メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年4月8日~4月15日

地球温暖化対策―排出権取引の制度設計
地球温暖化対策―排出権取引の制度設計西條 辰義

日本経済新聞社 2006-01
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この本は予想以上に刺激的である。京都議定書の柔軟性措置の中で、クリーン開発メカニズム(CDM)や共同実施(JI)は不要で、途上国は緩やかでも、すべての国が国別排出割当量であるAAUを保持し、それで国際排出権取引を行えばいい、という大胆な意見の展開が続く。国際排出権取引が、経済的にも、排出量削減の観点からも最も効率的である、との主張は理にかなっている。が、そのため、京都議定書の根幹に関わる部分に、議論を仕掛けている。

特に、京都メカニズムの利用は国内削減に対して「補足的」にする、という京都議定書の基本原則について疑問を呈し、もはや「精神規定」であると断定している。経済的には、「京都メカニズムの無制約な利用が可能であれば、排出権について一物一価の法則が働き、数量約束の配分で有利な国も不利な国でも、ほぼ同一の価格になる」。

またロシアや東欧諸国の余分な排出枠、いわゆる「ホットエア」については、「大いに買うべし」とする論理を展開し、「ホットエアは買わない」とする日本政府の政策を批判する。買えばエネルギー効率の悪いロシアの温室効果ガスに価格がつき、ロシアの削減が効果的に進む。それをしないと地球規模の削減が進まないと手厳しい。

しかし、日本の現状として、企業の自主行動計画や省エネルギー法にはインセンティブが足りず、温室効果ガスに価格をつけるべきだ、とする点は、正しい指摘である。さらに「京都議定書目標達成計画」についても、「基本的に技術と創意工夫」プラス「不足分を買ってくる」という内容なので、「京都議定書を遵守するメカニズムが内包されていない」という指摘も当を得ている。

「国内制度設計の5つの原則」は、温室効果ガスに価格をつける、京都議定書目標の遵守、経済効率性を考慮に入れるなど、基本が押さえられている。著者は、これを実現できるのは、上流型の国内排出権取引だとしているが、下流型という考え方もある。上流型は、化石燃料輸入者・国内生産者から実際の排出者への価格転嫁が均一に行われず、市場にゆがみが生じやすい。また下流型の方が、温室効果ガスの価格効果により、最終消費者の行動を変えやすい。

EUは下流型の域内取引を実施しているが、これとリンクし、より経済効率的に削減を図るには、下流型を考える方が、現実的ではないか。上流・下流の違いはあるが、温室効果ガスに価格をつけて取引を行うことが、最も効率的に削減を実現できる、とする立場に異論はない。そうした議論を巻き起こすために時宜にかなった本である。【評者 鮎川ゆりか WWFジャパン気候変動グループ長】

■2006/04/15, 週刊東洋経済

バーナンキのFRB
バーナンキのFRB加藤 出 山広 恒夫

ダイヤモンド社 2006-03-03
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今年2月、FRB議長はグリーンスパンから、バーナンキに交代した。18年半ぶりの交代である。その任期は4年、ただし大統領と議会が認めれば最長2020年まで継続することは可能である。世界の中央銀行でもあり、もっとも注目度の高いFRB議長は今後いかなる金融政策を行っていくのか、特にインフレ・ターゲット論者として名高い氏が、これを採用するのだろうか、など次々に疑問がわいてこよう。

そうした折、これらに対する答えを用意したものが本書で、日本銀行の政策分析の第一人者であり、またFRBの動向をつぶさに追ってきたエコノミストと現地ワシントン駐在の記者との絶妙な共同作業である。

バーナンキの最近の講演、議会証言などから、金融政策は「柔軟な対応」をし、またグリーンスパンの手法を継承することになろうと予測している。

注目のインフレ・ターゲットの採用は、FRB特有の二重目標である雇用の最大化と物価安定の達成にその採用が望ましいというコンセンサスが形成された時に行うと議会で証言したことから時間をかけるだろうし、たとえ採用されたにしても拘束力の弱い形となりこれまでと根本的に変わるものではないと見る。

また市場メカニズムに対する深い敬意は前任者以上のものがある。グリーンスパンは長期金利の「謎」といって市場に疑問を投げかけたが、氏は世界的過剰貯蓄論で説明していることはその例だ。

また本書は、FRBの歴史からFOMCの声明文にみる政策分析と市場との対話の変遷など豊富な題材をカバーしている。著者たちの長年の蓄積が凝縮されており、バーナンキ氏とFRBの内側を知る上でもぜひ一読をお勧めしたい。【評者 高橋 誠 三井住友アセットマネジメント執行役員】

■2006/04/15, 週刊東洋経済

ナチからの脱出―ドイツ軍将校に救出されたユダヤ人
ブライアン・マーク リッグ (著)

ユダヤ教の指導者をどうやってナチ占領下のポーランドから脱出させるか。これが本書のテーマであり、実話である。

ホロコースト時代のユダヤ人の救出、脱出を題材にした映画などはたくさん作られた。また、ユダヤ難民の救出には、ドイツ人、オスカー・シンドラーをはじめスウェーデンの外交官ラウル・ウォーレンバーグ、日本の外交官杉原千畝など有名、無名のひとびとがかかわった。

ユダヤ人を救ったドイツ人もいなかったわけではない。ユダヤ教超正統派のひとつ、ルバビッチ派レッベ(導師)のヨセフ・シュネールソン救出にあたった、ユダヤ人の血を引くドイツ国防軍将校がいた。

しかも彼の救出活動の背後にはSS(ナチ親衛隊)と対立し、のちにヒトラーによって処刑される国防省防諜部のカナリス提督の了解がある。こうしたドイツ国内の権力闘争が結果的にレッベの生命を救うことになる。

1942年までは、ナチスもユダヤ人の全面的虐殺を決定していない。そうした時期、カナリス提督は、中立国だった米国からのレッベ救出要請に応える。

一方、アメリカ国内では難民に対するビザの発給を渋る国務省、偽善的なホワイトハウス、それにユダヤ人組織内部の思惑が複雑にからむ。 

奇跡的な救出劇が背景の政治状況とともに豊富な資料をもとに描き出される。米国務省はレッベにビザを発給するのか、ビザの入手が明らかになってもなお4万冊の蔵書に執着し脱出を逡巡するレッベ、ワルシャワのゲットーでドイツ軍将校はレッベを無事に発見できるのかなど、手に汗を握る展開が続く。ナチの時代に生き、たおれ、あるいは幸運にも生き残ったひとびとにつながる記憶を風化させまいとする貴重な記録である。【評者 丸山直起 明治学院大学教授】

■2006/04/15, 週刊東洋経済

躍動するインド経済―光と陰
内川 秀二 (編集)

躍動するインド経済の実情を日本貿易振興機構(ジェトロ)の研究者と大学の教員が共同でまとめている。構成は2部10章から成り、第1部「インド経済の構造的特徴」と第2部「経済自由化後における産業の変容」でそれぞれ分析がなされている。

各章では、豊富な統計としっかりした分析により、インド経済の歴史、現状、未来が描かれている。

本の質を表す文献の引用や索引も充実しており、この本の水準の高さがうかがえる。

ただ、残念なのは、1章ごとに著者が異なり、全体を俯瞰してのインド経済の現状分析や記述に乏しいように思えることだ。

第9章「市場開放後の小規模工業」や第10章「インドの情報技術産業」など現在の日本人の多くが関心を持っているテーマをもっとわかりやすく書いてほしいところである。それでも、書店の店頭に多く並ぶ「インドもの」の本の中では群を抜いている。

■2006/04/15, 週刊東洋経済

本当にあった戦争の話
本当にあった戦争の話広田 厚司

光人社 2005-12
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戦争には、その時点では皆目検討のつかない出来事、あるいは戦後長い時間を経ても不可解な事件などが多い。例えば、1936年のイギリスで「王冠をかけた恋」 と騒がれた事件があった。国王エドワード8世は退位し、ウィンザー公となり、戦時中、中立国ポルトガルに滞在していた。だが、公は、あろうことか、ヒトラーとの交流を重ねていた。

イギリス政府は、公がナチス・ドイツの勝利を祈念した手紙が暴露されるのを危惧していた。戦争直後の大混乱のドイツでその手紙を密かに回収した情報部員には、やがて、「サー」の称号が授与される。

本書が扱っている「戦争」は、第2次大戦の北アフリカを含むヨーロッパ戦線のことであり、「謀報」「戦場」「政治謀略」の3部からなる、50の物語は、すべて珍しく、エキサイティングな話ばかりである。「ウィンザー公夫妻誘拐計画」も、「王冠をかけた恋」の後日談として読める。

■2006/04/15, 週刊東洋経済

売られ続ける日本、買い漁るアメリカ―米国の対日改造プログラムと消える未来
売られ続ける日本、買い漁るアメリカ―米国の対日改造プログラムと消える未来本山 美彦

ビジネス社 2006-03
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小泉構造改革は「日本の米国化」であり、「米国資本が日本の資産を安く買う」ことであり、「米国企業を日本の保険市場や医療市場に参入させる」ことを目的にしている、と日本のリベラル派が批判する。

日本のアングロサクソン化により、多くの人が「中流意識」を持てた「日本型社会主義社会」が崩壊する危機感を露わにする。

こうしたトーンで批判する本は書店の店頭にあふれているが、その内容は精緻な分析に欠ける際物的な本が多い。だが、同じ観点からでも京都大学経済学部教授である著者が書くと、理路整然としたしっかりした内容の本に仕上がっているのはさすがである。

この本を読むと、米国の「日本改造計画」が一貫した戦略の下、着々と進んでいることが理解できる。

2007年4月には三角合併によるM&A(企業買収・合併)も解禁される。日本企業は本当に米国資本にのみ込まれてしまうのか。「審判」の時期は近い。

■2006/04/15, 週刊東洋経済

あなたにもできる災害ボランティア―津波被害の現場から
あなたにもできる災害ボランティア―津波被害の現場からスベンドリニ カクチ Suvendrini Kakuchi 大倉 弥生

岩波書店 2005-12
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本書は、2004年12月に発生したインド洋の大津波に対する多様なボランティア活動の現場報告である。一般に、ボランティアというと、NGOや世界銀行といった権威のある国際機関を思い浮かべるが、草の根というべきか、組織に属さないボランティアのありようを紹介している。

例えば、日本の女性が組織した「被災地応援ツアー」は、被災者に収入を得るチャンスと、何かしようと思っている日本人の救援活動への参加、の二つの目的がかなえることができた。「傷ついた子供たちのケア」は、「あしなが育英基金」が津波遺児50人を含む15カ国の遺児90人を日本に招待し、お互いの体験を語り合うことで、生きることの尊さを知ったという。

また、最愛の家族を失ったにもかかわらず、「人を助けることは自分を助けること」だと認識するようになった。ボランティアは、誰でも、ちょっとしたことからできるということを教えてくれる本である。

■2006/04/15, 週刊東洋経済

SIX STRATA:ROPPONGI HILLS DEFINED
SIX STRATA:ROPPONGI HILLS DEFINEDホンマ タカシ 堀江 敏幸

平凡社 2006-01-26
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東京一極集中時代の寵児の代名詞となった「ヒルズ」族。その六本木ヒルズが完成してこの春で3年目を迎える。東京に「文化」の核をつくり、日本を代表する「文化都心」の創出をというコンセプトで建設された複合空間。文化施設や店鋪、ホテルにオフィスや住宅棟がセットになり緑化も気配りされている。

「ヒルズ」は21世紀の都市再開発の牽引車であり記念碑となった。そしてここを舞台にした「ヒルズ」族は羨望され、またその醜聞に人は眉をひそめた。「ヒルズ」のイメージがひとり歩きするなか、それを造り上げたデベロッパー側からのビジュアルな解説本が刊行された。

写真家ホンマタカシが着工時からオープンまでを写真で記録し、作家堀江敏幸がエッセイを寄せ、J・バーンブルックがデザインを担当している。ただ本書には「ヒルズ」の開発意図は巻末に短く記載されているだけ。三者によるコラボレーションはあくまでもイメージが主で構成され、紙上からは数学的に配列された水色のラムネ菓子のような香りがする。

視覚中心の表現ではそえられたコトバはより加速するのだろう。都市郊外民のルサンチマンから「ヒルズ」をながめ、時と地層の重なりに思いをはせる堀江敏幸の語りは秀逸だ。掲載写真には開発前の六本木6丁目の風景はない。それは記憶の中にしか残らないのだろうか。「ヒルズ」の表層を梱包した本書を手にしその場の過去を思い、未来を夢想した。後戻りはできない。

屹立したタワーが不落のバビロンであるかどうかは使う人びとにゆだねられている。それはひとり六本木ヒルズにかぎったことではないだろうが……。【評者:写真家 中川道夫】

■2006/04/15, 週刊東洋経済

日本型ヒーローが世界を救う!
日本型ヒーローが世界を救う!増田 悦佐

宝島社 2006-01
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著者は『高度経済成長は復活できる』(文春新書)で、戦後日本の高度成長は自由な競争がもたらしたことを分析した。さらに前著『国家破綻はありえない』(PHP)では財政破綻の危機が数字のまやかしと政府・財務省やその便乗者たちの宣伝活動にすぎないとし、今日の財政再建路線を痛烈に批判した。最新作である本書でも「増田節」とでもいうべき力強い発言は相変わらずである。

本書の基本的なアイディアは、日本のマンガをディズニーアニメやコミックを代表とする「アメリカ文化へのキャッチアップ」としてとらえる見解への批判にある。著者は「アメリカ文化へのキャッチアップ仮説」の典型としてオタク文化の代表的論客といえる大塚英志氏の主張をとりあげて容赦のない批判を展開している。

大塚氏を代表とする「アメリカ文化へのキャッチアップ仮説」とは、日本のマンガを手塚治虫とその模倣の歴史と断定し、これらがすべて意図するとしないとにかかわらずディズニーの焼き直しであるとする見解である。そして手塚の時代から今日までアメリカンコミックやアニメが暗黙の目標であり、この目標へのキャッチアップとして日本のマンガやアニメの隆盛がとらえられている。

これに対して著者は、日本のマンガ文化の隆盛はむしろ自由競争の産物であり、アメリカのコミックやディズニーアニメは性表現の抑圧や勧善懲悪を強いる規制の産物であり多様性に欠けていると批判する。さらにマンガ文化は「こども」を消費者として発達してきた日本的市場であり、年齢という「規制」がない文化形態であること、『セーラームーン』や『ドラゴンボール』のような作品にはずば抜けたヒーローを排除する集団主義的な観点があり、正義と悪という二元論的な見方が採用されていないこと、さらには女の子が主人公になるマンガを大量生産してきたことなどを興味深く分析している。

著者の競争(効率性の追求)が文化の固有性や多様性と矛盾しない、という視点は評者には納得のいくものであった。また最近の手塚治虫再評価にも著者は厳しい視線を投じ、『鉄腕アトム』よりも横山光輝の『鉄人28号』の方が放映時に子供たちの人気が高かった、と指摘し、日本のマンガ文化をディズニーの模倣としての手塚治虫とその後継とする「通説」を否定している。マンガに一家言あれば本書に突っ込みどころは多いだろう。それでも競争こそ多様性を生み出す、という主張は経済学と同様にマンガ文化においても無視することはできない重みをもっている。【評者 田中秀臣 上武大学助教授】

■2006/04/08, 週刊東洋経済

分断される経済―バブルと不況が共存する時代
分断される経済―バブルと不況が共存する時代松原 隆一郎

日本放送出版協会 2005-12
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ダイナミックな社会とは不確実な社会でもある。逆に言えば、不確実性を創造性に転化する社会が、良い意味でダイナミックな社会である。不確実性を創造の契機とするためには、リスクをとる行動が要請される。しかしリスクをとることは、人生をギャンブルにすることではない。ダイナミックな社会の基礎としてのリスクをとる行動には(すくなくともどのような不確実性があるのかということについて一種のメタ確信を持っているという意味で)制度化されたなんらかの確信が背後になければならない。

前著『長期不況論』(NHKブックス)をはじめ、小泉政権が進めてきた「構造改革」を批判する著者の基本的な立場は、「構造改革」が、そのような確信の制度を破壊することで、むしろひとびとをリスクから逃げ出すよう追い立てているというものである。この基本的な立場は本書にも貫かれている。

さらに本書では、その確信の制度化の本来的手段は、リスクをとる行動の報酬が最終的に社会全体に均霑する回路の構築にあるとし、それこそが「民営化」されえない公共性の核であるという議論に進んでいる。「分断される経済」とは、その公共性の喪失状態にほかならない。それが恐ろしいのは、単に貧富の二極化が進むからではない.。

メタ確信を欠いたむき出しの不確実性は、一方に(しばしば、高度だが抽象化されすぎた専門知に媒介されて)数字の帳尻だけを合わせた虚構の「確実性」の世界を、他方に予期の脈絡を欠いた確率的現実に翻弄される動物的な生の世界を析出させる。つまり、その経済には人間(共感と信頼の契機)が不在となる。経済学の専門知と生活経験の実践知とを切り結ばせる著者の姿勢には、人間回復の意志が貫かれている。【評者 山下範久 北海道大学助教授】

■2006/04/08, 週刊東洋経済

ビジネス人間学―「超」のつく成功者になる94の法則
ビジネス人間学―「超」のつく成功者になる94の法則ハーヴィ マッケイ Harvey Mackay 栗原 百代

日本経済新聞社 2006-02
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ビジネスの本場アメリカで、人間関係を通じての成功の秘訣を教えるこの本は、「顧客の誕生日には直接訪ねて昼食に誘え」「値引き交渉には替え玉を使って真の価格をつかめ」「満室のホテルなどない、予約係にチップを約束してウエイティングリストの一番上に名前を書かせろ」「交渉で優位に立つには、無関心を装ったり予定の時間を守らなかったりして、乗り気でないと思い込ませる」と主張し、日本人の度肝を抜く。読者はこんな人が隣人でなくてよかったと思うだろう。

しかし「あなたの人生を悲惨にするのは、あなたが解雇する人ではなく、解雇しない人だ」「管理職にとって無能な人間の後を引き継ぐほど喜ばしい状況はない」「顧客を扱うように納入業者を扱え」と言われると、なるほどと思うし、「自分がなくてはならない存在だ、そう思うあなたは、洗面器に水を張って指をつっこみ、それを引き抜いて水に穴が開くかどうか見てみればいい」というアメリカ的修辞の面白さには思わず手を叩いてしまう。

おそらく筆者はアメリカ的率直さに溢れるナイスガイ、かつ百戦錬磨の自信たっぷりな経営者なのだろう。でなければ誤解される可能性が十分にある秘密の手法をここまで公開するとは思えない。そして米国で400万部も売れたということは、彼の地でこのような手法が受け入れられている、とまではいえなくとも関心と考慮の対象とされていることを意味する。

この書は「交渉の技術」「人生の法則」「成功への近道」など7つの章から成り、それぞれの章の中は紹介したような断片的な項目の羅列であるが、人類が営々と造り上げた現代社会における精神構造の一端がこれかと思うと、空恐ろしくも悲しくもなる。【評者 河端真一 学究社社長】

■2006/04/08, 週刊東洋経済

聖徳太子はなぜ天皇になれなかったのか―厩戸皇子と蘇我氏四代の謎
遠山 美都男 (著)

古代史というと、議論の出尽くした学問という印象を持つ人もいるかもしれない。だが現実には古代史の発展は著しい。その中で、現在、最も精力的に論考を発表している研究者が遠山美都男氏だ。本書は、忽然と登場し、歴史のうねりの中に消えていった蘇我氏を正面からとらえ直し、既成の解釈の修正を読者に迫る。

蘇我本宗家は従来、武内宿禰から入鹿までの9代といわれてきたが、著者は実在したのは、稲目、馬子、蝦夷、入鹿の4代のみで、稲目が突然政治の表舞台に登場できたのは、没落した名門・葛城氏の妻を通じ、葛城氏の政治的・経済的遺産を継承したためと分析する。また、従来、大悪人とされてきた馬子、蝦夷、入鹿や、脱俗の聖人とされる厩戸王子などの人物評価、山背大兄王殺害事件や乙巳の変(中大兄王子らによる入鹿殺害)の真の黒幕など厳密な史料批判に基づいて驚きの結論に達している。

全巻新しい知見に満ちたエキサイティングな書だ。

■2006/04/08, 週刊東洋経済

<入門の法律>会社法のしくみ
<入門の法律>会社法のしくみ中島 成

日本実業出版社 2005-10-27
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4月1日から新会社法が施行された。日本のビジネスの制度的枠組みが変わることになる。この本は、裁判官を経験した弁護士が、4章101項目にわたり、図解で新会社法について解説したものである。

現在、書店の店頭では新会社法についての本があふれているが、この本は見やすいうえに、要点だけを正確に解説しているので、非常にわかりやすい。

新会社法で関心がもたれている資本制度内容の変容、有限会社の廃止、種類株式、会社の統治、決算、M&Aなどの項目がすらすらわかるように書かれている。

商法第2編、商法特例法、有限会社法が合体して「会社法」ができたことは、日本でビジネスの主体としての会社の存在がこれまで以上に大きくなり、会社を誰が支配し、統治するかということの意味合いが重要性を増していることを示している。日本企業のあり方も新会社法の施行で大きく変わりそうである。

■2006/04/08, 週刊東洋経済

猫のなるほど不思議学―知られざる生態の謎に迫る
猫のなるほど不思議学―知られざる生態の謎に迫る岩崎 るりは

講談社 2006-03
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古代エジプト時代から人間のそばにいた猫。ペットブームといわれる昨今でも犬に次いで高い人気を誇っている。だが、その生態に関しては意外に情報が少ない。猫に関する本を読み漁っても表面的な行動研究にとどまっているものが多く、猫について深く知りたいという欲求が満たされることがなかった。科学に強い講談社ブルーバックスとはいえ、どこまで猫の疑問に答えてくれるのか、半信半疑で本書を手にした。

ところが、ブリーダーで作家という著者の膨大な経験と知識に圧倒された。猫の血液型や、毛色や目色等遺伝的形質、発現などの生物学的側面から、人間の数倍といわれる動体視力や聴力など生態学的側面、行動学的側面と幅広く網羅されていて、飽きさせない。ブリーダーの著書にありがちな、いわゆる血統猫にばかり焦点を当てた「売らんかな」の姿勢がなく、健康や気質など飼いやすさの点からは雑種や日本猫を勧めているのにも好感が持てる。

■2006/04/08, 週刊東洋経済

リターナブルびんの話―空きびん商百年の軌跡
リターナブルびんの話―空きびん商百年の軌跡戸部 昇

リサイクル文化社 2006-03
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著者は100年の歴史を誇る東京の空きビン商・合資会社戸部商事の代表取締役である。清酒、ビールなどの空きビンを回収し、洗浄し、それを醸造会社などに販売する仕事だ。こうした空きビン回収業の歴史と包装容器リサイクル法の施行後の容器のリユース、リサイクルの実態を仕事の現場からリポートしている。筆致は滑らかで、読み物としても楽しく読める。現在、東京都には空きビンを洗浄して、リサイクルする事業者は二つしかない、という。

包装容器リサイクル法で、包装容器のリサイクルに膨大な予算とエネルギーが投入されているが、伝統的なリサイクル業である空きビン回収業が完全に斜陽産業になってしまったようだ。かつてはビンが主流だったビールなどの飲料も軽くて扱いやすいアルミ缶やPETボトルに変わったが、PETボトルなど樹脂系の容器が環境に負荷を与えている。包装容器リサイクルの今後を考えるうえでも参考になる本である。

■2006/04/08, 週刊東洋経済

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