メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年11月19日~11月26日
| 証言 戦後日本経済 政策形成の現場から | |
![]() | 宮﨑 勇 岩波書店 2005-09-23 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は、経済安定本部、経済企画庁に長く在職し、また民間エコノミスト、経済企画庁長官として、戦後経済を見守り、かつ政策に携わってきた宮崎勇氏に、日本経済史の碩学である中村隆英氏が、インタビューしたものである。インタビューであるがゆえの冗長さはまったくなく、中村氏と宮崎氏との打てば響くような対話を通して、敗戦直後からの日本経済の歩み、政策形成に関わる政治ドラマ、宮崎氏の経済観が語られている。
戦後日本経済は大きな転機をいくつも経験しているが、著者は、初期にはその観察者として、まもなくその当事者として経験する。戦後復興期の傾斜生産、国民所得倍増計画をはじめとする経済計画の意味づけ、石油ショック、国際協調、繰り返し行われた構造改革、「失われた10年」を巡っての事実と政策と評価が興味深く語られる。
宮崎氏の基本的な視点は、「平和主義」と「人間の力を信じる」というところにある。平和主義は、戦争の悲惨と愚かさを、戦死した若者と起居を共にし、死ぬかもしれない若者として経験したことによる。
また、人間の力を信じるということが、市場メカニズムを重視する政策思想に結びついている。戦争中、人々は思想的にも経済的にも圧迫されていた。復興期の初めに、そうした圧迫から人々を解放する制度改革が行われて、社会全体が活力を持ってきたという。自由化と民主化こそが戦後経済発展の基盤にあったというのが氏の揺るぎない経済思想だと思われる。
人間の力への信頼は、石油ショック時に唱えられた福田赳夫総理(当時)の、「資源有限、人知無限(後半は宮崎氏のアイデア)」というスローガンにも表れている。ただし、市場は万能ではなく、外部経済や情報の非対称性への対処、敗者への配慮が重要だという視点も貫かれている。
高度成長後期から現れてきた成長批判に対しては、成長を断固として擁護する。経済が発展してこそ、福祉や環境に回す余裕が出てくるという。そう唱えるだけでなく、政策の現場で、生活に奉仕する経済への転換のために力を尽くしてきた。それは、中国経済に対するアドバイスにも生きている。
政策上の大きな話だけではなく、まさに政策形成の現場にいたがゆえに可能な人物評、日本の経済政策を巡る争いが、政策の有効性についてではなく、法律と予算と人事権限の争いになっているという辛らつな批評など、思わず「なるほど」と、声を上げたくなる見事な批評に満ちている。戦後経済史を語るに最適な著者と聞き手による見事なコラボレーションだ。【評者 原田泰 大和総研チーフエコノミスト】
| 最後の『冬ソナ』論 | |
![]() | 田中 秀臣 太田出版 2005-09 売り上げランキング : 134,126 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
さまざまな流行が生まれては消えてゆく。多くの経済学者、エコノミストが流行現象と社会・経済との関わりをまともに分析することなく、やり過ごす傾向にあるのも「所詮、単なる流行にすぎない」という思いがあるからだろう。しかし、流行現象が時間の流れの中で忘却されてしまうのか、あるいは同時代を映し出す絶好のテキストとして読み解かれていくのかは、実はそれを読み解く者によって決まってくる。
本書は、まさにそうした意味で、「韓流ブーム」の火付け役となったユン・ソクホ監督の連続TVドラマ『冬のソナタ』をテキストとした優れた同時代論と言えるであろう。
著者の多様な問題に関する精力的な発言については、知る人ぞ知る事実である。しかし、本書第I部で展開される映画評論家顔負けの鋭い作品読解にも、きちんと経済学の知見が援用されており、だからこそ、引用されている渡辺淳一・山田詠美の「わかりやすい」評論などをはるかに凌駕している。さらに小津安二郎映画を評する際に吉田喜重が用いた視点(反復とズレ)をも見事に取り入れつつ、『冬ソナ』のテーマに切り込んでゆく。『冬ソナ』を見た人も、まだ見ていない人も、十分に知的興奮を味わえるのは、こうした著者の鋭い読みがあるからにほかならない。
第2部は、第I部で扱われた「利他的な愛」に関するテーマが、現代日本の経済問題への処方箋として展開されてゆく。一読、大胆な飛躍に感じるが、「構造改革論」者の主張する「利己的な愛の経済学」一辺倒ではなく、「効率性という回転する歯車にわずかばかりの砂をかける」「利他的な愛の経済学」の必要性の提唱は、「冬ソナ」がそうであったように、多くの読者の共感を得るであろう。【評者 中村宗悦 大東文化大学経済学部教授】
| 凍 | |
![]() | 沢木 耕太郎 新潮社 2005-09-29 売り上げランキング : 1,870 おすすめ平均 ![]() フィクションでもノンフィクションでもなく哲学書です。 登山家夫婦の喪失と再生の物語 死を想うAmazonで詳しく見る by G-Tools |
ギャチュンカンはチベット語で「100の谷の集まる雪山」という意味。ヒマラヤの高峰群の中でもとりわけ未踏の谷の奥深くにある高峰。8000メートルにわずか届かないが、世界第15位にランクされ、その北壁はかつて一登されているだけで、北東壁に至っては未踏という難峰。
世界屈指のクライマー、山野井泰史・妙子夫妻がその北壁に挑み、壮絶極まりないクライミングを経験した、奇跡としか言いようのない生還のドラマを、沢木耕太郎が見事なノンフィクション作品に仕上げた。
突然の天候悪化で、雪崩に襲われ、低酸素状態から目も見えなくなる。肉体も精神も限界の境目を超える。山野井が手足18本の指を失い、妙子も両手のひらだけになる重度の凍傷になったほどの壮絶さだった。
下山の最中、雪崩に直撃され、妙子は50・以上も落下し、ロープに宙づりになる。山野井には垂直の岩壁の下にいる妙子の生死が分からない。だが山野井は感情的になることなく、どうしたら救えるか冷静な判断の上で行動していく。そこからは、常に死と隣り合わせで生きている登山家夫婦の強い絆が伝わって感動的だ。沢木の淡々とした描写が素晴らしい。この感情を極力抑えた筆致は、本書の全編にわたり、迫真のドキュメントを生み出している。
人はなぜ、山に登るのか。「頂上に登った瞬間の達成感を欲しているからだろうか。いや、そうではない、……頂上に登った瞬間ではなく、頂上直下を登っている自分を想像するとたまらなくなるのだ。……音を立てて吹きつけてくる強い風の中を、一歩一歩登りつづけているときの昂揚感は何にも代えがたいのだ」と語るが、すべてを山に捧げた山野井夫妻の質素に徹した生活に、人としての真実の生き方が見えてくる。【評者 内藤哲 ジャーナリスト】
| 外交官の仕事 | |
![]() | 河東 哲夫 草思社 2005-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
これまで外交官の仕事について詳らかにした本はごくわずかしかなかった。本書の著者は、ソ連の崩壊前夜のロシア人の苦悩と喜びを描いた大河小説『遥かなる大地』(筆名、熊野洋、草思社。ロシア語版、バグリウス社)を上梓した、ウズベキスタン大使などを歴任した外務省高官である。
本書の圧巻は、著者の最終勤務地であるウズベキスタンでの大使の体験に基づいて「日本外交の資産としてのODA」の章で論じているODAの仕組みと効用である。軍事力や政治力で力を示せない日本が世界への提案力として、ODAをきめ細かく十分に活用することが、わが国の重要な世界戦略となるはずだ、と強調している。
そして、「日本は自分の判断で複雑なゲームをしていく時代となった。政治家にとっては、外交は唯のパフォーマンスの場から、内政と同じくらい複雑で鬼門の多い領域となったのだ」と警鐘を鳴らし、本書を締めくくっている。
| 彼の人に学ぶ | |
![]() | 月刊「ABC」編集部 冨山房インターナショナル 2005-10 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() 人を通じて何を学ぶのか?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
先人に学べるのは人間の特権だが、往々にして先人の人間像や業績は固定観念に陥りやすい。本書では諸葛孔明から越路吹雪まで18人が取り上げられているが、いずれも新しい視点から語り手がおのおのの思いを熱く述べている。
語り手は当代一流のつわものがそろう。早坂暁(平賀源内)、藤本義一(河村瑞賢)、萩本欽一(チャップリン)、越路吹雪(岩谷時子)、市川森一(遠山金四郎)、荒俣宏(南方熊楠)、山田太一(小泉八雲)、佐野眞一(宮本常一)のほか、大学教授あるいは経営者の子孫などが縦横に先人の人となりを膨らませている。
老醜を嫌いスイスに隠遁したチャップリンに押しかけ面会した欽チャンが、「アッハッハと笑う臓器を人類のために発見してくれた人だ」と感激し、「とてもお元気で、次回作の構想を練っておられた」と、世界中にうそをつき通した。まさしく“彼の人”にほれ抜いたからで、このトーンは全編に共通している。
| ビジネス弁護士大全〈2006〉 | |
![]() | 日経BP社 日経BP社 2005-10-20 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() お宝情報満載。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
敵対的買収、事業再生、ファイナンス、知的財産、ポイズンピル(毒薬条項)――。ビジネスの世界で法務の重要性が広く認識されるようになってきた。法務そのものが企業経営の根幹を成している。どの弁護士に依頼するかは、法的リスクの管理でもある。そうした点でたいへん有用なのが本書である。
これまでも同じ書名で1~2年置きに刊行されてきたが、今回から掲載する弁護士を大幅に増やし、171の法律事務所、約800人の弁護士を網羅した。主要事務所の沿革や得意分野、所属弁護士、戦略などを載せ、弁護士を雇う側(企業)にとって、使いやすい内容にした。
ビジネス法務では、複雑化と専門化が猛烈なスピードで進んでいる。かつてのように、「大物の先生」に依頼すればよいといった時代ではなくなってきた。欧米では当たり前のビジネス弁護士を雇うためのガイドブックがようやく現れたといえる。
| 置き去り―サハリン残留日本女性たちの六十年 | |
![]() | 吉武 輝子 海竜社 2005-05 売り上げランキング : 4,987 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本年は戦後60年の節目に当たり、歴史問題の再認識が問われた。サハリン残留者問題もその一つだが、中学生の義勇軍まで動員した国内最後の地上戦、樺太防衛戦は忘れられがちだ。停戦交渉軍使が射殺され、停戦は8月22日。
「玉音」は日本国内向けの命令であり、9月2日の降伏調印までは戦闘行為の中断にすぎないのである。
樺太はこの間、3隻の緊急疎開船の撃沈や無差別爆撃で多大の犠牲者を出す。さらに、引き揚げに遅れた女性をソ連兵の性暴力が襲う。異民族との結婚を強いられ国籍を喪失した女性も少なくない。結果、3つの姓名を持つ女性もいる。彼女たちは国家から置き去りにされ、棄民として60年を生き抜くことになる。
著者は従来の認識を覆して、サハリン残留の被害者が韓国人にとどまらないことを検証する。日本外交の無策と冷戦の狭間で翻弄され続けた女性群像を、著者は丹念な現地取材で熱く追っている。
| 戦後史 | |
![]() | 中村 政則 岩波書店 2005-07 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() 歴史からつながる現代日本政治 入門書 現代史を書くことの困難さAmazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は鮮明な問題意識に貫かれた簡潔な戦後通史である。冒頭の「すべての歴史は現代史である」という歴史家クローチェの引用と「戦争への道」か「平和への道」かという憲法改正をめぐる対立軸を前に、「いまわれわれは戦後最大の岐路に立っている」という著者の結びの言葉が響きあって聞こえてくる。
「戦後」とは戦前の反対概念であり、戦前の“戦争、専制、貧困”に対する“反戦・平和、民主主義、貧困からの脱出”という戦後的価値理念を支える政治、経済、社会、文化システムの総体として把握される。そしてこの意味における戦後を、その成立、基本的枠組みの定着、ゆらぎ、終焉の四つの時期に区分(本書1~4章に対応)して叙述が進められていく。「成立」は敗戦から60年安保までの政治の季節、「定着」は高度成長期、「ゆらぎ」は石油危機からバブル崩壊まで、そして「終焉」は湾岸戦争からイラク戦争に至る新しい戦争の時代である。
ほぼ同時代を生きた者にとって歴史というよりは懐かしい記憶の数々。が、それぞれの時期にはそれぞれの岐路があった。今日に至る憲法と日米安保の矛盾は講和論争以来の置き土産だし、高度成長で経済大国にはなったが、「福祉国家にも生活大国にもなれないまま」、今や格差社会に堕ちようとしている現状もそうだ。理想とした価値理念と歴史的現実のギャップにほろ苦い想いも禁じえない。
それにしても「戦後」は終焉したのか。これは日本を世界システムの中に置いて見る独自の方法論による。日本の戦後システムは単独で可能だったわけではなく、20世紀システム(国連、ガット・IMF体制、冷戦構造)の完成期と重なって初めて機能しえたという視点である。
もちろん、終わらない戦後もある。著者は、〔1〕対米従属的な位置が変わらない限り、そして〔2〕アジアとの関係では過去の清算が終わらない限り、戦後は終わらないと書いている。われわれは「終わらない戦後」を抱えたまま21世紀システム(グローバリゼーション、米国一極化、ハイテク戦争)の世界に入っていかなければならないのだ。
歴史意識とは自己認識であり、「われわれはどこから来たのか、今どこにいるのか、これからどこへ行くのか」を問うことだと著者は言う。危機に立つ今こそ真摯に歴史に向き合う時であり、自慰史観的な歴史の修正を試みても未来を開く役には立ちそうにない。本書は小冊だが、かえって的が絞られていて全体を俯瞰しやすい。半面、豊富な先行研究を踏まえて、文中と巻末の参考文献紹介は大変充実している。完成度の高い戦後史入門書としても推奨したい。【評者 鹿島信吾 評論家】
| われら以外の人類 猿人からネアンデルタール人まで | |
![]() | 内村 直之 朝日新聞社 2005-09-09 売り上げランキング : 34,228 おすすめ平均 ![]() 共存のルーツへ遡るAmazonで詳しく見る by G-Tools |
われら人類、つまり“ホモ・サピエンス”は「いつ、どこで生まれたのか」というなぞは、永遠に尽きない興味である。
ホモ・サピエンス以前には何種類もの“ヒト”がいた。多くの古人類学者がコツコツと人骨の化石を発掘し研究してきた結果、ヒトは地球各地で同時多発したのではなくアフリカで生まれたという「アフリカ単一起源説(アウト・オブ・アフリカ)」が定説となった。出身地域の異なる現代人147人の女性の胎盤からDNAを調べたら、彼女たちの祖先は、29万~14万年前のアフリカの一人の女性に帰着したという。「どこで」は、アフリカで決まりである。
では、「いつ」なのか? 2002年7月、アフリカのチャドで発見された頭骨の化石(サヘラントロプス・チャデンシス)によって、なんと700万年前ということになった。
250万年前、石器を使うヒトが現れ、数十万年前、その一部が中東・ヨーロッパに渡りネアンデルタール人となった。ホモ・サピエンスが現れたのは20万年前になってからである。だが、10万年前から5万年前にアフリカを出て、各地に広がった。2万5千年前には、先住人類を圧倒して、ヒトはホモ・サピエンスだけになった。
では、ヒトの条件とは何か? いうまでもなく「直立二足歩行」である。それには脳の進化が必要である。ヒトの脳は最低で600ccだったという。現代人は1600ccだからかなり小さい。だが、脳の進化のためには、効率的にカロリーを捕食する必要がある。250万年前、肉食するようになり飛躍的に進化した。類人猿とヒトを分けたのは、肉食かどうかであった。
古人類学というのは、僅かな化石から大昔の“ヒト”の食生活まで解き明かすという、ミステリーも及ばぬ世界である。【評者 仲倉重郎 映画監督】
| 江戸っ子長さんの舶来屋一代記 | |
![]() | 茂登山 長市郎 集英社 2005-07 売り上げランキング : 47,924 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国で敗戦を迎え捕虜となり半年後に帰還し、一面、焼け野原の東京で、闇市商売を始めて成功する――この種の話は枚挙に暇なしであるが、「長さん」の場合は、別格だ。かつてフランキー堺が「長さんの半生を映画にしたい」と言ってきたという。むべなるかなであろう。
もともと、生粋の江戸商人の家系であった「長さん」が、戦時中、新兵として天津に駐屯中に旧租界で見た光輝く「ショーウィンドウ」の中の一流品の数々。ここに小さなヨーロッパ、そしてアメリカを明視したのだった。無事生きて帰れたら、この商売をやろうと決意する。したがって、闇市商売時代から一貫して「文化を売る。美しいものを売る」舶来屋を始める。
当初、敗戦国の一介の商人にヨーロッパの一流ブランドは冷たかったが、「長さん」の不退転の決意と熱意に次第に動かされる。その裏には写真家の名取洋之助、作家の今東光、川端康成をはじめ、多くの顧客の助言や支えがあった。
また、ヨーロッパの高級店街のほとんどがパレス近くにあるように、40年前、皇居近くの銀座の、車がすれ違える程度の道幅でそれほど長くない並木通りに、本店「サン・モトヤマ」を構え、今や世界有数のファッションブランド街となっている。
本書の醍醐味は、なんといっても、商売に必用なのは「勘定」と「感情」なりと言い切る長さんの生き方と、それを如実に示す体験談である。たとえば「運は誰にもある。掴むか逃すかが問題だ」「ついてない時ほど神経を研ぎ澄ませ」「運とは人が運んでくるもの」「夢のないヤツには、ツキの神様は宿らない」「どうしたら失敗するか、考える」など。
これらは、単なるビジネス指南であるのみならず、人生に必要な味わい深い箴言でもある。【評者 川成 洋 法政大学教授】
| 偉大なる敗北者たち―メアリ・スチュアートからゲバラまで | |
![]() | ヴォルフ シュナイダー Wolf Schneider 瀬野 文教 草思社 2005-05 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() 軽い読み物としてAmazonで詳しく見る by G-Tools |
勝者に対しては嫉妬こそすれ、決して好きになれないし共感はない。それがわれわれ、凡人の本音ではないだろうか。
本書に登場する“偉大な敗北者たち”を時代順に取り上げると、メアリ・スチュアート、ルイ16世、ヴィルヘルム2世、ロンメル、トロツキー、ゴルバチョフなど、時代の大きな節目に活躍した影の立役者といわれる人物である。
最近、再評価の動きのあるチェ・ゲバラは、「完全な敗北を喫した。しかし彼の人生には恥じるところがない。人生には敗れたが、死後勝利を収めたのである」と結んでいる。
こうした権力者との関係で敗北した人物を取り上げる一方で、本書には、ゴッホ、オスカー・ワイルド、ハイリヒ・マン、ヨハン・シュトラウスなど、悲しき芸術家・作家も登場する。天賦の才を持って生まれたがゆえの栄光と挫折、そして彼らの孤高の生涯は、やはりヒーローとしてのそれであろう。
| ここを突けばすべてがわかる!決算書のツボ | |
![]() | 井口 秀昭 税務研究会出版局 2005-10 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() 財務担当者や金融マンにおすすめ。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
決算書をわかりやすく解説しようとする本は世の中にあまたある。しかし、決算書を「会社の内実を雄弁に物語る説明書」と位置づけ、決算の背後にあるおカネの流れをここまで詳しく丁寧に書き込んでいる書は希有。経営者の意図にまで踏み込んでおり、読み物としても面白い。
著者は長年金融機関に勤務し、公認会計士でもある決算書のプロ。「利益と税金」「赤字資金の調達」「損益と資金繰り」「増資と借入金」など、おカネの流れと組み合わせたテーマ設定は極めて実務的。構成はQ&A形式になっており、一般事業会社の財務担当者や金融機関の融資担当者が日ごろ悩みそうな点が質問となっている。その模範的回答例も複数掲載されており、さまざまな場面での応用が可能だ。イラストも多用され、とっつきやすい。
資金繰りや融資にかかわる人たちはもちろん、決算書の裏にある経営者の意図を分析したいという人には大きな刺激となるだろう
| 工場を歩く―ものづくり再発見 | |
![]() | 加藤 正文 綱本 武雄 神戸新聞総合出版センター 2005-07 売り上げランキング : 42,068 おすすめ平均 ![]() 物づくりの現場の力Amazonで詳しく見る by G-Tools |
この本は、ものづくりを描いた短編小説集である。パソコン、オートバイから、湯たんぽ、レコード針に至るまで、とかく無味乾燥になりがちな“ものづくり”の舞台を、身近な芸術としてあぶり出している。
たとえばマッチ工場の記述はこんな筆致で始まる。「マッチをする。懐かしい匂いが立ち上がり、明るい炎が5センチの軸を焦がしていく。その間、数秒。とことんシンプル、だから美しい」。リズム感溢れる文体に彩りを添えているのが各ページに描かれたイラスト。逆説的ながら、写真でないがゆえに現場の生々しさが伝わってくる。文章とイラストがうまく絡み合っているため、子供でも存分に楽しめるはずだ。
本書に収められた文章は2002年7月から神戸新聞に連載されていたもの。著者は2年半をかけ、兵庫県を中心に55の工場をつぶさに歩き回ったという。幾多の歩みを経て、ものづくりの今は、筆者の目にどう映っているのだろうか。
| 徳川将軍家十五代のカルテ | |
![]() | 篠田 達明 新潮社 2005-05 売り上げランキング : 2,031 おすすめ平均 ![]() 面白い! 面白かった~! 子作りマシーンAmazonで詳しく見る by G-Tools |
生類憐れみの令で有名な第5代将軍綱吉の身長はわずか124センチだった(江戸時代の男子平均身長は157センチ)。徳川家の菩提所・大樹寺に残る歴代将軍の位牌は各将軍自身の身長と同じ高さであり、綱吉の位牌は極端に低い。
本書では歴代15人の徳川将軍やその一族、および正室・側室の健康と病気に焦点を当て、彼らのメディカルチェックをしている。
興味深い話が満載であるが、いちばん驚いたのは将軍の生母には身分の低い女性が多いことだ。歴代将軍の中で正室から生まれたのは家光と慶喜の2人のみ。将軍家の正室といえば、身分と品格に優れた公家・宮家の娘ということになるが、これらの女性は身体虚弱で出産が難しい。
一方、側室である生母たちは、武士、農民、商人、僧侶の娘であり、健康な肉体を持つ女性たちだった。
本書は将軍とその周辺の人々の健康と各時代状況を絡めた徳川15代史、江戸時代史でもある。
| デフォルト[債務不履行] | |
![]() | 相場 英雄 ダイヤモンド社 2005-10-07 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() う~ん 「経済小説=難しそう」のイメージを崩してくれた! 一応経済小説なのでしょうが・・・Amazonで詳しく見る by G-Tools |
■著者インタビュー 経済ジャーナリスト 相場英雄
――ある地銀の破綻に際し、決済を保証した日銀に戦いを挑み、デフォルトの危機に追い込む。金融市場を舞台にした、自殺した親友の弔いのための復讐劇ですね。
僕は、経済小説の枠組みはよくわかりませんでした。ただ、できるだけ専門用語や数字を少なくして、エンターテインメント色を出したかったんです。読んだ後、読者が金融システムって、そんなに難しくないんだなあと思ってくれれば成功です。
――ネタばらしになるので細かくは聞きませんが、フィリピンのバナナ農園が発行したボンドが、小説の中で重要な役割を担ってきますね。
実際にそうした怪しげなボンドにひっかかった金融機関は存在しています。日銀がフィリピン・ペソをかき集める話が出てきますが、これも、通貨は異なるものの実話です。実際にデフォルトになりかけた話を、日銀マンから聞いたことがあります。
――日銀総裁のスケジュール帳が3冊あるとか、興味深いエピソードが出てきます。
実際は、ある都銀の頭取の話なんですが、日銀の記者クラブ時代に見聞きしたことと、小説を書くために取材したことを基にしています。
――相場さんがこの小説で最も訴えたかったことは。
不良債権問題には決着がついたと言われているが、僕はまだ根強く残っていると思っています。金融当局の人と飲んでいると、彼らはよく、「カネが溶けていく」と表現します。問題を抱えた金融機関や事業法人が増資を行ったりすると、そのカネが消えてなくなる。どこに消えるかといえば不良債権絡みです。帳簿上はきれいなように見えても、ファミリー企業が抱えていたりする。そうした状況はなかなか記事にはできません。フィクションに落とし込んで、不良債権問題はまだ終ってないんだと知ってほしかったんです。ただ、テーマ性もさることながらエンターテインメント性は重視しました。
――記者をやりながら小説を書くのは大変じゃなかったですか。
小説を書くのは平日の深夜か、早朝。家族が寝静まった夜11時から3時まで、もしくは早朝の3時から6時まで、毎日3~4時間は書きました。とにかく毎日書く。休日は家族サービスの時間と決めていましたから、書きませんでした。
――今、ビジネスマンでも小説を書きたいと思う人は多いようです。
仕事の最中にアイデアがひらめくときがある。パソコンの画面上にメモのパートを作っておいたり、手帳にメモを残すようにしました。そうしたアイデアをつなぎ合わせていけば、小説は書けると思います。
――これからも二足のわらじを履いていくのですか。
はい。今すでに2作目の執筆に取りかかっています。ある金融ブローカーを主人公に、怪しげな増資話による株価操作を主題にした話です。仕手株が実際どう動いているのか、読者の皆さんにわかってもらえればと思います。
これからは金融から離れたテーマも書いていきたいですね。ただ、どこかでおカネに結びつけた話にはしたいと考えています。




フィクションでもノンフィクションでもなく哲学書です。





歴史からつながる現代日本政治







