メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年11月5日~11月12日

「ヨーロッパ合衆国」の正体
4105458019トム・リード 金子 宣子

新潮社 2005-08-24
売り上げランキング : 2,229

おすすめ平均 star
star『拒否できない日本』との併読を薦める。
star国際協調とソフトパワーで超大国を志向するEU
starアメリカから見たヨーロッパ

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EUという、現在もなお進行中の欧州統合の偉業を、これほどに生き生きと見せてくれる本もあるのかと思った。

今年の5月と6月にフランスとオランダの国民投票でEU憲法条約が否決された。他地域からは、統合も一頓挫したかとも見られかねないが、それは大いなる錯誤であり、統合がそんなヤワなものではないことが本書を読むうちに理解されてくる。

欧州統合の本質は、世界の覇権をめぐってアメリカの遮二無二な力の行使に対抗する平和と国際協調の追求であり、それを現実のものとする源動力は、統合によって実現したアメリカを上回るGDPと5億人の人口が支える市場の実力にある。

著者はワシントン・ポスト紙のロンドン支局長として欧州に駐在。その前には同紙の日本支局長でもあった。こういった真にグローバルな視野と取り上げた題材の広範さ、それとユーモアと機知に溢れる叙述は、実に面白く説得的である。

EUの実現には、チャーチルはじめ多くの欧州の政治指導者が関与しているが、その第一の功労者として、われわれにはややなじみの薄いジャン・モネが取り上げられる。「すでに1949年の時点から、モネは『欧州議会』をはじめ、ヨーロッパ全域に適用する基本権憲章を遵守させる欧州司法裁判所制度、域内の関税を全廃した自由貿易市場、域内共通の独占禁止法に基づく監視機関、国境を自由に往来できる旅行、さらには単一通貨の構想までも、あちこちで語っている。ばかなやつだと思われても仕方がなかった」。

現実には「ばかなやつ」どころか、すべてがとうに実現しているではないか。偉大な構想力と献身・努力の賜物である。それは、「ヨーロッパ大陸での一切の戦争、一切の貧困を根絶する」という理念、志に根ざしていた。そして欧州自身も、その実現を希求し、紆余曲折を経ながらも、その方向で一致結束しようと努力してきたのだ。  ところが、アメリカにも、そして日本にも、この志が見えていないのではないか。寺島実郎氏も指摘する「アメリカを通じてしか世界を見ない」弊が日本に迫ってこようとしている。EUのそもそもは、二度の大戦で徹底的に敵対したフランスとドイツの和解から出発している。そしてその絆は、欧州全域を巻き込んで、奇跡のように深まって来た。アジアにあって、わが国がいまだに中国、韓国をはじめとする諸国と真の和解ができない情けなさが際立ってくる。

徹底した論点の単純化で、トリッキーに圧勝した支配的な政治勢力(あえてこう呼んでおこう)への対抗軸のモデルはEUと本書にあるといっていい。【評者 百瀬敏昭 経済ジャーナリスト】

■2005/11/12, 週刊東洋経済

女ひとり世界に翔ぶ ― 内側からみた世界銀行28年
4062130130小野 節子

講談社 2005-08-30
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おすすめ平均 star
star「なぜ日本は国際社会でここまで軽視されるのか?」

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モーリタニアは、モロッコと西サハラの南の大西洋岸の国である。以前、初めて見た首都ヌアクショットの光景は衝撃的だった。海岸まで広がる街全体が真っ白い熱砂に覆われ、容赦ない太陽光線に灼かれていた。

著者は30代半ばで世界銀行に入行し、長くモーリタニアを担当した女性である。鉄鉱石セクターの強化、灌漑工事、漁業開発など、同国に必要なプロジェクトを企画・立案し、世銀理事会にかけて実施する。毎年同国に長期出張。茫漠たる白い砂漠の中を走る鉄道の沿線には村も水もなく、故障でもしたら死に直面する。貧困、汚職、非効率、クーデター。本書の前半は、金融冒険小説といってもいいロマンと情熱に溢れている。

各国政府や個人の思惑が渦巻く国際開発機関で働くことは、「鳴門海峡で泳ぐ感じ」と著者はいう。そのどろどろの闘いが、本書の後半で容赦なく描かれる。世界銀行や地域開発銀行の内部闘争を、これほど赤裸々に描いたのは本書が初めてだろう。副総裁との論争、日本人を見下した人事局長、米州開発銀行の局次長になった著者の失脚を画策するフランス人部下、政治的思惑でその男に肩入れする総裁、それを打ち破るべく日本の大蔵省に働きかける著者、大蔵省の思惑など、こちらも実に強烈だ。これまで断片的に見聞きした国際開発機関の内部が、本書でようやく全体像として理解することができた思いだ。

他国の政府も似たような傾向があるが、日本の財務省による国際開発機関内のポストや基金の私物化は目に余るという点で、私の印象も本書の記述のとおりである。本書はそうした実態も剔抉する。財務官僚が日本を食い物にしているのは、なにも国内だけの話ではない。

なお、著者はオノ・ヨーコさんの実妹である。【評者 黒木 亮 作家】

■2005/11/12, 週刊東洋経済

ミャンマーという国への旅
4794966768エマ ラーキン Emma Larkin 大石 健太郎

晶文社 2005-08
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イギリスのポレミックな作家ジョージ・オーウェルの処女作『ビルマの日々』で描かれた豊かな大地ビルマが、どうしていとも簡単に、彼の絶筆『1984年』のごとき非人間的な荒廃した国家ミャンマーに変貌してしまったのか。またどうして世界にその例を見ないほど長い間軍事政権が続いているのか。この疑問に答えを出すことが、本書の意図するところである。というのも、本書の原題を直訳すれば「秘密の歴史――ビルマの茶店でジョージ・オーウェルを見つけて」となろうからだ。

イギリス撤退後の62年、軍事クーデターで誕生し、マルクス主義と仏教を混交した「ビルマ的社会主義」なるイデオロギーを標榜した軍事独裁国家は、果たせるかな、87年に国連によって「世界最貧国」の一つと認定されたのだった。

著者がミャンマーで体験した事実は、実におぞましい。軍事情報部員や密告者たちの水も漏らさぬ監視網が5000万人の国民を完全に封じ込め、しかもこうした圧制の事実を外国に漏らさないシステム。

たとえば、著者がある茶店で出会ったインテリ。「人前ではものを言わない癖が身についてしまっています」と自虐的に語っていた。

また、平均的なビルマ人より優位な立場にいるビルマとイギリスの混血婦人でさえも「直接、政治の話には触れようとしなかった」のであった。

もちろん外国人の著者への監視、尾行、嫌がらせは四六時中で、時には「緊急対策法により7年の懲役も可能」と恫喝する始末。これこそオーウェルが死の床で脱稿した『1984年』の悪夢の世界にほかならない。

「オーウェルの意図せざる予言が嘘だったと言える時代の到来を心待ちにしている」と本書は結ばれているが……。【評者 川成 洋 法政大学教授】

■2005/11/12, 週刊東洋経済

お父さんが倒れました 脳梗塞わが家の闘病記
4833450100川嶋 光

プレジデント社 2005-06-17
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50代半ばのフリーライターである著者は、ある冬の日、脳梗塞で倒れた。突然の出来事に狼狽する家族。本人の記憶も途切れ途切れだ。一時は生死の境をさまようが、半年後には社会復帰を果たす。だが、その道のりは平坦ではなかった。不自由になった左手を「切り落としたいくらいの気分」になったこともあったという。いまも左半身が不自由だ。

病気になったからこそ、体験した現実を正直に綴った。障害の残る自分。妻や息子、娘のこと。そしておカネのやりくり。入院以来家族は看病ノートを記していた。その記録を通じて、今まで知らなかった家族のいろいろな側面を知る。副題のように家族にとっての闘病記でもある。

巻末付録の「病気の値段」がユニークだ。脳梗塞、ガン、肝炎など病気の治療にはいくらかかるのか。誰にとっても無関心でいられない。生活の経済に詳しいベテランライターならではのアイデアだ。

■2005/11/12, 週刊東洋経済

スペインとポルトガルのことば―社会言語学的観点から
4810201465坂東 省次 浅香 武和

同学社 2005-10
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スペイン=スペイン語、ポルトガル=ポルトガル語というイメージは日本=日本語と同じくらい強い。しかし、スペインではスペイン語に加えて、カタルーニャ語、バレンシア語、バスク語、ガリシア語、アストゥリエス語、アラゴン語、アラン語が使われており、また、ポルトガルでもポルトガル語の他にミランダ語が使用されている。イベリア半島はまさに言葉の宝庫と言えよう。

本書ではイベリア半島で話される合計10の言葉を取り上げ、スペイン語とポルトガル語が世界の大言語に発展する一方で、衰退を余儀なくされたその他の少数言語が20世紀に復活し、また今日いかなる状況にあるかを社会言語学的の観点から考察したものである。

とりわけ言語を多数抱えるスペインでは、言語の使用をめぐって言語戦争が各地で発生しており、スペインの多言語社会に対する取り組みは、世界の多言語社会の行方に大きな指針となるであろう。

■2005/11/12, 週刊東洋経済

チェチェンの呪縛 紛争の淵源を読み解く
4000238299横村 出

岩波書店 2005-07-29
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おすすめ平均 star
star『対テロ戦争』の名の下に一般市民への凄惨な掃討作戦が続く

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モスクワの劇場や北オセチアの学校が武装集団に占拠され、多くの市民が犠牲になった事件を記憶している方も多いだろう。事件を起こしたのはカスピ海と黒海にはさまれた北カフカス地方、チェチェンのテロリストだが、チェチェンでは無関係の住民に対しロシア政府が拉致、強姦、拷問と何でもありの弾圧を加え、何十万人もの難民が生まれている。なぜこうした事件が起きるのか、チェチェンの人々に何が起きているのかについては、ロシア政府の厳しい報道管制もあって詳しいことはわからない。

石油資源をめぐる資源争奪戦、政権を浮揚させるテコとしての側面もあるが、チェチェン政権内部にも路線対立があり、チェチェンの悲劇を招いた背景はそれほど単純ではないという。

11月に来日予定のプーチン大統領の強権ぶりも余すところなく記されている。マネーゲームの喧噪にまみれた日本の読者に、チェチェンの民の悲痛な叫び声は届くのだろうか。

■2005/11/12, 週刊東洋経済

中国がひた隠す毛沢東の真実
479421443X北海 閑人 寥 建龍

草思社 2005-09-25
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おすすめ平均 star
star完全にホラーの世界
star本当の中国を知りたいなら・・・
star中国・アジア史の再考

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歴史になぞは付きものだが、中国現代史、とりわけ毛沢東の周辺にはなぞが多い。毛沢東の死後、一定の時間が経ってその存在は以前より相対化されたものの、まだ多くのタブーが残っているからだ。開放的・開明的だった胡耀邦、趙紫陽の時代と比較し、江沢民、胡錦濤の時代になってからむしろ毛沢東のタブーは復活しつつあるといえる。

本書は、こうした暗部に光を当てた毛沢東の評伝。著者の北海閑人は、北京に在住して党の中央機関に勤務、大学で教えたこともある高級知識人である。

内容は、朝鮮戦争への介入の経緯、密告と特務の実態、文化人への迫害の内幕、紅衛兵運動の末路、毛沢東夫妻の私生活など、いずれもそそられる。特に“文化大革命”の引き金になった『海瑞罷官』冤罪事件の顛末はきわめて興味深い。通常言われてきた話とは異なり、いちばん最初に海瑞学習の号令を発したのは、毛沢東自身だったというのだ。現代史好きにお薦め。

■2005/11/12, 週刊東洋経済

多摩景
4887730357田中 昭史

冬青社 2005-08
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サバービアン(郊外派)という写真のジャンルがある。比較的新しいこの写真の潮流は、以前、本欄でも取り上げた、ホンマタカシに代表される若手の写真家に多い。

日本のどこにでもあるベッドタウン化した大都市郊外の風景。それは土地の持つ歴史や文化を感じさせない無機質で無国籍なものだ。いまや戦後世代の日本の原風景といえるかもしれない。

著者の田中は、その団塊の世代に属するがプロの写真家ではない。ふだんは都心の大手カメラメーカーに勤めるサラリーマンだ。彼は休日のたびにカメラを持ち、自身が住む東京西郊の小平から小金井、調布、府中、国立、立川、昭島などの多摩を歩く。

都市化しつつもまだ自然が残る東京周縁。しかし、彼がレンズを向けるのは、季節の花木や人びとの笑顔ではない。接写や望遠レンズは使われず、広角ぎみのそれで被写体に距離をおき淡々とシャッターを押している。

野遊びする家族、公園で遊具に興じる子ども、人気のない団地や建て売り住宅、雑木林、基地跡の廃屋。それはごくありふれた多摩の光景で、毎日が休日の午後のように眠くけだるく劇的なものは何も写ってはいない。

ホンマら郊外派の写真には都市の郊外論に支えられ批評性を感じさせた。しかし『多摩景』のユニークさは、せつなく、悲しく、やりきれない優しさに癒やされたりする、著者自身が味わう日常だ。それは彼が見い出した居心地のよい、ささやかな約束の地かもしれない。一人の停年を間近にした男がそこで生きざるをえない情感が見事に滲みでている。『多摩景』に自分の人生を眺めるのは評者だけではない気がする。【評者:写真家 中川道夫】

■2005/11/12, 週刊東洋経済

国際通貨制度の選択 東アジア通貨圏の可能性
4000228536ジョン・ウィリアムソン 小野塚 佳光

岩波書店 2005-08-27
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中国・人民元の切り上げ、あるいは変動幅拡大要求など、国際通貨制度をめぐる論争が再燃している。問題は米国が人民元を自由変動相場制に誘導しようとしているのに対し、中国政府は管理された変動相場制から徐々に柔軟性を持たせたいと抵抗していることにある。

“管理された変動相場制”という呼称とは裏腹に、中国の為替制度は実質的には固定相場制に近い。米国は市場が決定する為替相場を最善とする自由変動相場制を標榜しているから、両国の対立は、国際通貨論争を直接反映したものとなっている。

第2次世界大戦前の金本位制にしても、戦後のブレトン・ウッズ体制(ドル本位制)にしても、固定平価を維持するように経済政策を運営することで、国内外の均衡が同時に達成できるとしてきた。一方、1970年代前半からの変動相場制は、為替レートの決定を市場に委ねることで対外均衡が達成され、経済政策は国内均衡を図るために自由に操作できるとしている。

国際通貨制度をめぐっての論争、主要国間の対立は、固定・変動相場制の二極間の対立となっている。しかし、両方の制度はともに、資本のグローバルな移動や国際的投機という厄介な怪物との対決では、思いのほか無力だった。そのため、両制度の中間に位置する“第三の道”が模索されてきている。

著者は、為替レート制度の中間的選択肢の考察において、世界的な権威のひとりである。本書は著者が折々の通貨危機に触れて発表してきた論文を集めたもので、基礎的均衡為替レートに依拠した通貨当局の(協調)介入を積極的に支持している。

中間的な為替レート制度の検討が重要性を増しているのは、変動相場制においても為替レートが中長期にわたり均衡為替レートから著しく乖離した状態に置かれ、均衡水準に復帰しない状況が常態化しているからだ。

この状態は「不整合(mis-alignment)」と呼ばれ、ドルでも発展途上国通貨でも発生している。沸騰点ではしばしば国際通貨危機や債務危機と言われる極限状況に達し、各国の経済的厚生を損ねてきた。「為替レートを管理する目的とは、それゆえ、不整合と闘うことなのである」(本書113ページ)。

不整合をもたらす市場の通貨当局に対する挑戦を融和するためには、常に新しく修正される均衡レートの推定値を、通貨当局が守る必要がある。その際、市場に介入するかどうかは、二次的な問題なのである。

著者の主張は、中国に限らずアジアを中心とする新興経済大国にとって有益な示唆を含む。日本も一緒になって、この闘いに参加することが重要である。

■2005/11/05, 週刊東洋経済

消費税15%による年金改革
4492701133橘木 俊詔

東洋経済新報社 2005-08-31
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おすすめ平均 star
star素晴らしい提案と思う。

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04年度に成立した年金改革法は評判が悪い。しかし、この改革案が伝統的な政府提案に比べて特に不出来というわけではない。むしろ一層真剣に取り組まれたといえる。ただ、年金給付額カットと年金保険料アップの組み合わせの従来路線では、世の中が満足しないことに鈍感すぎた。人口減少、財政危機、中国台頭など、将来への不安が累積する中で、国民は今までのように、専門的で一般人の手に余る問題だから政府に任せておこう、とは考えてくれなかった。

郵政民営化問題はすでに処理が終わり、外交問題は与野党激突のタネにしにくいから、これからは、ますます年金問題が政策論議の焦点とならざるを得ない。議論の中身はどんどん具体的になってくる。その議論に参加するための素材として、本書は極めて興味深い。公的年金制度の一元化と基礎年金の全額消費税負担方式が大胆に提言されている。民主党案に近い。論理は終始一貫している。

しかしこの問題は、筋を通せば通すほど既得権と将来負担の線引きをし直す結果となる。本書もいうように、「改革によって、必ず得をする人が生じる。損をする人への手当てが意外と難しい」。まさに年金問題とその裏側の税制問題は、既得権と将来負担の間の厳しい争いなのである。しかも抜本改革により損をするのは選挙権を持つ人であり、得をする人の中にはまだ生まれていない人もいるから、民主主義の原理では分が悪い。

だから、党利党略のいいとこ取りの議論の前に、本書のような具体的提案が有識者から次々出され、そのぶつかり合いの中から国民の合意の方向感が生まれることが期待される。それによって与野党とも、持続可能性のない妥協がしにくくなる。本書に刺激されて建設的提言が続くことを期待したい。【評者 西村吉正 早稲田大学教授】

■2005/11/05, 週刊東洋経済

会社を買うのは悪いことか
4872339657奥村 研

太田出版 2005-08-23
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おすすめ平均 star
starどんどん本に書かれた状況になっていく。

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このところ買収関連の記事が毎日のように新聞紙上を賑わしている。日本における買収の件数は、確実に、そして急速に増加している。このような時期に最近話題になったライブドア対フジテレビなどの事例やアメリカにおける企業買収の事例を丹念に追いながら、今後の経営に対する教訓を拾い出そうとしたのが本書である。買収事例の解説に加え、株式会社制度の歴史を振り返り、株式会社とは何なのか、誰のために存在するのか、という根源的な問いへの解答を探り当てようと試みている。

バブルの崩壊以前の日本企業は、株式相互持ち合いや談合などに象徴されるような企業集団内の暗黙の掟に従って経営されてきた。そのような「会社本位主義」の世界では、明示的なルールは無視され、企業集団外に対する透明性への配慮は不要であった。しかしながら、グローバル化の進展やバブルの崩壊とともに、このような仕組みの中で安住して来た企業は多くの試練に遭遇している。

本書での最近の事例は、こうした日本的エスタブリッシュメントに対する新興勢力の挑戦であり、暗黙の掟を重んじる企業に対して、明示的ルールに従えば何をしてもよいという企業との衝突である。著者はこのような買収は決して「悪くない」と結論付けながら、同時に「会社には従業員がおり、彼らは人生の多くの時間を会社で過ごし、会社内の組織に組み込まれている」から資本の論理だけで押し通すのは単純すぎるのではないかという問題提起をしている。

ただ、あまりにも多くの事実と考察を詰め込みすぎたため、読者へのメッセージが希薄になってしまったのではないか。また、取り上げたのが極めて特殊な事例であるため、買収の本質を議論するためには、不十分であったかもしれない。【評者 清水紀彦 一橋大学国際企業戦略研究科 客員教授】

■2005/11/05, 週刊東洋経済

激動昭和史現場検証―戦後事件ファイル22
4797498528合田 一道

新風舎 2005-10
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star事件の全体像を短く伝えている

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来し方を振り返るとき、社会や政治・経済の歩みとともにきっと思い出されるのが、当時世間を騒がせた刑事事件である。それは、多くの刑事事件が、その当時の社会のありようを反映しており、いわば時代を映す鏡であるからだ。

本書は、戦後、大きな話題となった大事件を振り返り、その舞台となった場所を訪問している。

冒頭は、戦後混乱期に日本を震撼させた小平事件。犯人の小平義雄は、10人を超える若い女性を「食べ物をやる」などと騙して強姦し、殺害していた。食べ物で釣るというところに、当時の食糧難が偲ばれる。

帝銀事件。帝銀とは旧三井銀行の一時期の名称で、今は三井住友銀行となっている。犯人は、赤痢の予防薬と称して青酸化合物を行員に飲ませ、現金や小切手を強奪した。現場の旧帝銀椎名町支店は、現在はなごりすら残っていない。今やまれになった赤痢などの伝染病が蔓延していた当時の衛生状況を思い出させる。

■2005/11/05, 週刊東洋経済

東京時代MAP―大江戸編
4838103573新創社

光村推古書院 2005-10
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別に用があるわけでなくても、地図を見ることはとても楽しいが、特に古地図は、専門のマニアがいるほど面白い。昔はどこそこに何があったのかなどと調べて、その場所を実際に歩いてみるのは、カネのかからぬ高尚な趣味といえる。

本書は、江戸時代の古地図と、現代の地図を重ねている。古地図は、縮尺や方位がおおむねいい加減だが、本書では、現代の地図とぴったり重ねるため、古地図が現代の正確な地図と重なるようにコンピュータで修正処理を施してあり、またカラーを多用して見やすいものとなっている。

一方、現代の地図は、トレーシングペーパーに印刷してあり、半透明なため、古地図も同時に重ねて見ることができる。

同種の商品は他社からパソコンソフトで販売されており、これも便利で使い勝手がいいのだが、持ち歩けない。その点、本書は散歩に携帯することができるので、アウトドア派にお薦めだ。巻末の記事も面白い。

■2005/11/05, 週刊東洋経済

ラウルにあこがれて―スペインサッカー少年の夢
4938672340ホセ・マリア・プラサ

穂高書店 2005-08
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ラウル・ブランコ。「白い巨人」の異名を持つレアル・マドリッドのヒーロー。サッカー少年であれば、誰もが憧れる存在である。

本書の主人公、マドリッドのごく普通のサッカー少年ラファの誕生日、ラウルの伝記が贈られる。その晩、ラファは自分がラウルになった夢を見る。最強選手としてスペイン国旗に包まれたワールドカップを持って凱旋するラファ……。

だが、現実のラファのプレーは悲惨だった。自分のヘマもあって、味方のチームは惨敗する。意気消沈しながらも、ラウルの伝記に飛びつく。チームメイトとの確執で、ようやく見つけたラウルの悩みから、「ラウルと僕はそんなに違わないんだ!」と励まされる。やがて補欠選手となるが、勉強か、サッカーかの選択を迫られる。

ラファは、逡巡、躊躇、挫折に遭遇するたび、ラウルの伝記を唯一の羅針盤として果敢に向かっていく。

サッカーをめぐる「教養小説」でもある。

■2005/11/05, 週刊東洋経済

大東亜戦争の真実―東条英機宣誓供述書
4898310834東条 由布子

ワック 2005-08
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おすすめ平均 star
star真実を知る
star紛れもなく一級品史料だが読みにくい。
star右だ左だ騒ぐ前に一次史料に当たるべき

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極東軍事裁判は、さまざまな法的問題点が指摘されながらも、15年戦争の実態に関して、当事者の証言や隠されていた事実の掘り起こしがなされた画期的な出来事だった。特に注目すべきは、東條英機元首相の宣誓供述書である。彼は、軍と政府の中枢にあって、日本帝国のあらゆる情報を握る立場にいたからである。

本書は、この東條英機の宣誓供述書の全文。読んでみると、当時の政府中枢の思考様式がよくわかる。

たとえば日米開戦直前の日中関係。満州事変以後、中国では抗日運動が空前の高まりを見せていた。日米交渉で米国は、日本に対し中国からの無条件撤兵を要求した。これに対し、東條は「日本が米国の強圧により中国より無条件退却するとすれば、中国人の侮日思想はますます増長するであろう。(中略)第二、第三の支那事変を繰返すや必ずである」と述べている。まさに、強盗の自己正当化の論理である。近代史に関心のある人には必読書だ。

■2005/11/05, 週刊東洋経済

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