メイン > 週刊東洋経済書評 『ブックレビュー』 > 2006年10月28日~11月4日
| 自由と所有―英国の自由な国制はいかにして創出されたか | |
![]() | ハリー・T. ディキンスン H.T. Dickinson 田中 秀夫 ナカニシヤ出版 2006-08 売り上げランキング : 18058 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「自由と所有」をめぐる近代英国の政治抗争を解明
本書の原著は1977年に出版されている。18世紀イギリス政治史研究において60年代まで支配的だったのはルイス・ネイミア(Lewis Namier)とその学派であった。彼らの史学方法論は、政治史を個々の国会議員の地縁・血縁関係、国王・貴族のパトロネージの配分先にまで細かく分解し、そこから再構成していくというものである。それにより、かつて自明とされていた英国の初期政党、ウィッグとトーリ間の党派抗争が否定されるとともに、彼らのイデオロギーであるウィッグ主義、トーリ主義はネイミア学派にとって完全に無視された感があった。
60年代末ジェフリー・ホームズ(Geoffrey Holmes)やウィリアム・スペック(William Speck)らはウィッグ、トーリが政党としての実態を備えていたことをいま一度論証し成功を収めはしたものの、政党の政策の基礎となる思想、理念に十分に食い込んだとは言えなかった。本書は18世紀初期のウィッグ、トーリに始まり、中期のコート、カントリの思想、そして世紀末のラディカリズムと保守思想までの政治的イデオロギーを包括的に解明した初の試みである。ディキンスンはヒューム、バークといった当時の「大文字」の思想家と同様、否それ以上に無名の政論家の膨大な量の言説をビラの類に至るまで渉猟し、彼らの思想を描き出している。
さて、本書の本来の副題は「18世紀ブリテンの政治的イデオロギー」であるがこれをあえて上記のように改めた訳者の判断は正しい。市井の政論家はただ抽象的に政治思想を論じたのではない。18世紀初頭の党派抗争期、世紀末のアメリカ独立革命、フランス革命の渦中にあって彼らはその時々の政治的課題に絡めつつ、あるべき国制像について考察したのである。
本書は現在では18世紀イギリス史研究の基本書と言うべき存在である。後続の種々の研究、たとえばジャコバイト思想(Daniel Szechi, Paul Monod)、宮廷ウィッグの思想(Andrew Browning)、ハノヴァー朝初期のトーリ党研究(Linda Colley)、多くのウィルクス研究などは程度の差こそあれ「自由と所有」の影響を受けている。また多岐に発展しているわが国の18世紀英国の研究・たとえばスコットランド啓蒙思想、アダム・スミスなどの経済思想、ベンサムらの功利主義、エドマンド・バークの保守主義は、豊穣な成果をあげているが、それらを一つの俎上に載せ18世紀ブリテン思想を論ずる格好の素材になろう。
この重要文献を邦訳した訳者の労は大きい。巻末の解説の付いた索引は、この時代を専門としない読者にはとくに有用であろう。【評者 松園 伸 早稲田大学第一文学部教授】
| アメーバ経営―ひとりひとりの社員が主役 | |
![]() | 稲盛 和夫 日本経済新聞社 2006-09 売り上げランキング : 55 おすすめ平均 ![]() アメーバー経営の根底にあるもの 分散した機能と能力の極大化 ユニークで示唆に富む経営手法ですAmazonで詳しく見る by G-Tools |
アメーバ経営の真髄を披露 簡便な会計方式で利益極大化
『アメーバ経営』は経営哲学が前面に出る従来の「京セラ本」と違って、実務的な著述の多い、やや新手の経営論である。
この本の中で最も印象に残った記述は、「お客様への売上げ金額をそのまま製造部門の収入に相当する生産金額となるようにした」という部分と、「営業部門は、売上げに対する一定率を口銭として製造部門から受け取り、それを収入としてとらえるようにした」という部分である。
従来から稲盛氏によって説かれている「潜在意識にまで透徹する強く持続した願望を持つ」姿勢、「利他」の精神、「リーダーとは、全き人格者でなければならない」などの精神論も本書に散りばめられているが、京セラ・KDDIグループの経営の真髄は、独自に製造と営業の対立を乗り越え、「製造部門重視」の姿勢を簡便な会計処理で表現した採算管理にあるとしている点が目を引く。
評者は稲盛氏の姿を一度だけ見たことがある。評者が京セラ初の海外企業買収を手伝っていたころだが、買収後のセレモニー会場に稲盛氏が姿を現しただけで、京セラ幹部全員が、雷にでも打たれたように緊張で強張ったのを覚えている。
かようなまでに部下に恐れられた名経営者のアメーバ経営論は、精神論や哲学としてのみ捉えられることが多かった。しかし、「多忙を極めた私は、孫悟空のように自分の毛を抜き、ひと吹きすれば自分の分身が出てくればいいのにと真剣に考えた」という稲盛氏の経営の真価は、真理は細部に宿ると言われるがごとく、極めて実務的な社内会計制度にある。
ただし、生産性を見るために「時間」(労働時間)の概念を取り入れているが、パートの就労時間をそこから外しているなど、今日の現状とややかけ離れている面もないわけではない。【評者 津田倫男 フレイムワーク・マネジメント代表】
| 芸術起業論 | |
![]() | 村上 隆 幻冬舎 2006-06 売り上げランキング : 879 おすすめ平均 ![]() すばらしい! 芸術に限らない人生論 暗黒大陸ガイドブックAmazonで詳しく見る by G-Tools |
日本の「オタク文化」を世界に認めさせた男
まことに意気軒昂である。今、これほど自分の立っている位置を自信満々に語れる人間は多くないだろう。
今の日本の知的芸術資源は「かわいい」と「オタク」であると言い切る。そういうサブカルチャーをベースにした作品、日本のアニメからモチーフを取った絵や「等身大」のフィギュアによってアメリカで名を成して、「ムラカミ・ブランド」は日本に逆輸入された。
東京芸大の日本画科というオーソドックスなエリートコースを出て、日本最初の日本画の博士号を取ったのに、日本では成功しなかったという。だがアメリカで大ブレイクしたのは、世界をリードできる日本の固有の文化は「オタク文化」であることに思い至ったからである。
それこそが世界に通用する日本の文化的な武器であると気づき、日本のサブカル的な芸術の文脈を認めさせることに腐心し、宮崎駿氏を目指してものを作ってきた。それは欧米の美術の世界で生き残るための戦略であった。その結果、ムラカミのアートは西洋化された日本人のオリジナルコンセプトかもしれないと思わせることに成功した。「権威は自分で作りあげなければならない」のだ。
アートというのは贅沢な娯楽であり、芸術を買うのは金持ちである。その金額こそが評価の軸として最もわかりやすいものであるという。こういう言い方が多くの日本人の反発を買うこともちゃんと承知している。
一見軽やかに歩んでいるようでいて、実はものすごい努力家である。例えば、描きなおせといわれたらその何倍も鍛錬してくる人じゃなければ生き残れない。何よりも生き残るのだという情熱が不可欠であり、情熱の心が折れたらだめという。異端の作家にしては、まっとうすぎるほどまっとうなのである。【評者 仲倉重郎 映画監督】
| でたらめ判決が日本をつぶす | |
![]() | 井上 薫 扶桑社 2006-07 売り上げランキング : 15686 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は東京大学理学部応用化学科と同修士課程を出て、民間企業に勤務後、独学で司法試験に合格した異色の元裁判官。2006年4月に横浜地裁判事で退官した。自らの信念で、判決の理由に関係ない「蛇足」を省いた簡潔な判決文を書いていたところ、「判決文が短い」と批判され、減点評価を受けた。これを不服として自ら退官した。
著書に『司法のしゃべりすぎ』(新潮社)などがある。本書は『司法のしゃべりすぎ』の続編と言うべき内容の本である。
司法(裁判所)は三権分立の一つの機関であり、法令に基づいて、訴訟を扱い、判断を下すという大きな権力を持っている。この裁判所で判決文の中に、理由と関係ない「蛇足」が横行していることは、重大な法令違反であり、司法の信頼を損なうものである、と著者は批判する。司法の現状とあり方に重大な問題提起をしている刺激的な本である。前著『司法のしゃべりすぎ』と併読したい。
| 「失敗をゼロにする」のウソ | |
![]() | 飯野 謙次 ソフトバンククリエイティブ 2006-07-15 売り上げランキング : 1920 おすすめ平均 ![]() 「失敗学」の入門書として最適!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
個人や組織の失敗はなくならない。そして人が「失敗を隠そうとするのは自然の心理」と、著者は語る。人や組織を信用しすぎると、必ず隠匿が起こるというのだ。世間を騒がせた三菱自動車のリコール隠しがよい例であろう。これらを繰り返さないためにも、他人の失敗を学習し抽象・知識化するべきだという。本書では、失敗エピソードの数々が披露されている。
興味深いのは、「失敗の伝達」の際には「付け足し、推測、創作はまったく構わない」としていることだ。受け手の記憶に残る話こそが効果があるというわけだ。それらを土台にした「失敗を繰り返さない仕組みをつくる」ことが重要だと、著者は繰り返し説く。
社会進化の過程で不可欠な失敗もある。著者は「失敗を認める土壌をまずつくり」、それが「創造の種であることを認識したい」とする。失敗を単に押さえ込むだけでは活力ある社会にはならないとの主張は、シンプルだが心に響く。
| 経済の動きが手にとるように見えてくる | |
![]() | 角川 総一 中経出版 2006-10-03 売り上げランキング : 69312 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
金融・マネー分野で講演、執筆に活躍する著者が書いた経済の入門書。景気、金利、物価、為替、株価、金融政策の六つのファクターを、それらの相互関連性を常に念頭に置きながら丁寧に解説している。
「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、一つの経済現象の背後には、どのようなメカニズムが働いているのか、その現象が他の現象に及ぼす影響は何なのか。経済を有機的に捉えようという著者のスタンスには共感が持てる。「景気がよくなると金利はどうなるのか」「金利が動くと株価はどのように反応するのか」などを理解し「先を読む」ことは、ビジネスはもとより、株式投資など資産運用にも役立つだろう。
図表も多く盛り込まれているので、易しく取っつきやすいが、書かれている内容は高度である。読者も頭の中で、あるいは実際に紙にでも各ファクターの相関図を描き、著者の用意したそれと比べてみるのも、本書の読み方の一つだろう。
| ジェームズボンド007シークレットファイル | |
![]() | アラステア ダゴール Alastair Dougall 川成 洋 東邦出版 2006-10 売り上げランキング : 14669 おすすめ平均 ![]() とにかく、007好きにとってはいい本です! ジェームズ・ボンド 公式大図鑑Amazonで詳しく見る by G-Tools |
いよいよ、第6代目ジェームズ・ボンドの『カジノ・ロワイヤル』がこの12月に封切られる。今回のボンドの敵はだれか。またその敵とどう戦うのか。
この作品の完成を記念する本が、英国、米国、ドイツ、フランス、カナダで同時出版され、本書はその「日本語版」である。
本書は、007の名声を世界中に知らしめ、全男性の羨望と嫉妬の的となったショーン・コネリーのボンド役の『ドクター・ノオ』(1962年)から、『カジノ・ロワイヤル』までの実に21本の映画をイラストと写真で紹介している。毎回出てくる最新ハイテクメカニズムは圧巻だ。それらを惜しみなく壊してしまうボンド。
第5本目の『007は二度死ぬ』(67年)の姫路城の忍者訓練施設、日本の秘密情報部長官の丹波哲郎、ボンドと偽装結婚する浜美枝など、懐かしい面々だ。40年余りの007のボンド・ファンにはたまらない本である。
| ちょい太でだいじょうぶ―メタボリックシンドロームにならないコツ | |
![]() | 鎌田 實 集英社 2006-09 売り上げランキング : 2934 おすすめ平均 ![]() 健康で長く生きるために。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者に聞く 『ちょい太でだいじょうぶ』(集英社)を書いた 医師、諏訪中央病院名誉院長 鎌田 實さん
BMI25を少し超えても健康に問題ない
――タイトルの「ちょい太でだいじょうぶ」は、ダイエットに何度も失敗している身にはありがたい励ましです。
日本語には「小太り」ということばがありますが、どうもネガティブな感じがする。そこで「ちょい太」ということにしました。前向きな自己選択というイメージです。
―― 厚生労働省が医療費の国庫負担軽減の一貫として、メタボリックシンドロームの撲滅に乗り出しました。BMI値(体重キログラム÷身長メートル×身長メートル、20~25未満が正常範囲)が25以上は肥満とみなされ、肥満は健康の敵、という社会的コンセンサスが出来上がりつつあります。あえて「ちょい太」を提言されるのは。
私がダイエットを始めたのは、患者さんに生活改善指導をする立場上、具合が悪いからでしたが、理想的とされるBMI値22を目標とすると、17キログラム減量が必要。“天文学的”数字です。そこで、データを調べてみると、正常値ギリギリの24~26がいちばん健康で長生きしていることがわかりました。私の場合もBMI値26なら5キログラムの減量でよく、これなら可能な範囲です。
――24~26では、格好はよくないかもしれません。
日本人はまじめですから、目標を設定してうまくいかないと、自分がダメな人間だと思い込む。これは生き方としてよくない。BMI値を下げることが人生の目的ではありません。健康は、楽しく生きるための道具なんです。
無理な目標を立てても、リバウンドしては何にもなりませんし、過度のダイエットによる摂食障害も問題です。達成可能な目標で、長続きすること。カッコよくなくても、楽しく、自分らしく生きることのほうが大切なのです。
――ダイエットに終わりはない……。
栄養士の指導では、1日のカロリー摂取は朝4、昼4、夜2が理想ですが、夜は仕事での飲み会や家族団らんといった日本の文化に合いません。朝、昼2ずつ、夜4を基本とすれば摂取カロリーは減りますね。飲み会などでカロリーオーバーしたら、翌日は控えめに食べる。1週間ごちそうが続いたら、次の1週間で調整すればいい、というくらいのおおらかさがあってもいい。
――「PPK(ぴんぴんころり)」のためにもなりますね。
メタボリック、つまり内臓脂肪症候群の患者、予備軍は2700万人といわれています。内臓脂肪が高血圧、高脂血、糖尿病を引き起こし、心筋梗塞や認知症につながる。日本人の平均寿命は健康寿命より7年半長い。つまり寝たきりなどで人の世話にならなければならない期間がそれだけあるということです。健康で意欲的な「新老人」になるためにも、体重をコントロールすることは必要です。
――がんばらないダイエット法として寒天の効用を説かれていますが、トマト寒天を作るのが大変そうです。
無理に作らなくても、たとえば外食するときに、粉寒天をみそ汁にいれるとか、オレンジジュースに入れるだけでもいい。要は食物繊維をたくさんとることです。寒天は腹持ちがよく、細胞が飢餓感に悩まされないため、太りにくくなるのもよい点です。
| パックス・モンゴリカ―チンギス・ハンがつくった新世界 | |
![]() | ジャック ウェザーフォード Jack Weatherford 星川 淳 日本放送出版協会 2006-09 売り上げランキング : 55882 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
現代の制度はすべてモンゴル帝国がつくった
この本は、2004年に出たGenghis Khan and the Making of the Modern Worldの訳書である。著者のウェザーフォードは、監訳者の星川淳氏によれば、アメリカの文化人類学者で、先住民文化の研究にかけては一流だということである。それがモンゴル帝国に目をつけて、この一冊を最初にモンゴルで刊行し、そのあとでアメリカで刊行され、ベストセラーになったそうである。
本書は大きく三部に分かれる。第1部は「草原の恐怖支配」で、チンギス・ハーンが生まれた(と著者が信ずる)1162年から、チンギス・ハーンが即位する1206年までをカバーする。しかし残念ながらこの部は、この本のなかではいちばん出来が良くない。その原因は、第一に『元朝秘史』を、1240年にできたと無邪気に信じているところにあり、第二に、現在のモンゴル人の空想に頼りすぎているところにある。
『元朝秘史』は、実は1324年にできた本である。1227年に死んだチンギス・ハーンの生きた時代からは、ほとんど百年近く離れている。チンギス・ハーンと同時代に書かれた記録は実はまったくなく、『元史』の「太祖本紀」のもとになった『太祖実録』でさえ、できあがったのは1303年のことである。
イル・ハーン家の宰相ラシード・ウッ・ディーンが、モンゴル語の史料に拠りつつペルシア語で書いた『集史』も、1304年のガーザーン・ハーンの死後に完成した。『元朝秘史』も同様で、史料のほとんどないケルレン河畔のチンギス・ハーンの霊廟で書いたものだから、史料に伝えられない時代のチンギス・ハーンの業績については、奔放に空想を馳せているのは当然である。しかし実のところ、1195年以前のことは、ほとんど何もわかっていない。
本書は、「第2部 モンゴル世界大戦」と、「第3部 グローバルな目覚め」で、いよいよ本領を発揮する。これによると、現在の欧米が主導する世界で普遍とされている制度――民主主義、資本主義、宗教と政治の分離、印刷、紙幣、軍隊、連邦制など――は、すべてモンゴル帝国に起源があるという。これらについては、評者もおおむね同意見である。
ところで、チンギス・ハーンとモンゴル帝国についての悪評は、実は18世紀のフランスに源があった。1755年、パリで上演した戯曲『中国の孤児』で、ヴォルテールは、フランス王の替え玉として、チンギス・ハーンを罵った。それ以後、モンゴル人についての悪評はいっぺんに盛んになったそうである。それについては本書を見られたい。【評者 岡田英弘 東京外国語大学名誉教授】
| これも経済学だ! | |
![]() | 中島 隆信 筑摩書房 2006-08 売り上げランキング : 1989 おすすめ平均 ![]() 物事を深く考えるとは・・・ 「弱者」の保護の原則 経済学の原則 やっぱり原著には叶わないがコスパは良い。。でも。。。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
経済学とは何かを教えてくれる好著
ひところ流行った経済学の入門書は用語の定義や既存の経済理論を単純化して解説したものが多かったように思う。確かに、これらの本は、その種の知識を問う試験には役立つかもしれないが、現実の経済問題を考えるためにはほとんど役に立たないものであった。
近年、これらの入門書とは趣を異にし、現実の経済事象を取り上げながら、それが経済学でどこまで説明できるかという観点から書かれた好著が出版されはじめている。今回紹介するのは、これまで、『大相撲の経済学』、『お寺の経済学』、『障害者の経済学』(いずれも東洋経済新報社)を矢継ぎ早に出版してきた、いわば真打ちともいえる中島隆信氏がその研究成果をとりまとめた一冊である。
本書には数式や統計は出てこない。だが、本書で語られている問題は数式で表現できるものよりはるかに複雑である。たとえば、障害者に一定の負担を求める障害者自立支援法は弱者切り捨てでけしからんという議論に対して、いや障害者も負担をした方が、サービスの質の向上などを気兼ねなく要求できるのだという議論がされている。この議論は行政一般に適用できる。
政府が必要かどうかもわからない施設を建設し、無料でサービスを提供するという一方的な関係から、国民に一定の負担を求める双方向の関係に移行することで、緊張関係が発生し、それがサービスや財の質の向上をもたらすという発想である。
本書を読むだけで経済学のすべてがわかるわけではないが、経済学とは要するに経済行動の基礎にあるインセンティブを明らかにし、それを上手に利用しながら有限な資源を有効に配分する手だてを考える学問だということがよくわかる。学生、社会人を問わず、経済学の本質を知りたい方にお勧めしたい。【評者 北村行伸 一橋大学経済研究所教授】
| 中国10億人の日本映画熱愛史―高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで | |
![]() | 劉 文兵 集英社 2006-08-12 売り上げランキング : 31071 おすすめ平均 ![]() 日本の映像文化の影響を斬新な視点で解読した論争の書 もう一つの「中国/日本映画史」Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国が「反日」でないころ国民は日本映画に熱狂した
最近の中国に関しては、政治的な反日事件ばかりが伝えられるが、かつては中国で日本映画が熱狂的に受け入れられた時代があった。四半世紀以上も前になるが、文化大革命が終焉した1970年代後半から80年代にかけてのことである。
戦後の日本映画の上映は54年の『どっこい生きている』に始まる。日中映画交流は日中友好のシンボルであった。
66年に始まる文化大革命で一時途絶えるが、文革終焉後ふたたび復活する。その最初が、78年、北京・上海など八大都市で催された「日本映画祭」である。そのとき『君よ憤怒の河を渉れ』と『サンダカン八番娼館・望郷』が上映され、空前の日本映画ブームが起こった。
ことに『君よ~』の人気はすごかった。無実の検事(高倉健)が警察に追われながらも身の潔白を証明するために闘う姿に共鳴し、また資本主義社会の華麗で豊かな都市の光景に魅了され、住民の多くが映画館に足を運んだ。それは映画の作り手にも衝撃的で、フラッシュバックやスローモーションなどの技法が多用され、まるで「異星人の世界」のようだったという。
文革後に北京電影学院で学んだ第五世代のチャン・イーモウやチェン・カイコーなど紅衛兵世代の監督たちが最も影響を受けたのが、『砂の器』である。ハンセン病の父をもつ音楽家の犯罪を描いたものだが、彼らもまた「父親殺し」という歴史的体験をもつ「文革の子」であるゆえに共鳴したのだといわれる。だがそれ以上に、大胆な構図やカメラワークなどから多くを学び、独自の映画表現を築き上げていった。今では日本映画よりも中国映画の方が勢いをもっている。だが、日中友好のシンボルは日中映画人の交流だったという歴史をしっかり認識しておきたい。【評者 仲倉重郎 映画監督】
| 倒産社長、復活列伝 | |
![]() | 三浦 紀夫 草思社 2006-09-20 売り上げランキング : 6832 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
株式を上場した社長から、「上場で銀行融資に対する個人保証がはずれてほっとした」という声をよく聞く。株式会社は有限責任のはずだが、日本では創業者は個人保証や連帯保証人を求められ、会社を潰すと財産だけでなく、信用や、さらに命までも失いかねない仕組みになっている。
こうした日本で、会社を潰しながら、復活した社長はスーパーマンであり、強運の持ち主だろう。
この本は、12人の社長が登場する。たとえば、中古車販売で今をときめくガリバー。東証一部上場企業である。ガリバー創業者で社長の羽鳥兼市氏は、父から受け継いだ会社を、手形詐欺により、一度潰している。この危機に奮起して、恥も外聞も捨てて、中古車販売に邁進して、会社を立て直す。エス・キューブ社長の高橋義信さんは、何度か自殺を企て、最後に妻の声を聞きたくなって、公衆電話から電話したことで、命を取り留めた。こうしたドラマに満ちている。
| 香港大富豪のお金儲け 7つの鉄則 | |
![]() | 林 和人 幻冬舎 2006-10-11 売り上げランキング : 47 おすすめ平均 ![]() 著者の慧眼に拍手を贈る 経済に興味がなくても面白いかも 名著です!!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は岡三証券時代に、香港やシンガポールに住む華僑の富豪と付き合い信用を得るという貴重な体験をした。その体験をテコにして、現在ユナイテッドワールド証券会長を務める。
その著者が、教えてくれる香港大富豪の投資哲学である。評者には、この本の第4章「具体的な行動を起こすためのヒント」が面白かった。
この章の趣旨は、「つねに3年先を検証する」ということだが、「経済合理性があると時間にムダがなくなる」「自分のためになる人物と付き合うこと」「感情をコントロールする正しい知識を持つ」など具体的な「鉄則」が続く。第2章の鉄則3「お金に感情をはさまない」でも展開されている教訓に感心した。
「お金のやりとりに感情を込める日本的なやり方が、不思議と華僑投資家にはありません」と著者は指摘する。お金に感情をこめると、経済合理性からはずれ、結局投資に失敗するという戒めである。
| ざわわ ざわわの沖縄戦―サトウキビ畑の慟哭 | |
![]() | 田村 洋三 光人社 2006-04 売り上げランキング : 174759 おすすめ平均 ![]() 歌曲「さとうきび畑」と沖縄戦の実態Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本人だけでも約310万人ものかけがえのない命を奪った太平洋戦争。その悲劇を伝える「戦争もの」の報道も、毎年、秋風とともに掻き消えてしまう。それにしても、米軍が20万トンもの砲弾を撃ち込み、凄惨な地上戦を戦った沖縄は、いまだに米軍の実質的な占領状態が続いている。
かつて日本政府は沖縄戦を本土決戦のための時間稼ぎに使ったが、同様な犠牲を強いている。こうした沖縄県民の心情を歌った「さとうきび畑」が、沖縄の本土復帰の5年前の67年に発表された。最近では森山良子さんが歌うあのミリオンセラーの歌だ。だが、この歌は、意外にも、沖縄では、辛辣な批評や冷ややかな反応を受けていたという。
本書は、この沖縄戦の体験者ならではの感慨を充分に踏まえ、何も知らずに「ざわわ ざわわ…」と歌っている人たちに、サトウキビ畑で繰り広げられた事実を、たくさんの証言をまじえて、わかりやすく説明している。
| コインと紙幣の事典 | |
![]() | ジョー クリブ Joe Cribb あすなろ書房 2006-09 売り上げランキング : 97161 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「金が先頭に立つとすべての城門が開く」とは、シェイクスピアの戯曲『ウィンザーの陽気な女房たち』の一節である。金の威力はどこも同じ、というべきか。
ところで、金はいつごろから始まったのであろうか。本書によると、最初の硬貨は、紀元前7世紀にリディア王国(現在のトルコ)で作られ、金と銀の合金の塊にその重さを刻印したものであった。
また最初の紙幣は、10世紀の中国で紙に印刷した文書から始まった。持ち運びには不便だが、紛失するのを恐れて、228センチ×33センチものサイズだった。
貨幣の偽造も、長い歴史がある。古代ギリシアの偽造硬貨は、純金ではなく、金メッキを施した銅製であった。メッキがはげて緑色の銅が現れ、贋金だと判明した。精巧な紙幣の偽造も行われた。1835年ローマ銀行発行の紙幣とその偽造紙幣の2枚を並べて、「あなたはいくつ間違いを発見できるだろうか」と結んでいる。












物事を深く考えるとは・・・





