メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年2月11日~2月18日
| マオ―誰も知らなかった毛沢東 上 | |
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| マオ―誰も知らなかった毛沢東 下 | |
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「世界人口の4分の1を占める中国人民を数十年にわたって絶対的に支配し、20世紀の指導者として誰よりも多い7000万有余という数の国民を平時において死に至らしめた人物」。その毛沢東(元中国共産党主席)の伝記というよりも悪口を書いたのがこの本である。
毛沢東はサディストで、レーニンの革命理論に導かれて暴力にたどりついたわけではなく、生まれつきのサディズムに近い本能的嗜好を持っていたのだ。
彭徳懐、劉少奇をはじめ、次々と同志をいじめ、周恩来も信用していなかった。そのため周恩来が癌にかかっても、治療させず、死期を早めた。
同志ばかりか、家族を思う心もなかった。そして4人の妻も裏切った。最後の妻である江青にしても汚い仕事に散々利用しただけであった。子供に対する愛情も全くなかった。このように毛沢東を全く唾棄すべき人物として描く。
かつてエドガー・スノーが『中国の赤い星』で感動的に書いた長征にしても、それは蒋介石が紅軍(中国共産党の軍隊)に対して、始めから脱出口を与えていたのであり、その通りに行動したまでだという。
さらに、抗日戦争を本当に戦ったのは蒋介石の国民党軍であり、毛沢東は戦力温存を優先して、日本軍と戦う気があまりなかったという。
1960年代の文化大革命が恐怖政治であったということは、著者のひとり、ユン・チアンが『ワイルド・スワン』で書いている通りだが、それについて、この本には別に目新しい指摘はない。要するに、毛沢東は中国という国を乗っ取って、自分の好き勝手にしただけで、中国人民はその犠牲になった、という結論である。
共著者で、ユン・チアンの夫でもあるジョン・ハリデイはイギリス新左翼の論客であり、旧ソ連やコミンテルンの資料を掘り出して、スターリンと毛沢東の関係などに光を当てたとされるが、かつて毛沢東を神格化していた欧州の新左翼がなぜこのように毛沢東をたたくのか、その方が興味をそそられる。
毛沢東神話への批判は蘇暁康などの『廬山会議』やハリソン・ソールズベリーの『ニュー・エンペラー』などの著作にも見られるが、さらに李志綏の『毛沢東の私生活』で毛沢東の女性関係が暴かれて読者にショックを与えた。
その極めつきともいうべきがこの本だが、しかし、スターリン批判と同じように毛沢東批判も、全てを独裁者個人の問題にしただけでは何にもならない。 やはり、中国革命とは何であったのか、という根本が今でも問われているのではないか。【評者 奥村宏 経済評論家】
| 日本経済改造論―いかにして未来を切り開くか | |
![]() | 野口 悠紀雄 東洋経済新報社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は刺激的な日本経済論だ。冒頭で日本経済の停滞脱出にはデフレ克服と金融緩和が必要だという多数説を「本質を見逃す」と切って捨て、返す刀で小泉改革は「リップサービスに過ぎない」と葬り去る。
著者は1990年代以来の政策論争で、標的扱いされても屈するところがなかったが、本書はさらに踏み込んで、満を持した著者の勝利宣言の観がある。
私は本書の次の基本命題に全面的に賛成だ。〔1〕日本は世界経済の構造変化(IT革命と中国の工業化)に適応していない、〔2〕最大の問題は企業収益の低下である、〔3〕内外価格差の是正が迫られている。著者はこれら基本命題に関連して〔1〕躍進する新興国と没落する産業大国、〔2〕日本企業はリスク回避的、〔3〕銀行ビジネスモデルの基本的刷新は未達成、〔4〕内外価格差の是正は政治的に困難、〔5〕政府部門の赤字が大きく縮小する可能性は絶無、〔6〕年金制度は清算できないから継続する、など状況の厳しさを強調する。
そこから最近の景気回復は一時的で、日本経済は危機を脱していないとの警告が出てくる。私も日本が世界的技術革新の波に乗っていないことを遺憾とせざるをえない。しかし景気回復は個人や企業の意識変化に根ざしていること、政府の需要補給に依存していないこと、企業収益力の回復に支えられていること、それには企業法制、労働市場改革などこれまでの構造改革の成果も芽を出していることを評価し、90年代の景気回復に比べれば自律的だと考える。
政策論では海洋国家を目標とすべきこと、年金税、相続税など世代内補助を強めることなどに賛成だ。ただ郵貯民営化アナクロ論については、国債保有は金融機関の採算を悪化させるが、それだけに低採算国営企業の温存には賛成できない。【評者 香西 泰 日本経済研究センター客員研究員】
| 女帝の歴史を裏返す | |
![]() | 永井 路子 中央公論新社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
現在の百二十五代天皇までに女性の天皇は僅かに十代。そのうち二人は二度天皇になっているので実際は八人にすぎない。最初は第三十三代推古天皇である。以下、皇極・斉明・持統・元明・元正・孝謙・称徳と続く。ここまでは飛鳥・奈良時代だが、明正・後桜町の二代は、なんと江戸時代である。女帝は一時的な中継ぎという説が強かったが、江戸時代は別として、古代の六人の事跡を見ればそうではないことが分かる。
推古帝は東洋で最初の女帝である。唐の則天武后や朝鮮の善徳女王よりもずっと早い。聖徳太子を皇太子とし、十七条憲法を制定し、隋と国交を樹立した。皇極帝は大化改新。持統帝は壬申の乱という皇位争奪戦、そして藤原京遷都。元明帝は和銅開珎と平城京への遷都。美貌ナンバーワンといわれた元正帝は、長屋王と組んで私有地を認めた三世一身法の制定。孝謙(称徳)帝は妖僧道鏡を愛し天皇にしようとした等々、女帝たちは彩りのある時代を作り出している。
推古から称徳まで、女帝は八代、男帝は七代。男女半々である。男が女のもとに通う「妻問婚」が一般的だった古代には、力のある女性がたくさんいたので女帝の即位は自然のことであった。残念ながら平安時代以降は女帝がいないが、はたしてそれは歴史の進化なのかどうか。政治は男のやるものだというより、歴史は女によって作られるという方が魅力的であろう。
女帝の歴史を裏返すというのは特別のことではない。学者とは違う小説家の眼で、人間としての女帝を見つめ直し、彼女らの悩みや歓びを浮かび上がらせようというのである。それは歴史家にも支持者の多い著者ならではの世界である。 本書を読めば、女帝は是か非かという議論は、今さら何が問題なの、と言いたくなる。【評者 仲倉重郎 映画監督】
| 国家の品格 | |
![]() | 藤原 正彦 新潮社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
マンションの耐震偽装、ライブドア事件、鳥インフルエンザや狂牛病の隠蔽…。「自らの職責をまっとうする、嘘はつかない、卑怯なことはしない」。幼いときに家庭教育でたたき込まれてきたはずの日本人の基本的な美意識、精神性が壊れている、と感じるのは評者だけではないだろう。
数学者である著者は「数学は美」と言う。数学は突き詰めていけば、哲学に通じる。かつて金銭に執着し、精神性に欠けた拝金主義者は「成金」と呼ばれてさげすまれた。現在は法違反すれすれの手法であっても金儲けしたものが勝ち組、若者たちの尊敬を集める。そこには精神性も美意識もない。悪しき「アメリカン・スタンダード」の影響であることは論を待たない。欧州ではいまだに「持てるものの果たすべき義務」「ノブレス・オブリッジ」の意識が生きているという。元来日本にあったはずの美意識=精神性を取り戻すことこそ、本当の国際化であろう。
| <このくらいは知っておきたい> 図解でわかる投資ファンド | |
![]() | 今田 栄司 日本実業出版社 2006-01-19 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ここ数年の間ですっかり人口に膾炙した感のある「投資ファンド」。一役買ったのは一連のテレビ局買収騒動でキーマンとなった村上ファンドだろう。ただ投資ファンドはこうしたマスコミを賑わす派手なことばかりやっているわけではない。日常の生活や様々なビジネスシーンで活躍している。筆者は「投資ファンドとは何か」から始まり、なかなかとらえ難いその全容まで素人にも分かりやすい筆致で描き出している。
身近なところだと、彼らは分譲マンションを一棟買いして賃貸収益を得たりしている。投資ファンドが大家さんというケースも増えそうだ。また国内ゴルフ場にも積極的に投資し、今では国内2400コースの1割は投資ファンドの所有・経営だ。興味深いのは主役であるファンドマネジャーの報酬。運用リターン次第では莫大な年収が実現できる。世界トップのマネジャーは年収1000億円を超える。MBAホルダーがこぞって志望するゆえんだ。
| フリーター漂流 | |
![]() | 松宮 健一 旬報社 2006-01 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
景気回復がいわれ、失業率も改善していると喧伝される日本社会。だが景気回復はあくまで局所的なものであり、地方経済はまだまだ低迷を続ける。同様に雇用の実情も正社員の門は依然として閉ざされ、不安定雇用に追い込まれるフリーターの数は増加の一途だ。
本書はそうしたフリーターと彼らを「活用」する企業の実態を生々しく描き出したNHKスペシャル「フリーター漂流」に、新たに6名のフリーターを追加取材してまとめた一作だ。
非正規雇用の現場の実態は、今もなお闇につつまれている。本書でも「ことごとく取材を断られた」とあるように、商品イメージの悪化をおそれる大手メーカーは、フリーター活用の事実をひた隠しにする。フリーターをメーカーに送り込む業務請負会社は業界挙げて口を閉ざす。そのガードを突破しフリーター一人ひとりの生身の声を拾い挙げた本書の功績は大きい。小泉政権が作り出した「格差社会」の現実がここにある。
| リーダーの英語 | |
![]() | 鶴田 知佳子 柴田 真一 コスモピア 2006-01-26 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
聴衆をうならすスピーチで知られたのが、ジョン・F・ケネディ。ベルリンが封鎖されて間もない1963年。“Let them come to Berlin.”西ベルリンに降り立ったケネディは、「その人たちをベルリンに来させなさい」と叫んだ。演台をたたきながら、英語で4回、ドイツ語で1回。マルクス主義を支持する西側の一部知識人も、「ベルリンの現実を見よ」ということである。言いたいことを何度も繰り返すのが上手なスピーチ。さらにケネディはこのとき、それぞれの単語の最初のほうにアクセントを置く。「タ・タ・タ・タタ」という独特のリズムで聴衆の心をつかんだ。
意外だが、欧米社会では重要なメッセージほど口頭で伝えられるとのこと。内容から話し方まで徹底的に考え抜かれた「リーダーの英語」は、海外企業を相手にするビジネスマンにとって、宝の山である。同時通訳の第一人者と本誌連載『経済ニュースを読む英語』の筆者による英語学習書。
| ある日、―One Day,Under The Same Sun | |
![]() | 菱田 雄介 PLACE M 2006-01 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一枚の写真が世界を変える。そういわれた時代があった。湾岸戦争で油まみれになった水鳥はショッキングなものだったが、その後映像が情報操作されていたことが発覚して写真報道への不信は決定的となる。
写真一枚ですべてを語ることはできるのか。真実は伝えられるものか。これはそのような時代でも「歴史に立ち会いたい」と願う若い写真家によるフォトエッセイ集だ。
著者は普段は民放テレビ局に勤務する情報番組のディレクター。仕事で国内外の事件やイベントを取材し、一方写真家として世界に関心をいだきあちこちに私的な撮影行を続けている。
本書は21世紀初頭の三つの大事件の現場を軸にしている。9・11直後のニューヨーク。その報復後のタリバンなきアフガニスタン。イラク戦争直前のバグダッドとイラク各地。それらは当時連日報じられて茶の間をくぎ付けにした場所だった。
ただここには緊迫した戦闘やテロの犠牲者、悲惨な難民の姿はない。そんなステレオタイプな紛争地のイメージを忌避するかのように、はざまで生きる人びとの日常が切り撮られている。そのまなざしはジャーナリストというよりは旅人のそれだろう。
ユニークな点は係争地ではない国々と、タマちゃん騒ぎの多摩川や親族の葬儀のカットが挿入されていることだ。
地球上で起きている出来事にヒエラルキーはない。メディアが過熱する場所も自身の日々も同じ時の瞬間のなかにある。事の真実はうつろうもので、写真はその刹那をとらえられるか。そんな呟きが聞えるようだ。世界と日常をトランスする新しいドキュメントフォトの試みだろう。【評者 写真家 中川道夫】
| 霞ヶ関構造改革・プロジェクトK | |
![]() | 新しい霞ヶ関を創る若手の会 東洋経済新報社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
政策形成プロセスは、地殻変動の中にある。小泉総理の下でトップダウンの政策決定が具現化しているし、経済財政諮問会議等を通してプロセスの透明化が進んでいる。私は、2002年4月に大学から内閣府に入り、諮問会議の仕事をしたが、05年8月に退官するまでの3年半は、大きな変革期を実感する日々だった。
政権交代後は元に戻ってしまうのではと懸念する声もあるが、この地殻変動はそう簡単に終わらないのではないか。政策の明確なメッセージや、オープンな議論に慣れた国民は、容易に元に戻ることは許さないだろう。また、霞ヶ関の官僚も徐々にだが、確実に変わりつつある。
その証左の一つが、本書である。31歳から32歳の若手官僚が、法務省を除く1府9省から自発的に集まり、議論を重ね、具体的で前向きな霞ヶ関改革案を「実名」で発表した本書は、変化の始まりを予感させる。
著者たちは、「内からの改革のため」に霞ヶ関に飛び込んだ。そして、10年の勤務を経て指摘する問題は、実に的を射ている。
最大の問題点は、「国民全体のため」という視点の欠如と、霞ヶ関の“商品”である政策の質の低さだと、著者たちは指摘する。まさに同感である。政策は、族議員や業界の声と、財務省・総務省など予算査定をする役所への通りやすさを勘案して立案され、国益というより各省・各局の縄張りを侵さないように、かつ可能な限り自分の省や局や課の都合のよいように字句修正を図っている、と。
本書では、これらの問題に対し、組織、人事制度、業務の各面で具体的な提案を行っている。その中心は、総合戦略を策定する組織として、官邸に「総合戦略本部」を創設し、専門家を含め独自採用するというものだ。
著者たちの提案を評価しつつも、いまひとつ説得力に欠けると感じるのは、提案を実現させるための運びが見えにくいからだろう。決定機関ではなく、非常勤の民間議員を置く経済財政諮問会議ですら、与党からの風圧は大きい。政策決定に力を持てば持つほど、ましてその権限が法律上確保されればなおさら、国会同意を得ることは難しくなる。また、与党と霞ヶ関は一面で利害を共有するから、たとえ各省の出向者を排除しても、与党の実力者を通しての圧力は常に存在するだろう。
しかし、改革案に対して、「実現が難しい」ことの理由を挙げるのは容易だ。重要なことは、改革の方向性を見失わず、忍耐強く現実に働きかける努力である。著者たちが、この変革期にあって、霞ヶ関の内側からの改革者であり続けてほしいと心から思う。【評者 太田弘子 政策研究大学院大学教授】
| 闘う皇族 ある宮家の三代 | |
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政府は今国会に「女性・女系天皇容認」の皇室典範改正案を提出する。ところが、皇族の一人が「拙速」と批判して男系堅持を唱えるなど、議論が沸き起こっている。根底にあるのは天皇制維持と皇位継承者確保の問題だが、そこを考える上でも、本書は示唆に富み、意義深い。
著者は出版社勤務のベテラン編集者だが、皇室や皇族、旧華族制度の研究では隠れた第一人者で、関係の著書も多い。この本では昭和天皇の皇后(香淳皇后)の実家の久邇宮家を取り上げ、香淳皇后の兄と父と祖父の三代の実像をあぶり出した。
『闘う皇族』は何を相手にどう闘ったのか。たとえば父邦彦王は、宮家の地位と皇族の特権の拡大・確保のために「元老、総理大臣、宮中首脳、そして、皇后の意思にさえさからって自分の主張を押し通し、そのためには政治家やいかがわしい人間たちの力を借り」(第8章)という闘いぶりを示したのだ。
著者はまず昭和天皇の結婚をめぐる「宮中某重大事件」の真相を解き明かしながら(この部分では歴史ミステリーを読む面白さが味わえる)、香淳皇后の父の野心と執念を追跡し、「不良少年」といわれた兄の奔放すぎる行状にも触れ、ひるがえって祖父の幕末・維新期の波乱に満ちた生涯を通して「闘う皇族」のルーツを描いている。
関係者の日記など膨大な一級資料に丹念に当たり、歴史の闇に分け入る。一方に偏しない客観的な視点にこだわる姿勢が真実解明の信用力を高めている。独特の世界の物語だが、簡明な表現も門外漢にはありがたい。
「タイムリーな皇室物」というよりもスケールの大きい歴史ノンフィクションとして読み応えがある。同時に、安易な皇族拡大がどんな弊害を生むのか、歴史が雄弁に物語っていることを、この本は教えてくれる。【評者 塩田潮 ノンフィクション作家】
| ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実 | |
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武田薬品工業と米アボット社が折半出資する米TAP社は、1990年代に米国で不正販売を行い、民事・刑事合わせて8億7500万・を支払った。前立腺ガンの治療薬で医師に薬価差益がもたらされるように医療保険組織にウソの請求をしていたのだ。
これは当時日本でも報じられた。もっとも武田やアボットがとりたててコンプライアンスに欠けていたわけではない。どの製薬会社も大なり小なり同じような前科がある。
誰でも、新薬の承認は厳正な科学的な審査に基づいて行われていると思っている。ところが実際はそうでもない。ファイザー社のコレステロール低下薬は臨床試験でライバル薬より優れた効き目があったとする結果が出たが、それはファイザーの薬が、用量を多量にしてあっただけのことだった。こうしたやり方を米食品医薬品局は容認し、あまつさえファイザー社はライバル薬より優れていると宣伝している。臨床試験では、効果の劣る治療法と比較する、都合のいいデータだけを示すことなどが横行しているのだ。
製薬会社は大学や国立研究所のスポンサーとなり、学会の研究デザインの決定、データの解析、研究結果を公表するかまで口出しする。ワシントンには、138の事務所に675人のロビイストがいて、その費用として9100万・が投じられている。選挙では巨額の資金を提供し、政策に強い影響力を及ぼしている。
本書を読むと、医学がカネによってねじ曲げられている実状を知り、暗澹たる気持ちになる。
著者は、米国で最も権威ある医学雑誌『ニューイングランド医学雑誌』の編集長だった女性医師。医学界と製薬業界に巣くう病理を正確に丹念に描き出した。広く読まれてほしい本だ。【評者 長谷川隆】
| 経済論戦―いま何が問われているのか | |
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日銀はゼロ金利、量的緩和手段によってデフレ解消に近づいたかに見える。しかし、金利を操作する中央銀行固有の金融政策が取れなくなってしまっているし、「構造改革なくして景気回復はない」と宣言してきた小泉首相だが、景気回復の実態は「自律的回復」によるものだ。それでは構造改革とは何だったのか。
本書は、バブル崩壊以降の日本経済のさまざまな処方箋をめぐって繰り広げられたエコノミストたちの政策論争をまとめたもの。郵政民営化は何のためか、不良債権問題とは何か、金融政策の効果はなくなったのか、財政再建は必要なのか、構造改革とは、などの論点を整理して今後を展望している。「政策や景気論争は論理的整合性だけでは決着がつかず、現実そのものが勝敗を決める」(筆者)としても、本書はその論争のポイントがよく整理されているので、論戦への知的刺激を改めてかき立ててくれる好著だ。筆者は東京新聞のベテラン論説委員。
| 国家破綻はありえない | |
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筆者は不動産・建設担当のアナリストとして知られている。2004年に刊行された『高度経済成長は復活できる』(文春新書)は、大きな話題を集めた。本書はその第2弾というべき本である。金融危機、デフレ時代に跋扈したのが、浅井隆氏に代表される「経済破綻本」だった。そうした本の要旨は、日本経済が財政破綻に向かい、インフレが起こり、最終的には国家破綻に追い込まれるという内容だった。そうした破綻本、危機本をしっかりしたマクロ経済学の知識と優れたアナリストとしての分析力で論破している。表現はわかりやすく読みやすい。
著者は小泉首相の構造改革を高く評価する。小泉首相の構造改革で不効率な公共投資が削減され、資本と労働力を無理やり生産性の低い部門に張り付ける田中角栄型の「社会主義」が終わり、日本経済の復活が始まったと評価する。今後、名目成長率が高まれば、財政赤字も恐れることはないという見解である。
| 忘れさせられたアンダルシア―あるアナキストの生と死 | |
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南スペイン・アンダルシア、フラメンコと闘牛の揺籃の地。ドン・ファンやカルメンが闊歩した地。だが、何世紀も大土地所有制を温存してきたために、大部分の農民は極貧の状態に置かれていたのだった。その貧しさの故に、アナキズム運動がしっかりと根を下ろした。これは、緩慢な経済的変革から社会的変革を説くマルクス主義的教義より、貧しい農民らの想像力を揺り動かし、いわゆる「プエブロ(村)」運動へと駆り立てたのであった。
もちろん、官憲による厳しい弾圧も覚悟のうえであった。この本は国民が二つに分かれて熾烈な戦いを繰り広げたスペイン内戦(1936~39年)期のアナキスト活動家で、作家のディエゴ・ロドリーゲス・バルポーサの波乱の生涯を扱っている。
この本のタイトルがまさに語っているように、実に長い間封印されてきた彼の殺害の事実が、今ようやく白日のもとにさらされたのであった。
| セックス レスキュー | |
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ショッキングな本である。日本人の年間セックス回数(もちろん夫婦間)は世界でも最下位。コンドームメーカーのデュレックス社の調査によると日本人の年間平均は46回。1位のフランスは137回だった。えっ、年間46回もしていない、という男性もいるかもしれない。世界標準と比べると日本はセックス小国なのだ。長い間、夫婦間の関係がないセックスレスも大きな話題になっている。日本のサラリーマンは働き過ぎで疲れているのか、妻にときめきを感じていないのか。
セックスレスの夫婦関係で追いつめられた妻たちを助けるのは、男性のボランティア「セックスレスキュー隊」である。「性の奉仕隊」を利用した渡辺さん(仮名)は、「悪いことをしている気がしない。夫がしてくれないのだから、しょうがない」と語る。われわれが知らない世界を紹介する。著者は『ニューズウィーク日本版』の編集部員である。

















