりやすく書いている。

本の第4章では、「決算書を読み解くツボ」という章建てで、ROA(総資産利益率)やROE(株主資本利益率)など収益性の分析指標や、流動比率など財務の安定性を分析する指標を解説している。

さらに第5章では、「新会計基準もわかる」という章建てで、金融商品の時価会計、減損会計、税効果会計など最新の会計基準を解説している。初歩的な会計の仕組みから最新の会計基準まで。この一冊で現代会計の全体像を把握できる内容になっている。

■2007/06/09, 週刊東洋経済

お母さん社長が行く!
お母さん社長が行く!橋本 真由美

日経BP社 2007-04-19
売り上げランキング : 65067

おすすめ平均 star
starBOOK OFFを改革して下さい
starこれは、あたたかいビジネス書

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

中古書店チェーン・ブックオフ一号店が神奈川県相模原市にオープンしたのが1990年5月。そのとき、オープニングスタッフとして、一介のパートとして働き始めたのが著者である。

夫と二人の子どもを抱えた主婦が、2006年6月に東証一部上場企業になったブックオフの社長になる。この物語を自らつづったのが本書である。

著者が社長になれたのは、創業者のひいきでも偶然でもなく、「パート、フリーター、主婦から大卒社員まで分け隔てなく付き合い、チームワークを育て」「日々の業務改善を怠らず」「お金よりも、仕事の喜びをモチベーションにして」販売現場をつくり、フランチャイズチェーンの「現場教育」の「心」と「仕組み」を構築した実績を評価されたからであった。

ブックオフ成長の舞台裏を知ることもできる。日本の普通の主婦の潜在能力の高さに脱帽する。あなたの隣にもきっと第二の橋本さんがいるに違いない。

■2007/06/09, 週刊東洋経済

イギリス「教育改革」の教訓―「教育の市場化」は子どものためにならない
阿部 菜穂子 (著)

現在、安倍内閣の看板である教育改革は、いったいどこへ向かうのか。教育に市場原理を持ち込むのなら失敗に終わるだろう。

イギリスは1980年代末期に成人の5人に1人はまともに英語の読み書きが十分にできないことが判明し、サッチャー首相が大教育改革を断行した。すなわち全国共通のカリキュラムと統一学力テスト、学校の自由選択制の導入であった。換言すれば、「市場原理」の導入だった。

それが、労働党のブレア首相にも引き継がれた。その結果は明白であった。学校が「勝ち組」と「負け組」に分かれ、「教育の階層化」が生じ、政府による教育現場に対する干渉は一段と強まった。

教師も父兄も次第に反発し、「市場原理」に替わるものとして、フィンランド・モデル=すべての子どもに対して平等に質の高い教育の機会を与えるために、自国の歴史と文化に合った教育を忍耐強く模索する、に行き着くのである。

■2007/06/09, 週刊東洋経済

ニュージャパンモデル サイエンスTQM 戦略的品質経営の理論と実際
ニュージャパンモデル サイエンスTQM 戦略的品質経営の理論と実際天坂 格郎 製造業の品質経営あり方研究会

丸善 2007-04-14
売り上げランキング : 429486


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

昨今、グローバル生産で世界をリードすべき先進企業のリコールの増加は、日本的品質経営の専売特許ともいえる「科学的品質管理法」が希薄になってきているためである。

本書は、今後の「ものづくり」において最重要視すべきである、「顧客最重視のグローバル品質経営」実現のための手法を懇切丁寧に解説している。編者が提唱する、次世代型経営管理技術「ニュージャパンモデル――サイエンスTQM」は、科学的品質経営の確立であり、「グローバル生産」成功の鍵、「世界同一品質、世界同時立ち上げ(最適地生産)」への貢献、でもある。本書では「サイエンスTQM」の適用による「戦略的品質経営の理論と実際」に焦点を当て、後半では20に及ぶ先進企業の「品質経営技術モデル」の実例とそれらの有効性について議論する。経営者から現場の管理者に至るまで、これからの「ものづくり」のあり方を考える極めて示唆的な本である。

■2007/06/09, 週刊東洋経済

新自由主義―その歴史的展開と現在
新自由主義―その歴史的展開と現在デヴィッド・ハーヴェイ 森田 成也

作品社 2007-02
売り上げランキング : 839

おすすめ平均 star
star新自由主義カルトから脱会するために
star「新自由主義とは何か」を改めて考えるうえで

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

新自由主義の隆盛を歴史的に分析した好著

「構造改革」と「格差社会」に象徴される現代の「新自由主義」体制を、グローバルな視野で描いた骨太の著作が現れた。

この新自由主義体制の起源は、1960年代後半にさかのぼることができるだろう。当時は誰もがケインズ政策の有効性を疑わず、社会主義こそが時代の趨勢と信じられていた。ところが70年代になると事態は一変し、新自由主義思想が世界的に流布していく。「われわれはみな今やケインズ主義者である」と語ったのは共和党のニクソン大統領であったが、いまや労働党のブレア首相も民主党のクリントン大統領もみな「新自由主義」を信奉しているのが現状だ。

むろん70年代の前半に、富者の資産が半減して「資本蓄積の危機」が訪れたとき、社会主義革命の余地はあっただろう。

しかし当時の経済エリートは労働者たちを説得し、自由市場経済の貫徹を実現していったと著者は分析する。またその過程で左派勢力は分裂し、ポストモダンや多文化主義を支持する新左翼たちは、やがて新自由主義に共鳴していった。

そしてまさに本書の醍醐味は、このマイナーな自由思想がいかにして人々の合意を取りつけていったのかを、歴史的に分析した点にある。新自由主義体制は、民主的な同意形成によって実現されたにもかかわらず、思想それ自体は「反民主的」というのが著者の診断である。

むろん現代の新自由主義は、金融システムの不安定性や多国籍企業支配と民主主義の相克など、さまざまな矛盾を抱えている。またこれらの矛盾を解決すべく、人々は「新保守主義」という別のイデオロギーを求め始めている。

「新保守主義」とは、個人の利益よりも、国益や軍事や権威(道徳)を優先する思想である。 しかしこの思想は、偏狭なナショナリズムに陥りやすいのであって、著者はむしろ、グローバルな対抗運動と金融危機の招来によって、新自由主義体制を破砕する革命を展望すべきだという。抽象的ではあるが、教育と経済保障の権利や組合を組織する自由などの「派生的権利」を根本的とみなして、基本的な私的所有権や利潤原理を派生的とみなすべきだという。

このハーヴェイのビジョンは、あまりにもユートピア的で実効性に欠くが、しかし訳者が巻末に付した長めの論稿「日本の新自由主義」は秀逸な分析であり、一読に値しよう。日本では新自由主義が、反自民党政治・反開発主義の市民派と共鳴したというのが訳者の分析である。評者も、近著『帝国の条件』で別の観点から「新自由主義」を総合的に分析している。ご参照いただけると幸いである。【評者 橋本努 北海道大学経済学部准教授】

■2007/06/02, 週刊東洋経済

私説放送史 「巨大メディア」の礎を築いた人と熱情
私説放送史  「巨大メディア」の礎を築いた人と熱情大山 勝美

講談社 2007-01-19
売り上げランキング : 255968


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

巨大メディア・テレビ揺籃期男たちのドラマ

巨大メディアとなったテレビについては多くの本があるが、テレビ以前の「放送」の黎明期を知るものは少ない。本書の真髄はそこにある。

著者によると、日本の放送は「放送開始」が4度あるという。最初は1925年(大正14年)3月22日。NHKによるラジオ放送の開始。2度目は45年(昭和20年)、GHQの指導で装いも新たに戦後のラジオ放送を開始する。3度目は51年9月1日、民間放送の開始。そして4度目は53年のテレビ放送開始だ。まず2月1日NHKが、そして8月28日日本テレビが放送を開始した。

本書は、放送開始80年を機に、4度の「開始」の熱気と興奮、挑戦と抱負を振り返ろうとして書かれた。「個人的な興味・関心が中心軸」だというが、半世紀以上も放送界に生きてきた著者の、放送人としての自負と愛着にあふれた本格的な「放送史」である。 

なかでも3度目の開局である「民間放送」をめぐる各章は読み応えがある。NHKと新聞社の攻防、新聞各社の主導権争いは、政財界入り混じっての大混戦であった。

民放第一声の栄誉を得たのは名古屋の中部日本放送(CBC)である。51年9月1日午前6時30分、放送開始。記念すべきCM第1号は、精工舎の7時の時報であった。東京は電通と朝毎読三社が一緒になったラジオ東京だったが、CBCから遅れること4カ月。中央紙は地方紙(中部日本新聞)に負けたのだった。

民放ラジオの開始に関心が集中していたさなかに、すでにテレビ開局の動きがあった。その立役者は正力松太郎である。正力構想は内外に衝撃を与えた。NHKと対立し激しい先陣争いを繰り広げたが、開局競争で結局、NHKに敗れた。【評者 仲倉重郎 映画監督】

■2007/06/02, 週刊東洋経済

介護保険制度の総合的研究
介護保険制度の総合的研究二木 立

勁草書房 2007-02-24
売り上げランキング : 54382


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

社会保障としての介護制度のあり方を追求

医療・介護分野における独創的な研究者として知られる筆者は、介護保険制度導入とその後の改革に対し、一貫して批判的なまなざしで論評を続けてきた。その筆者の12年にわたる論文を集約した本書は、筆者が自負するとおり、「もう一つの介護保険史」と言える内容だ。

「老後の安心を介護保険で」。こんなうたい文句で2000年にスタートした公的介護保険だが、制度発足からわずか6年にして、事実上の行き詰まりを見せるに至った。

介護保険は要介護認定を受けなければサービスの利用ができないという点で、保険証一枚で安心を得られる医療保険とは大きく異なる。利用抑制のメカニズムは制度発足当初から組み込まれたが、06年改正では従来の要介護1相当の軽度者への利用が大幅に制限され、軽度者へのケアプラン作成自体が採算上も成り立たないレベルまで介護報酬引き下げが行われた。また、施設の食費と居住費が全額利用者負担とされたことで、退所を迫られる利用者が相次いだ。

そうした状況を見て筆者は、「利用者には『夢も希望もない』改革」と断じたが、実は介護保険制度導入の以前から、筆者は制度の問題点を見抜いていた。いわく、「介護保険制度が成立しても、老後の不安は決して解消されない」「公的介護保険は、『最悪』の社会保険制度になる」(ともに1996年の論文)。

また、制度発足直後においては、「低所得者の利用料・保険料の減免」「要介護認定システムの廃止」「長期的には保険制度から公費負担方式への転換」などを課題として指摘(00年論文)。その一つひとつが今も傾聴すべき内容だ。本書では、社会保障としての介護のあり方を一貫して追求する姿勢が貫かれている。それだけに広範に読んでもらいたい一冊である。

■2007/06/02, 週刊東洋経済

アメリカの企業とは―海外の企業で仕事をする人へ
アメリカの企業とは―海外の企業で仕事をする人へ松本 憲嗣

東京図書出版会 2007-05
売り上げランキング : 69371


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

著者は精密化学メーカー日東電工の執行役員。京都大学工学部を出たエンジニアで、15年間、米国の現地法人で経営に携わってきた。本書はこの経験を「海外の企業で仕事をする人へ」伝えるべく書かれたもの。

米国では従業員の給料は2週間に一度、小切手で支払われる。非効率的だ。なぜ銀行口座に振り込まないのか。米国では従業員の流動性が高く、銀行口座振り込みになじまないという基本的な指摘から始まる。

米国企業の運営ではリーダーシップが重視される。日本企業の一部にある御神輿経営はありえない。リーダーシップとはまず強い目的意識を持ち、強い意志を持つことから始まると著者は語る。

米国の学校教育にも触れている。米国では平均を求めない。他人との比較もしない。成績評価も日本と違って絶対評価である。歴史の年号も暗記させない。考える教育を行う。こうした事実の指摘も興味深い。

■2007/06/02, 週刊東洋経済

図説アフリカの哺乳類 その進化と古環境
図説アフリカの哺乳類 その進化と古環境Alan Turner Mauricio Anton 冨田 幸光

丸善 2007-04-14
売り上げランキング : 277418


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

本書はアフリカ大陸における3000万年間の哺乳類の進化、大陸の自然地理学について書かれており、大地と気候、生物との深い関係のなかで、哺乳類がどのように進化していったのかを、現在に残る化石(骨格)をもとに変遷をたどっている。

アフリカは他の大陸と違い、野生の動物が多く存在するため、単なる化石や復元されたイラストだけではなく、現生の哺乳類の写真を多く掲載し、過去と現在の哺乳類のつながりについてもわかりやすく解説している。

また、アフリカは最初の人類とされる化石が発見されていることもあり、霊長類の進化について特に詳しく書かれている。

さらに、哺乳類が生活・進化をしていったアフリカの時代・環境ごと、また化石が発掘された地域ごとといった複数の視点からの解説がされており、哺乳類が進化をしたアフリカという舞台を総合的に理解することもできる。

■2007/06/02, 週刊東洋経済

神話のスパイラル―アメリカ文学と銃
神話のスパイラル―アメリカ文学と銃中 良子 花岡 秀 貴志 雅之

英宝社 2007-03
売り上げランキング : 468702


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

アメリカ人と銃の関係は、いかなる重大事件を惹起しても、アメリカ人にとっては一過性の事件に過ぎず、1791年の合衆国憲法修正箇条第二条のために、銃社会アメリカは依然として揺るぎない。19世紀アメリカの拡張主義などから紡ぎだされてきた「アメリカの神話」と複雑に絡み合っているのだ。

しかし、文学における銃はどうであろうか。これが本書のテーマである。発射された銃弾が、旋回しながら標的に向かい、アメリカをめぐるさまざまな「神話」をそのスパイラル状の軌跡に巻き込んで、幾重にも屈折した表象を担ってきた。

その例として、南部スモール・タウンを舞台とするW・フォクナー著『アブサロム、アブサロム!』は、結局、南部支配階級の白人が固執する「古き南部の神話」や「キャヴァリアー神話」を創造し、それを継承するために使われた銃が、その「神話」崩壊の直接的な要因となってしまっていると語る。

■2007/06/02, 週刊東洋経済

赤い帽子―フェルメールの絵をめぐるファンタジー
赤い帽子―フェルメールの絵をめぐるファンタジージョン・ベイリー 高津 昌宏

南雲堂フェニックス 2007-03
売り上げランキング : 281204


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

17世紀のオランダの画家、フェルメールの《赤い帽子の女》のモデルが今に生き、恋をするとしたら、どんな恋をするだろうか。だが、《赤い帽子の女》のモデルは、赤い帽子にイヤリング姿なので「女」として設定されているが、よく見ると、「男」のようにも見える。事実、これはフェルメールの自画像トローニーだと断言する研究者もいる。また、この絵の真作性に疑問を持つ学者が少なくない。

それ故にと言うべきか、『赤い帽子』の第1部のヒロインであり、「語り手」であるナンシーは、少女にも少年にも、もっと年上の女にも見える変幻自在な存在である。そして、自由奔放に物語を紡ぎ出す。第2部の「語り手」ローランドは、行方不明のナンシーを捕らえようとするが、それができないのだ。この二人の語り手は真実を語っているのか、それとも大法螺吹きなのか。虚実が入り混じりミステリアスな物語となっている。

■2007/06/02, 週刊東洋経済

古鎮残照
古鎮残照清永 安雄

産業編集センター 2007-02
売り上げランキング : 358484


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

中国の古い町や村に誘われナショナリズムを思う

古鎮とは伝統的な風情を残した町や村のこと。中国ではちょっとしたそのブームで、書店の売場には「古鎮游」と題した案内本が目につく。改革開放で国内旅行が自由になり、北京や上海、万里の長城などありきたりの都市や観光地ではないものが求められている。また「自助游」という個人の旅も人気でバックパッカーの姿もよく見かける。

中国には百年以上の歴史が保存されたおよそ四万七〇〇〇の古鎮があるという。本書でとりあげられているのは世界遺産の少数民族の町麗江、城壁都市の平遥をはじめ長江流域の水郷群、諸葛孔明末裔の村、天文学でできた集落、疑西洋風の華僑の故郷など日本ではあまり知られることのないユニークな被写体が多い。中国映画の名作『芙蓉鎮』の舞台も掲載されている。文化大革命を挟んで、湖南省のこの町の豆腐屋にふりかかる波乱の物語だ。石段の街並の映像からは、古き中国の香りが伝わってくるが、政治の嵐の中で人は憎しみ、傷つけ合う、重い空気が充満した閉鎖的な場所だったと想像する。

加速度で変貌する中国でも意外に古い街区が維持され、復元されていたりする。かつて紅衛兵から反動遺物とし破壊された宗教や民間伝承などの文化は復活し、そそり建つ高層ビルとの共存が不思議な光景を見せている。市場経済をとり入れ、マルクス主義の求心力が弱まった中国で、為政者は中華文明を誇示し「愛国」をその精神的支柱としているかのようだ。古鎮の旅で人びとは、都会の喧噪から逃れて懐かしさに浸り、民族の自信を回復しているようだ。

そんな斜め読みのできる写真集ではあるが、クラシックな色調で撮られた古鎮は美しく、旅心をくすぐられる。【評者 写真家 中川道夫】

■2007/06/02, 週刊東洋経済

Edit

 
Copyright (C) 2004-2006 Ambitious Kanda, All Rights Reserved.