メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年5月21日~6月11日
| 大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか | |
![]() | R.E.パーカー 中央経済社 2005-01 売り上げランキング : 77,032 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1930年代の大恐慌は、世界を変えた事件である。それ以前の経済学では、失業は一時的な、重要でないことと考えられていた。当時、市場の自動調節機能が生産の停滞と失業の増大を解決すると教えられていた若い経済学徒は、どのように大恐慌を理解していたのだろうか。
本書に登場するのは、サムエルソン、フリードマン、キンドルバーガー、トービンといった、後に戦後の経済学を作ることになる人々だ。彼らは、当時、大恐慌をどう見ていたのか、また現在、どう見ているのかを、著者はインタビューによって明らかにしていく。
著者は、大恐慌の原因について、特定の仮説をもって尋ねている。それは、貨幣的または金融的要因によって大恐慌が起きたというものだ。そしてそのような金融政策が採用された要因として金本位制を挙げる。この仮説は、世界の学界の通説になっていると私は思うが、賛同しない読者も多いかもしれない。いずれにせよ、立場を明らかにして真実に迫るのは、誠実であるとともに効率的である。インタビューはすぐさま核心を衝けるからだ。もちろん大恐慌の原因だけでなく、当時の世界がどんなものだったかについての興味深い証言も引き出している。
世界的な経済学者の間でも意見は一致していない。サムエルソンは、大恐慌は一連の不幸な出来事の結果であり、金本位制の下では、連銀が積極的な金融政策を行うことは不可能だった、大恐慌を終わらせたのは第2次世界大戦のための膨大な財政支出であったと主張する。
フリードマンは真っ向から反対する。大恐慌は連銀の誤った金融引き締めによって起こり、政府の軍事支出の効果は、紙幣の印刷によって賄われたことによる効果であると主張する。大恐慌の教訓は、市場が失敗することではなく、連銀を含む政府が失敗することだという。トービンも、預金から現金へと銀行から準備金が流出したのに、連銀がハイパワードマネーを増やしてそれを相殺しなかったのは大きな誤りだと指摘する。
しかし、大恐慌を大きな体験と見なかった経済学者もいる。レオンチェフは、大恐慌は、雇用が保証されていた大学ではたいした影響を与えていないと証言する。これは興味深い指摘で、日本においても、70年代および90年代以降の停滞に経済学者がそれほど関心を持たない理由かもしれない。しかし、ほとんどの経済学者が、大恐慌は彼らの人生観と経済学を変える出来事だったと証言している。
本書を読めば、偉大な経済学者から、大恐慌という歴史的大事件を通じて、マクロ経済学の講義を受けることができる。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】
| 自民党と戦後―政権党の50年 | |
![]() | 星 浩 講談社 2005-04-19 売り上げランキング : 11,354 おすすめ平均 ![]() 気楽に読めた 参考になった 自民党の秘密Amazonで詳しく見る by G-Tools |
自民党が政権与党であるということは、大抵の人が知っている。その自民党が結党から半世紀を迎えるということも。だが先進国の中で、一つの政党がこの半世紀のほとんどすべての期間、政権の座にあるというのは例がないことを知る人は、そう多くないのではないか。本書は、自民党という支配政党の実態と限界を一般に正しく認識されていない現状が、日本の政治・経済・産業・社会にとっていかに危ういかを警告する出色の政治入門書である。同時に優れた「自民党物語」でもある。
1955年11月、当時の自由党と日本民主党の合同によって結成されて50年。政権党であり続けるための強靭でかつ柔軟な変身ぶりに改めて驚かされる。結成以後、国論を二分した岸信介首相の60年安保改定、高度成長へテイクオフした池田勇人首相の所得倍増、沖縄返還を実現した佐藤栄作首相の長期政権、などがあった。その後、列島改造と日中国交正常化の田中角栄首相の登場で「三角大福中」時代が到来、「ロン・ヤス関係」、国鉄と電電民営化の中曽根康弘首相が締めくくった。
さらに、党内権力抗争は続いた。著者が言う第3世代(ニューリーダー)の「安竹宮」時代である。だが、バブル経済破綻と政治改革を機に一党支配の終焉となる「経世会(竹下派)」分裂、細川護煕政権の誕生となるが、ほどなく社会党委員長を担いで政権復帰を果たす。それから橋本、小渕、森政権を経て4年前、「自民党をぶっ壊す」と小泉純一郎政権が発足した。
こうした小史を踏まえ、第2章「衰弱する巨象」、第5章「理念の対立軸」、第7章「政権党の将来」を読めば、「今後の自民党のありようが日本の先行きを決めるといっていいだろう」と著者が言うのも肯ける。5本のコラムも大変面白い。【評者 歳川隆雄 『インサイドライン』編集長】
| 景気とは何だろうか | |
![]() | 山家 悠紀夫 岩波書店 2005-02 売り上げランキング : 36,484 おすすめ平均 ![]() 参考になりますAmazonで詳しく見る by G-Tools |
本書表題は初学者向け入門書という印象を与える。確かに前半の3章は景気理論、景気のとらえ方、戦後日本の景気循環の簡潔な解説であり、新社会人が基礎的知識を身につけるうえでも格好なテキストといえる。
だが、1997年の橋本失政以降を扱った後半3章には著者の強烈な主張――「構造改革」批判がある。97年を境に、景気回復→家計所得上昇という回路が姿を消した。それ以降、2度の景気上昇局面でも家計所得は一貫して減り続けた。これは戦後初めての現象だという。著者はこの事態を構造改革路線(市場競争ないし株主価値重視路線)の定着による景気構造の変化ととらえ、因果関係を説得的に説明している。この結果、景気はいつまでも内需に点火せず、公共投資や輸出など外的要因が剥げるとすぐに力を失う自律回復力の弱いものになってしまった。「景気がよくなっても暮らしは楽にならない」という庶民の実感を理論的に解明してくれる。
| 現代日本社会58景―社会心理学の眼で | |
![]() | 大橋 幸 新曜社 2004-10 売り上げランキング : 761,800 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
社会学は「やりにくい」学問とされている。社会学的分析が社会変動に追いついていかないのである。
生きた社会現象の分析を期待しても、希望が満たされる出版物はまれだが、本書はそのまれな例である。
著者は社会心理学を、社会生活のイメージを実証的に分析する手法と位置づける。この態度は「社会心理学の視線」に始まり、「子供の孤食化、拉致日本人の洗脳、鬱型社会、失われた母親信仰、天の邪鬼」など58のトピックを貫く。
テーマを日常から採っているが、どの項目も根拠となるデータや実験を示しており、随筆風の類書との違いは明確である。
「納豆ゲマインシャフト、有職渡世人」の用語に、世相に迎合しない天の邪鬼教授のぺーソスとユーモアも垣間見える。カルチャーショックや世代間ギャップに悩む層には、読後の納得感と爽快感があるはずだ。出版界の名コピー「おもしろくてためになる」を地でいく趣がある。
| CSR経営戦略 | |
![]() | 伊吹 英子 東洋経済新報社 2005-04-22 売り上げランキング : 13,878 おすすめ平均 ![]() CSR経営Amazonで詳しく見る by G-Tools |
この1、2年で急速に広がった経営のキーワードがCSR(企業の社会的責任)である。賢明な本誌読者であれば、CSRが単なる社会貢献活動や法令順守(コンプライアンス、これも最近のキーワード)だけを意味するものではないことはすでにご承知だろう。だが、「CSR室」「CSRレポート」の担当者でもなければ、その意義の理解はともかく、それが日々の業務とどうかかわるのかをきちんと消化できている人は、いまだに少数派ではなかろうか。
本書は、CSRと経営戦略とをいかに融合させるかという視点から、「戦略的CSR」実践の手引きとして書かれたもの。その前提には、CSRへの取り組みが「本業」に対し副次的なものではなく、企業の根幹そのものにかかわる問題だという著者の信念がある。
著者は、野村総合研究所で二十余社へのCSRコンサルティング実績を創り上げてきた人。事例も豊富で、示唆に富む内容だ。
| トヨタ式 孤高に挑む「変革の遺伝子」 | |
![]() | 日本経済新聞社 日本経済新聞社 2005-04-19 売り上げランキング : 8,426 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
トヨタ自動車は、今や日本企業の中でも圧倒的な存在感を示し、また世界の自動車業界においても一目置かれる存在だ。独特の経営手法、経営理念/哲学、企業文化は、世界中で業種を超えたさまざまな企業や研究機関の格好の研究対象となっている。本書は、日本経済新聞の記者がその取材力を活かして、トヨタの「今」を非常にわかりやすく、そしてコンパクトにまとめており、トヨタの強さの秘密、課題などを短時間で理解するには最適の1冊だ。
本書で印象的なのは、三河の一企業に過ぎなかったトヨタが、グローバル企業へ、そして世界で「尊敬される企業」へ進化しようと必死に頑張っている姿だ。その根底にあるのは、世界で「尊敬される企業」にならなければ、自社の繁栄も続かないという危機感だ。そこで鍵を握るのが「社会的責任」、なかでも「環境」への取り組みだ。実際、プリウスをはじめとするハイブリッド車への取り組みは他社を圧倒している。また世界中で現地生産を推進することによる、雇用創出等、地域社会への貢献、日本の新しい学校のあり方の追求、日本が誇る「モノづくり遺伝子」の継承、「トヨタ式」の他企業や公的機関への移植……。これらはみな「社会的責任」を意識した取り組みであり、企業、地域社会、国家、世界、各レベルでの貢献には、改めてトヨタの底力を感じる。
もちろんトヨタにも死角がないわけではない。本書でも中国展開、レクサスの日本市場投入、部品メーカーのケイレツ再編、敵対的買収対応、GMとの関係維持等、多くの課題が指摘されている。
しかし、トヨタが自己の経営理念/哲学、企業文化を維持し進化し続ける限り、その目標達成も不可能ではないだろう。当分トヨタから目が離せない。【評者 黒田康史 ベンチャーキャピタリスト】
| 少子高齢社会のみえない格差―ジェンダー・世代・階層のゆくえ | |
![]() | 白波瀬 佐和子 東京大学出版会 2005-02 売り上げランキング : 24,954 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ひと口に少子高齢化といっても、個々の家庭はさまざまである。本書は詳細なデータから、現代の家族を取り巻く環境をあぶりだしてくれる。
〔1〕経済的に恵まれない男性、恵まれた女性は結婚しない(できない)?(第3章)
著者の答えはノーである。高所得男性の未婚率は低くなり、高所得女性のそれは高くなるものの、男女とも低学歴層での未婚化が目立ち、それほど単純ではない。
〔2〕高齢者の所得格差は進んでいるか?(第7章)
わが国は家族的なケアの役割が大きかったこともあり、欧米に比べて高齢者の可処分所得が小さい。特に一人暮らしの女性高齢者では、平均の半分にも満たないありさまである。夫を亡くした女性の経済状況はとても一人立ちできるものではなく、近年その格差は増大している。
〔3〕パラサイト・シングルってほんとう?(第5章)
低所得世帯では、子どもの所得の繰り入れ割合が大きくなっている。不況下でリストラされた世帯では、子どもの経済的な役割は大きくならざるを得ない。また、親が子どもの世話を焼く程度も、近年低下している。パラサイト・シングル現象はデータで見る限り支配的なものではない。
〔4〕マザコンが増えたか?
これは評者の少しうがった見方であることをお断りした上で、その答えは、イエス&ノー。姑が専業主婦であると妻は仕事を続けにくい(第4章)。夫の母親の姿は、家庭のありかたに影響を与えているのだ。一方、親(特に母親)が子どもの世話を焼くのは、娘に対してである(第5章)から、必ずしも男がマザコンになっているわけではない。
学術書の少し硬い語り口ながら、読者自身の家庭環境を再考させてくれるだろう。【評者 江口匡太 筑波大学助教授】
| 山本昌邦指南録 | |
![]() | 山本 昌邦 講談社 2005-01 売り上げランキング : 74,692 おすすめ平均 ![]() タイトルには賛否両論あるでしょうが タイトルは強気に出すぎですが… 指導者日誌Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は2002年サッカーW杯の日本代表チームコーチであり、04年のアテネ五輪チーム監督。本書は著者が自らのコーチ人生を記したものだ。
五輪予選から本大会までの話は抜群に面白い。評者は五輪での日本チームの戦い方に疑問を持っていたが、本書を読んで、目からうろこの落ちる思いがした。しかし、本書の真骨頂は、サッカー本でありながら優れた経営書であり、コーチング書でもあること。
アテネ五輪最終予選では選手のほぼ全員が食中毒に見舞われたが、その際の対処の仕方は企業経営における危機管理そのものだ。
著者は選手を指導するときに選手に伝えたいことと、実際に伝わったことのズレをつねに意識しているという。意思疎通が不徹底であれば、試合に勝てないのはもちろん、選手個人の実力が伸びない。では、ズレをどのように埋めるのか。本書は、サッカーに興味のないビジネスマンにも貴重な指針を与えてくれる。
| 決済システムのすべて | |
![]() | 中島 真志 宿輪 純一 東洋経済新報社 2005-02 売り上げランキング : 6,775 おすすめ平均 ![]() 定番ですAmazonで詳しく見る by G-Tools |
金融業界では定評のある「決済システムのすべて」が約4年ぶりに全面改訂された。
旧版はいくつかの大学では教科書として使用され、中国でも中央銀行によって翻訳・出版された。初心者向けの基礎理論や基本知識から、海外の決済システムの最新動向まで網羅している。決済業務のみならず金融に携わる者にとって必読の一冊であり、本書の腰帯にある「決済の基本書」という言葉も決して誇張ではないといえよう。
本来、決済システムは金融システムの根幹をなすものである。本書によれば、欧米やアジアの決済システム高度化の動きは著しく、わが国の決済システムが陳腐化するリスクも出てきている。
こうした中、本格的な改革を一丸となって推進しなければ、わが国の金融の将来は暗いと思われる。姉妹書『証券決済システムのすべて』はまだ未改訂であり、一刻も早い改訂が望まれる。
| 邱永漢の中国株で儲けましょう―ハジメくんの中国投資考察団レポート | |
![]() | 邱 永漢 コンタロウ 集英社インターナショナル 2005-03 売り上げランキング : 3,861 おすすめ平均 ![]() 中国のこれからがわかります。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国株は「虎の棲む宝の山」という。たくましい経済成長をバックに、有望株が目白押しのように見える一方、市場をめぐる法や制度は日本などと比べるとはるかに未整備。何が起こるかわからない恐ろしさも秘めている。
中国株ブームが依然続いているが、その本質、基本を投資の名人・邱永漢がマンガ仕立てでズバリかみ砕いて説明している。
中国の実情を自分の目と耳で確かめることが邱流の投資原則である。実際に投資家として失敗も多いというが、成長株をしぶとく持ち続ける重要性も説く。
今後のポイントとして、A株、B株の統合が行われること。また、人民元の切り上げの時期。このチャンスをいかに生かすかだ。
中国の会計法が不備なので、会社の信頼度を見分けるには、外資が入っているかどうか、また、配当が安定しているかどうかも重要という。中国株投資の見どころ、勘どころのビジュアル解説本である。
| 英語教育はなぜ間違うのか | |
![]() | 山田 雄一郎 筑摩書房 2005-02-08 売り上げランキング : 11,928 おすすめ平均 ![]() 英語習得にも王道なし 笑わせてはくれないが冷静な議論Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本人の英語への思い入れは強い。親は子供に英語を身につけさせたいと願い、有識者は英語を公用語にしてはどうかと提言する。この過剰な英語信仰がかえって英語教育の混乱を招いていると著者は指摘する。ネイティブスピーカーが大量に雇い入れられ、また小学校からの早期学習を進めるなどの改革が進められているが、なぜ他の科目を犠牲にしてまで英語教育を進めなければならないのか、肝心な点が曖昧なのだ。
どんな政策にも理念が必要だが、英語教育の拡張政策にはどんな理念があるのか。著者は言語政策の専門家として、その曖昧さを鋭く指摘する。
たとえば政府は「国際理解」という観点から英語教育の必要性を説くが、異文化を理解するためには英語だけではなく他の科目(たとえば地理や音楽)も重要だし、何より英語以外の言語も必要であろう。英語だけが国際語ではないからである。
英語の母国イギリスでは、外国語教育の遅れが深刻に議論されているという著者の指摘は興味深い。諸外国の言語政策との比較も読みどころの一つだ。
また本書は、そもそも義務教育に外国語学習が必要なのはなぜか、という根本的な問いにも示唆を与えてくれる。異なる言語を学ぶ能力は、自国語の能力と深いところでつながっているという言語学の仮説を紹介しつつ、外国語学習は子供の総合的な言語能力の向上に不可欠な訓練であるというのである。これは逆に言えば、自国語の基礎なしに外国語だけを身につけるのは不可能ということでもある。
日本人のすべてがバイリンガルになる必要はどこにもない。義務教育で必要なのは「使える英語」である以上に、自国語を含めた基礎的な言語能力である、というのが本書の主張だ。まさに正論と言うべきであろう。【評者 柴山桂太 滋賀大学経済学部講師】
| メディア裏支配―語られざる巨大マスコミの暗闘史 | |
![]() | 田中 良紹 講談社 2005-03 売り上げランキング : 11,245 おすすめ平均 ![]() 日本の裏とメディアの裏 メディアの新規参入を阻むものとは?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
テレビの世界が揺れている。ライブドアがフジテレビと攻防劇を演じて話題を呼んだ。番組への政治介入問題で朝日新聞とNHKが対決した。そのNHKで詐欺事件などの不祥事が発覚する。会長辞任に発展した。日本テレビでは読売新聞保有株について有価証券報告書虚偽記載容疑を恐れて訂正を申し出るという出来事も発生した。1年半前には視聴率調査をめぐる買収事件も起こった。
一方で、「テレビの威力」が論議を呼ぶ。国民を動かす巨大パワーを手にしたテレビが政治を左右する現象が問題になる。
ところが、テレビの世界は秘密のベールに覆われている。多発する事件は個別の問題のように見えて、実は一つの構造の下で起こっている事象ではと疑う人は多い。テレビはいまや最強のメディアとして民主社会の重要な担い手のはずなのに、タブーや聖域は数多いといわれる。本書はその謎に挑戦した。
著者はTBS記者として活躍した後、退社して国会審議を専門に中継する「国会TV」の開局に力を尽くした。テレビの世界の裏表に精通する練達のジャーナリストである。20年余に及ぶ取材経験と、国会TVの開局から放送停止までの実践体験が本書の骨格となっている。
誰もが知りたい視聴率主義の歪んだ実態とメカニズム、記者クラブというもたれ合いと既得権死守の閉鎖社会の内実も明らかにする。「政治権力とメディア」の章では田中角栄、中曽根康弘、金丸信、竹下登などへの密着取材を基に、政治の裏支配をめぐる暗闘劇を描いている。
そこも興味深いが、引きずり込まれるのは「歪んだニューメディア」と「メディア裏支配」と題する最後の2章だろう。
なぜ日本だけ衛星放送にBSとCSの二つがあるのか。多チャンネルという新しい放送がなぜ日本で育たないのか。著者は国会TVの開局を推し進める中で、テレビの世界の深層に横たわるタブーと聖域を見た。テレビ局、新聞社、政界、総務省(旧郵政省)、NTTや商社などが入り乱れて権益維持や新規利権獲得に血眼になり、メディアとしてのテレビが歪められていく。
著者は執筆意図について「今必要なことはメディアを表面的に論ずるよりも『正しい情報』を押しつけてくるメディアの裏側を国民に知らせ、メディアとどう向き合うか」と書く。
テレビの世界の病理を簡明に描き出すという目的は十分に達成されていると思うが、読者の中には「もっと知りたい」と多少の食い足りなさを感じる人もいるかもしれない。著者の机の引き出しにはそんなニーズに応えられる材料がいまもぎっしりと詰まっているのではないか。【評者 塩田 潮 ノンフィクション作家】
| 桜が創った「日本」―ソメイヨシノ起源への旅 | |
![]() | 佐藤 俊樹 岩波書店 2005-02 売り上げランキング : 8,809 おすすめ平均 ![]() 全国一色お花見風景の虚実 想像された日本らしさAmazonで詳しく見る by G-Tools |
春になると桜の開花を待ち焦がれて日本中が熱くなる。南から北へ、日を追って北上する桜の開花前線が連日のニュースになる。そのほとんどが「ソメイヨシノ」という品種。人々は「嵐のように通り過ぎていく、わずか10日間のソメイヨシノの春」に狂喜するのである。
桜にはたくさんの種類がある。自生種では、ヤマザクラ、エドヒガン、オオシマザクラ等々。ほかに園芸種が300以上。ソメイヨシノは、幕末から明治の初期、江戸の染井周辺で作られ、各地に広がった園芸種である。根付きがよく、成長が早く、とても経済的な品種だったので、大いに歓迎された。葉が出る前に花が出揃うという容貌の美しさが喜ばれたからでもあろうか、今や日本の桜の7~8割はソメイヨシノだという。
しかし、これほどソメイヨシノが広がったのは、昭和、しかも戦後なのである。小学校がたくさん建てられ、公園が造営され、河川の堤防や観光地の景観整備に使われたからである。ソメイヨシノ以前は、人々が見ていた桜の姿は、時代により地域によって違っていた。その昔、西行が「花の下にて春死なむ」と歌った桜と、今の私たちが花見に浮かれている桜とは違うものなのである。
明治期には、日本はまず「松国」であり、「梅国」であり、そして「桜国」であった。しかし、ソメイヨシノは日本中に同じ春を作り出し、日本を「桜」で代表させるナショナリズムにリアリティを与え、多くの「桜語り」を生んだ。そういうナショナリズムを否定したはずの戦後に一段とソメイヨシノが普及し、日本の桜の均一化に貢献したのは、何とも皮肉である。
最近のニュースでは、発祥の地の染井は都市化が進み、ソメイヨシノどころか、桜そのものがほとんど見られないそうだ。【評者 仲倉重郎 映画監督】
| バフェット投資の王道 | |
![]() | ロバート・P・マイルズ 三原 淳雄 小野 一郎 ダイヤモンド社 2005-01-17 売り上げランキング : 1,696 おすすめ平均 ![]() 「株は買うもので売るものではない。」 本当の豊かさ、富を築くには?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
最近、個人投資家の投資熱の高まりからか、書店でも投資に関する本がところ狭しと並べられている。中にはいかがわしい本も多い。
その中にあって本書は、まさに正統派株式投資指南書と言ってよいだろう。というのも、今やビル・ゲイツについで全米第2位の資産家として名高いウォーレン・バフェットの投資哲学を中心に、いわゆる「バリュー投資」の真髄について解説した入門書だからだ。
「バリュー投資」は、企業とその経営者を徹底的に調べ上げることによってその本質的な価値を見出し、その価値に比べて割安な株式に長期投資する投資手法だ。この「株式」ではなく「企業」を長期間所有するという考え方は、まさに「バリュー投資」の真髄だ。
「バリュー投資」ではよく読書をして「自分の頭で考える」ことが大切と説く。彼にとって、「リスクとは自分が何をやっているかを知らないこと」であり、自分が理解できないものには投資しない。分散投資でなくあくまで集中投資にこだわる。市場平均よりもはるかに高い利回りを上げながら、謙虚に失敗から学ぶ姿勢も、バフェット流だ。
本書ではまた、バフェットの人生哲学を学ぶことができる。彼にとって勤勉、倹約、強い倫理観と素晴らしい性格、誠実さといったものこそ重要であり、「お金で幸せは買えない」とさえ言い切る。どこかの誰かに聞かせてあげたい言葉だ。
さて、巷では拝金主義や成金がもてはやされ、投資でも目先の利益を追う風潮が強い。しかし、投資の本質を理解し、投資の王道を究めたければ、「バリュー投資」を学ぶことが大切だろう。その点、バフェットの投資哲学や手法、さらには彼の人生哲学まで学べる本書は、大いに役立つだろう。【評者 黒田康史 ベンチャーキャピタリスト】
| 老人自立宣言! | |
![]() | 村山 孚 草思社 2005-01 売り上げランキング : 79,910 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
最近、新聞やテレビなどで、老人介護に関して、弱者を食い物にする醜悪な犯罪が報道されている。それにしても、われわれは、たとえばデンマークの老人の「共生」「自立」の生き方に注目すべきではないか。もちろん、わが国とは所得税や年金などのシステムが違うことを前提にしても、である。
本書は、中国古典・文化の分野で、この人ありといわれている著者の「自立宣言」である。現在85歳で、夫人と一緒に富士山麓での生活。途方もなく不便であろう。だが、著者は、そんなことをまったく意に介さず、明るく次の6カ条を提示する。〔1〕感謝はするが甘えず、心の自立を忘れまい。〔2〕身も心もシャキッとしよう。〔3〕自分の体、自分が責任を持とう。〔4〕好奇心を持ち続けよう。〔5〕自信を持て! 自分しかできないことがある。〔6〕「死」に馴染んでおこう。このためには「50代の準備体操、60代の助走がものをいう」と助言している。
| 豊臣秀吉の経営塾 | |
![]() | 北見 昌朗 幻冬舎 2005-03-18 売り上げランキング : 3,137 おすすめ平均 ![]() いい本に出会えました 新入社員に読んでほしい本です 秀吉のと対話が楽しめるAmazonで詳しく見る by G-Tools |
信長、秀吉、家康――これらの誰に仕えたいか。上司としてはどのタイプがよいのか。「信長は厳しそう。家康は陰気くさいしケチそうだ。そうなると上司はやはり秀吉がよい」。中堅企業の経営者たちとそんな話をしたことがある。
上司としての秀吉は、何しろ仕事・チャンスを与えヒトを育てる。仕事をやらせればヒトは育っていく。それにモチベーションを高め、ヤル気を起こさせるのがうまい。「なぜ、お前に任せるか」を部下にしっかり伝え、褒めるなどの心配りも怠らない。成功したら報酬・昇進はケチらない。その人間通の人事管理は、秀吉に後生「人たらし」という呼び方を残している。
世の経営者としては、幹部人材の育成には頭を悩ませているのが常だ。管理職研修などを受けさせたり企業としてもあの手この手で人材教育を施している。そんなことを無理矢理やっているよりは、この本を読ませたほうがよい管理職をつくること請け合いである。
| 減損会計早期適用の実態と不動産処理の実例―実際の不動産処理の事例を掲げて解説! | |
![]() | 日本土地建物減損会計研究グループ 税務研究会出版局 2005-03 売り上げランキング : 52,118 おすすめ平均 ![]() 実例がおもしろかったAmazonで詳しく見る by G-Tools |
いよいよ4月1日以後開始の事業年度より減損会計が適用される。減損会計とは事業用の固定資産に対し投資の回収可能性を検討し、著しく低下した固定資産については回収可能価額まで評価減しなければならない会計基準である。日々の営業活動に支障はきたさないものの、会計上の評価損となる一方、税務上では損金算入できないため企業サイドのマインドも低く、対策も遅れがちだ。
本書ではこうした減損会計のマイナス面だけにとらわれず、資産価値を最大限に活用し企業価値そのものの最大化を目指すことが重要であるという視点から、減損会計への具体的な対策を紹介。新日本監査法人公認会計士太田達也氏監修の下、不動産の実務に精通した日本土地建物株式会社の減損会計研究グループが手掛けた実例を基に、活きた対策方法をわかりやすく解説している。
減損会計への対応を迫られる企業担当者にとって、格好の書といえよう。
| 殴り殺される覚悟で書いた親日宣言 | |
![]() | チョ・ヨンナム 萩原 恵美 ランダムハウス講談社 2005-04-13 売り上げランキング : 64 おすすめ平均 ![]() 韓国という国とその韓国から見た日本 韓国の一般的な人の考え方 韓国のタレント本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は、韓国では知らない人はいない歌手で画家。歯に衣着せぬ言動でも知られ、日本で言えば北野武のような存在か。そんなエンターテイナーが、日本に発生した韓流ブームの一方、竹島、靖国と政治問題噴出するこの時期に、こともあろうに「親日」を掲げた本を出した。
もちろん学者でも研究者でもない個人の見解にすぎないし、自国民に向けて書かれた本であるために国民感情に対する配慮もあり、衝撃的なタイトルの割に、これまでの反日教育を受けて育った人らしい見方や、キリスト教的な宗教観をベースにした、やや一面的な見解も多い。政治的立場を離れた彼の国の民が日本や日本人をどう見ているのか、という疑問に十分に答えているわけでもない。
それでも、この本が出版された意味は小さくない。個人間の交流が相互理解の基本だと教えてくれる。一方で、日本理解を深める努力を怠っていた外交当局には反省を求めたい。



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