メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2008年4月1日~4月8日

会社を襲 う!バリキャリ(働きマン)シンドローム―女性管理・監督職を救え!
会社を襲う!バリキャリ(働きマン)シンドローム―女性管
理・監督職を救え!鈴木 康央

駒草出版 2008-01-25
売り上げランキング : 278706


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著者インタビュー 鈴木康央 経営コンサルタント

経営者は将来見据え女性幹部のDNA残すべき

──バリキャリシンドロームとは何ですか。

■バリバリ働くキャリア・レディー、恋やファッション、遊びより仕事好きな30代中ごろ の女性管理・監督職がかかる、ストレス性症状の総称をそう名付けました。彼女たちが仕事 に没入するあまり、自分のことは後回しにした結果、ストレスをため、心と体がむしばまれ てしまうのです。今後の企業は、少子化で女性幹部に支えられなければ経営が立ち行かなく なるから、専門家の研究と対策を促す意味で、ビジネス現場の深刻な事例を紹介しました。

──企業のカウンセリングを担当していて顕著な変化は見られますか?

■私は月1、2回、心理カウンセラーとして契約をした企業でメンタルヘルスの健康指導を してきましたが、4、5年前は申し込みがゼロだったのに、昨年あたりから1、2カ月先ま で予約がいっぱいで、カウンセラーを増やさなければならない状態です。相談の8割は女性 で、なかでも管理・監督職が圧倒的に多くなっています。家庭問題、離婚、セックスレス、 眠れない、食欲がない、体に変調が起きても言うと仕事を外されるから言えない、など症状 はさまざまです。

──ストレスと付き合う方法は?

■ストレスには勝てません。上司、お客様、新しい営業目標などストレスを与える原因がな くならない限り、ストレスは次から次へと形を変えて現れます。心理学的に唯一、ストレス に耐え得る力をつけるためには、発想を変えて鈍感になるしかありません。例えば、ビジネ スは従来の「戦い」ではなく「パズルを解く」ことととらえ、お客様が一番喜んで効率が良 くて能率がいい解き方がないかと考えてみることです。

──ご自身は「仕事人間」と言われた団塊の世代です。バリキャリ世代との共通点は?

■実は、バリキャリで倒れているのは団塊ジュニアですよ。団塊の父親の後ろ姿を見て育っ たから、会社に入ると自然に「猛烈社員」だった親を真似て、自分を犠牲にして倒れるまで 働くことも平気になっちゃうんですね。

──経営の厳しい会社では社員への負荷は高まるばかりで、ますますストレス症状が広がっ ていませんか。

■生き残りをかけて戦い続ける業界、生命保険、化粧品、不動産という営業中心の会社の女 性がやはり多く倒れています。優秀な女性役員の下には優秀な女性の部長、課長が生まれて いくだけに、経営者は今こそ、優秀な女性のDNAを残すことに本腰を入れて取り組むべき です。そのために女性の健康については資金投資を惜しまず、安心して働けるような会社に してほしい。

──会社と同時に、女性の意識変革を強く求めていますね。

■いくら会社に尽くしても、心身を壊せば「人生何なのよ」となるから、自分を大事にして ほしい。自分を犠牲にして会社から得られるものと、自分が支払う代償が果たして釣り合っ ているのか。その検証が大事です。

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

メタル・ ウォーズ
メタル・ウォーズ谷口 正次 ・

東洋経済新報社 2 008-02-15
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おすすめ平均 star
スイカを縦に割りたい!!
star鉱山開発の環境問題に迫る一冊
star迫力 はあります

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資源鉱物関係事業に長年携わり、現在、資源・環境ジャーナリストとして活躍中の著者によ るメタル資源争奪戦の世界的俯瞰図。国を挙げて資源囲い込みに走る中国、寡占化する資源 メジャー、自然と伝統文化を破壊する開発現場などを詳しく紹介。歴史上3度目の資源危機 に見舞われながら、戦略不在に陥った日本の現状と課題を整理し、ものづくりパラダイムと 消費生活スタイルの転換を訴えている。

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

日常の疑 問を経済学で考える
日常の疑問を
経済学で考えるロバート H.フランク 月 沢 李歌子

日本経済新聞出版社 2008-02
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おすすめ平均 star
starあまり深みがないのでは?
< img src="http://g-images.amazon.com/images/G/01/detail/stars-3-0.gif" alt="star" / >おもしろいが、ちがうんじゃないかというネタ多し。

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数式が苦手で経済学が嫌いという人にお勧め。「洋服の前合わせが男女で違うのはなぜ?」 「平均初婚年齢が上がっているのはなぜ?」など、学生たちが出くわした日常生活のなかで の疑問を多角的に取り上げ、経済学の基本概念が身に着く構成になっている。すでに経済学 を学んだ人にも、普段は見過ごしがちな常識の背景を、改めて論理的に考え直してみようと いう知的好奇心を引き起こしてくれる。

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

極秘資金< /a>
極秘資金長岡 哲生

講談社 2008-02-01
売り上げラン キング : 21735

おすすめ平均 star
star「TVドラマ化可 能!!」
star経済小説の最高傑作?

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経済ミステリーだ。主題は、かつてのM資金のような話で、それ自体は荒唐無稽なのだが、 そこに新規公開株詐欺などを絡めて、つい先を読みたくなる。それよりも、主人公の元大企 業部長のほか、中小企業のオーナー経営者やら元大企業役員やら総会屋やら、登場人物の設 定や行動、心理描写までがよくできていて、経済記者出身の著者の観察眼がうかがわれる。

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

李明博革 命――保守主義が韓国を救う
趙 甲済 李 英

作品社 2008-02-23
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韓国随一のジャーナリストといわれる著者が金大中、盧武鉉の左派政権から李明博保守政権 への民意の変化を克明に分析。「太陽政策の実態は北朝鮮に媚を売るだけ」と60代を中心 とした普通の常識ある市民たちが訴え、左派の牙城だった若年層が急速に保守回帰したのが 最大の原因だ、と説く。2大テレビ局の偏向報道批判など、どぎつい内容が多いが、最高に 面白い。

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

高齢ドライバー―加害者にならない・しないために
毎日新聞生活報道センター (著)

65歳以上の運転による交通事故は10年間で倍増し、認知症ドライバーによる高速道路の 逆走も頻発している。一方、地方では過疎化や規制緩和でバス路線が消え、お年寄りのマイ カー依存度は高まるばかり。どうすれば安全と高齢者の権利を両立させられるのか。事故当 事者の話や加齢と運転特性の関係を紹介しながら、超高齢社会への備えを探る。

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

現代税制 改革史―終戦からバブル崩壊まで

現代税制改革史―終戦からバブル崩壊まで石 弘光

東洋経済新報社 2008-01
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おすすめ平均 star
star税制改革史の集大成。税制に限らず、 経済政策全般を学ぶものにとっても必読の書。

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戦後の税制改革を総合的に分析 特にシャウプ勧告の検証は有益

本書は、シャウプ税制以来の税制改革の歴史を、原資料を駆使して叙述したものであり、著 者のライフワークである。「膨大な財政赤字累増、そして本格的な少子高齢社会による財政 需要増に直面して、日本の財政・税制はいま厳しい状況に追い込まれている。おそらく今後 とも国民負担増は避けられず、とりわけ税制改革は増税時代の幕開けといった新しい局面に 突入せざるをえないであろう。このためにも、日本の税制がこれまでどのような形で生成・ 発展をとげたのかを明確にする必要がある」と著者自身のはしがきにあるように、本書は、 第2次世界大戦以降今日までの六十数年に及ぶ時期について、税制改革の実態を分析してい る。

本書は4部構成になっている。なかでも第1部は、戦後税制の成立過程について、貴重な資 料として有益である。同時に、シャウプ税制勧告の理想像と現実性について客観的に、かつ、 肯定的に評価している本書の内容には説得力がある。特に「税制改革と勧告の役割」という タイトルの付いた第5章は、シャウプ勧告に関する著者独自の分析と感想が述べられていて、 大変興味深い。1985年の国際財政学会での著者とシャウプ博士との対話やこの国際学会 での討論についての紹介は、シャウプ勧告がわが国のみならず国際的にも大きな意義を持っ ていることを端的に示している。

また、第4部は著者が税制調査会の会長として、わが国税制改革の基本理念を構築した最近 までの経緯を客観的に解説しながら、この時期のわが国経済社会の変貌と政府の対応を描写 しており、今日的意義の極めて高い内容となっている。特に第16章「減税と財政健全化の 相克」では、当時のマクロ経済環境や景気対策を求める政治的な圧力を受けて、大幅な規模 の減税が実施された経緯が冷静に説明されている。政府の税制調査会としては、必ずしも本 意ではなかったという本音も行間から読み取れる点は、興味深い。

ただ、残念なのは、この時期が極めて直近であるせいか、現実の税制改革の評価について、 あまり踏み込んだ分析、感想が述べられていないことである。著者自身の見解をより大胆に 展開してもよかったと思うのは、私一人だけではないだろう。

このように、800ページに及ぶ大著である本書は、著者以外には記述できない貴重な税制 改革の研究書といえる。税制のみならずわが国の経済政策や政策決定に関心のある読者に、 広く、深く読み継がれるだろう。【評者 井堀利宏 東京大学大学院経済学研究科教授】

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

アラブの 大富豪 (新潮新書 251)
アラブの大
富豪 (新潮新書 251)前田 高行
< br />新潮社 2008-02
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おすすめ平均 star
starアラブの脅威がひしひし
star勉強になりました
starアラブ で反乱も革命も起きない理由

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注目されるオイルマネーの実態 王族のけた外れな生活や歴史も

石油価格の高騰が続き、1バレル当たりついに110ドルを超えた。アラブ系政府ファンド がアメリカの大手銀行のシティグループに出資したり、また世界的なドル安を背景にアメリ カの企業を続々と買収したりするなど、オイルマネーが世界経済を席巻しているかのようだ。 日本の企業にもアラブの政府ファンドは出資を増加させていくに違いない。

湾岸のドバイやカタールの経済発展は目覚ましく、ドバイでは世界一の高層ビルの建設も予 定され、またカタールの首都ドーハは2016年のオリンピック招致を東京と競うようにな った。ドバイの経済特区では、マイクロソフトやIBMなどIT関連の企業や、CNNやロ イターなど世界的に有名なメディアも活動の軸足を置くようになった。カタールには、ジ ョージタウン大学やコーネル大学などアメリカの名門大学も積極的に進出している。

本書は、このように現在大いに注目されるオイルマネーの実態を明らかにしたものだ。オイ ルマネーで潤ったアラブの大富豪の私生活にまつわるエピソードや、石油やガスの収入で発 展を遂げるアラブ諸国の歴史や現状が紹介され、大富豪たちの生活ぶりがけた外れであるこ とがしつこいほど説かれている。

ブログの連載をまとめた本書は平易に書かれ、アラブ経済に知識のなかった読者にも石油経 済の発展の仕組みが理解できるだろう。アラブの大富豪たちは多くが王族であることなど、 アラブ社会の特質の一端にも触れている。

また、アラブ諸国に対するイギリスのしたたかな外交も明らかにされる。湾岸のアラブ諸国 の王族にはイギリスの陸軍士官学校に通う者が多く(カタールのハマド首長など)、教育機 会を通じて湾岸との経済的きずなを強めるイギリスの戦略を見て取ることができる。

とかくイスラム過激派のテロ、紛争などが強調されがちなアラブ諸国のイメージが本書によ って変わるかもしれない。また、本書で明らかにされるアラブの大富豪たちに対するアラブ 庶民の受け止め方はどうなのだろうと思わざるをえなかった。そしてこの発展が着実なもの なのか、あるいは砂漠の蜃気楼と終わるのかとも考えてしまう。

細かいところだが、「ヨルダン・ハシミテ王家」などのアラビア語表記はどうかと思った (原音では「ハーシム王家」)。本書によって、アラブ経済に関心を持つ読者もいるのだか ら原音と相違する表記は避けてほしかった。【評者 宮田 律 静岡県立大学国際関係学部 准教授】

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

我、弁明 せず。
我、弁明せず。江上 剛

PHP研究所 2008-03
売 り上げランキング : 33000

おすすめ平均 star
starもの すごさが伝わって来ない

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小説 河井 継之助 【完全版】
小説 河井継之
助 【完全版】童門 冬二

東洋経済新報社 2008-02-29
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断固たる姿勢で経済改革を成し遂げた男たち

江上剛『我、弁明せず。』は、三井銀行のトップ、日銀総裁、大蔵大臣、商工大臣などの要 職を歴任、激動の昭和初期に日本経済の舵取りを行った池田成彬の生涯を描いている。

第1次大戦後の不況で発生した不良債権処理を先送りしたため、中小の銀行が倒産した昭和 金融恐慌は、バブル崩壊後の状況と酷似している。成彬は不良債権処理のためなら経営難の 大企業をつぶすことも厭わなかったが、これは小泉政権下で断行された構造改革を彷彿とさ せる。

続いて成彬は、金解禁、為替維持のためのドル買いも進めるが、経済の安定と引き換えに深 刻な格差社会を生み出してしまう。新聞や右翼は、大財閥が生活苦の原因を作ったと批判。 だが成彬は一切の釈明を行わず、株式公開や定年制の導入、社会事業に寄付する三井報恩会 を設立するなど、三井財閥を同族経営から近代的な企業へと変革することで、自らの責務を 果たそうとする。

企業の利潤よりも、公益のために尽くそうとした成彬の真摯な態度は、あらゆる企業は社会 の公器という重い責務を背負っていることを示しているのである。

童門冬二『小説河井継之助【完全版】』(東洋経済新報社、1785円)は、財政再建を成 功させた長岡藩士を描いた『小説河井継之助』と、小泉元首相の演説で有名になった『米百 俵と小林虎三郎』の2冊を合本し、新たに関係資料を加えた豪華版である。

米中心の農本主義から貨幣経済へ移行、さらに武家の細かな階級を見直しシンプルな給与大 系を確立した継之助。反対派を抑え、改革を成功させた継之助は、理想を貫かなければ改革 など行えないことを改めて教えてくれる。【末國善己 文芸評論家】

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

イスラム 金融入門
イスラム金融入門吉田 悦章

東洋経済新報社 2007 -09
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ar初学者に最適
star買わなくてもただで情報は入手出来ます
star現時点での 最良の入門書。

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脚光浴びるイスラム金融とは

遅ればせながらイスラム金融に対する関心が、わが国でも高まってきた。イスラム金融に関 するシンポジウムなどがあちこちで開催され、アジアやアラブ諸国から要人が来日している。 評者も2月末に旧知のバンク・ネガラ・マレーシアのゼテイ・アジズ総裁に会ったが、彼女 はイスラム金融のインフラ整備を進めてきた中心人物の1人である。

吉田悦章『イスラム金融入門』(東洋経済新報社、1890円)は、誠に時宜を得た良書で ある。

イスラム教にあまりなじみがない多くの日本人にとって、イスラム金融というと、取っ付き にくい感じを持ちがちだが、本書はそんな人たちにも平易にイスラム金融の基本とその広が りを解説してくれる。

著者も強調しているように、イスラム金融はそれほど特殊なものではなく、「一般金融の枠 組みでおおむね理解可能」なものである。

確かにイスラム金融においては、イスラムの教義、つまり「シャリア」に適うことが要求さ れるが、その「シャリア適格」(Shariah compliant)もそれほど厳格な ものではなく、一般的金融取引の多くのものは、若干異なった衣をまとうことでイスラム金 融の枠内に取り入れられている。

「……一見、イスラム金融に固有のようにみえるシャリア審査の点についても、一般金融に おけるデュー・ディリジェンスに類似したプロセスと捉えれば、理解しにくいものではない。 デュー・ディリジェンスとは、投資を行う際にその対象企業の価値等を事前に精査すること である」

実は、イスラム金融が興味深いのは、金融取引の背景に実需があることを要求する点で、一 般金融より厳しいデュー・デリジェンスを要求することである。

サブプライムに代表される現在の金融バブルもイスラム金融的デュー・ディリジェンスが実 行されていれば、恐らく発生しなかっただろう。預金者とのプロフィット・シェアリングな どもイスラム金融の特色の1つだが、皮肉なことに、イスラム金融は一般金融の今の問題点 を解決するためのさまざまな示唆を与えてくれているようなのだ。【榊原英資 早稲田大学 教授】

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

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明治改暦はなぜ断行されたのか

暦というのは、古代、戸籍と並んで支配・統治のための重要書類であった。古代の漆工房で は、漆の保存のために円筒の曲物に入れた漆液を紙で密封する。ふたの役割を果たした紙は、 漆が密着して腐らずに土中に残ることがある。これが漆紙文書といわれるもので、古代の都 城遺跡などで時折発掘される。地下から紙が出現するわけであるが、この紙には文字が書か れていることが多い。紙は貴重品なので、用済みの反故紙を漆桶のふたに使ったのである。 書かれた円形の紙を解読してみると、ほとんどが暦と戸籍の断片であるという。奈良以前は、 事務用の文書は木の削り片に書かれるのが大半で(木簡)、暦と戸籍だけが特に紙に記され たのは、それだけ重視されていた証拠であろう。

暦の制定・頒布は、古代は洋の東西を問わず王者の権限で、王は領域の空間だけでなく、時 間をも支配していると考えられた。天皇が代替わりごとに年号を改める(改元)のは、時間 の支配者であることの象徴といえる。平安中期ごろまでは、時簡という日時計の器具が、伝 国宝の重器として歴代天皇に伝えられてきた。

岡田芳朗著『暦に見る日本人の知恵』(NHK出版生活人新書、735円)は、明治5年 (1872)12月3日を、グレゴリオ暦明治6年1月1日とした、いわゆる明治改暦を分 かりやすく解説したもので、和暦・西暦の歴史から、改暦の政治的背景にまで説き及んでい て、なかなか興味深い。「即チ来ル十二月三日ハ則明治六年一月一日ニテ例年之正月元日之 事也」と県令・戸長から示達されても、人々は何のことやら分からず、途方に暮れたことだ ろう。とにかく当時通用の太陰暦は、何年かに1度閏月があり、財政難の政府が明治6年に 閏6月がやってくると知り、その負担(役人の俸給など)を避けるために、留守政府の大隈 重信と大木喬任が改暦を断行したというのが面白い。まるで“朝三暮四”の例えである。

近年は旧暦が見直され、季節感を懐かしむ気分もあって、「旧暦カレンダー」が人気を呼ん でいるらしい。著者は、文化史の理解に益するとしつつも、猛獣保護運動に例えて皮肉って いる。【今谷 明 都留文科大学学長】

■2008/04/08, 週刊エコノミスト

暦に見る 日本人の知恵 (生活人新書 247)

暦に見る日本人の知恵 (生活人新書 247)岡田 芳朗

日本放送出版協会 2008-03
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不安な経 済/漂流する個人―新しい資本主義の労働・消費文化
不安な経済/漂流する個人―新しい資本主義の労働・消費文化リチャード・セネット

大月書店 200 8-01
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新資本主義の不安の正体 “文化”から暴く

著者は小説も書く社会学者として知られる。日本では本書を含め6冊の著書が翻訳出版され ている。前に出た『それでも新資本主義についていくか』(斎藤秀正訳、ダイヤモンド社、 1999年)は、効率とフレキシビリティーを志向する新資本主義は労働者を先の見えない 不安に陥れ、人間性を腐食すると説いて、広く読まれた。その不安の正体を新資本主義の文 化から論じたのが本書である。

考察は企業の組織文化を特徴づけてきた「官僚制度」から始まる。マックス・ウェーバーが 分析したように、官僚制のピラミッドは、規則によって職務を各担当者に配分するようなか たちで「合理化」されていた。軍隊や行政のみならず企業に取り入れられた官僚制は「鉄の 檻」であったが、官僚制を取り込んだ従前の「社会資本主義」は、包摂と安定を志向してい た。

しかし、新資本主義は檻を解体した代わりに、包摂と安定を葬り去った。同一組織に生涯を 捧げる習慣が衰微し、終身雇用が消滅した。社会福祉や政府によるセーフティーネットも、 より短期的・暫定的になった。以前は、人生の「物語」を紡ぐこともできたが、今では人々 は物語を持てない孤立した宙づり状態で漂流させられる。

大企業の権力は、巨大余剰資本が地球規模の投資に回り始めて、経営者から株主に移った。 新たに権力を得た株主は配当より株価を基準に短期的利益を追う。フレキシブルな組織は、 業務の外部委託、雇用の非正規化、細切れ化を促して、労働者の間に強いストレスと不安を 生みだす。労働者は「不要とされる不安」につきまとわれる。

その結果、組織へのロイヤルティーの低下、労働者間の相互信頼の消滅、組織についての知 識の減少という3つの社会的損失が生ずる。

では活路はどこにあるか。セネットは最後に物語性、有用性、職人性という3つの「文化的 な錨」を対置する。物語性とは人々が長期的展望を持って生きていくこと、有用性とは労働 において自己が社会にとって有用と感じられること、職人性とは、それ自体を目的として何 事かを行い、経験を積み上げていくことである。

セネットは、これらの錨を社会に打ち込む手掛かりについても論じているが、議論は文化や 価値に重きが置かれ、総じて具体性に乏しいという不満が残る。とはいえ、表題さながらに 不安な経済のなかで個人が漂流させられている日本でこそ、本書は読まれなければならない。 【評者 森岡孝二 関西大学経済学部教授】

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

グローカ ル公共哲学―「活私開公」のヴィジョンのために (公共哲学叢書 9) (公共哲学叢書 9)
グローカル公共哲学―「活私開公」の
ヴィジョンのために (公共哲学叢書 9) (公共哲学叢書 9) 山脇 直司

東京大学出版会 2008-01-24
売り上げラン キング : 34538


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「公共社会」構築の明快な見取り図 「知」の百科全書的な趣も

日本でもグローバル化が重大な関心の的になっているが、その対策には、国家を超えて構想 する発想の転換が必要である。本書はそのような緊急の課題に正面から立ち向かい、人類の 幸福を実現する新たな世界像を打ち出した力作である。その核心がタイトルの「グローカル 公共哲学」であり、一般市民が自ら生きる現場や地域というローカルな立場に根ざしながら、 グローバルな問題を自らの問題ととらえ、トランスナショナルな公共社会を構築する見取り 図を明快に打ち出している。

サブタイトルの「活私開公」は、トランスナショナルな公共社会の市民像である。平和や人 間の安全保障、地球環境の保全といった地球的公共善を達成する一方、戦争などの公共悪を 除去することが全人類の課題になっている。そのための国境を越えた協調には、他者の痛み を分かち合う共苦の感情や倫理的想像力が必要であり、また民族の多様性を尊重し歴史的な 対立を克服する、「関係修復的な正義」も図られねばならない。企業やメディアも同様に、 社会的な責任を果たしてトランスナショナルな公共社会の創出を担わねばならないのであっ た。

本書の特徴は、このような人間観の転換を促す「べき論」を中核にして、現状分析の「ある 論」や、改善のための公共政策「できる論」とも組み合わされており、すこぶる体系的にな っている点にある。その体系性は、すべての知の王者を誇った哲学の復権を賭けて、専門分 化した社会科学に果敢に挑む意気込みの表れでもある。そのために欧米の哲学・思想史や、 現在の先端的な研究の該博な知識が縦横に駆使されており、さながら壮大な「知の世界」の 百科全書的な趣があるものの、解説は平明で、配慮の行き届いた案内書になっている。

本書は第1部が公共哲学を構築する基礎理論編であり、第2部がその応用編になっている。 グローバル化に関する現代的関心から言えば、さまざまな専門領域を横断する第2部から読 み始めて、第1部に立ち戻ったほうが読みやすいかもしれない。第2部は公共社会の屋台骨 たる制度や組織を対象にして、法律・政治・公共政策から経済・福祉・環境やメディア・教 育・宗教にまで及び、まさに哲学の本領が遺憾なく発揮されている。

特にグローバル化を主導する経済を、福祉や環境と関連させてとらえ、ドイツの成果に着目 している点は傾聴に値する。日本の将来の展望を切り開くためにも、ぜひ一読をお勧めした い。【評者 五十嵐武士 東京大学法学部教授】

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

狼の夜―T V局ハイジャック (上) (扶桑社ミステリー (エ10-1))
狼の夜―TV局ハイジャック (上) (扶桑社ミステリー (エ10-1))トム・エーゲラン

扶桑社 2008-0 2
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star『ダ・ヴィンチ・コード』より面白い!

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狼の夜 下 ―TV局ハイジャック (3) (扶桑社ミステリー エ 10-2)
狼の夜 下―TV局ハイジャック (3) (扶桑社ミステリー エ 10-2)< /a>トム・エーゲラン アンデルセン 由美

扶桑社 2008-02
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B級?サスペンスに隠されたチェチェン問題の真実

トム・エーゲラン『狼の夜――TV局ハイジャック(上・下)』(扶桑社ミステリー文庫、 各840円)は、ノルウェー発のタイムリミット・サスペンス。

爆弾を身体に巻いたテロリスト数人が人質を取ってテレビ局を占拠。人質には政府要人、人 気キャスターなど。自爆を切り札にした彼らの要求は、ある人物を呼び出すことだった。交 渉は難航をきわめ、救出作戦は次々と犯人側の逆襲によってつぶされていく。持ち時間は1 0時間足らず。

……とまあ、このタイプのものとしては実に正攻法の展開で。多元中継の映画的進行も軽快、 間にはさまれる主人公の回想モノローグも効果的。だが……。ノルウェー発なので予測はあ ったが、やはりどこかもったりとB級なのだ。前半の5時間分は定石通り、無難に読ませる。

もちろんこれで終わるようでは、今どきのサスペンスとはいえない。犯人たちの真の目的 は? そしてその要求の裏に隠されているものは?

単純なテロ事件と見せかけた深層があぶり出されてくる後半にこそ真髄があらわれてくる。 しかし、本筋は最初から明らかにされているといってもいい。テロリストはチェチェンの民 族解放グループを名乗るし、事件発生と同時にロシア情報部も介入してくる。これは混迷化 する21世紀にしか起こりえない。つまり、この小説の一側面は、チェチェン問題の現在へ のきわめて痛切なリポートでもあるわけ。いちいち覚えていないという方がいるのは仕方が ないけれど。

B級でも「コレ読メ」印は超A級なのだ。

ノルウェーではすでに映画化作品が完成しているという。これなら必ずハリウッドがリメイ クを狙うだろうな。仮想ハリウッド版のキャストを勝手に頭でイメージしながら気楽に愉し むのもよし、「あんな国」になってしまったロシアの情勢をちらちら考えつつ深刻に読むの もまたよし。

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

KY式日本 語―ローマ字略語がなぜ流行るのか
KY式日本語―ローマ字略語がなぜ流行るのか北原 保雄(編著) 「もっと明鏡」委員会(編集)

大修館書店 2008-02-0 7
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star勘違いしないように
star時間と金の無駄
star安倍の大いなる遺産

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著者インタビュー 北原保雄 日本学生支援機構理事長

ATMはなんと「アホな父ちゃんもういらへん」

──発売は2月10日でしたが、もうベストセラーだそうで。

■刷り部数で18万部です。先日、ある大学の卒業式でもこの本が話題になったそうです。

──北原さんは『明鏡国語辞典』の編者としても新語には関心を持ってこられた。本書も辞 典づくりの過程から生まれたんですか。

■新しい言葉を募集したところ、約11万2000も作品が集まりました。そのなかから面 白いものを抜粋したのが『みんなで国語辞典!』(2006年12月刊)です。すでに「I Tする(アイス食べに行く」「JK(女子高生)」などローマ字略語が入っていました。

──KY式日本語、略してKY語はローマ字表記の頭文字から作った省略で、北原さんが名 付け親ですね。

■省略語そのものは、NHK(日本放送協会)やSKD(松竹歌劇団)など、昔からありま した。この本で紹介したKY語の多くは、女子高校生をはじめとする10代の若者の間で生 まれたものが中心で、友人同士で使っていたのが、ブログなどで広まっていった。大半は仲 間うちだけで使われ、すぐに消えてしまうものばかりです。ATM(アホな父ちゃんもうい らへん)などは、実際に使い道があるというより、面白いから使われているだけです。ひと つひとつのKY語がどうというよりも、KY語がどんどん作られるという風潮に興味があり ますね。

──とはいえ、KY(空気読めない)は全国に知られるようになった。

■KYは、まずそういう状況があって、それを表す言葉として登場したからではないでしょ うか。成人の日の新聞の社説の見出しにもなっていました。あるテレビ局の認知度調査(0 7年10月)によると、10代は100%、50代でも31%だったそうです。もともとは ネット上で「空気嫁」(空気読め)の表記があり、そこから出てきたようです。

いま、若い人たちにとって空気が読めるかどうかは非常に重要になっています。自己チュー などという言葉があり、わが道を行くという人が多いように思われがちですが、実際は仲間 はずれにされることをとても恐れているのです。集団のほうも状況に合わせられない人を排 除する。KYが「空気読む」ではなく、「読めない」という不可能の意味になっているのは、 そういう状況を踏まえているのですね。「読む」のはずなんですがね。

──言いにくいことを遠まわしに言う使い方がありますね。HD(鼻毛出てる)やCZ(チ ャック全開)など。でも場合によっては悪口にもなる。

■「DSK(デブ、スケベ、臭い)」「GS(ごますり)」など、相手に聞こえたら不愉快 な思いをさせるようなものもあります。意味がぼかされている分だけ、無自覚に使い慣れて しまうと、言葉の暴力に対して鈍感になりかねません。KY語には良い面も悪い面もありま す。しかし、批判をするにしても、まず実態を知る必要がある、というので作ったのがこの 本です。

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

原発・正 力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史 (新潮新書 249)
原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史 (新潮新書 249) 有馬 哲夫

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star 「平和ボケ」の頭に衝撃
star化け物と謀略機関の騙し合い
starCIAによる日本メ ディアのコントロール

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CIA機密文書で再現する昭和裏面史。1954年の第五福竜丸事件をきっかけに高まった 「反米」「反原子力」気運に抗するため親米世論工作を始めたCIAと、総理大臣への政治 的野心を燃やす正力松太郎・読売新聞社主。相互利用と両者の本音が交錯し、すれ違うなか で、日本の原子力政策の基礎はどう築かれたのか。両者の意図と偶然が織りなす複雑な連鎖 を、時代背景を踏まえて丁寧に読み解いている。

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

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希望の政 治学―テロルか偽善か (角川叢書 38)
希望の政治学―テロルか偽善か (角川叢書 38)布施 哲

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9・11テロ後の世界をどう理解するか。民主主義、主権など政治学の基礎概念をホッブス、 マキャベリにまでさかのぼり、ソシュール、デリダの言語論などをツールに再構築した。と 書くと難しそうだが、読みやすいのは大学生、院生対象に書かれたからか。政治に関する最 も抽象的言説がそれゆえに現実味を獲得できたかどうか? 判断は分かれそうだが、一読の 価値はある。

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

フライを 落とした野手はなぜ空を見上げるのか?
フライを落とした野手はなぜ空を見上げるのか?保科 充弘

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高校、大学と野球に打ち込み、現在も週末に少年野球の監督を務める「野球人」でもあるM &Aアドバイザーの著者が、野球にまつわるエピソードを引用しながら、M&Aや経営のリ スク管理について実践的に解説したユニークな経営指南書。エラーの言い訳を探すために空 を見上げる野手を例に、「失敗の言い訳を考えても会社を守ることはできない」と指摘する。

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

「中国問 題」の内幕 (ちくま新書 706)
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star日中関係、中国国内を理解するための入門書

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江沢民前国家主席を中心とした上海グループを凋落させた胡錦濤国家主席だが、胡氏を支え る共産主義青年団出身の「団派」には経済音痴という欠点がある。そこで、中国革命の元老 たちを親に持ち、改革開放でうまい汁を吸っている太子党が巻き返すだろう、と予測する。 反日運動、台湾問題など外交の裏に中国国内の権力闘争があった、とする解説は鋭く、説得 力がある。

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

思考の補 助線 (ちくま新書 707)
思考の補助
線 (ちくま新書 707)茂木 健一郎

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starあざやかに「あ、わかった」と言えるのであろうか・・・
star刺激的な一冊
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「知のデフレ」「知のサブカル化」を引き起こした「ニュー・アカ」を批判。生きる意味、 真理とは何かなど、骨太の問題を科学と思想の間に補助線を引くことで考え直した。日本語 言説が国際関係に関しモラル低下を招いている原因、国家的悲劇を生んだ日本人の批評精神 欠如は何に起因するかなど、現代的問題を根源から熟考、剛速球で答えた。難しいけど面白 い。

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

ヤクザと 日本―近代の無頼 (ちくま新書 702)
宮崎 学

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star次は「現代」のやくざ論を期待する
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r日本のヤクザの歴史が学べます。
star必要悪から必然善へ

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ヤクザはなぜ存在するか

多くの人がそうかもしれないが、私はヤクザに関してかなりアンビバレントな感情を持って いる。

日本という国が、パチンコでの実質的な賭博行為やソープランドでの売春行為など非合法黙 認の産業が極めて多いことや、ヤクザが公然と事務所を持つなど、先進国では考えられない ことがまかり通っているのは非常に不快だ。警察とヤクザの癒着も多くの人が問題にする。

その一方で、自分が無頼に憧れ、任侠映画が大好きという側面も強い。実話系雑誌のヤクザ 記事も大好きだ。

そんなわけで、ヤクザがなぜこのような形で日本に存在するのかについて、歴史的に、ある いは社会学的に、極めて分かりやすくまとめた本に私は引かれた。

宮崎学『ヤクザと日本』(ちくま新書、819円)である。著者の宮崎氏は、もともと私が 興味を持つ作家で評論家だが、自身がヤクザの組長の息子であり、左翼運動にも身を投じた 経歴の持ち主だ。

最初に、丸山真男を引いて無法者の定義を紹介する。例えばその1つの項目に、「私生活と 公生活の区別がない。とくに公的な責任意識が欠け、その代わりに私的な、あるいは特定の 人的な義務感が異常に発達している」とあるが、宮崎氏が読み直すと「『私』を捨てている。 具体的な人間に対しての仁と義を尊ぶ」ということになる。これが、今のように一般市民が 無責任になった時代には意味を持つというのは、感情的には納得できる話だ。

基本的には、江戸時代の身分社会の構造のなかに収斂しなかった異端者が「権利としての黙 認の領域」をもらっていて、それを社会が必要としていたし、役に立つ局面があったという 考察は鋭い。江戸時代は、地方分権だけでなく、身分や小社会の分権社会だったのである。

そして中央集権国家になった近代日本では、急激に産業化する過程で多くの非熟練労働者が 発生したが、それが資本家と対抗するために、上下関係と物理的な力を持ってまとまる必要 があり、その「顔」となったのが、ヤクザであるという考察は一面の真理なのだろう。ただ 一方で、宮崎氏自身も認めているように、彼らが搾取組織であったのも事実である。

歴史は決して一面的なものでないという意味で、日本社会史を別の側面から見た貴重な1冊 であることは確かだ。【和田秀樹 精神科医】

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

商人と更 紗―近世フランス=レヴァント貿易史研究
商人と更紗―近世フランス=レヴァント貿易史研究 深沢 克己

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東インド 会社とアジアの海
東インド会社と
アジアの海羽田 正

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ビジネス書として読める世界史
starアジアの物産とアメリカの銀が、ヨー ロッパの近代を生んだ。
starグローバル市場の原点

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無国籍な商業交易に揺さぶられた国家

どの時代に生きたかったか、と問われた時、すかさず1930年代の上海がいいと答えたこ とがある。あの無国籍のいかがわしい雰囲気がなんとなく肌になじむ気がしたからだ。

だが、この戯れの直感には、実は近代国民国家の土台を揺るがしかねない重大な問題が潜ん でいるらしい。

そのことを明らかにしたのが、深沢克己『商人と更紗』(東京大学出版会、7140円)で ある。

ディアスポラ(離散)とはもともと古代のユダヤ人について付されたものである。やがて中 世末期から、イベリア系ユダヤ人、アルメニア人、カルヴァン派のユグノ、アイルランド系 ジャコバイト、ギリシャ人などの離散集団が出現する。宗教や政治にかかわる追放・亡命・ 移住が相次ぎ、それらの広域ネットワークは国際商業の基盤を作り出すことになる。

彼らのなかには、例えばアレッポに40年以上も居住して現地で個人的に影響力を持つフラ ンス人商人もいた。また、アルメニア人はなによりも生糸と更紗の商人であり、アジアの捺 染業が導入されるに伴い、亡命ユグノの国際ネットワークとも結びつくのだった。

更紗とディアスポラの民という奇妙な組み合わせだが、宗教と経済活動という命題が再びま ぶしく見える。

それとともに、無国籍な商業交易に揺さぶられる国家という枠を目にすると、その意味が気 になってくる。副題に「近世フランス=レヴァント貿易史研究」とある重厚かつ綿密な学術 書であるが、グローバル時代の読書人の心にも響くものがある。

ところで、そのグローバル化が始まったのは史上初の株式会社からだという。羽田正『東イ ンド会社とアジアの海』(講談社、2415円)は、あえて「世界の中心としてのアジアの 海」を見すえながら、近代世界が貿易によって一体となる様を平易に語っている。

近代ヨーロッパは独力で生み出されたものではなく、オランダ、イギリス、フランスなどの 東インド会社が運ぶアジアの産物で豊かになったのだ。その会社組織は出資者が有限の責任 を持つ株式会社のはしりだった。【本村凌二 東京大学教授】

■2008/04/01, 週刊エコノミスト

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