メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年5月19日~5月26日

リバタリアン宣言
リバタリアン宣言蔵 研也

朝日新聞社出版局 2007-02
売り上げランキング : 41641

おすすめ平均 star
star全くの初心者には良いと思う
star共産主義に似た生硬さ
starアンチ・リバタリアン宣言

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自由の制限は非効率的であるばかりか、非道徳的だ

リバタリアンとは自由を極端に重要なものだと考える人たちだ。本書は、人間の自由の制限は非効率的であるばかりでなく、非道徳的であると主張する。

自由の制限が非効率的であるとは、経済学的思考を見聞きしたことのある人々にはなじみがあるだろうが、それが非道徳的であるという思想にはなじみが少ないだろう。自由市場が効率的であるとしても、それは時として非倫理的であり、何らかの政策介入によって、その非倫理性が矯正されなければならないというのが、日本においては通常の考えであるからだ。

小さな政府には経済効率などと比べ物にならない重要な意義がある。それは個人の自由だと著者は言う。多くの人間にとっては、経済的に成功するのは自己実現の手段であり、幸福追求の権利の最も大きな要素だ。知的自由や芸術表現の自由は、限られた人々のものであることを免れない。手紙や葉書の配達を禁止するのは、職業選択の自由を侵しているという。

年金や医療保険制度にも著者は反対する。人々は愚かしい行為をする「愚行権」を持っているとも主張する。著者は、実際的問題についても一部は答えを与えている。医師免許制度を民営化しても、アメリカの医者と日本の医者、またはドイツやフランスの医者程度の違いにしかならないだろうという。

公的年金制度についても、現行制度の欠陥を指摘する。高所得者の寿命が長く、低所得者の寿命が短いことを考えれば、年金制度が低所得者のためのものだとはとうてい言えないと指摘する。さまざまなことに国がきちんと対応しなければならないという、「クニガキチント」思想が誤りであるとは納得できる。

リバタリアンはナショナリズムも危険とみなす。ナショナリズムは初めに民族ありきで、どの民族に属するかが行動の基準となる。これが個人の自由に反するのは明らかだ。したがって、民族主義教育にも少数者の自由の侵害として反対する。

リバタリアンになるとは勝手に生きることではない。アイン・ランドの小説にある、人間は自分自身の価値観と、それを達成するという目的を持ち、その実現のためにのみ生きるべきで、他人の価値観に依拠した人生を送るのは中古の生き方をすることだという哲学を紹介する。ランドの大部の小説が、アメリカでは熱狂的に迎えられているが、日本ではわずかな読者を獲得しただけだろう。

本書の帯の推薦文は的外れだし、リバタリアンの哲学が日本で広く受け入れられる見込みは小さい。その中で、自由の価値を伝えたいという著者の意気込みに感銘を受ける。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2007/05/26, 週刊東洋経済

石油を読む 第2版―地政学的発想を超えて
石油を読む 第2版―地政学的発想を超えて藤 和彦

日本経済新聞出版社 2007-02
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おすすめ平均 star
star大幅な改訂版

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世界の石油と天然ガスのまっとうな解説書

日本は世界第3位の石油消費国ではあるが、世界の石油・天然ガス市場・産業の中心ではない。石油・天然ガス産業の中心は上流(開発・生産)部門であり、これはやはり産油国ないし産ガス国である。また原油価格を決定する先物市場はニューヨークにある。したがって重要な石油・天然ガス関連情報は、主として海外から外国語で入ってくるのだが、問題はそれらが日本語に変換・編集される過程で、しばしば一部の見解等が強調される一方で、全体像がぼやけるなど、質が大幅に変化してしまう、ということである。

そして日本人の多くが、そのように加工された情報に踊らされがちとなり、結果として誤った認識を持ってしまう場合が少なくない。たとえばロシアのウクライナへの天然ガス輸出停止に関して、ロシアだけを悪者扱いするといった国際政治的な見方のみが幅を利かせ、両国の経済的紛争という側面が脱落してしまう、という具合である。

そんな日本での世界の石油・天然ガス情報の扱われ方にある種のどんよりとした失望感を覚える状況の中、一筋の光を注ぎ込んでくれたのが本書である。 

中東諸国等における地政学的リスク要因や、原油先物市場への大量の投資資金等の流入、石油資源確保のための中国国営企業の国外進出などを含め、過不足のない事項について適切な説明を加え、世界石油・天然ガス情勢に関する全体像を簡潔かつ明瞭に描写するとともに、そこにおける日本の位置付けや今後進むべき道につき提言を試みている。また、その記述の随所には、エネルギー行政等に長年携わってきた筆者の冷静な分析力がいかんなく発揮されている。その意味で、本書は日本で数少ない「まっとうな」世界の石油・天然ガス市場・産業解説書としてお薦めすることができる。【評者 野神隆之 石油天然ガス・金属鉱物 資源機構上席エコノミスト】

■2007/05/26, 週刊東洋経済

江戸の遺伝子―いまこそ見直されるべき日本人の知恵
江戸の遺伝子―いまこそ見直されるべき日本人の知恵徳川 恒孝

PHP研究所 2007-02
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おすすめ平均 star
star「封建社会」ではない「江戸」の発見で大感激です!
star江戸という時代を見直す良書

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現在に生きる江戸の遺伝子 平和と繁栄の根源がある

1988年にピーター・ドラッカーが書いた『新しい現実』の中に「近々ソ連は必ず崩壊し、東西の冷戦構造は終わりを告げることになるが、その後は殊に東側の国々は旧来の枠から外され民族・宗教の対立により数多くの国家が成立し、その民族・宗教の紛争により厳しい対立が相次いで二十一世紀は大変混乱した世紀になるだろう」とある。世界は彼の予言どおりになっている。全世界で民族間や宗教間の惨劇が絶えない。

このような惨状が世界各地で勃発し、行く末に心を悩ませたときに徳川恒孝氏の書いた『江戸の遺伝子』に遭遇した。まず二五〇年にわたり平和が続いたことをあらためてかんがみれば誠に不思議で、諸外国においてもフランス大革命をはじめさまざまな大変革が続いた時代にもかかわらず日本が長く平和であったのは奇跡に近い。

これはやはり徳川代々の将軍の優れた為政によるところが大きいのではないか。本書の著者、徳川氏は江戸時代は評判が悪い時代であったと謙遜しておられるが決してそうとは思えない。学問・文化を筆頭に世の中の秩序等も巧みに運営されていた時代だと思う。

それは武士と町民の微妙な組み合わせ、優れた文化の台頭、儒教を基本とした思想といったものが、絶妙なバランスを取りながら成長したためであろう。幕末に至り諸外国の攻勢が開始された難局を見事に解決したのは、江戸時代の優れた教育を受けた若者たちの働きにあった。

内外の歴史学者が明治維新は奇跡の無血革命と言っているがこれは奇跡ではなく江戸時代の教育の成果によるものと思う。 本書はこのように日本人の誰もが持ち合わせているはずの「江戸の遺伝子」を、極めて巧妙に説明し再確認させてくれる非常に有益な本である。【評者 奈良久彌 三菱総合研究所特別顧問】

■2007/05/26, 週刊東洋経済

プロ脳のつくり方
プロ脳のつくり方塩野 誠

ダイヤモンド社 2007-04-20
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おすすめ平均 star
star学生向き。
starビジネスマンとしての武器を提供してくれる
star20代前半ビジネスパーソンにお勧め

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著者はライブドア証券元副社長。大学卒業後、シティバンク、ゴールドマンサックス、ベイン・アンド・カンパニーと名だたる外資系大手を経てライブドアに入社した。弱冠32歳だが、ニッポン放送株買収で村上ファンドとの交渉窓口になるなどの役割を果たした重要人物である。

シュレッダーされた紙片を数日かけてのりでつなぎ続けた逸話など、本書からは投資銀行業務や企業コンサルに携わっていたころの現場の泥臭さがひしひしと伝わってくる。「原典・現場・生データに当たる」「データを疑う」などの話は、新人記者の育成に使えそうだが、「悪魔の弁護人になる」「ストックホルム症候群を作り出す」など、本書には業種を問わず、頭に入れておくべき問題解決のツールとコンセプトが満載。

随所に著者の独創性が光るが、惜しむらくはライブドア時代のこぼれ話がないこと。将来にとっておきたのか、それとも過去と決別したからなのかは不明だ。

■2007/05/26, 週刊東洋経済

暗号事典
暗号事典吉田 一彦 友清 理士

研究社 2006-12-15
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おすすめ平均 star
star暗号全般の好個の参考書:惜しいかな詰めが甘い
star一線を越えた待望の書

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かなり前の話だが、アラン・ストリップ著『極東の暗号解読』によると、第2次世界大戦直前の在英日本人外交官が急いで書いたと思われる、なぐり書きの文体を、当時のイギリスの秘密情報部は実に正確に判読していたのだった。これでは、日本側の情報はまったく筒抜けであっただろう。

欧州における第2次大戦は、まさにドイツの解読不可能と思われた暗号「エニグマ」と、それをひそかに解読したイギリスの組織「ウルトラ」との闘いでもあった。しかも、このウルトラの存在は1974年に初めて公開された。

本書は、カエサルの暗号から、量子暗号まで、その仕組みと歴史を詳説した事典形式の「読み物」である。ちなみに、日本の例を挙げるなら、日清戦争と暗号、日本海開戦と暗号、海軍の暗号、外交暗号、陸軍の暗号、第2次大戦期の枢軸国間における暗号協力、アメリカのパープル解読機など、興味深い項目がたくさん掲載されている。

■2007/05/26, 週刊東洋経済

相棒に手を出すな
相棒に手を出すな逢坂 剛

新潮社 2007-04
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「スペインもの」「スパイもの」「極悪刑事もの」「私立探偵もの」「時代小説」など、多彩な作風の逢坂のもう一つの分野。日常的にどこにでもいそうな、少々狡賢い人間の生き様。得体の知れないものや禁制品をひそかに売り歩く風来坊的な男「青柳周六」、40歳くらいの美人の経営コンサルタント「ジュリアンこと四面堂遥」の2人のコンビが繰り広げる軽妙な虚虚実実の駆け引き。警官やこわもてのヤクザを相手に見事な一芝居。だが、いつも、ジュリアンに一歩か二歩、先を越されてしまう青柳。

本書で扱う事件は、浮気調査、麻薬の密売、骨董商の手練手管、ホテルでの賭博の摘発、振り込め詐欺、偽装浮気による離婚など、実際われわれの日常に生起する事柄であるが、逢坂の手にかかると、予想どおりの終わり方をしない。最後の土壇場で、必ずドンデン返しを食らうのだ。そのからくりは憎いほど巧妙。なぜか、2人の主人公に拍手を送りたくなるのだ。

■2007/05/26, 週刊東洋経済

モナ・リザ―私が描かれた理由
モナ・リザ―私が描かれた理由岡 庸子

出窓社 2007-04
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おすすめ平均 star
starモナ・リザさんありがとう
star現代版Bibleです

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『モナ・リザ』といえば、「永遠の美女」とか「理想の女性」といった讃辞が通り相場であるが、正直なところ、よく見るとそれほどの美人ではない。それでは、『モナ・リザ』のモデルとは誰なのか。モデル捜しだけで、何冊かの本ができるという。ところで、本書は『モナ・リザ』自身によって、「私」が描かれた経緯を語らせるという手法を用いて、その謎に迫っている。

本書によると、驚くなかれ、モデルは女性ではなく、レオナルド自身なのだと、「私」は告白する。「私」の左目の横、鼻筋の陰にイボのような突起物がある。この絵が誰かに依頼された肖像画なら、このような突起物を絶対に描き入れないはず。しかも、この突起物こそレオナルドとまったく同じものである。彼も若いときは隠していたが、晩年の自画像にはもう隠さなくなった。

あるがままの自分を受け入れ、自分自身を永遠に残したかったのだろう。不思議な話である。

■2007/05/26, 週刊東洋経済

パリ風俗史
パリ風俗史アンドレ ヴァルノ Andr´e Warnod 北沢 真木

講談社 1999-11
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パリ点描
パリ点描ジャネット フラナー Janet Flanner 吉岡 晶子

講談社 2003-04
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ドイツ軍に立ち向かった20世紀パリ2つの文化運動

何年か前、パリの凱旋門の屋上から整然としたパリ市内を眺めたとき、ハッと気づいたことがあった。あの絶対絶命の状況下でのパリの選択は正しかったのだ、と。

第2次大戦の緒戦期において、侵攻中のドイツ軍に対してフランスはパリの無条件降伏に応じたのだった。パリはフランスだけのものではない。「世界のパリだ」というのがその理由であった。

同盟国イギリスは直ちにフランスの対応に不快感を表明した。果たせるかな、「この戦争で本当にぼろもうけをするのはわれわれだ」とヒトラーが豪語したように、ドイツ軍は略奪の限りを尽くした。資産、芸術、そして人間も。

しかし、パリのほうもひざまずいていただけでなかった。やがて対独レジスタンスが予想外の展開を見せた。その最終的な決着は、コリンズとラピエール共著の名著『パリは燃えているか』(上・下早川書房)に詳しい。実に感動的な話だ。

この戦いが戦後のフランス社会の方向を決めたといっても過言ではない。ともあれ「不滅の都パリ」というべきか。この立ち上がりのモメントとはいったい何か。

私見であるが、これは第2次大戦以前に、しっかりと根を下ろしていた。

揺籃期のパリから1930年までの歴史的エピソードを交えて色鮮やかに描いたアンドレ・ヴァルノ著『パリ風俗史』(講談社学術文庫)は、20世紀の幕あけから第1次大戦に突入するまでのほぼ15年間のフランスが平和と繁栄をむさぼった「ベルエポック」を描写している。

この後の大戦期間のパリは20世紀の文学・芸術における革命的な運動の重要な発地であった。アメリカ人女性記者ジャネット・フラナーが書いた『パリ点描』(講談社学術文庫)は、第2次大戦前夜のパリにおいて、フランス人はもとより、祖国を逃れて憧れのパリに逗留した文人・芸術家との交遊を回想している。この二つの文化運動がドイツ軍の兵器に立ち向かう力となりえたのであった。【評者 阿久根利具】

■2007/05/26, 週刊東洋経済

日本の企業統治―神話と実態
日本の企業統治―神話と実態吉村 典久

NTT出版 2007-02
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大株主支配の会社に注目 日本の企業統治を分析

アメリカの会社は株主重視の経営をしているが、日本の会社はそうではない、という視点から、日本でもバブル崩壊後、コーポレート・ガバナンス=企業統治ということが問題になり、関連した本や論文が次々と出されている。バーリ、ミーンズ以来、アメリカでは、この問題は会社支配の問題として議論され、株式の分散によって大株主がいなくなったところから経営者支配になったと言われてきた。ところが、その後、機関投資家に株式所有が集中するようになったところから、機関投資家による会社支配と関連してコーポレート・ガバナンスということが議論される。

しかし日本では株式所有の問題を抜きにして、会社経営のありかたの問題として企業統治が論じられるのが一般的だ。そこで著者はあらためて日本の株式所有構造を分析し、そこから企業統治の問題を論じていく。

そして発見したのは、日本の上場会社には同族資本家が大株主になっているものと親会社が大株主になっている会社が多く、これらの会社の企業統治がうまくいっているケースが多いということで、具体的に松下電器やトヨタ自動車、キヤノンなど会社名を挙げて興味深く分析している。

もっとも、同族会社でも株式を上場してから時間がたつとだんだん同族支配はむずかしくなるし、そのようなケースは多い。親会社が系列会社の大株主になっているというのは、株式の相互持合いではなく、一方的所有による系列支配の問題であり、同じ大株主といっても同族所有とは次元の異なる問題である。

アメリカでは子会社の株式は親会社が100パーセント所有するというのが普通で、子会社のまま株式を上場するということはない。これに対し、日本では親会社の株式と子会社の株式をともに上場するということが盛んにおこなわれているが、本来このような「二重上場」は不合理なことで、そのこと自体が問題にされるべきである。

大株主が存在する会社では長期的視点に立った経営が行われているとして、よい企業統治として推奨しているが、しかし会社の業績と大株主の存在とはそれほど一義的ではなく、系列会社として失敗したケースは松下電器などたくさんある。

よい会社、悪い会社などいう通俗的な視点からではなく、もっと構造的な問題として議論する必要があるのではないか。具体的に会社名を挙げて株式所有構造と会社支配、さらには誰が社長になっているかということを説明しているところなどは興味深く読めるが、具体例を挙げる場合、恣意的になるおそれがあるので注意が必要だ。【評者 奥村 宏 株式会社評論家】

■2007/05/19, 週刊東洋経済

カラ売り屋
カラ売り屋黒木 亮

講談社 2007-02-21
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おすすめ平均 star
star内容はよいが、問題あり
star長編に期待
star短編4話

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世界と日本のよどみを糾す 男たちの物語を楽しむ

国際金融の裏表を大胆に描いてきた黒木亮氏の中編集だ。いずれもほぼ90ページはあるから、それぞれに読み応えがある。

今回は国際金融で働く男たちだけでなく、村おこしや地方のホテルの再生という国内ネタもある。「村おこし屋」には、あきれるような事実がたっぷりと詰まっているが、夕張市の実体が次々と明らかになっている中では、本当のことだと思うしかない。

世界を相手に戦う男たちを期待していた読者の中には、今回の題材を意外と思った方もおられるようだが、黒木ワールドの男たちは、世界と戦うとともに、あるいはそれ以上に、日本の無理解、社内政治に生きている日本人と戦っている。そんな日本と、それへの反発が、リアリティをもって描かれていることが黒木氏の小説の魅力を作り出している大きな要素だと私は思う。そう考えると、日本のどうしようもない古さが集中している村や地方ホテルを題材に選んだことは当然という気もする。

「村おこし屋」も「再生屋」も、村議会、出入り業者、地銀、商工会議所などの雰囲気が見事に描かれている。突っ張った男たちとともに、よどんだ組織の中でも誠実に生きる男たちが登場するのも変わらない。知らない世界を教えてくれるのも同じだ。

「カラ売り屋」と「エマージング屋」はこれまでの黒木ワールドと同じ世界を扱っている。不正な会計処理が次々と明らかになるが、著者らしく、不正のからくりを、世界をまたにかけて暴いていく。投資家を欺こうとする企業を探し出し、市場の審判を受けさせる仕事はカラ売り屋の誇りだと、著者は率直に書いている。確かに、カラ売り屋がもっと機能していれば、不正は早期に是正されていたはずだ。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2007/05/19, 週刊東洋経済

会計の時代だ―会計と会計士との歴史
会計の時代だ―会計と会計士との歴史友岡 賛

筑摩書房 2006-12
売り上げランキング : 6468

おすすめ平均 star
star歴史を会計の面から見た本
starずどーんと概要を押さえる
star会計の歴史

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会計に味わいと潤い 歴史から見た会計学

会計の入門書がベストセラーになるなど、一種の「会計ブーム」が起きている。まさに、「会計の時代」である。背景のひとつに、会計がビジネスの必須のスキルだという認識の広がりがある。

だが、本書は会計の歴史を扱っている点で類書と異なる。スキルとしての会計ではなく、ひとの営みとしての会計のダイナミズムが著者特有のタッチで生き生きと描かれている。それが、著者の言う無味乾燥で「つまらない」会計に、「潤い」と「味わい」を与えるわけで、その点で本書のタイトルを逆説的に読むこともできるし、またある種の皮肉も交えたタイトルとの理解も可能だろう。

本書の巻末(補遺)には「会計はつまらない」と題した著者の会計に対する本音が明かされているが、著者の個性がよく出ていて面白い。読者は、まずもってなぜ会計が「つまらない」か、そしてその裏返しとして、なぜ歴史なのか、という問題意識で読まれるとよい。その点で、補遺は本書の前提ないし序論的な位置にあるといえる。

簿記技術の煩雑さにうんざりの読者には、例えば複式簿記が資本主義経済といかに密接な関係にあるか、あるいは意外にも簿記の歴史に文豪ゲーテや著名な経済学者、社会学者、さらには数学者が登場してくるのに驚かれるだろう。また、近代会計の成立環境(第4章)や近代会計制度の成立(第7章)を読むことで、監査のルーツや今日起きている不正会計および不正監査を歴史の文脈の中で読み解くことができるだろう。

会計と会計士の歴史研究に造詣の深い著者による本書は、前著『歴史にふれる会計学』(有斐閣)と重複するところもあるが、ひとの営みとしての会計の醍醐味を味わうには格好の一冊になっている。【評者 石川純治 駒澤大学経済学部教授】

■2007/05/19, 週刊東洋経済

ぼくの複線人生
ぼくの複線人生福原 義春

岩波書店 2007-03
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資生堂名誉会長にして、東京都写真美術館館長などさまざまな肩書きを持つ著者の「自叙伝」であり「資生堂史」。著者の毛並みのよさは尋常ではない。「位置エネルギー」の高さはケタ外れだ。

だが本書には毛並みのよさからくる「嫌み」はみじんもない。著者は1953年に資生堂に入社、一貫して「陽の当たる道」を歩くことになるが、本書を読めばそれは自らの努力の賜物であることがよくわかる。

70年代後半の外国部長就任時には海外市場開拓のために商社マン以上の出張に明け暮れ、疲弊した結果、著者の片目の視力は極度に低下し今もそのままだという。壮絶である。

徳川の御代末期に蘭学を学び、海軍病院薬局長だった祖父が藩閥に嫌気がさし、同志と興した民間企業が資生堂。すなわち資生堂は明治時代のベンチャー企業であり、そのDNAが著者に脈々と受け継がれている。戦後の経営史としても読める味わい深い一冊。

■2007/05/19, 週刊東洋経済

ゴルフ「ビジョン54」の哲学 楽しみながら上達する22章
ゴルフ「ビジョン54」の哲学 楽しみながら上達する22章ピア・ニールソン&リン・マリオット ロン・シラク 村山 美雪

ランダムハウス講談社 2006-11-09
売り上げランキング : 12098

おすすめ平均 star
star藍チャンも絶賛

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世界トップクラスの女子プロゴルファー、アニカ・ソレンスタムをご存じだろうか。米女子ツアーで通算8度の賞金女王に輝き、世界ゴルフ殿堂入りも果たしている。ベストスコアは2001年に出した59だ。

ゴルフは18ホールをパーで回ると72のスコアになる。ボギーで90、ダブルボギーだと108。逆にすべてバーディだと54。

はっきり言って不可能に限りなく近い数字だが、その54を目指し、実現する方法を見いだそうと提案するのが本書。いわば練習哲学だ。著書の一人は、アニカの師匠でありスウェーデン代表チームのコーチだ。

絶好調時のアニカのプレーは、気持ちいいくらいの完璧さ。ゴルフが簡単に見えて仕方がなかったが、これもビジョン54を信じ、努力した成果だったといえる。本書のターゲットは54どころか100を切るのもままならないゴルファー。練習と実践の境をなくせというアドバイスから、まずは実践してみましょうか。

■2007/05/19, 週刊東洋経済

ごみ有料化
ごみ有料化山谷 修作

丸善 2007-04-21
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循環型社会を目指した地方自治体の施策として、従来からある「規制的手法」が限界に直面する中、「経済的手法」が今大いに注目されている。

本書では「有料化」と併用施策を用いて、ごみ処理費負担の公平性確保や、意識改革を通じたごみ減量化に取り組んだ自治体の実践事例を分析し、これからの「ごみ行政のあり方」を具体的に提示している。

また、経済犯罪化している不法投棄や不適正排出に対する適切かつ有効な対策を提示している。さらに、事業系ごみの対策と公企業の役割として、札幌市の公社による事業系ごみの一元化方式の有効性を紹介する。  

著者は環境省の廃棄物会計基準・有料化ガイドライン策定検討委員会委員なども務めており、本書のベースとなった、数年間にわたる全国自治体アンケート調査とヒアリング調査の分析は、実に説得力を持っている。図表データもオリジナルで貴重な本といえよう。

■2007/05/19, 週刊東洋経済

写真でたどるロシアの文化と歴史
写真でたどるロシアの文化と歴史キャスリーン・バートン・ミューレル

あすなろ書房 2007-01
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おすすめ平均 star
star四つの王冠

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隣国ロシアはわれわれにとってロマンチックな国である。このことは、西欧諸国においても同様のようである。だが、イギリスで、「ロシアはアジアである」といった言葉をしばしば見聞し、驚かされたのだった。

それにしても、ロシアはその国の誕生から実にユニークな歩みを続けてきた。この民族の祖先は、6世紀の東「スラブ民族」という説がある。「スラブ」は「奴隷」を意味するので、そうではなく赤い髪の毛の勇猛な北方バイキングの「ルースイ民族」説もある。

1600年から1900年にかけてのロマノフ王朝期の版図は、本書によると、なんと「毎日130kmの速度」で拡大したことになる。ロシアは、芸術の分野、宗教や文化の分野でも、世界に大きな遺産を生み出した。本書が具体的に図解している、農奴とその領主の生活、ロシア正教の壮麗な儀式や大聖堂、ツァーリの宮殿など、実に瞠目させられる。

■2007/05/19, 週刊東洋経済

明智左馬助の恋
明智左馬助の恋加藤 廣

日本経済新聞出版社 2007-04-21
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おすすめ平均 star
star泣かされました
star三部作の最後を飾るにしては・・・
star三部作は完成したか?

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信長の棺
信長の棺加藤 廣

日本経済新聞社 2005-05-25
売り上げランキング : 31335

おすすめ平均 star
star歴史妄想小説の傑作(?)
starナイスチョイス
starへぇ~って感じかな

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秀吉の枷 (上)
秀吉の枷 (上)加藤 廣

日本経済新聞社 2006-04-18
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おすすめ平均 star
star鋭い視点からの考察
star竹中半兵衛に興味がわいた
starアイデアが楽しい........ 目くじら立てずに、ご一読!

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秀吉の枷 (下)
秀吉の枷 (下)加藤 廣

日本経済新聞社 2006-04-18
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おすすめ平均 star
star面白くはありますが・・・。
star因果応報
star三部作として読む

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著者に聞く 『明智左馬助の恋』を書いた作家加藤廣

「本能寺の変」三部作が完結

――『信長の棺』(2005年)は28万部のベストセラーとなり、「本能寺の変」第二作『秀吉の枷』(上・下)も好評でした。今回は、第三作『明智左馬助の恋』が刊行されました。

『信長の棺』は、『信長公記』の著者である太田牛一の視点から、「本能寺の変」の謎を解明しました。第二作は秀吉の視点から、そして第三作は、明智光秀側の視点から「本能寺の変」の解明を行っています。

――光秀ではなく、娘婿左馬助を主人公にした理由は。

光秀を対象化して書きたかったからです。三部作の重要なテーマは本能寺から信長の遺体が消えたことです。遺体が消えたことで、「信長が生きている」といううわさが流れ、光秀を応援する勢力が結集しないことになります。

本能寺の焼け跡で、何日も信長の遺体を探したのは左馬助であり、光秀死後、坂本城で明智一族の最後を見届けたのも左馬助です。

――三部作では、公家に教唆された光秀が謀反を起こし、それを事前に諜報網で知った秀吉が、本能寺の地下にあった抜け道をこっそりふさいだうえ、毛利方と事前に和睦工作を行ったという大胆な仮説が述べられていますが。

本能寺は小さい寺です。信長が泊まるような寺ではない。そこに宿泊したのは、地下に南蛮寺などに抜ける抜け道があったからです。

私は、本能寺や周辺の阿弥陀寺や南蛮寺をめぐって、ピンと来ました。

――それにしても、75歳での作家デビューで、第一作がベストセラーとは驚きです。

私は東大法学部を出て、あえて二流の政府系金融機関である中小企業金融公庫に入ったのは、アクが強く、能力もある中小企業の経営者を知ることで、将来作家となるうえで必要なネタを集めたかったからです。

経営やベンチャー企業に関する本を『信長の棺』以前に何冊も書いており、特に『男たちの履歴書』(東洋経済新報社 1981年)は、我れながら、よく書けた本だと思っています。作家デビューが遅れたのは満を持したからです。作家の平均年収は400万円程度です。よい処女作を発表した作家が、その後、生活のために作品の粗製濫造となり、筆が乱れていくのを見ていましたので、そうはなりたくないと思っていました。

『信長の棺』を書くのに資料代や取材費で1000万円かけました。しかし、日本経済新聞社はあまり売れないだろうと考えたのか、初版は4000部。『男たちの履歴書』ですら初版8000部刷ってくれたのに。もし、初版で終わっていたら目も当てられない結果になっていました。

――加藤さんはサラリーマンが困難に直面したら、秀吉のように考え、行動せよ、と書いていますね。

信長のような異常な上司に仕えるには、秀吉のようにタフで愛嬌があり、しかも水平思考のできる人間でなければならない。水平思考とは、AかBかの二択を迫られたとき、第三の道Cを選べることです。光秀はこれができなくて、信長から追い詰められて、ノイローゼとなり、そこを突かれてしまった。

■2007/05/19, 週刊東洋経済

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