メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) > 2007年2月10日
| 満鉄調査部の軌跡―1907‐1945 | |
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日本のシンクタンクの原点 満鉄調査部の歴史分析
現在の日本の大企業はほとんどすべてが、調査部とか資料課などという名称の調査部門をもっており、それを独立させてシンクタンクをつくるということも流行したが、その出発点ともいうべきものが満鉄(南満州鉄道株式会社)調査部である。
満鉄調査部ができたのは日露戦争後の1907年であるが、それ以前にあったのは三井物産の調査部だけで、三菱や野村などが調査部をつくるのは満鉄調査部以後である。
満鉄調査部はこうして日本のシンクタンクの出発点であっただけでなく、戦後にできた経済企画庁の研究所など政府系シンクタンクの前身としても、大きな影響力をもっていた。
この満鉄調査部については戦後さまざまな研究がなされ、多くの資料が公開されているが、本書はそれを総合したもので、体系的な満鉄調査部の歴史分析といえる。
満鉄調査部をつくったのは初代満鉄総裁・後藤新平であるが、彼は、当時の日本の学問が現実の分析から遊離した空理空論になっていると批判し、机上の調査でなく、現実に即した調査が必要であるとした。
ところがロシア革命後は満鉄が置かれていた地理的、政治的条件から政治的な立場からの調査が必要とされ、さらに日中戦争が始まると軍との関係が深まり、国策のための調査機関になってしまった。そして個別問題の調査ではなく、総合調査に重点がおかれるようになった。
このあたりの歴史的推移が詳しく書かれているが、実際にどのようにして調査が行われていたのか、という点になると、よくわからない。
調査のためには資料の収集が必要だし、さらにその調査の上に立った研究が行われる。この一連の活動が具体的にどのように行われ、どういう成果を生んだのか、ということを解明することも必要だろう。
満鉄調査部では当時のマルクス主義者の影響が大きく、転向した人たちがたくさんいたが、そのなかで「経調派」と資料課グループが対立し、やがて満鉄調査部事件が起こって憲兵隊に摘発され、満鉄調査部は解体されてしまった。
日本のマルクス主義のあり方が満鉄調査部の活動と、その後の研究活動にどのように作用していたのか、これについての著者の考えを聞きたい。これまで満鉄調査部について書かれた本はたくさんあり、当事者たちの回想録も数多く出されている。
そのなかでも77年に専門誌の記者であった山田豪一氏が書いた『満鉄調査部』(日経新書)は今読み返しても力作であり、本質を突いたものであった。あわせて読むことをお勧めする。【評者 奥村宏 株式会社研究家】
こばやし・ひでお
早稲田大学大学院アジア太平洋学科教授。1943年東京都生まれ、71年東京都立大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。戦後の「日本的経営」の思想的・歴史的源泉を探る研究で知られる。
| 解体―国際協力銀行の政治学 | |
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国際協力銀行の暗部を内部文書を根拠に描く
その一節は、こともなげといった風を装って、「平壌宣言」のなかに挿しこまれていた。2002年秋、小泉首相が平壌を訪れて署名した誓約には、国交を正常化する交渉を早期に再開し、経済協力の規模と内容を協議すると謳っている。核・ミサイル問題には一応触れているが、拉致という言葉は見当たらない。だが、対北援助の道筋だけは明快に示されている。「民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致する」。
日本側は、具体的な金額は示さなかったというが、北朝鮮側は、数年間で一兆円規模を日本から引き出そうとしていた。6000億円前後といわれる北朝鮮のGDPを考えれば、いかに巨額かが分かるだろう。だが、無償資金協力、円借款、技術協力をいくら積みあげても、彼らの要求は満たせない。その果てに持ち出されたのが国際協力銀行という打出の小槌だった。
草野厚は『解体 国際協力銀行の政治学』の筆を執ることで、日本輸出入銀行と海外経済協力基金の政略結婚で誕生した国策銀行の聖域に分け入っていった。その矛盾ゆえに再び解体されていく政治プロセスが克明に描かれている。政府開発援助の情報は一応公開されている。
だが、国際協力銀行は、郵便貯金などを原資としながら、民間への融資であることを理由に内容を公表しようとしない。それが政治の介入を招き、恣意的な融資を生む温床になっている実態が内部文書を根拠に明らかにされる。このような草野の論述がかつて合併に反対した旧基金側に偏していると旧輸銀関係者は反発している。だがこうした批判も、納税者が誰ひとり認めていない「融資が平壌宣言の精神に合致する」という一節の前には虚ろに響くばかりだ。【評者 手嶋龍一 外交ジャナーリスト】
| 社員力革命―人を創る、人を生かす、人に任す | |
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人材力を基盤に新次元のボトムアップ経営を提唱
最近、日本企業の業績が好調だ。しかしこの業績回復は一時的で、問題の本質はほとんど解決されていない、そしてもはや多くの日本企業に世界の競合に勝てるだけの力は残されていない、という危機感を抱いている人は多いのではないだろうか。
本書は、こうした一見順調そうに見える日本企業が抱えている問題を、人と組織の観点から分析し、日本企業が今後本当の意味で長期的に繁栄していくにはどうしたらよいかについての提言を試みている。
著者は、ここ数年の日本企業の業績回復を牽引した「戦略経営」では短期的な成果しか得られず、長期的な繁栄のためには、経営者が指示を出さなくても社員が協力し、経営者も気づかない機会や問題を発見し、解決し、ボトムアップで利益を生み出していく、そして経営者が抱える経営責任を担ってくれる「人材基盤経営」が不可欠と主張する。
言ってみれば、欧米流のトップダウンマネジメントだけでは限界があり、日本が得意としてきたミドル層を中心としたボトムアップマネジメント、さらには即戦力の名のもとにこのところ疎かにされてきた人材育成についても再考しようというわけだ。
本書によれば、この「人材基盤経営」は、実はIBMやGEといった欧米企業のほうがはるかに進んでいるが、日本企業の中にも、トヨタや松下電器、武田薬品など、熱心に取り組んでいる企業があり、非常に心強い。
本書の後半では、「人材基盤経営」成立のための七つの条件分析と日本企業の取り組み事例を踏まえ、日本企業への七つの具体的な提言が示されている。
日本企業の経営者、人事担当者には、それらの提言を参考に、自社の課題にしっかりと取り組み、「人材基盤経営」の確立を目指してもらいたい。【評者 黒田康史 人事プロフェッショナル】
| カモにならない投資術―人生後半からの負けないお金哲学 | |
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団塊世代の退職金に照準を定めた内外の金融機関の営業強化もこれからが本番。甘い言葉で誘う金融商品「販売」のプロたちのカモになることなく、いかにしてトラの子の個人資産を守り、増やし、活かすかを説くのが本書である。
著者は資産家向け資産運用・継承などの分野で実績を持つ、知る人ぞ知る資産運用コンサルタント。ジョージ・ソロスら「巨匠」が現役だったころからヘッジファンドに通じるなど、海外の運用状況にも詳しい。
投資手法の向き不向きは人それぞれだが、「小心者」を自称する著者は「分散投資」派。特定の商品には詳しくてもそれ以外の知識は薄い「プロ」たちの売り文句は参考情報にとどめ、自分の資産は自分で管理する心構えが必要と説く。
本書の語り口は平易かつ実践的。株式と債券の総額を時価ベースでほぼ等しく保つのが大原則という英国王室直伝の運用法など、初心者にも使える運用のヒントもちりばめられている。
| ニュー・リッチの世界 The New Rich World | |
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メリルリンチの調査では世界の富裕層の17%は日本人だ。資産家の子孫など、古いタイプの富裕層は昔から日本にも存在した。しかし、最近はストックオプションや起業の成功で資産を築く人が増えているという。これらの人々は年収5000万円以上、金融資産1億円以上を持ち、「ニューリッチ」と呼ばれる。
著者はおカネのない人向けに安いものを大量販売するよりも、ニューリッチを対象にしたビジネスこそが有望と説く。彼らは最近になって急に富を手にしたために、それをどのように使えばいいのかわからない。そこで、彼らに合った商品やサービスを提供することにビジネスチャンスがあるというのだ。
日本では金持ちに対して否定的なイメージがあるが、これは改める必要があるだろう。そもそも金持ちがおカネを使わなければ経済は活性化しない。著者はニューリッチが喜んでおカネを使いたくなる環境を整えることが重要と説く。
| 「ニッポン社会」入門―英国人記者の抱腹レポート | |
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外国人ジャーナリストが書いた「日本論」の本は多いが、本書はその中でも「上質」な内容の本である。
著者はイギリスの高級紙『デイリーテレグラフ』の東京特派員。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻、1992年来日した。要所要所で日本とイギリスの比較をしている点が興味深い。
著者によると、イギリスは紳士の国と日本人に思われているが、少数の本当の「紳士」を除くと、多くのイギリス人は気が荒く、行動も荒いという。
著者が会った本当の紳士は、著者の自転車のサドルをニコニコしながら、丁重に、しかも無料で直してくれた日本人の自転車屋さんだった。
過剰なまでに礼儀正しく親切な日本人。思ったより簡単で奥深い日本語、外国人向けガイドブックには載っていない名所の数々を著者は紹介する。以前に比べると、国際的地位が低下してしまったニッポンを温かく描いている。
| 生涯現役エンジニア―実例にみるその必要性と提案 | |
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少子高齢化、年金不安等の問題が進行する昨今、「生涯現役」は時代のキーワードの一つになっている。エンジニアを、医師のように生涯続けることは可能だろうか。両者は扱う対象は異なるものの、等しく科学・技術を基盤とした職業である。
技術立国日本にとって、エンジニアの定年退職は国家的喪失ではないか。これらの問題意識を核に、齢70にして生涯現役エンジニアを実践している筆者が、自らの事例を紹介し、提案する。
第一章では、わが国エンジニアの歴史と現状の概要を著し、第二章では本題である、生涯現役エンジニアの必要性を説く。第三章では、そのための具体的な新資格を提案し、第四章では、著者の今までの経歴を実例として紹介している。
巻末の「付録・定年退職後の収入開示」は元気づけられる。いわゆる2007年問題がクローズアップされている本年、勤労者必読の書。
| イギリスだより | |
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| イギリス紳士のユーモア | |
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イギリスは、時として、外側から見るとさっぱり分からない不可解な国である。
例えば、コロンブスが新大陸を「発見」したころ、隣国のアイルランドを占領したイギリスは、彼らの母語であるゲール語を剥奪するほど完全に制圧した。わが国は日韓併合では、イギリスの植民地政策を大いに研究したという。
現在でもイギリスは、北アイルランド問題を引きずっている。ちなみに東南アジアの植民地に第2次大戦直後に独立を許している。これが、イギリスのV―Jディ(対日戦勝記念日)と関係があるのかもしれない。
あるいは亡命中のマルクスが大英博物館付属図書館で『資本論』を書きあげ、また亡命中のレーニンが、『イズヴェスチヤ』を発行し、第2次大戦期にポーランドなどヨーロッパの数カ国がロンドンで亡命政権を樹立した。
これらは「パックス・ブリタニカ」を標榜する世界戦略の一環なのか、それとも超大国の「懐の深さ」なのだろうか。
それにしても、イギリス人とは、どんな国民だろうか。
一概に断言できないが、興味深い例を挙げてみたい。
チェコの作家カレル・チャペックの『イギリスだより』(ちくま文庫)では、「イギリス人はどこへ行っても慣習や考え方の中にイギリスの一部を身につけてもまわり、それからとび出せないのです。このやり方から大英帝国が生じたのだろうとさえ、疑いたくなります」と冷ややかに語っている。
また小林章夫の『イギリス紳士のユーモア』(講談社学術文庫)は、イギリス紳士(この「紳士」という言葉は、実に曖昧である。ことに第2次大戦以降、階級社会が変貌してしまい、したがって平均的な成人男性くらい、と思えばいい)について「余裕と、深刻な事態に瀕しても失われることのない冷静さの中から、あの独特のユーモア感覚も生まれてくる」と述べている。一斑を見て全豹をトするつもりはないもの、私としても、頷きたい指摘だと思う。【評者 文芸評論家 阿久根利具】






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