メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年1月13日~1月20日
| 世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す | |
![]() | ジョセフ・E. スティグリッツ Joseph E. Stiglitz 楡井 浩一 徳間書店 2006-11 売り上げランキング : 260 おすすめ平均 ![]() アメリカのずるさを知った 現実的で前向きな政策提言に注目 割り引いて読むならばAmazonで詳しく見る by G-Tools |
米国政権の中枢にいたノーベル賞経済学者の告発
グローバリゼーションは世界中にアメリカのやり方を押し付けるものであり、貧しい国をますます貧しくする。それは先進国に有利なように不公正な貿易を推進し、地球環境を破壊している。そのうえアメリカは1日20億ドルから30億ドルも貧しい国から借金をして、その借金経済の上に立って富者はますます富んでいる。
かつてクリントン大統領の経済諮問委員長をつとめ、世界銀行の上級副総裁をしていた有名な経済学者がこのように告発する。前著『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(徳間書店)に続いて、今回の本では体系的に、そして徹底的にアメリカが推進しているグローバリズムのやり方を批判している。
問題は、そのグローバリズムを推し進めているのはいったい誰か、ということである。それは直接的にはワシントン・コンセンサスを推進しているアメリカ財務省やIMF、世界銀行のスタッフかもしれないが、その背後には多国籍企業といわれる巨大株式会社がある。
そこで本書ではこの巨大株式会社にメスを入れているところが注目される。グローバリゼーションがこのように事態を悪化させているのは、株式会社が株主有限責任であるということにあるのではないか、という根本的問題を提起する。インドやパプアニューギニアなどで事故を起こし、多くの死者や怪我人を出しても、会社は刑事責任を問われない。もちろん株主の責任など誰も問題にしないが、そのこと自体がそもそもおかしいのではないか。たとえば環境破壊などでは株主にも責任を負わせるべきではないか、という。これは株式会社の根本にかかわる大問題だが、第7章でこのような問題を提起している。
この改革案として、たとえば経営者に刑事責任をとらせるべきだともいう。情報の経済学が専門である経済学者がグローバリゼーションという現実に立ち向かっていくなかで、株式会社の基本を問うようになったということに時代の大きな変化を感じるとともに、経済学のあり方が変化を迫られているということを強く感じさせられる。
著者はグローバリゼーションそのものに反対しているのではなく、その進め方を批判しているのだが、それにしてもアメリカ大統領のスタッフとしてそれを推進する立場にあった人からこのような激しい告発を聞くことに、異様な感じを持つ読者もいるかもしれない。
日本にも政府の御用学者になっている経済学者はたくさんいるが、そのような人からこの本の著者のような政府のやり方に対する批判を聞いたことがないのはどうしたことか。【評者 奥村宏 株式会社研究家】
ジョセフ・E. スティグリッツ Joseph E. Stiglitz
経済学者。2001年ノーベル経済学賞受賞。1943年生まれ。マサチューセッツ工科大学、イェール大学教授を経て、コロンビア大学教授。クリントン政権時代の経済諮問委員会委員長、世界銀行上級副総裁など歴任。
| グーテンベルクの時代―印刷術が変えた世界 | |
![]() | ジョン マン John Man 田村 勝省 原書房 2006-10 売り上げランキング : 436354 おすすめ平均 ![]() 焦点が定まっていない印象Amazonで詳しく見る by G-Tools |
印刷で世界を変えた男グーテンベルクの謎に迫る
ルネッサンス期の三大発明といえば、印刷術、火薬、羅針盤であり、これらは確かに世界の秩序を変えるほどのものであった。これらの発明の中で、今なおその生彩を放っているのは、美術と技術の極致といわれるグーテンベルク聖書である。
だが、この聖書を製作したヨーハン・グーテンベルクの生年はよく分からず、彼の生まれ故郷ドイツ・マインツが主張する1400年説を採用している本書によると、彼の過ごした青年期は、3人の教皇が併存する「大分裂」の時代であった。
こうした茶番のごとき教皇の権威失墜は、例えば、教皇派対反教皇派、ドイツ皇帝対教皇、軍閥対教皇、カトリック対フス派、教皇対枢機卿会議といった対立や反目を引き起こしていた。当然、これに対して、教会の統一を求める運動が起こる。神の創造物にも統一性がなければならない、とする「反対物の一致」という理念である。その道具の一つが、活字になった神の御言葉であろう。聖句の統一、完璧な聖書の必要性が叫ばれる。かくして、グーテンベルクの発明した活版印刷術が登場することになる。
ところで、マインツの有名な家系の出身であるグーテンベルクが製作の対象に聖書を選んだのは、こうした宗教的理念ではなく、また、人類と社会の発展に邁進するという理想主義的な情念でもなかった。ヨーロッパ全域にわたる教会や支配者という市場にアピールするための聖書を製作したのだった。つまり彼はビジネスマンとして大儲けを夢見た資本主義者だったのだ。しかし、ほぼ一世紀後、宗教改革の大波が北ヨーロッパを席巻し、一時はカトリックのお気に入りだったグーテンベルクが、今やプロテスタントの英雄となってしまう。歴史の皮肉というべきなのであろう。【評者 川成洋 法政大学教授】
| 間違いだらけの公務員制度改革―なぜ成果主義が貫けないのか | |
![]() | 中野 雅至 日本経済新聞社 2006-09 売り上げランキング : 39736 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
批判される公務員制度改革の方向は
公務員に対する非難は止まらない。公務員制度をどのように改革したらよいのか。
現在の改革案は、官邸に国民の英知を結集するというような提案が多いと著者は言う。確かに、安倍内閣の官邸は、このようなものを目指しているのかもしれない。しかし、著者は、政策決定過程に深くコミットさせられた公務員像には違和感を持つという。「大臣を補佐官として支える官僚」というような政治権力への野心を秘めた官僚像には別れを告げるべきだという。
代わりに著者が提示するのは、専門能力や業務執行能力で勝負する公務員である。業務執行能力というのは分かる。だが、中立的な専門能力というものがあるのだろうか。すべての政策は価値観と利害対立を含む。公務員は、ある政策の利点と欠点を整理するコンサルタントになるということだろうか。
現状では、価値観と利害対立を含む政策案を、政官財の関係者に、なんとか根回しして通すことが上級公務員の仕事であり、能力である。この仕事から公務員を解放すれば、政治家が価値観と目的を組織に注入し、利害調整を行うべきとなる。公務員は、その目的に従うコンサルタントと執行部隊になる。これはこれですっきりしている。
しかし、国民が公務員を批判するのは、岐阜県、奈良市、社会保険庁などのスキャンダルのゆえだろう。国民が知りたいのは、どうすれば民に選ばれた政治家の規律と監視能力が高まるのかなどではないか。普通の人々が知らない公務員の制度や仕組みが書いてあるのは、情報として価値がある。しかし、これらのことをどう改革するのか。官の不祥事が起これば局長や事務次官に責任を取らせるなどの興味深い提案があるが、その方策は、必ずしも明確ではないように思われた。【評者 原田泰 大和総研チーフエコノミスト】
| フィデル・カストロ後のキューバ―カストロ兄弟の確執と「ラウル政権」の戦略 | |
![]() | ブライアン ラテル Brian Latell 伊高 浩昭 作品社 2006-12 売り上げランキング : 79207 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
キューバ革命のカリスマ指導者、フィデル・カストロ。他の共産主義国の「創業者」が代替わりする中で、フィデルのみが、その座を守ってきた。だが、そのフィデルも2006年7月に病に倒れ、その座を弟のラウルに譲った。80歳のフィデルの復活はもはやなさそうだ。
フィデル後のキューバはどうなるのか。CIAや国家諜報会議(NIC)で、36年間もフィデルとキューバを分析してきた著者が、カストロ兄弟の生い立ちや、革命運動への参加、さらには権力を握った後の二人の不和などを記述する。
フィデルは富裕な地主の息子に生まれ、イエズス会の学校で教育を受けた。イエズス会の教育を受けたことで、その後の政治家としての素質をつくった。こうしたフィデルの足跡の記述は興味深い。
兄の陰に隠れていたラウルだが、著者は兄に劣らない優秀な政治家だという。ラウルはキューバをどこに導くのか。
| 万年筆ミュージアム―歴史と文化に触れるモノ造り | |
![]() | 渡辺 順司 丸善プラネット 2006-12 売り上げランキング : 20671 おすすめ平均 ![]() 秀逸な万年筆本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
万年筆、実に懐かしく貴重な筆記具だ。これが発明されたのは、イギリスで1808年。それほど古い歴史ではない。また、「万年筆」という名称は、作家・内田魯庵がつけたと言われている。
それにしても、万年筆は、他の筆記具に比較するなら、書くための道具というより工芸品として人の「琴線に触れる」要素を包含し、その背景にある歴史や文化との関わりが非常に強い。
機能的な合理性・合目的性の観点からは、一般的な筆記用具としての役目を失いつつある万年筆を、本書では、マーケティング的視点から捉え、「モノ造り」と「消費者像」の両面から調査・分析している。
第一部では、テーマ別に各万年筆の素材やクラフトマンシップの解説を、第二部では、シリーズとして造られた万年筆の全体像と個々の解説を、そして第三部では、万年筆という世界を超越させる歴史・文化・モノ造りを中心にビジュアルに解説している。
| 渾身のシニア | |
![]() | 高森 真士 東邦出版 2006-12 売り上げランキング : 231907 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
この小説のテーマは、さしずめ「還暦の青春像」であろうか。この7人は小学校時代の同級生で、毎年1回集っている。あるとき今や夫に先立たれ一念発起して公認会計士をしている弓代が、20歳の独り息子の太郎が大学受験に失敗し、ヤクザの組に出入りしていると打ち明ける。
彼をヤクザから奪還するために、級友の空手師範の修平の指導のもとに、4人の男が「還暦ファイターズ」を結成。道場の合宿、沖縄遠征稽古などをこなす。
いよいよ、修平と「還暦ファイターズ」がそのヤクザの本部に乗り込み、元プロレスラーの用心棒に妨害されるが、太郎の奪還には見事に成功する。
だが、これには、後日談があるのだ。修平は、主治医から言われた前立腺がんの手術を拒否し、そのために命を落とす。没後5年に開封された彼の手記には、他人には言えない彼の苦い半生が綴られている。ああ、ここにも人生があると思った。
ラバウル戦犯弁護人―報復裁判に立ち向かった日本人
松浦 義教
本書を読んで、「兵隊に取られることもない。そうだ、私は貝になりたい」と叫んで、13階段ある絞首台に登った元日本兵の姿が二重写しとなって思い出された。もう50年ほど前のテレビドラマ、あのフランキー堺が演じた『私は貝になりたい』である。
そして、毎年夏になると、喧しく騒がれ、秋風とともに終息するA級戦犯の合祀問題。だが、その恒例行事の中で、われわれは忘れていないか、これらの理不尽な絶対的な命令に従ったために告発され、何ら弁明の機会も与えられず無慈悲にも処刑されたB級、C級戦犯のことを。
本書は、敗戦直後にラバウルの戦犯裁判の弁護人に指定された著者が秘密裡に持ち帰った克明な日記、それに処刑された人々の遺書が組み込まれたものである。はからずも戦犯死刑囚となった百人余りの人々は、この己の不条理な運命をどう受けとめたのであろうか。本書の持つ意義は実に重い。
| 福澤諭吉 国家理性と文明の道徳 | |
![]() | 西村 稔 名古屋大学出版会 2006-12 売り上げランキング : 637953 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| プレイバック1980年代 | |
![]() | 村田 晃嗣 文藝春秋 2006-11 売り上げランキング : 15071 おすすめ平均 ![]() これぞ現代日本史! ミレニアムに80’sのデジャブを見る。 青春を振り返る1冊Amazonで詳しく見る by G-Tools |
竹内洋の読書日記 第4回
福沢諭吉の「交際の教養」に納得 日本人の輪郭を取り戻すには
○月×日――
数日前、セブン‐イレブンで買い物をしていたときの出来事。会計の近くに3人ほどの女子高校生がいた。並んでいるのか、たむろしているのか、わからないので、彼女たちを抜いて品物をカウンターに差し出した。女子高校生たちは、「おやじっ!」と憎々しげな声をあげた。「(並んでいるとおもわなかったので)、ごめんなさい」とあやまったが、彼女らの不満げな表情は収まっていなかった。
そういえば、「おやじ」とか「おばん」とか、罵倒、軽蔑用語は巷に氾濫していても、「おじさま」とか「おばさま」という尊称語はちかごろさっぱり聞かない。理想的人間像が輪郭を失っているからではないだろうか。「紳士」や「淑女」、「教養人」とは何かについて、もっと考えられるべきであろう。
その意味で西村稔著『福澤諭吉 国家理性と文明の道徳』(名古屋大学出版会)は分厚いが、大いに読みごたえがある。
世に実学主義とか、はては拝金主義とまでいわれている福澤の思想を丹念に読み取っている。伝統的な士風とアングロサクソン流紳士のコンセプトをもとに、智力だけでなく道徳や作法の教養を含んだ文明人像彫刻にむけての福澤の試みを、「社会的教養」と「交際の教養」としてひろいあげているくだりが圧巻。
「日本における教養が作法を含んでおらず、そのために一般国民が参照すべき模範が形成されなかった」という著者の結論部に線を引いた。読書にだけ特化した教養主義が没落したのも宜なるかなである。
○月×日――
通勤途上に立ち寄るいつもの本屋で村田晃嗣著『プレイバック1980年代』(文春新書)をみつけ購入。
村田さんとはある研究会で二回ほど、ご一緒したことがある。会が終わって、飲み屋に向かって梅田界隈を歩いていると、サラリーマンが彼に握手をもとめてきた。短い時間にそんなことが数回あった。あらためてテレビのすごさを感じたものである。
テレビでみる村田さんと同じで、研究会のコメントは明快で颯爽としていた。本書も村田さんらしい本。
F・L・アレン著『オンリー・イエスタデイ』(1931年)や山崎正和著『おんりい・いえすたでい 60s』(77年)の衣鉢をつぐ1980年代論。
敗戦後、日本は再び、「坂の上の雲」を上りはじめ、1980年は上りつめた時代だった、と著者はいう。今は1980年代の元気をなにほどか取り戻さなければならないにしても、80年代に日本人が「自省」と「自制」を忘れたのではないか、と大いなる警告をしている。「一九八〇年代を過度の楽観が支配したとすれば、一九九〇年代には過度の悲観が支配していた。今や両者のバランスを回復すべき時期である。二つの『じせい』を忘れずに……」と記述する。
本書の特色は60年代からせりあがってくるサブカルや大衆文化に大きな紙幅がさかれていることだ。山口百恵の引退も、たけしの『FRIDAY』編集部への殴りこみにも触れられている。パンダを見るために母につれられはじめて上京したことなど自分史も織り交ぜての叙述によって、あの時代の空気が蘇る。新感覚政治学者の面目躍如の好著だ。
たけうち・よう 関西大学文学部教授。1942年新潟県生まれ。65年京都大学教育学部卒業、93年京都大学教育学部教授。2005年京都大学を定年退官。
| 妻が得する熟年離婚 | |
![]() | 荘司 雅彦 朝日新聞社 2006-10 売り上げランキング : 46823 おすすめ平均 ![]() 離婚の原因は結婚にある 法律書版「世にも不思議な物語」 タイトルに難あり?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
年金分割のXデーが来る熟年離婚は急増するのか
定年退職が間近となった夫がいる妻からの離婚相談は確かに増えている。しかし、相談にとどまることが多い。理由は、主として独立した世帯を持つことに対する経済的不安からのためらいである。最近、新聞・雑誌などで、熟年離婚を希望する妻たちは2007年春から始まる年金分割を待っており、塾年離婚が急増するのではないかと予想する記事を多く見かける。
評者は、この点については、かなり疑問を持っている。年金分割によって妻が得られる年金額は、独立した生計を支えるにはほど遠く、分割された年金だけで生活していけるとは思えないからである。住居があることを前提としての年金生活であり、年金で住居費も賄わなければならないということでは離婚後の生活は成り立たない。夫も妻も離婚には合意しているのに住居の確保ができず離婚できないという現実もある。
私は、相談者である妻に対して、離婚を実行に移す前に、一人での生活が成り立つようにするための十分な準備をするようにアドバイスしている。具体的には、離婚時にまとまった資金を持つこと、離婚後の住居を準備すること、離婚後の生計を立てる方策を見つけておくことなどである。
本書は、法律上の離婚手続きに進むことを選択した妻に対して、どうすれば「正当な」金銭的解決を得ることができるかについて、多角的にそのストラテジーを提供している。妻が「得する」というネーミングは若干ミスリーディングであり、離婚に際して本来得られるもの以上の経済的成果を得られる方法が本書の中に書かれているわけではない。ただ、読者は、離婚を勝ち取るにあたって、どのような武器を持ってどのように戦うのが効果的か、のヒントを本書から得ることができるのである。
筆者は、本書が「お買い得本」であることを強調している。確かに、本書は、熟年離婚の当事者に特有な問題や直面する様々な問題を取り上げている。これらを五つの物語に構成し、各物語の中で、妻が弁護士の助言を受けつつ、いかに実りある成果を上げたかを語っている。その物語で取り上げた問題点の理解を促すために各物語の最後には「確認問題」が付いており、読者は、各問題点について自分の考えを整理できるようになっている。
本書は、離婚手続きを知り、直面する問題の対処方法を知るための手引書としてとても良くできており、お勧めできる。
退職後、元気なうちは家政婦として、また病に倒れた後は介護要員としてしか妻を見られないような夫は、この春、心しておいたほうがよいかもしれない。【評者 波多野曜子 弁護士】
| ザ・ファンドマネジャー その仕事と投資哲学 | |
![]() | 依田 孝昭 日経BP社 2006-10-19 売り上げランキング : 2937 おすすめ平均 ![]() 職業としてのファンドマネジャーを知るために 散漫な印象 ファンドマネジャーを志す若者へAmazonで詳しく見る by G-Tools |
投資信託の実態を描く的確な運用のガイドブック
「貯蓄から投資へ」の掛け声の下、世はまさに投資信託ブームだ。それゆえ投資に関する本もあまたあるが、30年余りにわたり運用経験を有するファンドマネジャーが書いた本は希有であろう。筆者は日系投資顧問会社から外資系まで運用一筋に歩んできた。その貴重な経験を基に運用哲学、投資戦略、リスクとリターン、など概念だけでなく実際の体験を織り込んだのが本書だ。
ファンドマネジャーとは投資の意思決定をするのが仕事であり、決断力、論理的思考能力、精神的なタフさ、などが素養として必要とされる。自信をもって判断しても、間違えたと思ったら素直に認め、軌道修正する勇気も必要だ。失敗から多くを学ばなければならない。
株式の個別銘柄の選定にあたって筆者は、「特殊な能力はいりません。ただ、他人が気のつかないこと、考えつかないことを、人より少し早く思いつくことが大切」だというが、これができれば運用者としては大成功だと思うが、実際は多くの投資信託の運用成績が市場平均を上回っていないという現実を見ると「他人より少し早く思いつく」のは、やはり相当困難なことではないか。これは努力によって可能となるのだろうか。
ところで日本の最大規模の投信である、「グロソブ」の創設期に関与した筆者によれば、ファンドの収益の約20%も信託報酬として差し引かれ、残りが分配される。また運用金額が増加するにつれ規模のメリットを生かし、本来顧客から徴収する信託報酬を減らすべきなのに、販売会社の取り分が増加していくということが述べられている。販売会社の論理がすべてに優先しており、これでは個人投資家は浮かばれない。こうした記述は、運用を目指す人にとって有益なガイドブックとなろう。【評者 鷹真琴 ファイナンシャル・コンサルタント】
| 中原の虹 第一巻 | |
![]() | 浅田 次郎 講談社 2006-09-26 売り上げランキング : 15368 おすすめ平均 ![]() まず蒼穹の昴を読んでから あいかわらず・・・ 続編は本編を越えることも、あるかもしれない!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 中原の虹 第二巻 | |
![]() | 浅田 次郎 講談社 2006-11-02 売り上げランキング : 2000 おすすめ平均 ![]() まず蒼穹の昴を読んでから ドラゴンボールをめぐる物語 面白いの一語ですAmazonで詳しく見る by G-Tools |
文句なしに面白い清朝末期を描く大河ドラマ
また新たな名作が生まれた。
浅田次郎氏の手になる中国、清朝の歴史ロマン『中原の虹』は第一級の古典かつ悦楽小説である。本書は、西太后に仕える宦官、李春雲(春児)を主人公とする『蒼穹の昴』の続編であり、新たな主人公として、春児の兄である李春雷(雷哥)が登場する。雷哥は故郷を捨て、馬賊となり、あるきっかけで歴史的人物の配下となる。その人物とは、張作霖である。歴史の教科書では「張作霖爆殺事件」(関東軍が日中戦争を拡大するために仕掛けた謀略とされる)にしか登場しない張作霖だが、本書では縦横無尽の活躍をする。
通説である軍閥の棟梁、馬賊のリーダー(大攬把)という常識をはるかに超えて、伝説の龍玉(古代より中国の王、皇帝に引き継がれた巨大ダイヤモンド)を探し求め、中原に覇をとなえようとするのである。
しかし、この張作霖、そして配下の雷哥たち馬賊は、巨悪・袁世凱(清朝を倒してできた中華民国の第2代総統)に比べ、権力欲の薄い愛国者、民衆を救う義賊として描かれている。馬賊の従来のイメージとは異なり、彼らの言動は実に爽やかで潔い(非情でもあるが)。
ビジネスマンにとってよい歴史小説とは、単に息抜きとして読めるだけでなく、組織運営の教訓や仕事上のヒントを引き出すことのできるものだ。その意味では、本書は数ページごとにそうした啓示や閃きが隠し味としてまぶされている。
姉妹編『蒼穹の昴』の主人公、春児も西太后も本書にわずかだが登場する。そして、幽閉された光緒帝が、重要な役割を果たすのも見どころの一つだ。また雷哥の相棒となる馬秀芳と彼が捨てた妻(賛賛)との悲恋も涙を誘う。一冊の本の中に三冊分、四冊分の人間模様が凝縮されている。【評者 津田倫男 フレイムワークマネジメント代表】
| ヒトラーの女スパイ | |
![]() | マルタ・シャート 上田 浩二 菅谷 亜紀 小学館 2006-09-28 売り上げランキング : 207410 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
第2次大戦期の「事実は小説より奇なり」的な人物といえば、躊躇せず、本書の女性主人公を挙げたい。
ウィーン生まれのユダヤ人少女シュテファニーが、美貌と野心を武器にプリンスの称号を持つ青年貴族と結婚し、やがてヒトラーの寵愛を受け、ロンドンに赴いて、親独派の上流階級の間で英独融和を求める「ヒトラーの女大使」として振る舞う。
第2次大戦の勃発直後、ヒトラーと訣別し、イギリスから国外追放され、アメリカに亡命するが、日本軍の真珠湾攻撃後に逮捕される。戦後、釈放されたが、彼女ならではの華やかな輝きは無残にも消えうせてしまっていた。それでも、かつての人脈を生かしてジャーナリストとして活躍する。
彼女がユダヤ人を殺戮した張本人ヒトラーの側近になれたことも不思議であるが、彼女を取り巻くイギリスやドイツの高官たちの動きも信じがたいほど意外であり、面白い。
| 公民連携白書〈2006~2007〉「官から民へ」の次を担うもの | |
![]() | 東洋大学大学院経済学研究科 時事通信出版局 2006-12 売り上げランキング : 18600 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
民間がビジネスとしてできる仕事なら民営化するのが当然だが、そうできない仕事も多い。刑務所は民間でも運営できるが、受益者(犯罪者の減少で利益を得る国民)から料金を徴収できない。公の関与がどうしても必要で、民が生産した刑務所サービスを公が購入するということになる。
日本より公の関与が小さいと見られている米国で、都市再生計画の土地購入リスクの負担は官が負う場合が多い。官が土地を買収し、民に賃貸してまちづくりをする例もある。このように、官と民が相互に責任を果たすすべてのケースを公民連携と総称する。
本書は、官と民が、適切に役割を分担するように制度設計することが重要だという。設計の過程で、公の関与がないほうがよいなら民営化となる。民にリスクを全面的にシフトしたが故に経営が破綻したケースもあり、制度設計は、具体的かつ微妙にデザインされる必要がある。現場のデザイナーに有益な事例集。
| 食は医力―元気になる毎日の食卓 | |
![]() | 浅野 純次 教育評論社 2006-12 売り上げランキング : 148366 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
かつて本誌に「医は食にあり」という連載があった。食物や健康にまつわるエッセイ風の1ページコラムで、評判がよかったせいか、4年、200回も続いた。
そのうちから99編を選んで手を入れ直したのが本書である。「モンシロチョウとキャベツと胃潰瘍」から始まって「夏ばてにはウナギか穴子か」「黒髪願望は平安の美女に限らない」「キンピラゴボウの秘密とは」「されどモヤシは強し」など、2ページ読み切りの話題が続く。どれも、多彩なうんちくとともに気楽に楽しめてあきさせない。
その前文というか総論というか、著者の家庭の食生活が紹介され、健康を守るための10カ条が述べられる。著者の食のスタイルは緩やかな菜食だが、伝統的な料理法を大事にした、添加物の少ない食でもある。
食の乱れ、孤食と対比させて、昔風の食のよさの指摘が随所に見られるが、何よりも「食」は楽しくあらねばならないという強い思いが行間に感じられる。
| 図解「世界の紛争地図」の読み方―テロ・内戦・動乱…なぜ起こり、どうなったのか | |
![]() | 造事務所 PHP研究所 2006-12 売り上げランキング : 19635 おすすめ平均 ![]() 簡略に過ぎる 簡潔で分かりやすいAmazonで詳しく見る by G-Tools |
20世紀は「戦争と革命の世紀」と呼ばれたが、21世紀も平和とはほど遠く「テロと紛争の世紀」であり、とりわけ「テロ」によって無数の無辜の民が犠牲になっている。2001年9月11日の同時多発テロ事件は、アラブのテロ組織がなんと世界最強の国家の屋台骨を揺るがしたのだった。しかも、こうした「テロ」は積年の恨み以上の場合がある。したがって、われわれはこうした「テロや紛争」がどこでどうして勃発するのかを過去の事例から学び、さまざまな教訓を得ねばならない。
本書は、アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカの四つのゾーンに分けられている。なるほど、おのおのの「テロや紛争」の原因が異なり、それなりに対応も異なるからである。
現在、日本人は世界狭しとばかりに出かけており、「テロや紛争」の犠牲者になるかもしれない。無防備な日本人、というレッテルを返上する意味でも、本書は役に立つ。
| ビゴーが見た日本人―諷刺画に描かれた明治 | |
![]() | 清水 勲 講談社 2001-09 売り上げランキング : 99937 おすすめ平均 ![]() 日本人が眼鏡で出っ歯な理由 今も昔も日本人 日本人は今でもさほど変わっていないAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| 明治東京風俗語事典 | |
![]() | 正岡 容 筑摩書房 2001-02 売り上げランキング : 95723 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
世相画や風俗語から古き良き明治時代を偲ぶ
ここ数年、日本の社会全体に閉塞感が渦巻いているようだ。何もかもがさながらタガが緩んだごとく、駄目になっている。政治家の収賄、中・高生の殺人、小学生の自殺などなど。これでは先が全く見えない。日本人はもっと、おおらかで真面目だったはずだ。今一度、近代日本の礎となった明治時代を回顧してみたいと思う。
現在、高校の日本史の教科書にも載っているフランス人画家、ビゴーの描いた明治中期の報道画、世相画、風刺画、風俗画を取り上げよう。
彼は1882(明治15)年に来日し、その年から2年間、陸軍士官学校画学教師となる(どうして、士官学校生に画学が必要なのであろうか。いや、これは、当時、最重要な兵学課程の一つ、といっておこう)。そして1899(明治39)年に帰国する。
『ビゴーが見た日本人――風刺画に描かれた明治』『ビゴーが見た明治ニッポン』(いずれも、清水勲著、講談社学術文庫)には、さまざまな日本人が登場している。「エリートの集り」「三島警視総監の金の分配」「外国熱の流行」は、現在の政界と同じく醜悪であり、「自殺死体を運ぶ人々」「下駄泥棒」「かんざし泥棒」「家族で入浴」は、明治の風俗を彷彿させる。
また、『明治東京風俗語事典』(正岡容著、ちくま学芸文庫)には、ずばり明治時代に流行した言葉が収録されている。言葉は生き物であり、従って死語も当然ある。「勧工場」は、大都市にあるデパートの小さいもの。「くさをはやす」は、衰えさせること。「そうごうか(総後架)」は、裏長屋にあった共同便所。「らしゃめん」は、外人の妾のこと。「ピラミイデ」は、ピラミッドのことで、明治東京語はこう発音し、「大石塚」と書いて、カナをふった。
「ホトコン」は、辻褄が合わないこと。衆議院議員が「矛盾」という字をホトコンと読んで以来、こう使われた。
それにしても、近代日本の黎明を告げる明治時代の政界は、停滞と言うべきか、現在とあまり変わっていない。【評者 阿久根利具 文芸評論家】














散漫な印象






簡略に過ぎる

