メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年4月22日~4月27日

カリスマ幻想―アメリカ型コーポレートガバナンスの限界
カリスマ幻想―アメリカ型コーポレートガバナンスの限界ラケシュ クラーナ Rakesh Khurana 加護野 忠男

税務経理協会 2005-10
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三洋電機が社外取締役に迎えていた女性タレントをいきなりCEO(最高経営責任者)に祭り上げ、社内外から批判されると、今度はCEOから解任して注目された。日本でもアメリカの制度をまねてCEOというポストを創ったり、社外取締役を増やしたりしているのだが、はたしてそれがうまくいくのか。

アメリカの大企業では、外部から、神話化されたカリスマ経営者をCEOに迎えるということが1980年代から流行している。この背景には株式分散による経営者支配の時代から、機関投資家が大株主として会社に影響力を行使するようになった〈機関〉投資家資本主義への移行という変化がある。

機関投資家が取締役会に圧力をかけて、外部からカリスマ経営者をスカウトしてCEOに据える、そしてCEOにはストックオプションを与えて、巨額の報酬を得させる。そうすればCEOと大株主である機関投資家の利益が一致し、CEOは株主のため一所懸命に努力するというわけである。

では、こうして迎えたCEOがはたして成功しているのか。この本ではバンクワンなどのケースをあげて、つぶさに検討しているが、米国でも「CEO市場」が閉鎖的で、そこには競争原理が働いていない。また、いきなり外部からCEOを迎えたのでは従業員がついていかない。そのうえCEOが巨額の報酬を得ることから、ブルーカラーとの所得格差が拡大する。それは19世紀の資本家が泥棒男爵といわれていたのに似ているが、資本家と違って現代のCEOはストックオプションを行使して得た株を高値で売り逃げてしまう。こうしてCEOの社会的正当性が失われると、大衆はそれを受け入れなくなる。アメリカ社会は今、こうした危険な状態に陥っている、と警告する。

著者は社会学者だが、マックス・ウェーバーの理論にもとづいて、現代株式会社の構造にメスをいれるとともに、新古典派経済学に対して鋭い批判をしている。株式会社という制度に対する分析では新古典派の経済学者たちはまったくといってよいほど無力である。現実のデータを軽視し、抽象的な経済理論だけで、このような制度を分析しようとしても、できないからだ、と著者は言う。

CEOに焦点を当てて、巨大株式会社の取締役会の構造、エグゼクティブ・リサーチ会社、さらにアナリストやマスメディアの役割についても具体的に分析しており、これまでの類書にない新しい視点を打ちだしている。日本の経営者についてもこのような社会学的研究が行われることが必要だが、そのためにもこの本は大いに参考になる。【評者 株式会社研究家 奥村宏】

■2006/04/29, 週刊東洋経済

日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争
日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争速水 融

藤原書店 2006-02
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1918年から20年にかけて世界を襲ったスペイン・インフルエンザは、日本でも猖獗をきわめた。しかし、その後、このインフルエンザ大流行(パンデミック)の記憶は薄れ、ほとんど研究もなされないまま今日に至っている。本書は、このスペイン・インフルエンザに関するはじめての本格的な歴史研究書である。

まず、本書では非常に数多くの地方新聞が蒐集され、各地のインフルエンザ情報がピック・アップされている。丁寧に集められた新聞記事から当時のインフルエンザ大流行の様子がかなり具体的に浮かび上がる。

また第一次世界大戦に際し、輸送船保護などの任務に当たった軍艦「矢矧」(やはぎ)の日誌(巻末付録)の分析も詳細である。新聞記事などと併せて、軍隊の初年兵入隊時期にインフルエンザ流行の時期が重なっているとの「発見」は興味深い。

そのほか、三井・三菱それぞれの社史、相撲の取り組み記録、学士院納会の出欠状況、文芸作品や日記など、なかなか思いつきにくい諸資料が発掘されており、刮目に値する。

さらに本書の特筆すべき点は、「外地」でのインフルエンザ流行の実態にはじめてメスを入れた点であろう。インフルエンザに人々がどう対処したかを通じて、戦前日本の植民地統治のあり方の一側面が照らし出されている。結局、このインフルエンザによる総死亡者数は、外地での28・7万人(関東州を除く)と内地での45・3万人を合計すると74万人にも上ると言う。これは、従来推計の38万人(内地のみ)をはるかに凌駕する。現在世界各国で鳥インフルエンザの脅威が指摘されているが、過去のこのような大災厄についてこれまでほとんど忘れていたことこそ、われわれは反省しなければならない。【評者 中村宗悦 大東文化大学経済学部教授】

■2006/04/29, 週刊東洋経済

新しき日本のかたち
新しき日本のかたち加藤 紘一

ダイヤモンド社 2005-11-18
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政治家の書く本は野心に満ちた政権構想、回顧録、裏話や秘話などに分けられるが、本書はこのような既存の分類で位置づけることが難しい。「加藤の乱」やYKK秘話といった過去の挫折や思い出を振り返る一方で、日本の政治経済に対する現状認識、憲法問題や外交などに関する政策提言、これからの日本に求められる価値観なども述べられているからである。

それらはいずれも一流の学者等との議論の中から練られたもので傾聴に値するが、その中で評者は「人の話に耳を傾けることの重要性」が節々で繰り返されていることに注目したい。ここに政治家加藤紘一の新たな原点が見えるからである。

まず、YKK秘話の中で小泉総理が周囲の言うことを聞かないという指摘が見られる。周りの意見に耳を傾ければもっと優れた改革になるのにという恨み節もある。次に、議員辞職した失意の中、地元の人々と触れ合うことで自分を取り戻し政治家本来の役割に目覚める旨の記述があるが、ここでも彼が地元の意見に耳を傾けることをいかに重視しているかが行間から読み取れる。様々な経験を経る中で判断・決断に当たって人々の思いをできるだけ汲み上げたいという思いを強くしたのだろう。

バブル経済崩壊後、経済界では果敢に挑戦する起業家、政界では抵抗勢力に挑戦する若手も含めた政治家が寛容の精神をもって迎えられてきた。他方で、人の意見を聞きながら言葉や行動を慎重に紡ぎ出す者は疎まれてきた。しかし、時に理念なき挑戦を尊んできた日本型大航海時代=ポストバブルの実験もそろそろ終わりを告げようとしている。そんな状況で出版された本書は「加藤の乱」よりもずっとタイミングが合っているような気さえする。政治家はやはり強い存在なのか。【評者 中野雅至 兵庫県立大学助教授】

■2006/04/29, 週刊東洋経済

司法のしゃべりすぎ
司法のしゃべりすぎ井上 薫

新潮社 2005-02
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おすすめ平均 star
star非常に論理的であるが、一般向けでは・・・
star司法の機能不全
star要は極端な司法消極主義。

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政府は司法改革を進め、刑事訴訟、民事訴訟とも第一審判決を2年以内に出すように法律を改正した。

日本の裁判はなぜ長いのか。横浜地裁の判事だった著者は、判決文に理由以外の「蛇足」を長々と書く日本の「裁判所文化」にあると指摘する。「蛇足」を重んじるあまり、蛇足に関する審理を重ね、時間を空費する裁判官の訴訟指揮にも問題があるという。

たとえば、ある殺人事件で事件発生から20年後に損害賠償請求の民事訴訟を起こされた被告がいる(過去の刑事裁判では無罪)。

事件から20年経っているので、除斥期間は経過している。当然請求棄却の判決が出たが、理由はシンプルなのに、裁判官は判決の「蛇足」部分で、被告が殺人を実行したと認定していたのだ。この「蛇足」の記述について、裁判に勝訴した被告は「蛇足」のぬれぎぬを晴らすことはできない。こうした裁判でいいのか、という問題提起である。裁判の実態を知るための好著。

■2006/04/29, 週刊東洋経済

技術戦としての第二次大戦
技術戦としての第二次大戦兵頭 二十八 別宮 暖朗

PHP研究所 2005-09-09
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おすすめ平均 star
star読み物として面白く、内容に実がある
star圧倒される情報量
star知らなかったことばかり!

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東京工業大学大学院を修了した軍学者の兵頭氏と、東京大学経済学部を卒業して信託銀行で調査・企画を担当した別宮氏が、日本軍対中国軍、ソ連軍、米軍、英連邦軍との戦いを兵器の視点から縦横に語る。これまでNHKのドキュメンタリー番組などで「常識」とされてきた見解を打ち砕く。

たとえば、時代遅れの旧式兵器とされてきた三八歩兵銃は小口径の弾丸を使った(現在の米軍の弾丸は小口径)命中率の高い「名器」だった。日本の戦車が重量14トンで制限されたのは、港から積み出すクレーンの能力に制約されたからだ、など興味深い対談が続く。

日本の航空機のエンジンがほぼ全部空冷だった(米英独は水冷が主流)のは、当時の日本の精密加工技術が低かったから、なども指摘されている。

別宮氏は、生産力の強化を目的にして革新官僚や陸軍が推進した「統制経済」が、「社会主義経済」の欠陥を伴って、実は生産力強化に寄与しなかったという。

■2006/04/29, 週刊東洋経済

大審問官スターリン
大審問官スターリン亀山 郁夫

小学館 2006-01
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20世紀最大の独裁者であるスターリンの内面を、つづった本である。著者はロシア文学者で、東京外国語大学教授。

スターリンの「出世」ぶりは類例のないものだ。ロシア帝国の辺境・グルジアで靴職人の息子に生まれたスターリンが、ロマノフ皇帝をしのぐ権力者になったからだ。この強運ぶりに、キリスト教の神学校に学んだスターリンは自分を神の恩寵を受けた預言者、あるいは神そのものだ、と思ったに違いない。神ゆえに人間の命運も自由にできる。

小説『ドクトル・ジバコ』でノーベル文学賞を受賞した詩人パステルナークもスターリンの崇拝者だったが、スターリンの寵愛が自分にないことがわかると絶望する。映画監督・エイゼンシュタインとスターリンの芸術論をめぐる葛藤も興味深く描かれている。

スターリンは革命前、秘密警察のスパイだった。こうした過去のトラウマが、「大審問官」スターリンを生んだと、著者は考えている。

■2006/04/29, 週刊東洋経済

悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷
悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷森 達也

岩波書店 2005-11
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白黒テレビの時代、子どもだった僕は、力道山の「空手チョップ」に熱狂したものだった。よくタッグを組んでいたのが、極悪非道の反則攻撃を繰り出すグレート東郷で、ヒール役の外人組と悪役ぶりを競っていた。銀髪のかみつき魔ブラッシーとの戦いではいつも血みどろになっていた。

その日系米国人東郷は第2次大戦が終わった直後の米国で、「神風」の鉢巻き、派手な法被、高下駄姿でリングに登場。「リメンバー・パール・ハーバー」の怒号を一身に集めた人物。「なぜ東郷は、祖国である日本と母国であるアメリカで、あれほどに観客の憎悪をかき立てるようなファイトに終始したのか。なぜ力道山は、誰からも嫌われた東郷を、あれほどに重用し、そして敬慕したのか」と、本書はその謎に迫る。北朝鮮生まれの力道山が終生、日本人を貫き通したのと同様、東郷にも出生の秘密があった。プロレスというフェイクの尽きぬ魔力・魅力を思い出させる。

■2006/04/29, 週刊東洋経済

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)
文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)ジャレド・ダイアモンド 楡井 浩一

草思社 2005-12-21
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文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)
文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)ジャレド・ダイアモンド 楡井 浩一

草思社 2005-12-21
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著者に聞く 『文明崩壊 上・下』を書いた カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授 ジャレド・ダイアモンド氏

――前著『銃・病原菌・鉄』(草思社)で、ピュリッツアー賞を受賞されましたが。最新作の『文明崩壊』では何を訴えたいのですか。

古代メソポタミア文明、イースター島や古代マヤ文明などかつて栄えた文明は、水質、土壌など環境の悪化と、木材、漁業など資源が枯渇して崩壊しました。環境と資源を人類がコントロールできないと、どんなに栄えた文明でも衰退し、崩壊に至ります。

一方で、江戸時代の日本のように、人口と森林などの資源を上手にコントロールしたことで、生き延びた文明もあります。また、中国は何度か環境と資源の危機に直面しましたが、他の文明より自然環境に恵まれていたので、全面崩壊の運命は免れました。

現在、地球の人口は65億人ですが、これがやがては90億人になります。この程度の人口を地球は養うことができると信じていますが、その前提は環境と資源を上手に管理することです。

そうでないと、かつてアフリカのルワンダで起きた悲劇が繰り返されるでしょう。ルワンダでは、環境と資源が枯渇したために、600万人の人口のうち、100万人が殺され、200万人が追放されました。

私は、人口は維持できると思いますが、現在のような高い経済成長は維持できないと思います。環境や資源の制約を超えて、経済成長できると考えている見識の足りない人間はエコノミストだけです。

漁業資源を例にとると、オーストラリアではロブスターの資源を管理しています。しかし、大西洋のマグロはかつては1匹当たり140キログラムあったものが、現在は40キログラムに減っています。絶滅の危機にあるといえるでしょう。

中国などの新興国が金持ちになって、マグロなどを食べるのでますます危機は深まっています。

――二酸化炭素増加による地球温暖化の問題は、環境の危機が古代文明のように局地的ではなく、グローバルなものになっていることです。

この対策は、まず石油・石炭など二酸化炭素を発生させる化石燃料の使用を減らし、原子力や風力、太陽光など再生可能なエネルギーを使用することです。

また、私の母国、アメリカなどエネルギーを大量に使用する先進国が化石燃料の使用を抑制するしかありません。

――米国は好景気でクルマの数が増え、大型化も進み、またブッシュ政権は京都議定書を批准しないなど地球環境問題に不熱心に見えますが。

選挙が永遠にないとしたら悲観的になりますが、選挙で政権が交代して、環境問題への取り組みも変わるでしょう。私が住んでいるカリフォルニア州では、シュワルツネッガー知事は共和党ですが、政府の環境政策を批判して、省エネルギーなどを呼びかけています。

――日本については。

日本は経済成長の結果、現在中国人1人当たりの32倍の資源を使用しています。中国の成長が喧伝されていますが、日本のほうがはるかに環境、資源に対して、与える影響は大きい。欧米、日本が環境と資源をコントロールできるかどうかに世界の運命がかかっています。

Jared Diamond
1937年米国ボストン生まれ、58年ハーバード大学を首席で卒業、61年ケンブリッジ大学で博士号取得。進化生物学、鳥類学、生物地理学、人類生態学などを専攻。アメリカ国家科学賞、コスモス国際賞などを受賞。

■2006/04/29, 週刊東洋経済

人口減少社会は怖くない
人口減少社会は怖くない原田 泰 鈴木 準

日本評論社 2005-12
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一国経済の生活水準を決定するのは就業者一人当たりの実質GDP、すなわち労働生産性である。1971年から2001年の30年間、日本の労働生産性は年率2・3%上昇し、約2倍の水準になった。つまり、平均的な就業者の生活水準は一世代で約2倍になったのである。

それでは今後はどうなるか。高齢化や人口減少を悲観的に考える人が少なくない。人口減少によって日本の経済規模が減少し、経済が停滞するのではないかというのである。そうした議論とは異なり、本書は、人口減少は日本人一人ひとりの豊かさを低下させるどころか、より豊かにするものだという考え方に立っている。高齢社会の負担が増大するのは事実だが、必要な改革さえ行えば負担の回避は可能だとしている。評者も本書の考え方に基本的に賛成である。

冒頭に述べたとおり、一国経済において最も重要なことは、労働生産性である。今後の時間当たりの労働生産性上昇率を本書の前提である年率2%とすると、この先30年間で、就業者一人当たりの実質GDPは約1・88倍に増大する。一世代で80%の生活水準の向上というのは、決して悪い話ではない。

この仮定が楽観的過ぎるという批判があるだろうが、景気低迷が続いた90年代の労働生産性上昇率は年率2・1%であったから、「2%」は控えめな前提である。

就業者一人当たりGDPが増加しても、就業者の減少で、経済全体の規模が縮小し、経済が停滞する、と心配する人も少なくない。しかし、一人当たりの生産性の上昇が続けば、就業者が減少しても、日本全体の経済規模の拡大は可能である。本書の推計では、2030年までの実質GDPは年率1・3~1・6%で上昇する可能性が高いことを考えると、この前提は慎重である。

それではどうすれば労働生産性の上昇を持続させることができるのか。そのためには、政府部門が民間の経済活動の邪魔をせず、市場を自由かつ競争的に保つことによって、人々の自由な創意と工夫を最大限に引き出すことが最も重要である。もちろん、現役世代が減少していく以上、年金や介護など高齢化に伴って増大する負担そのものを軽減する取り組みは不可欠で、本書では様々な改革案が提言されている。また、少子化の前提そのものを変えようと主張する向きも少なくないが、本書は、そうした流れは変えられないので、あくまでも少子化の継続を前提に議論を進めている。

楽観的だと思われる方も少なくないかもしれないが、必要な改革さえ行われれば、「人口減少社会は怖くない」のである。【評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト】

■2006/04/22, 週刊東洋経済

耐震偽装―なぜ、誰も見抜けなかったのか
耐震偽装―なぜ、誰も見抜けなかったのか細野 透

日本経済新聞社 2006-02
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マンション耐震偽装事件は想像すらできない事件である。「ザル法」と揶揄され、矛盾だらけの建築基準法は建築士の正義がなければ成り立たない。それがもろくも裏切られた。次々に出てくる偽造やミス。民間のみならず公的機関も同様の失態を露呈する確認審査。何が真実か、何を信じて良いかわからない、というのが国民の思いだろう。

ヒューザー事件以来、マンション販売がスローダウンした。これから住まいを購入しようとする世帯にまで影響している。安心してマンションが買えないことは人生設計を頓挫させることにもなりかねない。

本書には、マンションを買う時の「構造」というブラックボックスを明快にしてくれる術が語られている。「構造設計」の偽造を見破る「ピアチェック」、現場での「設計監理」の悪慣行の是正、そして「行政検査」の実態や改善策を浮き彫りにし、いかにしてマンションを購入するかの方法を具体的に述べる。

専門的な視点で、構造解析そのものの矛盾を説き起こし、認定計算ソフトに結果の相違があること、設計者の考え方で結果が大きく異なること、さらに安全・安心の評価が小手先の設定値の違いでも大きく変化することなど、構造計算の危うい面を赤裸々に暴露する。

さらに最も安全だとする構造システムを「免震構造」として「耐震等級」をレベルアップするためのコストを具体的に示し、耐震性アップの費用負担が意外に少ないことを明示する。

耐震性アップを納得するために、建物のライフコストを確認する「PML評価」を実施するなど、マンションを買うための基本的な評価基準を示し、その為に「対応マニュアル50条」を加えている。筆者は建築構造計算と確認申請のからくりを平易な目で解きほぐしてくれる。【評者 秋元孝夫 NPOたま・まちせん代表 一級建築士】

■2006/04/22, 週刊東洋経済

キヤノンとカネボウ
キヤノンとカネボウ横田 好太郎

新潮社 2006-02
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キヤノンは日本を代表する優良企業と評価されている。キヤノンの御手洗冨士夫社長は5月に日本経団連会長に就任する。

だが、三十数年前のキヤノンは当時のカネボウの約7分の1の売り上げしかない会社だった。一方、カネボウは繊維の名門会社であり、戦前には総資産で日本一の会社になったこともある。しかし、その後、カネボウは産業再生機構の傘下に入り、繊維、化粧品など事業部門が切り売りされた。何がキヤノンとカネボウの明暗を分けたのか。

「経営者」と「社風」の違いだと著者は指摘する。著者は、名門会社の栄華が残っていたカネボウに1972年に入社。95年にキヤノンに中途入社するまで、カネボウに勤務した。二つの会社に勤務して得られた結論である。

「真理は細部に宿る」ということわざがある。カネボウの役員は「事務系、派手、保守的」であり、「役員会は昼。社費で5000円のうな重を食べる」のに対して、キヤノンの役員は、「技術系、地味、しつこい」「毎朝8時から朝会、昼は自腹で社食」である。キヤノンの社員はよほどのことがない限り、「自宅、会社、自宅、会社」という二拍子の生活を送っている。

この本の第5章では、カネボウ経営者の責任がやや遠慮がちな筆致であるが、追及されている。カネボウに長年、君臨した伊藤淳二元社長は、メインバンク(当時の三井銀行)と労働組合を押さえることで、その権力を維持した。東京都内と芦屋市にあった社長社宅は豪壮なものであったという。

そのため、合成繊維からの撤退など抜本的な事業構造改革ができず、帳尻合わせ的な決算対策に終始することになった。粉飾決算の罪で有罪になった帆足隆元社長はババを引いた、が著者の結論である。

■2006/04/22, 週刊東洋経済

プロに訊け!-明日が見えた瞬間
プロに訊け!-明日が見えた瞬間木村 政雄

丸善 2006-02-01
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本書はBS‐iデジタルラジオ番組「元気e!」で放送された内容を書籍化したもの。26人の各界の著名人へのインタビューが収載されている。

著名な人々が、実は予想以上に多くの挫折、深刻な困難に直面していることに驚く。そして、多くの人々が、どちらかといえば、行き当たりばったりで、瞬発力、勘で進むべき方向を探っている。ただ、好きなことへのこだわりは尋常ではなく、マグマとして内面にたまっており、困難に直面すると、それが爆発して道を切り開かせる。

ふとしたきっかけで目が覚めたように、明日への道が見える人もおり、別人のようになって力を発揮しているケースも少なくないが、これも似た構造だろう。

NHK大河ドラマ『功名が辻』の脚本家大石静氏、エジプト学の吉村作治氏、篠崎屋社長の樽見茂氏、映画監督の篠田正浩氏、リポーター東海林のり子氏など各分野の多士済々が、人生への思いを吐露する。

■2006/04/22, 週刊東洋経済

ロウアーミドルの衝撃
ロウアーミドルの衝撃大前 研一

講談社 2006-01-26
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著者は、日本も米国に続いて中間所得層が減る、その結果としてサラリーマンの生活とサラリーマンを相手にしている企業のビジネスモデルも変わる、という。

著者によると、日本人の約8割が年収600万円以下のロウアーミドルクラス(中流の下)以下だという。

米国では日本より30年も早く中流階級が崩壊し、ミドルクラス相手の総合スーパーが衰退して、ディスカウント業態が主流になった、という。米国の企業は二極化する所得層に対応したマーケティングを実現している。日本でもユニクロなどロウアーミドル以下のニーズを取り込んだ量販店などが成長している。

生活も変わる。郊外の住宅、子供の教育、クルマも見直さなければならない。高級車が売れる一方で、コンパクトカーや軽自動車が売れているのも、その兆候である。著者は海外では年収600万円の階層は豊かに暮らしており、政府の規制を見直して、物価を下げることを提言する。

■2006/04/22, 週刊東洋経済

『国鉄改革』の完成に向けて―「JR東日本革マル問題」の整理
宗形 明 (著)

JR東海の葛西敬之会長が書いた『未完の国鉄改革』(東洋経済新報社、2001年)は大きな反響を呼んだが、旧国鉄で労務畑などを歩んだ著者は、『もう一つの未完の国鉄改革』(高木書房、2002年)を著して、残された課題であるJR東日本の労働組合問題を指摘している。

最新作は一連の企画の第4弾の著書である。この本のサブタイトルにある「JR東日本革マル問題の整理」が、内容を語っている。

JR東日本は日本を代表するビッグビジネスだが、その最大労働組合が極左革命集団である革マル派によって支配されている、これを是正しない限り、国鉄改革は「未完」であるという。

JR東海、JR西日本の労働組合は革マル派が支配していない。JR東日本は革マル派による労働組合支配を容認しているのではないか、と著者は問題提起する。労組や新左翼の事情に通じていないと流れがつかみにくいが、「タブー」に触れた刺激的な本である。

■2006/04/22, 週刊東洋経済

ラルフ・エリスン短編集
ラルフ・エリスン短編集ラルフ エリスン Ralph Ellison 松本 一裕

南雲堂フェニックス 2005-11
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「僕は見えない人間である」という一風変わった書き出しで始まる『見えない人間』(1952年)で、アメリカ黒人文学の金字塔的作品を屹立したラルフ・エリスンの習作時代を含めた13篇の短編集である。

これらの作品は、忍耐と慎重な結束が人種差別を打破したり、あるいはその逆に言語に絶する残虐行為や暴力行為を具体的に述べることで、欺瞞に満ちた醜悪なアメリカ社会の常態を提示している。例えば、「広場のお祭り騒ぎ」は、黒人を火あぶりで殺すのがテーマである。「飛んで帰ろう」では、幸運にも負傷だけで助かった黒人パイロットを救援しにきた白人に疎んじられ、黒人の老人と少年に担がれ、その場から離れる物語だが、「あの不吉な鳥が太陽に向かって音もなく飛んでゆく」と結んでいる。

エリスンは、黒人でありアメリカ人である人間の苦境の中に潜む「人間的な普遍性」を明らかにすることこそ、自分の使命だと述べている。

■2006/04/22, 週刊東洋経済

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