メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年6月24日~7月1日

エコノミストたちの歪んだ水晶玉―経済学は役立たずか
エコノミストたちの歪んだ水晶玉―経済学は役立たずか野口 旭

東洋経済新報社 2006-03
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日本の経済論壇の中で、率直な議論の姿勢を示し続ける著者の最新作は、「経済学は役に立たない」という世間一般の抜きがたい批判に答えることを目的にしている。世間で経済学が役立たないと思われているのは、「歪んだ水晶玉」=間違った経済理論で預言を行うエコノミストたちに原因があるという。多岐にわたる本書の内容で注目すべきは、小泉政権の構造改革路線の検証、最近の景気回復の原因、今日の量的緩和解除論議をめぐる見通しなどである。

小泉政権の構造改革路線が、経済の停滞が非効率部門の存在という構造的な問題にあり、これを淘汰することで高い成長率を目指すという「清算主義」の性格を持っていたことが指摘されている。この清算主義は、「国債発行枠30兆円以下」を公約にした財政再建路線に明白だった。しかし不況の深刻化からこの清算主義路線は早々に放棄された。そして「循環的財政赤字」の発生を放置することで事実上景気の落ち込みの下支えに貢献したことが指摘されている。

また、「竹中プラン」(金融再生プログラム)の評価は興味深い。当初、竹中・木村ショックで日本の株価は急降下した。政府が不良債権の抜本的な対策で銀行・企業の統廃合に積極的に乗り出すという懸念がマーケットや国民の間に広がったからだ。しかし実際には、りそな銀行への公的な救済に典型的なように、銀行を潰すような清算主義は採用されなかった。竹中プランは骨抜きになったかにみえた。しかし、本書ではマクロ経済的な清算主義は放棄したものの、この竹中プランをもとに金融庁が大手銀行の不良債権処理に過度の介入を許してしまい、規制の硬直化が資源の誤配分を招来してしまったと批判する。

さらに興味深いのは、今日の景気回復の主動因についての分析である。それは財務省の円安介入と、それと連動した日銀の当座預金残高の引き上げという量的緩和政策が重なったことが契機となっている。だが現状の景気回復はいまだ不安定であり、より一層のリフレ政策が強調されている。そのため2006年末頃までは現状の財政・金融政策のスタンスの維持が必要であること、経済が十分安定化してから、量的緩和の解除、インフレ目標の導入、プラスの政策金利への復帰、そして財政再建が順を追って採用されるべきだと提示する。しかし本書でのまっとうな主張を裏切る形で、日本銀行は量的緩和解除を行い、そして早期の利上げを目指しているようである。今後の政府と日本銀行の政策動向を占う上で最適な「水晶玉」を本書は提供しているといえよう。【評者 上武大学助教授 田中秀臣】

のぐち・あさひ 専修大学経済学部教授。1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科博士課程修了。イェール大学客員研究員等を経て、現職。主な著書に『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社、2004年、第47回日経・経済図書文化賞受賞)など。

■2006/07/01, 週刊東洋経済

いなかのせんきょ
いなかのせんきょ藤谷 治

祥伝社 2005-12
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物語の舞台は、戸蔭(とかげ)村という、東北方面にあるという設定の、人口わずか2160余名の過疎の村。公共事業と地方債発行を繰り返し、「借金でがんじがらめになっている」。

そこに総務省主導の「平成の大合併」が湧き起こる。合併した自治体は、国が7割を補填してくれる合併特例債を出せるという餌に釣られ、「国中の市町村は猫も杓子も合併じゃ合併じゃと、なりふりかまわず合併を始めたのでございます」。

戸蔭村も特例債を当て込み、総工費24億円の「雛わらじ記念館」を建設。ところが、合併が破綻し、巨額の借金だけが残る。村長は引責辞任し、主人公の深沢清春は、助役に請われ、村長選挙への出馬を決意する。

ところが村の「政財界」を牛耳る製材所と建設会社の社長と村議会議長の三人が、清廉潔白で公共事業依存型財政に批判的な深沢に反対。「政治ったらなんさ。みんなが分相応にいい目にあえる工夫のことでねいか」と村の論理を展開し、あろうことか、当の助役を深沢の対抗馬として出馬させる。

講談調の文章は、よくこなれていて味わい深い。会話は作者が作った、どこの方言ともいえない方言だが、心に沁みる懐かしい響きがある。

選挙戦では、元助役の候補が有権者たちと握手をしているすぐ後ろで、後援者である製材所の社長が千円札を一枚ずつ人々の掌に握らせていく場面などが出てくる。本書は、田舎の人々の思考・行動パターンを赤裸々に描いているが、北海道の人口3000人の過疎の町出身の私が読んでも、まったく違和感がない。物語を通じて地方自治の実態を学ぶことができる。

圧倒的に不利な状況の中、深沢はあの手この手を繰り出して選挙戦を戦い抜く。果たしてその結果は?【評者 作家 黒木 亮】

■2006/07/01, 週刊東洋経済

ライブドア監査人の告白
ライブドア監査人の告白田中 慎一

ダイヤモンド社 2006-05-26
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ライブドア事件で上がった火柱は、村上ファンドへ燃え広がり、ついには日銀総裁にまで火の粉が降りかかっている。

明確な違法行為、グレーゾーン、倫理的問題。レベルの違いこそあれ、そこに共通しているのは、インテグリティ(倫理観)の欠如なのであろう。

本書はタイトルどおり、ライブドアの監査を行っていた港陽監査法人のパートナーだった著者による内幕本だ。著者は粉飾決算等が問題となっている2004年9月期は監査を行っておらず、05年9月期の中間決算から監査人を務めている。こうした微妙な立場で告白本を出すことの賛否はあるかもしれない。だが、監査人という立場からの「失敗学」を残すことは、結果的に事件を止められなかったことに対する責任の取り方といえよう。

ライブドアの無法ぶりはもはや驚くに値しないが、改めて痛感するのは公認会計士による監査の限界だろう。公認会計士といえども、ファンドを使った取引の実態を解き明かすことは困難であること。クロと立証できない以上、クライアントを失うことや訴訟を恐れて適正意見を表明してしまう弱さがある。

しかし、彼らだけを非難することができるだろうか。未熟な会社を上場させる証券取引所や主幹事証券に問題はなかったか。特に、明らかに問題がある100分割を認めた東証も同様の問題を抱えてはいないだろうか。おかしさを感じながらも、プロ野球球団や放送局買収に惑わされ、真実を見破れなかったわれわれマスコミも似たようなものなのかもしれない。

ライブドアほど目立たなくても、きわどい手法を行っている企業は少なくない。ライブドア事件から何を学び、どう行動していくか。問われているのは会計士だけではないだろう。【評者 本誌 山田雄大】

たなか・しんいち 元港陽監査法人ベンチャーサポート部パートナー。1972年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、公認会計士に。KPMG センチュリー監査法人(現・あずさ監査法人)、大和証券SMBC 、UBS ウォーバーグ証券(現・UBS 証券)等を経る。

■2006/07/01, 週刊東洋経済

大学院生のためのアタマの使い方
大学院生のためのアタマの使い方船川 淳志

東京図書 2006-06
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ためになる本である。著者は慶応義塾大学を卒業して、米国でMBAを取得した経営コンサルタント。版元は理工系の専門書を多く刊行している東京図書。

日本でも欧米型学歴社会に変わりつつあり、理系・文系問わず「院卒」が増えているが、一方で企業側から見ると知識偏重で、対話能力や社会的協調性に欠けて、仕事のできない「困った院卒」が増えている。

こうした「院卒諸君」にどういう能力をつければ、社会的に評価される「優良院卒」になれるかをアドバイスした本である。

文部科学省の三つの大罪、〔1〕知識偏重、〔2〕一問一答、〔3〕理系と文系という思考放棄、を批判したうえで、「不良債権型院卒社員」にならないために身につけるスキルや心構えを説く。

「企業の中で仕事を進める際には、専門能力に加えて、思考力と対人力が必須である」と著者は唱える。 基本から具体論まで、一貫した提起をする。末尾の座談会も有益な内容だ。

■2006/07/01, 週刊東洋経済

あなたの会社が買われる日
あなたの会社が買われる日山田 修

PHP研究所 2006-05-27
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外資系企業4社、日本企業1社の社長を務めた著者が、実体験をもとに短編小説仕立てにしたのが本書。第1話「新社長就任」、第2話「投資ファンドの正体」、第3話「社長たちの反乱」はそれぞれが、別の会社での実体験がベース。

なかでも面白いのが第1話だ。ヘッドハンターの仲介により、単身、外資系企業の社長として就任するものの、その直後から副社長ら経営幹部が共謀して新社長を追い落としにかかる。

不満分子の反乱内容は多岐にわたっているが、社長就任の挨拶状を送ろうにも顧客の名簿を見せてくれないというのだから、なんとも陰湿。結局、副社長2人を電撃解任し、社長の大勝利に終わるのだが、そこに至るまでのディテールは、実体験ならではの迫力に満ちている。物語の中には、経営者として孤独な決断を迫られたときにはどこに相談するべきか、幹部を解雇するときにはどのようなことに留意すべきか、など実務に役立つ情報が満載。

■2006/07/01, 週刊東洋経済

原典 ユダの福音書
原典 ユダの福音書ロドルフ・カッセル マービン・マイヤー グレゴール・ウルスト

日経ナショナルジオグラフィック社 2006-06-02
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ユダヤ教、キリスト教の底流に流れる思想に、イランに起こり、この世を善と悪の戦いの場、不完全な世界と見るグノーシス主義がある。グノーシス主義の思想は、この世を善なる神の創造と考える「公式」のユダヤ教、キリスト教の思想とは異なるが、ユダヤ教、キリスト教の中の一部で無視できない隠れた思想として存在してきた。

1970年代にエジプト中部でコプト語で書かれたパピルス文書で発見された「ユダの福音書」もグノーシス主義の立場から書かれたイエス・キリストの物語である。この本では、四つの共観福音書とはまったく異なるグノーシス主義の立場からのイエス・キリストとユダの物語が展開される。ここでのユダはイエスの忠実な弟子であり、イエスを汚れたこの世から、清きあの世に送る手助けをする善なる人物だ。発見された不完全な「ユダの福音書」を学者が苦労して英訳した。欧米でセンセーションを巻き起こした本である。

■2006/07/01, 週刊東洋経済

スパイ事典
スパイ事典リチャード プラット Richard Platt 川成 洋

あすなろ書房 2006-05
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「スパイは、世界で二番目に古い専門職であり、しかも一番目(売春婦)と比肩するほど高貴な仕事である」と喝破したのは、CIAの元副長官であった。

本書は、「情報を先に知る者が戦いにも勝つ」という「孫子の兵法」を唯一の行動原理とするのがスパイというべきか、古代から現代に至るさまざまな国のスパイの歴史を鳥瞰したものである。米ソの東西冷戦構造の解体以降、スパイの役割が激減し、その存在意義が消滅したようであるが、実は各国ともいわば、「海外秘密情報部」を必死で暗躍させている。その主目的は、いうまでもなく「国際的規模のテロリスト」の押さえ込みである。それにしても、こうした組織や任務は、その性質上、完全に歴史の一部として定着した出来事以外は、さほど詳らかにされていないが、不可解な事件が、後にああそうだったのか、と了解されるのだ。それも、皮肉にも、スパイ活動が失敗に終った時に限って、である。

■2006/07/01, 週刊東洋経済

戦後保守党史
戦後保守党史冨森 叡児

岩波書店 2006-04
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評伝 緒方竹虎―激動の昭和を生きた保守政治家
評伝 緒方竹虎―激動の昭和を生きた保守政治家三好 徹

岩波書店 2006-04
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「戦後」を保守党史から読む

昭和20年8月、厳重警備の厚木飛行場に到着した連合国最高司令官マッカーサー元帥がわが国の政治家について12歳の子ども同然だと評した。

確かに彼の評価は正鵠を得ていたかもしれないが、その後、彼が直に接触した吉田茂は例外であったろう。吉田のケンブリッジ大学仕込みの発音に、スコットランド移民の末裔は相当たじろいだに違いない。

戦後復興期の吉田の功績については、私見ではあるが、サンフランシスコ講和条約に、GHQの忠告を無視して、わざわざ日本語で演説した点を挙げておきたい。言葉はその国民のアイデンティティであり、これこそ日本の独立を自国民に宣言する唯一の手段であったのだ。新刊ではないが『小説吉田学校』(戸川猪佐武、全8巻、学陽書房文庫)は、戦後政治史として、また吉田・岸・田中というフィクサーとその陣笠たちの裏面史としても面白く読める。

それにしても、先進国で戦後60年間余りの間、多少の中断や分裂、変質を重ねつつも自民党中心の政権が続いてきたのはわが国だけであろう。従来の人事中心ではなく、政治理論的側面から鳥瞰した『戦後保守党史』(冨森叡児、岩波現代文庫)は、膾炙されているように理念欠如の権謀術策の長じた権力亡者ばかりではなく、中堅の保守政治家はそれなりの政治哲学を持っている。でなければ長期政権はありえないと述べている。

そしてわが国の政治家には文人政治家はほぼ皆無である。石橋湛山と緒方竹虎くらいであろうか。『評伝緒方竹虎』(三好徹、岩波現代文庫)によると、緒方は、2・26事件で朝日新聞を襲撃した叛乱軍将校と主筆として対峙し、敗戦がはっきりした時期和平工作を果たすために政界に身を投じた。戦後、戦犯容疑と公職追放、そして政界復帰、1955年の保守合同を成し遂げ、次期総理と目されたが急逝した。「経済一流、政治三流」と揶揄されているわが国の政界に、はたして緒方のような文人政治家が生まれるであろうか。【評者 文芸評論家 阿具根利具】

■2006/07/01, 週刊東洋経済

ハイエクのポリティカル・エコノミー―秩序の社会経済学
ハイエクのポリティカル・エコノミー―秩序の社会経済学スティーヴ フリートウッド Steve Fleetwood 佐々木 憲介

法政大学出版局 2006-02
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著者フリートウッドは、ケンブリッジ大学のトニー・ローソンを中心とする批判的実在論のプロジェクトの有力メンバーで、現在は労働雇用問題を研究している。ハイエクの社会経済思想を熱心に継承しようとする研究グループは進化経済学関係の人たちであるが、本書は経済秩序の進化を解明するハイエク思想の根本構造に光を当てたものとして高く評価されている。

ハイエクは、オーストリア学派の主観主義の立場から社会主義とケインズ主義に対決した初期時代より、経済発展と市場経済の不可分の関係を自由な政治社会秩序との関係で構造的、総体的に解明しようとして、広範囲の研究を行った。社会を当局や思想家が思うように設計できるという設計思想、理性の思い上がりとの対決が、自由主義者ハイエクの生涯を貫いている。

しかし、本書がえぐり出すのはハイエク思想のより深い哲学的次元である。1936年以前のハイエク1は主流派と同じ実証主義者であった。36年から60年にかけてのハイエク2は主観的観念論と経験論的実在論者、そして60年以降のハイエク3は準超越論的実在論者となった。

この転換は連続的で、そこには哲学の発展があるという。社会経済秩序は均衡や経済人によって説明できない。知識の限界と不確実性のなかで主体は行動し、既知のルールとしてある秩序が結果として再生産される。

「ふるまいの社会的ルール」をハイエク2は把握できていない。ハイエク3は「深層」構造としてのこのルールを把握し、それが情報伝達システムを補い、知識の伝達と無知の対処を可能にするとの説明にたどり着く。このルールとは市場のルールであるが、誠実などの暗黙の不文律や所有権、不法行為などに関する法律などからなる複雑なルールの網であって、それが主体を導いて市場秩序(カタラクシー)をもたらす。

本書は社会経済秩序の学としてのハイエクのポリティカル・エコノミーの総体変化を哲学的基礎理論の発展と関連づけたにとどまるが、しかしハイエクを深く理解することに貢献した。

本書はハイエクに関心のあるものには必読文献である。翻訳は基本的に信頼できる。とはいえ、「ふるまいの社会的ルールから逸脱するものは、彼以外の社会から拒絶される可能性がある」(190ページ)という文意が分かりにくいので原文を見た。「彼以外の社会」は「他の社会成員」としたほうが明快であるし、「あるいは否定的なサンクションを受ける可能性がある」という次のフレーズが脱落している。しかしこれらは許容範囲である。むしろ翻訳の労を多としたい。【評者 京都大学教授 田中秀夫】

■2006/06/24, 週刊東洋経済

アディダスVSプーマ もうひとつの代理戦争
アディダスVSプーマ もうひとつの代理戦争バーバラ・スミット 宮本 俊夫

ランダムハウス講談社 2006-05-25
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このところ連日連夜、ドイツで熱戦が繰り広げられているサッカーワールドカップはまた、スポーツメーカー同士の熾烈な戦いの場でもある。中でも興味をそそられるのは、開催国ドイツが誇る、元は一つだった二つの巨大メーカー、アディダスとプーマの因縁の対決だ。本書は、そういった意味では時期といい、テーマといい、まさに「話題の書」といえるだろう。

本書は、二つの点で興味深い。まず、半世紀以上にわたるアディダスとプーマの争いの歴史は、スポーツビジネスが広告代理店や投資家、政治家までも巻き込んだ巨大ビジネスへと発展していく歴史でもあり、両社の果たした役割は大きいという点だ。本書では、数々の衝撃的な事実とともに、その利権を巡って多額のカネが動くドロドロした実態が克明に描かれており、非常に面白い。その反面、我々に感動、勇気、希望を与えてくれるスポーツのクリーンなイメージとは裏腹の実態をいやというほど思い知らされ、純粋なスポーツファンはいたたまれない気持ちになるだろう。

本書はまた、アディダスとプーマというドイツの片田舎の家族経営の零細企業が幾多の困難や危機を乗り越えて国際企業へと発展していく姿が描かれており、格好のケーススタディといえる。その過程では、家族の確執や投資家の暗躍、経営者の交代、(ナイキ等の)新興勢力との熾烈な戦い、転落そして復活、といったさまざまなドラマがあり、経営の難しさを改めて実感できると同時に、「ヒト」や「ブランド」といった無形資産の大切さを再認識させられるだろう。日本代表やひいきのチームの勝敗に一喜一憂するのも楽しいが、本書をきっかけに、違った視点から本大会を見てみるのも、楽しみ方の幅が広がり、面白いのではないだろうか。【評者 人事プロフェッショナル 黒田康史】

■2006/06/24, 週刊東洋経済

石油生産量はピークに来たのか?―ピークオイルの本質と21世紀のエネルギー
根岸 敏雄 (著)

石油価格高騰を背景にマスコミ等で再び喧伝されている石油ピーク論、すなわち近い将来世界の石油生産能力が地質的限界に達し、その後急速に生産量が減退していく「石油時代の終焉」と言う議論について、長年海外の石油開発事業に携わってきた石油開発技術者が、一般読者にもわかりやすく客観的に解説した時宜を得た本である。石油ピーク論に代表される石油資源悲観論は、石油産業の歴史とほぼ同じ長い歴史を持ち、石油価格の浮沈とともに間欠泉のように世間から注目され、また忘れられてきた。

著者は最近のピークオイル論について、近い将来の石油ピークがいつ来るかはわからないとしながらも、現在の石油価格高騰を石油大量消費社会からの軟着陸模索の必要性の予兆、すなわちリスクに対する予防処置として真摯に受け止めるべきと結論づけている。

評者としても妥当な結論と考える。石油ピーク論のような不確実性が極めて高いにもかかわらず社会的・経済的に重大な事項については、肯定派、否定派双方に様々な政治的思惑が絡んで、これを扱った本は根拠薄弱なセンセーショナリズムに陥りがちであった。著者は確実にわかっている事と、不確実だが予防的にリスク対応すべき事柄を分別して、ていねいに石油開発技術の基礎も含めて文明論的観点からその意味合いについて解説していている。細部には疑問点もあるが、論点、論旨のバランスも良い。石油ピークは把握困難な究極資源量という地質現象と、投資・技術革新や消費という自己言及性(自己実現性、ないしその逆)も付随する経済現象が絡まった「複雑系」と評者は考える。いかに石油業界の次世代人材と新規油田探査投資を確保できるのかという問題提起があれば、もっと良かった。【評者 石油天然ガス・金属鉱物資源機構主席エコノミスト 石井彰】

■2006/06/24, 週刊東洋経済

「いい家」の正体
「いい家」の正体伊澤 多喜男

WAVE出版 2006-05-16
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先ごろ、マンションの耐震偽装が一大スキャンダルとなった。が、戸建て住宅にもあるのではといった疑問がすぐ起こる。著者によると、住宅でも「いいものを安く」と考える消費者があり、その一方で、利益志向の大・中・小の住宅メーカーがあるかぎり、偽装は起こりうると言う。

しかも、日本の建築業界の場合、欧米では組織として分離されている設計と施工が建設会社の部門として並存し、一体で動きやすい。また、下請けから孫請けに至る施工の縦割り構造も、元請けの原価低下要求を背にした偽装を生みやすいと指摘する。

それではどうするか。著者は、まず住宅の建設時には「設計図」だけでなく、必ず「構造図」も手に入れるべきだと言う。また、吹き抜けなど斬新なデザインほど構造的に脆弱で、本来コストがかかることなどを多くの事例を挙げて説明している。

住宅の建設や購入を考えている人にお薦めの本。

■2006/06/24, 週刊東洋経済

山里の四季をうたう―信州・1937年の子どもたち
山里の四季をうたう―信州・1937年の子どもたち井出 孫六 石埜 正一郎

岩波書店 2006-01
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なんとも懐かしい風景だ。そういっても、私はこの時代に生きていたわけではなく、またこの地域で暮らしたわけでもないが、そう、ここに登場する先生と生徒の関係が在るべき姿を表徴しているのだ。

副題にあるように、「信州・1937(昭和12)年の子どもたち」の風景である。この年は、盧溝橋事件、第2次上海事件、日独伊防共協定成立、南京占領と戦争一色の時期であった。

この年、八ヶ岳連峰西側の広大な裾野の農村・本郷村の小学校に赴任した19歳の代用教員が3年生45人を担当する。早速ささやかな実験教育を始める。半分のワラ半紙に子供たちに「うた」を書かせたのだった。それらを集めて、ガリ版刷りの詩集『茶色の仔馬』と『えぶの木』を出す。

その巻頭の序文に、「君たちはしあわせだ。天も地もみんな君たちのためにある。青い山があるだろう……」と先生は書いている。本書は、その詩集と生活記録である。

■2006/06/24, 週刊東洋経済

投資銀行―日本に大変化が起こる
投資銀行―日本に大変化が起こる岩崎 日出俊

PHP研究所 2006-05
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著者は旧日本興業銀行を経てJ・Pモルガン証券、メリルリンチ証券、リーマンブラザーズ証券でM&Aの最最前線に関与してきた。その著者がこの本の「はじめに」で、「いま日本に大変化が起きつつある。これは大きな機会にもなるし、逆に恐ろしい脅威になるかもしれない。そしてこの変化を解くキーワードが投資銀行だ」と問題提起する。

村上ファンドが阪神電鉄の株式の50%弱を取得できたことは、日本で完全に株式の持ち合いが崩れ、阪神のようなエスタブリッシュメント企業でも「買収」できることを天下に示した。 村上世彰氏の逮捕で、一時的にファンドの動きが鈍っても、友好的、敵対的問わずM&Aの流れは止まらないだろう。4月に米国大手コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が日本に進出しており、「真打ち登場」と著者は指摘する。

こうした投資銀行や投資ファンドの現状を著者の体験を基に解き明かす。

■2006/06/24, 週刊東洋経済

資源インフレ―日本を襲う経済リスクの正体
資源インフレ―日本を襲う経済リスクの正体柴田 明夫

日本経済新聞社 2006-04
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資源価格の高騰が続いている。WTI原油は70ドルを超え、鉄鉱石、銅など金属価格も上昇している。中国など新興工業国の需要増加と世界的なカネ余りで投機資金が買いあおっている。

こうした「資源インフレ」の現状を丸紅経済研究所所長である著者が分析する。第2次石油危機後の1980年代前半、資源価格はピークを打って、それから20年近く低迷を続けた。

今回はどうなるか。日本の石油業界関係者の多くは、基本的に「循環論者」であり、いずれ原油価格は下がると予想しているが、著者がこの本で紹介している投資家ジム・ロジャーズは、「供給懸念」と「中国」が商品需給の「根本的な構造変化」をもたらしている、と指摘している。ロジャーズの視点に立てば、今後の商品価格の下落は一時的で、中国が買いを再開すれば、また上がることになる。

著者は「高い資源価格は技術を進歩させ、産業構造を高度化させる」と語り、日本経済の好機を語る。

■2006/06/24, 週刊東洋経済

東京圏通勤電車どの路線が速くて便利か
東京圏通勤電車どの路線が速くて便利か川島 令三

草思社 2006-04
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著者に聞く 『東京圏通勤電車』(草思社)を書いた 鉄道アナリスト 川島令三

――川島さんの出世作『東京圏通勤電車事情大研究』(草思社、1986年)以来、川島さんの「通勤電車・鉄道」に関する本にはファンが多く、よく読まれています。

『東京圏通勤電車事情大研究』からちょうど20年経ちました。『東京圏通勤電車事情大研究』は日本がバブル経済に向かう時期の刊行でしたが、この本は人口減少、地価下落、都心回帰が鮮明になる中で、東京圏の通勤電車の現状と、どうあるべきかの提言、どの路線を選べば、サラリーマンは快適で、より早く目的地にたどり着けるかを考えた本になっています。

20年前に比べると、JRの民営化、輸送力増強や新線の開業で、東京圏の通勤電車事情は混雑率の低下など指標は改善されていますが、依然として利用者の不満が解消されない路線が多いと思います。

――関西圏の通勤電車事情は東京圏に比べれば、朝のラッシュ時のスピードも速く、「天国」のように思えますが。

関西の民鉄は利用者の要求水準が高いので、東京圏より早く複々線化など輸送力の増強をしました。東京圏の場合、利用者がおとなしく、厳しい現状を我慢している姿が見えます。

東京圏の場合、つくばエクスプレスの開業(2005年)、東京メトロ13号線(07年開業予定)などで新線の開業がほぼ一段落して、既存の路線を有効に使用して、サービスの向上を図る段階に来ています。

――新宿、渋谷のターミナルを抱える京王線ですが、朝のラッシュ時の遅さには「定評」があります。

京王線はピーク時1時間に30本走らせることで、混雑率を170%に下げていますが、反面、スピードが犠牲になっています。これを1時間に24本に減らせば、かなり速くなりますが、混雑率は210%に上がります。でも、私は後者のほうが利用者にとってよいのではないかと思います。

――京王は小田急と違って、複々線化を断念しました。

京王は信号システムをATSからデジタルATCに替えます。そうすれば常態化した遅延の解消にはなります。ただ、現状ではラッシュ時の時間短縮にはなりません。

――川島さんお薦めの路線は。

サラリーマンは朝は1分1秒でも会社に早く着きたい。朝の時間短縮が期待できる路線になります。民鉄では複々線化を終えている東武伊勢崎線、ダイヤの運用で速達性向上が可能な東武東上線、2013年ごろに複々線化が完成する小田急、現在は混雑率が高く、ラッシュ時は遅延しているが、部分的な複々線化が進む東急田園都市線などですね。それからJRの沿線も輸送力のインフラは水準が高いと思います。

――京浜急行はなぜ曲芸的な運転技術の高さを持っているのですか。

たとえば、先頭車両の台車に重量のあるモーターを置いています。それで、信号が電車を5秒早く察知します。そうしたきめ細かい工夫の積み重ねが、他社がマネできない運転技術になっています。

■2006/06/24, 週刊東洋経済

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