メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年5月13日~5月20日

日本経済の構造変動―日本型システムはどこに行くのか
日本経済の構造変動―日本型システムはどこに行くのか小峰 隆夫

岩波書店 2006-03
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大変良い本を読んだ。

著者の小峰氏は旧経済企画庁で長年活躍されてきたいわゆる官庁エコノミスト出身。『最新日本経済入門』(日本評論社)など、バランスの取れた手堅い著作で知られる。本書はかなり包括的に日本経済の過去、現在、そして将来を分析しており、手ごろな解説書を望む読者の期待を裏切らない。

しかし、本書で特筆すべきは、著者の視点の確かさと、それを支える見識(=良識)である。その視点は、「経済は人間のためにある」、「市場メカニズム、あるいはインセンティブの作用を重視する」、そして「世代の自立」の三つに要約されている。

著者の見識が見事に発揮されているのは、たとえば次のようなところである。少子高齢化が経済成長に与える影響について懸念する声が多い。著者はたとえ人口が減少し高齢化しても、それほど懸念するには及ばないと正当にも指摘した後で、経済成長低下の防止を政策目的とすることに疑問を投げかける。

それは「経済は人間のためにある」からだ。そもそも経済の目的は国民福祉(生活水準)の向上である。経済成長が望ましいかどうかはこの観点から判断されなくてはならない。かといって、著者は経済成長をないがしろにするわけではない。国民の福祉向上にはやはり経済成長が必要である。ゆえに著者の立場は「改革なくして成長なし」でも、「成長なくして改革なし」でもない。さらに著者は、労働人口の縮小を心配するならば、現時点で発生している失業、ことに若年層の失業を心配したらどうか、と指摘する。見事なまでのバランス感覚である。

著者が市場メカニズムを重視するのは、それが効率的だから、だけではない。市場は人々の自由な意思決定に基づいているからでもある。ここから導かれる洞察は、政府介入への懐疑である。ことに著者は、政府が特定リーディング産業を養成すべしという類の議論に批判的であり、最近話題の観光立国論についても疑問を呈している。政府がリーディング産業を展望することはできないし、すべきでもないし、日本のすべての産業がリーディング産業になることはありえないからだ。

読者には、いかにも常識的に聞こえるかもしれない。しかし、こうしたバランスの取れた見方は残念ながら最近の論壇では少数派である。

むろん、残された課題もある。政策の割り当て原則を踏まえた上での望ましい再分配政策のあり方については、もう少し議論してほしかったと思う。しかし著者の筆致は率直、明快であり、時にユーモラスですらある。良識の書というゆえんである。【評者 若田部昌澄 早稲田大学政治経済学部教授】

■2006/05/20, 週刊東洋経済

中国石油メジャー―エネルギーセキュリティの主役と国際石油戦略
郭 四志 (著)

「中国石油メジャー」三社は、国有企業の出世頭であり、中国政府が進めている経済体制改革において、常に先鞭をつけてきた。本書は、「改革開放」実施以降の中国政府の経済政策や国有企業改革を理解する上でも有効であると思われる。

5年前に「中国石油メジャー」と聞いて、ピンと来る日本人が何人いただろうか。恐らく、エネルギーや対中ビジネスにかかわっている人たちに認知されていた程度であろう。ところが、中国の国有石油企業三社(中国石油、中国石油化工、中国海洋石油)は、中国株特集や米国大手石油企業ユノカルの買収などで、日本の新聞、雑誌の紙面を賑わせるようになった。また、「資源(石油)の抱え込み」や中国政府のエネルギー外交との連動、あるいは東シナ海の天然ガス開発や東シベリア石油パイプライン問題などで多くの日本人から関心を持たれている。

本書は、中国における石油産業の歴史から説き起こし、国有石油企業三社の設立とその後の石油産業の変遷、さらには国外株式市場への上場や経営体制の変革、最近の国外進出の動きに至るまで、余すところなく述べている。これまで、石油産業史と国際展開について個別に書かれたものはあったが、過去から現在を網羅したものは本書が初めてではないか。

著者が5年以上の歳月をかけたとあって、大部である。関心のある人間にとっては宝の山だが、一般の読者には少々骨が折れるかもしれない。

最近、エッセンスを凝集した新書版が人気を博しており、本書のような分厚い本は、敬遠されがちと聞く。しかし、エッセンスのみで相手を理解したつもりでいると痛い目に遭うことがある。たんねんな事実の積み重ねにあたることこそ、本当の理解につながるのではないか。【評者 竹原美佳 石油・天然ガス金属鉱物資源機構主任研究員】

■2006/05/20, 週刊東洋経済

ヒルズ黙示録―検証・ライブドア
ヒルズ黙示録―検証・ライブドア大鹿 靖明

朝日新聞社 2006-04
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100分割、プロ野球参入、ニッポン放送買収などで世間をにぎわせたライブドア。ホリエモンはタレントと化し、衆議院議員選挙にまで出馬した。そして、転落――。漫画でもありえないような波乱の展開を見せたライブドアとは何だったのか。

朝日新聞社『AERA』編集部記者として同社を取材してきた著者はライブドアを「ガキ帝国」と喝破している。同じく、同社を取材してきた評者も「ライブドアはガキ帝国」という筆者の見立てに同意する。ゲーム感覚でルールのすきを突くだけではなく、悪びれもせずそれを自慢するようなところがあった。

そんなガキに振り回されるフジテレビ。「僕と一緒にやればニッポン放送株の50%は取れるよ」とささやく村上世彰氏など、周囲の「オトナ」たちの動向も克明に描き出す。特にニッポン放送買収事件では村上氏の関与やフジサンケイグループ側の事情など、これまで報じられていなかった内幕を豊富なエピソードで解き明かしている。

ライブドア事件についても、捜査当局のリークに踊らされることなく、独自取材をベースに「自社株食い」などのスキームを解明している。ジャーナリストとしての姿勢は尊敬に値する。

ただし、「自社株食い」の個々のスキームの違法性に解釈の余地があることや、堀江自身が寄付によってライブドアの利益をカサ上げしていたことなどから、著者は彼らの犯罪がそれほど悪質ではなかったと考えているようだが、その点は賛成できない。利益の一部が堀江の寄付であると判明していたならば、高い株価は付かなかったはずだ。やはり証券市場を欺く行為で、許されない犯罪だろう。

とはいえ、読み物としても文句なく面白い。お薦めの一冊であることは間違いない。

■2006/05/20, 週刊東洋経済

使う力
使う力御立 尚資

PHP研究所 2006-04
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ビジネスパーソン、リーダーにとって大事なのは、「知識」×「使う力」で結果を出すことだ。掛け算なので、「知識」が100点でも「使う力」が0点なら結果につながらない。

ボストンコンサルティンググループ日本代表、プロ中のプロのコンサルタントである著者が「使う力」に焦点をあて、その鍛え方を解説する。

たとえば、ビジネスリーダーに必要な能力=到達目標としての「使う力」は、「情報を加工、統合し、意思決定する力」と「人と組織を動かし、結果を出す力」に因数分解され、それらはさらに「企画力」や「モチベーション喚起力」に分解できる。ではその企画力はどうやって鍛えるか……。

ただし、優れたリーダーはすべての分野で完璧である必要はなく、自分の足りないところを部下に補ってもらえるようなチームづくりをすればいいという。また、「使う力」を伸ばす「楽しんで努力する」ための方法論にも元気づけられる。

■2006/05/20, 週刊東洋経済

本日の水木サン―思わず心がゆるむ名言366日
本日の水木サン―思わず心がゆるむ名言366日水木 しげる 大泉 実成

草思社 2005-12
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漫画に熱中する年をとうに越えてしまった人も、水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』は例外である。好き嫌いはともかく、とても気になる漫画である。そして、「みんな 子供のときは<

妖怪です」という彼の言葉をなぜか、了解してしまう。

さらに、水木さんの言葉には「癒し」がある。よく知られていることだが、彼は戦争中、激戦地ラバウルで左腕を失う。その苦しみはいかばかりであったろうか。「ある日、(爆弾で)切った腕からかすかに赤ん坊の匂いがする。なんだか生命が底のほうからわきあがってくる匂いだった。ぼくはなんとなく希望がわいた。すなわち生きられるかもしれないという安心感だった。ぼくは毎日赤ん坊の匂いをかぐのを楽しみにしていた。それは天の香りだった」と彼は事も無げに言っている。

本書は、水木さんがいろいろな場面で述べた言葉を1年間分、編んだものである。元気が湧き上がってくる箴言集といえよう。

■2006/05/20, 週刊東洋経済

日本共産党
日本共産党筆坂 秀世

新潮社 2006-04-15
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著者は「セクハラ事件」で参議院議員を辞職した元日本共産党常任幹部会員である。NHKの日曜討論などで与党を鋭く追及した論客である。本書には著者が18歳で入党して、昨年9月に離党するまでの体験記が書かれている。内容は期待するほどセンセーショナルなものではないが、テレビでも活躍した有名な幹部の証言だけに、党内外から多くの関心を集めている。

著者は不破哲三前議長の指導のあり方と「非民主的」な体質を主な批判の対象にしている。理論家で現実離れした不破氏の路線の結果、日本共産党が活力のない政党に成り下がり、収益源の『しんぶん赤旗』の部数が減り、党員の高齢化、専従者への給与遅配も起きている地方組織の疲弊などを指摘する。

かつての最高指導者宮本顕治氏の子弟の家庭教師をしていたことから、若くして「出世」した志位和夫氏を不破氏がいじめたエピソードなど、一枚岩の「前衛党」の内幕ものぞかせている。

■2006/05/20, 週刊東洋経済

台湾映画のすべて
台湾映画のすべて戸張 東夫 陳 儒修 廖 金鳳

丸善 2006-01
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映画は論ずるより、まず観るもの、と決め込んでいる私は、多少バイアスのかかった台湾映画の選び方をしていた。1982年から86年にかけての「ニューシネマ」の作品である。

例えば、侯孝賢監督の「青春四部作」、さらに89年製作の叙事詩『非情城市』、あるいは楊徳昌監督の『クーリンチェ少年殺人事件』などは、なんというべきか、わが国の映画が忘れた大切なものを、台湾映画は決して忘れようとはしないと宣言した作品だ、といえよう。

台湾映画は、それを生み出す台湾の社会や政治と密接な関係があることに改めて注目せざるをえない。

本書は、台湾映画の1950年代の黎明期から、今日に至るほぼ60年の歴史を概観したものであるが、国共内戦に敗れた国民党による台湾での政権樹立以来、根拠のない理由でカットされる心配なしに映画を制作できるようになったのは、やっと87年の戒厳法解除になってからだという。

■2006/05/20, 週刊東洋経済

アール・デコ ザ・ホテル―稲葉なおと写真集
アール・デコ ザ・ホテル―稲葉なおと写真集稲葉 なおと

求龍堂 2006-04
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観光であれ仕事であれ、旅の重要なアイテムはホテルである。それが海外なら豪奢で格式のあるホテルに泊まりたいし、気楽で快適ならば廉価なホテルもいい。ビジネスユースでは機能とロケーションだけを求める人もいる。

「初めて海外へ出た時から、私の目的はホテルだった」。著者にとってホテルはアイテムなどではなく、泊まり味わうことが大事だった。なかでもアール・デコスタイルのホテルに魅入られていた。

アール・デコの様式は1925年パリで開かれた装飾美術展覧会がはじまりだといわれる。デコはそれまでの植物の曲線を模したアール・ヌーヴォー様式から直線や流線形を用い、自然界の色彩を離れて人工的な原色が好まれた。

欧州大陸ではさほど流行しなかったが、20世紀前半のアメリカで熱狂的に受け入れられて世界中に広まった。

著者はアール・デコ誕生地のパリのホテルをかわきりに、ルツェルン、ロンドン、上海、ロングビーチ、ロサンゼルス、ハリウッド、マイアミ、NYなどのデコホテルを巡る。元は建築家だがその写真からは無機質な建築記録ではなく温もりあるレトロホテルの臨場感が伝わってくる。

欧州からアメリカへのデコホテルの進化をながめると、かつて王侯や上流階級が享受していた空間は新興有産階級のものに開花したことがわかる。それは宿泊客だけのためのホテルから都市の装置として利用される現代のホテルの先駆けだった。まるでディズニーランドのようなマイアミデコのキッチュな無国籍ぶりは21世紀の今も新鮮だ。心地のいいスノビズムの香りがする、旅へいざなう出色の建築グルメ本である。撮影ノートの苦心談がおもしろい。【評者 写真家 中川道夫】

■2006/05/20, 週刊東洋経済

世界級キャリアのつくり方―20代、30代からの〈国際派〉プロフェッショナルのすすめ
世界級キャリアのつくり方―20代、30代からの〈国際派〉プロフェッショナルのすすめ黒川 清 石倉 洋子

東洋経済新報社 2006-05
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プロは反省するな!―メジャー流「人づくりの言葉」
プロは反省するな!―メジャー流「人づくりの言葉」タック川本

東洋経済新報社 2006-05
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大リーグの松井、イチロー、サッカーの中田、中村など、スポーツ界をはじめ世界中で活躍する日本人。なぜこれほどまでに世界の桧舞台で活躍できるのか? その疑問を解くカギとなる本を紹介しよう。

まず『世界級キャリアのつくり方』(黒川清、石倉洋子著)。30歳を過ぎてから海外で活躍をはじめた黒川氏、大学を出て7年もフリーターであったのに世界各地で仕事をこなす石倉氏。ともに夢を持ち、期限を付けて、挫折にもめげず前向きに活動を続けることが重要だと喝破する。

本書では、「国際派プロ」になるための年代別の過ごし方や磨くべき五つの力が記されていて興味深い。

次は「世界一流の人材」を育てる方法を説いた『プロは反省するな!』(タック川本著)。メジャーリーグ球団フロントとして活躍する著者が「人づくり」のためのメッセージを放つ。

世界に通用するプロになるためには前著と同様、前向きに行動することが重要であるという。一流を目指す人も、育てる人も、ぜひご一読を。

■2006/05/20, 週刊東洋経済

リベラリズム 古代と近代
レオ シュトラウス (著)

近頃「ネオコン」との関連をしきりと取り沙汰されるシュトラウスだが、アメリカの世界戦略の根本哲学などを期待すると肩すかしをくらう。本書は思想史家として一家をなす著者の本領が遺憾なく発揮された晩年の主著であり、その半分は古代・中世の思想家や神学者の作品の注解にあてられているのだから。ならば、ただでさえ馴染みの薄いルクレティウス、マイモニデス、パドゥアのマルシリウスが、『リベラリズム』と銘打つ書物(出版は1968年)で取り上げられる理由とは何か。

さしあたりの答えは、「偉大な書物」を読むことによってこそ人間は卓越性を取り戻すことができるということである。だが同じ古典の効能を説いても、著者の志向はアドラー流の「グレート・ブックス・プロジェクト」とは似て非なるものだ。

一般教養教育(リベラル・エデュケーション)を論じる二つの章では、古典の解読をつうじてリベラルの原義である「寛大さ」「気前のよさ」の徳を身につけることが説かれる。しかし論調に決定的な違いがあって、第一章ではそれが大衆と区別された「紳士」の事柄とされるのに、第二章ではその紳士とすら区別される「少数者」の特権になる。「すべての人に等しきものを」という近代啓蒙思想の理念は、リップサービスにも値しない。卑小な人間を基準とした瞬間に、近代リベラリズムの誤謬は始まったからである。

古代のリベラリズムは体制の原理ではなかった。哲学が知の高みをめざす無限の欲望であるかぎり、社会との軋轢は免れない。古代のリベラリズムが説く「寛大さ」や「節度」とは、この緊張を生き抜こうとする哲学者が社会に対して示す高貴な態度をいう。本書ではそれが特に宗教との関係で考察される。自然にかんする知に宗教の与える恐怖からの救いをみるルクレティウスの長詩は、さしずめ古代の内なる近代である。かたや中世のマイモニデスは、正統派ユダヤ教の教義に仮託して知を説く分別と、そのためにあみだした特殊な著述技法によって哲学の孤塁を守った。教育をめぐる著者のミステリアスな態度も、おそらくはここに秘密がある。

著者はリベラル・デモクラシーの「友人」を自称する。しかしその真意は、裸形のデモクラシーたるコミュニズムと「先祖伝来のもの」の権威に頭を垂れる保守主義に比して、それが哲学する少数者の自由を保証するだけまだしもマシ(一体制としてはむしろ下劣な方に属する)、ということのようだ。これ以上は望めないほど正確な日本語訳にめぐまれて読んでも、この哲学者の教えにはいまだ得体の知れないところがある。【評者 国士舘大学教授 中金聡】

■2006/05/13, 週刊東洋経済

これ以上やさしく書けない金融のはなし
これ以上やさしく書けない金融のはなし西浦 裕二

PHP研究所 2006-03
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タイトルを見ると、金融への単なる入門書と勘違いするかもしれない。確かに素人にも読みやすく書かれているが、金融の専門家にとっても読み応えのある骨太な内容が詰まっている。

日本の金融業界は、戦後の経済や産業の復興に大きな役割を果たしてきたが、その過程で有効であった「産業金融モデル」はすでに過去のものになりつつある。その結果、金融業は、今までの「特殊な産業」から「普通のサービス産業」へと転換を進めることが求められている。

「普通のサービス産業」は、顧客のニーズをきちんと見極めて、そのニーズを満足させるような新しい価値を届けなければならない。著者によれば「あくまでも顧客に仕える「召使い」であるべき」なのに、日本の金融界は、どうしても権威を演出しようとしている。

このような転換期には「金融業の本質とは何か、提供すべき価値は何か、果たすべき役割は何か」を原点に戻って確認することが大切であるが、多くの金融機関は相変わらず昔ながらの横並びを続け、いたずらに規模を追っている。たとえ改革に手をつけても、うわべだけの改革に終始している。不毛な改革を繰り返す過程で、かつての金融人には見られた心意気や夢までが失われてしまった。社会全体の流れをつかんで、新しい社会の仕組みとして役立とうという使命感も感じられない。

著者によれば、金融業が提供すべきものは「リスク管理サービス」と「事務処理サービス」である。いかに他の金融機関と差別化してこのようなサービスを提供するかが、今後の戦略の基本である。金融危機から脱出し、体力も戻った金融界に携わるものにとって、金融の世界の全体像や、金融業界の抱える問題の本質を把握するための多くのヒントが得られる書である。【評者 一橋大学客員教授 清水紀彦】

■2006/05/13, 週刊東洋経済

マグマ
マグマ真山 仁

朝日新聞社 2006-02-07
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外資系ファンドによる企業買収、事業再生の現場を生々しく活写した経済小説『ハゲタカ』の著者が、やはりファンドによる企業再建を軸に、日本のエネルギー環境、とりわけ地熱発電を取り巻く状況を描いた一作だ。舞台となる出来事、事件はフィクションとしつつも、エネルギー環境そのものは事実に即して描かれており、石油価格の高騰とエネルギー危機が叫ばれる今、ビジネスマンが資源問題を知る格好の入門書といえる。

外資系ファンドのゴールドバーグ・キャピタルに勤める野上妙子は、東京支店長の待田顕一から、地熱発電を研究運営する日本地熱開発(地開)の再建を任される。妙子は地開の社長・安藤幸二や研究責任者の御室耕治郎から地熱発電の大いなる潜在力と将来性を説明され、再建の可能性を探る。当初は「ハゲタカ」への警戒感を隠さなかった御室だが、妙子の真摯な地熱発電への関心に胸襟を開く。

読み進める中で読者は必ず妙子と同じ疑問に突き当たる。「地熱がエネルギー界の鬼子のように言われる理由は何なんです?」。問題点は三つ。リードタイムが長すぎ、投資効果が薄いため事業として魅力がない点。政府が助成措置を施している「新エネルギー」から外されている点。そして国立公園の開発制限という点ものしかかる。その背景にはいくら税金を注ぎ込んでもまともな成果を上げられない発電だという地熱に貼られたレッテルがある。それは原発という「神の火」との比較で一層際立つ。本書では先進国エネルギー問題会議で、日本は欧米から原発の閉鎖を強硬に求められていた、という設定を背景に物語が進む。

著者のファンドビジネスへの造詣の深さは本書でも遺憾なく発揮されており、困難な同分野の理解にも資する一冊だ。

■2006/05/13, 週刊東洋経済

猪瀬直樹 道路の決着
猪瀬直樹 道路の決着猪瀬 直樹

小学館 2006-04-05
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「上下分離」「上下一体」などの議論が繰り広げられた道路民営化問題。本書では、公団、国交省などの思惑を背景にした民営化委員会の抗争劇が描かれている。まず、委員会の意見を一本化するために練られた「暫定的上下分離案」をめぐる2002年末の描写が興味深い。この案は幻となり、その後委員会は分裂の道をたどるのだが、その引き金となった松田昌士委員の動きが克明につづられる。

民営化の枠組みは「道路を借りて料金を徴収する民営会社と、土地を所有しリース料を受け取る機構を設置」で決定したが、これに対する「骨抜き改革」との批判についても「この方式が借金返済にいちばんリーズナブル」と著者は真っ向から反論。「上下分離のため責任が分散する」という意見に対しても、著者は、「いちばんの課題は国民負担の最小化だ」としている。

同時に、「上下一体論」を展開した田中一昭委員、川本裕子委員らの見解も読むことをお薦めする。

■2006/05/13, 週刊東洋経済

ポピュリズムに蝕まれるフランス
ポピュリズムに蝕まれるフランス国末 憲人

草思社 2005-10
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おすすめ平均 star
star確信はこれでしょ

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昨今ジャーナリズムで見かける「ポピュリズム」という用語は、わが国では、一般的に「大衆迎合主義」などと訳されているが、管見ではあるが、「ファシズム」「デマゴーグ」、さらには「大衆蔑視主義」などが混合したものであり、究極的には、「民主主義の終焉」を意味するものであろう。

本書は、2002年のフランス大統領選挙に際して、予想外にも、シラク大統領に対して、右翼の「国民戦線」ルペン党首が決戦投票まで登りつめた「変な出来事」をめぐる顛末である。善と悪、味方と敵、庶民とエリートの二元論に単純化する政治リーダーに扇動される民衆、この図式を、本書は「ポピュリズム」と規定している。かくして「デマゴーグ」に率いられた「民主主義なき民衆」が誕生したのである。このような空洞化した民主主義的状況は、わが国でも当てはまる。ほぼ「思考停止」したと思われるメディアを、現政権政党が巧みに使っているからである。

■2006/05/13, 週刊東洋経済

マンガに教わる仕事学
マンガに教わる仕事学梅崎 修

筑摩書房 2006-03
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ニートから成果主義まで、「仕事」をめぐる議論が盛り上がっている。終身雇用という日本サラリーマン社会の大前提の崩壊が取りざたされていることに、若者も中高年も「曖昧な不安」を感じているようだ。

自分の将来が具体的に想像できないというのは居心地の悪いものだ。そんなときは、他人の仕事経験に学んで自分の居場所を相対化してみることが役に立つ。

気鋭の労働経済学者の手になる本書は、「仕事」をテーマにしたマンガ40編を題材に、現代人が「仕事」に関して抱える悩みを丁寧に描き出している。扱う作品は『部長 島耕作』のようなビジネスコミックの定番だけでなく、『プラネテス』のようなSFまでにまでおよぶ。だが、そこに描かれているのは、紛れもなく現代人が日々の職場で感じている矛盾や葛藤なのだ。日本のマンガ文化の蓄積と奥行きの深さについて再認識させられる。仕事人生のスタートで悩む新社会人には特にお薦め。

■2006/05/13, 週刊東洋経済

IT屋―技術力がもたらす、ほんとうのメディア革命
IT屋―技術力がもたらす、ほんとうのメディア革命棚橋 淳一

宣伝会議 2006-03
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ヒルズ族の失墜によって、すっかりイメージが低下したITベンチャー。しかし、ホリエモンに代表されるヒルズ族のITベンチャーは、インフォメーション・テクノロジーの名に恥じぬ本当の技術を持った企業ではなく、サービス業や投資業の変装だった。

このことは、今となっては誰の目にも明らかだ。では本当のITベンチャーとは。一つの答えがデジタル・ネットワーク・アプライアンス(DNA)だろう。

著者は三菱電機、キヤノンで半導体プロセッサー設計や通信と画像処理のハードウエア開発に携わってきたエンジニア。インターネットでの映像配信ビジネスは、テレビで見られるべき、との持論のもと、DNAを立ち上げた。ビジネス自体は2005年に始まったばかりで、事業の成否が問われるのはこれからだ。だが、まっとうなITビジネスの一つのあり方として、ベンチャー企業のあるべき姿として、読み手を納得させる力がある。

■2006/05/13, 週刊東洋経済

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