メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年11月11日~11月18日

「小さな政府」を問いなおす
「小さな政府」を問いなおす岩田 規久男

筑摩書房 2006-09
売り上げランキング : 14243

おすすめ平均 star
star日本の財政政策 処方箋
star「新自由主義」への信条表明
star期待はずれ

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

構造改革と金融政策を両輪に「小さな政府」実現を

小さくて効率的な政府の実現が重要課題となっている。しかし、小さな政府は民ができないことまで民に任せ、個人間や地域間の格差を拡大するという批判もある。本書は、「小さな政府」の光と影を、明らかにしようとする。

何をもって、政府の大きい、小さいが決まるのか。政府支出は重要だが、本来は、政府が民間の私的な活動にどれだけ介入しているかであると指摘する。

戦後のイギリスを見ると、保守党は産業の国有化には反対だったが、完全雇用の追求と社会保障の充実については、労働党と変わらなかった。

日本の政府は、高度成長期の終わりから、大きくなった。社会保障関係費は1970年代以降、膨張を続ける。さらに、地域格差縮小のための公共事業の拡大、様々な弱者保護政策が行われた。

しかし、イギリスでは、70年代の不況とインフレの並存、すなわちスタグフレーションが生じるに及んで風向きは変わり始めた。サッチャー政権が登場し、過激な労働組合の力を抑え、国有企業を民営化し、規制を緩和し、最高税率を引き下げた。イギリスの所得分配は不平等化したが、絶対的貧困レベルにある人の割合は減少している。すなわち、貧しい人も豊かになったという。

スウェーデンは、イギリス以上の福祉国家を建設した。ただし、スウェーデンの政府の支出は家計や地方への移転支出で、公共投資はGDPの2%しかない。民間企業には介入しなかった。生産性の高い企業は賃金を上げたが、生産性の低い企業も賃金を引き上げることを要求された。その結果生まれる失業を、政府が雇用を拡大することによって防いだ。しかし、所得税が高く、賃金格差が小さいので、努力して技術を身につける誘因が小さい。80年代以降、成長率が低下した。スウェーデンも、減税を中心とした改革に進む。

日本も80年代以降、小さな政府のための改革に進む。橋本内閣時代の改革が大きく、小泉内閣時代に改革はあまり進んでいないという意外な事実が説得的に述べられる。格差の拡大は、不況で非正規社員が増えたことで、不況は金融政策の失敗が原因だから、小泉改革とは関係がないという。結論としてどうすれば良いのか。規制緩和によって生産性が高まると、供給能力は増大する。このとき、供給能力の増大に見合って需要も増えなければ雇用は増えない。金融政策によってマクロの需要を管理することが大事で、構造改革と金融政策が車の両輪となることが重要だ。それは、イギリスから得られる教訓でもあるという。意外性にも富む見事な本。【評者 原田泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2006/11/11, 週刊東洋経済

黒澤明vs.ハリウッド―『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて
田草川 弘 (著)

天才・黒澤明監督はなぜハリウッドで挫折したのか

1970年、真珠湾攻撃をテーマとする日米合作映画『トラ・トラ・トラ!』が封切られた。だが、その3年前東京で開かれた制作発表会において、「この映画を見たら、真珠湾攻撃は騙まし討ちだ、なんてもう誰にも言わせない」と明言した日本側の総監督黒澤明の名前が消えていた。実はこの映画制作中に、黒澤監督が解任されていたのだった。

この本は黒澤監督解任の真相に迫る。ハリウッド側は、大ヒットした戦争映画『史上最大の作戦』のようなスペクタル映画にしたいと主張するが、黒澤は、連合艦隊司令長官山本五十六の苦悩を最大の悲劇とみなし、これを『平家物語』のように描きたいと構想する。

ことほどさように、当初からハリウッドの合理主義と黒澤の芸術主義との対立がはっきりしていた。黒澤は27回にも及ぶ脚本の書き直しの末、「百年や二百年で古くなるような映画は要らない」と自らに檄を飛ばして撮影を開始する。

しかし、ハリウッド側の「制作日誌」は、黒澤の素人俳優の起用と挫折、度重なる病気や奇行、スタッフとの確執と離反、撮影予定の大幅な遅延など、黒澤の周辺での雑音を詳述している。結局、ハリウッド側は泣いて馬謖(ばしょく)を斬ったのだった。

しかしながら、黒澤を監督に起用したのは、名プロデューサーのエルモ・ウイリアムがあの「ゴンドラの唄」と「トゥ・ヤング」を主題歌とする、志村喬主演の『生きる』(52年)を見て感動したからだったという。彼は実に長い間「黒澤のフアン」だったのだ。いや、黒澤に惚れ込んだ、というべきであろう。この本は、無残にも監督を解任された不世出の天才ドラマトゥルギー黒澤への「挽歌」であり、黒澤とエルモとの男の友情への「讃歌」でもある。【評者 川成洋 法政大学教授】

■2006/11/11, 週刊東洋経済

シーア派―台頭するイスラーム少数派
シーア派―台頭するイスラーム少数派桜井 啓子

中央公論新社 2006-10
売り上げランキング : 49400


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

一冊でシーア派のすべてがわかる好著

7世紀、新興のイスラム教徒が東ローマ帝国の東半分とササン朝ペルシャの旧領を征服した。この大きな分け前をめぐり、イスラム教徒が分裂する。信徒の長(カリフ)は、預言者ムハンマドの従兄弟で、預言者の娘の夫アリーの子孫(=イマーム)でなければならないと考えるシーア派と、血統にはこだわらず、預言者の教えとその解釈であるスンナ(慣習法)を基に統治を行うスンナ派とにである。シーア派は、中世に幾度もエジプトやシリア、モロッコ、イランなどの地域で政権を樹立したが、結局永続せず、イスラム教徒内の少数派にとどまっている。

だが、16世紀イランに興ったサファヴィー朝がシーア派を国教とし、その結果、イランでは圧倒的な多数派となり、20世紀後半のイラン・イスラム革命を招来する。現在でも、「騒がしい少数派」として世界政治に多大の影響を与えている。

イスラム世界を理解するうえで欠かせないシーア派とは何か。発祥の経緯から、現在のイランの「イスラム法学者による統治」(ヴェラーヤテ・ファキーフ)や、イランと同じ12イマーム派の最高位のイスラム法学者でありながら、「イラン型」を拒否して、米国と協力して新しいイラクの創出に奔走するシスターニ師の考えなどを簡潔に、かつ正確に記述している。

ウマイヤ朝軍と戦い殉教した第3代イマーム・フセインが祭られているカルバラ(イラク)では、今でもスンナ派テロリストの爆弾テロで多くのシーア派住民が殺害されている。「シーア派にはこの世の終わりまで耐えて見せます、という悲愴感がある」と小杉泰京都大学教授は語っているが、「法の支配」を根底にする散文的なスンナ派よりも、殉教のドラマに満ちたシーア派には、われわれ異邦人の心を引き付けるものがある

■2006/11/11, 週刊東洋経済

ビジネス弁護士大全2007
ビジネス弁護士大全2007日経BP社編

日経BP社 2006-10-26
売り上げランキング : 36399


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

日本も米国型の訴訟社会へ移行しつつあり、ビジネスの世界でも弁護士の果たす役割が高まっている。

2007年春には、所属弁護士数で業界3位の西村ときわ法律事務所と同5位のあさひ・狛法律事務所が合併し、約370人の弁護士を擁するメガ・ローファームが誕生する。大手事務所間の競争が加速する一方、日本でプレゼンスを高めている外資系事務所との競合も強まっている。

この本は弁護士940人190事務所の最新データを網羅したガイドブックである。

2007年版では、有力事務所情報を大幅拡充したほか、買収・防衛戦略、内部統制、訴訟対策、知的財産管理など最先端のリーガル・サービスで企業経営を支えるビジネス弁護士と法律事務所の最新データを収録している。

弁護士、事務所ごとに、「特色」「得意分野」「手がけた主な事件・案件」「顧問先」「経歴」などが書かれている。

■2006/11/11, 週刊東洋経済

マネジメント革命 「燃える集団」を実現する「長老型」のススメ
マネジメント革命 「燃える集団」を実現する「長老型」のススメ天外 伺朗

講談社 2006-10
売り上げランキング : 345

おすすめ平均 star
starようやく時代が追いついてきた
star会社員の経験があるなら思い当たることばかり
star経営学を超えて「溜飲が下がる経営論」

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

著者の本名は土井利忠である。東京工業大学を卒業したエンジニアで、創業間もないソニーに入社。創業者・井深大の薫陶を受けて成長し、上席常務で退社する。

著者は現在のソニーを含む日本企業の混乱と衰退を分析して、新たな組織論や経営のあり方を提示する。

現在、多くの企業が採用する「成果主義」のマネジメントが、かえって企業を駄目にしている、という。

従来の部下が「上司の意味のない指示をやりすごす」という裁量のあるマネジメントのほうが企業に活力を与えていたという。

著者が理想とするマネジメントは、隆盛期のソニーのようだ。井深大のようなカリスマ=長老がいて、その磁場で部下が生き生きと働く環境である。著者は、それを「指示・命令しない組織マネジメント」=「長老型マネジメント」と定義する。しかし、これを実現する具体的なロードマップを提示していないことが、惜しまれる。

■2006/11/11, 週刊東洋経済

誰も知らない東大寺
誰も知らない東大寺筒井 寛秀 田中 昭三

小学館 2006-10-07
売り上げランキング : 78581


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

奈良・東大寺の魅力が、あますことなく綴られた一冊。東大寺で生まれ育った筒井寛秀長老が、建造物や行事にまつわる逸話などを丁寧に物語る。

「二月堂『お水取り』」の章がまず、必読ものだ。過去1250年間で3度あった継続の危機、「青衣の女人」が過去帳に加えられたエピソード、戦時中の騒動などが語られる。

「私の東大寺案内」の章も堪能できる。大仏殿の創建当初の大きさ、法華堂の欄干に段差がある理由、さらに裏道の橋や坂などにも触れられており、この章を読めば「東大寺に行ったつもりになれる」かもしれない。

全編を通じて、筒井長老の深い知識とともに、東大寺の歴史的背景が浮かび上がる。また、鎌倉時代に大仏殿を再建した重源上人の名が繰り返されることから、仁王像など建造物の修理に携わることが多かった長老が、過去の偉人に尊敬の念を抱いていることが伝わる。

■2006/11/11, 週刊東洋経済

写真でみる聖書の世界
ジョナサン・N.タブ (著), 小川 英雄

キリスト教圏の国々では、現在でも聖書が政治の分野で最重要な役割を果している。例えば、アメリカの大統領就任式に宣誓する新大統領の左手が置かれているのが、聖書である。

また、「議会の父」といわれるイギリスの下院で、相対する政党の代表が発言の場面で使う書見台の中に収められているのが、聖書である。人間は聖書には嘘をつけない、ということなのであろう。議会制民主主義の国々でも、聖書の助けが絶対必要なのである。

ところで、聖書が生まれたのはどんな地域なのであろうか。聖書のふるさとである「聖なる地」は、地中海東部、現在のイスラエル、シリア、ヨルダンの乾燥地帯である。それゆえに、厳しい戒律と家父長的な指導者を必要とするのだ。

本書は、「聖なる地」における、旧約聖書からイエス・キリストの時代の食生活、動物、衣服、装身具、通貨と交易などの、「聖書の民」の生活を生き生きと再現している。

■2006/11/11, 週刊東洋経済

木村伊兵衛のパリ
木村伊兵衛のパリ木村 伊兵衛

朝日新聞社 2006-07
売り上げランキング : 11513

おすすめ平均 star
starやっぱり木村伊兵衛はすばらしい
starヒューマニティ溢れる写真

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

1950年代、天然色のパリを写した珠玉の作品集

「ルミエール(光線)がいいから撮影に行こう」。ライカ名人木村伊兵衛はいつものようにパリの街に出ていった。

戦後はじめて欧州を旅した日本人写真家は白黒フィルムとともに50本のカラーポジフィルムを持ってきていた。

パリをカラーで撮る。芸術的にモノクローム写真全盛の時代にそれは少し実験的な試みだった。1949年に発表された「フジカラー」が木村に寄贈された。富士写真フイルム初のカラーフィルムは、その後世界を席巻する日本製カメラの前触れだった。ところがその感度はISO10しかない。晴天順光ならともかく、裏町ではシャッターは10分の1の低速しか切れない。レンズは開放ぎみでピントは鈍く、手ぶれを起こす。

木村はそんな制約のなかでパリの街角を歩いたのだ。

パリにはコダックの発色よりパステル風の富士がいいという。そのせいか通して見ると利休鼠のような街並に赤と茶の色がしぶく冴えている。

カラーフィルムの未完成度とアナログ時代のレンズのボケで、いまのカラー映像に見られない芸術性を感じる。

被写体は有名な観光地や旧蹟ではない。パリの下町や繁華街、郊外の村。何げない風景や日々を営む市井の人びとで、木村のまなざしは通い慣れた銀座や浅草と同じだ。

ドイツ占領から解放されたパリ。木村は「決定的瞬間」の写真家カルチエ=ブレッソンらの知遇を得る。それは戦時下のプロパガンダ経験をへた木村には写真家としての転機をもたらしたことだろう。

パリの一枚一枚から木村の自由な息づかいが伝わってくる。74年に刊行された本書は、デジタル技術でより原版に近くなり、未発表作品を加えて再編纂されたものだ。【評者 写真家 中川道夫】

■2006/11/11, 週刊東洋経済

【東洋経済新報社からの近刊本】

■11月6日発売

2010年のアジア―次世代の成長シナリオ
2010年のアジア―次世代の成長シナリオ野村総合研究所 野村総研=

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 3914


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

プラネット式IT起業で成功する方法―業界「標準化」で高収益を続ける驚異のしくみ
プラネット式IT起業で成功する方法―業界「標準化」で高収益を続ける驚異のしくみ玉生 弘昌

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 44474


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

小泉純一郎 ポピュリズムの研究―その戦略と手法
小泉純一郎 ポピュリズムの研究―その戦略と手法大嶽 秀夫

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 6113


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

BRICs―持続的成長の可能性と課題
BRICs―持続的成長の可能性と課題みずほ総合研究所

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 35731


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

決定版 コーポレートファイナンス
決定版 コーポレートファイナンス久保田 敬一

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 22588


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

好かれる人は1%が違う―好感度がアップする25の秘訣
好かれる人は1%が違う―好感度がアップする25の秘訣イ ミンギュ 嵯峨山 みな子

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 1779


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

元銀行支店長が教える銀行の急所―ここを攻めるとこんなに得する
元銀行支店長が教える銀行の急所―ここを攻めるとこんなに得する佐藤 一郎

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 4707


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

■11月13日発売

トヨタ式ならこう解決する!―思考から仕事を変えるケースブック
トヨタ式ならこう解決する!―思考から仕事を変えるケースブック若松 義人

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 1186


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

2010年日本の経営―ビジョナリー・エクセレンスへの地図
2010年日本の経営―ビジョナリー・エクセレンスへの地図野村総合研究所

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 797


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

M&A(ジャングル)資本主義―「敵対的M&A・三角合併」防衛法
M&A(ジャングル)資本主義―「敵対的M&A・三角合併」防衛法小倉 正男

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 2330


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

脱・価格競争の経営―値下げのジレンマを克服する
脱・価格競争の経営―値下げのジレンマを克服する原 誠 柳 剛洋 多胡 秀人

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 1457


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

NHKvs日本政治
NHKvs日本政治エリス・クラウス 村松 岐夫

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 119891


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

アメリカの金融政策―金融危機対応からニュー・エコノミーへ
アメリカの金融政策―金融危機対応からニュー・エコノミーへ地主 敏樹

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 66402


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ラジオは脳にきく―頭脳を鍛える生活習慣術
ラジオは脳にきく―頭脳を鍛える生活習慣術板倉 徹

東洋経済新報社 2006-11
売り上げランキング : 448


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

■2006/11/11, 週刊東洋経済

ソニー インサイド ストーリー
ソニー インサイド ストーリー立石 泰則

講談社 2006-09-01
売り上げランキング : 6489

おすすめ平均 star
star画布に書いた絵を 実行することとは?
star出井氏の苦悩
starまさにソニーのインサイド・ヒストリーだ

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ソニーを駄目にした経営者は誰か

ソニーといえば、創業者のひとり井深大氏を思い浮かべる。私は早稲田大学理工学部電気通信学科という、井深氏の卒業した電気工学科の弱電コースの末裔の卒業生で、昔からソニーには特別な感慨を持っている。

2000年前半に高値をつけた後、ソニーの株は全く鳴かず飛ばずだ。業績不振に加え、新型ゲーム機PS3はトーンダウン、おまけにパソコン用バッテリーが火を噴き多額の出費が予想される。一体ソニーは大丈夫なのだろうか。この本は、ソニーの前会長「出井伸之悪玉論」を批判したもの。大胆に要約すれば、出井氏にも責められるべき点はあるが、社長・会長在任の前半は大賀典雄氏の影響力排除、後半は久夛良木健氏の影響力排除に奔走され、十分力を発揮できなかったのだという。

ソニーでは当初、技術面を代表する井深大氏の影響力が強かったが、次第に盛田昭夫氏の発言力が強くなる。背景には出資の大部分を盛田家が持ったという事情がある。ソニーには個人商店的なワンマン経営の一面があった。また商売に道楽の色彩が強くなる。次の大賀典雄氏の時代になると、道楽を商売にするようになった。

盛田・大賀体制の最大の冒険は、巨額の出費を厭わぬCBSレコードやコロムビア映画の買収である。盛田氏が無謀ともいうべき買収を行なった背景には、ビデオの規格戦争においてコンテンツ不足のためにベータがVHSに負けた、コンテンツなしのハードは単なる「鉄の箱」という考え方があった。しかし、そのために映画会社の買収が本当に必要だったのか。

放漫経営を続ける傍若無人な米国人重役を断固として粛清整理したことは出井氏の功績なのだろう。だが、本の169ページにあるが、1993年時点でも出井氏はインターネットという言葉をよく知らなかったという。率直に言って、これでは技術新分野での舵取りは難しい。

出井氏は頻繁な組織変更を得意としたが、メリットよりも混乱を引き起こした方が多かった。人事権によるライバルの追い落としも目につく。悪玉論も不適切だが、贔屓目もどうか。

ソニーにとっての最大の問題は何の会社か焦点がぼやけてはっきりしないことだ。これまでもワークステーション、ロボット、ゲームマシンで一時成功を収めても、社運をかける段階になると必ず腰砕けになった。

マイクロソフト会長のビル・ゲイツは「ある時期の業界リーダーは決して次の時期のリーダーにはなれなかった」と言っている。ソニーが次の時代にも覇者として生き抜くには長く厳しい試練が待ち受けているに違いない。頑張ってほしいものだ。【評者 脇 英世 東京電機大学教授】

■2006/11/11, 週刊東洋経済

経営戦略を問いなおす
経営戦略を問いなおす三品 和広

筑摩書房 2006-09
売り上げランキング : 2169

おすすめ平均 star
star事業は経営者で決まる
star経営戦略=アート
star今ひとつ理解が

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

新しい経営戦略論の胎動を実感できる

かつて、経営戦略研究の大家伊丹敬之氏は、ビジネス誌の記事を分析し、日本企業に共通する成功パターンを抽出した。そうしたパターンを「見えざる資産」という概念を使い整理したのが名著『経営戦略の論理』(日本経済新聞社)であった。

それから約4半世紀経った今、奇しくも伊丹氏の下で学んだ気鋭の経営学者が新たな戦略論を展開しようとしている。その内容を一般読者向けに書き下ろしたのが本書である。

本書で筆者は伊丹氏とは対照的な戦略論を展開する。「よい戦略には、業績を向上させる以外に客観的・普遍的な共通のパターンがある」とした伊丹氏に対し、筆者は「本当の戦略は時代特定的な主観に基づく特殊解だ」と考える。筆者からすれば「見えざる資産」は成功の事後的な説明にしかすぎない。そうした概念よりもより重要なのは、戦略は経営者の「頭の中」に宿ると考えることであり、よい戦略を構想する経営者を輩出するため、人材に関する「選択と集中」にエネルギーを投入することなのである。

こうした筆者の主張が納得性を持つのは、その背後に日本企業に関する巨大データベースが存在するからである。上場歴20年超の製造企業672社に関する40年分の単独決算数値がそれである。本書では、そのデータベースを基に、興味ある事実が印象的な図とともに紹介される。例えば、キーエンスとオムロンの比較図を見れば、売り上げを「伸ばす」のではなく「選ぶ」ことが大切であることを理解することができる。またソニー凋落を決定づけた社長が誰であったか、エポックグラフという図を通じて一目で知ることができる。このように本書を読めば広い視野と深い洞察に基づいた新たな経営戦略論の胎動を実感することができる。【評者 小川進 神戸大学大学院経営学研究科教授】

■2006/11/11, 週刊東洋経済

「昭和の怪物」岸信介の真実
「昭和の怪物」岸信介の真実塩田 潮

ワック 2006-10
売り上げランキング : 7143


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

切れ味鋭い岸信介論 安倍晋三首相の想いは

安倍晋三首相は『美しい国へ』の中で、「憲法の改正こそが、『独立の回復』の象徴」と記している。憲法改正がなされなかったため、国に対する想いが軽視されるようになった、「美しい国」ではなくなった、と言うのだ。安倍氏の信念の核に「憲法改正」があるのは疑いようもない。安倍氏に最も大きな影響を与えたのが岸信介元首相。母方の祖父だ。

「岸信介論」は数あるが、本書は切れ味が鋭い。著者はこう書く。「岸は戦後、政界復帰を遂げたときから安保改定、改憲、独立の完成という青写真を描き、その道を突き進んだ」。ここに安倍氏の原点がある。

退陣後、岸元首相は実弟の佐藤栄作、直弟子の福田赳夫両政権を作り上げた。しかしなお、改憲の夢は果たせなかった。佐藤退陣後自ら復帰しようと考えていたと本書の中にはある。それくらい岸元首相の改憲への想いは強かったのだ。

満州国政府のナンバー2、東条英機内閣の閣僚、戦犯容疑、首相就任、安保騒動に伴う退陣。嵐の中を生き抜いた祖父と、生まれながらにして将来を約束された安倍氏を比べること自体、無意味だろう。本書を読んでつくづくそう思う。「百年、千年という、日本の長い歴史のなかで育まれ、紡がれてきた伝統がなぜ守られてきたのかについて、プルーデントな認識をつねに持ち続けること、それこそが保守の精神」(『美しい国へ』)。安倍氏の「やわらかな」保守は本書の前では色あせて見える。

その昭和の怪物でも成しえなかった改憲という宿願を安倍氏が果たそうとしているのは、なんたる歴史の皮肉か。同じ著者の手による『昭和の教祖 安岡正篤』を併せ読めば、昭和の一断面が鮮やかに浮かび上がる。保守とは何か、国とは何か、著者のうめき声が聞こえる。【評者 田北浩章】

■2006/11/11, 週刊東洋経済

ブランドの条件
ブランドの条件山田 登世子

岩波書店 2006-09
売り上げランキング : 5532

おすすめ平均 star
star「ブランド論」の入門編に最適!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「LV」や「H」のマーク一つで、単なるかばんが何十万円の贅沢品に生まれ変わる――。いまだ隆盛を誇る海外ブランド。なぜここまで売れるのか。ブランドは女性のものなのか。著者はそういった素朴な疑問に、ブランドの「起源」をひもとくことで、答えを出そうと試みる。いわば発生史論的アプローチによるブランド論だ。

ルイ・ヴィトンはじめ多くのブランドが、ナポレオン三世の産業振興策によって生まれたこと。エルメスが自動車社会の到来を先取りして変身したこと。そしてココ・シャネルによって、欧州のブランドと米国の消費社会が合体したこと。史実を探ることで、とかく絶対視されがちなブランドの相対化に成功している。

「購買心理論ではブランドの本質は解けない。買う側より、むしろ売る側から考えた方が本質に近づける」との指摘は的を射ている。平易な文章で書かれており、ブランド雑学として一読しても楽しい。

■2006/11/11, 週刊東洋経済

カウンターから日本が見える 板前文化論の冒険
カウンターから日本が見える 板前文化論の冒険伊藤 洋一

新潮社 2006-09-15
売り上げランキング : 3262

おすすめ平均 star
star職人への崇敬の念が薄れる現在、カウンター文化はどこへ?

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

世界のどこにもなく、日本にしかないのが、上質で高級な料理を出す「カウンター料理屋」。カウンターの向こうに板前がいて、客の目の前で調理する。客と板前が会話をしながら料理を食べていく。こんな不思議な空間は日本にしかない。著者は、この起源を探りながら、日本の文化と歴史を分析する。

カウンター料理屋の起源は大阪の色町にあった。大正13(1924)年、大阪新町に今のカウンター料理屋の原型となる店が「浜作」として開店した。それまでの奥の厨房で調理され、座敷で食べる料亭からの大きな変化である。このカウンター料理屋は、瞬く間に東京を席巻する。

著者は江戸時代の江戸と関西の「うまい物」についても考察する。江戸にはうまい物がなかった。江戸の名物は佃煮に代表されるように、砂糖と醤油で煮詰めた「日持ちする物」で、関西の鮮度を大事にした料理と異なる。西高東低の料理文化の分析も興味深い。 

■2006/11/11, 週刊東洋経済

すぐに役立つ離れて暮らす親のケア―ゴミ出しから、お金、人間関係、遠距離介護まで
すぐに役立つ離れて暮らす親のケア―ゴミ出しから、お金、人間関係、遠距離介護まで太田 差惠子

七つ森書館 2006-09
売り上げランキング : 16111


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

著者は介護・暮らしのジャーナリスト。少子高齢化の進む日本で、65歳以上の高齢者の子どもとの同居率は5割を割っている。結婚している場合は、夫婦両方の親と同居しているのはまれで、たいていどちらかの親とは別居である。離れて暮らす親のケアはほとんどの子世代にとって人ごとではないのだ。

離れて暮らす親をケアするということは、介護だけに限らない。ゴミ出し、重いものの買い物、おカネの管理、家の管理、庭の草取りなど多くのことが重要な事項になる。

著者は離れて暮らす親子の取材を始めて15年。これまで大勢の人にインタビューしてきた。その体験談を基に、離れて暮らす親のケアについて項目ごとに基本的な考えや方針、ノウハウをまとめている。特に介護について多くを割いている。すでに事態が切迫している人も、これからの故郷の親の高齢化が心配な人にも、役に立つ内容の本になっている。

■2006/11/11, 週刊東洋経済

ぼくのドン・キホーテ
ホセ・マリア・プラサ (著), 鈴木 正士

昨年で、ちょうど400年前に刊行されたセルバンテスの『ドン・キホーテ』(全編)は、実に長い作品である。ちなみに、邦訳書は岩波文庫では4巻本になっている。読破しようとトライして何回も挫折した人も多かろうと思う。これは本場のスペイン人とて例外ではなく、したがって、まさに『聖書』を読むように、自分の気に入ったところをひもといているという。

『ぼくのドン・キホーテ』は、『ドン・キホーテ』 を下敷きにして、荒筋と章立てもほとんど変更せず、しかも適当な長さで書かれている。といえば、いわゆる「アブリッジ版」ということになるが、この作品には著者のホセ・マリア・プラサならではの味つけが施されている。たとえば、オリジナル版のドン・キホーテは頑迷固陋な老人であったが、本書の主人公は、自分の行動に確固たる自信がなく、従者のサンチョの意見に耳を傾け、さらに自己確認しながら自分の道を歩むのである。

■2006/11/11, 週刊東洋経済

ミッション・スクール
ミッション・スクール佐藤 八寿子

中央公論新社 2006-09
売り上げランキング : 17080

おすすめ平均 star
starなんと魅惑的なタイトル!間違えて購入しないでください

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

日本とフランス 二つの民主主義
日本とフランス  二つの民主主義薬師院 仁志

光文社 2006-08-12
売り上げランキング : 2337

おすすめ平均 star
star政治思想を知る良い教科書
star予備知識なしに読むのはキツイけど‥。
star政治学の教科書に最適

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

竹内洋の読書日記

ミッション・スクール、この甘美な響きが意味するもの

○月×日――
東京の老舗鰻料理屋で、大学時代の友人ふたりと久闊を叙する。話題は昔の大学時代。あのころつきあっていた女性とはその後どうしたこうしたなどのオヤジトーク。当時はやりの合ハイ(合同ハイキング)回顧談になる。

合ハイ相手の女子大には、ノートルダム女子大や同志社女子大などのミッション系と京都女子大などの仏教系があった。われわれ三人とも、ミッション系はまぶしすぎて苦手だった。仏教系女子大のほうがしっくりしたのはなぜか。そんな話題になる。

そこで読んだばかりの佐藤八寿子著『ミッション・スクール』(中公新書)の内容を披露する。

地方出身の立身出世男とミッション・ガールズではそもそもハビトゥス(身体化された文化)が対照的である。「野心」と「無心」、「奮闘努力」と「趣味」、「勉強」と「感受性」、「野暮」と「いき」のように。

しかし、それだけにミッション・ガールズは地方出身立身出世男の憧れとなる。抑圧して自分の影(シャッテン)となったものが、ミッション・ガールズに見出されるからである。

であればこそ、ミッション系女学生は、立身出世男の身を滅ぼす「ファム・ファタル」(宿命の女)ともなりかねない。ミッション系女子大との合ハイに居心地の悪さを感じたのは、育ち(都会育ち、金持ち)の違いだけではなく、田舎男が身の破滅をおそれていたからではないか――そんな講釈をする。

以後は、ペギー葉山はミッション系(青山学院)だけど、ファム・ファタル系ではないよな、加賀まりこはファム・ファタル系だけど、学校はどこだったかと、オヤジトークモードが一段と高まって痛飲した。

○月×日――
『ミッション・スクール』は、男の立身出世主義と女の良妻賢母主義の二項相補的近代日本像にファム・ファタル的ミッション・ガールズの楔をいれた。目から鱗の近代日本精神史である。

実は著者の佐藤氏は、私が京大にいたとき、子どもに手がかからなくなったからと大学院入学して研鑽をつんだ碩学の教え子である。といってもわたしはほとんど指導めいたことをしない典型的「京大的教授」だったが。

「教え子」関係で、薬師院仁志著『日本とフランス 二つの民主主義』(光文社新書)を読む。

著者はすでに『地球温暖化への挑戦』などインパクトある問題作をつぎつぎに刊行している。本書も期待どおりの力作。そもそも民主主義は自由(保守)対平等(左翼)のどちらにアクセントをおくかの対立である。にもかかわらず、日本の左翼は自由主義に加担し、統制主義を保守のものとしている。高福祉・高負担(平等政策)は左派的政策のはずなのに、消費税反対をいうのはトンチンカンきわまりないという。「共産主義シンパの自由主義者など、菜食主義の焼肉屋のようなもの」と小気味よい文がつづく。

アメリカの民主主義(自由)とフランスの民主主義(平等)を合わせ鏡にして日本の民主主義をあぶりだしていて痛快。これまた目から鱗本。教え子の新書二冊を食卓にならべて、ワインで乾杯する。 教授が指導などしなくても、いやしないからこそよい学者が育ってうれしい。

たけうち・よう 関西大学文学部教授。1942年新潟県生まれ。65年京都大学教育学部卒業、93年京都大学教育学部教授。2005年京都大学を定年退官。

■2006/11/11, 週刊東洋経済

Edit

 
Copyright (C) 2004-2006 Ambitious Kanda, All Rights Reserved.