メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年2月25日~3月4日
| 進化し続ける経営―SBIグループそのビジョンと戦略 | |
![]() | 北尾 吉孝 東洋経済新報社 2005-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
英語にパースペクティブという言葉がある。「時間的視野」とでも訳すべきか。武将が配下の軍勢とともに小高い丘に立ち、これから攻め込むべき眼前に広がる平野を睥睨している、その脳裏には完全な攻略計画が既に組み立てられている、そんな語感である。
『進化し続ける経営』はパースペクティブを感じさせる書である。北尾吉孝という稀代の武将に率いられたSBIグループは、9社の上場企業を先頭に要所に布陣を終わり、今や金融の広野に攻め入ろうとしている。
総合金融カンパニーとして3年後に時価総額3兆円、5年後に5兆円という目標は、時間軸とその時点での企業構造を示す透視図として、本書で明確に示されている。そして背景たる日本型金融ビッグバンとインターネット革命についても理論的に詳述されている。またそこに到る戦略として、企業生態系(シナジー戦略)、コーポレート・コミュニケーション、企業文化、社会貢献について社内的イベントやシステムが例示されている。全てが配備につき、後は「かかれ」の号令のみというところであろうか。
「有言実行」とはまさに著者のことであろう。前著でインターネットの時代におけるグループの進むべき道を示し、本書でその勝利の総括を行い、更に5年後時価総額5兆円への道を雄雄しく指し示す、という姿は誠にわかりやすく、ステートメント、日本語で言えば「有言実行」というこれからのリーダーに必要な資質を示している。
しかし、日本的土壌に「有言実行」という美徳はたしかに抽象的には存在しているが、こと経済界では実際には存在しなかった。なぜなら国際的大競争と技術革新のただ中で確定的に未来に対する物言いをすること、とりわけ自らの発展を予言することは、天を恐れぬ所業とまでは言わなくても、少なくとも経済界の保守本流からは白眼視されることであった。
「私が描いている革命についてもきちんとした形で学問的成果を取り入れていこうというのが、私の一貫した姿勢である」という氏が展開する「正論」も、「正論ではあるが……」という文脈で使われることが多い日本では「出る杭は打たれる」ということになりがちである。
有言実行の士、北尾吉孝はニッポン放送事件の時のようにまた打たれるかもしれない。しかし、注目されるがゆえに毀誉褒貶も多いということこそが、彼が21世紀の有言実行型リーダーである証左だろう。20世紀型「不言不実行」、存在感もなく責任を取らないリーダーよりは、社員にとってはるかに力強く魅力的に映るに違いない。【評者 河端真一 (株)学究社社長 一橋大学客員教授】
| 日本のニート・世界のフリーター―欧米の経験に学ぶ | |
![]() | 白川 一郎 中央公論新社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本は、何かをするときには徹底的に海外の制度を調べていた。これは日本のよき伝統だったが、バブル以降、あらゆる制度を調べて最善のものを作ろうという気風が、官僚制度の中から失われたように思われる。バブル期にはもう学ぶことはないと得意満面になり、その後の不良債権処理も海外の経験から学ばないようになった。
制度を調べることは、学者個人には大変なことである。スタッフに恵まれず、運用の実態を知る経験のない人間が制度を調べるのは困難だ。しかし、重要な政策課題において、国際的に制度を比較し、その成果を検証することは、理論や実証研究以上に重要だと思う。本書は、若年雇用問題について、この困難な仕事をやり遂げようという貴重な試みである。若年雇用問題が深刻なのは日本だけではない。欧米諸国は、20年以上前からこの問題に取り組んできた。当然、学ぶことは多いはずだ。
単に制度を紹介するだけではなく、制度を支えている社会の仕組み、そのコストも分析している。単純にうまくいっているように見える制度を真似ればいいというわけではない。一見、成功したと思われ、日本でもミニコピー的な政策が採られているドイツのドュアルシステムの問題点も指摘されている。
日本の若年失業については、著者は、構造的問題が大きいと考えている。構造的問題の中身を正規雇用の減少とパートや派遣社員の増加だと考えているようだ。確かに、正規雇用者の失業率はパートや派遣社員の失業率よりも低いだろうから、これは若年失業率を高める要因になる。この定義された構造問題を重点的に分析すれば、より問題が明確になったと思われるのだが、途中から構造問題の定義があいまいになるようなのは残念である。【評者 原田泰 大和総研チーフエコノミスト】
| 米中石油戦争がはじまった―アメリカを知らない中国は敗れる | |
![]() | 日高 義樹 PHP研究所 2006-01 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
2005年の夏、中国海洋石油が米国の石油会社ユノカルの買収を試みた。中国海洋石油および中国政府はそれを通常の経済行為ととらえていたが、米議会は安全保障とからめ少々ヒステリックとも思える反応を示したために、ユノカル買収を断念した。
著者はNHK特派員以来の豊富な人脈を駆使し、米議会、研究機関などから直接得た生々しい情報をもとに、米議会における中国のエネルギー戦略を警戒する動きから説き起こし、経済、軍事両面から米中両国の関係について分析し、また今後の展開について予測を試みている。
著者は、中国の政策は、安い通貨で輸出を増やし、国民の生活を犠牲にしても国を強くするかつての重商主義にほかならず、経済成長のため、石油資源の抱え込みを図り、世界の産油国へ触手を伸ばしていると断じている。中国国有石油会社の国外における石油確保は、高値買いや不公正競争といった批判はあるものの、全体のボリュームは大したものではない。市況商品である石油を、中国が政治の力を借りて奪っているという見方は悲劇を招きかねない危険な発想と思われる。
しかし、石油の確保を焦るあまり、イランやベネズエラへ接近するなど、米国に警戒心を抱かせる行為が中国に全くないとは言えない。米中双方の政府内で、石油を「重商主義的」に確保すべき戦略物資とする見方があることも事実である。
著者が第五章以降で描くシナリオのように、米中の経済摩擦が激化し、米国が自らのダメージを省みず、中国に対して経済封鎖を実施する可能性はあるのか。さらに軍事衝突にまで発展するのか。万一そうなった場合、軍事衝突に至らなくても、世界経済は大きく変化し、日本も深刻な影響を被ることになろう。【評者 竹原美佳 石油天然ガス・金属鉱物資源機構主任研究員】
| 武器としての「言葉政治」―不利益分配時代の政治手法 | |
![]() | 高瀬 淳一 講談社 2005-10 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() 着目点は良いが突っ込みが足らない 出た!見た!買ってしまった・・・Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ここ数年で日本の政治手法は大きく変わった。田中角栄的政治手法から小泉的政治手法へ、である。角栄的政治手法は国民に利益を分配することで、国民から支持を集めた。小泉の時代、日本にもはや利益を分配する余力はなく、不利益を分配する=国民に痛みを与える時代に変わった。そこで必要となるのは、痛みを与える国民に納得してもらう技術。それが、政治指導者の「言葉政治」である。
こうした問題意識から著者は歴代の首相がどのように「言葉政治」を展開したのか、を分析する。話術に卓越した田中角栄がロッキード事件で追い詰められた際、得意の話術を国民を説得する「言葉政治」に使わなかったことは、角栄が国民に直接話しかける政治家でなかったことを示す。
こうした点では、橋本龍太郎元首相も同じで、国民ではなく、政治家や官僚に話しかけていたという。「言葉政治」を巧みに展開した小泉首相の政治家としての革命性を指摘する。
| サムスンの研究―卓越した競争力の根源を探る | |
![]() | 日本に根付くグローバル企業研究会 日経ビズテック 日経BP社 2005-12 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今やトヨタに匹敵する強大な企業グループをつくりあげた韓国サムスン。だが、その全貌を知るための文献はあまりに少ない。試みにアマゾンの書籍検索で「トヨタ」を打ち込むと442冊、日本企業以外でもIBMは212冊がヒットするが、「サムスン」はわずか8冊にすぎない。そうした希少性に加え、同書のユニークさは、サムスンの幹部社員、取引先、研究者などの寄稿を中心に編まれた書籍であることだ。特に、16人の幹部社員の講演記録などを収集、再録したことは注目に値する。電子産業を担当した記者たちが口々に漏らすのが、サムスンを本格的に取材することの難しさだ。だが、本書には、取材依頼をしなくても16人の「内部証言」があるのだ。
たとえば、サムスンは03年から経営のベンチマークとして初めて異業種の企業を採用、それがトヨタ生産方式であることなどが明かされる。衝撃的な内幕が書かれているわけではないが、貴重な研究資料である。
| 『資本論』も読む | |
![]() | 宮沢 章夫 WAVE出版 2005-12 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は岸田国士賞を受賞した劇作家で、同時に京都造形美術大学の助教授。生まれは1956年だから、70年の安保闘争の頃は中学生だ。そんな著者が高校時代に、仲間内で『資本論』を読む競争がちょっとはやったという。著者は何度も挑戦したが、結局、いつも最初の「商品」の項目で挫折したという。そこで、再度挑戦しようとしたのが本書の企画だ。
もちろん、マルクス経済学に再入門するといったスタンスではない。むしろ、著者は「一着の上着の価値が10エレのリンネルの価値の2倍であれば、20エレのリンネルは一着の上着と同じ価値を持つ」とか「商品交換は共同体の果てるところで、共同体が他の共同体またはその成員と接触する点で始まる」といったような文学的な表現に惹かれつつ、独自の感覚と目線で大部の書物と格闘する。京都と東京での身辺雑記を織り交ぜることで単なる読書ノートとは異なる味わいを出すことにも成功している。
| 丸山眞男の時代―大学・知識人・ジャーナリズム | |
![]() | 竹内 洋 中央公論新社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
竹内洋氏の書くものは何を読んでも面白い。知識人を軸として近現代日本を見つめなおす氏の洞察に満ちた研究は、『教養主義の没落』や『学歴貴族の栄光と挫折』などでつとに知られている。今回の対象は丸山眞男である。かつてこの名前には今日では理解しがたいオーラが漂っていた。竹内氏は、丸山の著作・思想・公的活動だけではなく(それについても卓抜な解釈が示されている)、その知識人としての意味を解読することで、丸山の活躍した時代に迫ろうとした。本書の題名は著者の意図を正確に反映している。
日本においてインテリになるとは西欧の学問を学ぶことである。そして知識人とは西欧化された日本人である。ヘーゲルを大量に引用する日本政治思想史家丸山は、日本の人々に西欧を示し、そしてそれによって切り取られた日本を示す二重、三重の仲介者であった。
知識人は権力機構においては下位に属する。しかし、丸山は東京大学法学部という権力再生産機構の中枢にいた。さらにその法学部の中で日本政治思想史という人文的な知を担うことで、丸山は知識人として絶妙なポジショニングを有していた。こうした特異な立場はアカデミズムとジャーナリズムの双方における丸山の覇権の源泉であった。「通奏低音」や「引き下げデモクラシー」といったネーミングやメタファーの「卓抜さ」でさえ、丸山のきわめて硬質な地の文章と無縁ではないという竹内氏の指摘には鋭いものがある。
しかし、仲介者にはリターンのみならずリスクがつきものである。丸山の研究が専門家からの数々の批判にさらされたのも、仲介者としての丸山の引き受けざるを得なかったリスクと考えられる。
丸山の「無意識の戦略」について語るなど、ときに難解なところがあるものの、本書は読みやすい。戦後進歩派知識人の代表格丸山を理解する補助線として右翼思想家・蓑田胸喜を持ってくるところなど実に面白い。その面白さは丸山的、とすらいえよう。
丸山眞男の時代は終わったのだろうか。現代はテレビで映える気の効いた即興コメントの時代である。要するに「朝まで生テレビ」と竹中平蔵の時代である。しかし、丸山の時代と同じく現代の知識人にも戦略とポジショニングがあり、仲介者にはリターンとリスクがある。
本書には丸山の写真が一枚だけ掲載されている。その猛禽のような目は、60年安保のさなかという撮影時期のせいなのかもしれない。しかし、それはまた言論の機会を絶えずうかがう知識人の肖像ではなかったか。【評者 若田部昌澄 早稲田大学政治経済学部教授】
| ジャック・ウェルチ リーダーシップ4つの条件 | |
![]() | ジェフリー・A・クレイムズ 株式会社ジェネックスパートナーズ 沢崎 冬日 ダイヤモンド社 2005-11-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ジャック・ウェルチと言えば、20世紀最高の経営者のひとりだが、彼の数多くの功績の中でも特に評価したいのは、変化とスピードに富み、不確実性に満ちた時代において、一つの変革のリーダーシップモデルを創り上げたことだ。それも、20年余りの間に少しずつそのモデルを発展させ、最終的に「4Eリーダーシップ」に結実させたことは素晴らしい。
本書は、GE社員の間ではすっかり浸透している、この「4Eリーダーシップ」に焦点を当てて1冊の本にしている点で、非常に興味深い。「4Eリーダー」とは、エネルギーに溢れ、行動力があり(Energy)、明確にビジョンを示し、周囲を鼓舞し(Energize)、競争心に富み、困難な決断をものともせず(Edge)、常に財務面での目標も達成し、結果を出せる(Execute)リーダー像だ。
本書の前半では、これら4Eの各要素についてより深い議論が展開されている。注目すべきは、各要素が互いに密接な関係がある点、中でもExecuteが重要な役割を果たしている点だ。
後半は、5人の「ウェルチ・チルドレン」について、各者各様の「4Eリーダーシップ」実践の具体例が示されており、格好のケーススタディといえる。登場人物も、現GE会長イメルトをはじめ、元3M会長マクナニー、元ハネウェル会長ボシディ、ホームデポCEOナーデリと、錚々たるメンバーだ。
もとより、リーダーシップにはさまざまな形態があるし、GE流のリーダーシップモデルがあらゆる組織や環境に当てはまるとは限らない。しかし、その本質のところは普遍であり、我々がリーダーシップの本質を理解し、自分たちにふさわしいリーダーシップモデルを模索する上で、本書が役立つことは間違いないだろう。【評者 黒田康史 ベンチャー・キャピタリスト】
| 満州裏史―甘粕正彦と岸信介が背負ったもの | |
![]() | 太田 尚樹 講談社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「五族協和」を謳いあげ、「王道楽土」の虚妄を邁進した昭和の最大の徒花、満州帝国に、二人の人物――甘粕正彦と岸信介――が暗躍した。
甘粕正彦といえば、大正12年、関東大震災でアナキスト大杉栄と伊藤野枝、それに彼女の6歳の甥の3人を麹町の東京憲兵隊に拘引、絞殺した憲兵大尉である。「大杉事件の犯人」として懲役10年、千葉刑務所に服役する。だが、2年10カ月で出獄する。その後、結婚しフランスに渡る。現地で生まれた娘を連れて1年半ぶりに帰国するが、風雲急を告げる満州へ向かう。当然、関東軍参謀、そして満州事変の仕掛け人「腹の板垣、頭の石原」との付き合いが始まる。
清朝最後の皇帝溥儀の密かな来満という大事業を成功させ、特務の世界から「満州の顔役」として表舞台に登場する。
昭和11年、満州に着任早々の岸は、東條英機の紹介で初めて甘粕と会う。「信義を重んずる男」甘粕と「商工省の切れ者」岸が刎頸の友になるのにさほど時間がかからなかった。岸は抜群の人心掌握術を使い、関東軍を手玉にとりながら、巨大な産業立国の立役者として君臨し、一方、甘粕は、満州国承認の答礼としての遣欧使節団副団長、そして満映理事長に就任する。こうしてみると、時代時代の節目に甘粕が重大な役割を果たしている。
昭和14年岸は日本に戻り、満州の実績を踏み台にして大きく飛躍する。戦後、首相に登りつめ、「妖怪」といわれた。一方、甘粕は満州に留まり、敗戦を見定め、従容として青酸カリを仰いだのだった。あの「大杉事件」の真相を封印したまま。
「この二人の男は、あそこまで手を汚しながらも、不思議なほど生命の輝きが交錯する」と結んでいる本書は、稀に見る骨太なノンフィクションである。【評者 川成洋 法政大学教授】
| 官邸主導―小泉純一郎の革命 | |
![]() | 清水 真人 日本経済新聞社 2005-12 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
サブタイトルは「小泉純一郎の革命」。著者は日本経済新聞の政治部記者で、現在は経済解説部の編集委員。自社さ連立政権から、橋本内閣、小渕内閣、さらに森内閣、小泉政権に至る政治の流れと、政治スタイルの変化を丹念に追っている。政治構造の的確な分析とともに、エピソードも豊富であり、読んで損のない本に出来上がっている。
重要な指摘は、小泉構造改革にあたり竹中平蔵氏が果たしている役割の大きさである。「小泉なくして竹中なし、竹中なくして小泉なし」という言葉で表現している。また経済政策の決定にあたり、民間人を登用した竹中ラインと伝統的な力を持つ財務省が、一面では敵対しつつも、政策課題によっては、お互いに利用し合って、政策を推進する過程の描写も見事である。
移ろいやすい政治過程で、小泉首相が国民的人気と強運を武器に、長期間政治を主導して、郵政解散では自民党を圧勝させるまでの過程も興味深い
| 盲導馬をよろしく | |
![]() | 佐々木 祥恵 東邦出版 2005-08 売り上げランキング : 24,357 おすすめ平均 ![]() 盲導馬の本としては中身は薄いAmazonで詳しく見る by G-Tools |
ミニチュアホースを見たことがある。世田谷の馬事公苑で。とても可愛い。当たり前だけど、何もかも「馬」そっくり。匂いまで全く同じ。こんなことを言っては、ミニチュアホースに怒られる。冗談じゃない、ぼくも「馬」だぞ、と。とにかく可愛いのだ。
現在、埼玉県で、このミニチュアホースが「盲導犬」ならぬ「盲導馬」として訓練されている。馬は記憶力がいいし、音や環境の変化に敏感だから、だ。しかも、馬の寿命は20年から25年と犬に比べて長いので、盲人のパートナーを長く務められる。といっても、もとより「盲導馬」の育成マニュアルなど存在しない。
「障害物を認識してその前で止まることができる」ようになると、町を歩かせる。大型犬と同じ大きさであり、あまり人に威圧感を与えない。というか、人の心をホッと和ませる不思議な魅力がある。一歩ずつ、人間と馬との新しいパートナーシップが生まれているようである。
| 絵はがきにされた少年 | |
![]() | 藤原 章生 集英社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
かつて、詩人の金子光晴は「人種の差別が受けるたましいのいたみ。それは、眼に見えぬ獄」とうたった。本書を通底するものを挙げるとするなら、この金子光晴の詩であろう。しかも、こうした差別は、われわれ日本人には分からないことなのだが、例えば、南アフリカの黒人社会だけでも、部族、民族間の差別や齟齬が歴然として存在している。したがって、こうした部族意識、それに宗教や収入に応じ、全くの孤立した世界が無数にあって、そこに暮らす一人ひとりは互いの垣根を超えることもなく、解り合えないまま、それぞれの善意、それぞれの不幸を抱えて生きている。
そして、アフリカ全体を被う貧困や貧富の格差、これらの解消や是正を叫ぶのは結構だが、本書は、「一年でもいいからアフリカに行って自分の暮らしを打ち立てたらいいと思う。…一般論を語るのはその後でいい。いや、経験してみれば、きっと、多くを語らなくなる」と結んでいる。
| Q&A 新しい独占禁止法解説 | |
![]() | 玉木 昭久 三省堂 2006-01 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
談合は、日本人の永遠の「宿痾」なのか。昨年の橋梁談合事件や成田空港電気設備談合事件だけではなく、最近では防衛施設庁をめぐる「官製談合」疑惑に地検特捜部のメスが入り、社会的批判を浴びている。
これに対応して、独禁法は今年1月から大幅に法規を改正。カルテル・談合のさらなる摘発に向けて体制を整えた。本書は、改正独禁法の目玉である課徴金算定率引き上げとその減免制度(リーニエンシー)、犯則調査(公正取引委員会による強制捜査制度)といった新分野を、企業人から法律の初学者までを対象に、わかりやすく解き明かす。
筆者は、公正取引委員会で経済調査課長を務め、現在は弁護士として企業法務に携わる。3部構成・34項目のQ&Aからなる本書は、興味のあるポイントごとに読み始めても大丈夫。本格的な法解釈論から制定以後の歴史・背景までをコンパクトにまとめ、変わりゆく独禁法の断面を鮮やかに描き出す。
| 東大法学部 | |
![]() | 水木 楊 新潮社 2005-12-15 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者に聞く 作家 水木 楊
――東大法学部は入試の難易度で日本の文系学部の最高峰であり、明治以来、高級官僚などのパワーエリートを輩出する学部です。日本の教育制度の頂点に立つ学部であり、そうしたことから大変関心を持たれる存在です。日本経済新聞社の論説主幹も務めた作家が、この本を書いた動機からお話ください。
水木 私は国立大学の文系学部はもう歴史的役割を終えて、存在する意味がなくなっていると考えています。その代表が東京大学法学部です。
この本を書く契機になったことは、直接的には、『月刊文藝春秋』で、「東京大学がこわれる」という内容の論文を書いたことです。これが、新潮社の編集者の目に留まって、新書になりました。
それ以前にも伏線があって、日本経済新聞で「国立大学文系はいらない」という内容の社説を書いたことです。この社説は内外で反響を呼んで、とりわけ文部省から抗議の意見をもらいました。明治維新で日本は近代国民国家の道を歩みます。そこで必要だったのは、欧米から近代的な法律制度を導入することです。その回路が東京帝国大学法学部でした。
戦後の一時期も焼け野原から日本が再生するためには、先進国へのキャッチアップが必要であり、東大法学部のような先達が必要でした。
だが、こうした環境は過去のものになり、日本は成熟した近代国家になっています。すでに東京大学法学部に代表される国立大学文系学部は必要ありません。国立大学文系学部の機能は私立大学で十分に賄えます。巨額の公費を必要とする国立大学文系学部は無駄な公共事業と同じ存在になっています。
かつて国立大学文系学部には、貧しいが優秀な人材が社会的階梯を登るためのスタート台としての意味もあったが、現在では東大入学者の親の平均年収が1200万円となり、他の有名私立大学より高いという状況では、そうした存在意義もありません。
現在でも明治以来の入試選抜システムが生きています。つまり、東大法学部に入る生徒を選別するために子供全員が小学校から受験レースに参加するというシステムです。子供がかわいそうです。フランスにはENA(国立行政学院)など東大法学部を超える超エリート校がありますが、エリートになりたいという子供だけを母集団としており、日本のように全員参加を強制していません。
――日本を代表する経済新聞の論説主幹として、多くの東大法学部卒業生を見てきたと思いますが、感想は。
水木 彼らは確かに情報処理能力が高く、勤勉です。だが、例外はありますが、面白みがなく、教養に欠けている人が多いと思いました。
本にも書いていますが、ある東大法学部を出た代議士にドフトエフスキーについて尋ねましたが、「ロシアの作家ですか」という皮相な答えしか返ってきませんでした。
不思議なことに、日本は学歴社会ではあるが、知識人が尊敬される社会ではありません。作家という仕事をしてこのことを痛感しました。





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