メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2007年11月17日~11月24日

サンディ・ワイル回顧録―世界最大の金融帝国を築いた男 (上)
サンディ・ワイル回顧録―世界最大の金融帝国を築いた男 (上)サンディ・ワイル ジューダー・S.クラウシャー

日本経済新聞出版社 2007-08
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starここまで大きくなれる

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サンディ・ワイル回顧録―世界最大の金融帝国を築いた男 (下)
サンディ・ワイル回顧録―世界最大の金融帝国を築いた男 (下)サンディ・ワイル ジューダー S.クラウシャー 武井 楊一

日本経済新聞出版社 2007-08
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starグローバリズムの徹底とはこんなものか?

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金融界の風雲児ワイルからわれわれが学ぶこと

本書は証券、金融界の風雲児と呼ばれたサンディ・ワイルの自伝だが、以下の4つの読み方ができる。第1は成功者に学ぶという視点からのノウハウ本として、第2は毀誉褒貶の激しいサンディ・ワイルの真の姿に近づこうとするための心理学の教本、第3はM&Aの成功・失敗事例集、第4は人間模様が赤裸々に綴られていることから、一種のノベルズ=小説として。

ノウハウ本として読むと、証券取次業を営む小さな証券会社の末席のパートナーから、世界最大の金融コングロマリット、シティグループのCEOにまで上り詰めた梟雄が、何を動機に何を実現しようとしたのか如実に語られているのがわかる。

心理学の本としては、他人との対立がポイントだ。シェアソンのトップに引き上げられるも結局ワイルと対立するピーター・コーエンや、ソロモン・スミス・バーニーCEOに昇格後、クビにされるジェイミー・ダイモンなど、直系の弟子たちとの葛藤に分析のヒントが満載だ。もちろん最大の山場は、パートナーシップが組めると手を握ったシティバンクCEOジョン・リードとの対立の顛末だ。

M&Aの事例集としてならば、最初の買収であるバーンスタイン・マコーレーから、シティバンクとの統合に至るまでの10にならんとする豊富な事例とワイルの解説が参考になる。加えて、彼が買収成功の秘訣として記載している幾つかの要諦、「既存ビジネス強化と経費削減、製品の多様化と付加価値の増加、優秀な経営陣の獲得、競合他社の日頃からの精査、買収価格が低いことは必ずしもよくない」なども実際的で面白い。

そしてノベルズとして読むと、手塩にかけて育ててきた証券会社のシェアソンを追われる件、その後、劇的な復活を遂げシェアソンを買い戻すエピソードなど、事実は小説よりも奇なりと思わせる。また味方が敵に、ライバルがパートナーに変わる機微が一人の男の視点を通じて、わかりやすく描かれているのも秀逸だ。

加えて、よくもあしくも人間的、自己の欲望に忠実であったワイルが、音楽の殿堂カーネギーホールの理事も務める慈善家であること、家族や部下を思いやるエピソード(一つは、徹夜してオフィス設営をした社員に付き合って印刷機械まで丹念に見る場面)などが、彼の複雑な内面を推し量る材料となる。本書は人間観察の格好の書として、金融マンに限らず推薦できる。

なお、彼の前半生のM&Aについては小さい、あるいは日本では知名度の低い会社が多いので、下巻の付録にある「初期の活動」部分を参照しながら上巻を読まれるといいだろう。【評者 津田倫男 フレイムワーク・マネジメント代表】

■2007/11/24, 週刊東洋経済

虚栄の帝国ロシア―闇に消える「黒い」外国人たち
虚栄の帝国ロシア―闇に消える「黒い」外国人たち中村 逸郎

岩波書店 2007-10
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外国人労働者の過酷な労働に依存するロシア経済

【評者 孫崎 享 防衛大学校教授】

ロシアは今、大混乱の中にある。10月モスクワを訪れたが、「徒歩で15分、車で1時間」という市中心部の大渋滞と、あふれる高級商品、繁栄と混乱が混在し、まさに「ロシアよ、どこに行く」が正直な印象である。

ロシアは経済崩壊の状態から、わずか数年で外貨準備高世界第3位、6~7%の経済成長の国となった。急激な経済環境の変化は巨大な社会のひずみを伴う。その一つが近隣諸国からの労働者の大量流入だ。この外国人労働者に焦点を当てる。

この本は、〔1〕現在出稼ぎを目的とするロシア入国者は少なくとも1500万人(ロシア全土の就業者の20%強)、〔2〕その9割が不法就労者、〔3〕ロシアでの就労条件は過酷で、たとえばタジキスタンではロシアに出稼ぎに行って死亡したり、身体障害者になったりした親族を抱える世帯は全体の3分の1にも及ぶ、〔4〕スキンヘッドグループによる出稼ぎ労働者への攻撃など暗闇の部分を記している。

「モスクワの喧噪にかき消され、救済する人権団体もなく、埋もれた」出稼ぎ外国人労働者という恥部に着目している。

外国人労働者の問題はロシア情勢だけに起因しない。旧ソ連諸国はいまだに経済混乱の真っただ中にある。この解決は当面ない。ロシアでの生活がいかに過酷であれ、旧ソ連諸国から労働者が流れ込む。

著者は今日のロシア経済を「虚栄」と見ている。虚栄の廃墟化を将来に見ている。虚栄の中の現象として外国人労働者の問題を位置づけている。

しかし、米国が中東からの撤退の姿勢を見せず、中東の緊張は今後も続く。そのことは石油の高騰を意味する。今日のロシア経済の繁栄は原油高という他力本願によるものだ。しかし意外にこの他力本願が持ちこたえ、虚栄が長期化しそうだ。

■2007/11/24, 週刊東洋経済

万太郎松太郎正太郎―東京生まれの文士たち
万太郎松太郎正太郎―東京生まれの文士たち大村 彦次郎

筑摩書房 2007-07
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東京生まれの作家の多彩な人間模様

表題の3人は、久保田万太郎、川口松太郎、池波正太郎のことである。このほかに、水上瀧太郎、広津和郎、さらに幸田露伴から結城昌治までの「下町生まれ」と、永井荷風から色川武大までの「山の手生まれ」。東京生まれは実に多彩である。

「文人」というとノスタルジックで優雅な響きがあるが、とてもそんなものではない。その生き方はみな壮絶ですさまじく、そして魅力的である。

松太郎は万太郎の最初の弟子である。16歳のとき、生まれ故郷が題材の万太郎の小説『今戸橋』に感激して押しかけ弟子となった。だがこの師弟関係は決して平穏ではなかった。

2人は2度大喧嘩する。最初は昭和10年。万太郎の脚本が間に合わず松太郎演出の舞台に穴をあけたとき。2度目は戦後。松太郎は万太郎全集の編集委員から外され、還暦の祝賀会にも呼ばれなかった。

万太郎は戯曲や小説では下町の義理人情を情緒纏綿に描いたが、現実は酷薄・非情な男だったという。松太郎は人気作家となり第1回直木賞を受賞する。また『愛染かつら』は映画化されて大ヒットし、戦後は大映の重役として映画製作に力を発揮した。だがそういう松太郎が目障りで面白くない。酔うと川口は利巧すぎて面白みがない通俗作家だといって貶めた。一方、松太郎も万太郎が勲章や名誉職を欲しがる、俗世への執着ぶりを非難した。師弟の確執は知らぬ者のない激しいものだった。

池波正太郎はフランス映画が好きでグルメという、おしゃれで端正な人だと思っていた。

だが彼もまた下町の職人の子である。関東大震災の年、松太郎の生家のすぐ近くで生まれた。直木賞を候補6回目にしてようやく受賞したが、受賞を後押ししたのが松太郎だった。作家のつながりはとても面白い。【評者 仲倉重郎 映画監督】

■2007/11/24, 週刊東洋経済

広報・PRの効果は本当に測れないのか?―PR先進国の実践モデルに学ぶ広報の効果測定
広報・PRの効果は本当に測れないのか?―PR先進国の実践モデルに学ぶ広報の効果測定トム・ワトソン 林 正

ダイヤモンド社 2007-07-27
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電車で通勤中も、テレビを視聴しているときも、インターネットを閲覧中も、どこでも「広告だらけ」だ。広報、PR戦略も日々、高度化しており、いまや常時広告やPRの情報に追いかけられ、受け手としては「いい加減にしてくれ」と叫びたくなる。

それだけ広告やPRがあふれている原因は、企業が意識的に展開しているからにほかならない。企業は、どんなにいい商品でも放っておいては消費者に届かないことがわかっているのだ。だが本書によると、「企業の広報部門が日頃抱えている悩み」の第1位は、「広報活動の効果測定が難しいこと」。広報戦略の重要性は理解しているが、効果の裏づけが欲しい。

本書はそんな企業の要望に応えた一冊だ。本書が紹介する「欧州の評価モデル」は学術的だが、ケーススタディと併せると実践的。

しかし消費者としては、戦略が高度化されると、また「いい加減にしろ」と叫びたくなりそうだ。

■2007/11/24, 週刊東洋経済

これを食べてはいけない―危ない食品のカラクリ-何を選ぶ?どう食べる?
これを食べてはいけない―危ない食品のカラクリ-何を選ぶ?どう食べる?郡司 和夫

三笠書房 2007-10
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おすすめ平均 star
star知っておいて損はない
starいつも食べてる食品が・・・。究極のダイエット本。
star中国産の農薬残留、添加物、食品業界の闇。

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ミートホープや赤福、比内地鶏など、食をめぐる不祥事があとを絶たない。

決して許される行為ではないが、冷静に考えてみればおかしなことが多い。賞味期限が本日限りの赤福が大量に売られることや、不当に安いミンチや比内地鶏に、首をかしげる消費者も少なからずいたはずだ。

おかしな食品は、日常の至る所に存在する。激安の寿司やハンバーグ、時間がたってもサクサクな揚げ物など、数え出すと切りがない。本書では疑わしき食品を、なんと96種類も取り上げて解説を付けている。ただし人体への危険性について科学的根拠のない事例も多く、内容を鵜呑みにする必要はないが、知っていたほうがいいに越したことはないだろう。

あとは消費者が取捨選択するべきである。96もの食品に共通するのは、低価格であったり、非常に便利であること。便利さや安さという魅力の裏に、相応の理由があるということを忘れてはならない。

■2007/11/24, 週刊東洋経済

合気道とラグビーを貫くもの 次世代の身体論 [朝日新書064] (朝日新書 64)
合気道とラグビーを貫くもの 次世代の身体論 [朝日新書064] (朝日新書 64)内田 樹/平尾 剛

朝日新聞社 2007-09-13
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star目から鱗
star体育の苦手だった人も根性主義の人もイチローの秘密も
star合気道については特に述べられておらず

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合気道とラグビー、両者の共通点とは。まずは、打率に無関心なイチロー、ピットの魔術師マラドーナ、英国名門パブリックスクールの紳士教育としてのラグビー競技などにおける飽くなき身体能力の開発の例を挙げる。これらに通底しているのは、武道特有の姿勢、つまり「強弱勝敗を論じない」ことである。

それに対し、日本においては、学校の体育教育は、成績向上だけが目的化している。一方、プロスポーツでは、数値と年俸に置き換えられる。

この現状を著者たちは、「身体能力を成績や年俸に換算してしまうのは、身体に対する冒涜」と断定する。

生き延びるための能力をおカネを稼ぐ能力と同定せずに、人間が持っている潜在的な心身の能力を最大化すること、スポーツをやりながら「身体の快不快」を感じること、そしてよき師匠を持つこと、これらを次世代に正しく伝達する必要がある、と結んでいる。

■2007/11/24, 週刊東洋経済

危機の神話か神話の危機か―古代文芸の思想
危機の神話か神話の危機か―古代文芸の思想伊藤 益

筑波大学出版会 2007-10
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本書の「序」の冒頭に掲げられているのは、俳人山頭火の句である。「ほろほろほろびゆくわたくしの秋」。これは、山頭火が句におぼれ酒に惑溺する自己の生が、ひたぶるに滅びに向かっていることを自覚した名句であり、俗世から脱落した人間の寂寥観というべきか。この句こそ、本書を貫く通奏低音となっているのである。

「滅び」の姿を日本人はいかにとらえていたのか。古代文芸の中から日本思想の基底を探ろうと試みた本書によると、有を語り存在者の在りようを論理的に思惟する西欧哲学に対し、日本思想は自己存在や自己にかかわる事物が滅びゆくことに着眼し、「滅びの思想」であると結論づける。

本書は、古代から現代にまで至る「滅びの思想」の系譜を、全9章にわたり考察し、日本思想の歴史的な意義だけでなく、現代的な意義をも解明する。日本人のアイデンティティの琴線に触れた意欲作である。

■2007/11/24, 週刊東洋経済

東大全共闘―1968-1969
東大全共闘―1968-1969渡辺 眸

新潮社 2007-10
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1968年、バリケードの中の怒りとつぶやき

1968年秋、バリケード封鎖された東大校舎を自由に出入りする女性カメラマンがいた。手書きの「全共闘」の腕章をつけている。書いたのは東大全共闘代表の山本義隆。キャンパスはやがて来る安田講堂攻防戦に向かって沸騰していた。著者の渡辺はOL生活に物足りなさを感じ、写真を学びフリーカメラマンとなる。フーテンや左翼学生やサラリーマンの寄せ鍋のような町、新宿が彼女の庭だった。思想めいたものがあったわけではない。

ただ「10・21新宿騒乱事件」の経験で何かが動いた。渡辺の女友達のその同伴者が全共闘の山本だった。大学院生の彼は素粒子研究の逸材で未来の「ノーベル物理学賞」候補だとうわさされていた。渡辺は山本に導かれバリケードの内側を記録することになる。

作品からは学生らの勇ましい叫びや歌声は聞こえない。東大のゲバルト・ローザと呼ばれた女子学生の顔は憂いを帯び、カタストロフの予兆が彼らから読み取れる。闘志をはらんだ静寂の時間が流れていて渡辺はそれをとらえた。「68年の思想」はそれまでの世界と大きく断絶し、ポストモダニズムの現在を用意した。

渡辺のその体験はインド・ネパールへと向かわせ、『天竺』『猿年紀』で精神的なフォトエッセーを作らせた。山本義隆は逮捕・釈放後、予備校で教鞭を執りながら科学史を著し、大佛次郎賞を受賞する。また散逸した膨大な量の全共闘のビラなどを収集しデータ化して編纂。それは国会図書館に収蔵された。

本書を回想の学生運動ものの一冊として扱うことに抵抗を覚える。写された全共闘学生の中には現職の大臣もいるだろう。「68年」後を彼らがどう生きたかが問われている。【評者 写真家 中川道夫】

■2007/11/24, 週刊東洋経済

「上司」不要論。
「上司」不要論。豊田 義博

東洋経済新報社 2007-11-23
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場の人間関係に悩む人へ

上司・部下のコミュニケーションに悩んでいる方へお薦めの本が出た。11月26日発売の『「上司」不要論。』(豊田義博著)である。著者は、リクルートのシンクタンクであるリクルートワークス研究所の主任研究員。同研究所による広範な職場意識調査の成果をもとに、今までの「上司本」では触れられなかった視点から、今日の上司・部下問題を描き起こしたものである。

本書では、20代から50代に至る、世代別の仕事や職業意識、業務内容の変遷、社会の変化などを眺めることで、職場にかつてない大きな地殻変動が起こっていることを明らかにする。

上司と部下との問題が取り上げられるとき、今までは「3年で辞める若者」などと若手のせいにされる議論が多かった。しかし、本書では上司の側に大きな問題があると提起する。

しかし、悪いのは個々人ではない。仕事や時代、社会の変化で、従来のやり方での上司システムが機能不全になっているのだ。マンガを交えつつ、コミカルに現場の問題を浮き彫りにし、処方箋を紹介する。また、各世代の特徴を細かく整理したデータ集もおもしろい。

■2007/11/24, 週刊東洋経済

狂奔する資本主義―格差社会から新たな福祉社会へ
狂奔する資本主義―格差社会から新たな福祉社会へアンドルー・グリン 伊藤 誠 横川 信治

ダイヤモンド社 2007-09-29
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資本主義暴走の動因を分析 主役の大企業分析に欠ける

第2次大戦以後の資本主義経済は、戦後復興のあと1950年代から60年代にかけて黄金時代を迎えたが、そこでは低水準の失業率、低位のインフレ、そして生活水準の急成長がもたらされた。

そうした中で労働組合の力が強くなり、それによって賃金が上昇するとともに、企業の利潤率が低下した。

著者はこの利潤圧縮「プロフィット・スクイーズ」を70年代から主張してきたが、この本では80年代以降、アメリカやヨーロッパ、そして日本などの先進資本主義国の企業や政府がいかにしてそれに対応してきたか、そしてそれが何をもたらしたか、ということを興味深く分析している。

80年代以降に起こった資本主義の変化の第1は金融部門の収益性の増大と取引範囲の拡大で、それによって企業も個人も投機化し、経済の不安定性が高まった。たとえば世界のヘッジファンドの数は9000にもなり、その資産は1兆2230億ドル(2006年)にまで増大している、という。

第2はグローバリゼーションの進展で、中国などの低賃金生産者によって先進国の伝統産業が大きな打撃を受けている。

第3は富裕国の下層労働者の立場が蝕まれ、格差が拡大して不平等社会になっている。

このような変化をたくさんのデータを図表化して示すとともに、アメリカやイギリス、そして日本の学者や政府関係者などの調査や研究を引用しながら説明している。

この本は06年に出版され、好評を持って迎えられたというが、07年の日本語版ではさらにその後の動きにつぃても付け加えている。

資本主義の黄金時代が労働運動の高まりによって企業の利潤圧縮をもたらし、そこからそれに対する反撃として出てきたのが新自由主義であり、株主資本主義であった。

その結果、著者の言うような資本主義の暴走が起こったのだが、それが経済の不安定性と格差の拡大をもたらしたのだ、という主張は、なるほどとうなずける。

しかし、このようなことをもたらした原動力は、資本主義を支えてきた大企業、巨大株式会社ではなかったか。それが利潤圧縮に対抗して打ち出した政策が、このような結果をもたらしたのではないか。

そうだとすると巨大株式会社の分析こそ重要であるはずだが、著者にはこのような視点は見られない。その結果、対案として出されている政策が、各個人が国家からベーシック・インカムを受け取るという結論だけとは、なんとも情けない。【評者 株式会社研究家 奥村 宏】

■2007/11/17, 週刊東洋経済

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書 (1905))
日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書 (1905))飯尾 潤

中央公論新社 2007-07
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star実態に鋭く切り込んだ良書
star間違いだったのは議院内閣制ではない
star政治談義に格好のサブテキスト!!!

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「官僚内閣制」を打破し議院内閣制に戻す提言

安倍前首相の突然の退陣は寝耳に水の出来事であったが、さらに驚くべきことは、次の福田内閣が成立するまでの10日間、実質的に首相不在の政治的空白が生じていたにもかかわらず、政府がほぼ通常どおりに機能していたことであった。このような状況を見ると、日本の首相はいてもいなくても同じなのか、といった感想を持つだろう。

本来、議院内閣制の仕組みは、有権者が選挙によって国会議員を選び、議員は有権者の代表として首相を選任する。そして選ばれた首相は大臣を選任して内閣を組織し、各大臣は内閣の一員として、行政事務を実施するために官僚の補佐を受ける、というものである。この仕組みだと、政治家、官僚は民意の延長線上で活動することになる。しかし日本の現状はこの基本制度から逸脱しており、筆者はこれを「官僚内閣制」と呼ぶ。政治家は国民や首相よりも党や官僚を重視し、各大臣は各省庁の代理人として振る舞うからである。

そもそも日本の政治制度をいびつなものにしているのは、政官だけの要因ではない。そこには、自民党が長年与党として君臨してきたことによるさまざまな弊害が現れている。それらはたとえば、族議員の隆盛、派閥による政治運営、野党との取引き、などである。また有権者にとっても、選挙は国のリーダーを決めるものではなくなっており、政治は床屋談義以上のものにはならない。

このような現状を打開するため、筆者は本来の意味での議員内閣制を機能させることを説いている。選挙の際、政党が首相候補とマニフェストを明確に打ち出すことにより、選挙の信託を受けた強力なリーダーが誕生し、首相主導の内閣が機能するという。複雑怪奇な日本の政治システムを理解していくうえで、よき訓蒙の書となっている。【評者 防衛省防衛研究所教官 小谷 賢】

■2007/11/17, 週刊東洋経済

フードファディズム―メディアに惑わされない食生活 (シリーズCura)
フードファディズム―メディアに惑わされない食生活 (シリーズCura)高橋 久仁子

中央法規出版 2007-10
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star“熱い”本です!

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「健康によい食品」情報に踊らされる日本人

日本は健康ブームの真っただ中。偽造食品などのニュースを受けて、食に対する意識も高まっている。ちまたには膨大な健康食品があふれ、その一方で、消費者は不確かな情報を頼りに納豆や白インゲン豆をやせると信じて大量摂取する側面も併せ持つ。冷静に考えてみれば、飲んだり食べたりすることで体重を減らそうという発想は、とても変だ。

本書は「食べ物や栄養が健康や病気へ与える影響を過大に信奉したり評価すること」をフードファディズムと定義づけ、具体例とともに紹介している。読み進めるうちに、体によかれと思い摂取してきた食品が、歪んだ科学的データをもとに喧伝されていたことに気づかされる。

たとえば、タマネギが糖尿病に効果があるといわれているが、これはタマネギにごく微量含まれる成分が効果的という論文がもとになっている。

しかしラットによる実験結果によると、タマネギを毎日50kg食べなければ人間に効果は発現しないという。いい話だけが独り歩きしている。

それでは健康食品で補えばいいかと思いきや、これも容易でない。健康食品には明確な定義がなく、医薬品成分や有毒物質を含むものもあり、最悪の場合は死に至る場合もあるという。摂取する場合は、安全性が確保されているかを確かめる必要がある、と警鐘を鳴らす。

結局のところ、どの食品をどのくらいの量、どのように食べればいいのかという基本知識さえ身に付ければ、食情報に踊らされずに済むのだと本書は喝破する。しかし残念なことに、「体によいのか悪いのか結論を知りたい」、と自分の頭で考えることを面倒に思う人が多いとも憂える。日本人の「食生活の自立」がおろそかになっていることを著者は危惧している。

■2007/11/17, 週刊東洋経済

毎日が自分との戦い―私の実践経営論
毎日が自分との戦い―私の実践経営論金川 千尋

日本経済新聞出版社 2007-07
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2006年5月掲載の日本経済新聞「私の履歴書」に加筆した自伝。1926年生まれの著者は、同年設立の信越化学工業に35歳で中途入社。塩ビ樹脂の技術輸出や米国製造子会社シンテックの経営で実績を上げ、創業一族社長の急逝で90年に社長となった。

今や信越化学は世界有数の塩ビ、半導体ウエハメーカー。だが、なぜ国際市況変動の大波をもろにかぶる分野の両方で巨額の設備投資を敢行し、米国系企業をも抜き、今なお世界首位たりえているのか。

その答えが本書から読み取れる。淵源は著者の旧制六高生当時の空襲や敗戦の体験だ。第1に、「戦争に比べればビジネスの世界での競争などは怖くない」という気構え。第2に、国に頼らずに「世界で競争できる事業」を目指した企業家精神。そして第3は「戦争であまりにひどい負け方をしたから、次は別のかたちで勝ちたい」との意欲だ。

経営者の「気迫」の重要性を再認識させられる。

■2007/11/17, 週刊東洋経済

権力に迎合する学者たち―「反骨的学問」のススメ
権力に迎合する学者たち―「反骨的学問」のススメ早川 和男

三五館 2007-08
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star私は日本の大学がつまらなくなった理由がわかりました。

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今、大学では学生の学力の激烈な低下、それに見合うほどの教授陣の劣化に直面している。大学はさながら坂道を転がるように歯止めのない下降線をたどっている。

これとは別の「御用学者」もいる。本書によると、彼らは行政権力出張型、権力迎合型、行政追随型、沈黙型の4種類。手に入れたいものはカネか、権力か、個人的な栄達か。それだけで済むのであれば、多少は看過できる。だが、権力の補完的な役割を果たしている弊害は無視できない。

彼らを「曲学阿世の徒」以外に、なんと呼べばいいのか。学者は真実を述べ、世の中の誤った方向に抵抗する最後の砦であるとするために、学問の自由と大学の自治が担保されているのであるが、彼らは官僚組織のイエスマンに成り下がっているのだ。かつての日本やナチス・ドイツでもこうした「御用学者」が権力の露払いの役割を果たしていた。この危険性に著者は警鐘を鳴らす。

■2007/11/17, 週刊東洋経済

「尊厳死」に尊厳はあるか―ある呼吸器外し事件から (岩波新書 新赤版 1092)
「尊厳死」に尊厳はあるか―ある呼吸器外し事件から (岩波新書 新赤版 1092)中島 みち

岩波書店 2007-09
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star「リビング・ウイル」
star「いのちの線引き」の是非を問う

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終末期医療を受けている患者が主治医から「脳死状態です」と宣言されたら、その身内はただ看取るよりほかないであろう。こうした状況下「尊厳死」という名目の医療が行われている。

2006年春、富山県のある市立病院で外科部長による7人の患者の人工呼吸器外し事件が発覚した。

その直後、院長は担当医に診療停止を命ずる。「延命治療の中止であって、尊厳死です」が担当医の言い分である。著者は、その7人の患者の死をめぐって、担当医、看護師、患者の家族、院長などに取材し、徹底的な事実確認の調査を始める。そして「脳死状態」に至っていない患者がいたことを突き止める。

このような現状を排除し、最期まで尊厳ある生をまっとうするために、本書は「医師としての技術的能力、倫理観、遵法精神、社会性、等々が、全国的水準から大きく偏るものでないことが前提である」と述べ、国のきめ細かい施策の必要性を訴える。

■2007/11/17, 週刊東洋経済

半世紀前からの贈物―いま、蘇る小学校2年生の「文集」
半世紀前からの贈物―いま、蘇る小学校2年生の「文集」内田 雅敏

れんが書房新社 2007-11
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今、昭和20年代後半から30年代前半の回想記が静かなブームである。映画もしかり。

しかし、これは単なるレトロブームではない。あの時代には、貧しかったが、「人間」が生きていた。ホコリや乾燥した馬糞が舞い上がる路上にも、「人間的なぬくもり」があった。

「美しい国」というスローガンは、無残にも、「無機質なたたずまいと人間関係」しか残さなかった。日本の敗戦の年に生まれ、昭和28年当時の小学2年生が書いた文集『いつつぼし』が偶然、旧友から送られる。文字どおり「半世紀前からの贈物」である。その文章の1篇ずつに、著者の感想が付け加えられたのが、本書である。

どんな内容なのか、まず読んでみよう。

「お正月まちどおしいな。まらそんでやってこい。いいにおいのするあたらしいげたがはけるのだ」

なんともホッとする文章だ。われわれは何か大事なものを忘れている。

■2007/11/17, 週刊東洋経済

落日燃ゆ (新潮文庫)
落日燃ゆ (新潮文庫)城山 三郎

新潮社 1986-11
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おすすめ平均 star
star日本の戦前戦後史に興味持っている方むけ
star廣田元首相への追悼の書
star従容と死に向かう姿勢

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失われた志―対談集 (文春文庫)
失われた志―対談集 (文春文庫)城山 三郎

文藝春秋 2000-08
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城山三郎の原点は人間を愚弄した戦争体験

この3月、城山三郎さんが亡くなった。それを聞いた私は、さりげなく『落日燃ゆ』(新潮文庫)をひもといた。

敗戦後の東京裁判でA級戦犯として絞首刑になった7人のうち、ただ1人の文民、広田弘毅の評伝である。外相、首相として、戦争を阻止できなかった責任を問われた広田は、公判で一切の自己弁護をせずに死刑の判決を受け、抗わず死についたのだった。

この評伝の圧巻は、「終戦とともに、かつての指導者たちの上に、凍るような風が吹きはじめた」で始まる第9章から最終の11章である。

「言い訳をしない男」である広田は、「生きて虜囚の辱めをうけず」という「戦争訓」を国民に強要し、占領軍の呼び出しを受けて臆病神がついたのか拳銃で自殺未遂をした東條英機をはじめ、公判中に破廉恥にも責任回避に狂奔した軍人たちとは、鋭い対立をなしていた。

しかも、広田が、自分の和平外交の努力を妨げた6人の軍人と同罪で処刑されるとはなんとも皮肉であった。処刑前の軍人のように「万歳」を三唱しなかったのは、広田のせめてもの矜持であったろう。

城山さんは、なぜこの作品を書いたのだろうか。『失われた志』(文春文庫)によると、「末期戦中派」の彼の戦争体験は、17歳で入隊した海軍特別幹部訓練隊であった。

「寝たあともハンモックを切って落とされて、水をかけられて、……絶えず棍棒で頭を殴るものだから、頭がコブだらけになって大仏様そのものでした」

この国の戦争指導者は何を考えていたのか。軍人は大嫌いだから、広田弘毅に的を絞った。「時代というものはこんなふうに人間を愚弄するんだよ」という証拠を残すためであった。しかるに歴史はしだいにあの時代に戻りそうであり、それ故、彼は擱筆できない。「仕事が終わって、ベッドに自分の好きな本を持って飛び込んでいくときが、一番楽しい。老後の愉しみって、それじゃないかね」と老後の抱負を語ったが、どれほどの時間的余裕があったろうか。【評者 文芸評論家 阿久根利具】

■2007/11/17, 週刊東洋経済

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