メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年3月11日~3月18日
| M&A最強の選択 | |
![]() | 服部 暢達 日経BP社 2005-12-22 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は、日本のM&A勃興期から最近まで、業界「最強」といわれる米系投資銀行の東京支店でM&A部門の責任者を務めた。「ファイナンスの教科書を読めば書いてあるような内容は割愛する」という一流の実務家の手になる本書は、いわば日本版『ビッグディール』(ブルース・ワッサースタイン著)だ。
本書では、ライブドア対ニッポン放送、住友信託銀行対UFJ、夢真ホールディングス対日本技術開発といった最近の事例にあてはめ、どういう攻撃(防衛)策をどのように用いれば効果的か詳述されている。それはあたかも、戦場に臨む軍人が、機関銃がいいか、バズーカ砲がいいか、それとも兵糧攻めにすべきかと、武器をひとつひとつ吟味するような専門性ある緊迫感に満ちている。ちなみに著者によると、ニッポン放送が買収防衛策として使おうとした新株予約権は、一回しか使えない希薄化効果を無駄に浪費する時代遅れの「火縄銃」で、導入を考えている経営者は、本書を読んで有効性を再考すべきだろう。
資金調達手法や金の流れを、規則や経済効果といったモノサシで分析すると、経営者の意図や人間性が透けてくる。それは一見血の通わない客観的事象から、人の心のあり方を「逆算する」金融実務家独特の視点だ。「我々は株主のために行動している。上場会社の経営者はすべて自己の株主のために行動しなくてはならない」とライブドアの旧経営陣はいい続けていた。
しかし著者は、営業利益倍率から考えてライブドアのニッポン放送株買付価格が「ライブドア株主のために行動した結果だとはいい難い」高値で、また、株価暴落とセットになっているMSCB(新株予約権付社債)を資金調達に用いたことは、「自身の株主に対してはきわめて冷淡で身勝手な行動」と看破している。本書がライブドアに検察の捜査が入る以前に上梓されたことを考えれば、著者の高い見識が窺える。
一方、本書の後半に出てくるNKKと川崎製鉄の合併で誕生したJFEの成功に関する分析は、経営者の生き様を含め、ライブドアとは好対照で、企業経営者や財務アドバイザーにとって良い見本になるだろう。
本書の一つの魅力は、文章の切れ味だ。「MBOが非公開化による経営効率の改善や敵対的買収に対する防衛策というのは、ほとんど冗談のような説明」「ライブドア対ニッポン放送事件の高裁判決は無知蒙昧」「産業再生機構がカネボウの化粧品事業を買収するのは摩訶不思議で、それをカネボウの株主総会が承認したのはさらに驚き」など、一刀両断の正論で切り捨てており、なかなか痛快である。【評者 黒木亮 作家】
| サザエさんと株価の関係―行動ファイナンス入門 | |
![]() | 吉野 貴晶 新潮社 2006-02 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「サザエさんの視聴率が下がると、株価は上がる」と聞くと、本誌の読者は「オイオイ」とツッコミを入れるかもしれない。サザエさんの視聴率と株価との間に一定の相関が確認されたとしても、それは見かけ上の相関であって、両者の間に特別の因果関係はないと考えられるからだ。しかし、サザエさんの視聴率に一定の意味を持たせることによって、単なる「見かけ上」ではないことが明らかとなる。
その謎を解くカギがこの本のサブタイトルにもなっている「行動ファイナンス」だ。「行動ファイナンス」は、経済や市場を動かすヒトの心理に着目し、その影響を研究する。経済学の世界では、伝統的にヒトは常に合理的に行動することを前提としているが、実際にはこの前提にはかなり無理がある。つまり、「行動ファイナンス」はヒトの非合理的な行動を説明する、現実に即した学問である。
日曜の夕刻、サザエさんを見ているうちに何となく「ブルー」な気分になった日本人は多いはずだ。それだけで株が売られるわけではないが、筆者は、「サザエさんを見ているということは、日曜に外出をしていない可能性を示唆しており、それは景気にはネガティブだ」と分析する。こうした洞察力は、人気ナンバーワンクオンツアナリストとしての面目躍如だ。
ちなみに、本書では宝くじや企業の情報公開スタンスなどと株価との関係も分析している。中には観覧車など、なぜ株価との関係が成り立つのか、直ちにはわからないものもあるが、そこは本書をお読みいただいて、軽妙な語り口で記される筆者の探偵のような推理を楽しんでいただきたい。上がる株を探したい個人投資家のみならず、自社株の価値を上げたい企業関係者(行き過ぎた行動は問題ですが)にも役立つ一冊だ。【評者 嶌峰義清 第一生命経済研究所主席エコノミスト】
| 小泉政治全面批判 | |
![]() | 森田 実 日本評論社 2006-01 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
通常、プロの編集者は、本書のようなタイトルはつけないだろう。30年前、いや40年前の安保闘争や全共闘世代の感覚である。しかし、「全面批判」という表現に、著者の本書への<思い>が集約されている。日本という国の危機を小泉政治に強く感じていることが、数ページを読み進む中で理解される。
著者が引用する『拒否できない日本』(文春新書)を合わせて読むことになった。著者森田の小泉批判の原点は、『拒否できない日本』のサブタイトルにある「アメリカの日本改造が進んでいる」にあるのか。米国の日本政府に対する年次改革要望書のことが、克明に説明されている。「拒否できない日本」は、石原慎太郎の「アメリカにNOと言える日本」の立脚点と同じである。小泉自民党は、刺客選挙を展開し、圧勝した。ゲーム感覚的に、若者・女性は、勝ち組小泉・竹中に乗った。小泉劇場はテレビが先導し、多くのメディアが協力した。堀江劇場は、ピリオドを打つ事態になっているが、小泉劇場は、巧妙に、延命を企てている。著者は、「物言えば唇寒し秋の風」と松尾芭蕉を引用しているが、小泉政権を批判する声は小さい。
小泉首相は、皇室典範改正を断念し、首相になって初めて「ブレ」た。意固地な小泉の終わりの始まりなのか。ライブドア問題が拡大する中で、小泉内閣の支持率が急落した。米国産牛肉輸入再開の手順を見ると明らかに米国の言いなりであり、アメリカの51番目の州のようだ。本書の指摘通りかもしれない。“日本を取り戻せ”と著者は強く主張する、日本という国の国家としての品格はたいせつだ。自己主張すべき時なのに“アメリカ化”に直進する小泉革命の危険性を感じとっているのは、著者だけではないだろう。鋭い感性に心を揺さぶられた。【評者 福岡政行 白鴎大学教授】
| 石油大国ロシアの復活 | |
![]() | 本村 真澄 アジア経済研究所 2005-04 売り上げランキング : 17,615 おすすめ平均 ![]() ロシアのエネルギー戦略を知るAmazonで詳しく見る by G-Tools |
1980年代ソ連経済は急速に衰退し、91年にはソ連崩壊を迎えるが、その原因として、不効率な経済体制とともに石油などエネルギー価格の急激な低下が挙げられるだろう。
今日でもロシアは石油・天然ガスを合計すれば、サウジアラビアを抜いて、世界最大の産出量と資源埋蔵量を誇るエネルギー大国である。ロシアのプーチン大統領は2006年早々、ロシアの天然ガスのウクライナ共和国向けの供給を制限して、ロシアの天然ガスに依存してきた西欧諸国を震撼させた。エネルギーを政治的武器にすることで、NATOやEU加盟を図るウクライナを牽制している。
同時にエネルギー価格の高騰はロシアの外貨準備を増やし、高い経済成長にも貢献している。また、日本はサハリンの油ガス田やシベリアの油ガス田の開発に参画したり、関心を示している。こうしたロシアのエネルギー事情を長年の研究の蓄積をベースに紹介している貴重な本である。
| 脳の栄養失調―脳とダイエットの危険な関係 | |
![]() | 高田 明和 講談社 2005-12 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
過ぎたるは及ばざるがごとし。昨今の健康ブームのなかで目の敵にされる肥満。「万病のもと」と脅迫されるが本当にそうなのか、と著者は疑問を投げかける。
大脳生理学を専門とする著者は、脳に必要なものまで過剰に制限すれば、かえって体を痛めると言う。とくに糖や動物性タンパク質などの脳が最も必要とする食品の制限は脳の栄養不足を招く。ダイエットが糖尿病を誘発し、うつ病から自殺をも招く。常識を覆す脳と体の危機のメカニズムをわかりやすく説く。
雑誌モデルやタレントなどへのあこがれに端を発した若者の極端にやせた体型への願望やダイエット指向は、体力の低下ばかりでなく寿命をも縮めかねない。
ではどうすればいいのか。この疑問への答えは残念ながら、ない。自らをコントロールし、バランスのよい食事をとり、ほどほどを保つ――これこそが重要と著者はいう。極端に走りがちな現代人への警鐘だ。
| 資格図鑑! 2007 | |
![]() | オバタ カズユキ ダイヤモンド社 2006-03-03 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
最近になって雇用情勢が急好転しているが、1997年から始まったデフレ・金融危機で企業の設備投資意欲と人材採用意欲が落ち込み、空前の就職難が起きて、非正規雇用やニート、フリーターの問題も深刻になり、その対応策として、「資格」が注目された。
この本は日本にある資格をイラスト入りでわかりやすく紹介している。
資格の華ともいうべき医師、弁護士、公認会計士から「簡単にとれる」行政書士、ファイナンシャルプランナーや医療・福祉系の資格までを網羅している。
この本のよさは建前ではなく、資格をとってどれだけ稼げるかも紹介していることだ。たとえば、「柔道整復師」。「医者以外の資格で大儲けできる穴場の資格」だったのは過去のものになっているなど、指摘している。今日では医師以外の資格をとっても、それだけでは高収入に直結しないが、資格をとるという意欲と努力が人生設計で重要になるのだろう。
| なつかしい日本の遊び201 | |
![]() | 佐藤 加代 角川学芸出版 2005-10-29 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
子供は発明家である、といった言葉をかつて聞いたことがある。この本のページをめくって、もちろん懐かしさは言うまでもないが、あの時代の子供の発明的な「遊び心」に今さら驚いている。遊ぶための道具がなかった。だから身近な物を利用して遊びを発明したのだ。
しかし、あの時代の遊びにもう一つ見逃せないメリットがあった。一般論になるが、あの時代の遊びは多人数であった。そこに、私は注目したい。今われわれ大人も自分の問題として真剣にとらえなくてはならない「共生」と言う言葉がしっかりと生きていたのではないか。
たしかに、あの時代、子供の間でいじめや仲間はずしもあったろう。だが、クラスメートを殺すような事件は聞いたことがない。どうしてこうなったのかと大人たちは心を痛め、かつ狼狽している。管見であるが、即座に解決し、リセットも可能なテレビゲームも原因の一つであろう。
| 資本論の誤訳 | |
![]() | 広西 元信 国分 幸 こぶし書房 2002-03 売り上げランキング : 665,481 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
共産主義(社会主義はその低次段階)に関するこれまでの通念によれば、「国有・国営の計画経済」体制であり、国有は共同所有と同義とされる。こうした市場廃止の計画経済から帰結するのは、中央集権的な一国一工場体制(一国の経済全体を一つの工場として国家が経営する)である。 統治機関としての国家は土台(一国一工場)の経営・管理機関としてこれと一体化し、強大な中央集権国家が形成され、国家が市民社会を吸収する。かつて存在したソ連・東欧の共産国家はそれを体現するものであり、「総体的奴隷制」と呼ぶにふさわしい。
共産主義に関するこうしたマルクス・レーニン主義的通念に対し、1960年代以来誤訳の指摘という形態で繰り返し批判を加えてきたのが廣西元信氏である。廣西は所有と占有の混同を批判し、いち早く個々人的所有の重要性を指摘した。「国有=共同所有」説について言えば、広西によれば「社会的所有=会社的所有」であるから、マルクスの考えとは正反対のものである。マルクスにとって共同所有とは「個々人的所有」と両立しうるものである限り、株式会社や協同組合に見られる持ち株による共同所有を意味する。
廣西はまた「マルクス解釈」として「利潤分配制の市場社会主義」をいち早く唱えた。
廣西によればマルクスの社会主義は「利潤分配制によって、占有補助者(労働者)を占有者とする」ことである。占有者への格上げは市場の廃止を必須の要件とするものではなく、市場経済にもとづきながら資本主義の株式会社を利潤分配制・従業員持ち株制の連合的株式会社に転換することによって達成されるのである。連合的株式会社が民営を基本とするのは無論である。【評者 国分幸 岐阜経済大学教授】
| ゼロ金利との闘い―日銀の金融政策を総括する | |
![]() | 植田 和男 日本経済新聞社 2005-12 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本銀行は量的緩和政策をいよいよ解除する決意だ。市場の参加者も関心は早くも「解除後」のゼロ金利の継続期間と、その後のコールレート上昇の幅とスピードの議論に移っている。
こうした折、タイミングよくゼロ金利政策の導入時点での理論的フレームワークを当事者として内側から説明、再整理した本が出版された。著者は新日銀法が施行された1998年から2005年4月までの7年間、日銀政策委員審議委員として大いに活躍され、その発言には市場からの注目度も非常に高かった。
「日本経済の失われた10年」の後半に生じた金融システム不安、金融機関の資本不足等に対応して、日銀は「もっとも革新的な政策」である時間軸政策、さらに量的緩和策を採用した。時間軸政策を決定した当時、伝統的な金融政策として教科書に載っていたわけでもなく、わずかに米国の経済学者、クルーグマンが違う側面から述べていたくらいであった。そうした意味でその後の動きを「先取り」した政策であったと回顧する。この政策をテーラー・ルールとの関連で理論面からレビューすることは、目前に迫った出口戦略を議論するのに有益だ。
著者は日銀が量的緩和の解除をCPI(消費者物価指数)が将来もプラスを維持し、長期的に望ましいインフレ率である2%程度が見通せ、いったん利上げに転じればコールレートを0・5%から1%程度引き上げられそうだ、という確認をしてからでも遅くないという。
日銀には若干の辛抱が肝要であり、普通の中央銀行が利上げを行うタイミングより少し遅れて動くことが時間軸政策の趣旨に沿うことになると主張する。日銀は解除後に時間軸政策を市場と対話しつつどう維持するのかが問われている。
一方、時間軸政策の効果の実証分析も行っている。将来の短期金利に対するコミットメントを通じて、現在の中長期金利に影響を与えたことは実証できるが、量的緩和策がポートフォリオ・リバランス効果、総需要刺激効果などに影響を及ぼしたかどうかははっきりしないという。しかし不良債権処理後の大手銀行の行動に変化が見られ、それが時間を経て効果が今やっと顕在化しているように思える。
銀行貸出の増加、都心部の地価の上昇、個人の有価証券の購入がそうした一例だろう。こうした点は今後の分析課題であり、続編を期待したい。
時間軸政策から脱出して初めて日本の金融政策は正常化する。本書はいま一度これまでの過程を振り返り、将来を展望するのに絶好の書である。【評者 高橋誠 三井住友アセットマネジメント執行役員】
| ヨーロピアン・ドリーム | |
![]() | ジェレミー リフキン Jeremy Rifkin 柴田 裕之 日本放送出版協会 2006-01 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一口に欧米といっても、アメリカとヨーロッパでは生活意識に大きな違いが見受けられる。
アメリカでは同性婚に反対する人が多数だが、ヨーロッパでは多くの国で同性婚が事実上合法化されている。アメリカでは死刑は合法だが、ヨーロッパでは違法である。環境に対する意識でも、例えば遺伝子組み換え作物に対するヨーロッパの反感は根強い。経済を見ても、自由競争を肯定し、勤労や自立を美徳とするアメリカに対して、ヨーロッパではワークシェアリングが進み、余暇を重視した生活の質の向上を多くの人が求めている。その実現のためには、高い税金を支払うこともいとわない、というのがヨーロッパ人の基本的な考え方なのだ。
本書の著者はアメリカ人だが、これからの時代はますますヨーロッパ型の理想が重要になってくると説く。いち早く産業社会に突入したヨーロッパが、現在では産業社会以降の新しい状況に適応しようとさまざまな試みを行っている。個人の自由やピューリタン的美徳、物質的豊かさへのあくなき前進を求めるアメリカン・ドリームは輝きを失った。コミュニティへの帰属、余暇の楽しみ、相互扶助を美徳とするヨーロピアン・ドリームにこそ目を向けるべき、というのが本書の主張である。
本書で描かれるヨーロッパは理想化されすぎているとの懸念は拭えない。EU憲法条約やトルコの加盟をめぐって試行錯誤する昨今の状況を考えても、ヨーロピアン・ドリームがこのまま順調に実現されていくとは思えない。だが、ともすればアメリカにばかり目を向けがちなわが国にあって、ヨーロッパが示しつつある社会モデルを総合的に解説した本書の意義は大きい今後の日本が進むべき道を考える上でも、有益なヒントを与えてくれる一冊と言えよう。【評者 柴山桂太 滋賀大学経済学部助教授】
| ゾルゲ 破滅のフーガ | |
![]() | モルガン・スポルテス 吉田 恒雄 岩波書店 2005-09-30 売り上げランキング : 280,732 おすすめ平均 ![]() フランス文学ですか。 1938年、寅年、昭和の暗い谷間Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書の主人公ヘル・ドクトール、つまりゾルゲについて「彼は生一本の男だ。一度これが正しいと信じたら直進する。彼には黒と白しかなく、その間のニュアンスはない」と述べたのは、東洋地域の地下工作の専門家、ナジであった。まさに正鵠を射た評価である。ゾルゲにとって、打倒すべき敵はナチズムであり、死守すべき味方は社会主義の祖国ソ連であった。その目的のためには、他の全てを犠牲にしなければならない。かつての同志が次々とスターリンによって処刑された事実を知悉していても、であった。
ゾルゲ自身、最高級のスパイの要件として、静かで目立たないスパイ、その逆の派手で騒々しいスパイ、の2種をあげている。実際、彼は長期間にわたってこの2つを巧妙に組み合わせていたが、最終的にはそれが脆くも破綻してしまったのだった。何故だろうか?
この破天荒な大物スパイに関する本は、現在、汗牛充棟と言うべきであろう。頑迷なスターリニスト、酒好きの女狂い、誇大妄想狂、詭弁家、冷徹な社会学者など、「伝説的人物」のごとく論じられている。
等身大のゾルゲ像の描出を意図する本書によると、彼の生きた1930年代のとてつもない矛盾を、女性と酒に韜晦させたのは事実であるが、彼が獲得した「国家の最高機密」は成熟した社会学者の冷静な情勢分析の成果であって、それが時代の大きく非情なうねりの中に埋没してしまった。それにしても、彼は逮捕される直前、怯え切っているゾルゲ機関要員に「共産主義自体だって共産主義思想を殺すことはできない! 異端審問でさえキリスト教思想を殺すことができなかったじゃないか」と諭す。このメッセージの中に、ゾルゲらしい強烈な存在感を残しているようである。【評者 川成洋 法政大学教授】
| 小さくても長続きする逆バリ商売のすすめ―手づくり・ローテクにこそ勝機がある! | |
![]() | 朝霧 幸嘉 吉村 克己 ダイヤモンド社 2006-02 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ルポライターの吉村克己氏が、川越市に本社を置く無農薬・減農薬野菜の産直システム企業「協同商事」の創業者社長・朝霧幸嘉氏の半生と経営哲学を描いた本である。朝霧氏は貧しい家庭の育ちで、島根大学農学部を中退。何もないところから、年商40億円の企業の創業社長になるまでを描いている。朝霧氏によれば、「最先端は儲からない。儲かるのはローテク」であり、コストをうまく管理しながら、事業を育てる経営哲学、経営手法を紹介している。そこにあるのは泥臭いが、日本の風土に裏打ちされた小企業が勝つための戦略である。
野菜の産直システムのような手づくりの生活産業は巨大産業になる――が朝霧氏の信念である。「身近なことや日常に発見がある」「ヒントはヨーロッパにあり」「人の声に惑わされるな、自分を信じよ」「人にはエネルギーを与えよ」「人の目を見るな」など「ローテク発想一〇箇条」はとても参考になる。
| 外資ファンド 利回り20%超のからくり | |
![]() | 北村 慶 PHP研究所 2005-09 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() 冷静な視点が良い! 良書です! イイ意味で、タイトルにだまされないように注意!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「ハゲタカ」、「救世主」……。現在投資ファンドほど毀誉褒貶が相半ばする存在はない。だが、今では投資ファンド抜きには日本の経済も産業界も、そして資産運用も語れないほど、存在感が大きくなっていることだけは間違いない。
投資ファンドは通常、20%超の利回りを還元することを目標に掲げて投資家から資金を集めているとされる。本書ではこの「利回り20%超の世界」を理解するために、ファンドビジネスをいくつかに類型化して紹介している。具体的には、「企業買収ファンド」、「企業再生ファンド」、「不動産ファンド」、「ヘッジファンド」の四つについて、その特徴と日本での活動状況を紹介している。次いでこれらファンドに共通する「市場の歪み」、「レバレッジ効果」、「分散投資」、「プライベート性」の四つの法則について詳述している。金融の最先端を走る投資ファンドを知ることは、我々が金融リテラシーを高める近道なのである。
| 経産省の山田課長補佐、ただいま育休中 | |
![]() | 山田 正人 日本経済新聞社 2006-01 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
霞が関に勤務する現役バリバリの官僚が書いた子育て奮闘記。筆者は第三子の誕生を機に1年間の育児休業取得を決意。妻に代わって家庭内で子育てに専念し、その体験をエッセーにまとめた。
本書では、育休取得の決断の際の職場や友人の反応から、息子の誕生、離乳食やうんち処理、病気をめぐるやりとりなど、育児の奮闘ぶりが温かみあふれる筆致で描かれている。
ただ、筆者がいうとおり「単なる『育児日記』ではない」。場面場面で「父親が育児をすることの困難さ・障害や、わが国社会の根底に横たわる男女差別の意識の存在」(山田氏)が明らかにされている。
それでも育児はすばらしい。「こんな楽しみを今まで女性に独占させていたのか、と正直思う」(あとがきから)。そしてもう一つ、子育て支援を政策として考える際にも大変有意義な読み物だ。何しろ、育児に真っ向から挑んだ父親はまれだからだ。
| 経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには | |
![]() | 大竹 文雄 中央公論新社 2005-12 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者に聞く 『経済学的思考のセンス』を書いた 大阪大学社会経済研究所教授 大竹文雄
――『日本の不平等』という学術書で、いくつもの賞を受けられたばかりですが、この本は一般向けに書かれたものですね。
経済学がどのような発想で、何を研究しているのかを、身近で具体的な題材で、一般の人に知ってもらうために本書を書きました。経済の仕組みをつくるには何が難しいかも、経済学の考え方で明らかにしたいと思ったのです。
――「女性はなぜ、背の高い男性を好むのか?」「美男美女は本当に得か?」「太るアメリカ人、やせる日本女性」といった設問にも、経済学的センスで答えています。
私の秘書にどのようなテーマに関心があるか、と聞くと「そりゃ、美容とダイエットですよ」と言われました(笑)。その要請にも応え、テーマが広がりました。
運も認めないと……
――本書の副題は「お金がない人を助けるには」です。
「お金がない人を助ける」というテーマで小学生からインタビューを受けましたが、そこに経済学のエッセンスが詰まっていました。副題をメインにしたかったぐらいです。
国会でも努力した人が報われるのは当たり前だ、という議論がありましたが、この本で言いたかったのは、努力、運、才能、は区別がなかなかつかないということです。
勝った人は、自分の努力だと言いがちですが、かなりの部分は運、才能があるということを認めないと、再分配という話にはなりません。
――「小さな政府」について、触れられていますね。
世間で言っている小さな政府の概念には二つあると思います。一つは不必要なこと、無駄なことをやるのが大きな政府という考え方です。もう一つは、どこまで政府が再分配をするかによって、大きな政府、小さな政府という考え方です。
再分配という観点で述べれば、日本はOECD諸国の中でいちばん小さな政府です。日本を大きな政府だと思っているのは幻想です。
――「逆転可能な社会」という言葉が出てきます。
誰もが逆転可能な社会には賛成するでしょう。しかし現実には、たとえば2世、3世議員は選挙に通りやすい。競争は自由だというなら、世の中、活性化するには、スタートラインを同じにするようにつねに努力していかなければなりません。特に低成長が続き、少子化になれば、それがより必要になってきます。
――経済学的思考のセンスのある人とは、インセンティブの観点から社会を視る力と因果関係を見つけだす力を持っている人ですね。
ホリエモンはお金で買えないものはないと述べましたが、それは人々が金銭的なインセンティブに反応するということです。しかし経済学はもう少し広く、非金銭的なインセンティブも考えます。どういうインセンティブに基づいて行動が起こるのか。科学とは因果関係を明らかにするものですが、経済学は実験ができないので、限られた証拠から因果関係を探し出すことが求められます。そのとき、やはり最後は経済学的思考のセンスなのですね。














良書です!

