メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年9月24日~10月1日
| モダン道頓堀探検 | |
![]() | 橋爪 節也 創元社 2005-07-21 売り上げランキング : 54,730 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
大阪に赴任していた数年前の話である。着任早々、地元の人に「僕がイメージしていた大阪らしさが、だいぶ失われてしまったようだ」と言ったら、「東京人の抱く“大阪らしさ”はだいたい時代錯誤のうえに、多分にデフォルメされているからね」と標準語で一笑に付されてしまった。
確かに私にとっての大阪とは、老舗の昆布問屋と忙しそうに走り回る紺の前掛けの丁稚どん、たこ焼き、串カツにケツネうどん、法善寺の水掛不動さんに夫婦善哉という世界であった。
それはさておき、そうした懐かしい“大阪の原像”が満載されているのが本書である。道頓堀の屋根の向こうに見える「楽天地」の丸いドーム。夜店のドテ焼き。もうもうたる煙を上げるまむし(鰻)屋。中座、角座の芝居小屋など、大阪好きにはたまらないベルエポックの浪花が生き生きとよみがえる。大阪にやや元気がないと聞く昨今、ぜひこうした昔のパワーを取り戻してほしい。
| 武器の歴史図鑑 | |
![]() | マイケル・バイアム あすなろ書房 2005-08 売り上げランキング : 173,105 おすすめ平均 ![]() 怖いもの見たさ?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「武器の中の武器」ともいうべき、人間の手や腕の延長になる「剣」に対する考え方は、日本と西洋とでは根本的に異なる。日本の刀の場合、本来は、相手を倒すための武器ではなく、「他を害さず、己も傷つかぬ鞘の中にある」ことが最上の状態であるという。しかし、いったん刀が抜かれると、周囲のすべてを制してしまう。
ところで本書は、先史時代の石斧から、19世紀の拳銃、小銃に至るまでの、つまり大量殺戮を意図していない、世界中のさまざまな武器を紹介している。「日本の侍」という章では、「日本の武器と甲冑は、ヨーロッパや中東諸国と比べてはるかに装飾的である」と述べている。
また、ヨーロッパにおいて、自己の名誉を守るために行われた決闘では、厳密なルールが決められており、決闘用の特別製の武器が用いられたという。
武器とは、広い意味で「人類の負の文化」なのかもしれない。
| 下山事件―最後の証言 | |
![]() | 柴田 哲孝 祥伝社 2005-07 売り上げランキング : 188 おすすめ平均 ![]() 一級のミステリー作品 パンドラの・・・ 完結編Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1949年に当時の国鉄総裁、下山定則が轢死体となって発見された事件は、自殺、他殺両説が真っ向から対立する戦後史のミステリーの一つだ。
事件後、半世紀を経て、『葬られた夏 追跡下山事件』(諸永裕司著)、『下山事件』(森達也著)と“下山事件もの”の出版が相次いだが、本書はその決定版。というのも、前2著の発端となったニュースソースが本書の著者だからだ。
著者の祖父、大叔母、母親が事件の舞台と目される会社「亜細亜産業」に関わり、大叔母や母親の断片的な証言、膨大な資料、関係者への気の遠くなるような取材を基に、丹念に事実を追いかけていく。これまで下山総裁謀殺論の主流だったGHQ謀略説とは違う、新たな説も大胆に展開している。
白眉は、亜細亜産業の総帥、矢板玄へのインタビュー。「あと、10年、おれが生きているうちは書くな」。息詰まるようなやりとりが、圧巻だ。
| 寅さんと日本人―映画「男はつらいよ」の社会心理 | |
![]() | 浜口 惠俊 金児 暁嗣 知泉書館 2005-07 売り上げランキング : 61,839 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
フーテンの寅さんはなぜこれだけ人気があるのだろうか。柴又への帰郷と放浪、美人マドンナとの失恋騒動が織り成す悲喜劇が、毎度お馴染みのワンパターンながら、日本人の心をとらえて離さない。
人情味あつい下町気質、時に濃密過ぎる大家族的人間関係、日本の原風景を描き出すようなこの映画は、日本人の心理、行動を探る格好のテーマでもあろう。
社会心理学者たちが本書で果敢に挑戦している。
定番となっている台詞「それを言っちゃあおしまいだよ」は、家族的絆へのこだわりと甘えであり、「日々反省しております」とは建前として示す恭順の意であろう等々。四半世紀・48作にわたって人の心を癒やすその魅力と構造にも迫ろうとしている。
この映画を見せた学生多数による感想が面白い。始めはダサいと思ったが、次第に引き込まれて、なつかしい日本の姿に巡り合ったような新鮮な驚きと感動を語っている。
| 731 | |
![]() | 青木 冨貴子 新潮社 2005-08-04 売り上げランキング : 50 おすすめ平均 ![]() 勝利とはなんなのだろう? やっぱり出た 私たちが知るべき、戦後の闇の部分Amazonで詳しく見る by G-Tools |
第2次世界大戦下、満洲(中国東北部)で細菌戦を行った関東軍731部隊の犯罪については、これまでにも数多くの著作で告発がなされてきた。本書は米国在住ジャーナリストの手になるものだが、米国側資料に加え新資料を丹念に掘り起こした迫真のドキュメントである。
ナチスのユダヤ人大虐殺にも劣らない戦争犯罪にもかかわらず、部隊長の石井四郎はじめ軍医たちは、戦後、その責任を全く問われることはなかった。そればかりか石井の懐刀だった内藤良一元軍医は「日本ブラッドバンク」(後のミドリ十字)を創立し、731部隊の関係者の多くがそこで働き、後年、この会社が薬害エイズの元凶になったことはよく知られている。本書は、なぜその犯罪が免責されてしまったのかという“戦後史の深い闇”に迫っている。
それは、戦争が終わるとすぐ、米国はソ連より先に731部隊の細菌戦の研究成果を手に入れることに汲々となったからにほかならない。免責の保証を与えることで、情報の提供者という地位を得たのである。著者は「石井四郎は細菌戦に手を染めたからこそ、生き延びたことを知っていただろうか」と書く。
第1次大戦は毒ガス使用などおぞましい近代戦の幕開けになったが、それを契機に化学・細菌兵器を禁ずるジュネーブ議定書が締結された。直後、石井は「条約で禁止するほど細菌兵器が脅威ならば開発しない手はない」として、後の731部隊の創設を決意していく。そして、第2次大戦で勝者となった米国も、この“禁断の兵器”に取り憑かれていく。実際、朝鮮戦争では、米軍は731部隊の開発したものと酷似した細菌兵器で北朝鮮軍を攻撃したと伝えられたが、事実は闇に葬られた。
戦後60年、戦争の責任について考えさせられる好著だ。【評者 内藤 哲 ジャーナリスト】
| なぜ、民主主義を世界に広げるのか-圧政とテロに打ち勝つ「自由」の力 | |
![]() | ナタン・シャランスキー 藤井 清美 ダイヤモンド社 2005-07-01 売り上げランキング : 29,630 おすすめ平均 ![]() 民主国家の非民主的な行為を民主的に処遇できるかどうかが民主主義の生命線 ブッシュに反対するものはテロリスト 独裁政治の排除こそテロ対策かAmazonで詳しく見る by G-Tools |
なぜ民主主義を世界に広げるのか、という問いに対して、本書はこう答える。自由民主主義は、自国の人々の権利を尊重する。自国の人々の権利を尊重する人々は、他国の人々の権利も尊重するからだ、と。
民主主義社会の権力は、自国の人々に依存している。すべての人々は、自由を愛し、自分のものも他人のものも含めて、人命を尊重したいと思っている。したがって民主主義社会の権力者は、戦争もテロリズムも避けようとする。だから民主主義を世界に広げなければならない。
本書は、圧制との妥協が平和をもたらすという考えを真っ向から否定する。西側の民主主義者も現実主義者も、ソ連と東欧の共産主義体制が崩壊するとは思ってもいなかった。賢明な妥協によって、平和を維持するべきだと考えていた。
ソ連のユダヤ系人権運動家でイスラエルに移住した著者は、彼らは自由の力を信じてはいなかったという。圧制は人々を信奉者と反体制者と「二重思考者」に分ける。多くの人々は、反体制者となって収容所送りの危険に身をさらすことはしない。したがって、彼らは、表向きは体制のイデオロギーを信じているふりをする「二重思考者」として生活する。外から見れば、その国にはほとんどの信奉者と一握りの無力な反体制者がいるとしか見えない。だから、他国の自由を拡大することは非現実的に思える。しかし、「二重思考者」は圧制が続くほど増大していき、圧制が消滅したときには、二度と恐怖の中で暮らしたくないという人々がすべてとなる。だから民主主義を世界に広げることは可能なのだという。
著者は、ともかくもヨーロッパの一部であるソ連・東欧だけではなく、アジアでも、パレスチナを含む中東でも、人々は自由を望んでおり、自由な人々は平和をもたらすと主張する。
圧制を支え、平和を危うくし、テロリストを跋扈させるのは圧制と妥協する西側の民主主義国だという。圧制の側は西側の技術や資金を得て、圧制の維持を図っているのだから、人権の擁護と西側の与えるものをリンクさせることが必要だ。そのリンクによって人権運動は活性化され、ソ連は崩壊したという。
私は、著者が述べていることは、アジアの独裁国家については正しいと思った。中東についてそうであるかどうかは分からない。しかし、パレスチナについて、いかなる日本人よりも著者は知識を持ち、自国の安全をかけて自由の力を説いている。
著者は、日本では評判の悪いネオコンと見なされる一人だろうが、本書には、冒険主義でも独りよがりでもない、自由の力についての真摯な洞察がある。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】
| 「談合業務課」 現場から見た官民癒着 | |
![]() | 鬼島 紘一 光文社 2005-08-24 売り上げランキング : 2,629 おすすめ平均 ![]() 出版物としては、ここまでが限界かAmazonで詳しく見る by G-Tools |
■著者に聞く 作家/鬼島紘一
――鬼島さんが勤務していた大林組は、1990年代に「勝ち組」「優良ゼネコン」の名声を欲しいままにしました。その快進撃の裏側で、巨大な不正の構造があったと、鬼島さんは指摘しています。
関西発祥の大林組には、首都圏で知名度を上げたいという長年の悲願がありました。そこで目を付けたのが、当時首都圏の主要駅周辺で売却を待っていた国鉄清算事業団の広大な土地でした。もともと大林組は、旧国鉄系には最も強いゼネコンでした。この関係を利用して、事業団用地の落札を自由に操れば、落札企業から莫大な金額の工事が受注でき、名声も上がる。こうもくろんだのが、当時の向笠慎二副社長(その後、社長を経て、現在は最高顧問)らの会社首脳でした。
大林組は、ミスター事業団と呼ばれ辣腕を振るっていた山口良雄氏(元事業団理事、大林組で常務取締役)を迎え入れ、独占的に落札する仕組みを考え出しました。そして落札のための特別チーム(SJプロジェクトチーム、鬼島氏はその一員だった)を組織し、汐留、品川、みなとみらい21、旧国鉄本社、八重洲北口などの巨大プロジェクトに勝ち続けたのです。
成功のカギとなったのが事業団にとっては極秘中の極秘であった予定価格や入札保証金の情報でした。大林組は山口氏がいたお陰で、こうした情報を容易に入手することができたのです。
――相次ぐ勝利の興奮さめやらぬさなかの98年10月、朝日新聞が一面トップで事業団の情報が大林組に漏洩したとスクープしました。
その日は朝から大混乱でした。警察や検察が来るかもしれないと大あわてで、「やばい資料は全部焼却しろ」となりました。焼却専門の業者に渡した資料は段ボールにして約20箱分。もっとも、当時の運輸省は調査に乗り出したものの、案の定、うやむやな形で幕引きとなりました。
表向き、不正はなかったことになっていますから、社内では誰もおとがめなし。直接かかわった人も、肩身の狭い思いをすることはありませんでした。向笠さん自身、汐留や品川での勝利の功績もあって社長になった人なのです。
――本書によれば、鬼島さんはSJプロジェクト解散とともに、談合専門の部署に異動になったとか。
当初、何で私がこういう違法行為を専門にする部署に配属されるのかという違和感で一杯でした。自社が取る予定の仕事以外は、落札が決まっている企業から言われた金額を書いた札を入れるだけ。もちろん、談合そのものは緊張しますよ。万一、数字を間違えて落札に失敗でもしようものなら首が飛びますからね。間違って他社の工事を落札しても責任問題になります。
――橋梁談合では、日本道路公団の副総裁の逮捕に発展しました。不正をなくすためには、何が必要でしょうか。
例外なく天下りを廃止することですね。これは最低限のことです。これなくして官民の癒着は断ち切れません。そのためには、役人の世界でもきちんとした人事や給与の処遇を行い、退職後も天下りなしで生活できるシステムにする必要があると思います。
| 未来をひらく歴史―日本・中国・韓国=共同編集 | |
![]() | 日中韓3国共通歴史教材委員会 高文研 2005-06 売り上げランキング : 3,462 おすすめ平均 ![]() いたたっ 気持ちの悪い本 聞かれる前に言うと、共産党支持者ですAmazonで詳しく見る by G-Tools |
歴史教科書といえば、復古主義的な扶桑社版が論議を呼んだのは記憶に新しいが、それと真っ向から対決する歴史教材が本書だ。
「日本・中国・韓国共同編集」と銘打たれており、副題には「東アジア3国の近現代史」とある。
章立てを見ると、序章・開港以前、第1章・開港と近代化、第2章・日本帝国主義の膨張と中韓両国の抵抗、第3章・侵略戦争と民衆の被害(以下略)となっており、それぞれには必ず日中韓3国の動きが記されている。またコラムには、中江兆民、李大K、安重根、平塚らいてうなど、教科書であまり詳しい記述のない、国家権力と戦った人々や民主主義の先覚者が多く採り上げられている。
近代史を知らない若い層が年々増えているが、本書を読めば、あの15年戦争の原因が昭和になって突然現れたのではなく、明治政府の成立当初から天皇制国家に本質的に内在していたものであったことがわかる。中高年層にも薦めたい。
| 写真の歴史入門 第3部「再生」戦争と12人の写真家 | |
![]() | 鈴木 佳子 東京都写真美術館 新潮社 2005-07-22 売り上げランキング : 34,687 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
敗戦により、戦争と天皇制のくびきが取り払われると、それまでじっと身を屈めて嵐の過ぎ去るのを待っていた写真家たちは、一斉に本来の活動を再開する。
たとえば木村伊兵衛は戦争中、『FRONT』という参謀本部の肝いりによる国策宣伝誌の編集部で一種の“避難生活”を送っていた。戦争が終わると、彼は旺盛な創作意欲を発揮し始める。終戦直後の東京・四谷見附で撮影した「進駐軍の道標」という作品があるが、焼け野原の街角にポツンと立つ英語の標識からは、敗戦の悲惨さより、むしろあふれ出るような解放感が強く感じられる。
東京裁判の被告席で眠りこける東條英機、平沼騏一郎らを撮した作品も、緊張の中における弛緩の一瞬を見事に切り取った傑作だ。
本書には、木村をはじめ、林忠彦、桑原甲子雄、中村立行など、戦後のフォトジャーナリズムで活躍した名手12人の代表作が収録されており、あらためて彼らの力量を思い知らされる。
| 米国特派員が撮った日露戦争 | |
![]() | コリアーズ 小谷 まさ代 草思社 2005-04 売り上げランキング : 168,020 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
領土拡大に走る日本とロシアが、干戈を交えた日露戦争に、欧米から多くの観戦武官、従軍カメラマン、画家が訪れた。当時の写真機の性能では、戦闘場面の撮影などは不可能だったので、イラストによって戦闘場面を伝えた。
イラストは、イギリスのキャッセル社であり、写真の方は、1884年創設のアメリカの週刊誌『コリアーズ』であった。
各国の特派員は開戦から数カ月もの間、東京で足留めを食ったが、『コリアーズ』の特派員は宣戦布告より前に朝鮮に入り、日本陸軍の初上陸という歴史的瞬間をカメラに収めた。これは大スクープであった。もちろんロシア側にも従軍カメラマンが送られていた。
本書は、『コリアーズ』の記者団による写真集。両国の戦いぶり、兵站、銃後、そして戦場となった朝鮮半島など実に珍しい写真が収録されている。これらは、当時のアメリカでその戦況を伝えた唯一の写真であった。
| 君あり、故に我あり―依存の宣言 | |
![]() | サティシュ・クマール 講談社 2005-04 売り上げランキング : 137,321 おすすめ平均 ![]() 近代インドの生き生きとした家庭教育の描写や高名な思想家との対話が秀逸Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「生きとし生けるものは神聖である」と謳ったのは、18世紀末のイギリスのメタフィジカル・ポエットの重鎮、ウィリアム・ブレイクであった。
確かに現今の世界の紛争ないし対立は、デカルト以降の二元論的世界観から惹起しているのではないか。
あのデカルトの有名な命題「我思う、故に我あり」ではなく、本書の著者は、サンスクリットの格言「ソーハム(彼は我なり)」を、「君あり、故に我あり(あなた方が存在する、故に私が存在する)」と解釈している。
著者は、インドで生まれ、9歳のとき出家してジャイナ教の修行僧になり、18歳で還俗する。37歳からイギリスに定住。共生関係を実践的原理とすることによって、世界中で平和運動をしている。
口承文芸の思想家らしく、本書には随所に箴言が見当たる。暴力に対して非暴力を訴えた「ガンジーの足跡を辿って」の平和巡礼は圧巻である。
| 日露戦争の世紀―連鎖視点から見る日本と世界 | |
![]() | 山室 信一 岩波書店 2005-07 売り上げランキング : 4,126 おすすめ平均 ![]() 連鎖的歴史記述そして非戦の願い 戦争に至る背景を詳しく伝えている やや左派視点からの日露戦争Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は『日露戦争の世紀』と題されていることからもわかるように、単に日露戦争の叙述にとどまらず、それを基点とした前後50年の時代を連続した一つの時代として扱い、さらにその時代がアジアという地域や世界との連鎖のなかでどのような意味を持ったのか(持ち続けているのか)を問うている。コンパクトな新書という制約にもかかわらず、その内容の広がりは、現代の「歴史認識」問題にも直結している。
たとえば、日露講和条約が結ばれたその同じ年に、日本が「満洲」に租借地という名の植民地を持ち、さらに第2次日韓協約によって韓国を保護国化したことは、年表でもすぐに確認できよう。しかし、1900年、満洲に進出していたロシアが清国軍と衝突した事件を契機に、アムール州在留の中国人が大量虐殺されたブラゴヴェシチェンスク事件が、当時の日本にいかなる衝撃を与えたかについては、年表だけを見ていたのではわからない。著者は、この事件を「虐殺の世紀」としての20世紀の幕開けを象徴する事件としてとらえられるかもしれない、と述べている。また同じくこの事件は、やがて中国国内の反満興漢運動、孫文らによる辛亥革命へとつながっていく思想運動を惹起していった。20世紀は「革命の世紀」でもあった。
本書の叙述の方法として重視されている、こうした「連鎖視点」は、ほかにも随所で活かされているが、特に「アジアへのまなざし、アジアからのまなざし」という視点は、本書の大きな柱の一つであろう。「アジアで生きていくしかない日本の次代を担う若い人たち」に自国の歴史のアウトラインを知って欲しいという願いをこめて書かれた本書は、もちろん若い人たちに限らず、広く読まれるべき一書である。【評者 中村宗悦 大東文化大学経済学部教授】
| イスラーム世界の創造 | |
![]() | 羽田 正 東京大学出版会 2005-07 売り上げランキング : 8,949 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「イスラーム世界」は実在しない――これが本書の端的なメッセージである。もう少し正確に言うと、「イスラーム世界」は理念として(いわばムスリムの想像の共同体として)は存在するが、その理念に一致する実体は存在しないし、したこともないということだ。したがって「イスラーム世界」なるものが実体として存在することを前提として世界を見ることは、それが無意識的であっても、意識的であっても、イデオロギー的なものとならざるをえない。
著者は、9世紀から17世紀に至るアラビア語文献およびペルシア語文献の検討と18世紀から20世紀前半に至るヨーロッパの旅行記、地理書、歴史書の記述、そして東洋学の言説の検討とを踏まえ、この「イスラーム世界」という概念が、19世紀のヨーロッパにおいて、「ヨーロッパ」という概念と、一対のものとして成立したことを直截に論証している。
著者の批判は、この「イスラーム世界」という概念が、ポジティブであれネガティブであれ、単に現実を歪曲ないしは誇張したイメージを広めているという論点を超え、その概念に対応する現実がそもそも不在であるがゆえに、イメージの誤りを正そうとする議論までもが実はこの概念が作り出すイデオロギーの世界に取り込まれてしまうことを指摘する点で徹底している。
また著者は、戦前の日本における国策的な「回教圏」研究の前提になったロジックと「イスラーム世界」概念の構成との間にある親和性を指摘し、中等教育の現場にまで「イスラーム世界」という概念が浸透している日本人の世界認識の特殊性にも読者の注意を促している。
門外漢をも引き込む迫力に満ちた文章に、近世イラン史の専門家としての自己批判の込められた苛烈な一書である。【評者 山下範久 北海道大学大学院文学研究科助教授】
| 戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ | |
![]() | 野中 郁次郎 戸部 良一 鎌田 伸一 日本経済新聞社 2005-08-06 売り上げランキング : 92 おすすめ平均 ![]() 『失敗の本質』には及ばないが・・・ 前作に比較にならない駄作 参考になるAmazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は20年以上前に書かれた名著『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』の同じ著者たちによる著作である。『失敗の本質』には「過去の成功体験に過剰反応すると失敗を回避できない」という明快な主張があったが、今回の『戦略の本質』のメッセージはいささか複雑である。副題にもあるように、本書は戦略論であると同時にリーダーシップ論でもある。
大部分は戦争に重大な転機をもたらした逆転のケースの紹介に充てられている。毛沢東の反「包囲討伐」戦、バトル・オブ・ブリテン、スターリングラード攻防戦、朝鮮戦争の仁川上陸作戦、第4次中東戦争、そしてベトナム戦争、の六つである。
それぞれのケースを通じて逆転を可能ならしめた戦略の本質を抉り出そうと試みている。読み物としても面白い。これらのケースを読むにあたっての視点を提供するために、最初に戦略論の系譜を解説し、ケースの紹介後、逆転を可能ならしめた戦略の構造を解き明かし、さらに末尾に戦略の本質を10の命題にまとめる、という構成である。
1980年代、世界のトップを走っているように見えた日本の多くの企業が、バブル崩壊後なかなか逆転に転じることが出来なかったのは戦略と戦略的リーダーシップの不在によるものである。本書の著者たちによれば、日本企業の得意としてきた「誠実な努力や周到な準備」だけに頼っていたがゆえに逆転をなし得なかったのである。
逆転をもたらす戦略とは単なる計画の策定ではない。主体的なビジョンを持ち、環境を分析と直感によって整理し、企業が進むべき方向を示し、そして組織構成員のパワーを引き出すことによって、新たな未来を創造するプロセスである。そのプロセスを率先できるのが賢慮型リーダーである。賢慮型リーダーとは、分析的理性と実践的知恵を兼ね備え、細部に通じると同時に大局を見失うことのないリーダーである。そしてトップダウンで方向性を示すだけではなく、組織のあらゆる階層にそのような能力を植えつけることの出来るリーダーである。
日本のリーダーは細部への目配りや現場の力を引き出す能力には長けているが、著者たちによれば、リアリズムが欠落し、理想や大局観も貧困である。さらに、日本の戦略は現場の直感力にあまりにも依存しているために慣性に流れる傾向があり、主体的なビジョン、大胆さ、そして創造性に欠けている。
ケース解説以外では、方法論の用語や文献の引用が間断なく紹介されるが、もう少し著者たちの言葉で平易に語ればビジネスマンにもっとインパクトのあるものになったのではないか。【評者 清水紀彦 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授】







やっぱり出た

ブッシュに反対するものはテロリスト

聞かれる前に言うと、共産党支持者です






