メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年6月18日~7月2日
| 『オーマイニュース』の挑戦 | |
![]() | 呉 連鎬 太田出版 2005-03-19 売り上げランキング : 10,060 おすすめ平均 ![]() ネット新聞の成功例 「準備された市民」 本編よし解説サイアクAmazonで詳しく見る by G-Tools |
「オーマイニュース」は2002年2月に、著者の呉氏がわずか4人の仲間と立ち上げたインターネット新聞である。記事の書き手の中心は一般の市民。サイトには誰でも無料でアクセスできる。その市民参加型草の根新聞は、いまや常勤記者が60人を超え、市民記者が3万5000人、1日150~200件の記事がアップされ、1日平均100万ヒットという「大マスコミ」に発展した。
中身の大半はいたって硬派である。大学生に講演を拒否され、正門前で立ち往生する元大統領を揶揄し、大企業会長の外国出張の際の公私混同ぶりを糾弾する。収入の70%は広告によるが(あとは有志のカンパ)、大手スポンサーのトップに対しても批判に手抜きはない。02年の大統領選の際には、前夜の鄭氏による支持撤回により一転窮地に陥った盧武鉉候補を支持し、掲示板上で「投票に行こう」キャンペーンを張って、盧大統領誕生の原動力になった。当選後、大統領が初めて単独インタビューに応じたメディアはオーマイニュースである。同大統領弾劾訴追の折には、弾劾反対運動の先頭に立ち、25万人集会の動員に大きく寄与した。『時事ジャーナル』誌による「メディア影響力調査」でも、オーマイニュースは03年から、ハンギョレ新聞、ソウル放送等の大手新聞社や放送局を凌ぎ、第6位の地位にいる。今やオーマイニュースは世論形成の一大拠点と化している。
オーマイニュースは既成マスコミに対する大いなる挑戦である。既成の紙新聞はオーマイニュースに追随して掲示板サイトを充実させ、読者との双方向性を重視し始めた。テレビでも「ネチズン」の声としてしばしば同紙の論調が紹介される。
こうした市民参加型ネット新聞は、日本でも成功するだろうか。著者の呉社長は成功要因として既成マスコミに対する韓国民の不信感、若年層の高い政治的関心・参加意識を挙げている。市民参加型ジャーナリズムが成功するには「準備された市民」の存在が不可欠とも――。
記者クラブ制度に安住し、「権力の監視」も中途半端な日本の大新聞。公共のメディアを標榜しながら、視聴率獲得のために低俗番組を垂れ流し続ける放送局。そうした既成マスコミにほとんど何の疑いも挟まず、高い信頼を寄せ続ける日本人。ますます政治的な関心を失い、マジメな議論を冷笑する若者たち。こうした風土で、オーマイニュースのような試みが成功する可能性は極めて低いと考えざるを得ない。インターネットが普及したからといって、それだけで市民参加型メディアが発展するわけではないのである。【評者 橋元良明 東京大学大学院情報学環教授】
| 銀行とノンバンクの融合―上限金利規制統一法の設計 | |
![]() | 石川 和男 野尻 明裕 金融財政事情研究会 2005-05 売り上げランキング : 18,901 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
常識的には、金利規制とは預金金利に関するものであり、わが国では1994年に完全自由化されている。副題に「上限金利規制統一法の設計」とあるが、さて、そんな規制はこの世にまだ残存するのか? 然り。深入りするとかなり込み入っているのだが、要点は次の通り。
〔1〕15から20%(元本額による)を超える貸出金利は民事上無効、〔2〕29・2%を超える貸出金利は刑罰の対象、〔3〕その間の金利は民事上無効だが処罰はされない。普通の金融機関は、〔1〕の領域で仕事をしている。〔2〕はヤミ金融の世界。〔3〕は「グレーゾーン」と呼ばれ、書面交付など「一定要件」を満たした場合には、(契約は無効なのだが)弁済は有効とみなす特例がある。いわゆる消費者金融の金利は、おおむねここに属している。
「上限金利規制」は、実質的に消費者金融業界と一般金融業界の「垣根」の役割を果たしてきた。ところが最近では、判決を通じ「一定要件」の適用が厳格になり、垣根の中の仕事がしにくくなった。またメガバンクや外資が買収や提携によりこの分野に関心を示し、サンクチュアリは風雲急を告げている。
上限金利規制の動向は消費者金融業界には死活問題であり、一般金融業界には大きなビジネス・チャンスなのだが、今までこの問題に正面から関心が寄せられる機会は少なかった。本書では、経済産業省の現役官僚とこの業界に身を投じた元財務官僚という異色の取り合わせでこれに取り組み、具体策を提言している。近ごろの若手官僚は、ずいぶんと思い切りがいい。
体裁や内容など、ところどころ未成熟な部分も見受けられるが、この分野には本格的な議論のための素材が乏しかった。未開拓の鉱脈に関するほとんど初めてのガイドブックとして、著者たちの貢献を多としたい。【評者 西村吉正 早稲田大学経営大学院教授】
| 和紙とケータイ―ハイテクによみがえる伝統の技 | |
![]() | 共同通信社編集委員室 草思社 2005-04 売り上げランキング : 20,070 おすすめ平均 ![]() 楽しめますAmazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は全国42の新聞に連載された「脈々ニッポンの技」を単行本化したものである。日本の伝統技術が、日本の最先端技術と、どのようなつながりを持っているのか。50の伝統技術を俎上にあげ、1項目4ページずつにコンパクトにまとめている。
単なる保守回帰、伝統礼賛が本書の趣旨ではなく、閉塞感の強い日本にあって、自分たち自身の足元を見つめ直すことで、内から日本の明日を探ろうという試みである。本書はそういう意味において、「技」を媒介にした「日本探しの旅」のような趣もある。
構成は、大きく技術を5分類している。〔1〕ハイテクでよみがえる伝統の技、〔2〕快適な住まいと環境づくり、〔3〕自然の力を引き出す知恵、〔4〕ゆたかな暮らしと健康のために、〔5〕新たなフロンティアをめざして――と括っている。
具体的には、和紙、養蚕、墨流し、乾漆、制震、たたき、治水、寒干し、わらじ、鍼、友禅染、回り舞台、金魚と、興味をそそられるテーマが並ぶ。
各項目を読み進むうちに、今日まで営々と生き残っている伝統の技は、多くの無名な人々の「知恵の連鎖」の結晶ともいえるもので、そうした人たちの技に対する絶えざる執念・執着によってこそ、今でもその生命力は保たれ、現代技術にまでつながっているということを改めて知らされる。
技術というとなんだか頭が痛くなるという人でも、執筆記者の平易で明快な文章に助けられるはずだ。難しい技の仕組みを一目で説明するグラフィックス、囲みでは歴史的な「うんちく話」などが語られ、理解を助けてくれる。本書では1技術に1枚写真があしらわれている。構図の面白い迫力ある力作が多い。カラー写真のまま掲載されていればと、少し残念だ。【評者 山縣裕一郎 本誌シニアライター】
| 福沢諭吉のレガシー | |
![]() | 柴田 利雄 丸善 2005-04 売り上げランキング : 171,991 おすすめ平均 ![]() 初めて福沢諭吉という人にふれました 平易な表現で読みやすいのに、内容はとても深い!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
福澤門下生で「憲政の神様」と謳われた尾崎行雄は、かつて福澤を評して「稀に見る偽悪者だ」といい、さらに続けて「先生は、人に接するときに、何かわざと自分の失敗話、自分の至らないこと、いたずらしたことをべらべらしゃべって、さも自分は人間的には下等であるかのように、あなたより下だというふうにしゃべっている。(中略)彼の行動すべてにおいて、こんなに善な人はいない」と結んでいる。
本書は、こうした尾崎の回想のように今まで知られていなかった福澤の側面に光を当てつつ、ユニークな福澤像を描き上げている。
たとえば、福澤は居合道の達人であり、刀の真贋を見極める優れた鑑定眼の持ち主だった。福澤の死去に際し弔辞をしたためた幸徳秋水は「平凡にして巨人」という言葉を贈っている。
余談だが、私学がその独自性をかなぐり捨て文科省のご機嫌を伺っている現在の大学を見て、福澤はなんと言うだろうか。
| ビジネスに日本流、アメリカ流はない | |
![]() | 中村 建一 東洋経済新報社 2005-04-27 売り上げランキング : 18,321 おすすめ平均 ![]() 大変参考になりました これは使える! ビジネス書でありながら比較文化論の勉強にも最適!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
最近、成長している企業のトップを見ると、海外経験者が多くなっている。 また、グローバルな時代にあって、勤め先が突然外資系企業と合併したり、海外に現地法人を設立したりする話もよく聞かれる。
上司・同僚・部下はもちろんのこと、取引先が外国人というのは珍しいことではなくなった。異文化コミュニケーション、異文化経営が必須の時代になったといっていいだろう。
本書では、滞米25年の著者がコマツの米国現地法人で、日米それぞれの良さと強さを組み合わせたハイブリッド経営に成功するまでの過程が具体的に描かれている。日米のビジネス文化の違いから、グローバルマネージャーとしての心構え、訴訟社会を生き抜く知恵、英語力強化法まで、すぐに役立つ内容で、著者の失敗談がちゃんと書かれているのも嬉しい。
付録の「役に立つ生きた慣用表現120」も便利で実践的だ。
| NHK―問われる公共放送 | |
![]() | 松田 浩 岩波書店 2005-05 売り上げランキング : 5,668 おすすめ平均 ![]() 中立の報道なんかありえない NHK問題に関する最新最良の解説書Amazonで詳しく見る by G-Tools |
権力の監視を本分とするジャーナリズムに手を突っ込みたがるのは政治家の本能だ。『日曜娯楽版』打ち切り、非武装中立支持や消費税反対の世論調査のカットなど、戦後もNHKへの政治介入には長い前史があった。ところが近年、NHKは政府のIT産業政策と一体化する形で放送デジタル化――新たな収益源確保策を進めてきた。これが辛うじて残された権力との緊張関係も失わせ、与党政治家への迎合を強める背景になったという。金銭不祥事もETV特集改竄事件も、公共放送の原点を見失ったNHKのありようを示すコインの表裏にすぎない。
NHKはいらない。が、民放でも国営放送でもない「われわれ市民の公共放送」はぜひとも必要との立場から、解体的出直しを唱える著者の処方箋は独立行政委員会制度による政治からの自立、従業員の内部的自由の確保、国民への徹底的な公開と参加……。長年の蓄積が記述に手堅さと説得力を与えている。
| 赤塚不二夫のことを書いたのだ!! | |
![]() | 武居 俊樹 文藝春秋 2005-05-26 売り上げランキング : 337 おすすめ平均 ![]() 天才との日々 我々はバカボンのパパである。抱腹絶倒のマンガ風雲録 「レッツラゴン」の武居だ!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
赤塚不二夫というギャグ漫画の天才がいた。本書の著者・武居俊樹は1966年、早稲田大学文学部を出て小学館に入社、6代目の赤塚担当編集者になる。爾来、直接の担当11年間、さらに2002年の定年退社まで36年間なんだかんだと付き合う。その間、夜な夜な新宿で飲んだ酒は何十万本。漫画のアイデアを出し合い、慰め叱咤し理屈言って(著者は信州人)、ライバル『少年マガジン』の連載を引っぺがして『少年サンデー』に移籍させ、かといえばその『マガジン』の若き担当者(現講談社役員)と変わらぬバカ騒ぎを続ける。
編集者として赤塚漫画にも登場し、これ以上の密着はない「伝説の武居」による赤塚伝であり、痛快編集者実録。赤塚周辺にいた今をときめく漫画家群像も活写されている。その赤塚は02年4月脳内出血で倒れ、眠ったままである。病室で赤塚の鼻にウイスキーをかがせ、「飲みたい?」と挑発する。そこまでの付き合いなのだ。
| 食卓文明論 - チャブ台はどこに消えた | |
![]() | 石毛 直道 中央公論新社 2005-04-10 売り上げランキング : 29,521 おすすめ平均 ![]() 食事のありかたを通じて家族を読むAmazonで詳しく見る by G-Tools |
「チャブ台」とは、坐って使用する小型の食卓で、脚部が折りたためるものをいう。それは明治24(1891)年、後藤友六、中山芳三の2人が特許を出願したことに始まる。
もちろん坐卓は前からあったが、折脚機能が付加されて片付けに便利で置き場所をとらなくなった「チャブ台」は、飛躍的に普及し、日本人の標準的な食卓となった。だが1950年代になると、イス・テーブルに押されて急速に衰退したという。それは住宅公団の2DKのせいだといわれるが、「チャブ台」がわずか数十年の短い天下でしかなかったというのは、実に意外である。
人間は料理した食物を一緒に食べる(共食)動物であるという。だが食事の様式はさまざまである。箸を使う東アジア文化圏では、日本人は平安の昔から坐食であり、食器は個人別であった。食卓は折敷(おしき)という方形の板、つまり個人別のお盆で、やがて脚がついた銘々膳に発展する。だが、中国では、唐代にイス・テーブルが普及して腰掛食が一般化し、個別型食卓が早くに消滅した。韓国では、16世紀の中宗時代に確立された儒教的様式が厳しく、家族全員が一つの食卓を囲むのが一般化したのは70年代だという。
「チャブ台」が生まれたころ、社会主義者の堺利彦は、家族全員で食卓を囲み、同じものを食べ、食事を一家団欒の場にせよと主張した。食卓が「家庭の民主化」にとって重要な役割を果たすことを見抜いていたのである。それから80年、最近の日本は、ファストフードなどの外食の機会が増え、共食より個食化が進んでいるという。食卓は同じでも食事内容は別々なのである。果たしてこれからも一家団欒の「食卓」はあり続けるのだろうか。家族の行く末は危ういようである。【評者 仲倉重郎 映画監督】
| 国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて | |
![]() | 佐藤 優 新潮社 2005-03-26 売り上げランキング : 287 おすすめ平均 ![]() 上四半期最大の収穫の1つ 今年のナンバーワン! 絶対読まなきゃもったいない ラスプーチンに乾杯!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
これは重要な問題を投げかけた本だ。小泉純一郎内閣というのは森内閣の後を継いで、同じ派閥が主導権を握ったものだと考えられている。しかし、そこには、質的な相違がある。
これまでの自民党政治は、内政においては「ケインズ型公平配分路線」を取っていた。すなわち、田中角栄型のバラマキ政策であったが、小泉政権は、それを「ハイエク型傾斜配分路線」に切り替えた。外交ではそれまでの政権は「地政学的国際協調主義」、すなわちアメリカに追随するが、ロシアや中国、韓国にも配慮する路線を取ってきたが、小泉政権は、「排外主義的ナショナリズム」へ転換した。
そうした転換こそが小泉政権の本質であり、その表れが鈴木宗男代議士、そしてその腹心ともいうべき著者の逮捕であった。日ロ交渉で絶えず主導権を握ってきた鈴木宗男が国後島のディーゼル発電をめぐる汚職で逮捕され、そしてロシア研究者をイスラエルから招待する費用を捻出した工作で、著者も逮捕された。
著者を取り調べた検事は、「これは国策捜査なのだから、あなたが捕まった理由は簡単。あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため。国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです」と言ったという。普通なら事件にならないことでも国策に基づいて捜査することで、大事件にされる。
この本を読んだ限りでは、評者には、著者がイスラエルの学者たちを日本に招いた費用を捻出したことで、なぜ逮捕、起訴されなければならないのか、わからない。
そういえば、この種の国策捜査は、ほかにも行われているフシがあり、恐ろしくなる。外務省の高級官僚たちや、ロシア研究者たちの生態は、この本を読めばよくわかる。拘置所に入れられてからの著者の観察も、なかなか鋭いものがあるし、それだけでも読み物として感銘を与える。
ただ、鈴木宗男の汚職について、果たしてそれが無実であったといえるのか、という疑問がある。そして、外務省の官僚であった著者が、なぜ鈴木宗男にこれほど入れ込んだのかということもよくわからない。
いわゆるキャリア官僚と違って、著者は神学を勉強した後、外務省に入ってロシア問題の専門家として高く評価されたという異例の経歴をもっている。 そういう実力のある人が、政治家と官僚、そして検察によって台無しにされてしまったという話である。【評者 奥村 宏 経済評論家】
| 福沢諭吉『文明論之概略』精読 | |
![]() | 子安 宣邦 岩波書店 2005-04 売り上げランキング : 32,043 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書の著者、子安宣邦氏は、長年、日本思想史学に欧米現代思想の新潮流を吹き込む斬新な研究で学界をリードしてきた。大阪大学を退官した現在も、日本人の歴史認識をめぐって旺盛な著作活動を続けておられる。
本書で彼が論ずる『文明論之概略』は、明治初期の啓蒙思想家・福沢諭吉の代表作の一つである。当時のヨーロッパにおける進歩主義的文明史観を消化・紹介し、維新、開国直後の日本に、近代化の指針を指し示した著作として、『概略』は、明治初期の日本人ばかりでなく、その後も日本という国が、国内的に、そして対外的に、文明国家としてのかたちを問われるたびに、読み返されてきた。
明治の維新、昭和の戦後に続く「第三の開国」とも言われる現下のグローバリゼーションは、この福沢の古典を、単に教養としてではなく、現在の世界において日本という国がとりうる立場を考えるための実践的な思考の素材として蘇らせるに妥当至極な機会である。そして碩学の手腕は、たとえば福沢の国体史観批判の再解釈において、まさにアジア近隣諸国との歴史認識のズレが政治問題化している今日の問題として、『概略』自体を読んだことがない読者にさえ、スリリングな読書体験を味わわせてくれる。
しかし、本書の読みどころは単に福沢のテクストのアクチュアルな再読にのみあるのではない。むしろ昭和の戦後にこの古典解釈の古典となった丸山眞男の『「文明論之概略」を読む』との対決に、本書の醍醐味はある。
「文明」には、絶えざる技術革新の過程としての「進歩」の側面と、因習と自由との対決の結果としての「解放」の側面とがある。丸山の福沢読解が、「進歩」としての文明に力点を置き、「解放」としての文明の意義を、自己と他者の価値観に対する相対主義的態度に限定していたのに対して、子安の福沢読解は逆に、「解放」としての文明に力点を置き、「進歩」としての文明を、戦略的な目標の設定においてのみ有効なものと解している。近代の日本において「進歩」が、つねに(しばしば無反省に)理想化された欧米へのキャッチ・アップを意味していたことを考えるとき、子安がその丸山批判に込めた意図は明白である。つまりそこでは、従来、教科書的に福沢の限界とされてきた「脱亜入欧」の観念が文明の本来的な目標ではなく、戦略的な手段として再解釈されているのである。
グローバリズムが、ともすれば、われわれに「進歩」としての「文明」化を強いる現在において、子安の福沢読解は、きわめて現在的な思想課題をわれわれに語りかけている。【評者 山下範久 北海道大学大学院文学研究科助教授】
| リバタリアニズム読本 | |
![]() | 森村 進 勁草書房 2005-03 売り上げランキング : 13,415 おすすめ平均 ![]() リバタリアニズムを俯瞰するものとして わかりやすい!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
かつて「自由主義」を意味したリベラリズムという言葉は、歴史の変遷を経て今では社会民主主義的な主張を指し示す用語として使われている。このため古典的自由主義を始祖とする自由至上主義者たちは、自らの主張をリバタリアニズムと称することが一般的となった。
編著者は、リバタリアニズムを個人的・人格的自由も、経済的自由も最大限尊重する立場と定義する。この定義は、個人的自由は尊重するが、経済への国家介入を肯定する社民主義や、経済的自由は尊重するが、精神的自由を軽視しがちな保守派との対比においてリバタリアニズムの独自性を強調したものだ。
リバタリアンが共有するのは、国が鋳型にはめて上から作る秩序ではなく、「個々人の活動の結果ではあるが設計されたものでない」自生的な秩序(言語や市場がその代表例)に対する信頼である。だが、一人ひとりのばらばらな活動がどのような条件の下で全体の秩序を可能にするのか。この問いに対する省察がリバタリアンの中にも多様な流派を発生させる。ルールや道徳・慣習を重視するハイエク流もあれば、自由放任さえすれば自然に秩序が生み出されるとする非歴史的な考え方もある。限定的ではあれ、国家の役割を容認する立場もあれば、国家の廃止ないし最小化を主張する無政府資本主義の立場もある。
本書はリバタリアンが共有し、あるいは立場の違いを生み出す29のキーワード解説と、古典を含む25冊の代表的著作の解題を中心とするガイドブック。自由を愛する読者が、自らの立脚点を確認する上で役立とう。ただ、多国籍企業など巨大な企業権力が、個人的自由との衝突を強めている昨今、現代の自由主義者たちは、この問題をどう考えているのか。関連する記述があればもっとよかったと思う。【評者 鹿島信吾 評論家】
| 権力抗争のウラを読む人事ファイル―ホワイトハウス、クレムリン、中南海、青瓦台、万寿台、永田町… | |
![]() | 歳川 隆雄 にんげん出版 2005-04 売り上げランキング : 23,403 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
新聞で国内や海外の政治の動きを読んでも、いまひとつ判然としないことは結構多い。それはなぜか。一つは、変化が激しいこと、二つには、複雑度が増していること、三つには、この世界には新聞に出ない背景があることなどが原因だ。
たとえば、永田町のさまざまな動きのウラに、政策以外の要素がたくさんあることは子供でも知っている常識だが、「恨み」や「嫉妬」などといった世間一般と同じような感情が、実は非常に大きな(多くの場合、一般社会より大きな)比重を占めているということを知らない人は結構いる。また、誰が誰に恨みを抱いているなどという情報は、新聞だけを読んでも、まずわからない。政治に対し、そうした一段深いレベルの理解をするためには、やはり専門家の力を借りなければならない。
本書は、政治ウォッチャーとしておなじみの著者が書きためてきた記事をまとめたもの。国内と国際政治の動きの要点や背景がよくわかる。
たとえば小泉純一郎首相は政権の座についたとき、旧橋本派をつぶすことをひそかに誓ったという。本書によれば、これは、「政治の師匠である故福田赳夫元首相が1972年の自民党総裁選で故田中角栄元首相との壮絶な戦い、いわゆる『角福戦争』に敗れたことを絶対に忘れていない」からだ。すでに30年以上前の事件の恨みを、今晴らそうというのだから、その執念深さは常識を超えている。
驚いたのは日露関係。北方領土問題で、1992年ゲオルギー・クナーゼ外務次官(当時)が内々に提案した「2島プラスアルファ」論が、今、再び現実性を持ってきているという。「アルファ」とは国後のことだ。
このように、本書は、新聞だけではわからない政治情報の宝庫ということができる。
| 英語でよむ万葉集 | |
![]() | リービ英雄 岩波書店 2004-11 売り上げランキング : 9,398 おすすめ平均 ![]() 豊かな著者の言語力 万葉集に驚くAmazonで詳しく見る by G-Tools |
長歌ともなると日本人にさえ理解するのは大変だが、あの万葉集を英訳するという偉大な挑戦が、アメリカ生まれの日本文学者によってなされた。日本の古典を深く読み込む力を持った著者によって、49の長歌や短歌が新たな解釈のもとで読む者に迫ってくる。
もちろん単なる直訳ではなく、さりとて勝手な意訳でもなく、歴史考証を重ねたうえで、雄略天皇や大伴家持、山上憶良たちの思いのひだに入り込みながら一つひとつの言葉の持つ意味が問い続けられる。ために、英訳の過程そのものが推理小説の謎解きの趣きを感じさせてくれる。
著者は草枕などの枕詞にもこだわって訳文に組み込もうとする。枕詞もこんなに存在感があるのだと気づかされた。英訳の過程が2ページずつしっかり説明されているので、万葉の世界を奥深く案内してもらえるうえ、古典を翻訳する知的格闘の面白さも堪能できる。英語の勉強が楽しめたというおまけは望外だった。
| 中国 経済革命最終章 | |
![]() | 関 志雄 日本経済新聞社 2005-05-21 売り上げランキング : 14,258 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
社会主義ソ連は解体し、資本主義ロシアとなった。東欧など旧衛星国も現在、明確に資本主義国であると自己規定している。では中国は……。これに真正面から答えているのが本書だ。
著者はいう。中国は「社会主義を堅持したのではなく、それを放棄した」「もはや社会主義ではない」。
公式見解では、中国は「社会主義の初期段階」にあるが、実際は「原始資本主義段階」である。だとすれば中国が行き着くところは「社会主義の高級段階ではなく、成熟した資本主義であることは明らか」だ。
政治に関しても面白い指摘がある。共産党は資本家の入党を認め、国民政党を模索し始めたが、そうなると一党独裁制は維持しがたい。そこで改革のモデルになるのが、日本で戦後続いた自民党の「一党優位制」であるという。そこでは、政権交代は政党間の競争ではなく、「党内派閥間の調整」によって行われる。
| 近現代史ものしり用語物語 | |
![]() | 北村 恒信 光人社 2005-03 売り上げランキング : 1,091,498 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
言葉は生きている、それ故に、変化もするし、死ぬこともある。 とりわけ、わが国の近現代史において、軍事関係用語は、敗戦と戦後の民主教育の中で、蛇蝎のごとく忌み嫌われ、雲散霧消してしまった。
しかし、事象がいくら忌むべきものであったとしても、言葉それ自体を忘れ去っていいとはいえない。本書は、そうした84の用語を興味深いエピソードを交えて解説している。たとえば、「地方人」は、当時、軍人に対応して民間人を指していた。
つまり国民はすべて軍人と地方人とに区別されていたのであり、明らかに民間人への差別があった。大阪市天神橋交差点での一兵卒と交通巡査の争いである「ゴー・ストップ事件」(昭和8年)が実に象徴的な事件であった。ちなみに、「単伝」「官幣社、国幣社」「参謀ケン章」「水交社と偕行社」など、我々はどのくらい知っているだろうか。
| ピーターラビットと歩くイギリス湖水地方―ワーズワース&ラスキンを訪ねて | |
![]() | 伝農 浩子 JTBパブリッシング 2005-03 売り上げランキング : 27,056 おすすめ平均 ![]() ディズニーランドに行くより、この本片手にイギリス湖水地方へ! 大人のためのガイドであり読み物Amazonで詳しく見る by G-Tools |
世界中で愛されている絵本『ピーターラビットのお話』(1902年)の作者ビアトリクス・ポターは、湖水地方をこよなく愛し、生涯をこの地で過ごした。本書は、この愛らしいピーターラビットを案内人として、湖水地方の魅力的な場所を散策する。まず始めはビアトリクス・ポターの湖水地方。
美しい農場が開発業者の手に渡るのを防ぐために、彼女は絵本の印税で湖水地方の土地を次々と買う。77歳で亡くなる時、湖水地方の土地や農園をナショナルトラストに寄付する。
次に訪れるのは、イギリスロマン派の桂冠詩人ワーズワースの湖水地方。 終の棲家としたライダル・マウントの広大な庭は、「詩人にならないなら庭師に」と言っただけあって、典型的な18世紀の風景式庭園となっている。ついで、詩人、作家、画家、評論家と多才なジョン・ラスキンが晩年を過ごしたブランドウッドの館。その内装は実に見事である。
| 父の肖像 | |
![]() | 辻井 喬 新潮社 2004-09-29 売り上げランキング : 18,074 おすすめ平均 ![]() 怪物を父に持つ悲喜劇 話題騒然ですが、この本も読むべきです。 母の現像Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| プリンスの墓標 | |
![]() | 桐山 秀樹 新潮社 2005-04-21 売り上げランキング : 44,035 おすすめ平均 ![]() 真打ち登場!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 淋しきカリスマ堤義明 | |
![]() | 立石 泰則 講談社 2005-01 売り上げランキング : 201,677 おすすめ平均 ![]() 立石氏の作品としては・・・・ 最後の土地神話、崩壊! 寄せ集めAmazonで詳しく見る by G-Tools |
総会屋への利益供与事件から出発し、株主名義の偽装、さらにインサイダー取引容疑で西武鉄道の堤義明前会長が刑事告発され、あっという間に西武王国は解体されるに至った。総会屋への利益供与で摘発された会社はほかにもたくさんあり、株主名義を偽装していた会社もかなりある。インサイダー取引もしかり。にもかかわらず西武鉄道だけがなぜこんな目に遭ったか。
「国策捜査」という言葉が流行しているが、西武グループも誰かの手によって意識的に解体されようとしているのだろうか。
『淋しきカリスマ堤義明』(講談社)の著者、立石泰則は16年も前から西武グループを取材してきたというだけあって、この本には堤義明の西武鉄道グループ、腹違いの兄・清二の西武セゾングループのこれまでのやりかた、そして先代堤康次郎の商法について、詳しく書かれている。
バブル期には40兆円もの資産を持ち、「世界一の金持ち」と謳われ、独裁者として鳴らした義明は今回の事件で「自分を見失って」しまい、西武王国は「砂の城」のように崩れ落ちたという。西武鉄道が総会屋に利益供与をしていたということを最初にかぎつけ、週刊誌の記者としてその取材にかかわり、その過程で元西武グループの社員でありながらコクドに対して「株主権存在の確認」訴訟を起こしている中嶋泰雄と接触し、そこから株主名義の偽装を暴いていく。
かつて、業界紙の記者だった七尾和晃の『堤義明 闇の王国』(光文社)はこの取材体験をまじえながら西武鉄道、そしてコクドの実態に迫っていく。また康次郎から義明へと受け継がれた「株支配の構造」を明らかにするとともに、法人税を1銭も払わない仕組みも明らかにしている。
先に触れた中嶋泰雄の父・忠三郎が書いた本が『西武王国――その炎と影』(サンデー社)だが、西部グループの顧問弁護士として康次郎、そして義明に仕えたという人だけに堤一族について詳しい。
桐山秀樹『プリンスの墓標』(新潮社)は義明のワンマンぶり、政治家との関係から女性関係について詳しい。
かつて『彷徨の季節の中で』で、自分の生い立ちを辻井喬のペンネームでリアルに書いた清二だが、それから30年たって、さらに詳しく書いたのが『父の肖像』(同)である。これまで辻井喬の小説を愛読してきた者として、この作品は最高の傑作だと思う。父・康次郎への反抗と和解の過程がよくわかる。ただ、経営者になってからの自分自身については書かれていない。次はぜひ『経営者の肖像』を書いてもらいたいものである。
その清二の西武セゾングループはバブル崩壊とともに他人の手に渡り、そして今、本家の西武鉄道グループも解体されようとしている。 これを堤家の特異な家族関係の話としてとらえるか、それとも大企業グループの解体としてとらえるか。これまで書かれたたくさんの西武物は、すべて前者であるが、これでは西武グループ企業の実態はつかめない。
企業が大きくなりすぎて、“大企業病”にかかった結果起こった解体現象の一こまが西武王国の解体ではなかったのか。人物本位の話は面白いかもしれないが、それだけでは事の本質はつかめない。本格的な西武王国論はまだない。


ネット新聞の成功例
本編よし解説サイアク





中立の報道なんかありえない













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