メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年12月3日~12月10日

経済政策の政治学―90年代経済危機をもたらした「制度配置」の解明
4492211551上川 龍之進

東洋経済新報社 2005-09
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景気回復に伴って、今度こそ「あの時代」は過去のものになるという期待が高まっている。しかし、あの時代を二度と繰り返さないためには、その原因をきちんと解明しなくてはならない。いったい何があの時代に起きたのだろうか? <.p>

そうした作業に政治学から果敢に切り込んだところに、本書の大きな価値がある。

本書の対象は二つの経済失政、すなわち日本銀行によるバブル発生前後の金融政策と大蔵省による金融機関破綻処理の先送りである。それに対応して、本書の仮説も二つある。第一に、1998年に法的独立性を獲得するまで独立性・自立性が低いと思われていた日本銀行であるが、実はそれは政府・旧大蔵省からかなり自律的であった。したがって、バブル前後の失政の責任のかなりの部分は外部の影響ではなく、日本銀行に求められる。第二に、金融機関破綻処理先送りの原因は大蔵省の組織防衛であった。大蔵省は金融行政の失敗を認めることが金融部門の切り離しといった組織の縮小・解体に結びつくことを何よりも懸念したのである。

こうした本書の仮説の根底には、あの時代の失敗の原因を政策に求めるという、さらに大きな仮説がある。この大仮説は基本的に正しいと評者は考える。

本書は通説に挑戦する意欲作であるものの、いくつかの課題が残されていることは事実だ。

第一に、著者は多くの経済学者の議論を渉猟しているものの、時として両論併記的であり議論の見通しを悪くしている。

第二に日銀の独立性仮説はさらなる検討が必要であろう。もとより組織間の関係は単純ではない。中央銀行の完全な独立性も完全な従属もありえないとしても、公定歩合が具体的にどう決定されたかについて、より正確な理解が求められる。

第三に、当時の政策担当者がどのような知識をもっていたかはさらに考察されなければならないだろう。これは政策担当者の責任を正確に理解するためにも必要である。たとえば80年代後半の経済政策を主導した理念に「国際協調」があった。この理念に異議を申し立てた経済学者は皆無ではなかった。また、著者は大蔵省が政治家から不良債権に関する正確な情報を「隠蔽」したという。この評価は96年あたりからは妥当するかもしれない。しかし、それ以前においては―― ごく一部の例外を除けば――大蔵省の担当者は不良債権処理に必要な会計知識を欠いていたのではないだろうか。

「あの時代」の政策形成過程を正確に理解することは、日本の社会科学者の使命である。大きな課題に挑戦する若い研究者の登場を心から喜びたい。

■2005/12/10, 週刊東洋経済

明日は誰のものか イノベーションの最終解
4270000716クレイトン・M・クリステンセン スコット・D・アンソニー エリック・A・ロス

ランダムハウス講談社 2005-09-16
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おすすめ平均 star
star判りやすいのだが,,,
starやっとわかった!
star歯ごたえ十分

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本書は、ベストセラーの『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』に続くクリステンセン教授の3作目の著作。これまでの彼の研究の集大成ともいえる存在だ。

本書の目的は極めて明解だ。すなわち、前2作で確立されたイノベーションの理論を使って、産業の変化を見通し、未来を予見するための方法、プロセスを示すことだ。

500ページを越える大著だが、構成は非常にシンプルでわかりやすい。第1部は、イノベーション理論を活用した将来の予測方法について議論した理論編、第2部はこの理論を教育、航空、半導体、ヘルスケア、通信といったさまざまな業界、さらには海外のイノベーションに実際に適用した実践編だ。また巻末の「主な概念のまとめ」や「用語集」は、読者が頭を整理する上で大いに役立つ。

本書で理論の中核をなしているのは、前2作の柱にもなった「破壊のイノベーションの理論」「経営資源・業務プロセス・価値観の理論」「バリューチェーンの進化理論」だ。これらをベースに「変化のシグナル」を見定める方法、「競争のための戦い」の評価方法、そして企業が下す重要な「戦略的判断」を見極める方法についての議論、さらにはイノベーションに影響を与える非マーケット要因についての議論が第1部で展開されている。しかし本書の真髄は、やはり第2部の実践編にあるといってよいだろう。取り上げられた業界はどれも興味深いところばかりだが、これらのケーススタディを通じて、読者は将来を見通す洞察力を一層深めることができる。

すべての経営者やビジネスパーソンに本書をお勧めしたいと同時に、本書の中で著者が示唆している次作の内容にも是非期待したい。【評者 黒田康史 ベンチャーキャピタリスト】

■2005/12/10, 週刊東洋経済

日本を滅ぼす「経済学の錯覚」 Illusion of Economics
4334933645堂免 信義

光文社 2005-10-01
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おすすめ平均 star
star我々日本国民は著者の経済理論を応援しようではないか!
star日本経済に対する鋭い洞察力。強くお勧めです。
star自分の頭で考えることの大切さ

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「あなたがお金を貯めれば貯めるほど、経済全体が縮小していく。経済学が根本で誤解している錯覚のせいで、日本は国家破産しようとしている。そして結局、あなたが一番損をする」

この手のタイトルの本は、えてして、いわゆる「トンデモ本」が多いので、あまり期待しないで手に取ってみたところ、正直言って「中身のすごさ」に驚いた。

「アマゾン」の書評などでは「経済学の原理をわかりやすく解説」などとなっているようだが、冗談じゃない。評者は、約20年前に大学の法学部を卒業した後、某経済官庁に奉職した者だが、経済学についてそれほど素養のない者が、経済学者の主張を根本から否定しているこの本の主張が本当に正しいのかどうかは、理解できるはずがないと思う。

著者は理学部を卒業後、大手電機メーカーで人工言語などを長年研究されてこられた方で、経済学の知識は、退職後アダム・スミスやケインズなどの原書と格闘しながら独力で身につけられたという。研鑽の結果、ご自身の数学的見識から見て、経済学者は基本的な数式の解釈が間違っているという大発見をされた(ケインズの乗数理論は無意味であるなど)。

著者は、「この本を出したら経済学界全体を敵に回すかもしれない」という決意だったそうだが、フタを開けてみると学者、エコノミストからの反応はゼロで、まったくの肩すかしだ。

しかし、国内での経済格差拡大が心配される昨今、この本の主張が正しければ有効な処方箋になることは間違いない。だから、経済学者やエコノミストの方たちは「耳障りな」この本を黙殺しないでほしい。後世から「不作為の罪」を問われる種をわれわれはこれ以上増やしてはいけないからである。【評者 藤和彦 内閣官房内閣参事官】

■2005/12/10, 週刊東洋経済

朝青龍はなぜ負けないのか
4103002913松田 忠徳

新潮社 2005-10-27
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朝青龍といえば、強いが毀誉褒貶の多い力士という印象がある。しかし、本書を読んで考えを改めた。

まず彼の強さ。これは一般の認識以上である。たとえば歴代の<中1敗を挟む連勝記録>を見ると、双葉山の75、千代の富士の60に次いで朝青龍の51が3位。大鵬はその下の47である。今後さらに成長すれば、双葉山の連勝記録69を抜くこともあるかもしれない。

一方、批判は、強さを妬んだ言いがかりが多い。

たとえば、朝青龍が完全に有利な体勢で、相手が悪あがきをしたとき、朝青龍は相手を土俵にたたきつけることがある。これに対し弱い者いじめだという批判がある。だが著者は言う。自らの弱さを棚に上げ、相手の強さを乱暴だと非難するのはプロではない、と。他の批判も、ほとんどが根拠薄弱か、誤りだという。

むしろ、本当の問題は、“出る杭を打つ”相撲マスコミや、一向に旧弊を改めない相撲協会にあるという指摘にはうなずかされる。

■2005/12/10, 週刊東洋経済

わが人生記―青春・政治・野球・大病
4121501985渡邉 恒雄

中央公論新社 2005-11
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おすすめ平均 star
starそれなりに波瀾万丈

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渡邉恒雄氏といえば読売新聞グループの総帥として知らぬ人なき存在だ。中曽根康弘元首相との異常に親密な関係だとか、独裁者だとかがいわれ、特に昨今はプロ野球問題で超大物悪役(ヒール)と扱われることも多い。

しかし、改めて言うのもはばかられるが、本書を読むと、著者が非凡な才を持つジャーナリストであったことを再確認させられる。

著者は大学時代、哲学徒だった。ギリシャ語のアリストテレス『形而上学』を買えず、研究室で大学ノートに筆写した話や、終戦直後の食糧難の時期、神田の古書店で1升5合の米と西田幾多郎の『自覚』とを交換した話など、現在の著者からは想像できない哲学への情熱が伝わってくる。かつての共産党体験やその後の変化など、挿話はどれも非常に興味深い。ほかに政治論、プロ野球論、がん闘病記などを収録している。

願わくは、著者が早く実務から解放され、本格的な自叙伝を執筆する時間を与えられんことを。

■2005/12/10, 週刊東洋経済

日本経済―混沌のただ中で
432655049X井村 喜代子

勁草書房 2005-06
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おすすめ平均 star
star正確な日本経済分析
star最も優れた日本経済分析

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本書は、日本経済は依然として混沌の中にあるという認識からバブル崩壊後の状況に分析を加えている。

「混沌」というキーワードは経済分析にあまり使用されないが、著者は恐慌・産業循環理論の専門家として従来の経済用語をあえて避け、混沌という概念で日本経済を切る。それは恐慌、大不況、経済停滞、長期停滞という従来の概念では今日の日本経済を解明できなくなったからだろう。

機械、造船、鉄鋼などの産業は一時的にアジアの台頭で輸出を拡大したが、今後も成長する保証はない。安価な製品の輸入で国内産業の受ける打撃は徐々に拡大する。技術革新や新製品開発も停滞している。不良債権処理は一段落したが、ゼロ金利は続いている。

米国経済は2001年にピークが終わり、日中関係は5年も“政冷経熱”状態のうえ“経熱”が長期継続する見通しも立てにくい。

著者の「混沌」概念は日本経済の分析に説得力ある視点を提供している。

■2005/12/10, 週刊東洋経済

ブラッサイ写真集成
4000082183アラン・サヤグ アニック・リオネル=マリー 堀内 花子

岩波書店 2005-08-24
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男の顔の造形など、どうでもいいようなものであろうが、ブラッサイ(1899~1984年)のポートレートはやはり気になる。目がなんとも印象的で、アメリカの作家ヘンリー・ミラーが「パリの目」と称したのもむべなるかなであろう。

ブラッサイの写真家デビューは意外に遅かった。1929年に女友達からアマチュア用のカメラを借りてパリを撮り始め、翌年自分用のカメラを購入して「パリの歩行者」として、時間が静止したような、それでいていかがわしい夜の街を徘徊し撮影する。32年に60枚構成の写真集『夜のパリ』を上梓。たちまち超現実主義(シュルレアリスム)の寵児として歓迎されるが、彼は「私が表現したいのは現実だけだ。なぜなら現実に勝る超現実はないから」とにべもない返事。それにしても、夜と霧に呑み込まれたパリはやはり妖しげで幻想的である。この撮影のために彼は、毎夜24枚しかフイルムを持たなかったという。カメラを覗く時点ですでに構図が決まっていたからであろう。

時代の最先端を驀進する画家や作家、音楽家との邂逅も時間の問題であった。めぐり会ったのは、マティス、ボナール、ブラック、ジャコメッティ、ピカソなどであった。

「藝術の要件は、真正ではなく、真正を表現することだ」を信念とするブラッサイは37年の半ば、40歳を目の前にして「写真は私を暗がりから出してくれた。飛躍させてもくれた」と言いつつ、デッサン、彫刻、版画、タペストリー、エッセイ、作家論など今までに興味のあったものを矢継ぎ早に発表する。こうした彼の生き方に共鳴したピカソは「彼との付き合いと友情は月世界旅行より価値がある!」と言ったという。【評者:法政大学教授 川成洋】

■2005/12/10, 週刊東洋経済

連鎖する世界―世界システムの変遷と展望
石川 卓

世界システム論は、1970年代にアメリカの社会学者であるイマニュエル・ウォーラーステインが提唱した歴史社会学の理論であり、ある意味ではすでに古典ともいえる理論である。本書は、その世界システム論を、現在の研究水準から再検討、ないしは再導入しようとする試みで編まれた論文集である。

中世ヨーロッパ、スペイン絶対王政、日本の鎖国と開国、二つの世界大戦、地域システムとしての東南アジア、石油危機、環境問題と、扱われるテーマは一見雑多だが、実はいずれも、主著『近代世界システム』を含むウォーラーステインのこれまでの作品が、本来カバーしているべきでありながら、十分に展開してこられなかった論点に重なり合っている。

そもそも世界システム論は、それまでアフリカにおける独立運動の実証的研究をしてきたウォーラーステインが、政治的に独立を果たした後のアフリカの経済的・社会的現実に対して、もっと長い歴史的文脈の中で、もっと構造的な観点から、より根本的な解決を探るための知的基盤を構築しようとする現在的関心からスタートした研究プログラムである。そして冷戦体制のただなかで構想されたその理論の中心には、分析の基本軸を東西対立から南北対立に置きなおす、つまりイデオロギーではなく、グローバルな規模での貧困の物理的現実を見据えようとする視座があった。

それから30年以上が経ち、冷戦は歴史となって、われわれはグローバル化の時代を生きている。今、いわば現実が理論に追い付いた現在の視点から、「実証分析」と称して、世界システム論のこれまでの個々の分析事例について、「当たった」部分を常識として閑却し、「外れた」部分を誤謬として切り捨てるのはあまりにもたやすい。

しかし世界システム論の遺産を継承するうえで今日真に必要なのは、フィールドを歴史に置くにせよ、現在に置くにせよ、そのような実証分析の蓄積を、個別の事例に関する閉じた知から開き、より広い時空の文脈とより構造的なパースペクティヴの中で実践的な関心と切り結ばせ、そうすることによって世界システム論が拓いた問題場を不断に再構築することである。その意味で、必ずしも世界システム論を専門としない研究者が、これだけ集まって、ウォーラーステインの主張と対決し、応接を図りながら、ひとつの論集を完成させたことの意義は小さからざるものがある。

また編者による巻頭・巻末の論考は、世界システム論の現代的再導入として、特に初学者には至適である。編者の真摯で勇気ある試みに敬意を表したい。【評者 山下範久 北海道大学大学院文学研究科助教授】

■2005/12/03, 週刊東洋経済

デカルトの密室
410477801X瀬名 秀明

新潮社 2005-08-30
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おすすめ平均 star
starデカルトの哲学論でノックアウト
star難解、そして長過ぎ・・・
star小説以前

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ロボット工学者の祐輔が製造し、進化心理学者の玲奈が育てた人型ロボットのケンイチは、祐輔を監禁した天才科学者フランシーヌを、自分の意思で射殺してしまう。しかしそれはフランシーヌが、意識を脳という密室から解き放ち、自らインターネット上に成長する人工脳と化すための罠だった。

本書は、この二つの意表をつく事件を軸に展開するSFホラー小説。とは言っても、ただ単に空想にまかせたホラ話ではない。ロボットによる殺人には認知科学のフレーム問題を、ネット上の脳には複雑ネットワーク理論を、その他の場面でも要所要所で、瀬名はさまざまな最新科学の話題を織り込みながら現実性を持たせるとともに、事件の背後にある哲学的問題を浮き上がらせている。

つまり、ロボティクスと認知科学の最先端の知識を駆使しながら、意識とは何か、自己とは何か、自由とは何かという形而上学的テーマに真正面から挑んでいるわけだ。しかもそれが予備知識なしでも楽しめる第一級のエンターテインメント小説に仕立て上げられているのだから、大変な力量である。

しかし、考えてみれば瀬名は単なるホラー作家ではない。特にここ数年はロボットを中心に科学技術についての紹介と思索を数多く出版し、サイエンスライターとしての活躍が目立った。そうした予備作業の上に結実した物語が本書であるわけだが、実は物語という言葉は、この小説のなかで謎解きのキーワードにもなっている。科学と小説とを架橋するもの、それが瀬名にとっての物語なのである。

無心に読み進めるうちに、本書の世界が近未来に起こっても不思議はないと思えてくるだろう。科学の現在はそこまで来ている。そこにこそ本当のホラーがあるのかもしれない。【評者 吉永良正 大東文化大学助教授(哲学)】

■2005/12/03, 週刊東洋経済

オタク市場の研究
4492555412野村総合研究所オタク市場予測チーム

東洋経済新報社 2005-10-14
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昨年8月、野村総合研究所がオタク市場の規模推計を発表したとき「萌えの世界が分かっていないな」というのが正直な感想だった。市場推計の対象分野がコミック、アニメ、芸能人、ゲーム、組み立てPCの5分野に限られ、萌え市場の中心であるフィギュア、同人誌、コスプレ、メイド喫茶などが一切含まれていなかったからだ。組み立てPCや芸能人という萌えとは異なる分野の市場を混入していたことにも違和感があった。

しかし、本書でその意図がわかった。この研究は最近流行のアキバ系オタクを採り上げているのではなく、より広い概念でオタクを捉え、ビジネスシーンで活用する方策を検討しているのだ。だから今回はクルマ、カメラ、鉄道などの新たなオタク分野を市場推計に加えている。コスプレや同人誌などのコアな分野は、ビジネス価値が小さいため、重点が置かれないのだ。

本書は、「オタク」を消費性オタクかつ心理性オタクの人と定義している。こだわりの分野では無条件に可能な限りの消費をしてしまう層を消費オタク、〔1〕収集欲求、〔2〕共感欲求、〔3〕自律欲求、〔4〕帰属欲求、〔5〕顕示欲求、〔6〕創作欲求を持つ人を心理性オタクと定義し、その市場を推計すると、172万人、4110億円規模に達し、企業としても無視できない規模の市場になっているというのだ。

研究のなかで最も秀逸なのはオタク市場のマーケティング・フレームとして3つのC、すなわち収集(Collection)、創造(Creativity)、コミュニティ(Community)を挙げたことだ。これはかねて私が主張してきた需要が飽和しない三つの市場、すなわち〔1〕コレクション、〔2〕芸術文化、〔3〕恋愛と不思議に重なる。オタク市場は、高付加価値で、値崩れせず、需要も飽和しない夢の市場なのだ。【評者 森永卓郎 経済アナリスト】

■2005/12/03, 週刊東洋経済

円生と志ん生
4087747654井上 ひさし

集英社 2005-08
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本書のテーマとなる時期は昭和20年夏から22年春までの600日間、場所は旧満洲国南端の大連市、主人公は円生と志ん生という2人の落語家。

このころの旧満洲といえば、日本の敗戦、旧関東軍の崩壊、ソ連の参戦などの時期に当たり、数十万にも及ぶ日本の民間人が命からがらの悲惨な逃避行を余儀なくされたのだった。

白米と酒、女性、おまけに空襲はない、どんな噺も可能という甘言に誘われ、少佐待遇の陸軍軍属として満洲に渡ったが、予期せぬ敗戦。大連の旅館で密航船を待つのだが、実は金目当ての与太話に引っかかり、相部屋の住人となった旧関東軍高官の大連現地妻には追い出され、間もなく持ち金もなくなって乞食同然となる。そこで日本人難民救済に当たっている女子修道院に救われるが、あろうことかキリストとその弟子の再来と間違えられる。

ようやく帰還船に乗り込む。いやいやこれも大変な逃避行であった。

■2005/12/03, 週刊東洋経済

村が消えた―平成大合併とは何だったのか
439611026X菅沼 栄一郎

祥伝社 2005-10
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おすすめ平均 star
star市町村の合併騒動、洗いざらい調べました!

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「平成の大合併」で全国の市町村が大きな変化を遂げつつあることは概ね知っている、つもりだった。だが、この本を読んで、まったく知らなかった変化が日本の至るところで起こっていることを知らされた。

特に印象的なのは自治意識の芽生えである。たとえば新潟県上越市。14市町村が合併したが、旧上越市を除く13の旧町村にこれまでにないタイプの「議員」を置くことにした。無報酬の地域協議会の委員である。初めての組織だったため、最初はとまどいがあったものの、しだいに期待される機能を果たしつつある。

長野県平谷村では、住民投票の権利を中学生以上に与えた。村長との懇談会で中学1年生の少女は、村長に「なんで役場を建てるのにあんなにお金を使ったのか」と迫り、村長もタジタジだったという。また永住外国人に住民投票の権利を与えたり、直接民主制の模索を始めたりなど、本書には、見逃せない変化がたくさん語られている。

■2005/12/03, 週刊東洋経済

昔、革命的だったお父さんたちへ―「団塊世代」の登場と終焉
4582852882林 信吾 葛岡 智恭

平凡社 2005-09
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star一気に読み終えました。
starむしろ学生運動の概説書として
star団塊のお父さんの若い頃

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「団塊世代論」が盛んだ。由紀草一著『団塊の世代とは何だったのか』によると「団塊世代の8悪」というのがあって、〔1〕過剰意義づけ、〔2〕理論過多、〔3〕押しつけ、〔4〕緩急不在、〔5〕戦略不在、〔6〕被害者意識、〔7〕指導力不足、〔8〕無自覚(以上の点にまったく気づいていない)だそうだが、確かに当てはまる点は多い。ともあれ、団塊の世代を知るには、時代背景を押さえておく必要がある。

本書は、団塊論のよき入門書だ。第1章は彼らと切っても切り離せない新左翼運動に関するコンパクトな歴史的紹介であり、第2章は、彼らの文化的背景のわかりやすい解説である。

こうして時代背景を理解したところで、本書の核心である第3章の「亡国の世代 やり逃げの世代」となるのだが、語られている彼らの姿にはうなずける。また、批判は辛辣なユーモアに満ちていて面白い。それにしても団塊の人たちは、後輩のこうした批判など無視するのだろうなあ。

■2005/12/03, 週刊東洋経済

ブランド誕生―キヤノン販売の「変革」ドキュメント
4828412271峰 如之介

ビジネス社 2005-10
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starキヤノンブランドの強さは全体最適のトップマネジメント
starやっぱり舞台裏が面白い

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なぜキヤノンブランドは強いのだろうか。本書は、最強の生産を支えるキヤノンブランド誕生の背景を克明な取材で解説している。

キヤノンが創り、キヤノン販売が売る。キヤノン販売が提案し、キヤノンが挑戦する。キヤノンが悩み、キヤノン販売が打開する。

この戦略的パートナーシップを構築するキヤノン販売。社長村瀬治男の改革の根底にあるものは、ビジネス、組織、経営すべてに貫かれる「顧客主語の実践」であった。2000年中田英寿起用で巻き起こした「IXY旋風」で知られるトップブランド「IXYデジタル」。その誕生の秘話から始まり、販売のプロ集団を効率的に動かす「横認識」重視の情報管理、最強の販売を支える営業術「辻説法」、組織を生かす「カンパニー制度の導入」など、キヤノンブランドを構築するさまざまなエピソードが語られている。販売戦略にかかわる者に多くのヒントを与える。キヤノンブランドを解明する本といえる。

■2005/12/03, 週刊東洋経済

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