メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年9月10日~9月17日

スクープ音声が伝えた戦後ニッポン
4104780014文化放送報道部

新潮社 2005-07-28
売り上げランキング : 21,746

おすすめ平均 star
star音ならでは。

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音声による報道は、場合によって映像によるそれより、生々しい臨場感を感じさせることがある。また、昔のニュース映像が古さをダイレクトに感じさせる(これはこれで面白いのだが)のに対し、録音というものは、不思議に古さを感じさせない。

本書は、文化放送報道部のライブラリに残るニュース音源を基に作られた。戦後の各年代ごとに当時のトピカルなテーマを選び、見開きごとに1本話題を載せている。だが、なんと言っても本書の特色は当時の音源とナレーションを収録したCDを付けていること。

最初の話題は、1958年の売春防止法施行日の様子を取り上げた「赤線が消えた日」。法律成立の背景や、関係者の談話などが興味深い。

ほかには、60年安保闘争、東京オリンピック、三島由紀夫割腹事件、元日本兵の横井、小野田両氏の帰還など、今となっては懐かしい出来事がいろいろ収録されている。

■2005/09/17, 週刊東洋経済

ヒトラー 最期の12日間
4000019341ヨアヒム・フェスト 鈴木 直

岩波書店 2005-06-21
売り上げランキング : 2,792

おすすめ平均 star
star新事実は?
star人間ヒトラーの本質とは

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第1次大戦後のドイツで高まる大衆ナショナリズムを背景に、華々しく登場した“ボヘミアの伍長上がり”ヒトラー。彼は東欧の植民地化による「ヨーロッパ新秩序」という狂気の千年王国をもくろんだが、砂上の楼閣にすぎなかった。

しかしながら、ヒトラーの最期は「地下要塞での自殺」以外、たとえば、彼の最期に至近距離にいた人々からの、少なくとも四つの証言――彼と妻のエーファの自殺死体の行方、ソ連側の主張する首相官邸への突入一番乗りなど――に矛盾があり、不明な点が多い。

本書は、1次情報提供者の話や、その他の資料を使った証言文学的手法で「最期の12日間」を再構築し、ヒトラーとは何者か、を追求したものである。

管見を述べるなら、ヒトラー暗殺未遂事件の首謀者が「地下要塞のヒトラー―これぞ本物のヒトラーである!」と書き遺しているが、これこそヒトラーの実像なのかもしれない、と思われる。

■2005/09/17, 週刊東洋経済

アメリカ黒人の文学
488896355X関口 功

南雲堂フェニックス 2005-04
売り上げランキング : 955,268


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わが国のアメリカ黒人文学の研究において「この人あり」といわれた関口功さんのエッセイ集である。

アメリカ黒人文学の流れを鳥瞰した本書によると、黒人文学は、アメリカ社会の民主主義的偽善に対する怒りの文学、告発の文学として噴出した。

だがその抗議の結果は、常に無残な敗北に終わり、しかも実質的な中身が無視された。彼らは、その独自のエートスが矮小化されるのに気づき、次第に現代の危機的な状況において自己の正体を見極めること、換言すれば、アイデンティティを探求することに焦点が移った。新たなテーマの発見であった。

これは黒人だけに限らず、人間全体が一様に遭遇している運命でもある。その際、人種としての黒人という概念を、現代の危機的状況を説明するにふさわしい普遍的象徴にまで見事に高めたのだった。このことが今日のアメリカ黒人文学の多様性と豊かさを付与しているのである。

■2005/09/17, 週刊東洋経済

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り
4022598778藤木 久志

朝日新聞社 2005-06-10
売り上げランキング : 32,346

おすすめ平均 star
star歴史の中の危機論

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本書によれば、戦国時代、戦に敗れた側の領民やその子女は奴隷とされ、売買されていた。日本に奴隷市場があったということにまず驚く。が、考えてみれば、戦いの勝利者が略奪行為をするのは、古今東西珍しいことではない。また、戦利品を売りたい者がおり、買いたい者がいれば、自然に市場もできるだろう。

しかし、さらに驚きがある。敗軍の雑兵たちは、何と戦争奴隷として、海外に輸出されていたのだ。戦で鍛えられた雑兵はアジア最強の兵士だった。この時期、ヨーロッパの国々は東南アジアへ進出し、争いを繰り広げていたが、最前線では多くの日本人が戦っていたのだ。

1621年、江戸幕府が戦争奴隷の輸出を禁止すると、オランダやイギリスは禁止令撤回のためにあらゆる手を尽くす。日本史を見る時、われわれは、つい国内だけを見てしまうが、当時の日本は緊迫した東南アジアの一部だったのだ。史実の意外性に真に満足感を味わえる一冊だ。

■2005/09/17, 週刊東洋経済

投資家よ騙されるな! ウォール街 欺瞞の血筋
4492732012チャールズ ガスパリーノ 田村 勝省

東洋経済新報社 2005-07-29
売り上げランキング : 6,254

おすすめ平均 star
starウォール街事情通じゃないと難儀?

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シティ・グループの投資銀行であるソロモン・スミス・バーニーで人気ナンバーワンのアナリストだったジャック・グラブマンは、自分の子供を有名幼稚園に入れようとして幼稚園とのコネを利用するが、そのためにATT株に対する評価を変え、お客にATT株を奨奨した。

このグラブマンは、ワールドコムが倒産するまで、この株をお客に薦めていた。これはウォール街では有名な話だが、このグラブマンのほかにモルガン・スタンレーのメアリー・ミーカーとメリルリンチのヘンリー・ブロジェットの3人を取り上げて、証券アナリストの生態を暴いたのがこの本である。

アメリカの投資銀行というのは、日本でいえば引き受け部門を持つ証券会社のことだが、株式の新規公開や増資などの引き受けで稼いでいる。証券アナリストは、この引き受け部門に協力して、株式の評価を変える。

そればかりか、投資銀行は証券アナリストの報酬を査定する際、引き受け部門にどれだけ貢献したかで、その額を決める。

そこでアナリストは、当然のことながら引き受け部門に都合のいいように株式評価をする。

このアナリストの評価を信用して株を買うお客こそ、いい面の皮だ。こんな話どこかで聞いたような気がするが……。

ただ、日本ではそれは会社のためだが、アメリカでは自分の給料を増やすためである。

SECが予算と人員が不足しているので手をつけなかったために、こんなことになったのだが、これでウォール街では情報がすべて公正だというのだからあきれる。

株式市場が完全競争市場だという神話を信じている人にこの本を薦めるが、これだけたたかれても、この3人はいずれも金持ちで、優雅な生活を送っているというのだから驚く。【評者 奥村 宏 経済評論家】

■2005/09/17, 週刊東洋経済

リーダーシップ・コミュニケーション
4478360723ロバート・メイ アラン・エイカーソン 徳岡 晃一郎

ダイヤモンド社 2005-07-01
売り上げランキング : 6,384

おすすめ平均 star
star一読の価値あり

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評者は、仕事柄多くのベンチャー経営者と接する機会がある。またこれまでも、多くの組織を内外からじっくり観察する機会があった。その経験から強く感じるのは、リーダーの組織内でのコミュニケーション力不足である。

本書は、まさにこうした人々に格好の処方箋を提供してくれる。著者は、コミュニケーション・コンサルティングでは世界的に有名なフライシュマン・ヒラードの(元)コンサルタントだ。彼らの豊富な経験に基づく、ともすれば丁寧すぎるほど具体的かつ実践的な内容は、組織のリーダーがコミュニケーションについての理解を深め、組織におけるその重要性を認識し、それに戦略的に取り組む上で、大いに役立つだろう。

本書では、リーダーが持つコミュニケーション力(リーダーシップ・コミュニケーション)の本質を、さまざまな立場にいるあらゆる人たちの間で人間的なつながりを築くことであるとし、これを三つのテーマと10の役割というユニークな視点から議論しているところが面白い。組織におけるコミュニティと信頼の構築を行うコミュニティ開拓者として、意義構築者、ストーリーテラー、信頼構築者という役割、優先度の高い仕事への集中と協力体制の確立を行うナビゲーターとして、針路設定者、変革のパイロット、ネットワーク推進者という役割、組織を改善し成長させるための学習と自己変革の推進を行う組織改革の仕掛け人として、批評者、扇動者、学習推進者、イノベーション・コーチという役割……。これらはどれも大切な役割だ。

本書を契機に、1人でも多くの組織リーダーがリーダーシップ・コミュニケーションを実践し、状況に応じて10の役割をうまく使い分けられるようになることを是非とも願いたい。【評者 黒田康史 ベンチャーキャピタリスト】

■2005/09/17, 週刊東洋経済

日本の洗濯 考えるエッセンス
4890136029黒川 清 板垣 雄三 猪口 孝

西村書店 2005-07
売り上げランキング : 24,142

おすすめ平均 star
star目から鱗の一冊ではなかろうか

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タイトルからは想像がつかないが、本書は、医学、中東、国際政治と異なる分野の学者3人が朝日新聞編集委員の質問に答えて、日本における「学」の役割、イスラームを中心とする従来とは違う世界観、日本の成功の背後にある歴史の流れなどを、自由かつ勝手に話した座談集である。大局的な話題だけでなく、3人の子供時代、自分の専門分野を見出したきっかけ、今、日本や世界について怒りを感じていることとそれに対する解決案を具体的に語っている。

ほとんど編集なしに発言をそのまま生かしているため、三者三様のパーソナリティが感じられ、その場の雰囲気を体感できるという利点がある。一方、3プラス1人という方式のため、似た話が複数箇所に登場したり、発言が断片的であったりと、話の背景や詳細を知らないとストーリーが理解しにくい所がある。この点で、内容への関心がそがれる読者もあろう。

全体としては、国における科学の役割・教育の重要性に焦点が当てられている。特に、官僚化した日本の学界や、自由な発想に乏しく、身近な地域社会に参加しようという社会的責任感のない学者に対して、3人が会員や会長を務める学術会議が進めている新しい方向や改革が情熱を持って語られている。

また、教育を越えて、現在の日本が直面する課題を、国際経験豊富な3人が違った分野から共通して提起している点は興味深い。たとえば、現在の価値観がどのように形成されてきたかに対する歴史観や理解がないこと、変化が著しい世界に対する非常識とも思える感覚の欠如、官僚、企業、メディア、学者いずれも内向きで、世界やアジアにおける日本の役割を実現するために、具体的な行動を起こす当事者意識やビジョンを持たないこと、多様性が許されない日本の社会構造やメンタリティなど、共感する点は多い。

いずれも、若い世代が、1人で外の世界へ出て行き、現地を実感すること、過去のリーダーや教育に盲従することなく、現在起こりつつある変化を踏まえた自分なりの見解を持ち、自信を持って世界へ発言することへの期待を語っている。

対談集であるため、さっと読めるし、読者が自分で「考える」ための材料となる興味深いアイディアが多数詰まっている。学者・教育者はもとより、日々の仕事をこなすことに忙殺されているビジネスマン、新しい時代を担う子供を持つ両親などに薦めたい。時間と地域という二つの軸で思考の世界が広がる感覚や醍醐味を感じるきっかけになろう。「学」の改革が実績に結びつき、続編で語られることを期待している。【評者 石倉洋子 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授】

■2005/09/17, 週刊東洋経済

ドキュメント沖縄1945
489434470X玉木 研二

藤原書店 2005-08
売り上げランキング : 38,413

おすすめ平均 star
star淡々とした文章ですが怒りがこみあげます

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連合国による日本の占領が始まったのはいつからだろうか。1945年8月?

確かにマッカーサー元帥が厚木に降り立ったのは8月だが、すでに4月からある地方では占領が始まっていた。沖縄である。

戦争の敗北が決定的となっていた45年4月1日、米軍が沖縄本島に上陸した。本土決戦の時期を遅らせるため、沖縄県民の生命と財産を犠牲にして行われた悲惨な戦闘の始まりだった。

この戦闘では、一般の成人男性はもちろん、年端もいかぬ女学校の生徒までが軍の役務に駆り出され、多くの住民の命が失われた。

本書は、米軍の上陸から6月23日の牛島満司令官の自決による沖縄守備軍崩壊までの沖縄戦の状況を、日々の日誌風にまとめたドキュメント。読むと沖縄県民や日米両軍の兵士が、いかに過酷で悲惨な状況に置かれていたかがわかる。

沖縄県民が、今もって「戦争の記憶」と「平和」に徹底的にこだわる理由もよく理解できる。

■2005/09/10, 週刊東洋経済

南スペイン、白い村の陽だまりから
4487800749石井 崇

東京書籍 2005-06
売り上げランキング : 88,387

おすすめ平均 star
star人生のツワモノども。

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最もスペインらしいスペインといえば、躊躇(ためら)わずアンダルシアである。

南国の光と花。雲一つない青空と白い家。そして、フラメンコと闘牛の故郷。ピカソ、ロルカの誕生の地でもある。こんなところに30年も暮らしている日本人がいた。

あのアルハンブラ宮殿のあるグラナダに聳えるシェラネバダ山脈の南面の、フェレイローラ村に住んでいる。この村も、今や村人口は50人足らずであるが、なんと世界8カ国からやってきた異邦人や都会生まれのスペイン人、そして生粋のこの村人が共存する、いわば国際村なのである。

確かにわれわれの価値観からすれば、いわば陸の孤島であり、不便な生活である。

だが、懐かしい情景もある。動物との共生である。犬であれ、猫であれ、ラバであれ、どんな動物もペットではなく、それぞれの役割を担っている。戦後間もなく、われわれの生活もこうだった。

■2005/09/10, 週刊東洋経済

巨大市場インドのすべて
4478231370島田 卓

ダイヤモンド社 2005-07
売り上げランキング : 2,369

おすすめ平均 star
star歴史・文化も満載で、初心者でもOK。
star巨大市場インドのすべて

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著者は、1991年から95年まで東京銀行インド支店次長を務めた後、インドビジネスのコンサルタントとして独立した人。本書は題名のとおり、インド市場の基礎的な情報から、最新情報までを網羅している。

その中で特に注目すべきは、第3章「州をゆく」。主要な州の政治経済情勢をはじめ、文化や歴史的背景について、コンパクトにまとめられている。インド各地の情勢について知りたいビジネスマンには必読の章だ。また、第2章「インド経済最前線」も興味深い。トヨタ自動車や三菱化学など、日本企業の現状について、現地の声を織り込みながら、生の様子を伝えている。さらに、現地小売業の状況やインド企業のランキングも掲載されている。

インドについて書かれた紀行文は多いが、経済に関する本は多くない。また、あったとしても学者の書いたアカデミックな書である場合が多い。本書はビジネスマンに役立つ貴重なインド本と言える。

■2005/09/10, 週刊東洋経済

単位171の新知識 読んでわかる単位のしくみ
4062574845星田 直彦

講談社 2005-06-21
売り上げランキング : 7,480

おすすめ平均 star
star単位の数にまず圧倒
star一家に一冊
starさまざまな「単位」の由来や定義がわかる

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質量の単位「kg」の定義をご存じだろうか。「1気圧摂氏3・98度の水1000立方cmの質量」というのは、かつての定義ではあるが、現在は違う。正しい答えは、「国際キログラム原器の質量」である。

1992年、日本は国際単位系(SI)の全面採用を決めた。これは、m(長さ)、kg(質量)、秒(時間)、A(電流)、K(温度)、cd(カンデラ、光度)、L(物質量)の七つを基本単位とする単一の計量単位系である。これによって、たとえば天気予報の気圧単位「ミリバール」が「ヘクトパスカル」に変わったことは記憶に新しい。

本書はこうした単位の起源や定義、またそれにまつわるエピソードなどを、概観的、体系的に知ることができる。また、SI系単位だけではなく、ヤード、ポンド、尺、貫などのあまり使われない単位についても項目が設けられている。

基本知識なのに案外知らない単位について簡単に知るために、最適の書だ。

■2005/09/10, 週刊東洋経済

イギリス大聖堂・歴史の旅
4621061046石原 孝哉 市川 仁 内田 武彦

丸善 2005-07
売り上げランキング : 166,042


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11世紀初頭のロマネスク様式以降の石造りの教会に関し、たった一つだけ共通している特徴がある。それは主祭壇が必ず東を向いていることだ。なぜか。

聖地エルサレムが東の方向にあるからだ。こうした石の建築術を伝えたのが、旅人石工集団であるフリー・メーソンであった。イギリスの教会や大聖堂も例外ではない。

本書はイギリス国教会の大聖堂の中から21を選び、その建築の歴史を概略的に語る。また、聖堂内部の記念品、陳列品を案内、そこにまつわる聖人、王侯貴族から一介の庶民にいたる様々なエピソード、それに筆者自身の体験談を盛り込んで、大聖堂を通じてイギリス文化の一端を語ったものである。

たとえば、イーリー大聖堂での愛玩動物特別礼拝の様子や、ウェルズ大聖堂でのビートルズを歌う聖職者の話など、大聖堂の営みのほのぼのとした一面であろう。また、サザックス大聖堂での弟エドマンドの死を悼むシェークスピアの話、ベリー・セントエドマンド大聖堂での暴君ヘンリー八世に逆らって自分の意思を貫き通した妹メアリー・テューダー。サウスウェル・ミンスター大聖堂での妻と8人の子どもの姿が刻まれたサンズ大主教の墓にまつわる話、あるいはロンドンのセント・ポール大聖堂の建立に最大の功労者であったアン女王の石像が大聖堂に背を向けている話など、歴史上の人物が急に身近なものに感じられる。

過去の栄光の証人である大聖堂は、俗世間とは無縁の信仰の世界に思えるであろうが、本書によると、そこが聖なる空間であり、人びとの信仰の証であると同時に、なんともいえぬ人間くさい生活の場であることがわかり、石造りの巨大な建築がほのかな温かみのあるものと感じられるであろう。【評者 川成 洋 法政大学教授】

■2005/09/10, 週刊東洋経済

シルクロードの滑走路
4163240500黒木 亮

文藝春秋 2005-06-10
売り上げランキング : 9,262

おすすめ平均 star
star商社はリスクを取ってなんぼ
starやはりおもしろい
star白熱する交渉戦

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キルギスの航空会社への航空機ファイナンスをめぐる物語。中央アジア諸国がどのような位置関係にあるかすら、日本人は知らない。ただ、キルギスと言えば、つい最近、独裁と腐敗を指弾された大統領が失脚したことで多少なじみがある。

航空会社の機材は恐るべき状況にある。旧ソ連の遺物とでもいうべき飛行機が飛んでいる。航空会社の近代化は一刻を争うが、運輸大臣は平然とリベートを要求する。日本商社として、おおっぴらにそんな要請に応えることはできないが、そうしなければビジネスができないのも現実だ。ただ、わずかでも正義をなそうというキルギスの人々がいるのは救いだ。

日本商社をめぐる外国の人々は、紆余曲折の人生を送っている。すごい人生を送っている人々に対して、今の幸せな日本人が対比されている。努力はしたが、国を捨てる覚悟などしたことがない人生を送ってきたのが日本人だ。

旧ソ連譲りの官僚主義、自由化後の腐敗がない交ぜになっている世界で、日本人は様々な国の人々とともに、自社の利益とキルギスの航空会社の近代化のために働く。次々と予想もつかない難問が降りかかる。それを機知と人脈でさばいていく。主人公は若い商社マンであるから、悩みながら、相談しながらさばいていく。頑張れ、負けるな、幸せな日本人にだってできるさ、と声援したくなる展開だ。

著者のこれまでの小説では、日本の組織のどうしようもなさがリアルにまた湿っぽく描かれるのだが、今回はこれがない。ハードボイルドな展開と湿っぽさがマッチしていないような気もしていたのだが、いざそれがないと寂しい気もする。しかし、最後の見事な展開はいつもどおり。国家と人生の重さが感動をもたらすビジネス小説だ。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2005/09/10, 週刊東洋経済

プーチニズム 報道されないロシアの現実
4140810548アンナ・ポリトコフスカヤ 鍛原 多惠子

NHK出版 2005-06-25
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おすすめ平均 star
star現在進行形のジェノサイドの一つ
star旧KGBと旧ノーメンクラツーラと新旧マフィアの支配体制:汚職と賄賂の非現実的な現実世界

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共産主義が崩壊した後、ロシアとはいったいどんな国になったのだろうか? ゴルバチョフが目指していた旧ソ連の改革と、その後の現実とは、どのように違っていたのだろうか?

プーチン時代のロシアは、一言で言えば「スターリニズム+金儲け主義」というのがこの本を読んだ後の結論である。

プーチンが権力の座に就くと、ロシアの権力機構のあらゆる椅子にKGB(旧ソ連国家保安委員会)出身の人物が座ることになった。6000人を超すKGB出身者がロシアの権力を握り、それはまさに秘密警察国家である。

そして「この国の司法制度が公平であると信じているロシア人は皆無に近い。大半がわが国の司法は、政府上層部の言いなりになっていると考えている」という。

『チェチェン やめられない戦争』(NHK出版)で、チェチェンの惨状を詳しく知らせてくれたロシアの女性ジャーナリストが、身の危険を冒して書いたこの本は、ロシアでは出版されていない。

ロシア軍の腐敗ぶり、役人の公金横領と賄賂の実態、そして裁判のでたらめぶりを興味深く書いているし、さらに2002年にモスクワの劇場で起こった惨事から、04年に起こった北オセチアの学校占拠事件に対する、プーチン政権の人命無視のやり方をリアルに描いている。

テロ対策という点で、プーチンはブッシュ米大統領やイタリアのベルルスコーニ首相などと共通の利害関係を持っている。テロに強硬に対決することで、国内での権力基盤を確立しようとしているのである。

共産主義の後にできた体制がこんなに無惨なものであったのか、この本を読みながらあらためて考えさせれた。

ブダーノフ大佐がチェチェンで行った悪事に対する裁判の過程が、微に入り細にわたって書かれているが、これでは誰でもロシアの裁判官を信じることはできないに違いない。そして精神医学が政治目的に使われているのは、まさにスターリン時代そのままである。

プーチンは、自分の政策について、一度も説明を試みたことがない。彼は将来の政策を約束したことも、討論したこともない。その代わりに旧ソ連時代と同じく、テレビは毎日のように国家元首について報道する。それはまるでスターリンと同じではないか、という。

石油企業ユコスのホドルコフスキー社長を追い落としたのも、このようなプーチン大統領のやり方の表れであり、巨大資本をたたくポーズで政敵をたたいたまでのことではないか、と疑いたくもなる。【評者 奥村 宏 経済評論家】

■2005/09/10, 週刊東洋経済

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