メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年8月27日~9月3日
| ルービン回顧録 | |
![]() | ロバート・ルービン ジェイコブ・ワイズバーグ 古賀林 幸 日本経済新聞社 2005-07-26 売り上げランキング : 8,944 おすすめ平均 ![]() 米国政治の舞台裏が垣間見れると思います 様々な読み方のできる贅沢な本です 誤訳があるので原書をお勧めします!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ロバート・ルービンは最近の米国の財務長官の中で、市場から最も信頼と敬意を寄せられていた大物である。風貌も口調も決して強い印象を与えないが、彼の言葉に市場は敏感に反応した。いつも貧乏法学生のような鞄を持ち歩き、ウォール街で成功した富豪であることは微塵も感じさせない人物である。
本書は、生い立ち、ゴールドマン・サックス時代、クリントン政権時代の経験(メキシコ危機、債務枠問題、予算論争、アジア通貨危機等)、各種経済問題への提言などからなる。
本書の記述は、著者らしい慎重さと周到さでなされる一方、相当踏み込んだ内容になっている。ワシントン時代のテレビ討論での失敗、共和党との攻防、政策を国民に理解させる難しさ、財務長官の権限の小ささなどが率直に描かれ、「米国は同盟国をリードしなければ批判され、リードすれば憤慨される」といった悩みも語られている。
人間像として興味深いのは、全編に通奏低音のように流れる心の持ちようである。ルービンは「いつでもここを立ち去り、パリ左岸のカフェでヘンリー・ミラーを読むことができ、今から千年後には私の仕事の出来・不出来など誰も気にしない」といつも考えている。彼は読書家で思索家であり、こうした心の持ちようで、政治の嵐の中でバランスを保っていた。
政府関係者の姿も率直に語られている。クリントンは、類稀な聞き手で、その政治手腕をルービンはお世辞ではなく心から尊敬している。ヒラリーについては「イメージとは裏腹に反対意見や議論に流されやすい」。答弁の名手グリーンスパンは、たとえ的外れな質問でも必ず敬意を表し、「地球が平らであるとは、面白いお考えですな」などと話を始めて相手の心を掴み、最後は煙に巻いてしまう。
著者の「投資は長期的観点から割安な株を買うべき」「四半期決算にこだわる経営は望ましくないが、問題への対処を先延ばししないメリットはある」といった指摘は説得力がある。
楽しいエピソードも随所にちりばめられている。ロシアの通貨危機の最中に休暇先のアラスカで釣りをしていたら、そばにいたシークレットサービスの携帯に大統領から電話が入った。ちょうど鮭を釣り上げていたので「私が見当たらないので捜してくると返事してくれ」と頼んだら、「長官、シークレットサービスの私には、それはできません」と言われたという。
本書は、成功した金融家でかつ大物財務長官の65年の人生を凝縮した、重みと手応えのある一冊だ。米国政治、金融、経済、経営管理の良質な教科書であり、人生の指南書でもある。【評者 黒木 亮 作家】
| 公明党・創価学会と日本 | |
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総選挙となった。小泉首相は「自公で過半数なら退陣なし」と明言した。民主党政権となっても、参議院の状況を考えれば「民公を含む連立」の可能性が高い。いずれにしろ公明党がカギを握る。だが、支持母体を含めて、実像は捉えにくい。密室性と閉鎖性の壁が厚いからだ。
その内実をあぶり出した本が2冊刊行された。本書と、同じ著者が同時に出した『公明党・創価学会の真実』である。2冊とも、政界関係者も初耳と驚く動きが実名の会話を交えて生々しく描写されていて興味深い。
著者は衆議院事務局勤務を経て参議院議員となり、小沢一郎氏の知恵袋として知られた。政界引退までの45年、政治の裏方として与野党の政治家の相談相手を務めた。そこで見聞きした出来事を日記に残してきたが、「その大部分は『公明党・創価学会』との関係」で、「メモ、記録、資料をすべて公開して二冊の書物を刊行」と書いている(『真実』のまえがき)。
公明党・創価学会の実体を知るには2冊を合わせ読むのが一番だが、政権への影響力が大きくなる与野党伯仲時代から非自民連立参加までの20年を取り出して描いたのが本書である。その時代を「自民党と一体化する原点」と位置づけ、「消費税を操る創価学会」「リクルート事件の舞台裏」などを再現する。
長年、「公明党の裏国対」を務めてきたという著者は、日本の議会制民主主義が形だけとなった原因の大半は創価学会の巧妙な国家支配戦略と断じ、今、「創価学会・公明党」の本質的問題を指摘するのは自分の使命と反省を込めて語る。本書が明らかにした実態は一方的、一面的な事実にすぎないとの批判は当然、予想されるが、膨大なメモを駆使して真実の壁に挑み、歴史の記録を残したエネルギーと敢闘精神に拍手を送りたい。【評者 塩田 潮 ノンフィクション作家】
| モルガン家(上) 金融帝国の盛衰 | |
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| モルガン家(下) 金融帝国の盛衰 | |
![]() | ロン・チャーナウ 青木 榮一 日本経済新聞社 2005-07-02 売り上げランキング : 19,557 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
二つの世界大戦の谷間に米ドル外交の“代理人”として国際金融協力体制を背後から取り仕切ったモルガン財閥の栄光と挫折の物語。長らく絶版となっていた大著が文庫版で甦った。
この時期の世界経済は、ドイツ賠償の決着から始まる束の間の繁栄のあと、ニューヨーク株式暴落をきっかけに世界恐慌、再建金本位制の崩壊、ナチス台頭、ブロック経済化と、坂道を転げ落ちるように戦争に突入していった。その断面は、多くの経済学者や経済史家によって分析論評されているが、彼らが見落としてきた史実も多い。
本書は単なる財閥の社史ではない。J・P・モルガン父子とその後継者たちの投資銀行家の行動様式、つまりは“金貸しの論理”が世界の戦争と平和に深くかかわる危うさや、チャーチル、ノーマン、ストロング、シャハト、井上準之助らとの入り組んだ人間模様や権謀術数の数々など、経済史のサイドストーリーとしても興は尽きない。
| 石油の終焉 | |
![]() | ポール・ロバーツ 久保 恵美子 光文社 2005-05-23 売り上げランキング : 6,435 おすすめ平均 ![]() 新エネルギーへの転換は遂行されるか 古くて新しい話。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書はイラク戦争に象徴される石油をめぐる争い、遅々として進まない代替エネルギー開発の現状、中東諸国の貧富の格差と非民主的な政治体制、そして地球環境問題というさまざまな視点からのレポートである。翻訳も丁寧で読みやすい。
石油ショックを経験した1970年代、あと30年ほどで石油は枯渇すると評者は小学校で教わったが、80年代の安定的な石油供給と新油田の発見から、あまり問われなくなった。
有限である石油はあと何年もつのか? それはわからない。現存する埋蔵量に未発見の石油、そして天然ガスなどを加えれば、100年は問題ないだろう。しかし、著者が指摘するように、正確な埋蔵量は誰も知りえない以上、石油の産油量がピークに達すれば、石油の将来予測やエネルギー供給に対する不安が市場に決定的な影響を与え、石油がまだ十分残っていても石油価格は高騰し、世界経済に壊滅的なダメージを与えるのだ。その日はそれほど遠くないかもしれない。
幸いにその日が遠いとしても、地球環境の制約が猶予を許さないだろう。京都議定書をめぐる各国の足並みの乱れに象徴されるように、こちらも悩ましい問題である。BBCが米国を「世界最大の汚染者」呼ばわりしたように、ブッシュ政権が悪役として報道されがちだが、欧州と米国とではCO2排出抑制にかかる費用に大きな差があった。
欧州では経済成長が緩やかであること、英国の石炭産業が10年前にはほとんど消滅したこと、そして旧共産圏諸国の旧式の発電所が次々と閉鎖したこと、これらすべてがCO2排出量を大きく削減するのに貢献した。欧州は米国に比べて削減目標が容易なことを認識しており、議定書をめぐる交渉を、米国との主導権争いの場に事実上変容させてしまった。
さらに、地球温暖化の影響はロシアなど寒冷地の国には、逆に利益をもたらすという。また、数値目標の設定に固執し、現実的なCO2ガス削減策を考えなかったことも問題であったと指摘する。
代替エネルギーの開発、切迫した環境問題、石油をめぐる不安定な国際情勢。こうした閉塞状況をもたらしている理由は、まだ多少ともわれわれに猶予が残されていることにある。これは、まだチャンスもあるが、当面は何も進まない可能性が大きいということでもある。
たかだかクールビズと控えめな冷房の温度設定ぐらいしか策が出てこない、というより、それすらしない個々人の生活がそのままこの問題を投影している。褒められたことではないが、「地球に厳しい」評者ですら、本書を読んで冷房の使用がためらわれた。【評者 江口匡太 筑波大学助教授】
| ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する | |
![]() | W・チャン・キム レネ・モボルニュ 有賀 裕子 ランダムハウス講談社 2005-06-21 売り上げランキング : 145 おすすめ平均 ![]() 着眼点には、感心しますが、実行するのはハードル高そうです 響きがいい ゼロベースで考えるということの大切さを再認識Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は、ポーターに代表される既存の競争戦略の枠組みから脱し、まったく異なる視点から新しい戦略の枠組みを提供している点で画期的だ。
本書の説くブルー・オーシャン戦略とは、血みどろの戦いが繰り広げられている既存市場(レッド・オーシャン)から抜け出し、「バリュー・イノベーション」を成し遂げることにより競争のない市場空間を生み出して競争を無意味にする戦略だ。
ポイントは、顧客の視点に立ち、従来買い手(顧客)に提供されていた価値を、ムダなものは取り除いたり減らしたりすることによって、また必要なものは付け加えたり増やしたりすることによって、コストを下げることと買い手(顧客)に対して提供されている価値を高めることを両立させることだ。これにより、顧客も自社も利益を得られ、まさにWin-Win戦略が実現可能というわけだ。
本書では、このブルー・オーシャン戦略の策定方法とその実行方法が多くの事例とともに具体的、体系的にまとめられており、非常に実践的でわかりやすい。なかでも、「戦略キャンバス」「価値曲線」「4つのアクション」「アクション・マトリックス」といった分析ツールやフレームワークは、目からウロコだ。また、よく戦略は策定より実行のほうが大切で、困難だと言われるが、ブルー・オーシャン戦略もその例外ではない。特に「組織面のハードルを乗り越える」ための「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」はしっかり押さえておきたい。
ブルー・オーシャン戦略は、特にレッド・オーシャンで悪戦苦闘している企業に有効だ。しかし、多くのヒントが得られる本書は、これらの企業の経営者、戦略担当者だけでなく、すべてのビジネスパーソンに読んでいただきたい一冊である。【評者 黒田康史 ベンチャーキャピタリスト】
| 決断力 | |
![]() | 羽生 善治 角川書店 2005-07 売り上げランキング : 117 おすすめ平均 ![]() 読みやすすぎて気味が悪かった プロの世界とは 本書を買うと決めた直感も多分7割のほうAmazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は、7冠という実績を残した著者が、将棋における自らの経験、周囲との交流の具体的な事例から、「深い思考は一人ですべき」「自ら実践して体感・理解してこそ知識が知恵に昇華する」など、思考の指針を記した書である。
著者がタイトルを獲得した1994年名人戦の臨場感あふれる「はじめに」から、「勝負における決断の繰返し」「本質を見抜く基盤となる直感」「集中力は興味を持つことから」など、知識偏重、組織力重視の背景の中、日本で懸念される点について、「なるほど」と思わせる言葉が多数並ぶ。
流れに乗ることの重要性、しだいに高めていく集中力、経験は諸刃の剣、見切ることの重要性など、本書の言葉は、将棋に限らず、ビジネスはもちろん多くの分野にも通用する。
コンピューターの進歩によって生じた「集中から拡散」「従来の邪道の見直し」「大局観と事前の研究が不可欠」など、将棋そのものの劇的な変化を語るとともに、「画期的な新しいことが起こる可能性」など、読むだけでも心が躍る将棋の将来への期待が感じられる。
同時に、升田幸三氏をはじめとする先人の研究など、過去を新しい目で見てそこから学ぼうとする姿勢も貴重である。また、考える「過程」、才能とは、一瞬のきらめきより、継続できる情熱であると、「時間」や「プロセス」の側面にも言及している。
本書は、ビジネスマン、学生はもちろん、小さな子供を持つ両親にも読んでもらいたい。また、本書では簡単に触れられている、教える方法の体系化や、他の類似したゲームに比べて、将棋に見られる「日本」の知恵、ユニークさが、本書の続編でさらに深められることを期待している。【評者 石倉洋子 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授】
| 武士道―日本文化論 | |
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武士道は、いつごろから過去の遺物と化したのだろうか。はるかヨーロッパからすれば、第二次大戦期の日本は武士道の国と信じられていたようだ。
武士道を体系化した山鹿素行(1622~85)は9歳で林羅山の門下で儒学を学び、16歳で甲州流兵学を修め、剣術の免許を取得している。やがて中国儒教に影響されてきた自己批判を行い、天皇を主軸とする日本賛美を展開する。
ここに至って武士道がナショナリズムと融合する。これこそ、明治以降の天皇制の強化イデオロギーであり、しかも「戦陣訓」の公布(1941年)の前年に初めて岩波文庫で出版された『葉隠』とも相まって、太平洋戦争の敗北まで居丈高に国民を戦争へと駆り立てたのであった。
本書は、「武士道は自然に発達した風尚に過ぎないのであるから、思想としては幼稚であり粗雑である」という津田左右吉の武士道評価を「鮮やかである」と結んでいる。
| ジャズの英語―スタンダードナンバー9曲 | |
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1880年から20世紀初めにかけて、アメリカ南部の港町ニューオーリンズで、ヨーロッパ音楽と出合った黒人の間に自然発生的に生まれ、しかも「インプロビゼーション」の妙技のおかげで、1920年代にシカゴで大ブレイクしたディキシーランドジャズ。
もともと「ジャズ」という用語は、シカゴの暗黒街の俗語で、卑猥な言葉だったという。私は、といえば、50年代後半にニューヨークで始まった、アート・ブレーキー、ソニー・ロリンズらの「モダンジャズ」、とりわけ「ブルーノート」にいまだこだわっているが。
本書には、わが国でもよく知られている「スターダスト」(28年)から「この素晴らしき世界」(67年)に至るスタンダードナンバー9曲が収録されている。各曲とアーティストの解説、歌詞の詳しい語学的ならびに文学的説明、さらにその曲を生み出した社会的エピソードなど、実に詳しい。
| 滅びの遺伝子 山一證券興亡百年史 | |
![]() | 鈴木 隆 文藝春秋 2005-06-10 売り上げランキング : 11,713 おすすめ平均 ![]() 山一を中心とした證券業界の歴史を回顧Amazonで詳しく見る by G-Tools |
昭和40年不況で(事実上)倒産してから32年、今度こそ山一證券は立ち上がれなかった。しかし本書は、山一は創業当初から社債や鐘紡株の投機で倒産の瀬戸際に行ったことたびたびで、この会社には行くところまで行かないと止まらない遺伝子が連綿と受け継がれていたのではないか、という。
「滅びの遺伝子」とは言いえて妙で、会社の存亡がそこまで単純化できるかという感想もありうるにせよ、ドキュメンタリーとしての面白さが何倍にも拡大したことはまぎれもない。
特に昭和40年代の山一幹部の描写は臨場感にあふれている。派閥が会社を動かし、「法人の山一」が逆に足をすくった。元日経証券部長として辣腕を振るった著者にして初めて書きえた内幕の数々は小説以上に面白い。しかも単なる山一物語ではなく、野村、大和、日興を手際よく織り込んで、証券史の趣まで膨らませた。証券市場を考えるうえでも格好の書である。
| メディア危機 | |
![]() | 金子 勝 アンドリュー・デウィット NHK出版 2005-06-30 売り上げランキング : 11,327 おすすめ平均 ![]() メディアを疑う知識を!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1990年代初めの湾岸戦争のとき、米国の大手広告代理店が作ったイラク兵の「残虐行為」を伝える架空のデモ映像がテレビに報道として流され、米議会を一気に開戦ムードに駆り立てるという事件があった。
最近はブッシュ・ジュニアのイラク戦争や小泉構造改革など、詭弁と詐術で練り固めた情報操作による露骨な世論誘導がますますあからさまになっている。
そして、巨額の資金力と組織を動員して、問題の核心をはぐらかしたり、反対派を半ば暴力的に封じ込めたりする「スピン・ドクター」なる情報戦略のお抱え専門家集団が大きな役割を果たしているともいう。
本書は日米両国の実態を紹介しつつ、これをメディアの危機であり、さらには民主主義社会の危機ととらえる。そしてその拮抗力として「メディア・リテラシー」をキーワードに情報の受け手である市民の側に情報操作に乗せられない賢さを求め、広義でのメディア教育の必要性を説く。
| 出処進退の研究―政治家の本質は“退き際”に表れる | |
![]() | 塩田 潮 PHP研究所 2005-07 売り上げランキング : 1,120,683 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
■著者に聞く ノンフィクション作家/塩田 潮
――政局の激動で、永田町は文字どおり暑い夏を迎えていますが、田中角栄氏以後の歴代首相の軌跡を追った本書の出版は絶好のタイミングとなりました。『出処進退』という書名なので、辞任の話だけかと思いましたが、就任の経緯から始まるのですね。
田中氏から森喜朗氏までの歴代首相の辞め時と辞め方を書きましたが、共通しているのは、これ以上は無理と思うまで政権を手放そうとしなかったということです。日本の首相は知事や市長、各国の大統領と違って任期の制約がない。国会議員であれば自民党総裁でなくても首相を続けることができます。そのために出処進退について、首相は最後に自己判断が必要です。
本当はみんな1秒でも長く続けたいと思っている。だから、辞め時の選択と辞め方にその政治家の本質と人間性が表れます。辞め方は十人十色ですが、結局、倒されるまで政権の座に固執するから、日本では政権交代は権力闘争でしか実現しません。首相の出処進退は政権獲得時以来の権力闘争に対する総決算なんです。
――塩田さんご自身としては、最も興味深い出処進退を見せた首相は誰ですか。
天寿全う型は中曽根康弘氏だけですが、注目したいのは三木武夫氏ですね。派閥政治全盛の時代、現在の小泉首相以上の反対勢力を与党内に抱えながら、「世論との結託」を武器に総選挙に突入し、結果を見て「負けたら仕方ない」と言って辞めた。永田町の権力闘争でなく、出処進退は国民の審判に従うという姿勢を貫いた。
――うまくやればもっと長くやれたのではと思える人もいますが、現実には難しかったのでしょうか。
総選挙が現在のような政党間の政権選択選挙になっていなかった時代でも、政権担当者は出処進退を権力闘争ではなく、国民の審判にゆだねたいと願い、解散・総選挙に執念を燃やし続けました。ライバルや反対派は阻止に血眼になる。権力闘争の最大の戦場は解散をめぐる綱引きでした。短命政権に終わった首相はみんな解散権を封じられています。
政権獲得と政権維持で貸し借りの関係ができて、そのしがらみを超えられなかったのが最大の原因です。小泉政権を横目に見ながらこの本を書きましたが、小泉首相ほど「歴代首相の失敗」を研究して実践に生かしている首相はいないと思う。過去の首相と違って、就任のときからいつでも解散ができる態勢と布陣を維持し、実際に二度も思いどおりに解散しました。
――小泉首相はどんな辞め方になると予想しますか。
負けたら辞めると自ら退路を断ったのだから、負ければさっさと辞めるでしょう。ですが、負けるとは思っていないようです。総選挙後、続投となっても、宿願の郵政民営化を達成すれば、来年秋にはあっさりと身を引くだろうと天寿全う型を予想する人が多いようですが、政権維持の可能性が少しでもあれば、簡単には辞めないのではないか。とことん政権に執着して、もしかすると末路は野垂れ死にという展開もあるかもしれない。最後に小泉首相のもう一つの本質と人間性が顔をのぞかせるのではないかと見ています。


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