メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年11月3日~11月10日

京都花街の経営学
京都花街の経営学西尾 久美子

東洋経済新報社 2007-09
売り上げランキング : 384

おすすめ平均 star
star知らなかった。そんな社会だったんだ
starあきまへん
star今に生きるダイナミズム

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究極のサービス産業 京都花街のシステムを解明

京都と聞けば、白塗りに艶やかな着物姿の舞妓さんを思い浮かべる人も多いだろう。日本髪に着物姿、踊りや唄などの芸事を継承する京都の花街は、日本文化のラストリゾートといった感がある。

花街はかつて日本全国に存在したが、時代の移り変わりとともに、ほとんどが姿を消してしまった。東京や大阪といった大都市でさえ、花街は縮小傾向にある。ところが京都だけは例外のようだ。

なぜ京都は衰退を免れることができたのか。それが本書の問いである。京都の花街を単に伝統文化の息づく場所としてのみとらえるのではなく、お客に「究極のくつろぎ」を提供するサービス産業として、またお茶屋や置屋、関連業者の取引関係によって結ばれた地域産業としてとらえることで、その強さの秘訣を解き明かそうとする。

あとがきによれば、著者は5年間にわたって京都の花街を調査し、お茶屋にも何度も足を運んだそうである。かなり身銭を切ったのではないかと想像されるが、その経験が本書の記述に厚みを加えている。イラストや写真、小さなコラムも充実しており、読んでいるだけで花街の人間になったような気分になる。

産業として見た場合、花街は究極のサービス業である。唄や踊りといった芸事でお客を楽しませ、客の好みに合わせて料理や会話を提供し、お座敷を組み立てる。そこで働く女性たちは芸事の習得だけでなく、お客の心を読んで敏速に応対する機転も求められる。京都花街の競争優位は、こうした高度な専門技能を持つ人材を継続的に育成できた点にある。

人材育成の継続がいかに難しいか、日本の伝統産業の全般的な苦境を見ても明らかだ。個人主義化が進んだ今日では、厳しい修行に耐えかねて、途中で辞めてしまう若者も多い。

京都花街の場合は、共同体全体でこの問題を解決している。お茶屋と置屋を分業し、置屋が集中的に教育を請け負う「仕込み制度」、贔屓(ひいき)筋のお客に育ててもらう独特の文化、「女紅場(にょこうば)」による公的な技能育成など、人材育成の仕掛けが何重にも張りめぐらされている。

成果主義の評価制度もあるというから驚きだ。一年に一度、売り上げに応じてお茶屋や芸舞妓の成績を発表するのだという。サービスの質を客観的に評価する制度があるため、価格を下げなくても顧客がついてくる。ともすれば時代遅れの地域共同体と見られがちな京都の花街だが、本書を読むと印象ががらりと変わる。伝統産業の再生に関心のある読者にも、一読をお勧めしたい。【評者 滋賀大学経済学部准教授 柴山桂太】

■2007/11/10, 週刊東洋経済

年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)
年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)盛山 和夫

中央公論新社 2007-06
売り上げランキング : 9608

おすすめ平均 star
starま、社保庁の仕事振りに腹が立つのは、誰しもなんですが…
star明確で確実な予測?
star大筋賛成

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公的年金制度は維持できる そのための制度設計は

2050年。人口の4割以上が65歳以上の高齢者になるとの予測がある。日本の公的年金制度ははたして持ちこたえることができるのか。そんな不安が専門家たちの間でも広がっている。

年金制度を維持するためには、消費税を15%に上げて基礎年金を支給すべきではないか。今の賦課方式をやめて積立方式にすべきではないか。民営化してもよいのではないか。

さまざまな議論がマスコミを賑わしているが、実効的な改革はやはり、今の年金制度を改良しながら維持することだと著者は指摘する。

年金制度は、国防や治安と並ぶ重要な統治機能であって、国家は国民の支持を得るためにも、絶対に損をさせない仕組みを作る必要がある。本書はそのための理路を鮮やかに示した労作だ。年金制度が破綻する不安など、本書を読めば吹き飛んでしまうだろう。

たとえば現在、国民年金の未納率は35・9%にも達している。しかし、著者によれば、国民年金は基礎年金の10%程度にすぎず、国庫負担などを含めた年金収入全体の2・6%にすぎない。

またもし未納者が年金を完納すると、今度は支給すべき年金が増えてしまい、余計に負担がかかる。制度的にはたとえば、14%程度の高齢者が無年金の生活保護者になったほうが、年金制度に負担がかからない。だから未納は、制度の収支改善にとって本質的な問題ではないというわけだ。

正しい年金制度の理念は、自己責任原則でも共同体的相互扶助でもなく、「現役時代の貢献度に応じた老後の権利」であり、これを国家が保障すべきというのが著者のリベラルな主張である。年金論議の新たな教科書になる一冊だ。【評者 北海道大学経済学部准教授 橋本 努】

■2007/11/10, 週刊東洋経済

エスピオナージ
エスピオナージ麻生 幾

幻冬舎 2007-08
売り上げランキング : 13650

おすすめ平均 star
star一気に読みました、でも・・
star湘南ダディは読みました。
starリアルな諜報小説

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本格的なスパイ・ハンター小説、息詰まる追跡劇

1991年のソ連の崩壊とともに、秘密警察KGBが解体された。だが、KGB後継機関として改編されたSVR(ロシア対外情報庁)の初代長官プリマコフの回想記によると、解体後のKGB部員でイデオロギー的理由で転向したのはほぼ皆無だそうだ。つまり金銭的利益がその動機だったのだ。なんともスパイに対するロマンが醒めてしまうような話であるが。

それはそれとして、昨2006年11月、「スパイ王国」と言われるイギリス情報部とSVRとの熾烈な戦いが発生した。KGBの元中佐がロンドンで毒殺され、使用毒物はポロニウム210という時価10億円もする特殊な放射性物質と判明。

元中佐を殺害してロシアに逃亡した犯人をSVR工作員と特定した英国政府はロシア政府当局に犯人引き渡しを請求、ロシアはそれを拒否、やがて英ロ両政府の外交官追放へと発展した。

本書は、スパイを摘発する警視庁外事第一課が一人の白人を標的にする追跡劇で始まる。やがて、その白人はロシア人スパイであることが判明する。

しかも、SVR機関員と思われる日本人夫妻もそれに絡む。この二人はどうも拉致された日本人だ。だが、二人はその名前どおりの人物なのか。拉致・殺害・入れ替わり、これはKGB以来の常套手段だ。それにロシアで籠絡された日本人外交官の怪しげな動きが絡んでくる。

ロシア側のスパイ団は偽変造旅券を使って非合法に入国するイリーガル・スパイや、大使館員の身分のままのリーガル・スパイが入り乱れる。緊迫する場面はクライマックスへと盛り上がる。

はたして、警視庁とSVR工作員との死闘の結末は、いかに。現代的な装置を施した、実に壮大なスパイ・ハンター小説である。【評者 法政大学工学部教授 川成 洋】

■2007/11/10, 週刊東洋経済

インド―グローバル化する巨象
堀本 武功 (著)

インド本ブームである。都内の大型書店にはインドに関する本があふれている。この中で本書は、長年インドをウオッチした学者が、豊富な知識と経験を基にインドを多面的に論じている。格好の入門書だ。

きわもの的なインド本に飽きた読者にお勧めできる。

インドへの関心が高まっている理由は、インド経済の成長である。本書ではインドの経済成長の要因を分析しながら、その光と影、成長の持続可能性を論じている。

インドはイギリスからの独立後、1980年代までは、グローバル経済と隔離された社会主義的な国家主導の混合経済を実施してきた。それが経済の停滞の原因だった。

ところが、90年代に経済政策を大きく転換し、自由主義的なグローバル経済に参加する方向に変わった。

その結果、高い経済成長率が続いているが、農業の停滞と解消されない貧困という深刻な問題を抱えていると指摘する。

■2007/11/10, 週刊東洋経済

「兵士」になれなかった三島由紀夫
「兵士」になれなかった三島由紀夫杉山 隆男

小学館 2007-07-31
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おすすめ平均 star
star時を経ても消えない人
star兵士シリーズを読んだことのある人とそうでない人で評価が別れるかもしれないが・・・。
star三島由紀夫

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1970年11月、太平の世の真っただ中、東京・市谷の自衛隊に乱入した三島由紀夫が割腹自殺した。2・26事件に参加が叶わず割腹する青年将校を彼自ら演じて、大きな話題を巻き起こした映画『憂国』を彷彿とさせる事件であった。

三島は自殺する数年前、5回にわたって幹部上級課程に「レンジャー平岡」として体験入隊した。なぜ彼は自衛隊に接近したのだろうか。

本書の著者は、彼と直接関わった教官や訓練兵に市谷乱入事件を起こす前の彼の様子を取材するが、「営庭の国旗降下の夕影を孕んだ国旗と、夜十時の消灯喇叭のリリシズムの虜になった」彼の現実の自衛隊への絶望はもはやいかんともしがたかったという。

彼は「自衛隊は永遠にアメリカの傭兵として終るだろう」という予言を残す。現在、米軍と自衛隊の「一体化」が進行している。 三島の絶望的な予言はまさに正鵠を得ていたのである

■2007/11/10, 週刊東洋経済

冷蔵庫で食品を腐らす日本人 [朝日新書059] (朝日新書 59)
冷蔵庫で食品を腐らす日本人 [朝日新書059] (朝日新書 59)魚柄 仁之助

朝日新聞社 2007-08-10
売り上げランキング : 414

おすすめ平均 star
star一読の価値はある
star自立ということ
star環境問題に徹底したほうがよかったのでは・・・・

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1960年代に冷蔵庫が各家庭に普及してから約50年。日本人の食形態は激変した。われわれは今や、冷凍冷蔵庫なしでは暮らせない食生活を送っている。

著者は、必要量をはるかに超えた食品が詰まった冷蔵庫の現状を「冷蔵庫のトランクルーム化」と名づけ、その問題点を挙げていく。

著者曰く、「昔はお櫃に入ったご飯を保存するため梅干を入れていた。冷蔵庫がなくても長持ちさせる知恵を持っていたのです」。ところが冷蔵庫の普及によって、そうした食の知恵は、徐々に失われつつあるという。たしかに無計画に食材を買い込んでは冷蔵庫に入れ、いつの間にか賞味期限が切れてしまったという経験をした方も多いだろう。 

本書は1台の冷蔵庫の中身から、著者の食生活史、日本人全体の食形態の変遷、そこで失われる食の知恵へと話題を広げ、本当に幸せな食環境とは何かを考えていく。一読してから改めて自宅の冷蔵庫を開けてみたい。

■2007/11/10, 週刊東洋経済

サラダボウル化した日本 Welcome or Reject (光文社ペーパーバックス)
サラダボウル化した日本   Welcome or Reject (光文社ペーパーバックス)若林 亜紀

光文社 2007-09-22
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「サラダボウル」は米国NY市のように多様な人種がいて、しかも「るつぼ」のように溶け合わず、それぞれがコミュニティを作って生活している様を表す。

それがすでに日本でも起きていると著者は伝える。

東京・代々木にある日本最大のトルコ風イスラム寺院。マレーシア、バングラデシュなど出身国はさまざま。派遣で働いている人、日本人から差別を受けたと訴える人、それぞれの本音をうまく引き出している。

さらに東京・葛西のインド人コミュニティ、愛知県豊田市の日系ブラジル人団地、欧米外資系企業幹部の妻たちによる読書会などにも分け入り、彼らが抱える悩みに踏み込む。

「外国人技能実習制度」の問題点も指摘し「いつまでもあると思うな、外国人労働者」と警告を発する。

気がつけばどっぷり外国人に依存している日本。彼らがどのような思いで暮らしているのか、その日常風景をつぶさに描き出した渾身のルポだ。

■2007/11/10, 週刊東洋経済

新聞 資本と経営の昭和史 朝日新聞筆政・緒方竹虎の苦悩 (朝日選書824) (朝日選書 824)
新聞 資本と経営の昭和史 朝日新聞筆政・緒方竹虎の苦悩 (朝日選書824) (朝日選書 824)今西 光男

朝日新聞社 2007-06-20
売り上げランキング : 32310

おすすめ平均 star
star続編を望む

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新聞を経営の視点から分析 朝日新聞の抵抗と変節

これまでの新聞をめぐる議論は記事や論説を中心にしたものだった。しかし、それでは不十分だと著者はいう。

新聞を支える仕組み、すなわち、新聞の「下半身」ともいうべき経営の視点からの新聞史研究が必要だという。本書は、新聞の興隆期といわれた大正時代から昭和戦前期にかけて、日中戦争の長期化と戦時体制の強化によって新聞の自由が奪われ、新聞統制の結果、ついに国策新聞化してしまった「新聞の屈服」を、新聞経営の視点から検証しようとしたものである。

当時、ラジオは創業したばかりで、新聞は圧倒的な政治的影響力を持っていた。軍国主義化を急ぐ政府や軍部は、新聞の懐柔、国策化を狙ってあらゆる手段を講じた。こうした軍閥政府や軍部、右翼の攻撃に朝日新聞を代表して対峙したのが筆政・緒方竹虎だった。筆政とは新聞社の編集部門を掌握し、社を代表する者である。個々の記事に対する圧力に対応し、当事者の記者や大株主である社主への圧力を防いだという。

新聞は巨大な社会的存在だった。それ以前のゴシップを中心とする「小新聞」、政治的論説を主体にする「大新聞」に加えて、ニュースを中心とする商業新聞が生まれ、これが現在の大新聞へと発展していく。これらの新聞は戦前すでに300万部以上の発行部数を持つ巨大新聞だった。巨大であるがゆえに力を持ち、力を持つがゆえに権力の弾圧も受けやすい。

新聞は大正デモクラシーの先頭にも立っていた。軍縮も支持していた。大阪で創刊された朝日は後に東京にも本社を持つが、中国との安定的な通商を望む大阪財界の要望もあって、中国との平和を望んでいたという指摘は興味深い。しかし、満州事変に際して、朝日は満州国成立を支持する。ただし、一本調子に軍の暴走を支持する訳ではない。戦争のさらなる拡大や軍部の横暴に対して、大阪朝日が率直に批判的であったのに、東京本社は軍部、政府への情報収集を行いながら、社業を守り、新聞の自由を守ろうとする。

大企業が政府と対立してばかりはいられないというのは分かるが、朝日の変節を批判した清沢洌の論評の引用こそが的確だという印象を持った。

下半身にまつわる事実、権力者を巡るエピソードなど興味深い情報に満ちている。筆政・緒方の個人的な魅力も理解できる。しかし、緒方が権力と狡猾に闘ったというより、取り込まれたという印象は否めない。

暴力と金と新聞紙の配給権を握った相手に勝てない以上、そんな力を持った奴が悪いと単純に断罪した方が分かりやすかったのではないか。【評者 大和総研チーフエコノミスト 原田 泰】

■2007/11/03, 週刊東洋経済

同窓会の社会学―学校的身体文化・信頼・ネットワーク
同窓会の社会学―学校的身体文化・信頼・ネットワーク黄 順姫

世界思想社教学社 2007-05
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閉鎖的ノスタルジアが生み出す社会関係資本

同窓会に出ておもしろいことの一つは、意外性に出合うことではなかろうか。

学生時代は、いるかいないかさえはっきりしなかった女子が、華やかな有閑夫人に変貌していて、エっとうなること。逆に昔のモテ男が、見る影もなくなっている場合もある。昔、抱いた羨望と嫉妬感情の怨み?をはらしたりもできる。

そんなよこしまな感情を持って同窓会に出席していても、最後に運動会や対抗戦で必ず唄った応援歌を全員が肩を組んで大声で唄うと、「特別な性質がしみこんだ」過去が現前し、目頭が熱くなる。何十年も前の学校生活がすべて楽しかったわけではないにもかかわらずに、である。いったいこの感動は何に由来するのか。

同窓会会場は「擬似学校空間」であり、「運動会空間」となって集合的記憶が再生され、ノスタルジアが創出されるからだ、と本書はいう。

調査校は福岡県立修猷館高校。藩校から始まる名門校で、広田弘毅元首相や山崎拓衆議院議員などの母校。面接調査、学校史・文集の分析、質問紙調査によって、同窓会ウオッチを十数年も続けた成果である。

本書は学校愛の分析だけにとどまらない。同窓生の信頼を通じての人脈資本(社会関係資本)の形成と蓄積についてまで対象を広げている。

ある卒業生は、学校時代は目立たなく、友人も少なかった。しかし、卒業後同窓会活動に熱心に取り組み、しだいに同窓生の信頼を獲得する。彼が施設をつくりかけているといううわさが同窓会ネットワークで広がると、有形無形の援助がひきもきらなくなった、という。

「同窓生の過去の学校は、彼らの現在の学校であり、未来に開かれた学校でもある」と著者はいう。名フレーズである。【評者 関西大学文学部教授 竹内 洋】

■2007/11/03, 週刊東洋経済

現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書 (659))
現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書 (659))岩田 正美

筑摩書房 2007-05
売り上げランキング : 1016

おすすめ平均 star
star格差ではなく、貧困だ、と筆者は主張しますが、
star人権と連帯の問題として
starデータやヒアリングから貧困を分析

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現代の貧困、格差問題を考えるうえで格好の本

著者は怒っている。いや慨嘆しているというべきか。貧困はずっと存在し続けていたのに、最近になってワーキングプアや格差という言葉を使ってメディアや社会が騒ぎ出していることにだ。日本では貧困は解決されたものとしてきた。福祉国家を実現させてきた国々の中には、貧困の言葉の意味を再定義しながら貧困を「再発見」した国もあるのとはあまりに対照的だ。今頃になって再発見するのは遅すぎるし、取り上げ方自体がいかにも皮相だというのである。

格差と貧困は明確に区別される。格差はあくまでも「ある状態」を指す言葉なのに対し、貧困は「あってはならない状態」だと社会が発見しその解決を社会に迫っていくものだ。

では貧困とは何か。どのくらいの生活水準ならば貧困と見なされるのか。著者によると、貧困の歴史は貧困の境界設定についての歴史だという。この境界設定について、これまでの研究を踏まえ議論が整理されている。ここで見えてくるのは、貧困者には一定の社会的属性があるということだ。「誰もがワーキングプアになりうる」とメディアでは書きたてるが、実態はそうではなく、特定の人々(中学卒、未婚の継続、離死別、離職・転職者)が貧困に陥りやすい。

こうしたことが重なると、永遠に貧困から抜け出せなくなる。貧困は個人的資質に還元されるのではなく、個人のおかれた状況によるのである。

本書は日本の社会保障について、別の視点も与えてくれる。その一つが「保険主義」に偏りすぎている点だ。医療、年金、介護まで、保険主義があまりに徹底しており、これに替わる所得保障がきわめて手薄である。生活保護も対象者を厳しく制限しており、社会保険と生活保護の谷間に落ちてしまう人々がいる。こうした指摘も重要である。

■2007/11/03, 週刊東洋経済

城山三郎の遺志
城山三郎の遺志佐高 信

岩波書店 2007-08
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経済小説や戦争小説の旗手、城山三郎が亡くなって半年、回顧本が相次いでいる。「国家の大義を信じて十七歳で海軍に志願し、すぐにそれに裏切られて、以来、自分の時計は止まっている」。これが、作家城山三郎の原点なのである。

本書に収録されている「本の有難さ」によると、「食事は芋の葉や茎ぐらいなのに、士官食堂からは毎晩のように天ぷらや、すき焼きの匂い。忠君愛国の大義など、どこかへ吹き飛ばし、終戦とわかると、深夜、急いで毛布や食料などを持ち出して行った」と記されている。

本書の第2部「城山三郎という人間」には、内橋克人、吉村昭、平松守彦、高任和夫などの城山論。第3部「城山三郎からのメッセージ」は、土井たか子、杉浦日向子、佐高信などによる、5回の対談、鼎談。ことに「父親が読む教育論」は、単に親子の教育論だけではなく、社内教育に対する手厳しい指摘・提言も含まれている。

■2007/11/03, 週刊東洋経済

印刷業の7割は機械を捨てれば生き残れる!

著者は名古屋で印刷業を営む経営者である。パソコン、プリンタの発展でユーザーが手軽に印刷をすることができるようになり、街の印刷屋さんはそれこそばたばたと店仕舞いをしている。

こうした逆風に抗して新鋭機械を導入することで、活路を拓く経営者もいるが、資本コストが重くなり、やがて倒産に追い込まれる。

では、どうすれば生き残れるのか。著者は機械を捨てろ! と語る。その心はハード志向を捨てて、印刷業は街のかかりつけ医のような身近な存在となり、ユーザーの問題解決を図ることで付加価値をもらう、というソフト重視の経営に転換することだ。

受注を待っている印刷屋からソリューションを実現する印刷屋への転換は、その通りだろう。

本書は現場の経営者のひらめき、ヒントがあり、興味深い。ただ、難点は編集のせいか、話が飛びすぎて読みにくい点にある。

■2007/11/03, 週刊東洋経済

インドを知る事典
山下 博司 (著), 岡光 信子 (著)

経済発展の続くインドと中国に関心が高まっている。インドと中国を合わせると世界人口の約4割を占める。温室効果ガスの17%を両国で排出する。両国とも核保有国である。両国の動向が世界に大きな影響を与える。

中国と同じくインドも古くて新しい国である。日本人はインド発祥の仏教を信じており、カレー料理は食事の定番になっている。

それにもかかわらず。われわれはインドについてあまり知らない。本書は、インドについて包括的に書かれたガイドブックである。

各章ごとに国土と自然条件、州と言語、インドの歴史と宗教、インドの「衣」、インドの「食」、インドの「住」が記述され、情報を整理するのに格好の本になっている。

インドの産業と環境問題の章では、注目のIT産業やマールティ・スズキ車の快走などホットなテーマが記述されている。

これ一冊でインド早わかりができる。

■2007/11/03, 週刊東洋経済

信長は本当に天才だったのか
信長は本当に天才だったのか工藤 健策

草思社 2007-08-24
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おすすめ平均 star
starどうも評価が極端過ぎる面もあるのでは
star世の信長イメージに対案を提供
starあまりにうがちすぎでは

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歴史家、作家から「天才」と評価されている織田信長。「独創的な戦略」「時代に先駆けた兵農分離」「鉄砲の集中使用」など賛辞の言葉を送られている。

だが、著者は信長の戦いをそれぞれ分析して、信長天才説を覆す。

まずは信長が飛躍する契機になった桶狭間の戦いから。「考え抜かれた緻密な奇襲作戦」が定説だが、著者によると、籠城もできずに追い詰められた信長の一か八かの捨て身の正面攻撃が、たまたま今川義元本陣前で、豪雨というありえない事態と遭遇し、義元を討ち取ることができたという。つまり幸運のおかげ。

続く美濃攻略戦では、信長率いる尾張兵の弱兵ぶりもたたり、攻略にはさんざん苦労している。

結論からいえば、本当の信長はレバレッジを利かせたヘッジファンドの主宰者のようなもので、たまたま投資が成功している強運の持ち主ということになろう。最後は本能寺の変で、その強運も尽きるのだが。

■2007/11/03, 週刊東洋経済

十五億人を味方にする 中国一の百貨店 天津伊勢丹の秘密
十五億人を味方にする  中国一の百貨店 天津伊勢丹の秘密稲葉 利彦

光文社 2007-09-22
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おすすめ平均 star
star異文化コミュニケーションの必読書。
star天津で出会った「笑顔」の秘密がココに!
star中国駐在員・中国担当者必携!

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著者に聞く 『十五億人を味方にする』を書いた天津伊勢丹元社長 稲葉利彦

頭の切り替えで思考の違いを乗り越えよう

――稲葉さんは天津伊勢丹の社長を6年も務められました。2006年にはデパ地下から高級ブランドまで展開する中国初の近代百貨店を開店されています。この間、SARS騒動や抗日運動までありました。著書の中で、日中間には「TIC」問題があると書かれていますね。

TICとはTHIS IS CHINAのことです。TIC問題とは中国人の思考特性から発するもので、日本人から見て、中国人はメンツにこだわりすぎる、自分を中心に考えすぎる、非を認めない、と指摘されるようなことです。日本人はこのTICに遭遇すると気になって仕方がない。ぶつかることが多い。解決の一助になればという思いで本書を書きました。

――日本人と中国人はもっといいパートナーシップが結べるという考え方ですね。

日本人は本当に几帳面です。合理的に物事を進めないと気がすまない。白か、黒か、1時間で結論を求める。でも中国人にはその発想は全くありません。今すぐ解決しなくても前向きさを保ちながら自然に問題を解決していく。おおらかさというか、グレーゾーンを利用して物事を進めていくのです。この違いは、互いが持っていないものを持っている、補う関係だと思います。

――現実的にはTICを乗り越えられない人も多い。

北京の外国人用クリニックの最大顧客は日本人といいます。半年で帰ってしまう日本人も数多くいます。そうした人は、違いを劣っていると考えてしまうのです。中国人にネガティブな評価を与え、日本ではこんなことはないのにと思ってしまう。日本人は中国人のことを分かっているつもりで対応します。そこに先入観がある。実際と違うと頭を抱えるのです。

――TICに対して、本書でさまざまな対応法を書かれていますが、特に“脱力”を勧められていますね。

日本人の感受性で見ない。自分の感受性をコントロールするのがいいと思います。

たとえば、中国の国内線に搭乗したとします。そこはまさにカオス状態です。我先に乗り込み人の席に座る人もいれば、あふれんばかりの荷物を上の棚に押し込む人も。

国内出張が決まっただけで憂鬱になる日本人もいるくらいです。そうした時には、スイッチをオフにします。目の前で起きていることに評価付けしない。そこそこに見ていればいい。感受性のスイッチのオン、オフを上手に使い分けることだと思います。これが脱力です。

中国人はとにかく情に厚い。一度うまくつきあえれば関係は長く続きます。日中は必ず、良いコンビになれます。

――国内の伊勢丹店長からも反響があるようですね。

中国では真心のサービスとはなにかといった基本的なことを一から説明する必要があります。理解して実行してもらわなければいけない。天津で徹底してやりました。日本国内の店長には逆に新鮮に映ったようです。自分たちは分かったような顔をしているが本当にできているのか、と。改めて顧客へのサービスについて考えるキッカケになっているようです。

■2007/11/03, 週刊東洋経済

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