メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年9月2日~9月9日

貧困の終焉―2025年までに世界を変える
貧困の終焉―2025年までに世界を変えるジェフリー サックス Jeffrey D. Sachs 鈴木 主税

早川書房 2006-04
売り上げランキング : 1622

おすすめ平均 star
starほっとけない、世界の貧しさ
star問題は世界が見て見ぬふりをしていること

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書店で、この本を手にとって、カラーの図をまず見て欲しい。世界には人口の4分の1以上の人々が、1日に1ドル以下で生活している国がある。その中には、経済成長率がマイナスで、状態が日々悪化している国がある。こうした深刻な貧困を20年で解決できると、著者は力強く訴える。著者J・サックス氏は、エコノミストであれば、その名を知らない人がいない「超」のつく一流の経済学者で、これまで途上国の経済アドバイザーとして世界各地で活動してきた。

著者の主張は極めてシンプルだ。貧困の解決に先進国が十分な援助をこれまでしてこなかったというものだ。そして、途上国が貧困から脱出できるように、持続的な経済成長が可能となる最初の一歩を踏み出せるように、十分な援助をすることが大切だという。その金額は先進国のGDPの0・7%である。 現在の平均的な援助水準が0・15%であるから、毎年0・55%の増加でよい。しかも、我々は経済成長の恩恵を受けているから、2%成長ならその4分の1、1%成長なら約半分を援助に回せばよい。

著者はボリビアやポーランドの経済改革では、極度のインフレを一気に抑えて、貨幣の安定を図るというショック療法的なアプローチをとった。このアプローチに関しては反対もあり、また、経済援助の効果に対して懐疑的な意見もある。また、市場経済に基づく持続的な経済成長を支える法律や慣習といった制度的インフラの重要性が、近年、多くの経済学者の間で認識されている。制度的インフラは短期的に構築できないから、インフラなくして巨額の援助を行っても、途上国の政治腐敗を助長するだけかもしれない。

しかし、こうした見方に対する反論は16章で展開される。アフリカ諸国が必ずしも腐敗しているわけではないこと、法制度が守られている国でも深刻な貧困を抱えていることをデータで示している。また、アフリカのモラルの低さと怠惰を指摘する論者に対しては、貧困国の人々はほぼ例外なく、怠け者というレッテルを張られることを、昔の日本を例に述べている。百年以上も前、我々日本人は怠け者で決して豊かにはなれないと言われていたのだ。1日でもアフリカの村で生活すれば、貧困の原因である資本不足のために、彼らが1日がかりで水を汲みにいくような骨の折れる仕事を勤勉にこなしているのがわかると、著者は言う。問題の解決には、理論とデータに裏付けられた政策が必要だ。しかし、それ以上に、世界を変えることができると心から信じる、そんな強い情熱こそが、本当に世界を変えるのだと感じさせられた。【評者 江口匡太 筑波大学助教授】

■2006/09/09, 週刊東洋経済

国債の歴史―金利に凝縮された過去と未来
国債の歴史―金利に凝縮された過去と未来富田 俊基

東洋経済新報社 2006-06
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国債から見た世界史 日本の未来への警告も

この本は著者が過去30年の間抱いてきた課題にひとつの決着をつけた記念碑的労作である。そのために著者は「山のような国債の文献に取り囲まれ」、国債が誕生した名誉革命から、戦争とインフレと恐慌の中で国債がもみくちゃになった時期を経て、ようやく民主主義が復活・強化され、これを担保として正常な国債市場がかすかに望見できる段階にいたるまでの歴史を、綿密にたどっていく。

結果は内容豊かな「世界国債歴史百科辞典」となっており、金融、経済、政治、外交、軍事にわたって国債の窓を通してみた過去の世界の移り変わりを楽しむことができる。

だからといって本書は衒学的懐古趣味の本では決してない。著者の関心は、日本の国債の残高が対GNP比で第2次世界大戦終結時を上回る一方、その市場金利は17世紀のジェノバ共和国以来の低水準にあるという一見矛盾した事実と、にもかかわらず市場が現にリスクへの警告を発しているのに、それが政治にフィードバックされないことへの深い憂慮に根ざしている。このために著者は国債の信用力が各国国債の金利差に反映されるという過去を振り返って、未来に向かっての警世の書としてこの労作に挑んだのだ。

国債危機を狼少年のように無闇に喧伝することには同調できない。しかし国際金融市場の各国国債のリスクプレミアムは「最小限のルールの下で不確実な未来に立ち向かう自然な営みの反映」であるから、市場からの警告として注意深く受け止めるべきであり、それが「政治の暴走」を抑制するとともに、自己実現的な「市場の暴走」を予防することにもなるという著者の意見には異議はない。この時期にタイムリーで、しかも長い生命力を持つ労作を完成された著者に敬意を表する。【評者 香西泰 エコノミスト】

■2006/09/09, 週刊東洋経済

犬がくれた幸福
犬がくれた幸福鶴田 静

岩波書店 2006-06
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おすすめ平均 star
star犬と一緒にスローライフ

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偶然「家族」になった二匹の兄妹犬と夫婦の歳月

人間と犬との関係は他の動物との中で最も長い歴史をもつ。さらに犬は人間の気持ちを最も理解できるといわれている。それ故、犬と人間に関係する英語の諺――「犬を三日飼えば三年恩を忘れぬ。猫は三年飼っても三日で恩を忘れる」――は、ドイツ語やフランス語にもある。これはまさに、「犬讃歌」と言わねばならないであろう。

ことほどさように、最近、犬は単なるペットではなく、家族の一員、いや、むしろ家族以上の存在として扱われているようだ。犬は人間の孤独感や疲労感を癒やしてくれるし、また理不尽にも粗末にされている命をいとおしむ気持ちを思い起こさせてくれるからである。

「その子犬を一目見るなり釘づけにされてしまった」で始まる本書は、ナチュラルライフを生活信条とする中年の夫婦が、偶然やってきたハッピーとサニーという二匹の兄妹犬と深い自然の懐の中で暮らし、無欲にありのままに生活してきた悲喜こもごもの記録である。雑食性の犬のダイエット、犬の胃薬としての野菜、そして養子縁組の登録・逡巡・挫折、「チェルノブイリの子どもたち」の夏のホームステイの受け入れ、年老いたハッピーの突然の失踪。その後の月夜のサニーら犬たちのパーティー。

「サニー、お前のように生きたいものだ、そうしたらどんなに楽だろう」と思いつつ17年間を共にしたが、やはり寄る年波に克てなかった。サニーが最後に外をうろつき回ったのが、自分で自らの生を完了させるためであったろう。17歳。人間の85歳以上を現役で生きてきたことになる。「その生命力の強さは、私たちに、感動と生きるための励ましと勇気を与えてくれた」との訣別の言葉で結んでいる本書は、「ハッピーとサニーのレクイエム」でもある。【評者 川成洋 法政大学教授】

■2006/09/09, 週刊東洋経済

永田町の回転ずしはなぜ二度回らないのか―政治家の名言・格言に学ぶ最強の処世術100
永田町の回転ずしはなぜ二度回らないのか―政治家の名言・格言に学ぶ最強の処世術100伊藤 惇夫

小学館 2006-05
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おすすめ平均 star
star怨念と嫉妬が渦巻く政治家たちの名・迷文句集

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著者は20年間の自民党本部勤務を経て、1994年に新進党に移る。その後、太陽党、民政党、民主党の事務局長を歴任。政治改革の表と裏を見てきた。

その著者が、歴代の政治家の「名言」「格言」をまとめた「語録」であり、サラリーマンにとっても役に立つ「最強の処世術」としてまとめられている。

一部を紹介すると、「政治は冠婚葬祭だ」(田中角栄)「政策に上下なし、酒席に上下あり」(渡辺美智雄)「酒と女は二合(号)まで」(宇野宗佑)「権力を握るためには、権力の側にいなければならない」(池田勇人)など「名言」が並ぶ。

評者が面白かったのは、「男は60までは女に狂うが、70を超えると男に狂う」(加藤紘一)だ。加藤幹事長と野中広務幹事長代理(いずれも当時)の「蜜月」を壊したのが、この一言だという。加藤紘一は古賀誠に入れあげる野中を批判したのだが、これを聞いた野中は、「あいつは終わりだ」と語ったという。

■2006/09/09, 週刊東洋経済

日本の電機産業再編へのシナリオ―グローバル・トップワンへの道
日本の電機産業再編へのシナリオ―グローバル・トップワンへの道佐藤 文昭

かんき出版 2006-08
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おすすめ平均 star
star電機産業を憂いて、その後勇気をもらった本

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ドイツ証券に勤務する電機部門担当のトップアナリストが、「日本の電機大手が今、危ない」と予言する。 2007年5月に施行される新会社法により、日本の大手電機が国際的なM&Aの対象になる、というのだ。1980年代までは、圧倒的な国際競争力を誇った日本の電機大手は、今や買収される側にあるというのだ。

日本の電機大手の時価総額は外国企業に比べて小さい。収益力が低いからだ。日本の電機大手の営業利益率は外国企業に比べて低いだけでなく、国内の製造業と比べても低い。

この原因として、戦略なき日本の大手電機の経営を挙げる。部門ごとの総花的経営に固執し、投資のメリハリがない、外国企業に安易に技術移転をして、自らのクビを絞める技術戦略、そして国内では過当競争により儲からない。

筆者は国内での業界再編が必要だとして、2010年までが最後のチャンスという。

■2006/09/09, 週刊東洋経済

わが子と読みたい日本の絵本50選
わが子と読みたい日本の絵本50選桑原 聡

産経新聞出版 2006-06
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「わが子をひざに乗せ、干草のような髪の匂いをかぎながら絵本を読んでやる」。本書の「はじめに」の中で述べられているこんな親子の美しい情景――そう、昔読んだのを思い出した。

実姉の精神病の発病をうけて自らの結婚を断念し、姉の世話をすることにしたイギリスの作家、チャールズ・ラムの『幻の子供たち』である。

それにしても、本書の中で紹介されている絵本は、子どもだけを対象にしているとは思えない。いや、一冊一冊には、桑原さんのメッセージが刷り込まれているのだ。ときには、重いメッセージもある。例えば、「100万年もしなないねこがいました」で始まる『100万回生きたねこ』の解説は、「生と死と愛と幸福。本書には人生の哲学がさりげなく込められている。最近あなたは涙を流したことがありますか」と結んでいる。また、『はっぴぃさん』の解説の末部も。「絵本あなどりがたし」である。

■2006/09/09, 週刊東洋経済

ジャンキンの悪妻の書―中世のアンティフェミニズム文学伝統
ウォルター マップ

「悪妻」といえば、かのソクラテスの妻、というのが通り相場であるが、女性が男性の心の安寧を脅かす存在とする「女性嫌悪」や「反結婚主義」の思潮は、旧約聖書の創世記に遡ることができる。

ところで、本書のタイトルの中の「ジャンキン」とは、イギリス中世の大詩人チョーサーの最大傑作『カンタベリー物語』の中の、「バースの女房の話」に出てくる、かつてオクスフォードの学僧で20歳の陽気な5番目の夫ジャンキンのことである。ジャンキンが日も夜も分かたずに読み耽って笑い転げているのが本書であり、また「女房」の変わらぬ行状を説諭するために引用した書物が本書である。本書は、中世の3人の著名な聖職者が書いた「女性嫌悪」「反結婚主義」の論考である。例えば、本書に散見するソロモン王の箴言「短気で口うるさい女と一緒に住むより、砂漠の地に住む方がましである」は、現代にも通用するかもしれない。

■2006/09/09, 週刊東洋経済

女帝 わが名は則天武后
女帝 わが名は則天武后山颯 吉田 良子

草思社 2006-06-21
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おすすめ平均 star
star違う視点の歴史
star天野先生の挿絵もいい感じ

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著者に聞く 『女帝 わが名は則天武后』(草思社)を書いた作家 山颯(シャン・サ)

中国を繁栄に導いた女帝の真の姿を描く

――則天武后(623年~705年)は、中国史上唯一人の女性の皇帝として知られていますが、日本では、全盛期の唐を一時中断させて、権力を恣にした冷酷な「悪女」という印象が強い女性です。則天武后をヒロインに取り上げた理由を教えてください。

日本だけではなく、中国でも則天武后は誤って評価されています。私はフランスで中国の歴史を勉強して、則天武后の本当の姿を知りました。則天武后は中国の最盛期をつくった聡明な君主で、女性としての魅力にも満ちています。

則天武后は貧しい地方貴族の娘に生まれ、太宗の最下位の妃となりますが、太宗の死後は太宗の息子である高宗に見初められ、しだいに頭角を現します。

持ち前の才気で、病気がちの皇帝を支えて、皇帝の死後は冷酷なまでの政治を行い、最後は唐を廃して、新しい王朝である武周朝を創設して、自ら皇帝に即位します。

則天武后の孫が唐全盛期の皇帝である玄宗ですが、玄宗のころの繁栄は則天武后が準備したものです。玄宗以後の皇帝たちは則天武后がつくった遺産を食い潰していったと思います。

――中国史で権力を握った女性ということから、清朝の西太后と比較されますが。

西太后は清が日本など列強の脅威にさらされているのに、国費を自分のために浪費しました。反対に、則天武后は科挙に合格した有能な官僚を登用して、それまでの門閥政治、貴族政治を廃して、新しい中国をつくりました。科挙官僚が中国を支配するという体制は、実は則天武后の時代に始まったものです。

則天武后は仏教を保護して、各地に大霊経寺をつくりました。

また則天武后は、新興の商人階級などを引き上げて、経済的な活性化も実現しました。

対外的には、新羅とともに百済、高句麗を滅ぼして、東アジアの新しい秩序をつくっています。唐が日本を破った白村江の戦い(663年)も則天武后の時代の出来事です。

――シャン・サさんにとって則天武后はどんな人物ですか。

フランスの最盛期をつくったルイ14世のような華やかで、魅力ある偉大な国王です。

何度でも言いますが、則天武后の時代の唐・武周は、中国史でもまれな活力のある時代だったのです。

――どうして則天武后の時代が長続きしなかったのですか。

則天武后は、当時の時代としては驚異的に長命でしたが、人間の寿命には限りがあります。

――中国は何度も没落と隆盛を繰り返しています。これが、二度と全盛期の繁栄を再現しなかったギリシャやローマと違うところです。

中国史は株式のチャートと一緒です(笑)。循環を繰り返しています。

――今の中華人民共和国は「買い」ですか。

私は今の中国が好きです。政治的な民主化という課題はありますが、経済的には繁栄に向かい、人々は豊かになっています。

■2006/09/09, 週刊東洋経済

法の支配―オーストリア学派の自由論と国家論
法の支配―オーストリア学派の自由論と国家論阪本 昌成

勁草書房 2006-06
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国家のあるべき姿をハイエク理論から提起

本書は、憲法学者である著者が、オーストリア学派の経済思想を参照し、とくにハイエクの市場分析を導きの糸として「法の支配」の何たるかを解明しようとしたユニークな著作である。著者は現代国家がマクロ経済政策によって市場に介入し、福祉国家として社会保障、所得移転政策を始めとする数々の任務を背負って、国民に様々な規制、強制、重税を課している現状を「統治の過剰」とし、そこに本来の立憲主義、自由主義と相容れない「病理」を見ている。

すなわち、国家は、国民の福祉などの価値、道徳的目標を目指すのではなく、個人の生き方の自由を最大限尊重し、個人の道徳的目標を実現しやすくするための装置にとどまるべきだ、というのが著者の立場である。

この立場はカントではなくヒュームやアダム・スミスに近く、著者はハイエクの自由主義にこのうえない共感を寄せている。ルール功利主義に近い立場である。自由市場においては、個人は自らの限られた知識と資源をもって、強制によってではなく自らの選好に導かれて行為する。

市場は私有財産制度をもつ社会における個人の経済行為の産物であるが、それは交換の正義を実現するルールを生み出す。そのルールは抽象的、包括的、一般的、普遍的で、万人に平等であり、したがって公共財である。

政府の仕事は公共財の提供にある。議会の役割は市民に普遍的に適用される一般的な法律を制定することにある。一般性、普遍性をもつ公共財としての法律を法の支配は目指す。

法の支配とは、正義に適うルールが法律を統御し、この原則から逸脱する法律を無効とする法的理念(198ページ)であり、正義を積極的に創造する思想体系ではなく、政府の強制力を最小化し、市民の自由を極大化する理念である(247ページ)。このように著者はリベラリズム、市場システム、法の支配の相関性を強調する。

社会主義の崩壊によって自由市場経済の優位が確定したが、社会民主主義か自由主義かは当分重要な争点である。本書は後者の立場から、福祉国家政策等による無責任な官僚の裁量行政と大衆迎合的な議員の利権政治が破綻に直面している現在、国家と政府が何をしてはならないかを原理的に考え抜いた哲学の書であり、緻密な議論によって自由主義の英知を再現している。

思想史の理解に粗雑な点も見られるが、紙数の関係で省略する。もし、ノモス(法の支配)とタクシス(組織の法)の関係について詳細な考察があれば説得力は増したであろう。【評者 田中秀夫 京都大学教授】

■2006/09/02, 週刊東洋経済

首相支配-日本政治の変貌
首相支配-日本政治の変貌竹中 治堅

中央公論新社 2006-05-24
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おすすめ平均 star
star55年体制から01年の新体制 そして05年体制の確立過程がわかる一冊
star首相の力の源泉を知る最良の一冊
star政治改革騒ぎの結末

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「小泉劇場」を可能にした制度的背景を分析

昨年8月の「郵政解散」から1年が経ち、「小泉劇場」も9月で閉幕となる。「聖域なき構造改革」がどこまで進んだのかは議論の余地があるが、「自民党をぶっ壊す」という小泉総理の公約はほぼ実現したように見える。本書は、小選挙区・比例代表並立制の導入を柱とする政治改革と内閣機能の強化を中心とする行政改革によって「2001年体制」が成立し、小泉総理のもとで定着していく過程を描いた好著である。

著者の言う「2001年体制」の最大の特徴は「首相への権力一元化」であり、そのもとで「首相支配」が確立したことにある。

小選挙区制の導入と政治資金規正法の強化は、候補者の公認権と政治資金配分権を持つ自民党総裁としての首相の権限強化をもたらした。省庁再編によって実現した経済財政諮問会議の設置と内閣官房の機能強化は、内閣における首相の地位を高めることにつながった。こうした中で、資金と人事の両面において影響力を失った派閥は次第に弱体化していったのである。

もっとも、強大な権力を獲得したかに見える首相にも一定の限界があると著者は言う。

「強化された権力を首相が存分に使えるかどうかは、首相自身が世論から支持を獲得できるかどうかにかかっている」からである。郵政民営化の政治過程においてそうであったように、首相の解散権の及ばない参議院自民党も「首相支配」の大きな制約要因となり得る存在である。

かつて、小選挙区制の導入に際して反対派の急先鋒であった小泉総理が、政治改革と橋本行革によって成立した制度を活用して「2001年体制」を確立していったことには歴史の皮肉を感じる。本書は、日本政治の来し方行く末を考えるうえで、興味深い一冊となっている。【評者 中里透 上智大学助教授】

■2006/09/02, 週刊東洋経済

組織行動の「まずい!!」学―どうして失敗が繰り返されるのか
組織行動の「まずい!!」学―どうして失敗が繰り返されるのか樋口 晴彦

祥伝社 2006-06
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おすすめ平均 star
star豊富な事例集としてお勧め
star一読の価値あり
star失敗学から「まずい!!」学へですね

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なぜ組織は失敗するのか幾つかの事例で解析

どんな組織も「まずい」ことをしてしまう。本書は、様々な失敗を事例にして、組織行動の失敗を分析し、教訓事項を抽出したものだ。

事例はチェルノブイリ原発事故から病院の手術ミスまで多岐にわたる。当時、詳細に報道された事件でも、何が本当の問題だったのか、理解していないことが多いと痛感する。チェルノブイリ原発は、元々が危険度が高い原発だったのだと理解を新たにすると、恐怖が蘇える。

本書は、熟練者の自己過信、波風を立てるのは良くないと危険を明示しないグループ思考、強すぎるリーダーシップの罠、などのように、失敗が類型化されており、理解しやすい。グループ思考が事故の誘因となるのはアメリカでも同じだったという指摘は面白い。最近の合理化の風潮にも批判的である。アウトソーシングが事故を起こす可能性が縷々説明されている。

「もったいない」がケニアのノーベル平和賞受賞者に評価されて以来大流行だが、組織行動としては「もったいない」は危険だという。過去に費やしたコストに執着すれば、将来のコストが見えなくなるからだという指摘にはなるほどと思った。

では具体的にどうすれば良いのかというと、著者は、本書は対策をお手軽に教える本ではないという。問題の本質を正確に把握できれば、取るべき方策は自ずと浮かび上がってくる。組織行動の失敗は千差万別であり、自分の組織の問題を、その責任者が真摯に考えるしか対策はないという。本書の事例と分析は、それを考えるに有益だろう。最後に、多少いやみな感想を述べさせていただく。著者の属する警察の失敗が様々に報道されているのだから、それが組織行動のどのようなメカニズムで起こるのかについても分析して欲しかった。【評者 原田泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2006/09/02, 週刊東洋経済

コルナイ・ヤーノシュ自伝―思索する力を得て
コルナイ・ヤーノシュ自伝―思索する力を得てコルナイ ヤーノシュ Kornai J´anos 盛田 常夫

日本評論社 2006-06
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ハンガリーの経済学者の自伝である。著者はユダヤ系ハンガリー人として1928年に生まれ、戦後一時期ハンガリー共産党機関紙の記者を務め、59年ころから共産党とマルクス経済学に決別して、84年から2002年までハーバード大学教授を務めた。

こう語っていくと、なんだかなじみのない本に思えるが、読んでみると面白い。

まず、ハンガリー社会主義的知識人の内面とその転向過程がよく読み取れること。次に東欧の社会主義経済が、東欧圏の中では自由化もある程度進んで、「優等生」とまで呼ばれたハンガリー経済をもってしても、うまく機能しなかった理由が、理論と現実を踏まえた回想で明らかにされているからだ。

著者はマルクス経済学への「恋」に冷めたあと、一時は新古典派経済学に「恋」するが、新古典派も「諸定理が現実と一致しない」ことに気がつき、愕然とする。こうした経済理論への著者の考えも興味深い。

■2006/09/02, 週刊東洋経済

神主さんがなぜプロサッカーチームの経営をするのか
神主さんがなぜプロサッカーチームの経営をするのか池田 弘

東洋経済新報社 2006-06
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著者は新潟市内にある神社の神主であり、Jリーグ・アルビレックス新潟を人気チームに育て上げたことで有名。本書は全国から寄せられた「神主がなぜサッカーチームの経営を始めたのか」との問いに答えるために書かれたものだ。

神社には祭祀を通じて地域の人々の幸福を実現するという目的がある。著者は祭祀に加えて、事業を通じて「まちおこし」をしようと決意し、28歳で教育事業をスタートさせた。今では学生総数9000人の専門学校グループに成長している。教育以外にも医療、福祉事業を経営しているが、常に著者の心にあるのは地域の発展。サッカーやバスケットのプロチームを経営しているのも全て「まちおこし」のためだ。

昨今、キャッシュフロー経営がもてはやされるが、著者はこれを否定。お金はそこに心が乗ってこそ生きるものだとして、利益を地域に再投下することが重要と説く。ヒルズ族と対極の成功法則が興味深い。

■2006/09/02, 週刊東洋経済

小心者の大ジョッキ
小心者の大ジョッキ端田 晶

講談社 2006-07-28
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猛暑に冷えた一杯のビールはまさにオアシスだが、恵比寿麦酒記念館館長によるお酒の楽しい薀蓄本である。この暑い季節にビールを飲みながら、気楽に読むのにふさわしいウイットに富んだ内容だ。本のカバーを剥ぐと、表紙がレトロなビールの広告ポスターでデザインされていて面白い。

明治時代のビールのポスターは赤坂有名芸者など美女がモデル。麦酒が高級料亭などで飲まれる贅沢品だったからだそうだ。本書のカバーを閉じたままにせず、明治時代の美女を眺めながらの一杯はどうだろうか。

本書によると、東洋のビール王と呼ばれたのは、馬越恭平氏。三井物産から恵比寿ビールの製造元である日本麦酒醸造の経営者になり、後に大日本麦酒の社長となった。彼がビヤホールを思いつき、開店第1号は明治32年と意外に古い。

実用的な話も多く、凍結グラスでビールを飲むと、飲むときの液温が低すぎて味がせず、最適ではないという。意外であった。

■2006/09/02, 週刊東洋経済

椋鳩十研究―戦時下の軌跡
椋鳩十研究―戦時下の軌跡鈴木 敬司

菁柿堂 2006-03
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「大造爺さんと雁」という短編小説を小学校の国語の教材で読んだ人が多いと思う。1951年から実に50年以上もの間、大手5社の教科書会社が採用していた大変人気のある文学教材であった。

ところで、その作品を書いた椋鳩十とはいかなる作家か。あの忌まわしい軍国主義が狂奔していた戦時下において、ほとんどの文学者が参加せざるを得なかった「文学報国会」のように、侵略戦争を肯定したり美化したりするような作品を一切書かなかった。

その代わり、「動物文学」というジャンルの作品を書き続けていた。物言わぬ動物の世界の出来事に託し、「命を守ることの大切さ」「あらゆる場面で、生き延びることの美しさ」を巧みに訴えたのだった。

それは、「文学というものは、時流の中に、巻き込まれず、いつも、批判の目が輝いていることが命なんだ」という彼の恩師豊島与志雄の言葉を噛みしめていたからに違いない。

■2006/09/02, 週刊東洋経済

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