メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年6月16日~6月23日

未完の明治維新
未完の明治維新坂野 潤治

筑摩書房 2007-03
売り上げランキング : 51672

おすすめ平均 star
star政治的動員を巡る意外な史実
star感動すら覚えました

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近代国家樹立への苦闘を英雄たちの内面から迫る

明治維新直後、政府内部は、強兵派、富国派、憲法制定派、民選議会設立派に分かれて争っていた。このように分裂した中で、なぜ近代国家樹立の偉業が達成できたのか。本書は、幕末の政治思想、維新の英雄の内面に踏み込みながら、この謎に迫る。

維新には、その初期から、尊皇攘夷論ではない、政策論があった。力に裏打ちされた欧米列強との対等開国論である。そのためには近代化、すなわち、西洋学術の教育普及、国防のための軍艦建造、その費用捻出のための殖産興業、富国政策が必要だ。議会の設置も、日本の挙国一致ぶりを欧米列強に示すために必要とされていた。

幕末にすでに議会論があったが、政府は幕府と薩長軍が戦って決めるしかなかった。薩長が勝って維新政府ができた。富国と強兵のためには資金がいる。しかし、その資金はどうするのか。財政の健全化こそが国の独立だという議論も生まれる。

維新の計画では、国防のための強兵だったが、薩長軍は国内の戦いでその力を示す。薩長兵の武力によって廃藩置県が可能になったが、薩長の兵力は1万にも満たなかった。本題からはそれるが、1万の兵力で各藩の反対を抑え廃藩置県ができたことになる。封建制の軍隊動員力は低いものだ。徴兵制が必要なことを封建武士だからこそ理解できたのではないか。

明治初期の征韓論を処理した後、大久保利通は富国路線に戻る。本書は、地租軽減や模範工場の払い下げなどを富国路線の挫折と見るが、むしろ、減税と民営化策の成功ではないか。現実に、その後日本は順調に工業化するのだから。

西郷隆盛をはじめ、維新の英雄たちは日本近代化の計画を持っていた。西郷は強兵を主眼とし、大久保は政府主導で富国を目指し、木戸孝允は中央集権政府の恣意的な権力行使を抑えるための立憲制を重視し、板垣退助は中央集権政府の抑制を議会に求めた。

優先順位や方法の違い、人間としての肌合いの違いなどから対立していくドラマも圧巻である。西郷が意外にも近代的な政策思想を持っていたことは発見だった。伊藤博文と大隈重信を比較しての人物論なども面白い。専制政府は増税をしにくいものという指摘も新鮮である。

革命指導者にとって明治維新は未完の革命であったが、主人公を抜きにして成果だけを見れば、維新の英雄たちが望んだ強兵、富国、立憲、議会は、日清戦争勃発の前には実現していた。しかし、と著者は言う。そこに維新の英雄たちが考えていた重さはない。その意味で、彼らにとって、明治維新は永遠に未完のものだったと。【評者 原田泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2007/06/23, 週刊東洋経済

人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか
人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか水野 和夫

日本経済新聞出版社 2007-03
売り上げランキング : 866

おすすめ平均 star
star少し読み辛いが内容はなるほど・・・
starグローバリズムとは「国家」からの解放なのかと、ふと思う
star資産運用を行っている人に必読の書

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世界経済、数百年に一度の構造変化を骨太に分析

構造改革という言葉が流行語になった割には、多くの人々は世界経済が数百年に一回の大きな構造変化の真っただ中にあるということを意識していないようだ。水野和夫氏は数年前からこの点を強調し、『一〇〇年デフレ』『虚構の景気回復』などの著作を発表してきた。本書はこうした著作の一つの終着点であり、幅広い視野で明確に21世紀論を展開している。

こうした構造変化にもかかわらず、歴史的視野を持たない多くのエコノミストがもう通用しなくなった過去の経済理論を振り回し、的外れな政策提言を繰り返していることには評者もへきえきしているが、水野氏が「1995年を境に戦後経済の常識の多くが通用しなくなった」と述べているのは、まったくそのとおりであろう。

水野氏は新しいグローバル経済の特色を「帝国化」と「二極化」という概念でとらえる。「帝国化」はいわゆる主権国家がグローバリゼーションによってかつての機能を失い、国境を越えた新たな企業集団や経済統合が進んでいることなどに示されている。

これはジァンマリー・ゲーノやスーザン・ストレンジなどによってすでに1990年代から指摘されていたところである。

水野氏は「帝国化」に「二極化」という概念を重ねて世界経済を分析する。つまり、グローバリゼーションと「帝国化」に適応して国際的に活躍する企業や個人と、国内から出られない企業や個人との間に大きなギャップが生じるというのだ。

この「二極化」は国際経済でも国内経済でも起きている。いわゆる格差の問題もこの「二極化」の一つの現象だろう。「帝国化」と「二極化」以外にもいくつかの新しい概念が提示され、極めて知的に刺激的な内容になっている。【評者 榊原英資 早稲田大学教授】

■2007/06/23, 週刊東洋経済

戦場に舞ったビラ――伝単で読み直す太平洋戦争
戦場に舞ったビラ――伝単で読み直す太平洋戦争一ノ瀬 俊也

講談社 2007-03-09
売り上げランキング : 57899

おすすめ平均 star
star意外なエピソードも
star宣伝ビラを通じて見えてくる太平洋戦争の実像

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戦争の姿がよくわかる日米中の情報戦争

伝単。敵への降伏や戦意の喪失を意図した「謀略宣伝ビラ」のことである。

本書は、日中戦争と太平洋戦争期に、両軍によって散布された伝単が証言する裏面史である。その伝単の量はすさまじい。日中戦争関係だけで70から80種類、数百万枚の伝単が作られ、一方、八路軍の伝単も、華北で83万枚、華中で20万枚に及んだ。伝単には必ず「投降票」が付いていた。両軍とも、できれば戦わずに敵兵を投降させて自軍の消耗を防ぎたかったからだ。

日本軍がバラまいた伝単があまりにも独り善がりのことを書いていたために、物笑いの種となり、八路軍からもっと送れという紙片が届いたという。

太平洋戦争になると、日本の大本営参謀本部の伝単部も「知米の士」や探偵作家の助言を仰ぐほど本格的な態勢になり、包囲された味方を鼓舞するためか、あるいは包囲軍の士気を阻喪させるためか「援軍の到着」などの伝単を盛んに送った。戦争末期になると「天王山」「決戦」などといった勇ましい言葉が散見する。これでは次第に味方からも信用されなくなる。

一方、戦況が悪化するに従い、日本軍の占領地、さらに本土での制空権すら失うにつれて、米軍は空爆の際に伝単を散布したが、孤立した部隊は自分たちや故郷の情報を求め、また日本語への懐かしさ、望郷のあまり上官の眼を盗んで入手した。しかし、この紙爆弾も、なんと用便紙として使われたという。

それにしても、米軍の伝単は数が圧倒的に多く、しかも実に的確な情報であった。事実、在米日本人の筆による伝単もあった。

たとえば、1942年、B25が散布した木の葉模様「桐一葉」伝単には「落つるは軍権必滅の凶兆なり 散りて悲哀と不遜ぞ積るのみ」と書かれている。【評者 川成洋 法政大学教授】

■2007/06/23, 週刊東洋経済

正義の罠 リクルート事件と自民党 二十年目の真実
正義の罠 リクルート事件と自民党 二十年目の真実田原 総一朗

小学館 2007-05-31
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「川崎市の助役がリクルートからリクルートコスモスの未公開株をもらった」――1988年、朝日新聞のスクープ記事が、その後100名を超える政官財界大物たちへの未公開株譲渡=戦後最大の疑獄事件に発展する。

江副浩正氏など多くの逮捕者が出て、最後は未公開株をもらった道義的責任を取って当時の竹下登首相が辞任する。

その後の経世会分裂と小沢一郎氏率いるグループの自民党離脱と政権交代につながる大事件だった。

だが、著者は、事件当時の東京地検特捜部の担当検事、リクルート社幹部、弁護団、自民党代議士、新聞記者など関係者たちを取材するうちに、筆者は、「これは冤罪事件ではないか」

「検察によって作られた犯罪」という確信を強める。

検察が世論に迎合して、一つのシナリオを作り、事件にしていく。これを新聞が応援する。こうした「国策捜査」の原型がリクルート事件にあるという。

■2007/06/23, 週刊東洋経済

金子勝の仕事道!―人生を獲得する職業人
金子勝の仕事道!―人生を獲得する職業人金子 勝

岩波書店 2006-09
売り上げランキング : 118352

おすすめ平均 star
star金子氏の反骨精神

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人を使い捨てる時代に、人はいかにして成長するのか。これが本書のテーマである。著者が各界の12人にインタビューし、彼らが仕事の中で何かを求め、もがき、壁を壊そうとしている姿を描き出す。林家正蔵(噺家)、天木直人(元レバノン大使)、串岡弘昭(会社員、トナミ運輸の談合を告発)、林葉直子(元棋士)ら多彩な顔ぶれだ。

林家は先代の伝統を踏まえて自分のカラーをどう作るかに悩み抜く。「いつも風が吹いている場所にいようと思います。そうでないと落語がカビくさくなってしまいますから」。

米国に憧れて外務省に入った天木は、米国の中東政策の誤りとそれに追随する日本外交に直面する。イラク戦争直前に小泉首相に政策の見直しを求め、外務省と訣別した。

働く意味を見いだせないと悩む人は少なくない。本書の生の声に一つの答えがある。各章の冒頭には著者の問題意識が書かれ、読み方にヒントを与えている。

■2007/06/23, 週刊東洋経済

アステカ・マヤ・インカ文明事典
アステカ・マヤ・インカ文明事典エリザベス・バケダーノ

あすなろ書房 2007-04
売り上げランキング : 154162


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コロンブスの新大陸到達の1492年こそ、後に「インディアス」と呼ばれた「新世界」にとって悲しい崩壊の運命を引き受ける年であった。

インディアスを「エル・ドラド(黄金郷)」と見なしたスペイン人が火器と馬で武装し、壮大な文化と栄華を誇ったアステカ王国、インカ帝国、マヤ王国を瞬く間に制圧し、植民地にしたのだった。

このスペイン人の理不尽な侵略によって、「陽の沈むことなき大帝国」スペインを建設するが、それには、決まってカトリックの宣教師がその尖兵を務めていた。

インディアスがスペインから初めて独立を勝ち取ったのは1810年、最後の植民地キューバが独立したのは1898年だ。

インディアスの文明は、破壊されたとはいえ、このときさながらフェニックスのごとくよみがえった。民族の文化は永遠なり。本書は、これをヴィヴィッドに解説している。

■2007/06/23, 週刊東洋経済

ミステリドラマで英語リスニング―ハードボイルド・ストーリー
ミステリドラマで英語リスニング―ハードボイルド・ストーリーDHC出版事業部編集部

ディーエイチシー 2007-04
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本書は、1950年代のアメリカでラジオ放送された「ハードボイルド・ストーリー」二話を収録している。この作品は、フリーランスの保険調査員ジョニー・ダラーが、殺人がらみの保険の調査を依頼されて、「事件」を解明するという設定である。

「ミルフォーコード・ブルックス3世事件」は、ある若者にかけられた高額の保険金。若者は自殺をちらつかせ、保険会社に金を要求する。しかも保険の受取人はハッチャーというギャンブラーに名義変更されていた。怪しげな事態の中、若者が死なないよう、監視を依頼されたジョニーだったが……。

「ヴァージニア・ビーチ事件」 は、ある女のボディガードを務めてほしいという保険会社からの依頼。その女のボーイフレンドは、翌日予定の刑務所から出所後、その女を殺害すると宣言していた。ボディガードは本業ではないものの、ジョニーはさっそく女のもとへ足を運ぶ。

■2007/06/23, 週刊東洋経済

キャパ その青春
キャパ その青春リチャード・ウィラーン 沢木 耕太郎

文藝春秋 2004-03-12
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おすすめ平均 star
star天才の周りには天才が・・・
star天才の周りには天才が・・・
star乱世の英雄

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キャパ その戦い
キャパ その戦いリチャード・ウィーラン 沢木 耕太郎

文藝春秋 2004-04-07
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おすすめ平均 star
star天才の周りには天才が・・・
star天才の周りには天才が・・・
star乱世の英雄

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キャパ その死
キャパ その死リチャード・ウィーラン 沢木 耕太郎

文藝春秋 2004-05-12
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おすすめ平均 star
starかえってリアル
star天才の周りには天才が・・・

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20世紀を代表する報道写真家・キャパの生涯を描く

ロバート・キャパは、20世紀を代表する報道写真家である。スペイン市民戦争、日中戦争、第2次世界大戦、第1次中東戦争、インドシナ戦争の五つの戦争を報道したが、特に1936年9月スペイン・コルドバで撮影した「崩れ落ちる兵士」は多くの人々の脳裏に焼き付いている歴史に残るショットである。

リチャード・ウィーラン著『キャパ その青春』『キャパ その戦い』『キャパその死』の三部作(いずれも文春文庫)は、その波乱の人生を追う。

この本の訳者は作家沢木耕太郎氏。英語が得意でない、という沢木氏は約2年もかけて悪戦苦闘の末、翻訳を完成させたというが、さすが優れたルポルタージュ作家の手になっただけに非常に読みやすい文章になっている。

沢木氏の手になる各巻末の「原注、訳注、雑記」は新しい試みの解説で、キャパの人物像を浮き彫りにする。

『キャパ その青春』では、誕生から36年の「崩れ落ちる兵士」までの青春期を描いている。キャパが過ごした大戦期間のハンガリーの政治、社会状況が生き生きと描写されている。ユダヤ人であること、共産党の同調者であることで、キャパは迫害を受ける。

ハンガリー、ドイツ、フランスを転々とするキャパは、映画への夢を持っていたが、34年から報道カメラマンとしての道を歩むことになる。

そして、36年9月、スペインで名声を不動のものとする瞬間に出合う。しかし、このショットは本物か、偽物か、つまり「やらせ」ではないかという論争があり、沢木氏も疑念を持っているようだ。

『キャパ その戦い』はキャパ23歳から30歳までを描く。報道カメラマンとして、戦場から戦場の生活だった。

『キャパ その死』はノルマンディー上陸からベトナムでの最期までを描く。沢木氏は、「キャパの写真は戦場での写真とそれ以外の写真の差が大きい」と指摘する。戦場以外での写真は、月並みだという。キャパは戦争を嫌悪していたが、そこでしか傑作を撮れなかったのだ。

■2007/06/23, 週刊東洋経済

現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門
現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門加藤 涼

東洋経済新報社 2006-12
売り上げランキング : 94934

おすすめ平均 star
star経済政策の企画立案を志す全ての人へ
starDSGEの入門に最適だが、誤植に注意
star世界標準のマクロ経済学=Dynamic General Equilibrium

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日本の現代マクロ経済学への理解を前進させる著作

日本語オリジナルの現代マクロ経済学の教科書は二つの興味深いバイアスをもつことが多い。一つは日本の学界と論壇におけるマクロ経済学の現状への認識の遅れを正すために生まれたものであり、もう一つは日本の「失われた10年」という長期大停滞という政策問題への立ち位置によるものである。

前者は日本の経済論壇でままみられる「ルーカス批判」への無理解によるものである。「ルーカス批判」とは大まかには、人々の経済行動のルールが変わってしまうと、既存の安定的な経済法則を前提にした経済政策の評価が通用しなくなることを意味する。日本で一時期流行した「合理的期待形成学派」批判という意味のない議論によって、「ルーカス批判」がマクロ経済政策の無効化命題としてすり替えられてしまったことがある。

今日でもこのような主張に立脚した「主流派経済学」批判に魅かれる人は多いが、おそらく現代マクロ経済学の基礎である「ルーカス批判」を理解してのものではないだろう。本書はまず現代マクロ経済学の基本中の基本である「ルーカス批判」の意義を丁寧に説明し、「ルーカス批判」を回避するためのミクロ的基礎をもった現代マクロ経済学の主要トピックスを手際よく解説する。その講義の調子は非常にこなれたもので、また数式の展開やいくつかの注意書きも優れたものである。本書の基本的構成は、すべての現代マクロ経済学は、「実物景気循環理論」(RBC)という共通のピザ生地の上に市場の不完全性などのさまざまなトッピングを配した共通のモデルを基に議論されているものであり、これまた日本の経済論議や授業などで頻出するケインジアン対マネタリスト(あるいは新古典派経済学)という考え方は誤った二分法である、と断罪している。

このような極端な主張は分析用具として経済学をとらえたときには正しい。しかし分析用具の共通性が必ずしも価値判断や現実認識の差異を解消することにはならないことに本書はわりと無頓着である。

また「失われた10年」という政策問題に積極的にコミットした内容になっており、主に「市場の失敗」という仮説に限定してコンパクトに書かれている。ただしそのことが本書の短所にもなっている。「政府の失敗」(たとえば日本銀行の失敗)という説明を「十分理解できる考え方」であるとしながらも著者自身の立場を省略していることである。共通のピザ生地の上に立つことを謳った本書の趣旨からも惜しいことである。いくつかのバイアスはあるが、日本の現代マクロ経済学の理解を大幅に前進させた努力を評価したい。【評者 田中秀臣 上武大学ビジネス情報学部准教授】

■2007/06/16, 週刊東洋経済

夕張問題
夕張問題鷲田 小彌太

祥伝社 2007-04
売り上げランキング : 17664

おすすめ平均 star
star夕張問題は夕張のせいだ。
starリアルな夕張論を展開
star他岸の火事ではない、自治体破綻。

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夕張市破綻の遠因と再生の萌芽を分析

夕張市が財政再建団体に移行することを表明してから1年が経つ。この1年間、「夕張問題」は「夕張ショック」という形で地方債市場に動揺をもたらしただけでなく、メディアを通じて広く一般の関心を集めてきた。だが、これまでの報道の中には情緒的な現地報告や声高な批判に終始したものも少なくない。

本書はそのような論調とは一線を画し、一歩引いたところから、夕張市の破綻の原因と再生に向けた展望を論じている。

夕張がなぜ今日の状況に立ち至ったのかを解明するためには「夕張市の固有な歴史にまでさかのぼって考察しなければ、解答を見いだすことはできない」と著者は言う。その歴史は「日本の南北を分ける石炭の雄」としての輝かしい過去であり、「炭鉱」が「観光」に変わっても「石炭」は夕張の中心であり続けてきた。夕張は「石炭があるときも、なくなっても、産炭地振興対策にぶら下がり、石炭が消え始めたら、借金に依拠した過大な観光事業にぶら下がってきた」のである。だが、旧産炭地に対する国の支援策が終了し、地方財政改革が進展する中で、夕張市は「必然的に」破綻を迎えることとなった。

先の見えない夕張だが「ひょっとすると、夕張は見事に立ち直るかもしれません」と著者は言う。夕張には「石炭にも観光にも、国にもそして夕張市役所にも依拠しない」もうひとつの顔、夕張メロンに代表される自立した農産地としての「夕張」があるからだ。

著者が指摘しているように、夕張はたしかに特異な例なのかもしれない。だが、国の補助に依存した「パラサイト自治体」は全国各地にある。地域間格差の問題に関心が集まる中、地域や自治体の今後のあり方を考えるうえで、本書は有益な一冊となっている。【評者 中里透 上智大学経済学部准教授】

■2007/06/16, 週刊東洋経済

表舞台 裏舞台──福本邦雄回顧録
表舞台 裏舞台──福本邦雄回顧録福本 邦雄

講談社 2007-04-10
売り上げランキング : 6862

おすすめ平均 star
starいつもながら伊藤隆、御厨貴の「隆・貴コンビ」の本は面白すぎ

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著者は政界最後のフィクサーと呼ばれた人物。そうした貴重な情報を握るキーマンが生きている間にアーカイブを取ろうと、伊藤隆・東京大学名誉教授と御厨貴・東京大学教授がインタビューを行った。  

福本邦雄氏がすべてを語った3年間19回に及ぶ迫真の証言録であり、60年安保からバブルに差しかかる中曽根政権、竹下政権に至る政治、経済の裏面を余すことなく書いており、一気に読むことができる。

著者は戦前の日本共産党の指導者、福本和夫氏の長男。東大経済学部を卒業して産経新聞社に入社。保証人は父親の共産党時代の「元部下」水野成夫氏(産経新聞社長、フジテレビ創業者)だった。

岸内閣で椎名悦三郎官房長官の秘書になり、政界との関係が深まる。その後竹下登首相の金庫番とも呼ばれた。その竹下首相の母親は、福本和夫氏に心酔していた。華麗な人脈の中で、著者は政治、経済の世界を泳いでいく。

■2007/06/16, 週刊東洋経済

ここがおかしい日本の人事制度―職務給制への転換
ここがおかしい日本の人事制度―職務給制への転換風早 正宏

日本経済新聞出版社 2007-05
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日本の人事制度は大きな転換点にある。高度成長期を彩った年功序列終身雇用制度から米国型の職務給制度へ。だが、転換が終わったわけでなく、旧制度と新制度が入り交じった過渡期にある。この中で本書は現在の日本の人事制度と雇用制度、報酬制度、労働市場の流動性において「おかしい」と思われる点や問題点を分析し、その解決策を考えたもの。

著者によると、経済成長率が5%以下に下がると、終身雇用は維持できない。としたら、高度成長期にできた年功序列終身雇用制度をどう変えるか。参考になるのは、仕事の報酬の決め方にある。米国の職務給制の実態と、それが生み出す活力を解説する。

著者は日本メーカーに13年間勤務した後、米国に移住してコンサルタント会社に26年間勤務した。日本の人事制度と米国の流動的な人事制度の両方を知る著者の解説は参考になる。明日の日本企業の人事制度を知るための必読書。

■2007/06/16, 週刊東洋経済

少女の記録、あの頃――1935~1945.8.15 & 2001.9.11
少女の記録、あの頃――1935~1945.8.15 & 2001.9.11川島 敦子

講談社 2006-08-04
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著者は戦前戦中を主に名古屋で過ごし、小学校入学から毎日、日記を書きつづっていた。現在、ニューヨーク市立大学で教鞭を執る著者が、当時の日記を基に様子を再現した。冷戦終了後も戦火の絶えない状況を憂慮して、平和の大切さを訴えるために戦時下の暮らしをつづったのだ。

本書により当時の平均的な日本人がどんな生活を強いられてきたのか、それがいかに過酷で理不尽なものであったかがよくわかる。太平洋戦争終結の日など、歴史に残る「あの日」がひとりの少女の目を通して浮かび上がる。日記には詳細な挿絵も描かれていて、当時の様子をリアルに伝えてくれる。

著者は本書を執筆しながら、衣食住は貧しくても、当時は家庭にも地域社会にも愛があふれていたと実感したという。確かに両親の娘(著者)に対する献身的な愛情や地域の人たちの思いやりの深さは感動的。戦記物ではないが、戦争の本質が見えてくる一冊。

■2007/06/16, 週刊東洋経済

謎解き広重「江戸百」
謎解き広重「江戸百」原信田 実

集英社 2007-04
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おすすめ平均 star
star浮世絵にも、ダビンチコードが・・・・・・謎解きが
star斜めに構えた、癖のある見方
star文字通り

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オランダのゴッホが模写したことでも有名な広重の最後の大作『名所江戸百景』の絵といえば、なんといっても、「大橋あたけの夕立」と「亀戸梅屋舗」であろうか。

この「四季に彩られた江戸の名所」を描いたといわれた『江戸百』は、本書によると、広重がメッセージを残している、というのだ。

1854年11月、安政東海・南海地震が起こった。マグニチュード7・3といわれる巨大地震である。この地震は、広重の『江戸百』の連作開始の3カ月後であった。当然、広重にとって最大の関心事であったろう。だが、それを画題にしたら罰せられる。そこで、広重は、自分の制作意図をカムフラージュするために、「近景に、ここがどんな場所か示す図像を描き、遠景に自分たちの関心の対象を描く」という構図を採用している。

本書では、30枚の謎解きを試みている。もちろん、歴史的事実との比較も忘れてない。

■2007/06/16, 週刊東洋経済

シーア派―台頭するイスラーム少数派
シーア派―台頭するイスラーム少数派桜井 啓子

中央公論新社 2006-10
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おすすめ平均 star
star本当にシーア派のことがわかるようになります。
star興味深いシーア派からの見方
starシーア派に関する概説書

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シーア派の自画像―歴史・思想・教義
シーア派の自画像―歴史・思想・教義モハンマド・ホセイン・タバータバーイー 森本 一夫

慶應義塾大学出版会 2007-03
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シーア派イスラーム―神話と歴史
シーア派イスラーム―神話と歴史嶋本 隆光

京都大学学術出版会 2007-04
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シーア派の自画像―歴史・思想・教義
シーア派の自画像―歴史・思想・教義モハンマド・ホセイン・タバータバーイー 森本 一夫

慶應義塾大学出版会 2007-03
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イラン、イラクを動かすシーア派とは何か

イマームへの熱情と日常の問題解決の知恵

イスラム教には多数派のスンニ派と少数派のシーア派があることは、連日のイラク、イラン情勢に関する報道により、日本でも知らない人がいないほどの「常識」になっている。

だが、イスラム教シーア派とは何かとなるとそれほど理解が深まっているわけではない。その中で桜井啓子著『シーア派』(中公新書 2006年)は格好の入門書だが、このほど、より専門的だが、わかりやすい本が刊行された。イランのイスラム法学者が書いた『シーア派の自画像』(慶應義塾大学出版会 07年)である。

原書はペルシャ語ではなく英語で書かれている。1975年にニューヨーク州立大学から刊行された本を東京大学東洋文化研究所の森本一夫准教授が翻訳したもの。訳文もこなれていて読みやすい。

著者のモハンマド=ホセイン・タバータバーイー師(1904年~81年)はシーア派の聖地ナジャフ(イラク)で学び、コム(イラン)で教えた典型的なイスラム法学者である。

シーア派(ここではイラン、イラクの多数派である12イマーム派のシーア派)の歴史、思想、教義を述べている。シーア派とは決して狂信的な教義ではなく、最初から理性、哲学を重視した宗派であることが述べられている。

神の本質と属性、人間と自由意思の問題の記述を読むと、ユダヤ教やキリスト教の神学論と共通していることを痛感させられる。

第7章「イマーム」の章では、シーア派が信奉する12人のイマーム(ムハンマドとアリーの子孫でイスラム教徒の統治者)の簡単な略歴と時代背景がわかる。ほぼ全部のイマームが対立するウマイヤ朝やアッバス朝のカリフにより迫害され、暗殺されるという凄惨な歴史も書かれている。

付論では、シーア派がスンニ派から絶えず批判される教義であるタキーヤ(シーア派の信仰を隠して、多数派のスンニ派社会で生き延びる知恵)やムトア(期限を定めた一時的な結婚)についての弁明が述べられている。

特にスンニ派から見ればムトアはイスラム教が禁止する買売春そのものであり、現代でもアルカイダ系の原理主義者がシーア派を攻撃する最大の対象になっている。

イラクのアルカイダを名乗るグループのインターネット上の声明(音声)を見ると、ほとんどの時間をシーア派への攻撃、特にムトアの批判に充てている。米軍批判は付け足しのような時間しかない。

だが、著者は一時婚の必要性を述べる。

「永続的な婚姻にはあらゆる人間(男性)の本能的な性的欲求を満たすことができる訳ではなく、この問題に関し何らかの解決策が必要である」

「イスラム教は人間に関する問題解決の法律体系」(小杉泰・京都大学教授)といわれるが、特にシーア派は人間の本質を見据えて、それから逃げていないように思える。

嶋本隆光著『シーア派イスラーム』(京都大学学術出版会 07年)はイランの歴史を中心にイスラム教シーア派を解説する。著者は大阪外国語大学教授で、イスラム現代思想を専門とする。シーア派を理性とパトス(イマーム殉教の神話)の両面から幅広く分析している。

イスラム教シーア派の中でも過激な法学者・ホメイニ師が提唱した「イスラム法学者の統治」理論が、理性と科学が支配するはずの20世紀後半のイランで、なぜ隆盛したのか。こうした数量化と同時に「神話化」も進む複雑な現代社会の分析が鋭い。

■2007/06/16, 週刊東洋経済

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