メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年12月9日~12月16日

誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか
誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのかジョージ・エインズリー 山形 浩生

NTT出版 2006-08-30
売り上げランキング : 2173

おすすめ平均 star
starわかりやすい
star凄い理論です

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双曲線的割引理論に基づく新しい経済学の提唱

人はお酒の飲みすぎやダイエット中の過食など後で悔やむことになる行為を日常的に行っているだろう。しかし経済学の辞書には後悔の文字はない。なぜなら彼(彼女)の選択は、利用できるすべての情報をもとに合理的な決定として行われているので、そこには後悔を生み出すような意志の弱さが入り込む余地がないからだ。経済学は合理的経済人を仮定しているので、暴飲暴食や麻薬の摂取、返済する見込みのない借金などの行為を説明する際には、情報の不完全性や、または合理性の基準を弱めることなどでなんとか、これらの現象を説明してきた。

しかし本書では、目先の小さな欲望にとらわれて将来の利益を損なうことこそが、人間の本来の姿であるという。例えば、禁煙中なのに「この一本で最後にしよう」などと理屈をつけて、その行為を重ねることで禁煙自体をおじゃんにしてしまうのが人間の本性だ。この実像を経済学に全面的に取り入れたのが本書の特色であり、経済学のパラダイムを変換する可能性に満ちた野心的な著作といえよう。

目先の欲望にとらわれてしまう人間の選択を「双曲線的割引」に基づくものとして本書では表現している。しかし双曲線的割引を行うのが普通だったとしたら誰も貯蓄もしなければ、将来の成功のために禁欲的な努力も払わなくなるだろう。

しかし実際には、私たちは意志の力でそれを克服している。誘惑に負けそうになったときに、目先の誘惑(この一杯のお酒の喜び)と近い将来における禁欲の成果(明日の二日酔いの回避)を比較して人間は物事を決めるのではない。さまざまな将来的な利益を加算して現在の誘惑に打ち勝つことを試みているという。「この一杯のお酒か、長期的なアルコール依存症の回避か」「飲みますか、人間やめますか」などという具合に。

従来の経済学とは異なり、合理的な動機以外にも双曲線的割引に基づくさまざまな動機が個人の自我の中でせめぎ合い、その勝負を決めるものこそが意志の強さであることを本書は明らかにしている。しかも合理的な判断がつねに勝者になるわけではない。むしろ感情的な判断こそあたりまえなのである。

だが、他方で長期的な利益を優先した判断を行うこと自体が、将来得ることができる利益の期待値を高めることで、この意志の強さが増強されていく、というフィードバック機構にも著者は注目している。アダム・スミスやジョン・スチュワート・ミルは経済学の基礎に自己の陶冶を置いたが、百年以上の後、現代の経済学はようやくそれを科学的な根拠として採用する途についたといえよう。【評者 田中秀臣 上武大学助教授】

■2006/12/16 週刊東洋経済

超・格差社会アメリカの真実
超・格差社会アメリカの真実小林 由美

日経BP社 2006-09-21
売り上げランキング : 138

おすすめ平均 star
star日米の文化の差を言葉で表現しようとしている本。
starその表紙カバーと題名だと・・・
star明確な視点

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女性アナリストが見た米国社会の現実

たとえば、マークス寿子さんとか、クライン孝子さんといった作家の書き物のように、長い在外経験を踏まえて、日本から見た外国像の偏見と外国から見た日本の問題をともども語るスタイルのエッセーには、かなりの読者がつく。タイトルからはやや意外かもしれないが、本書は、本質的にそういうジャンルに属する本だ。著者は、旧長銀を経て、アメリカに渡り、アナリストとして、四半世紀以上にわたってアメリカにベースをおいて活動してこられたそうだ。すでに日本語でものをお書きになることに、いささかの不自由さえ感じておられるとのことなので、筋金入りといっていいだろう。その著者が書くアメリカ社会論であり、同時に日本社会へ物申すところもある。

本書には、一応、全体を貫く基調のようなものがある。アメリカが、建国の最初から、資産階級と政治権力(しだいにそこに学者も加わっていく)との強い結びつきによって成り立つ堅固な階層社会であったというものである。歴史にも一家言お持ちらしい著者の筆致はなにやらいかめしいが、図表の多くは飾りに近く(端的に判読不能なものもある)、歴史的議論についての出典もないので、お堅い論文としての話ではない。むしろ著者が日々接する人々に取材したと思われる個人史的記述がいちばんの読みどころである。

ともあれ、著者にとってアメリカは問題だらけでも、生きていきやすい社会であるらしい。

現在の日本で喧しく論じられている格差問題が、日本社会のアメリカ化などではなく、むしろ平等志向で息が詰まるような日本社会が、ますます変化の激しい世界についていけなくなっていることの現れでしかないという著者の最後の「つぶやき」に共感される向きには、楽しい読書のひと時が得られよう。【評者 山下範久 北海道大学助教授】

■2006/12/16 週刊東洋経済

大欧州世界を読む
梅津 和郎 (著)

大欧州EU25カ国はどこに行くのか

2004年5月に10カ国の新規加盟で25カ国に拡大した欧州連合(EU)。大欧州世界は、すでに人口では米国をはるかに上回り、経済規模でも匹敵する存在となった。さらに、07年初めにはルーマニア、ブルガリアを新たな加盟国として迎える。トルコ、クロアチア、西バルカン諸国も加盟に意欲を示す。

こうした地域的広がりという「進行」と、欧州憲法条約の否決に象徴される「後退」が交錯、「混沌」としているのが大欧州世界だ。本書のテーマは、大欧州世界とは「何なのか」「何処へ行くのか」を明らかにすることにある。それは同時に、日本の関心はドイツ、フランスなど「古い欧州」に向かい、分析は「EU悲観論者(ユーロペシミスト)」に偏っているとの問題意識を持つ筆者による「欠陥を克服する」試みでもある。

本書がカバーする領域は拡大したEUが内部に抱える制度的・政治的問題に留まらない。EUの「宗教面での同質性」を問うトルコの加盟問題や、ロシアとの関係への配慮が必要なウクライナとのパートナーシップの可能性、さらに対米、対日関係の変化にも言及し、大欧州世界の現状を多角的に捉えている。

06年はユーロ圏経済の活況、ユーロ高の進行で影を潜めたユーロペシミズムは、07年の景気減速が厳しいものともなれば、再び台頭してくるだろう。07年は政治面でもイギリスのブレア首相、フランスのシラク大統領の退任という節目を迎えることになる。

筆者の基本認識は、大欧州世界は「仏独主導の政治偏向運営から経済実態重視の協調運営」に変わりつつあるという前向きなものだ。絶えず変化する大欧州世界を読むのは容易ではないが、今後の展開を見る際の尺度として本書での議論は有用だ。【評者 伊藤さゆり ニッセイ基礎研究所主任研究員】

■2006/12/16 週刊東洋経済

敵対的買収を生き抜く
敵対的買収を生き抜く津田 倫男

文藝春秋 2006-11
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2006年5月に新会社法が施行され、1年間施行が延期された三角合併も07年5月に解禁される。

これにより、日本企業が外国企業により、敵対的買収に遭う可能性が高まっている。本書で紹介されているように外国の大手企業のほうが、売り上げ、利益の規模が大きいうえ、株式の時価総額も圧倒的に大きいので、簡単に買収できる状況にある。

すでに、三角合併の解禁を待たずに、米国の投資ファンドによる日本企業の株式取得や敵対的買収の動きが盛んになっている。

著者によると、純粋な国内産業で買収の可能性が低いと思われている食品や首都圏の地方銀行なども、外資による敵対的買収の対象になるという。

こうした動きに対して、どうすればいいのか。日本企業は敵対的買収に備えて、定款の変更や「ポイズンビル」の導入を進めているが、著者は経営者、従業員が毅然として、対決することが重要だという。

■2006/12/16 週刊東洋経済

山見式PR法~メディアが取り上げたくなる5つの切り口
山見式PR法~メディアが取り上げたくなる5つの切り口山見 博康

翔泳社 2006-09-05
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おすすめ平均 star
starプレスリリース以外の方法
star企業とメディアの良い関係づくりのヒントになる。

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著者は神戸製鋼所で長く広報を担当し、広報部長などを歴任したベテランである。現在は山見バリューインテグレーター(価値統合家)代表取締役。

本書のサブタイトルは、「メディアが取り上げたくなる5つの切り口」で中小・ベンチャー企業のPRコンサルに携わっている著者が、各種メディアに取り上げてもらうための秘策を、企業の成功事例をまじえて具体的に解説する。

中小・ベンチャー企業の情報はその他大勢に埋もれてしまいがち。そこで、ケーススタディで成功事例を紹介している。

序章では、「PR効果で売上げが10倍以上に」――小売り日本一の蚊帳屋になった菊屋を紹介する。

第1章 「1つの商品を5種類の記事に展開する方法」も興味深い。

中小企業がどのようにメディアに接すれば、効果的なPRができるのか。

その道30年のベテラン広報マンがまとめた成功事例集だけに、参考になる。

■2006/12/16 週刊東洋経済

ルネサンス宮廷大全
ルネサンス宮廷大全セルジョ ベルテッリ Sergio Bertelli 川野 美也子

東洋書林 2006-09
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「イタリアで建物を建てたいのなら、建築家を探しにフィレンツェに来るとよい」と述べたのは、1490年代のある著述家である。当時のフィレンツェは、刺激的で独創的な、ヨーロッパでも指折りの建築を誇っていた。なかでもひときわ大胆なのが、ブルネッレスキが設計したフィレンツェ大聖堂の巨大なドームである。それにダ・ヴィンチが加わるのだから、ルネサンスの宮廷建築、あるいは宮廷文化の壮麗さは他の追随を許さない。

当時のイタリアは単一国家ではなかった。独立した小さな都市国家に分裂し、それぞれ独自の宮廷を都市と離れたところに構えた。

権力誇示のため、森の中の宮廷の周囲は、濠や泉池に囲まれ、宮廷の広場には君主の騎馬像が立てられ、政務室には一族の栄華を示す大壁画がかけられた。さらに本書は、人工洞窟、チェスや狩猟、紋章学、占星術など当時の宮廷生活を髣髴させる。そして、お馴染みの宮廷の陰謀も。

■2006/12/16 週刊東洋経済

蒼流の覇者―Know Your Boat 海上自衛隊潜水艦50年/日本の潜水艦100年
蒼流の覇者―Know Your Boat 海上自衛隊潜水艦50年/日本の潜水艦100年柴田 三雄

ジャパンミリタリーレビュー 2006-09
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「沈黙の艦隊」潜水艦の美とは何か

ミリタリーフォトの第一人者柴田三雄が海上自衛隊の潜水艦部隊をとらえたユニークな写真集である。護衛艦とは違い、ふだん潜水艦はその性格上ほとんど目にすることはない。「海の忍者」「鋼鉄の鯨」の主たる棲息域は水中だ。隠密行動こそが潜水艦の存在理由で、柴田は同乗してその現場を目撃した。

兵器というものは敵対する相手を圧倒するための先端科学技術を結集させた破壊マシーンである。しかしその合理的なデザインは極限の美を生み、人びとを魅了することがある。日本刀が人を傷つけるものと知りながらも、そのヒリヒリしたフェテシズムに美を感じることと同じかも知れない。オタク文化発祥の日本には鉄道や航空機ファンとともに軍艦マニアも多い。

しかしそれは連合艦隊の水上艦艇や現代の護衛艦など。世界の海軍では潜水艦はエース的な存在だけれど日本ではマイナーな対象だった。それはなぜか。ドイツやアメリカの潜水艦戦略は戦闘艦との対決を避け輸送船攻撃による通商破壊戦に徹したことだった。日本のそれは戦艦主体の艦隊決戦の先鋒役だったが、思った成果が得られない。不利な戦況にひきずられ、孤島の物資輸送や最後には人間魚雷という自爆戦法にブレまくった。

海自潜水艦は世界最高水準の「おやしお」型をはじめ16隻が任務についている。活動海域は日本海、東シナ海、マリアナ諸島か。本書には長ければ数カ月狭い艦内で寝起きするサブマリーナー達の日常がある。壁の外は深海だ。

そこには水上艦にない独特の連帯感とプライドが宿っている。蒼い海を切り裂く深海の使者の映像に美と破壊のもろ刃のアイテムを想った。【評者 写真家 中川道夫】

■2006/12/16 週刊東洋経済

利益を生み出す主婦パートを育てるすごい方法―パート社員が社長さんに伝授!
鈴木 ゆかり (著), 関 美分 (著)

「3年目社員」が辞める会社辞めない会社―若手流出時代の処方箋
「3年目社員」が辞める会社辞めない会社―若手流出時代の処方箋森田 英一

東洋経済新報社 2006-12
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戦力として育てる方法はあるのか?

すぐ辞めてしまう、仕事を任せられない――これは、パート社員に対する多くの経営者、採用担当者の認識であろう。そんな思いをガラリと変える本が出た。『パート社員が社長さんに伝授! 利益を生み出す主婦パートを育てるすごい方法』(鈴木ゆかり+関美分著)がそうだ。本書の著者はなんとパート社員で、自社の社員育成はもとより、社員教育の研修講師としてもひっぱりだこなのである。

著者の勤務する会社は約40名のパート社員が責任ある仕事をこなしている。しかも家庭・子育て優先。働くお母さんにとってうらやましい環境の職場である。

そのような中で得た採用から育成までの仕組み、ノウハウには説得力がある。

パート社員の育成は決して難しいものでなく、考え方を変えれば、すぐにでも実践できるものなのである。人件費を抑えたい、パート社員を戦力化したいと考える方々は、ぜひご一読を。

若手社員育成に悩む方には『「3年目社員」が辞める会社 辞めない会社』(森田英一著)がおすすめだ。

■2006/12/16 週刊東洋経済

【東洋経済新報社からの近刊本】

■12月4日発売

日本経済の明日を読む〈2007〉
日本経済の明日を読む〈2007〉みずほ総合研究所

東洋経済新報社 2006-12
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定年まで逃げ切る英語術―元・外資系人事部長が教える勉強法
定年まで逃げ切る英語術―元・外資系人事部長が教える勉強法梅森 浩一

東洋経済新報社 2006-12
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レバレッジ・リーディング
レバレッジ・リーディング本田 直之

東洋経済新報社 2006-12-01
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おすすめ平均 star
star特に目新しいものは・・・
star読書はビジネスの実践で活かすためのもの
star宝は目の前にあった。

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図解 これだけでわかる日本の金融
図解 これだけでわかる日本の金融家森 信善

東洋経済新報社 2006-12
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証券投資の思想革命―ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たち
証券投資の思想革命―ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たちピーター・L. バーンスタイン Peter L. Bernstein 青山 譲

東洋経済新報社 2006-12
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TIME HACKS!
TIME HACKS!小山 龍介

東洋経済新報社 2006-12-01
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■12月11日発売

「3年目社員」が辞める会社辞めない会社―若手流出時代の処方箋
「3年目社員」が辞める会社辞めない会社―若手流出時代の処方箋森田 英一

東洋経済新報社 2006-12
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利益を生み出す主婦パートを育てるすごい方法―パート社員が社長さんに伝授!
鈴木 ゆかり (著), 関 美分 (著)

ファーストステップ会計学―図解と実例で会計を本質的に理解する
ファーストステップ会計学―図解と実例で会計を本質的に理解する寺田 誠一

東洋経済新報社 2006-12
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全社的リスクマネジメント (適用技法篇)
全社的リスクマネジメント (適用技法篇)八田 進二

東洋経済新報社 2006-12
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少子化の経済分析
高山 憲之 (編さん), 斎藤 修 (編さん)

仕事が10倍速くなる最強の図解術
仕事が10倍速くなる最強の図解術開米 瑞浩

東洋経済新報社 2006-12
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■12月18日発売

ねばちっこい経営 粘り強い「人と組織」をつくる技術
ねばちっこい経営 粘り強い「人と組織」をつくる技術遠藤 功

東洋経済新報社 2006-12-15
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■2006/12/16 週刊東洋経済

インテルの戦略―企業変貌を実現した戦略形成プロセス
インテルの戦略―企業変貌を実現した戦略形成プロセスロバート・A.バーゲルマン 石橋 善一郎 宇田 理

ダイヤモンド社 2006-09-29
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インテルの戦略と強さを余すことなく解明

IAA(インテル・アーキテクチャ・アソーシエイション)という組織があった。国内の数十社を集めて、米国のIAL(インテル・アーキテクチャ研究所)の技術の普及・啓蒙を目指した組織で非公開であった。

IAAについてはインテル株式会社元社長の傳田信行氏の近著『世界標準で考える 僕がインテルでやってきたこと』(あさ出版)に出ている。私はIAAの立ち上げから解散まで約7年間、IAAの相談役会長として運営に当たった。だからインテルの戦略について多少は知っていたが、しかし厚い機密のベールに囲まれたインテルのことゆえ、よく分からないことも多かった。

本書はインテル会長アンディ・グローブと協力して、インテルの歴史をたどり、戦略論と組織論の立場から、洞察と教訓を引き出そうとしたものである。

バーゲルマンの方法論は多少教条的なぎごちなさを感じさせる。理論に合わなければ現実が間違っているといわんばかりだ。しかし、我慢して読めば、多くのインタビューの積み重ねから抽出された歴史的技術の記述には「ああ、あれは、そういうことだったのか」と納得させられることが多い。

たとえば第9章「戦略の硬直化」で取り上げられているビデオ会議システムとホーム・パソコンの件。当時は、なぜインテルがこんなことをやるのかと首をひねったものだが、本書で内部の歴史的事情を知ると、そういうことだったのかと合点させられる。

またアンディ・グローブはインテル内部に絶対的な権力を持っていて、インテルは一枚岩の組織のような印象を与えたものだが、実際には現場のマネジャーは、トップの命令や決定に盲目的に従ってはいなかったようである。独断で事業を始めたり、撤収と決まった事業を何年も存続させていたりしたことがいくつもあったことに驚かされる。

さらにインテルにとってIBMはいかに大きな存在であったかと思い知らされる。IBMがもう少し柔軟な戦略を持っていたら、世界は別の方向に行っていたかもしれないと思わせる。

インテルが1999年ごろシスコの買収を検討していたことも証言から明らかにされる。

通読すると、いかにも確固たる戦略を持っていたように見えるインテルだが、実はそれほどでもなく、むしろ場当たり的にやっていて、何となく僥倖に支えられて、うまくいってしまったのだと感じさせられる。

なお原著の出版は2001年だが、著者が後半3章分を加筆改定して05年までアップ・ツー・デートなものにしている。陳腐化を恐れず購入してよい。【評者 脇英世 東京電機大学教授】

■2006/12/9, 週刊東洋経済

三洋電機 井植敏の告白
三洋電機 井植敏の告白大西 康之

日経BP社 2006-11
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「失敗の教訓」が詰まった迫真のドキュメント

知人の経営者によると、経営者がいちばん欲しい情報は、「成功と失敗の教訓」だそうで、特に「失敗の教訓」は、「蜜の味」がするという。日経ビジネス誌の連載コラム「敗軍の将、兵を語る」が人気を集めているのも、こうした理由からだろう。

本書は、日経ビジネス誌に連載された「三洋電機・井植敏の告白」を大幅に加筆して、つくられた。三洋電機がなぜ没落したのか。「失敗の教訓」が詰まっている。

企業は人なりというが、企業の運命は経営者の資質で決まる。あれほど、強さを讃えられた松下電器でさえ、最後まで経営の采配を振るった松下幸之助がいなくなると、烏合の衆と化し、幸之助没後10年にして、大規模なリストラに追い込まれたことは記憶に新しい。

三洋電機の不運は、経営のひらめき、商品開発のカン、人を魅了する力、体力、実行力では、松下幸之助をしのぐ天才経営者・井植歳男が1969年に、66歳というまだこれからという年齢で亡くなったことだ。

三洋電機の二番目の不運は、松下幸之助と歳男から直々薫陶を受けた厳しい経営者・薫(歳男の弟)が、85年に起きた石油ファンヒーター中毒死事件で、退任を余儀なくされ、歳男の長男・敏に社長の座を譲ったことだ。

本書を読むと、ビッグビジネスが偶然や事件・事故に大きく左右される脆い存在であることに、あらためて驚かされる。

薫の後、2005年に経営危機が表面化して会長の座を降りるまで20年間、敏は社長、会長と役職名は変わっても、実質的な最高権力者として、三洋電機に君臨する。驚くことに三洋電機の存亡が議論されている昨年、長男の敏雅を社長に据えて世襲を強行する。さらに、敏雅の補佐として、元キャスターの野中ともよを会長・CEOに据える。

野中ともよを世襲批判の「弾よけ」「操り人形」にするという才覚からではなく、敏は、野中の能力を本当に信じ込んだ、という。野中も、「本気で三洋電機を再建し名経営者として名を成したかった」という。だが、野中は子育てを理由に月1、2回しか大阪の本社に行かない。

敏、ともよの勘違いには読者もあぜんとするだろう。

敏は三洋電機クレジットを育て、「浪速のGEキャピタル」「浪速のウェルチ」を自負した。三洋電機クレジットは融資で不良債権のヤマを築きながらも、連結業績に貢献したが、それ以外の投資の多くが失敗する。

投資が冷徹な判断ではなく、敏の好みや情実によって行われたことが記述される。

メインバンクの住友銀行に恩を売り、妻の妹の嫁ぎ先である紀陽銀行頭取を助けるために購入した和歌山県の大規模宅地開発地。三洋電機の担当者が、住友銀行に支援を求めに行くと、「そちらの責任で投資されたのでしょう」と追い返される。

バブル期以降の銀行は「悪魔」になった。人のよい創業家を食い物にするのは造作もない。

本書の後半では、松下家の資産管理会社・松下興産が、バブル期に住友銀行などから勧められた不動産投資で清算に追い込まれる顛末も記述している。

三洋電機は過小評価されている企業である。製品の多くが海外向けOEM生産で目立たないが、デジタルカメラでは、最近まで生産台数で世界一のメーカーだったし、「デジカメ」という呼称は三洋電機の登録商標である。二次電池では世界有数のメーカーであり、液晶、半導体などデジタル製品の要素技術も持っている。投資の方向や規模、タイミングを間違えなければ、シャープなど足元に寄せつけない企業になっていただろう。

本書では、アップル社のiPodの原型となる商品は実は三洋電機が開発し、アップル社に持ち込んだものだ(結局採用はされなかったが)というエピソードも出てくる。

松下電器も「世襲」の危機に陥ったことがある。松下正治を支持する勢力が、正治の長男を実権ある地位につけようとした時、山下俊彦元社長などのOBが「松下が潰れる」と体を張って阻止したことは記憶に新しい。三洋電機の場合、元社長や幹部の多くが、婚姻により、井植家の血脈に組み入れられていた。「嫡流」に逆らえなかったことが、最大の不運だろう。

■2006/12/9, 週刊東洋経済

金融自由化と金融政策・銀行行動
金融自由化と金融政策・銀行行動斉藤 美彦

日本経済評論社 2006-09
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銀行とは何か、金融政策と銀行の本質を論証

本書は、金融自由化やバブルとの関連において、1980年代以降の金融政策と銀行経営を論じる。最近は、ゲームの理論やオプション理論などを派手に展開しないと金融の論考ではないかのごとき雰囲気がある。本書は、著者が大学のみならず全銀協や証券経済研究所で長年にわたり、伝統的手法で地道に積み重ねた研究成果である。私の世代の人間が本書を読んで、六本木の洋菓子ではなく、老舗の和菓子を味わうような安心感を抱いても不思議ではない。

金融政策を巡っては、90年代以降延々とした論争があった。「ベースマネーを供給すればマネーサプライが増加するか否か」という論議は、実のところ専門家が揚げ足を取り合っているように見え、一般人には近づき難かった。本書の一つの特色は、この論争の根源を「標準的な金融論」と「日銀理論」の対立に求め、詳しく論じているところにある。銀行とは「預金を集めて貸し出す企業」ではなく、「貸出により預金を創造する企業」である、といわれるとがぜん面白くなる。本書は「通説的見解」を否定し、貨幣供給は民間の資金需要に応じて銀行が貸出を行うことにより内生的になされているとする。

著者は「通説は頑強であり、その壁は思いのほか厚い」と嘆くが、私はこれを読んで比較的すんなり「日銀理論」を理解できた。今までの論争はあまりにも当事者本位で展開されたため、一般人の理解を得る努力が不足していたのではないか。ノーベル賞受賞者スティグリッツ教授も「新しい金融論」において、銀行は単なる金融仲介機関ではなく、信用連鎖の中核である銀行は信用創造によって経済全体に大きな影響を及ぼす、というマクロ経済モデルを提示している。「日銀理論」は案外「新しい金融論」なのではないか。【評者 西村吉正 早稲田大学教授】

■2006/12/9, 週刊東洋経済

核武装なき「改憲」は国を滅ぼす
核武装なき「改憲」は国を滅ぼす片岡 鉄哉

ビジネス社 2006-10
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おすすめ平均 star
star安倍内閣への大いなる期待
starラディカルな改憲論

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安倍晋三首相は祖父岸信介元首相が果たせなかった憲法改正を胸に秘しているといわれるが、著者は日本が米国の保護国から自立して、同時に中国、北朝鮮の核に対抗して、アジアで名誉ある地位を占めたいのなら、同時に核兵器を保有することが不可欠だという。

著者はスタンフォード大学フーバー研究所元上席研究員。著者によると、米国は、ニクソン大統領の時代に、日本に核武装を進言したという。米国の力の衰え、中国の核武装を背景に日本と世界政治の役割を分担するためには、日本の核武装が必要だと判断したから、という。

ところが、岸の弟・佐藤栄作元首相は、この提案を拒否した。戦後の非武装・経済大国を目指した吉田ドクトリンが、このころには日本人の「本音」になっていたからだという。

著者によれば、ブッシュ大統領の任期の2008年までが、北朝鮮に対抗して、日本が核武装する最後のチャンスだという。

■2006/12/9, 週刊東洋経済

永井荷風という生き方
永井荷風という生き方松本 哉

集英社 2006-10
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永井荷風の玉の井を舞台にした『墨東綺譚』を読んで、そのとおりに人力車を走らせた読者がいた、という笑い話のようなことを以前読んだことがあった。

「市中の散歩は子供の頃から好きであった」と言っているように、荷風は小説や随筆を書くための取材というよりも、そもそも散歩が好きでたまらないという人のようである。

したがって、彼の作品には散歩から得られる風景描写が意外と多いのである。

本書は、荷風が満38歳から79歳で亡くなる前日まで、実に42年間にわたって毎日書き続けた日誌『断腸亭日乗』を中心に、荷風ならではの女性観、気ままな老い、ユニークな食事風景、風流な主治医、反抗精神の裏表、そして辛らつな文明批評などを、紹介している。作家の裏面、あるいは当時の社会風俗、とりわけ性風俗を知るうえでも格好の材料である。荷風は、戦時中、この日誌を「外出の際には下駄箱の中に隠したりした」という。

■2006/12/9, 週刊東洋経済

天皇家の宿題
天皇家の宿題岩井 克己

朝日新聞社 2006-10
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おすすめ平均 star
star憲法と伝統の裂け目を見つめる
starバカ本の典型
star報道担当者から見た天皇家

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著者に聞く 『天皇家の宿題』(朝日新聞社)を書いた朝日新聞編集委員(皇室担当) 岩井克己さん

「菊のカーテン」の向こう側を知る

――皇室記者歴20年の現役記者は岩井さんだけですね。

私が担当し始めた時には二十数年間、皇室取材一本という記者がゴロゴロいたものです。継続的に見ないと情報が入らないし、山とある基本文献を読み、皇室の歴史を把握するのには時間が必要です。

私も当初は1~2年で替わるつもりでいましたが、取材を進めるうちに、皇室とは総合社会科学であり、究極のイメージ産業、つまり社会そのものを映していると考えるに至り、ライフワークにしようと腹を決めました。

――皇室取材は独特なものがありますね。

最近は以前よりも難しくなりました。というのも、今は皇室も職員も皆きまじめ。演出が出来る“タヌキ”がいなくなったことで、かえって国民に皇室の方々の実態が届かなくなったきらいがあります。

――天皇、皇后両陛下の独自スタイルへの評価と同時に、公務の拡大等には懸念を示していますね。

昭和天皇は先の大戦での経験もあってか、自らを徹底して縛り、自制的に振る舞っていたと思います。対して今上天皇は政治的に踏み込んだ発言や公務の拡大を行うなど、時に憲法の定める象徴天皇のあり方を逸脱しないかとはらはらすることもあります。

もちろん天皇は善意で一生懸命、ストイックに自らの務めを果たしたいとお考えなのでしょう。ただ象徴が「面差し」を持つようになってはいけません。あくまで鏡のような存在でないと、何かあったときに足元をすくわれかねません。日本の天皇は欧州の王室とは異なります。歌舞伎は歌舞伎、すしはすし、そして天皇はあくまで天皇です。エンペラーやキングではない。祭祀王という文化的・伝統的存在としての側面も忘れられてはならないと思います。

――皇太子ご夫妻への指摘は相当踏み込んでいますね。

ご自分たちが天皇家の歴史、象徴としてのあり方と未来に関してどう考えておられるのかが見えてきません。それがはっきり見えないまま、自己実現や大向こうに受けることばかりを意識されるようになると、政治利用されることにもつながりかねません。

――皇室典範改正の議論が盛り上がった折、朝日新聞の社説とは異なり、女系・女性天皇を認めるのは時期尚早だと書きました。

私は決して男系絶対維持派というわけではありませんが、皇居のお堀の内側で取材していると、こんな荒っぽい議論での拙速は慎むべきとの思いを強くしました。

当時の小泉首相が自らの思想を積み上げて、歴史を踏まえて「やるべき」と腹を固めた形跡は見えません。官邸、宮内庁が「内閣が安定している今こそ皇位継承の枠を広げるチャンスだ」と踏んだのでしょう。それにしても紀子様のご懐妊がなければあのまま改正が進み、国論が割れたことは間違いありません。

安倍首相はしばらくこの問題には手をつけないでしょう。突き詰めると必ず意見が四分五裂して「政局」となりかねないためです。それは女系・女性天皇を認めるとなると、「そもそも皇室はなぜ必要なのか」という問題に必ずぶち当たるためです。

いわい・かつみ
朝日新聞編集委員(皇室担当)。1947年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。北海道報道部、東京本社社会部などを経て、94年から現職。「『紀宮さま、婚約内定』の特報」で2005年度新聞協会賞受賞。

■2006/12/9, 週刊東洋経済

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