メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年7月8日~7月15日
| 孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生 | |
![]() | ロバート・D. パットナム Robert D. Putnam 柴内 康文 柏書房 2006-04 売り上げランキング : 12965 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
社会関係資本を失った米国、回復への道を探る
「情けはひとのためならず」という言葉がある。直接何かがすぐ返ってくることは期待しないが、めぐりめぐっていずれはなんらかのかたちでお返しがあるということを信じて、なにかを提供するような行為の連鎖のことを、専門用語で「一般的互酬性」という。
物々交換よりも貨幣のほうが効率が良いのと同じように、この一般的互酬性に拠る社会は、それを欠く疑り深い社会よりも効率が良い。そしてこの一般的互酬性の態度は、選挙への参加から友人との食事までを含むさまざまなレベルでの社会関係への参加を通じて育まれる。
つまりきちんと投票に出かけ、機会があれば献血をし、PTAの会合に出席して、友人としばしば会食をする人が多い社会は、そのぶんだけ取引費用が低く、効率的で高信頼な社会、いわば「社会関係という資本」の蓄積が厚い社会なのである。
そして著者は厖大なデータの分析から、米国社会は、20世紀の最初の3分の2の期間、着実にこの社会関係資本を蓄積してきたが、最後の3分の1の期間に急速にそれを失ってきたと主張する。
この主張は、1995年に論文のかたちで発表されると、たちまち大反響を呼んだ。本書は、その5年後に400ページを超える本格的著作にまとめられた完全版の翻訳である。
本書の分析の直接の対象は米国社会だが、少しの読み替えで、まるで日本のことであるかのような記述に満ちている。
社会関係資本への着目でグローバル化の深部を照らす本書の視角には、既に現代の古典としての普遍性があるということだろう。
もちろん、社会関係資本は、個々の社会の歴史や文化に埋め込まれたものであり、その厚みを測定する画一的な方法は存在しない。機械的な比較は避けるべきである。しかし、むしろだからこそ、日本社会のリアリティに根ざしたかたちで、社会関係資本の蓄積/摩滅を測定するための、さまざまなデータの解釈モデルを構築する必要が問われているということでもあろう。
そして本書のいまひとつのポイントは、社会関係資本の消失が、グローバル化にともなう必然的で逆転不可能な破滅なのではないということを強調していることである。最終部に述べられている処方箋は、劇的な特効薬を示すものではないが、しかし読むものに希望への指針を与えてくれるものではある。
分厚く、価格も安くはないが、決して専門家にしか読めない本ではない。そして翻訳が舌を巻くすばらしさだ。幅広い読者の関心に応える一書である。【評者 北海道大学助教授 山下範久】
| 「ニート」って言うな! | |
![]() | 本田 由紀 内藤 朝雄 後藤 和智 光文社 2006-01-17 売り上げランキング : 14005 おすすめ平均 ![]() マイナスも多いが、それ以上のプラスの価値を持つ本 1章は良かったんだけど… 虚を突いた本!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ニートは不況の産物 誤った論議を痛烈に批判
本書は、ニートという言葉をめぐる言説が、若年雇用の悪化を、不況が若者の雇用を直撃するという日本の労働市場の特殊性にではなく、若者に負わせ、若者を矯正することに問題解決の道を求めていると厳しく批判する。ニート(NEET)とは、学校にも行っていない、働いてもいない、仕事に就くための訓練も受けていないという意味の、イギリスで生まれた言葉である。本来のNEETがニートとなる過程で、イギリスとは異なる意味を持つようになってきたという。
イギリスでは失業者を含んでいるのに、日本では除外されてしまった。イギリスでは、貧困や低学歴などからNEETになるとされているのに、日本では、豊かな社会の若者の働く気がない病理現象と解釈された。
その結果、本来、大人の責任である、不況や労働市場の特殊性という問題が除外され、若者とその家族の責任が強調されるようになったという。
著者たちは、このような風潮を生み出した研究者、ジャーナリスト、マスコミを強く批判する。ニートをめぐる言説は、社会の憎悪が生まれるメカニズムだと分析するのみならず、ニートが研究者や支援団体にとっての金づるだから、歪んだ言説が蔓延するとすら述べている。
核としてのニートには、豊かな社会の若者特有の現象があるかもしれないと私は思う。しかし、それが増大したのは、経済停滞とともにだ。若者の資質が10年で変化することはない。変わったのは経済情勢であって、若者ではないだろう。現在の好況が続けば、ニートの増大が経済問題であり、大人の責任であったことが明確になるだろう。
ニートとは何かを明らかにするとともに、奇妙な言説が生まれるメカニズムという興味深いテーマに挑戦する野心作だ。【評者 大和総研チーフエコノミスト 原田泰】
西武争奪―資産2兆円をめぐる攻防
日本経済新聞社
ハイエナの争いからわれわれが学ぶこと
かつて日本を代表する企業集団として威勢を誇ったコクド・西武鉄道グループとセゾングループ。同根の二大グループがともに崩壊し、堤家の各氏が金融機関やファンド、諸種の応援団を巻き込んで死肉の争奪戦を展開する、しかしいかに大義名分に糊塗されようともその本質はハイエナの争いでしかなく、個人的スキャンダル、乱脈も随所にちりばめられている。となると、経営者とはそんな人種なのかということになる。
確かに経営者は「人徳を以って君臨する」という仕事ではない。シュンペーターによれば「経営技術で企業に奉仕するプロフェッショナル」ということになる。経営者も人間だ。それゆえプライバシーについても「罪なき者、石もて我を打て」と揶揄することも可能であろう。
けれども企業は生身の人間が働く場である。それを人格的に代表する経営者が人間社会の規範にそむくような人格であれば、従業員の会社を盛り立てようとする意欲が生まれるはずもなく、結局経営数値も上がってこないであろう。私も35年も社長をやってやっと分かったことは、経営者の人格こそは企業存続にfatal(死活的)な影響を与える、ということである。
また先輩経営者から言われた「きれいに終わる人はほとんどいない」という言葉も思い起こさずにはいられない。
ホリエモンも村上ファンドも、そして西武鉄道も最後はみな証券取引法違反である。ごく一部の例外的な事例、と思いたい。ほとんどの経営者は日夜経営改善と従業員の待遇改善に呻吟し、技術革新や環境変化への対応に研鑽を積み、それゆえ従業員に敬愛されているのであろう。そうでなければこの国に、そして資本主義に未来はない。「以って他山の石と為せ」という警世の書と受け止めよう。【評者 学究社社長 河端真一】
| 環状道路の時代 | |
![]() | 日経コンストラクション 日経BP社 2006-04 売り上げランキング : 42601 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
いつの間にか、「道路建設は悪」という風潮になっているが、東京、大阪など大都市部の効率を高め、生産性を上げるための道路は必要だ。特に、中心部を迂回し、渋滞を緩和する環状道路が不可欠である。
たとえば、東京圏では、環状道路が未整備なために首都高速道路に大きな負荷がかかり、時間のムダを招いている。これに比べて、パリ、ロンドン、ニューヨークでは環状道路が整備されており、都市機能が果たされている。
監修者である川勝平太・国際日本文化研究センター教授は、「古代ローマ帝国の繁栄を支えたのは、500年かかってつくられた8万6000キロメートルにも及ぶ道路網である」と歴史的な視点から環状道路の必要性を語っている。
一方、日本の道路網の骨格は、都市間を結ぶ道路が主体であり、江戸時代と基本構造が変わっていない。おカネをばらまく道路ではなく、大都市の生産性を高める道路が望まれる。
| 信長軍団に学ぶ処世の法則 | |
![]() | 加藤 廣 PHP研究所 2006-05 売り上げランキング : 16992 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
織田信長のような強烈な独裁者社長に仕える羽目になったら、どう生きればよいのか。こうした問題意識から、サラリーマンから作家に転身した著者が語る。
まず、信長評価の歴史的評価の変遷から。時代とともに信長の評価が変わる。著者によると、江戸時代は最低。明治から昭和は秀吉が評価され、戦後は「平和国家をつくった」家康が評価され、高度成長時代に信長の時代を迎える。
信長は、尋常な性格ではなく、決して理想の上司ではなかったという。こうした信長に、柴田勝家、光秀、秀吉、荒木村重らはどう仕えたのか。著者によれば、やはり秀吉が処世上手であり、著者は困難に直面すると、「秀吉ならどうしたか」を考えるという。
ただ、著者は光秀、荒木村重ら信長に反旗を翻した武将にも同情を寄せる。特に、摂津50万石を与えられ、光秀、秀吉より先に出世した荒木村重が反乱に至る経過は、あまり知られていないだけに興味深い。
| 不惑の楽々英語術 | |
![]() | 浦出 善文 集英社 2006-02 売り上げランキング : 312229 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は冒頭からいきなり、「全員英語ができる必要はない」と断言、「英語なんか、各自の仕事や趣味の必要に応じて使えれば、それで十分」と割り切る。
本書ではまず、英語に対する割り切りを示すことで、中高年を英語コンプレックスから解放する。そのうえで「発音は多少悪くても、リズムさえ良ければ通じる」、「通じないのは、文法上の間違いのせいではない」「聞き取れない責任の半分は、相手にある」ことなどを指摘しつつ、気楽に長続きする勉強のコツを伝授してくれる。
さらに、英語ができるように見せる方法や場面に応じた会話のつなぎ方も紹介されている。
著者は翻訳家で『英語屋さんーソニー創業者・井深大に仕えた四年半』などの著作で知られている。本書内で著者が取り上げる辞書などの書籍やウェブサイトは、読者の英語学習に大いに役立つだろう。今から英語を始めようという気にさせてくれる一冊だ。
| 古城事典 | |
![]() | クリストファー グラヴェット Christopher Gravett あすなろ書房 2006-02 売り上げランキング : 25313 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
スペインの首都マドリードを含む中央部をカスティーリア地方と呼ぶ。この地名の語源は「カスティーリオ(城)」である。スペイン、というかイベリア半島では、8世紀から15世紀末まで、イスラム教徒とキリスト教徒軍の間で「国土再征服戦争」が戦われ、その間にこの地に城がたくさん作られた。ちなみに、あのディズニー映画『白雪姫』の城のモデルとなったセコビア城もこの地にある。
本書によると、石造りの城は11世紀からだという。
となると、今日ロマネスク教会と呼ばれる石造りの教会の建堂もこのころであり、中世の石工ギルド「フリーメーソン」が活躍を始めた時期に重なる。さらに、本書には、ロワール河畔の城、ドイツの城、十字軍の城、そして日本の城などが紹介されている。また城につきものの礼拝堂、牢獄、大広間、防御機構と守備隊の組織、城攻め用機具、兵士と飛び道具、など実に興味深い内容となっている。
| 赤坂檜町テキサスハウス | |
![]() | 永 六輔 朝日新聞社 2006-03 売り上げランキング : 129643 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
昭和20、30年代、東京。「梁山泊」での熱き日々
写真家大竹省二といえば、秋山庄太郎とともに「婦人科カメラマン」と云われてきた。戦後の雑誌ブームに乗り、一時はテレビのワイドショーで素人のヌードを撮り、自身も登場。その藤田嗣治のような風貌で、時代の寵児になったこともある。そのせいか他の事はあまり知られることがない。本書は大竹の転機となった、あるアパートをめぐる写真と対談による物語だ。
東京のかつての防衛庁裏の赤坂檜町に外国人相手の木造共同住宅が建てられた。焼跡の記憶がまだ熱い昭和20年代後半、大竹は進駐軍将校のオンリーさん(現地妻)がいたこの二階建てアパートで生活を始める。正確には「花岡アパート」というが、当時ここに縁があった本書の語り部となる永六輔は「テキサスハウス」と呼んでいた。
この「ハウス」には、あこがれのアメリカ文化がそろっていた。テレビ、掃除機、洗濯機、外車。その住人は草笛光子、三木鮎郎、キノトール、ドクトルチエコ、笈田敏夫ら。江利チエミ、岸恵子、浜美枝、中村八大、野村芳太郎やモデル嬢が出入りし、放送、出版、映画、音楽家など才気ある者の梁山泊のようだった。
「テキサスハウス」の日々はバタくさいものだったが、大竹は敗戦後、GHQのカメラマンをしていた。マッカーサーの私生活を撮ったこともある。英語と中国語が流暢だった。それは上海の東亜同文書院に学んだせいか。本書で永六輔は中国大陸で情報将校だった大竹にその任務を問いただす。軽妙にはぐらかす86歳の大竹。掲載された写真は上海をはじめ味わい深いものだ。「人生の答えは回り道してやってくる」。大竹の言葉に「婦人科」とは別の写真家の顔が見えた。【評者:写真家 中川道夫】
■脳を鍛えてアイデア出そう!
仕事はいっぱい、でもアイデアはからっぽ。そんな状態では、いつまでたっても仕事は終わらない……。こんな嘆きを解消する本2冊を紹介しよう。
まず『IDEA HACKS!』(原尻淳一・小山龍介著)。
| IDEA HACKS! アイデア・ハッカーの仕事術 | |
![]() | 原尻 淳一 小山 龍介 東洋経済新報社 2006-07-14 売り上げランキング : 3784 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
まず『IDEA HACKS!』(原尻淳一・小山龍介著)。本書は仕事をスムーズに進めることのできるアイデアのネタを集めたもの。といっても単なるアイデア集ではない。「情報」「時間整理」「発想」「意思決定」など7項目に整理されおり、ネタをチームで共有すると、仕事がクリエイティブかつ迅速に進められるのである。
「ケータイストラップにペンを付ける」という身近なネタから「分母を入れ替えて自分の価値を高める」という深いネタまで、昼食を抜いても読みたい一冊だ。
次は『ビジネス脳を鍛える 電車力トレーニング』(野村正樹著)。
ビジネス脳を鍛える電車力トレーニング
野村 正樹
路線選びや代替ルート検討などで、企画力や判断力、観察力までが鍛えられる。
クイズと解説が楽しく、鉄道ファンでなくとも読んでみたい。「脳トレ」ソフト購入の前に本書をどうぞ。
■東洋経済の新刊本: 6月28日~7月23日発売
| ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学 | |
![]() | ゲーリー・S. ベッカー リチャード・A. ポズナー Gary S. Becker 東洋経済新報社 2006-06 売り上げランキング : 56653 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ビジネスコンプライアンス―検定試験公式テキスト「初級」第2版
| すぐ役に立つISO環境法 | |
![]() | 日本環境認証機構 JACO= 東洋経済新報社 2006-06 売り上げランキング : 115261 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 神主さんがなぜプロサッカーチームの経営をするのか | |
![]() | 池田 弘 東洋経済新報社 2006-06 売り上げランキング : 41174 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 地方自立への政策と戦略―大分県の挑戦 | |
![]() | 平松 守彦 東洋経済新報社 2006-06 売り上げランキング : 294464 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 図解 企業価値入門―考え方から投資戦略までの活用法がわかる | |
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| 暴言甲子園 | |
![]() | 暴言やいのやいの連盟事務局 東洋経済新報社 2006-07 売り上げランキング : 16324 おすすめ平均 ![]() 暴君ハバネロの肉声付き??? 目指せ 暴言プレーヤー!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 『会社四季報』がもっとわかる株で儲けるための「会社の数字」の読み方―株式投資家のための会計知識 | |
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| バイオテクノロジーの経済学―「越境するバイオ」のための制度と戦略 | |
![]() | 小田切 宏之 東洋経済新報社 2006-07 売り上げランキング : 56995 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 世代間衡平性の論理と倫理 | |
![]() | 鈴村 興太郎 東洋経済新報社 2006-07 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| PR会社の時代―メディア活用のプロフェッショナル | |
![]() | 矢島 尚 東洋経済新報社 2006-07 売り上げランキング : 422 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 世界デフレは三度来る 上 | |
![]() | 竹森 俊平 講談社 2006-04-21 売り上げランキング : 42310 おすすめ平均 ![]() 経済史は社会史!! マクロ経済がよくわかるようになるAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| 世界デフレは三度来る 下 | |
![]() | 竹森 俊平 講談社 2006-04-21 売り上げランキング : 42152 おすすめ平均 ![]() ああ宮澤喜一Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本経済がデフレ不況に苦しんでいた頃、多くの人々に圧倒的な影響力をもっていたのは、城山三郎『男子の本懐』であり、ビクトリア朝期の「良いデフレ」であった。
多くの人々は、デフレ不況のさなかにデフレ政策を断行した浜口雄幸や井上準之助の姿に小泉首相の姿をだぶらせ、また130年前のデフレを引き合いに出して、デフレは良いとすら論じた。こうした経済学的には明らかに誤った「神話」や「伝説」の影響力に、私などはただ、たじろがざるをえなかった。
竹森氏の新著は、こうした「神話」や「伝説」に対する挑戦である。1000ページに及ぶ本書の壮大な企図は、世界創造にも似ている。この分厚さが可能にした深みと精妙さこそが本書の命である。
この大河小説ならぬ大河経済書には少なくとも三本の支流があり、それらが複雑に絡み合う姿には感嘆せざるをえない。
それはまず、19世紀後半のビクトリア朝期から現代に及ぶ130年間の政治経済のドラマである。その核心は通貨価値と経済の安定化にある。国際経済の一体化が進む時代、安定をもたらすと考えられた制度は崩壊した。試行錯誤の末に人類が手にしたのは中央銀行による金融管理という知恵であった。
また、これは19世紀末に世界史の舞台に登場した極東の小国の、禍福あざなえる成功と失敗のドラマである。金本位制への加盟によって列強の仲間入りをした日本は、金本位制への固執によって恐慌を招き、敗戦後の経済運営を乗り切りながらも、1990年代には長期停滞へと陥ってしまった。
そしてなによりもこれは、政策担当者や経済学者が絶えず変動する現実経済と格闘した人間ドラマである。マーシャル、松方正義、福沢諭吉、田口卯吉から始まり、高橋是清、ケインズ、フィッシャーを経てフリードマン、アラン・グリーンスパン、ベン・バーナンキへと至る生き生きとした群像劇は、本書最大の魅力である。
竹森氏は、「経済政策が有効であるためには『神話』や『伝説』が必要なのである」と述べている。確かに人を動かすのは「神話」や「伝説」なのかもしれない。もしそうだとしたら、それらはできるだけ真実に近いほうがよい。竹森氏が提供するのはまさにそれである。
日本と世界経済の行方にやや暗雲が立ち込め始めた今、本書を読む意義はきわめて大きい。人類の歴史が続く限り、貨幣をめぐる大河ドラマが終わることはないだろう。歴史を忘れる者はそれを繰り返すことによって罰せられる。多くの人に読まれることを期待したい。【評者 早稲田大学教授 若田部昌澄】
| 女教皇ヨハンナ (上) | |
![]() | ドナ・W.クロス 草思社 2005-10 売り上げランキング : 143030 おすすめ平均 ![]() ヒロインの視点が近代的すぎる 女性として生きることの悲しさに泣かされました。 才女の野心と戦いAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| 女教皇ヨハンナ (下) | |
![]() | ドナ・W.クロス 草思社 2005-10 売り上げランキング : 142895 おすすめ平均 ![]() 勝利か、それとも敗北か?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「あなたはペテロ。私はこの岩の上に私の教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない」とのキリストの言葉のように、12使徒の中から選ばれたペトロが、1世紀に「キリストの代理人」、さらには「天国の門番」である初代ローマ教皇となり、それ以降教皇が現在まで連綿として続いている。
しかし、9世紀に出た「ヨハネス8世」は、なんと「女性の教皇」だったという。ローマ教皇庁側はこれを荒唐無稽な与太話として一笑に付してきたが、現在に至るまで、「女性の教皇」のうわさは立ち消えては再燃する。それにしても、この俗称「ヨハンナ」という女性は、いかなる人物だったのだろうか。
本書によると、ヨハンナが生まれた9世紀のヨーロッパは、魔女狩り、天変地異の原因とされた異教徒の虐殺や奴隷売買、占い師やニセ聖職者の横行など宗教的虚妄がまかり通り、しかも、教皇レオ3世によって戴冠されたカール大帝の没(814年)後、カロリング帝国の混迷と彷徨は一層加速するばかりであった。当然、教皇位継承をめぐって、教皇暗殺を含む実に激烈な権力抗争が続いた。
女性が「男を惑わし、禁断の木の実に手をつけた者」と貶められていた男尊女卑の世界で、賢明で、好奇心の強いヨハンナが、通常の女性の生き方を拒否し、宣教師の父のもとから出奔し、男装して修道会に潜りこみ、やがて聖都ローマに赴き、彼女ならではの理性と智恵だけで、悪戦苦闘の末、ついに教皇位にまで登りつめる。間もなく、彼女は劇的な結末を迎える。「女性」であることも見破られた。
ヨハンナが伝説上の人物か、実在の人物かの論争はともかく、本書は、強い意志を持って夢を追い求める「教養小説(ビルドゥングス・ロマン)」の女性版として読める。【評者 法政大学教授 川成洋】
アメリカの大学―ガヴァナンスから教育現場まで
谷 聖美 (著)
日本では米国の大学というと、ハーバード大学などエリート大学のイメージが強烈だが、本書は私立の大学院中心の研究大学、州立大学、コミュニティ・カレッジ、リベラルアーツ・カレッジなど、米国の多様な大学像を丁寧に俯瞰している。その一方で、一大産業とも言える米国の大学のダイナミックな運営構造を、詳細かつ具体的に描いている。
米国の大学に関する薄っぺらな紹介本が溢れる中、異彩を放つ一冊である。教育・大学関係者はもちろん、米国の大学に留学したいと考えている人にも、的確な分析と情報を提供する。
本書の分析が洞察力に満ちているのは、筆者の経歴による点も見逃せない。学者の視点はもちろんだが、自ら米国の大学に滞在した経験、日本の国立大学で学部長、入試管理委員長、大学改革を検討する全学委員などを務めた問題意識が下味になり、本書の内容をコクのあるものにしている。
筆者は米国ではトップレベルの大学でも多様であり、強力な大学が競い合っていると説明。「日本の高等教育界が東大を頂点とする富士山型であるのに対して、アメリカのそれは独立峰がたくさん集まった八ヶ岳型だと見る。しかしこの米国の八ヶ岳の数多くの峰々は日本の富士山に負けず劣らずそびえている」という。
さらに次のような筆者の指摘は、米国の大学の強さの秘密を浮き彫りにしてはいないか。米国の大学は、明確な担当領域、専門能力を持った多数の職員に支えられており、学者は研究や教育に専念できる体制になっているというのだ。本書で米国の大学の重層的なマンパワーと、その効率的な仕組みを知ったとき、貧弱な日本の大学教育界の行く末に、いちまつの不安を感じるのは評者だけだろうか。
| セブン‐イレブン覇者の奥義 | |
![]() | 田中 陽 日本経済新聞社 2006-04 売り上げランキング : 18863 おすすめ平均 ![]() マーケテインングや経営のヒントとなる題材の宝庫!! セブン‐イレブンのこれまでの経緯Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本最大の小売業としての地位を確立したセブン
‐イレブン・ジャパン。日本への導入当初は親会社であるイトーヨーカ堂の経営陣も将来性に懐疑的で、旗揚げメンバーは個人での出資を余儀なくされた。今日までの歩みは、小売業の常識に対する挑戦の歴史だ。
セブン‐イレブンの強さを紹介する書籍は枚挙にいとまがないほどある。とはいえ、その多くは、鈴木敏文会長のリーダーシップと先見性への礼賛か、ノウハウの紹介かの一方に偏している。だが、もっとも重要なのは、常にイノベーションを生み出し続ける企業風土の分析であるはずだ。
本書の著者は、新聞・雑誌記者として15年にわたりセブン‐イレブンに密着してきた。本書では「セブン‐イレブンに組み込まれ進化しているソフト」を活写することを意図したというが、膨大な取材の蓄積がその試みを成功させている。「鈴木礼賛」にとどまらないパースペクティブが感じられる好著だ。
| 韓国 堕落の2000年史―日本に大差をつけられた理由 | |
![]() | 崔 基鎬 祥伝社 2006-06 売り上げランキング : 55904 おすすめ平均 ![]() 偏った内容だけどAmazonで詳しく見る by G-Tools |
日本人は韓国・朝鮮の歴史を知らないと韓国人の著者は語る。著者は統一新羅と李氏朝鮮が中国文明の導入を進めた結果、韓国人の持つ活力を封じて、「恨の国・韓国」をつくり、日本と比べた場合、歴史的な発展格差をつくってしまったと指摘する。
統一新羅は、唐の支援を受けて、高句麗と百済を滅ぼした。高句麗が持っていた中国東北部の領土を失った。高句麗、百済の遺民の中には日本へ亡命する人間もいた。
李氏朝鮮は高い文化で日本でも評価されているが、実態は現在の北朝鮮のような一部の階層が民衆を支配する国家で、明・清の従属国家に過ぎなかった、という。
李氏朝鮮はそれ以前の高麗が尊重した仏教を徹底的に弾圧して、中国起源の朱子学を、「国教」とした。その結果、党争がはびこり、官による民の抑圧強化になったという。韓国人学者の「自己批判」的な自国の歴史の評価である。
| 2015年アジアの未来―混迷か、持続的発展か | |
![]() | 日本貿易会「2015年アジア」特別研究会 東洋経済新報社 2006-06-01 売り上げランキング : 45899 おすすめ平均 ![]() うならせる刺激的アジア像Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国、インドという高経済成長国を抱えるアジアは、さまざまなリスクファクターをも抱えている。
総合商社の第一線エコノミスト達の1年間の研究から生まれた本書は、この点を簡潔に示す好著だ。
興味深かったのは「水」の重要性だ。現在の中国は世界の中でも水窮乏国のひとつで、都市部の水需要は50年後に2・6倍に膨張するという。しかも中国では河川、湖沼、海などの水源汚染、公害問題の同時解決が迫られている。インドもしかりである。
これはほんの一例に過ぎない。こうした問題の指摘に加え、そのソリューションを提示するところも本書の特長だ。詳細は本書に譲るが、高度技術の提供、農業市場の開放など日本の果たす役割が重要だとの指摘は当を得ている。
中国、韓国との外交関係がギクシャクする中、アジアを中心にした日本の将来の発展を真剣に考えようという人には、一読に値する書籍といえよう。
ホトケの映画行路
大橋 信雅 (著)
「映画館の暗闇は母親の胎内にいるような心地よい場所」「勝手気ままの中年の放蕩、道楽に過ぎないが、その暗闇の中に、夢見るようなやすらぎがあった」とこともなげに言っている本書の著者は、年になんと600本の映画を見ている。
しかし、映画といえば、通常は、日常生活の憂さ晴らしやストレスからの解放といった現実逃避のために利用する向きが多いと思うが、著者は映画の中にどっぷりと浸かりながら、虚構の空間と現実の世界の境がなくなったのであろうか、自虐といっていいほど自分の破天荒だった若き日々をさらけ出し、また自分の家族や友人たちの悲惨な現実やかなわぬ夢を思い出すのだ。しかも、それらは零落趣味とでもいうべきものを噴出させている。だが、それでも「どんなつまらない映画でも、僕の現実よりましだ」と言いつつ、映画館のハシゴをやめはしない。このさりげない言葉に、何故か、私は一遍に好きになった。



マイナスも多いが、それ以上のプラスの価値を持つ本
1章は良かったんだけど…


















ヒロインの視点が近代的すぎる



