メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年4月14日~21日
| ネイションとの再会―記憶への帰属 | |
![]() | 黒宮 一太 NTT出版 2007-02 売り上げランキング : 115937 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本のナショナリズムを再発見するために
近年、日本では、サッカーの代表チームに熱狂する若者たちや、ネットで愛国的な書き込みが増えたことを指して、危険なナショナリズムが高まっているとする報道が多い。だが、本当にそれがナショナリズムなのか、という疑問を持つ者は評者だけではあるまい。
日本の外に目をやれば、各地で独立運動のために戦う人々がいる。国家の数は増え続け、第2次大戦後は50ほどだったのが、今では200を超える勢いだ。国家を建設し、発展させようとする人々の熱情や活力、それこそがナショナリズムの本当の姿なのではないか。
すでに発展した国家に住む日本人には、ナショナリズムの活力が何なのか、実感として分からなくなっている。グローバル化が進んだことで、国家は不要になったとする意見や、ナショナリズムは幻想に過ぎない、とする意見まである。
本書は、そうした現状への一撃となる書だ。運命共同体としての国家、という自覚こそナショナリズムの本質であり、その自覚は現代の日本でも必要だ、と主張する。
単純な愛国のすすめではない。むしろ、単純な愛国者になれなかった、哲学者のハンナ・アレントに、著者は深い共感を示している。アレントはユダヤ人として祖国ドイツを追われる悲運の人生を歩んだが、他方でイスラエルの熱狂的なシオニズムには批判的な態度をとり続けた。
彼女にとって国家は、民族愛によってではなく、もっと普遍的な感情と思考に根ざして建設されるべきものだったのだ。
一般にアレントは、ナショナリズムに批判的な思想家だったと考えられている。だが本書は、国家喪失者の視点から、国家のあるべき姿について考えた思想家として読み直そうとする。
おそらく国家とは、失ってみて初めて、その存在の重さに気づくものなのだろう。本書を読んで、あるジャーナリストが書き記した、タタール人老父の言葉を思い出した。「母を失う者だけが、母とは何かを知っている。国を失う者だけが、国とは何かを知っている」。クリミアのタタール人は強制移住によって国を奪われた経験を持つ。
幸い日本は、国家を喪失する悲劇を味わっていない。だが、かえって国家とは何であるか、見えなくなっているとも言える。
アレントが強調したように、国家を建設し、世代を超えて継承していくのは、本当は難しい事業だ。昨今の日本はむしろナショナリズムを失っている、という本書の逆説的な指摘は、国家を実存的に捉え直すきっかけを与えてくれるに違いない。【評者 柴山桂太 滋賀大学経済学部准教授】
| フェルメール全点踏破の旅 | |
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「真珠の耳飾りの少女」の画家の作品を求めて世界へ
たった一枚の絵が、その画家の世界的ブームを引き起こすことがある。17世紀オランダの画家ヤン・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」もその一例である。英国在住のアメリカ人作家シュヴァリエがこの絵のモデルをめぐって書いた小説『真珠の耳飾りの少女』とそれを下敷きにした映画が、世界的なフェルメール・ブームの嚆矢となったといわれている。
さらに彼の絵は、20世紀の作家にも多大な影響を与えている。例えば、フェルメールの風景画「デルフト眺望」を「世界でもっとも美しい絵」と絶讃したのは、フランスの作家プルーストの『失われた時を求めて』(第5篇、囚われの女)の作中人物であり、展覧会場でこの絵の前で発作を起こし死んでしまう。また、イギリスの作家ジョン・ベイリーの『赤い帽子――フェルメールの絵をめぐるファンタジー』も、真贋論争を惹起した「赤い帽子の女」のモデルについての絵解きがメインプロットとなっている。
ことほどさように、フェルメールは不思議な画家である。本書によると、43歳の若さで亡くなったが、彼が描いたのはわずか50点ほどで、しかも現存しているのは、わずか37点である。
彼の作品には、宗教色が全くなく、アレゴリーや象徴性的要素もほとんど見られない。それゆえ、時空を越えた普遍的な美をたたえ、われわれ日本人の間に根強い人気を博している。
17世紀、スペインから独立したオランダで力を握った新興のプロテスタントの商工業者たちは、自宅を飾るためにごく日常的で、身近なテーマの絵を求めた。それが、17世紀独特のオランダの風景画、静物画、風俗画、そしてトローニー(半身像画)などを開花させ、フェルメールの画題にぴったり合ったのである。【評者 川成 洋 法政大学工学部教授】
| もし、日本が中国に勝っていたら | |
![]() | 趙 無眠 富坂 聰 文藝春秋 2007-02 売り上げランキング : 67425 おすすめ平均 ![]() 普通の歴史認識Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本の敗戦は天佑神助だった
中国の「反日」は国家的政策で、反日を唱えている限り安全なので、ネット上には目を覆いたくなるような暴言が飛びかっている。インターネットができるのは都市の知識層かつ特権階級だけで、彼らのストレス発散とわかっていても、日本人としては実に不愉快である。
中国の知識人でもっと現実的な人はいないのかしらと思っていたら、本書が刊行された。「趙無眠」はもちろんペンネームで、本書は中国のインターネット上で公開され、大論争を巻き起こした論文であるという。
内容は、常識的な日本人ならすでに知っている歴史的事実、日本は現実には連合国に投降したに過ぎず、中国だけでは抗日戦争に勝利した可能性はほとんどなかったこと、多くの日本人が中国革命を助けたこと、日本は学習熱心な国で、近代日本が中国の恩師であったこと、旧満州国など日本の統治下で近代化に成功したことなどを述べる。
こういった内容のために、著者は中国の民族主義者から「漢奸」と呼ばれることになったわけだが、これが決して親日家の書いた日本弁護の本でないところが、一読を薦める理由である。
抗日戦の最中、日本軍より中国軍の方が民衆に酷薄であった。中国の民衆にとっては、どちらも官軍になりうる存在だった。もし日本人が中国に溶け込む時間が十分にあれば、かつての満州人、モンゴル人などの外部民族と同様、日本が中国に加わる結果になっただろう。
一旦日本が加わったら、その後はどんな方法を使っても中国から離脱できない。つまり、日本が中国を征服して統一することは、中国が日本を征服して統一することと全く同じ結果になった、と著者は言う。
この意見に私も同意する。米国のお蔭で中国から手を引けたことこそ天佑神助であった。【評者 宮脇淳子 東京外国語大学講師】
| 信玄の戦争 | |
![]() | 海上 知明 ベストセラーズ 2006-11 売り上げランキング : 152114 おすすめ平均 ![]() 孫子対孫子・・・ 信玄の行動を理解する革命的な書 孫子VSマキャヴェリAmazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は上杉謙信の研究家である。上杉謙信と武田信玄が、お互いのせん滅を懸けて戦った第4次川中島の戦いは謙信の勝利だという。定説は「前半は謙信の勝ち、後半は信玄の勝ち」だが、信玄はその後謙信を怖れ、謙信の出馬を聞くと陣を引き払っているので、謙信の勝利だという。
信玄の旗印「風林火山」は古代中国の兵書「孫子」から出ている。信玄は孫子の教えに従って戦略を立て、戦争をした。「戦わずして勝つ」ではないが、犠牲を最小にして着実に成果を上げるのが、信玄の戦争だった。数少ない例外が、第4次川中島の戦いと、最後の信長打倒を目指した西方への出陣である。
信玄はその途上で53歳で死ぬが、それがなければ信玄は信長を打倒し、上洛していただろうと著者は語る。信玄の欠点は、孫子の欠点でもあった。それは着実さを重んじるあまり、時間を軽視していたことだ。戦いの途上で、締め切りが来てしまった。
| 応用心理学事典 | |
![]() | 岡村 一成 日本応用心理学会 丸善 2007-01-26 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
従来から、「こころ」とは何か、「精神」とは何かという議論は甲論乙駁、とどまるところがないようだ。近年、「こころ」というテーマに深い関心を寄せられているためか、巷には「こころ」を探索するゲーム感覚の本や、占い的な、興味本位のものが氾濫し、科学としての心理学に対する誤解を生じさせている。
現代の心理学はその研究領域もきわめて広く、人間行動のあるところすべて心理学の研究分野であるというほど、私たちの生活そのものに密着した学問だ。
本書は、現代心理学の代表的な応用領域で15分野を厳選し、心理学に興味を持ち、心理学の応用知識や、自分の専門分野以外の知識などを求める人が学びやすく工夫されている。また、中項目主義を取っており、現代の応用心理学全般を眺望できる読み物としても利用できる。心理学に対する偏った知識をなくし、社会においてさまざまな問題解決の糸口を提供するような事典。
| ふしぎな動物モオ | |
![]() | ホセ・マリア プラサ Jos´e Mar´ia Plaza 坂東 俊枝 行路社 2007-01 売り上げランキング : 319549 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
なんとも不思議な物語である。この物語の主人公モオは、どんな姿かたちの動物なのか。モオに関する明確な説明がないので、読者の想像の世界のなかで自由に動きまわる。
モオが親の反対を押し切って冒険の旅に出かける。
出会った動物たちはみんなモオにとって変な姿をしている。たしかに、われわれには見慣れた動物ではあるが、モオの言うように、変な姿をして生きているのである。モオだけが決して風変わりではないのだ。
これこそ、現代流にとらえれば、アイデンティティ・クライシスの真っ只中で苦しみながら大人になる自己確認への旅だ。この物語は旅をかさねつつ自己を見詰め、その存在を確認する「ビルドゥングス・ロマン」といわれるジャンルのものかもしれない。
最後の土壇場になってもモオの実態はわからないのだ。憎いほど見事なストーリーテリングである。モオとは何か、われわれの好奇心かもしれない。
| 国富論 上―国の豊かさの本質と原因についての研究 (1) | |
![]() | アダム・スミス 山岡 洋一 日本経済新聞出版社 2007-03 売り上げランキング : 3936 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 国富論 下?国の豊かさの本質と原因についての研究 (下) | |
![]() | アダム・スミス 山岡 洋一 日本経済新聞出版社 2007-03 売り上げランキング : 13720 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
読んだことはないが、誰でも書名を知っている本がある。古典派経済学の金字塔の書物である『国富論』もその一つ。こうした書物が有名な割にはあまり読まれなかったのは、翻訳が読みにくいことも大きな理由だった。
今回、『国富論』の新訳が刊行された。『国富論』そのものは専門用語で彩られた学術書ではなく、わかりやすい例を用いた、経済だけではなく、哲学や社会全体を分析した書物だ。
その原点に還って、ゼロから訳し直したのが本書である。著者の山岡洋一氏は経済学者ではなく、翻訳家である。編集者の思い切った起用を感じることができる。
新訳の『国富論』を読むと、市場の機能、労働の価値、政府の役割や国際貿易などについて、アダム・スミスがどのように考えていたかが理解できる。
下巻の巻末にある経済学者根岸隆氏の簡単な数式や図を使った解説『国富論と現代経済学』も有意義だ。
| 特捜検察vs.金融権力 | |
![]() | 村山 治 朝日新聞社出版局 2007-01 売り上げランキング : 3169 おすすめ平均 ![]() 生き生きとした描写 10年前の問題意識Amazonで詳しく見る by G-Tools |
さすが敏腕司法記者 とてつもなく面白い
これまでにも司法記者が著した「読ませる本」は少なくなかった。が、本書はとびきりの作品と言っていい。読んでいて、早くページをめくりたいと思わせるノンフィクション本は、そうざらにはない。
中でも圧巻だったのは、東京地検特捜部が1997年5月に摘発した野村証券・第一勧銀事件から、旧大蔵省に強制捜査のメスを入れた98年1月までを描いた第1部「護送船団、崩壊―法務・検察と大蔵省の蜜月、敵対、摘発、意趣返し」の後半部分、「国策捜査」の章から「検察の劣化」の章までの約100ページである。一部を引用すると、
――検事総長の土肥孝治は、ある晩、特捜部長の熊崎と副部長の山本を都内の小料理屋に招待した。大阪特捜のエースと呼ばれた土肥は、特捜事件が好きだった。折に触れて熊崎を総長室に呼び、捜査状況を聞いていた。「大蔵官僚の接待漬けはひどい。証拠上事件にせざるを得ない状況です」「捜査の現場は収まりません」。熊崎は力説した。黙って聞いていた土肥は「分かった」とうなずいた。「これで、おれも多くの友人を失うな」とつぶやいた――
当時、私も大蔵汚職事件を取材しており、いわゆる「法務検察と特捜検察の対立」について、それなりの知識を持っていたつもりだ。だがしかし、土肥検事総長が東京地検の熊崎勝彦特捜部長を自室に招き入れ、直接捜査状況を報告させていた事実など想像の外であった。
凄腕司法記者の村山治氏の面目躍如である。第1部冒頭の「ドタキャン」で言及した97年10月の検察と大蔵省の有志による昼食会についての描写にもまた唸った。法務省の原田昭夫刑事局長や大蔵省の杉井孝銀行局審議官らが待つ九段の鰻料理屋に、石川達紘東京地検検事正が姿を現さなかった理由が、後段の「接待の海」で明かされる。
当時、特捜部は内々に杉井審議官をターゲットにしていたのだ。「接待こそ賄賂の原点」という思想に立ち返り、「将来の事務次官」と言われていた杉井に切り込もうとする現場の特捜検事の意気込みを痛いほど分かっていたから、石川は昼食会をドタキャンしたというのだ。そしてその石川の使嗾に力を得た熊崎ら現場派が強く求めた金融検査官逮捕に、ゴーサインが出たのである。こうして大蔵省の本庁舎が家宅捜索を受けた。霞が関の官僚機構の頂点に立つ同省に激震が走った瞬間である。
検察の捜査には、良い捜査とそうでない捜査があると著者は言う。さらにその捜査を通じてより大きな構造的な犯罪の疑いが浮上した場合には、積極的にそれを解明しなければならないと。全くの至言である。【評者 歳川隆雄 『インサイドライン』編集長】
profile
むらやま・おさむ
朝日新聞編集委員。1950年徳島県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。毎日新聞社を経て、91年朝日新聞社へ。大型経済事件や政界汚職報道で活躍。
| 「健全な市場社会」への戦略―カナダ型を目指して | |
![]() | 八代 尚宏 東洋経済新報社 2006-12 売り上げランキング : 133436 おすすめ平均 ![]() 幅広い分野を扱う自由な経済への指針 なってほしくない社会Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本が目指す国はカナダ 明確な戦略と目標を提示
いまや安倍政権のブレーンとなった八代尚宏氏の、包括的な政策ビジョンがここにある。構造改革論議には必読の書である。従来の構造改革論は、「小さな政府」か「大きな政府」かをめぐって議論が対立してきた。しかし真の論点は「効率的な政府」を実現することにあって、いま日本が目指すべきは、アメリカ型の弱肉強食社会ではなく、むしろアメリカに隣接しながら独自の道を歩む、カナダ型の社会だというのが著者の見解である。
小泉政権時代の構造改革を「行き過ぎ」とみるのは、既得権益の視点にすぎないであろう。構造改革はまだ始まったばかりで、目指すべき方向はすでにカナダにある。カナダは、面積では日本の26倍であるが、人口は4分の1程度、一人当たりのGDPや平均寿命は日本とほぼ互角。過去15年間のカナダの経済成長率は3%強、日本よりも2%も高い。
ところが大きく異なるのは、カナダでは女性の労働力率が13%も高く、出生率も日本を上回っている点だ。つまりカナダでは、女性が働きながら子育てすることのできる環境が整っている。これを見習って日本がなすべきは、逆説的ではあるが、「雇用と解雇の条件を緩めること」だと著者はいう。
現代のビジネスマンは、雇用の安定と引き換えに苛酷な残業労働を強いられ、結果として妻は家事に専念せざるをえない。しかし長期安定雇用の保証をなくせば、企業は残業を無理強いすることができず、多くのサラリーマンは時間に余裕ができる。その時間を家事に向ければ、理想の共働き生活が可能となり、女性の就業率が高まるというわけだ。共働きを支援するための、著者の保育所改革案も示唆に富んでいる。かなり戦略に富んだ、明確なビジョンである。【評者 橋本努 北海道大学経済学部准教授】
profile
やしろ・なおひろ
国際基督教大学教授。1946年生まれ。国際基督教大学教養部、東大経済学部卒業。経済学博士(メリーランド大学)。経済企画庁、日本経済研究センター理事長などを歴任。
| 大衆の心に生きた昭和の画家たち | |
![]() | 中村 嘉人 PHP研究所 2007-02 売り上げランキング : 191884 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
心がときめいた小説と挿絵が一体だった時代
昭和20年代半ばから30年代にかけて、「挿絵の黄金時代」が出現した。新聞や雑誌の連載小説は、大衆娯楽の花形であった。したがって、文芸作品も、それに挿絵を描く画家もまさに百花繚乱。そのころ、大学を卒業して雑誌社に就職した著者の、いろいろな画家との付き合いが始まる。当時の挿絵画家といえば超一流の画家や彫刻家であった。羨ましいほど胸をときめかす仕事であったろう。
挿絵界の第一人者岩田専太郎と川口松太郎とのコンビは絶妙であった。岩田は、寝る時間を惜しみ、血を吐きながらも挿絵を描き続け、死の直前までペンを走らせ、6万枚の挿絵を残し「挿絵画壇の鬼才」と謳われた。
また江戸川乱歩の「少年探偵団」にダイナミックな挿絵を描いた梁川剛一は実は彫刻家であり、長崎のグラバー邸の蝶々夫人や北海道大学のクラーク像などの作品がある。さらに谷崎潤一郎の『鍵』を黒地に丸ノミで刻み込んだ挿絵の棟方志功。
こうした挿絵画壇の隆盛を受けて、昭和30年に季刊誌『さしゑ』が創刊される。毎号の目玉は、名作誌上展であった。それに座談会、そしてエッセイ。彼らのナマの意気込みが伝わってくる。「新聞小説の挿絵の仕事は毎日百万人の読者を相手に展覧会を開いているようなもの」(木村荘八)、「挿絵は人生の縮図だ」(田代光)といった言葉はとても自然である。
また池波正太郎は自分とコンビだった中一弥の挿絵にすごく惚れ込み、「中氏と組んでやる仕事では、小説の滑り出しが待ち遠しいほどだ」と回顧している。小説と挿絵がぴったり合っていた時代。いい時代だった。だから名作が残っている。活字離れを云々している出版関係者よ、ほんの半世紀前の出版文化を、一度見直してみてはいかがだろうか。【評者 川成洋 法政大学工学部教授】
| 武田信玄と勝頼―文書にみる戦国大名の実像 | |
![]() | 鴨川 達夫 岩波書店 2007-03 売り上げランキング : 14296 おすすめ平均 ![]() 実証史学入門Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は東京大学資料編纂所准教授で、現存する武田信玄や勝頼が書いた文書を読み解くことで、二人の実像を探る。
武田信玄は日本人にとって、信長・秀吉・家康と並んで人気がある戦国大名。江戸時代、徳川幕府が武士の必読書と奨励した『甲陽軍監』は、信玄を持ち上げ、勝頼を貶めている。このため勝頼は偉大な信玄の業績を無にした無能な大名という評価が定着している。
だが、著者は文書を読み解くことで、通説を打破している。武田家があっけなく滅亡したのは、勝頼の無能の結果でなく、信玄の時代に種がまかれていた。
嫡男義信を廃嫡し、殺害したこと。勝頼を後継者とするのが遅れたこと。足利義昭と本願寺の哀願により、それまでの信長との同盟関係を捨てて、打倒信長の先鋒に立ったこと。
長篠の戦いの後、勝頼は信長に「和議」あるいは「降伏」を求めるが、信玄の裏切りを許せない信長は、武田家を滅ぼすことになる。
| 日本官僚制の連続と変化(全2巻) | |
![]() | 中道 實 ナカニシヤ出版 2007-03 売り上げランキング : 328157 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本官僚制の連続と変化 (ライフヒストリー編)
中道 実 (著)
2冊から構成されている大著。第1部は「ライフヒストリー編」で、現在は退職したキャリア(上級)官僚のライフヒストリーを研究者がインタビューしている。官僚自らが語る生い立ち、省庁での生活形態、行政にかかわる価値観、意識が語られていて貴重な資料になっている。
日本は依然として官僚主導の国家であり、官僚の実態を知ることは大きな意味がある。戦後史の秘話も語られていて参考になる。
第2部は「ライフコース編」で、キャリア官僚の社会的属性(出身階層と教育的背景)、キャリア官僚への道筋と家族・時代環境、キャリア官僚の異動経歴分析(入省から退官までのコーホート別キャリアなど)を分析する。
「使命感」を持ち、「国家の現実」と対峙した官僚たちの実像を研究者が浮き彫りにし、その行動原理を学問的に分析、考察した貴重な労作である。
| すべてがうまくいく8割行動術 | |
![]() | 米山公啓 ソフトバンククリエイティブ 2006-11-16 売り上げランキング : 33638 おすすめ平均 ![]() 読めば気楽になれる本 がんばらずにすべてがうまくいく行動術が身につく良書 自分が変われる、心地よい暮らしの教科書Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「自分のやりたいことを100%実現していくのではなく80%くらいに抑えて楽しみながらやっていく」ことが、人生で能力を発揮する術だと著者は語る。 巷にあふれる自己啓発本の類にもみえるが、どうしてどうして、読み進めていくと心に刺さるフレーズが多い。
社内で売り上げトップを目指すのではなく、ナンバー3を標榜する「3番手のススメ」「人脈を見せびらかさない」「幸福のセットポイント」を下げることで常に幸福感を得るようにする――。
「8割術」のキーワードに固執するあまり、鼻につく箇所もある。が、元医科大学助教授の著者が神経内科の知識をベースに綴っているため、全体を通して説得力がある。ビジネスパーソン向けに書かれているが、主婦や学生なども堪能できるだろう。誰かに勝るために東奔西走したり、誰かに何かを求めすぎたり。世知辛い世の中で、本書の主張は意味がある。
| 仕事力UP!メールと電話のビジネス英語表現集 | |
![]() | 楢原 潤子 イブ・サンダ ディーエイチシー 2007-02 売り上げランキング : 166408 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ビジネスシーンで使う英語の表現でも、電話とメールでは異なる場合が多い。もちろんその両方にも対応できる場合があるが。
こうした微妙なニュアンスの違いは、日本人が自分で考えて表現するには、若干高度な内容かもしれない。
しかし、実際のビジネスシーンでは否応なしに必要とされるテクニックであり、それがビジネスをスムーズに進める潤滑油となる場合が多いといわれている。本書は、想定できる状況をまず日本語で示し、その日本語に対応させた、メールと電話の実例を並記している。
内容は、新規会社との接触、問合せ、取引先への通知、アポイントメント、商談、見積り、発注・受注、請求・支払い、クレーム、社内での報告・連絡の10のビジネスシーンでの具体的な英語表現を例示している。巻末の、「資料」「使い方に注意!」、日本語索引、英語索引なども即戦力として役立つであろう。
| ベビー・ビジネス 生命を売買する新市場の実態 | |
![]() | デボラ・L・スパー 椎野 淳 ランダムハウス講談社 2006-11-23 売り上げランキング : 72345 おすすめ平均 ![]() それは許されることなのか、そうでないのか。読み終わっても自分なりの答えが出ない… 生殖医療の喜びと怖さ 医師よりAmazonで詳しく見る by G-Tools |
著者に聞く 『ベビー・ビジネス』(ランダムハウス講談社)を書いたハーバード・ビジネススクール教授 デボラ・L・スパー
成人の10%が人為的生殖に向かう現実
――生殖医療に関するビジネスに興味を持った理由は?
6年前、インターネットに関する本を出版した後、「次に大きな波を生み出すテクノロジーは何ですか」という質問を数多く受けました。それはバイオテクノロジーではないかと次第に考えるようになり、この産業を調査したところ、生殖医療に出会いました。
生殖医療において、特に興味深かったのは、第一に、子供をつくる方法が売買されていたこと。そして第二に、このビジネスに関係している人々が皆、自分たちがしていることを“ビジネス”と呼ばれるのを嫌うことです。
――ベビー・ビジネスの市場規模はどのくらいありますか。
すでに米国において生殖医療は巨大なビジネスで、年30億~50億ドルの規模に達しています。重要なのは人々が不妊率の高さに気づくことです。歴史的に自然状態における不妊率は10%となっており、今後も10%の成人が人生の何らかの時点で不妊を経験することになります。この10%というのは、若く結婚して子供に恵まれない人たちですが、ここに最近では晩婚の人々が加わってきています。日本でも起きているように、多くの女性が働きに出て出産を遅らせているのです。欧米ではシングルマザーが増えてきていますが、彼らは自然な形で子供を産むのではなく、ベビー・ビジネスに向かっています。
テクノロジーの進歩により、現在では子供を持つ方法が16通りもあります。無料なのは自然に子供を授かる場合だけで、ほかの15通りにはおカネがかかります。日本では、卵子、精子の売買、代理母などの方法を利用できませんが、欧米では可能です。
――「ベビー・ビジネスには規制が必要」と主張していますが、具体的には。
人々がこの分野の規制を考えるとき、倫理上の問題を真っ先に指摘しますが、第一に重要なのは健康と安全です。
まず、女性が受けている危険な処置を非合法化すべきです。恐ろしいことに、米国では受精卵(胚)の移植数に関して制限がありません。そのため不妊に苦しむ女性の中には、品胎(三つ児)妊娠をしてしまうケースがあり、母子にとって非常に危険です。
第二に情報が大切です。この分野に関する情報はあまり開示されておらず、人々は情報に敏感になっています。処置を受ける人すべてに、費用、健康へのリスク、赤ん坊への影響など、最低限の情報が提供されるべきです。
第三に、赤ん坊のアイデンティティに関する規制です。私たちは、「補助生殖によって産まれた子供たちにその事実を知らせるべきではない」と信じてきましたが、それは間違いだと思います。現在米国では、精子提供によって産まれた最初の世代が成人を迎え、遺伝上の父親を知りたがっています。近い将来、卵子提供によって産まれた子供たちも、遺伝上の母親を捜し求めるでしょう。それは理解できる願望です。しかし現段階では、これらの事柄に対して何の対策も立てられていないのです。これまで私たちは親たちの都合を優先してきました。しかし、この状況は子供たちに対し不公平です。
profile
Debora L.Spar
ハーバード・ビジネススクール経営管理学教授。専門は民間ビジネスと政府の関係性な



左から注す柔らかな光に感動


孫子VSマキャヴェリ




10年前の問題意識
なってほしくない社会





